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『ましろりんごうさぎ』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:シヅ岡 なな
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「ただいま」は言わない。あんまり言ったことがない。
「おかえり」が返ってくることが、なかったからかなと思う。
別にどうでもいいこと。
部屋が静か。
ヒュウ君寝てんのかなーと思いながら、真っ白のニーブーツを脱ぐ。
7万もした。ヒールの高さと色に惚れた。
夏なのにブーツとかありえねー、ってヒュウ君は言う。
彼にあたしのお洒落は解からない。
あたしも彼のおしゃれは解からない。
ボールペンが刺せてしまうピアスの穴。
変なの。どっかの部族みたい。
真っ白なブーツ、汚したくないから、布で底までていねいに拭く。
ブーツの中も、やっぱりどうしてもむれちゃうから、脱臭剤をいれて、形が崩れないように、箱にしまう。明日も履く。明日は白のミニスカに合わせよう。上も白のシャツにして、全身真っ白になろう。
家の中へ2、3歩き出す。
へんな匂い。
いつもヒュウ君ココナッツミルクのお香を焚いてるから、甘くていい匂いなのに。
ぴちゃ。
ぴちゃ?
あれ、床が真赤だ。
下見ると、ヒュウ君がうつぶせで倒れている。
血が、いっぱいに広がってる。
1ルームの床、ほとんど一面、真赤。
あたしの中で、いつも動いてる部分が止っちゃった。
「ヒュウ君」
返事がない。
「ヒュ−君」
返事がない。
「ヒュゥ君」
返事がない。
何回も呼んだけど1回も返事はなくて、あたしは何回も何回も呼んだけど、たったの1回も返事はなくて、あたしは何回も何回も何回も、一気に訳が解からない。
ぐるぐると胸が気持ち悪い。
気持ち悪くて、びしゃーって、さっきマイちゃんと食べたクレープ、ぐちゃぐちゃのどろどろになって口から出ちゃった。おいしかったものが、あたしの中で気持ち悪いだけのものになってた。ちょうどうつぶせのヒュウ君の背中にかかっちゃった。
ヒュウ君は普段着の中で一番お気に入りのTシャツ着てて、それ汚しちゃったから、あたしかなり慌てた。
どうしよ、とりあえず、拭かなきゃ。そう思って台所に走っていこうとして、ぬるっとずるり滑った。真赤なヒュウ君の血で滑っちゃった。だいだい走るほど広くもない家の中なのに、血は台所の床にも広がってた。あたしのペディキュアの色も真赤だけど、血の色とは違うなと、うつぶせのヒュウ君の近くにできた血の溜まりを、両手ですくってそう思った。
あぁ、そうそう、拭かなきゃ。
タオルで拭いたらなんか余計に広がっちゃって、あぁ、もうどうしよう。
ヒュウ君起きたら、絶対ミサのこと怒るよね?怒るよね。
あ、でもまって、よく見たら、首のとこ、もうとっくにヒュウ君の血がついてる。
なぁんだ、ミサが汚しちゃう前からもともと汚れてたんじゃん。
口の中、どろどろになったクレープの、気持ち悪い味がする。
なんか飲もうと思ってまた台所に行く。
ぴちゃぴちゃぴちゃ。
足音が、雨降りの時みたいだ。
でも昨日はもっとちゃぷちゃぷだったな。
ちょっと、蒸発?したのかな。
ヒュウ君の体、すごい。
こんなにいっぱい血が入ってたんだね。
冷蔵庫。エヴィアン。空っぽ。
飲みきった空のペットボトルは冷蔵庫にしまわないでねって、いつも言ってるのに。ヒュウ君の、変な癖。
あ、食べかけの、林檎。
ヒュウ君の歯型ついてて、その部分茶色く変色しちゃってるけど、まぁいっか。
でもミサ林檎皮のまま食べれないから、皮むかなきゃ。
えっと、包丁、包丁、ないよぉ。
どこぉ?包丁どこぉ?皮むきむきするの。
平気、ミサ一人でできるよ。
みてて。
あ、包丁あったよ。
あのねぇ、ヒュウ君の頭の上に立ってるよ。
ミサとってくるよ。
んー、なんかかたくてなかなかぬけないよー。
んー。んー、あ、ぬけた。
むきむきするね。
ママいつもりんごうさぎさんにしてくれるのミサうれしいから、そのときだけかわも食べれちゃうの。
ミサもうさぎさんにする、りんご。うさぎりんごにするのぉ。
どうするの?おしえて。おしえて。
ままおしえて。おしえて。おしえて。ままおしえて。
あはははは!ミサってかなりバカ!
いつまでもお母さんごっこなんかしてたら、かっこ悪いよねー。
だってもう小学4年生だもん。ごめんごめん!
うん、もちろんいいよー、他のことして遊ぼう!
え?うん、うん、そだよーあたしんち母子家庭。
えー知らない。あんま母親さ、聞いても話たがんないし。
無理やり聞くのもなんかねー。それにもうそこまでこっちも興味ないってゆーかさ。どーでもいいよ。てゆうか、母子家庭て案外都合よかったり。
国から金もらえるらしいよー。めちゃくちゃ貧乏とかじゃないしねー。
てゆうかさ、あたし別れちゃったー。ん?そぉそぉ、こないだゆってた年上!
なんかねー、浮気されてたの。本気腹立つしね。ミサのことが1番だーとかゆわれたけど、信じらんないし。
なんでかなー。あたしいつもふられるの。
いつもあんま大事にされないんだよね。
子供ん時からそうかな。
あ、うち父親いないんだけどね、なんか母親も2年前年下の男つくってでてったの。んー、男がいるのは気づいてたの。
なんかさー、こんなこと娘がゆうのもなんなんだけどさ、あたしの母親16であたし生んでんだよね。だからまだ若いし、美人かなって思う。
結婚とか、もしするとかって言い出したら、それもいいんじゃないかなって思ってたんだけど、だから、出ていかれたときは、んー、ショックってゆうか、あぁあたし邪魔だったんだ?ぜんっぜん気づかなくてごめんって感じだった。
なんか、お父さんができるかもーなんて、ちっちゃい子みたいに想像しちゃってさぁ。バカじゃんねー。
なんか、自分ではそんなにこだわってるつもりはないの。
父親がずっといなかったこと。
でもさ、思えば今まで惚れた男って全部10こぐらい年離れてたから、やっぱなんか影響してたりすんのかなーって。
え?うん。今はねー。なんか楽しいよぉ、毎日。
あはは!ごめんー。うん、のろけちゃった。
あー、なんかね、全然あたしとタイプが違うの。
服の趣味とか。
あとなんかね、変な癖めちゃあるの、あの人。
飲んだ缶とかビンとかペットボトルとかあるじゃん?
捨てずに冷蔵庫の中に入れるの。
おかしいでしょ?あたしが飲もうとしたら容器やけに軽いんだもん。
がっかりだよー。笑えるけど。
ほんと、マイちゃんには感謝。
だってマイちゃんの彼氏の紹介じゃん。
ほんとキューピットじゃん!マイ彼!あはは。
でもちょっと心配だなー。
えー、だってヒュウ君さ、こないだマイちゃんのこと見て、あのこ可愛いタイプかもーとか言い出すんだよぉ?マイちゃんほんと、あたしから見ても文句なしで可愛いから、いくら親友っていったって焦っちゃうよー。
なんかね、こんなことくさいし、あんまり言いたくないけど、ヒュウ君のことすごい好きなんだ。あたしと同い年だし、なんか子供っぽいし、タイプじゃないんだけどな、ほんとゆうと。でも、なんか、あたし自分の中に穴があいてて、けっこう大きくて深い穴で、それがだんだんだんだんより大きく、より深くなっていってて、自分でもどうしようもなくて、うまく言えないけど、不安とか、孤独とか、そうゆうものでたぶんその穴はできてるの。
ヒュウ君は、その中すっぽりうめてくれる。
穴なんか、なくしてくれる。
跡形もなく、そこに穴があったっていうことすら、消し去ってくれる。
いっぱいの優しい気持ち。
いっぱいのあったかい気持ち。
あたしヒュウ君の、ずっと側にいたい。
ヒュウ君あたしの側に、ずっといてほしい。
だからね、ずっといてもらえるようにしたんだ。
あたしの側にずっといてもらえるようにしたんだ。
あたし以外の人んとこ行かないで。
絶対に行かないで。
お願いだから、もう、いらないなんて言わないで。
嘘なんか、つかないで。
わかるんだよ?
嘘つかれたり、想ってるふりとかされたら。
そうゆうの、隠しても伝わっちゃうから。
今度裏切られたり、一人にされたらもう生きていけないと思う。
あたしきっと壊れちゃうよ?
許さない。
あたしのこと一人にしたら。
許せないなぁ。
あ、もしもしー?うんうん、ごめんねなんかー。さっきあったばっかなのに。
今電車?あ、平気?
あ、あのねー、マイちゃんに話したいことあるんだー。
うん、ごめんね、さっき言えばよかったんだけど。
なんかどうしても言い出せなくて。
でも、こんどは勇気だして言うからさ、聞いてくんないかな?
あ、ほんとぉ?ありがとぉ。
うん、あ、うん、そうしてくれると嬉しいー!
うん、じゃあ明日ねー、家でまってるねー!
あ、ちなみに明日ヒュウ君いないからさ、女同士色々語ろぉよ!
ぴちゃ。ぴちゃ。ぴちゃ。ぴちゃ。
ヌル。ヌルヌルヌルぬるぬる。
ず。ずずずずず、ずる、ちゃぷ、ずずずずずずずずずずずずずずずず。
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2004/08/22(Sun)04:15:36 公開 / シヅ岡 なな
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■作者からのメッセージ
やっぱりんごはうさぎさんでしょ?
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