『Awkword Melody』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:紅葉
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旧棟3階の一番奥の部屋。風通しがよくて、その部屋から見る町の風景は素敵だった。
そこにあるのは一台の大きなグランドピアノと素朴な一人ようの椅子だけだった
【Awkword Melody】
「数Uのテスト返すぞー!今回は難しかったのか?平均は36.7な!低いぞーオマエ等!」
えーっ、とかきゃーっとかいう声。テストを返されてバカみたいに声を上げる奴等。バカみたい。
勉強してないから、そんな点数取るんでしょ?難しかったから、なんて理由になるわけないじゃん。
「柳澤!さすがだな。また100点だ。皆も見習えよー!」
テストを受け取ると、数学の先生…名前なんか知らないけど、その人が勝手に言う。
クラスのどよめきがいっそう、大きくなった気がする。別にどうでもいいけど。
私は 柳澤 詩音(ヤナギサワ シオン)。今年、高校2年生になった。部活は入ってない。この高校に
入った理由は、校則が厳しくなくて、自分の好きなようにやれるから。わりと自由な感じ。
私は…いわば 一人っ子。クラスに仲のイイ人はいないし、周りも私に声をかけてこない。きっと、
話し掛けずらいんだろうな。別に私も話して仲良くなろうとか思わないからどうでもいいんだけど。
面倒な授業が終わった。HRで先生の長い話を聞く。早くあの場所に行きたくて、私は無意識で窓の外を見た。
旧棟3階の一番奥の部屋。ドアに手をかけて驚いた。中からピアノの音が聞こえる。この教室は
今は全然使われてなくて…合唱コンクールの時に時々使用されるくらいで…自分1人だけがココで
楽しんでるんだって思ってたから、私は驚いた。
聞こえてくるのは 月光 。ヴェートーヴェン作曲。私、結構好きなんだよね、この曲…
ソッと中を覗いてみる。1人の男子生徒がピアノを弾いていた。上手い。
でも。しばらく聞いていて、私は1つの事に気付いた。
心、全然入ってない。技術はあると思う。私と同じくらいあるんじゃない?でも…心が全然入ってない。
全然、月光をイメージ出来ない。聞いてるうちに、だんだん腹がたってきた。
カチャンッ
たまらなくなって、私はドアを開けた。同時にピタッとピアノの演奏が止まって、男子生徒が立ち上がった。
キレイな顔立ち。頭よさような顔してる。どっかでみた事あるような顔だけど…よくは覚えてない。
「…いつもココでピアノ弾いてるのって柳澤さん?」
「そうだけど。」
「へぇ。このピアノ、結構痛んでそうだけど…音はイイのな。」
「調律してもらったから。」
「…何でそんな威嚇してるの?同じクラスじゃないか。」
ふと男子生徒が言うから、私は驚いた。
「…そうなの?」
「そうなのって…俺、名前覚えるの苦手だけどクラスの人くらいは覚えられるよ」
その言い方にちょっとカチンときて。私は口を尖らせて言った。
「名前は?」
「…柳澤さんの隣の席なんだけどね。針ヶ谷 奏(ハリガヤ カナデ)。」
「そ。じゃぁ…言わせてもらっていい?針ヶ谷君。」
「どうぞ。」
「…ピアノ。いいかげんな気持ちで弾くならやめれば?ピアノに失礼だよ。」
いつもの調子で言うと。
「…それは失礼しました。ピアノなんかただの暇つぶしだしな。よくわかってんじゃん?」
スッと横を通りすぎる。その背中姿が何だか寂しそうで驚いたけど、今の私には関係ない。
トスンッ と椅子に座り。さっき聞いた月光を弾く。暗い夜空にポォッと光る明るい月…月光…
ガチャンッ
家の戸を閉めると。奏は真っ直ぐピアノに向かった。大きなグランドピアノ。
カタンッ ピアノの上に1つの写真たてを置く。奏の母の遺影だ。
「ただいま、母さん…」
ポォーン シのフラット。2、3回指を落とす。高く、澄み切った音。
「母さん…」
華麗なる大円舞曲 母さんの好きだった曲…明るくて…踊りたくなる…曲…
「あら…帰ってたの?詩音。珍しいわねぇ…貴方がピアノ弾いていないなんて。」
ピアノの椅子に座ったまま。私はボーッとしていた。いや、ピアノをじーっと見詰めてただけなんだけど。
今日の彼…確か…針ヶ谷君…彼のピアノには感情がなかった、そう思った。でも…1つだけ感じた事がある。
彼のピアノは…心の奥に響いた。負の心として…。何て切ない音楽だろう、って…悲しいんだろう、って…
あの時はただピアノを想ってない心に腹をたてて冷静になれなかったけど…今思えば…アレは……
翌日。学校に着くと。彼は私の隣の席に座っていた。何だか難しそうな本を読んでいる。
私はMDの音量を少し上げて席に座る。クラスの女子がどうでもいい恋愛話をしている。くっだらない。
そんな事を思っていると。針ヶ谷君の元へ1人の女子生徒が来た。男子がいつも可愛いって言ってる子。
「あの…針ヶ谷君っ。あのね…ちょっと勉強わかんないトコがあってっ…教えてくれないかなぁ?」
首をちょっとかしげて頬をピンク色に染めて。私から見たらぶりっ子にしか見えないけど。男子からしたら
こういう子は可愛く見えるんだっけ?男って見る目ないなぁ。彼も一緒か…何て思ってた。
「…誰?」
「えっ…!あっ…同じクラスの…里中。里中 姫華(サトナカ ヒメカ)。数学なんだけどぉ…」
あれ?クラスの人の名前覚えてるって言ってなかった?私は無意識にMDをとめて横目で2人を見ていた。
「…そう。俺、基本的に人の名前覚えないから名乗ってくれてもあんまり意味ないけど。で…数学?
君…いっつも携帯いじってない?俺の前の席でしょ?携帯いじるの止めればわかるよ。」
そう言うと、また本に目を戻す。里中さんって子は、目を見開いて。そのまま女子のグループに戻る。
ヒッドーイ!とか顔がよくて頭がイイからってイヤミ!だとか、中傷が述べられてる。ってか…
そのとおりじゃん。携帯いじってりゃ、そりゃわかんなくなるって。ってか…名前覚えてないって…
放課後。担任に呼び出されて、長ったらしい面倒な話を聞き終えた私はいつもの場所に向かった。
またピアノの音がした。
昨日とは全く違う音。 冷静で、残酷で…悲しみ、怒り、憎悪が入り込んだ音。
寒気がした。
ガチャンッ!
それ以上聞きたくなくて。私は無造作に扉を開けた。ピタッと音が鳴り止んで。彼は顔を上げ立ち上がった。
「っ!針ヶ谷君っ!どうしたのその顔っ…!指っ!血!」
額から流れ落ちる血。ピアノの鍵盤は赤く染まり。彼の指は青黒く、血がにじんでいた。
「…今日は…感情入ってた?」
「なっ何言ってんの?!」
私は慌ててカバンからハンカチを取り出し、彼の手をソッと包む。
「…こうする事しか脳がない奴は困るよな。誰だっけ…ほら、朝話しかけてきた女。アイツの事好きな
男達がやってきてさ。この通りだよ。数人で1人を殴るなんて弱い者がする事だよな。」
「何冷静に言ってんの?!とりあえず消毒しなきゃ!来て!」
彼の腕を引っ張って。有無を言わさず私は保健室まで連れて行った。
「…痛い…」
先生がいないから勝手に消毒してると。彼は無表情でそう言った。
「そんな無表情で言われてもね…。あのさ。1つ聞いていい?何でアンタの曲はそんな冷たいの?」
「…俺の返事は聞かないのかよ…」
そう言って。初めて表情を変えた。憂いに満ちた、何と言い表していいかわからない表情。
「…俺には…家族がいない。父さんは俺が小さい頃亡くなった。母さんは…3年前、ガンで亡くなった。
それから俺は1人暮らしをしてる。俺に残ったのは…両親の遺産と、家と…グランドピアノだけだった。
母さんはピアノが上手くて…俺は母さんのピアノが好きだった。俺は…俺はっ…」
いつのまにか。彼の頬を一筋の涙がつたっていた。
私は。思わず、彼を抱きしめていた。
「…ピアノは…母さんを思い出させるから…」
「うん、うん…。」
彼はしばらく声を押し殺して泣いて。私の腰に手を回してきて。
あぁ。この人を私は愛してるって思った。
「お帰り、詩音…ってあら!お友達?いらっしゃい。」
その日の夜。私は彼を家に呼んだ。お母さんは笑って出迎えてくれて。夕飯も用意してくれた。
「そう…大変だったのね、針ヶ谷君。ぜひ…毎日でもいいわ。一緒に御飯食べましょう。」
お母さんは笑顔で言って。グランドピアノを開けた。
「…弾いて。針ヶ谷君の…本当のピアノが聞きたい。」
彼は椅子に座って。スッと鍵盤に指を置いた。
「 」
小声でソッとつぶやいて、彼はピアノを弾いた。
優しくて、あたたかい…曲。聞いた事のない、彼の作曲した曲。
詩音に送る
ちゃんと聞こえたよ…奏………
2004/08/01(Sun)15:52:09 公開 /
紅葉
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■作者からのメッセージ
はじめまして。いつも読んでいるだけだったのですが、
今回初めて投稿させていただきました。
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