『病弱天使と庭でお散歩(完)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:千夏                

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(ドザッ)
人通りの多い道を歩いている俺。そこら中の人間の声が交わった中、後ろからとても生々しい人間の倒れる音がした。俺は普通の人間だから、もちろん後ろを振り向いた。
そこには、真っ黒な長髪に白い肌・・・まるで日本人形の様な女が倒れていた。
周囲の気付いた人間は、彼女を見てコソコソと会話を始める。
あいにく一人で歩いていた俺は、話す相手などいない。というか、いてもこれは話している場合ではない。一人の女性が、倒れているのだから。
俺はそんな事を考えつつも、身体は勝手に動く。近くには病院もある。何を思ったか、俺は、
「担いだ方が絶対早い」
何の根拠もない言葉が頭に浮かんだ。
俺はそれでも身体が勝手に動いていた。手を女の脇に入れ、もう一つの手は膝の裏。俗に言う、お姫様抱っこだ。
それはそれは、軽かった。この人が二人いても担げるんじゃないかというぐらいに。
俺は病院へ向かって、全力疾走した。




目が覚める。昨日、俺は人助けをした。
あの時はたまたま用事があって、病院まで運ぶとすぐに帰ったが、今日は何もない。
「あの人、平気だったんかなー」
そんな事を口に出した。
今日は暇だったので、俺は病院に向かう気になっていた。
何も持たず、ドアを開けた。
「今日も暑いなあ・・・」
(ミーンミーンミーン)
蝉の鳴く中、歩き出そうとした。が、鍵を閉めるのを忘れたので振り向き鍵穴に鍵を入れた。
ガチャリという音と、蝉のやかましい声。俺はもう一度叫んだ。
「君ら五月蝿い!僕暑い!!」
関西人ならではというのか。一人ボケツッコミをかまし、病院へ歩いていった。



俺は病院なんてものに来ることは滅多になくて、もしかしたらコレが初かもしれなかった。
受けつけに行くと、美人なお姉さんが苦笑し、言った。
「えー・・・誰にお見舞いに来たのか、分からない・・・ということ・・・ですよね」
俺も苦笑して、「あははー・・・そういうことで」なんて言う。
いや、これじゃ話が進みませんって。どうしましょう。どうしようもないですよね。自問自答している俺も受けつけのお姉さんも困っていると、丁度その時俺の肩をポンポン、と叩く音がした。俺はちゃんと肩を叩かれた方を向いた。
「ぷにっ」
効果音・・・かと思ったが、これは明らかに人の声だった。
振り向いた先には、黒髪サラサラストレートの色白な女で、白いパジャマを着ていた。全体的に白い彼女は、真っ黒な髪とクリクリの真っ黒な瞳、そして赤い唇が、とても際立っていた。が、全然変ではなかった。むしろ、見とれるくらい綺麗だった。
「どうも。貴方昨日私を病院まで運んでくれた人でしょ?声が大きくて赤っぽい茶髪で、関西弁だし。ね、そうだよね」
俺は彼女の話を聞いてから、「ちょっと待って」と言い、受けつけの人に「どうもー」と抜けた声を出した。
俺達は彼女の病室へ行った。



さっきはいきなりの不意打ちに、可愛いとか何も思っていなかったけれど、彼女は本当にやっぱり可愛かった。まるで白雪姫の髪が長くなって派手な服じゃなくなったバージョン・・・。それってあまり似てないというのだろうか。・・・とにかく、整った顔立ちの女だった。
彼女はベッドの真ん中に座って、俺はベッドの横にある椅子に座った。ここは個室で、まるでいかにも彼女専用という感じがした。所々、ぬいぐるみが置いてある。
「天川翼(あまかわつばさ)。私の名前、天川翼って言うんだ。・・・高校三年生だよ」
いきなり微笑んで言った。彼女は言うのが唐突らしい。天川翼・・・天使の川の翼ってか。
「俺は麻生剛(あそうごう)。浪人生」
彼女は微笑みとは打って変わって「浪人生?」と首を傾げた。俺は苦笑して言った。
「そう。絵描き目指してんの。美大にさ、あとちょっとのところで入れなかった」
「そうなんだ・・・。じゃあアレだね。大学一年生と同じ歳だね」
「うん」
ただ物事をどんどん言うだけの子じゃないようだった。ちょっと哀れんでたし。
「ねえ、翼って呼んでいーい?」
ふざけた調子で言うと、彼女は笑って「何それ」と言い、続けた。
「いいよ。じゃあ私も剛って呼ぶー」
二人で笑いあった。
俺はそう言えばと思って、翼に聞いた。
「そいえばさ、昨日なんで倒れたの?どこか悪いんでしょ?」
彼女はふと悲しそうな顔になり、俺の方を見た。その時にはもう微笑んでいた。
「うん。私ねー、喘息なの。昔っからでさ、入退院繰り返してるのよ。まったくねー」
笑い事として受け取って良いものか迷ったが、彼女は笑っている。
「ねえそんなことより剛!また来てくれる?絵を描くセットも持ってきて」
俺は「そんなことって・・・」と言って、その後しょうがないなと言って「いいよ」と言った。彼女はとても嬉しそうにしていた。



他愛のない話をしていると、コンコンとドアを叩く音がした。
話を止め、翼が「はーい、どうぞ」と言うと、ドアから入ってきたのは、
「・・・あら、もう先客がいたのね」
そう言うこの人は、どうやら翼の母親らしい。翼とは違って化粧が濃く、白か黒かと言うと「黒」と即答できるくらいだった。この人から翼が生まれたとはあまり考えたくない。
「お母さん、この人が私をここまで運んでくれた人よ」
翼の母親は「あらそうだったの?挨拶もしないでごめんなさいね」と言って、
「昨日はどうも有難うございます。良かった、コレを渡そうと思っていたの」
そう言って手渡されたのは、紙袋。中を覗くと、お菓子の入った箱が入っていた。
「有難うございます」
「いいえ。それじゃあ、翼といっぱいお話していって頂戴ね。私はこれで」
翼はいつも通りとでも言うかのように「うん、バイバイ」と言った。
母親は出ていった。



母親が出ていったのを見送ると、翼が言った。
「私、お母さんあんまり好きじゃないの。だってあの人嫌な感じだと思ったでしょ?私なんて全然欲しい物買ってもらってないのに、自分だけ高級そうな物買ってさ。・・・別に、いらないけど。しかもあの人、弱いんだよ。喘息の私より。なんか・・・私が家に帰るとね・・・」
言いかけて、途惑った。翼が言いたいことはなんとなく分かるが、今まで誰にも言えなかったことなんだろうと思ったら、
「うん。それで?」
続きを聞いた。
翼は俺の方をふっと向き、苦笑して言った。
「夜中に泣いてるんだよ」
それは、とても小さな声で、正直もう一度確認したいくらいだった。翼は下を向き「ゴメンね!なんでもない!」と言った。
「そっか・・・。翼、俺の前でなら泣いていいよ。いつでも」
翼は「へへ、ありがと」と笑い、「でも泣かないよ」と言った。母親がああだから、こんな強い子に育ったのだろうか。それとも他に理由が・・・?
俺が黙っていると、翼は言った。
「ゴメンね。今、ちゃんと話せそうにないから・・・。明日来てくれる?」
微笑んでやってから、俺は小さく頷いて個室から出た。



(コンコン)
「はーい、どうぞー」といういつも通りの彼女の声がした。
個室に入ると、彼女は満面の笑みでこっちを向いていた。
「えへへー。外で大きな袋を持った剛が見えたんだよー。だから分かったの」
「なんやー?行動範囲狭いな」
俺が何気なく言った言葉に、翼は敏感に反応して言った。
「あれっ?関西弁になってるよ?昨日は標準語だったよね?あれー?」
不思議がってる彼女は、まるで子犬だ。ぺったりとベッドに座ってる彼女の目線は俺の顔の方へ行くから、ちょっと上目使い。真白な子犬という表現がとてもよく似合ってる気がする。彼女にそれを言ったらどういう反応かはなんとなく分かるので言わないが。
「けっこう東京に居るから標準語でも平気なん。たまーに関西弁出るけどな」
「へー」と感心している彼女に、俺は本題を口にした。
「翼に問題!この紙袋の中には何が入っているでしょう!」
彼女はにこっと微笑んで、即答した。
「絵を描く道具でしょ」
「覚えてたん?」
彼女は「あったりまえでしょー!楽しみにしてたんだから」と言った。
俺は内心、ビク付いている。美大に落ちた人間の絵を描く能力なんて知れている。こんなに期待されてるとは思っても見なかったのだ。
俺は一応言った。
「翼?俺そんな上手くないねんで?・・・ほんまに」
すると翼は、少し眉間に皺を寄せて、「なんでそんなこと言うの?」と言った。
俺は、どうやら翼の聞きたくない言葉を口に出してしまったらしい。
「剛は自分の絵に自信持たないとダメだよ!まだ見たことないけどさ。だって・・・」



「だって・・・」の続きが気になる俺は、絵にあまり気持ちが入らなかった。なぜなら、翼に「だって・・・ううん。なんでもない」とはぐらかされてしまったのである。
カサカサと鳴る俺の鉛筆の動く音だけが耳に届く。翼は黙って空を見ている。
真白な肌は影が入れにくく難しい。が、逆に真黒な長い髪は手が痛くなる。艶のある赤い唇。小さな鼻。光りのあるクリクリな黒い瞳。清潔感のある少し大きめのサイズのパジャマ。
何もかもがとても繊細で難しく感じた。
今、俺が描いているのはもう分かっているだろうけれど、翼だ。
「何描けば良い?」と聞くと、彼女は「なんでもいい?」と控えめに言うので俺が気をきかして「いいよ」と言うと、即答。めちゃくちゃ速く答えた。
「剛から見る天川翼ちゃんを!」
で、今に至ると。
俺が描いていると、彼女は「ふふ」と笑った。
「スンマセン。モデルさん笑わないようにヨロシク」
「へへ。ごめんごめん。なんか見られてるのが恥ずかしくて」
絵を描いている最中にこんな話をよくした。
この小さな白い空間にいると、とても居心地良かった。翼が俺に毎回「明日また来れる?」と聞くのが、内心かなり嬉しかった。聞いてくれるから来れるけれど、聞いてくれないと聞いてやるという気でいつもいる。
「あ!」
俺が声を張り上げたのは丁度翼がアクビをしている時だったので、とても間抜けな返事が返ってきた。
「ふぉあ?」
「ははっ!ふぉあ?ってなんや。って、今日夕方から用事あって、帰らなあかんねん」
翼に「そうだったの!?早く言ってよー」と怒られた。
「ゴメンゴメン」
「明日は!?明日・・・来れる?」
とても悲しそうな顔になるので、俺は小さい子の頭を撫でる時の様に頭を撫でながら「ああ。来れるで」と言ってあげた。
「・・・分かった」
微笑んでから、個室を後にした。



今日も病室には鉛筆を動かすカサカサいう音が響き渡る。俺たちは基本的に絵を描いている時は話さないので、毎回鉛筆の音を聞くことになるのだ。鉛筆を動かす音を止めた。
「できた!翼できたで!」
思わず子どもの様に言ってしまった俺は、なんだか恥ずかしくなって「ほらほら」とスケッチブックを顔の前にして見せた。
見せても返事が返って来ないので俺は恐る恐る顔からスケッチを下げた。
目に映ったのは、とても嬉しそうな翼の表情だった。
「声も出ない・・・ってか?」
「う・・・うん・・・。・・・凄く上手だよ!」
スケッチから目を離し俺の顔を見て言った。そして、さらに続けた。
「私じゃないみたいだよ!なんか剛ってば天使を描いたみたい・・・。これ、天川翼だよね」
まるで天使がスケッチに微笑んでいるようだった。
「天使なわけないやろーって、ちょっと上手く描きすぎてしもたわ」
冗談で言うと翼は「やっぱり」と納得した。納得されてしまったらしい。
「じゃ、今日はもう帰るわ。明日また来るし」
「有難う」
俺は家に帰った。絵を描く道具だけ病室に残し、スケッチブックだけ持って帰った。家で翼を描くために。



俺は一応一人暮らしなので、何をしてもいいのだ。というか、浪人生は勉強したほうが良いに決まっているのは分かっている。
が、俺は部屋にある引き出しを開け一本の使っていない濃い鉛筆を取り出した。次にカッターもその引き出しから取り出し、近くに放ってあるティッシュの箱からティッシュペーパーを一枚引き抜いた。
ティッシュをテーブルの上に敷いて右手にカッター左手に鉛筆。俺は右利きなのでそう持った。
「シャッシャッシャッシャ」
鉛筆の黒い芯が見えてきた。もう分かると思うが、俺は今鉛筆を削っている。
良いぐらいになってきたところでその作業は止め、ティッシュは包めてゴミ箱に、カッターは引き出しの中に、鉛筆は俺の手元に。そしてスケッチを開いた。
部屋には外の雑音と病室で聞くカサカサという鉛筆の動く音。
俺は思い出せる限りの翼を描いていった。
「オーケーオーケー」
でき上がりを見てみると、けっこう鮮明に描くことができていた。
絵を描くのに熱中していたのでもう夜になっていたのにも気付かなかった。
俺は隅にあるベッドまで行き、電気を消して、眠りについた。



「んー、じゃ、行くか」
今日は翼の提案で病院の庭を散歩することになった。一応、スケッチブックと鉛筆を抱えて。
まだ朝だと言うのに病院内は慌しい。看護婦が急患なのか走っていたり、老人が親戚らしき人と話していたり、小さな子が点滴持って走っていたりする。そして看護婦に注意されている。そんな中俺と翼はのんびりと歩いていった。
「ここをね、もうちょっと行くと庭があるんだよ」
そう言われて、もうちょっと行った病院の間に庭があった。外に出ると、とても綺麗なところだった。
「こんなとこあったんや。後で絵でも描こうか?」
「うん!」
コンクリートで固められた道にはベンチが並んでいて、周りは花々がいっぱいの花壇になっている。大きな木も何本か植わっていた。パジャマ姿の色んな人が、ベンチに座っていたり散歩している。綺麗な光景だった。
俺たちは道に沿って他愛も無い話をしながら歩いた。



少し経つと休憩するためたまたま近くにあったベンチに座った。
「良いところでしょう」
翼が微笑んで言った。「そうやなー」と返すと自分が褒められたかのように嬉しそうに笑った。
「ここらへんで絵、描くか?」
言うと、翼は「うん!何を描く?」と嬉しそうに言った。俺は「何を描く?」も何も、翼を描く気でいた。
「翼」
「えっ私?」
驚いて「私でいいの?」と聞いてきた。前と変わらないじゃないと言う翼に、俺はちゃんと理由を述べた。
「前とは全然違うやん。庭に居る翼を描くんやで?」
翼は笑って「そっか」と納得した。
俺がスケッチを開くと、どんな構図が良いか聞いてきた。丁度今座っているベンチの、道を挟んだ前にもベンチがあったので座ってるように言った。そして俺はその前のベンチに行く。
「またモデルだねー。ここに座ってればいい?」
「うん。じゃ、モデルさんじっとしててやー」
笑って、前と同じモデルになった。
俺は鉛筆をサラサラと動かしていった。今回は翼の特徴も掴んでいるので早く終わりそうだった。



「おっし!できたで!」
昨日描きはじめて今日もうできた。翼のコツを掴んだらしい。
「見せて見せて」
翼にスケッチを渡すと、微笑んで「やっぱ凄いね」と言った。この時の翼を一度描いて見たいものだ。
「あー、じゃ、今日ちょっともう帰らなあかんねん!ゴメンなー。ちょっと明日も来れるかどうか分からへんけど」
今からけっこう大事な用事があるのだ。
「えー絶対に来てね!いきなり来なくなるとか止めてねー?」
俺は分かった分かったと曖昧な返事を返し、病室を出た。
「遅れそうやんー!」
俺は走った。



「遅れました!スンマセン!!」
「遅れてませんよ。私も今来たところですので」
俺は向かいの席に座った。ここはよくあるファミリーレストランだ。
「ごめんなさいね。こんなところに来てもらって」
この化粧の濃いおばさんは、翼の母親。今日もいつだかに会った時と同じ印象を受けた。翼と正反対・・・。
「いえいえ、全然。ところで、何の話ですか?やっぱ翼の話ですか」
微かに苦笑をもらし、彼女は言った。
「ええそう。単刀直入に聞くけど、貴方、私と翼の関係はどういう風に見える?」
俺は、少し予想していた。思ったことを素直に言った。
「俺は、少し、貴方を翼は嫌っているのかと思っています」
彼女は「正直に言ってくれて有難う」と微笑んだ。
「翼は、小さい頃から病院で入院しています。翼貴方に高校三年生だって言ってませんでした?それ、嘘なんですよ。翼は高校に入学したばかりです。年は・・・高校三年生ですけど。二年ほどダブってるのよ、翼・・・」
俺はこの母親からそんなことを聞くとは思っていなかった。
「そう・・・なんですか」
翼が高校一年生。確かに、高三にしては少し幼い気もした。
「私はね、翼に母親らしいことをあまりしていないの。たまに病院行って、平気ならすぐ仕事へ行って、翼はきっと誰よりも、私を必要としていたのに・・・」
一瞬、ファミレスに居ることを忘れた。ザワザワという人の声も、この翼の母親の声にかき消されていた。
「で、今日は貴方にお願いがあるの」
そう言って彼女は高級そうなバッグから鉛筆を取り出した。
「貴方が絵を描いてるのは知ってるわ。窓から翼が楽しそうにしているのを見ていたから・・・」
「じゃ、じゃあ、翼に会っていけば良かったんじゃないですか?」
翼の母親はとても切ない顔して「翼を悲しませてしまうから」と言った。
「あのね、これでスケッチブックに翼をいっぱい描いてほしいの。スケッチは今度私が用意するわ。翼、誕生日だから」
俺は少し驚いた。当たり前だが翼にも誕生日はあるのだ。
「スケッチはいらないですよ。俺が持ってますから。今まで描いたので良ければ、それを翼に渡しますよ」
「有難う。じゃあ最後の一ページだけ私が描いても良いかしら」
「ぜひ」
笑顔で言った。
内容は大分まとまった。
翼の誕生日の日まで、俺がいつも通り翼に会いに行って絵を描き、スケッチが最後の一ページになったところで翼の母親へ渡す。それを俺が自然に誕生日だからとあげて、俺の気持ちも母親の気持ちも翼に伝わる、と。良い案だ。
俺たちはファミレスを出た。



前方に見えるのは翼の母親。駅の前で立っている。
俺に気付くと、一礼して
「明日が・・・翼の誕生日だから。これ」
手渡されたのは俺のスケッチ。最後のページには何かが描かれている。
今日は翼の誕生日の前日だ。明日、いつも通り会いに行ってスケッチをプレゼントする。
俺は「どうも」と言ってその場を離れた。
スケッチには今日まで俺の見てきた翼が、最後の一ページを覗いて描かれている。
最後の一ページは、俺は見ないこちにした。
「翼の・・・プレゼントやもんな」
俺は駅に向かい家へ帰った。



今日は翼の誕生日。俺は今日も病室をノックする。
「どうぞー」といういつもと同じ翼の声がして、俺は入る。
「あ!剛!!見てこれ」
翼は嬉しそうにして、小さな花束を俺に見せた。
「私実は今日誕生日なの!だから看護婦さんがくれて・・・」
とても嬉しそうにする翼を見ると、俺も嬉しくなった。
「翼、俺、実は誕生日ってこと知ってんねん。でな、コレやるわ」
はしゃいでいた翼は静かになり、俺のスケッチを受け取った。
「いいの?これ・・・」
「いいの!もらっとき!」
やや強引だったが、翼に渡すことはできた。翼は一枚一枚めくっていき、最後のページが近づく。問題はその最後のページだ。どんな事が描いてあるのか、俺も知らない。翼が傷付くものではないだろうけど・・・
「これ・・・」
翼の瞳に映るスケッチブックは、「ハッピーバースデー」と英語で書かれ、周りには花と、小さな天使だった。それは、翼の母親が描いた最後の一ページだった。
涙を一粒、スケッチに落とした。
「お・・・おかあさ・・・」
言葉は嗚咽に掻き消された。
「それ、俺と翼の母さんからのプレゼント・・・だから、大切にするんやで」
「ありがとう」と何度も何度も言う翼はスケッチを閉じた。
泣きながら笑って俺の方を向いた。
「剛、ありがとう。私、こんな誕生日初めてだよ」
翼の母親が言っていた母親らしい事をしていないというのが、胸に響いた。
「翼、母さんのこと許したってな」
俺は少しでも親子が仲良しになれるように、言った。
「とっくに許してるよ・・・私お母さん大好きだもん」
笑顔で言った。
翼はスケッチを閉じると、タイトルのところが空間になっているに気付いた。
「翼、これのタイトル何がいい?」
涙を布団で拭いながら、「剛が決めていいよ」と言った。
俺は少し考えてバッグから黒のサインペンを取りだし、「これとか・・・」
部屋にキュッキュッという音が響いた。
少し右肩上がりな字で書かれたタイトルは、
「病弱天使と、庭で、お散歩・・・?」
翼がきょとんとしてタイトルを読み上げた。
「声出されると恥ずかしいやんか」
「剛、最高」
俺と翼は二人で笑いあった。とてもその時間が、心地好かった。
(完)

2004/10/09(Sat)16:15:48 公開 / 千夏
■この作品の著作権は千夏さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりですvv千夏です!
やっと終わりましたーvv他のも終わらせたいんですけど、
とりあえず「病弱天使〜〜」を完結。
なんだか微妙な気持ちなので、コメントすることは特にありません。
しいて言うなら、「関西弁素敵」ってことで・・・;;
台風ですよ!みなさん気を付けてくださいよ!!
東京は危ないですね〜。私も飛ばされるんじゃないかと(嘘
実は昨日、風邪で学校を早退しました;;
なのでみなさん風邪にも気を付けてください!
オススメのアメはテイカロの「甘夏&レモン味」のやつです!!
それでは、最後まで読んでくれた方、
どうも有難うございました!!
特に卍丸さん!!毎度有難うございますvvでは!

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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