『噂のあの山 ―後編―』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:千夏                

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「おはよう、亮」
「おう!どうだったよ!?」
いきなりそれかとうんざりした。
俺の名前は望月優介。いきなりそんなことを言うのは俺の親友、竹下亮。
この学校には最近こんな噂がある。
それは、学校の近くに大きくはない山がある。だからと言って小さいわけでもない。その山に登ると、絶対に異性がいて、その人と恋人同士になれる。これは、初対面であったり仲良しな奴だったりするらしい。
親友の亮も暇つぶしに登った結果、全然彼女をつくる気配のなかった亮なのに、彼女ができた。隣りのクラスの三波夏菜。中々良い人だ。けっこう俺とも気が合う。
そして、彼女のいなかった俺。
どうやら二人は俺に悪く思ったらしく、俺にも山を登るように言ってきたのだ。「絶対良い子いるよ?全然疲れないし!」と、三波さん。「お前だってこうでもしないと彼女つくらないだろう?」と、亮。いや、つくるつくらないの問題じゃないのだ。
ただ単に、疲れるだけ。
それに、俺の好みはクールな女なのだ。そこらへんにはいないような・・・。
そんなことを言う俺の意地も、ついこの前、終わった。
半ば嫌々だったが、登った。



「それにしてもー。東高三年の明美と舞って・・・一体どこの東高なんだろうな」
そうだ。そうなんだよ。
俺が登ったら、そこには二人いた。東高の三年という派手な明美と超静かな舞。
実はこの学校も東高で、俺は三年。付き合うには良い条件なのだが・・・こんなに極端な二人だと嫌だろう?普通は。っていうか、クールな子が好みの俺には、嫌なんだ。
(キーンコーンカーンコーン)
「あ、時間だ。一限始まる。亮、戻ろうぜ」
「おう」
廊下で話していた俺たちは、教室へ戻った。同じクラスだが、席が遠い。俺は窓側の前から二番目。亮は窓側の一番後ろ。
日直が「気を付け、礼」と言うと、丁度良く担任が入ってきた。
「おはようございまーす。今日は、転校生が来ました!私達のクラスには女の子が一人。隣りのクラスにも女の子が一人。二人は可愛い双子ちゃんでーす」
そう言うと、ドアの方を見て「入って」と言った。
俺は目を疑った。
そこには、この前山で出会った、舞の方がいたのである。



「はじめまして。竹里舞と言います。東女子校から来ました。今、着てるのは、ただ制服がまだ届いてないからなので、気にしないでください。・・・それでは、どうぞ宜しくお願いします」
どうやら、喋らないわけではないらしい。まああの明美とか言うのが喋りすぎだっただけな気もする。
が、彼女の言っていた言葉は本当だったのだ。こっちに来ても東校。あっちでも東校。騙された気分だ。
「それじゃあ竹里さん。席はー・・・今だけ一番後ろの席で」
「はい」
赤いチェックのスカートで、少しこの学校では浮いている彼女は、恥ずかしそうにしながらも席に向かった。
まだ俺には気付いていない様だ。けれど、どうせ気付くのだろう。なんか気まずい。
授業が始まった。俺は前の方の席なので見えないが、多分、亮の席からは竹里が見えるのだろう。
明日には席替えになるだろう。この出席番号順の中にあいつが入る。
俺はもう気付いたが、亮は気付いただろうか。彼女が出席番号順になるとすると、絶対に亮の前に来るということが。



一限が終わった。
亮が俺の席にやってきた。女子が竹里に群がるのを避けながら。
「優介!舞って・・・あいつじゃないのか!?」
小さな声で、けど大声で、言った。分かり易い奴だ。そこが良いところなのだけれども。
「ああ。でも、舞と明美とか言う奴ら、顔、似てたかなー」
亮は「白い霧でもあったんじゃないのか?」と言った。そうなのだ。あの時は、白い霧がかかっていた。
亮は立っていたのを隣りの席の奴の椅子に座った。
亮はあからさまに竹里の方を見た。
「でもー・・・竹里ってけっこう可愛いんじゃないのか」
亮がそんなこと言うので、俺は笑った。面白いので、からかってやった。
「三波さんが可哀想〜」
そんな事を言うと、亮は「三波のが可愛いに決まってるだろ!」と顔を赤らめて言った。
少しして、俺達は顔を見合わせ、ハモった。
「隣りのクラスって・・・三波んとこ!?」 「隣りのクラスって・・・三波さんの!?」



「三波!」
亮と俺は隣りのクラス・・・三波さんのいるクラスに行った。丁度出て来る所だったので、亮に呼びとめさせた。
三波さんは微笑んで、「丁度良かった」と言って、手を合わせた。そして言った。
「今行こうと思ってたの。あのね、竹里明美さんっていう可愛い女の子が来たんだー。お洒落なんだよ」
嬉しそうに話をした。三波さんの話を聞く限りだと、嫌な奴ではないらしい。ただ派手なだけと言った感じだ。
俺はどうにかちゃんと話がしたかった。
隣りで亮は楽しそうに、廊下という事をわすれて彼女とお喋りしている。
二人には申し訳無いけど、その話を遮って三波さんに頼んだ。
「三波さん!そいつに、放課後体育館裏に来てって言ってくんない!?」
三波さんは「え、愛の告白?」と真面目な顔で言った。俺は「違う!」と即答した。愛どころの話じゃないのだから。俺がもう一度「いい!?」と頼むと、三波さんは「いいよ」と笑って言ってくれた。
もうそろそろチャイムが鳴ると思って、俺達は教室へ戻った。
(キーンコーンカーンコーン)
チャイムが鳴った。



体育館裏には少し早く着いた様だ。誰もいない。
俺は今、ある一点をとても深く考えている。
「舞とか言う奴には言ってないじゃん、俺・・・」
明美の方だけに話しても正直、意味がないと思う。だって俺の中では二人で一つなわけで・・・。
後ろからガサッという音がした。俺はすかさず振り向く。
視界に入ったのは竹里明美。目を大きくして驚いている。相変らず派手な彼女に俺も驚いた。まず言おうとしていたことが分からなくなり、黙った。「ねえ」と言って竹里が口を開いた。
「君、あの時山で会ったよね?ここの学校だったんだ!私!私、覚えてる?明美!」
いきなりそんなことを言った。覚えてるも何も、俺が誘ったんだから。
「覚えてるよ、あのさあ・・・」
言いかけたのを遮られた。
「私なんか誰か待ってるのよ。君は誰か待ってるの?私誰を待ってるのか分からなくてさー。友達にいきなり「体育館裏で私の友達が待ってるから」って言われちゃって。誰なんだろー。ちょっと君と話したいことあるんだけどな。明日、時間ある?」
どうやら彼女は話を自分で進めていってしまう癖があるらしい。
彼女の言う友達って言うのは多分俺だ。三波さんはいきなり用件だけを言ったらしい。
「それってー、三波夏菜さんじゃない?」
一応聞いた。確かめずに話が進んでも困るからだ。
「あれ、君?なんだ、丁度良かった!でね、話したいことって・・・」
俺は一瞬、耳を疑った。彼女が言った言葉が信じられないのだ。だって彼女は
「舞が君に一目惚れしたらしいの!」
・・・嘘だろ?



「優介!人形仕上げる気がないなら針閉まいなさい!」
母からの怒声で俺ははっとした。ここは、「くるり」だ。
「くるり」というのは店の名前。俺の家は家族で店を営んでいる。俺も将来ここの店員になる。母はアクセサリー等を売っていて、父は手作りの人形等を売っている。なので俺は来年専門学校へは行かず、暇があると両親に教えてもらっているのだ。
現在、一つの人形を俺は作っている。黒髪で着物を着ている人形。黒髪に着物と言っても、怖そうな物ではない。小さな子どもにも受け入れられるような物だ。
あとは着物を作って着せるだけなのだが・・・進まない。どうしても竹里明美に言われたことが気になる。
「母さん・・・ゴメン、部屋戻るわ。明日仕上げる」
そう言い残し、俺は階段を上り、自分の部屋へ行った。
ベッドに寝転がり、天井を見上げた。
「ふう」
一つ、溜め息をついてから目を閉じた。



竹里姉妹が転校してきてから一週間程経った。クラスももう全然変な違和感などはなくなり、竹里も慣れてきたようだった。
一つ分かったことだが、竹里は転校初日に俺と同じクラスだと言う事は分かっていたらしい。ただ、恥ずかしかったとかなんとか。そういうのが何故分かるのか。
それは最近、俺は竹里明美のほうと仲良くなっているからである。
彼女は三波さんと亮と俺のグループ(と呼べるのか分からないが)に馴染みつつある。ということは、だ。山に登る頃のように、亮と三波さんは誤解している。竹里が否定してくれている事がただ一つの救いというわけなのだ。
授業に身が入らないまま終わった。
俺は亮のところへ行き、俺たちは隣りのクラスへ行く。
「三波ー」
と亮が普段と変わらない声で言う。すると三波さんは来る。もちろん、竹里も。
俺たちは沈黙の了解だと言わんばかりに、この四人で休み時間は過ごす。しかも場所は決まって屋上。
俺たち三年の教室は一番上の階なので少しの時間でも屋上へ行けるのだ。
屋上のドアを開けた。



「っていうか・・・どうするよ」
竹里明美に舞のほうが俺を好きだと知らされて、大分経つわけだが・・・。まだ話はあまり進んでいない。
「もうさー。舞に本当のこと言いなよ。だってこんなに待たされるの辛いと思うよ」
「だよなあ・・・」
二人「はぁ」と溜め息をつくと、亮にツッコミを入れられた。
「ところで、竹里妹は優介が自分の気持ち知ってるってこと分かってんの?」
俺は目を丸くして驚いた。確かにその通りなのだ。俺は普通に相手の気持ちを分かっているからこんな相談をしているわけで、当の本人は相手が自分の気持ちに気付いてないと思っているのかもしれないじゃないか。
「ご・・・ごめん。私、言ってない」
竹里のその言葉に俺は「マジかよ〜」と言った。竹里は「ごめん!ホンットごめん!」と何度も誤って来る。
すると竹里は少し迷った様子で、言った。
「そ・・・そう言えば。舞なんか「どうやって告白したら良いかな」とか言ってたような・・・」
おどおどした様子で言うと、三波さんが口を開いた。
「あ、ならその時に言えばいいんじゃない!だから、望月君は告白の返事を考える!それで決まりー・・・」
静まり返った空気に気付いた三波さんの声は小さくなっていった。まるで彼女も小さくなるかのように。
その沈黙を破ったのが竹里明美。
「三波さん、良い考えなのは分かる。けどね・・・竹下君とか望月君は分かると思うけど、舞の性格上は・・・」
「告白がいつになるか分からない」
俺と亮が声を揃えて言った。三波さんは「あ、そうなんだ」と苦笑している。まったく、こんなに正反対の双子がどこにいる?・・・ここにいるんだ。
「ね、今日ちょっと放課後集れる?近くの喫茶店でもどこでも」
竹里が言った。
俺と亮と三波さんはみんな頷いて、「そうしよう」と言った。
俺たちはもうそろそろチャイムが鳴るだろうと、重たい腰を上げた。そして、各自教室へ戻った。



放課後になり、一度家へ戻ることになった。なぜかと言うと、竹里が「制服だと汚したくないから」だそうだ。確かにそうかもしれないので、俺たちは賛成し家へ帰った。
「ただいま」
と言っても両親は店の方にいるから言う意味は無い。
俺は階段を上り自分の部屋へ行き、クローゼットに掛かっている服を適当に選ぶとパッパと脱ぎパッパと着る。脱いだ制服は椅子の上に掛けた。制服はクローゼットにしまうと朝取るのが面倒なので、いつもこうしているのだ。もちろん、ワイシャツはちゃんと洗濯機に持っていくけど。
俺は階段を降りて玄関へ行き、スニーカーを履いた。
店の客用の入り口まで行き、人がいるかもしれないので静かにしてレジにいる父のところまで行った。
小さな声で
「ちょっと友達と遊んで来る」
「ああ」
「じゃ」と言って、自分の自転車に跨って亮の家まで向かった。
亮の家が見えて来ると、家の前に亮が待っていた。
「お、早いな」
そう言う亮も早い。自転車に跨って少し待っていたのだから。家にいれば良いものに。
「じゃ、行くか」
「おう」
亮と俺は自転車のスピードを少しずつ早くして、三波さんの家へ向かった。



二人と落ち合うとすぐ喫茶店へ向かった。
(カランカラン)
「いらっしゃいませ」
マスターらしき人が俺たちに挨拶をしてきた。
小さくも大きくもない程度の音量でかかる洋楽と、黒いエプロンのようなものをしているマスターが、妙にマッチしていて格好良く見える。大人の雰囲気を持った店だった。
俺たちは不似合いな気もしつつ、窓側の角の席に座る。座るとなると自然に、俺と竹里が隣りで亮と三波さんが隣りになった。当たり前だが。
亮が飲み物を注文しようと言うので、賛成しそれぞれ言った。
さっきのマスターが来ると、「ご注文は」と言う。
「アイスコーヒーが三つとアイスティが一つ」
亮が言った。一人アイスティなのは亮だ。
「竹下君ってコーヒー飲めないんだ?」
ニヤリと笑い、竹里が言った。亮は「悪いか」と恥ずかしそうに言った。
「本題に入るぞ!竹里妹と優介!」
無理に引っ張り出した感じだ。
「まずは私、望月君の竹里舞さんに対する気持ちが知りたいんだけど・・・」
「それ私も思う!今まで話してきたけど君の気持ち聞いてないよ」
女子二人に責められた俺は、少し返答に困る。正直に言うと、
「俺は・・・別に好きでも嫌いでもない」
俺の正直な気持ちに亮と三波さんは驚いている。竹里は呆れている。
「何それー。君って舞のことどうも思ってなかったの?」
どうも思ってなくはないと言えば嘘になる、だからって思っているわけでもないし。
「呆れた」
一言そう言うと、竹里は窓の方を向き頬杖をついた。
亮が「そうだなぁ」と考える。三波さんは「うーん」と考える。
「あっ!!!」
「何だよ!」
竹里が大声を出すので俺たちは目が飛び出るかと思った。
亮が「静かにしろよ〜」と言う。竹里は窓の方を指差して「あれ・・・」と動揺した様子で言う。俺たちは指差す方向を見た。
そこには、竹里舞が友達と歩いている姿が見えたのだった。



「こっち来るよ!どうすんの!!」
動揺する竹里。少しは動揺する俺。何も動揺しない亮と三波さん。
三波さんが言った。
「平気だよ〜。こっちに来るなんて確率低いでしょう?」
亮が「そうだよ」と同意する。確かにこの店に来る確率は低いけれど、俺は少しドキドキしている。できるなら会いたくないからだ。竹里舞の気持ちを知っている俺は。
「でも少しの確率で来るんじゃん!!」と言う竹里。
竹里舞率いる優等生グループの方を見る。真っ直ぐ行こうとする竹里と他。この店には来ないと悟った、その瞬間。
竹里舞の隣りにいるストパー女(名前は知らない)がこっちの方を見て指差している。いかにも「あ!あれって明美ちゃんじゃない!?」とでも言うかのように。
ヤバイと思った俺の前にはなんと、手を振る三波さんが居た。
「三波さん!」
俺と竹里は同時に言った。亮、どうにかしてくれ、三波さんの彼氏だろう。
「あ、ゴメン。でも気付いたから・・・」
マイペース三波さん。
「そうそう。気付いてるんだから隠さなくて良いだろ」
さらにマイペース優介。
「・・・そうだよね」
苦笑する竹里。
俺と竹里は小さな声で言った。
「この二人、良いカップルになれるだろうな」
「うん。私もそう思う」
二人で苦笑した。



「あははーそうなの?望月君って裁縫得意なんだ」
亮の隣りには今、竹里妹がいる。
彼女はさっきいた女子たちと別れてこっちへ一人来たのだ。そして意外にも普通に会話をしている。
「あー・・・うん。裁縫、好きなんだ」
妙な返事を返す。すると竹里妹は笑顔で笑う。
肩を少し掠めて、ボソリと竹里が言った。
「一応、忘れてそうだから言うけど。舞今必死で君に良い印象持たせようとしてるんだよ。君に気持ち知られてるってこと知らないから。そこんとこ忘れないでよ」
忘れていた。竹里妹は俺が気持ちを知ってることを知らないのだ。なにも気まずくなることはない。むしろ普通にしていなくてはいけないのだ。俺は竹里に言われてなければバカみたいに意識していたかもしれない。「そうだった。サンキュ」と小声で言った。
俺は自然を装って竹里妹と接した。

2004/09/23(Thu)18:31:43 公開 / 千夏
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■作者からのメッセージ
久しぶりの更新ですvv千夏ですvv
舞って普通に良い子なのになんだか自分で書いてて
「あーこいつどうにかしてくれ」
って気になります;嫌いなわけではないですけど!!
それではvv

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