-
『人間に相応しい物 1〜5』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ディル
-
123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
1、
ここは・・・・どこだろう・・・・・・・
俺は・・・・何をやっているのだろう・・・
思い出せない。どうしても思い出せない。違う、思いだしてはいけないのだ。
なぜか、そんな気がする。目が開かない。永遠の闇だ。いったい、俺は
どうなっているんだ?誰か・・・誰かおしえてくれ・・。
ドガァアン!!!
何か、激しく振動がきた。俺は、なにかに乗っているのか?すごい揺れを
感じる。いったい、どうなっているんだ?そして、次の瞬間意識を無くした。
次に意識を取り戻せた時には、すぐに目が開けた。
「・・・・・ここは・・どこだよ・・・」
目に広がるのは、枯れ果てた木々。そして、永遠と広がる荒野。そして、
池がある。色は綺麗な水色をしている。まるで、誰かを誘っているかの
ように・・。俺は、誘いに乗るかのように、自然に足を動かせ、池の傍
へと向かわせた。
「み、水・・・・。なにか、なにか欲しい・・・。」
ここがどこだがわからない。けれど、自分が今見ているのは「水」だ。けっして、未知の物体ではない。それだったら、別にどうしようが安全だ。俺は、池に近づくと、その場にしゃがみ、手を伸ばして水をすくおうとした。
「やめろっ!!」
いきなり、誰かに吹き飛ばされた。後ろに飛ぶ俺。前を見ると、布を被った
男が俺をにらみつけている。こいつは人間なんだろうか?顔まで、布を被って
いるせいで、目ぐらいしか見えない。そして、俺の方へとゆっくりと近づいて
来た。そして、しゃがんでいる俺を見下すようにして、話はじめた。
「こんな子供だましに引っかかる奴がいるとはな。貴様は、
例え偶然だとしてもこの地にいる者なのだ。気を付けろ。」
「あ・・・あんたは誰なんだ?・・・」
「・・・・・ビトゥレイ。そう、呼ばれている。」
そう言うと、どこかへと去っていってしまった。俺は、目で追うことを拒んだ。この地で、あいつには頼りたくないと思っていたからだ。なんとも、愚かな感情だと自分でも思うけど、その時はそうしたかったのだ。そこで、1時間ぐらい、大の字で倒れていた。空は、暗い。雲が空を見せないようにしているようだ。けど、俺はこの世界について深く考えたくなかった。すでに俺はこの世界を「夢」と認識していたからだ。「夢」で、考えることもめんどくさい。だから、空でも見ていようと考えたのだ。
「あ・・・・あ・・・あ・・・」
すると、突然後ろから、痩せ細った男が現れた。かなり弱っている様子だ。
けれど、対して驚かなかった。男は俺の存在に気づくはずもなく、前にある
池に歩いて行った。俺は、その姿を目で追った。そして、男が池にたどり着いた。
「お・・・おぉ・・・」
男は水を手ですくいあげた。そして、飲もうと、口に近づけると男はいきなり
その手を止めた。すると、男は驚いたような顔をして震えはじめた。どうしたのか状況がよくわからず、池の方を見てみると、そこにはあの綺麗だった水があった池ではなく、何もない、暗闇の穴へと変化していたのだ。すると、男の水を組んだ手の首に鎖が繋がれていた。そして、男が逃げ様とするが、それを無視して、男は鎖に引っ張られ暗い穴へと落ちていった。俺は急いで、その場から立った。
「な、なんだよあれ・・・。」
穴を覗く勇気もなく、俺はその場から逃げようとした。すると、また人が来た。今度は女性だ。見た目は若い。俺と同じくらいか。
「き、君・・・ここは何処なの?」
「知らないわよ!あんたは知らないの?」
「知らないよ。・・・・君は一人なの?」
「そうよ。とにかく、どいて。私は池に用があるの。」
そう言うと、女性は走りながら穴の方へと走っていった。俺が、また穴を見ると、なんと、さっきと同じく、綺麗な水がある池に戻っていたのだ。これはいったい、どういうことなんだ?そんな、疑問を考えるよりも、彼女をまずとめることが大切だ。
「やめろっ!!いっちゃいけない!」
「なんでよ!私の勝手でしょ!」
「おまえは死にたいのか!?」
「し、死ぬ?・・ハハ、何言ってんのあんた。
水を飲んだだけで死ぬっていうの?おかしいよ、あんた。」
「・・・・じゃあ、飲めよ。死ぬのはおまえだぞ。」
「・・・・・・・もう、もう、もう!!なんでよ!!
ここって、いったい何処なのよ!!」
彼女は頭をかかえて座りこんだ。叫びたいのは俺も同じだ。俺は、薄々気づき
はじめた。それは、とても恐ろしいこと。それは、自分の救いを一切無くすこと。それは・・・・。
「(これは・・・・夢じゃない。・・これは・・・現実)」
俺は絶望に満ちた。ここは、「夢」じゃないのか?それじゃあ、俺は死んだら、どうなるんだ?いったい、どうなってしまうんだ?そんな恐怖とイラダチで、パニックになりそうだが、そんな感情を押し殺して彼女に話しかけることにした。
「君は・・・誰なの?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・おしえてくれよ。」
「・・・・・・私は、井上明日香。ふつうの高校生よ!なのに、
・・・・なのになんで・・・。」
「俺は、天領達也。同じ、高校生だよ。・・・立って、歩こう。
きっと歩いていれば、何か見つかるはずだよ。」
すると、明日香は何もいわずに、俺の先頭に立ち、歩きはじめた。どうやら、
そうとうショックだったらしい。ムリもない。俺も、かなりショックだ。
口調では冷静だけど、頭の中は緊張・恐怖・怒りの感情でいっぱいだ。
しばらく歩くと、荒野の中に一件の家が見えた。何か怪しい気もしたが、
そこしか行くところもなく、しかたなく行くことにした。古びた家で、誰も
住んでいない感じがした。ドアは開いている。
「お、おじゃまします。」
一応あいさつぐらいはしておいた。これが礼儀というものなのだろう。
すると、中には一人の男性がいた。男性は年老いていた。イスに座って
本を呼んでいたのだ。俺達が来たのにまだ本を読み続けている。
「君達はすごいね。」
「え?・・・す、すごい?」
「・・・その通り。ふつうの人だったらこの家には入らない
だろう。怪しすぎるもの。しかし、君達は入ってきた。」
「は、はぁ。」
「余程のアホか、それとも見切る目があったか・・。どちらにしろ、
君達はどうやらここに来て日が浅いらしい。何が聞きたい?」
この老人はここについて知っているらしい。明日香は、慌てて老人に向かって
質問をした。
「お、おじいさん。ここはどこなの?この世界はいったいなんなの?」
「・・・ここって言われてもなぁ・・・。まぁ、地獄でしょう。」
2、
「じ、地獄?・・・」
俺は、その老人に聞き返した。地獄というイメージは、鬼達がいてそこで人間達がその鬼達に拷問されるというイメージがあった。けど、実際に今いる所が地獄らしい。こんなにちっぽけな所が地獄なのか。
「地獄と言っても、ここは外界のような所じゃがな。」
「外界?どういうことですか。」
「地獄界の中心が本当の意味ある場所。その名を粛清界と言う。
ここが、その中心の粛清界の周りにある荒野じゃよ。」
「粛清界・・・。まぁ、名前の通り粛清されるんですよね。」
だいたい、この世界の事情はわかってきた。明日香は、ここが元の世界だと思っていたらしく、相当ショックらしい。けど、俺はなんかどうでもよくなった。ここにいれば、別に危険な目に会うわけじゃない。まぁ、実際に池のような所はあったけど、それだけ注意すればここも住めないわけじゃない。
「あの、おじいさん。さっき、俺達にすごいって言いましたよね。
なんでですか。」
「・・・・・そうか、君達はまだ知らないのか。」
すると、老人は俺達に傍にあったソファーに座るように手招きした。そして、俺達がソファーに座ると今まで読んでいた本を置いて一度、深いため息をついて俺達の所を真剣な目で見てきた。
「この世界には、あらゆるトラップ(罠)が仕掛けられている。」
「トラップ・・・ですか?」
「あぁ。君達を捕まえるためにね。」
「お、俺達を!」
俺は今ようやくわかった。あの池のことが。あの池が「トラップ」だったんだ。でも、なんで俺達が捕まらなければいけないんだ?それに、いったい誰が俺達を捕まえようとしているんだ。
「・・・粛清界のエージェント、その名も界導師。」
「界・・導師・・・。」
「界導師は全部で六人いる。彼らは滅多に動くことはなく、君達が
勝手にトラップに掛かることを待っているのだ。」
「じゃあ・・・掛からなければ?」
「・・・・たいていは、飢えや精神崩壊で簡単にトラップにかかるのだ。
しかし、極たまに生き延びる者達がいる。期間は約1週間。1週間、
生き延びれば、界導師自身が君達を狙ってくる。」
話している時に、老人の顔からは汗が出てきていた。それほど、界導師のことを語るのが恐ろしいのだろう。そして、老人は今度は明日香の方を見て、話し
はじめた。
「お嬢ちゃんは、この世界が恐いかね?」
「・・・・・こ、恐いです。」
「そっちの坊やはどうやら生き様としているみたいだけど、君は違う
みたいだな。生きるか死ぬか迷っているようだ。」
俺は老人の顔見た。なぜ、老人がそうまで考えるのだろうか。仮にも、俺がそう思っていたとしても、老人はなんでそれを口に出したのだろうか。
「楽な死に方は、自分から粛清界に行くか。それとも、自らトラップに
かかるか・・・。」
「・・・・生きたら・・・どうなるの?・・・」
「恐らく、界導師が来て3分も生きられないだろう。」
「・・・・・・だったら・・・・。」
「生きるしか選択肢はないでしょう。明日香、はやく出よう。
こいつ・・・・人間じゃない!!」
おかしいと思った。こんな荒野で、しかも老人が生き残れるはずがない。それに、この老人、一回も瞬きをしていない。それに、老人は呼吸をしていない。たしかに、酸素を出すことはしてるが、含むことはしていないのだ。俺は、明日香にはやく、家から出るように言った。
「坊主・・・・。頑張って、生きるのだな。死ぬのは、
やめておいた方がいい。」
「言われなくても・・・俺は死にません。」
こうして、俺と明日香はまた永遠の荒野へとさ迷った。行く宛などない。けど、ここには入られない。トラップのことは老人に聞いた。「池」を気お付ければいいだけだ。なるべく、「粛清界」には近づかないように歩くことにした。
ここは「粛清界」の中。今、粛清界のエージェントと言われている界導師が話し合っている。界導師はつねに5人いて、あまりバラバラになることはない。
彼らが動く時は、1週間生き延びた者を粛清する時だけ・・・・。
「つまらんな。我々はここ数年、粛清界からは一度も出てない。
たまには外界へと行ってみたいものだ。」
「そんなこと私だって同じよ!けど、人間がすぐ死んじゃうんだもん!
せっかく生かしてやってるのに。」
「ッフ、こんなことがバレたら我々はどうなるのか。まぁ、
セルマース様がいない今、そんなことは関係ないのだがな。」
「貴様ら・・・・少々うるさいぞ・・・。」
「すまなかったな。君の居眠りの邪魔だったか。」
「・・・・・・これでも見てるのだな・・・。」
すると、居眠りをしていた界導師が、二人の界導師に一枚の写真を渡した。今、ここには3人しかいないらしい。他の二人はどこかにいるらしいが・・。
「誰なんだ?こいつは。」
「・・・・・現在、六日目だ・・」
「本当ーー♪それじゃあ、私がいっちゃおうかしら?」
「私がいこう。すぐに済ませる。」
「あー!ずるいーー!!」
「我慢してくれよ。私も、この手を汚したくはないものだからな。」
「(だから、私が行くっていうのに。)」
そう言うと、一人の界導師が粛清界から出た。そして、外界へと向かった。
しかし、ここで一つの疑問がある。さきほど、達也達があった老人は界導師を、「6人」と言った。けれど、実際には「5人」しかいなかった。いったい、どうなっているのだろうか・・・・。
「ようやく・・・エサが役にたったか・・。」
3、
達也達は永遠と広がる荒野を歩き続けていた。時々、トラップがあった。「池」だ。知っていても、引っ掛かりそうになるときがる。けれど、二人で呼び合い、なんとかしのいでいたのだ。そしてついに、町と思える場所についた。
「・・・・なんだここ・・・。」
「みんなボロボロじゃない。いったい、どうしたの・・。」
たしかに町はあったけど、しかし崩壊状態だった。誰もいる気配はない。しかたなく、一件、一件回って食料がないか確かめることにした。案の定、食べ物は無かったが、飲み物だったらあった。「水」があったのだ。すこし、砂が混じっているが今は、そんなことを気にすることも無く、一気に飲んだ。二人とも、ある程度体力が回復すると、まだ他になにかあると思い捜し始めた。すると・・・。
「誰だっ!!」
「え?・・ひ、人がいる!?」
「誰だ、おまえら・・・。」
そこにいたのは、一人の30代ぐらいの男。ライフルを両手に持っていた。地獄にも、そんな武器があるとは思わなかった。男は相当俺達を警戒していた。とにかく、自分の名前ぐらいは言うことにした。
「俺は、天領達也といいます。こっちが、井上明日香って言います。」
「・・・・・手を出してみろ!」
男は荒っぽい口調で、俺に命令してきた。そして、俺が右腕を出すといきなり、男はライフルで俺の腕を撃ってきた。俺は急いで腕を引っ込めたが、弾は俺の腕をかすった。
「な、なにすんだっ!!」
「血、血が出てる・・・・。すまない!大丈夫だったか。」
「大丈夫!?達也・・。」
いきなり男は人が変わったように、俺達に親切になった。理由はわからないけど、俺は色々と手当てをしてもらった。腕には包帯が巻かれている。男に案内されて、廃墟となった居酒屋に連れてかれた。そこで3人はテーブルに付き、御互いのことを話しはじめた。
「君の名前はさきほど聞いたね。僕の名前は沼田正樹。ごくふつうの
人さ。それにしても・・・・」
そう言うと、沼田は俺達のところを下から上へとゆっくりと目で追いかけた。
そして、少し笑顔を見せると続きを言い始めた。
「君達と、私は似ている。」
「に、似ている?そんなに俺って老けてますか?」
「バ、バカ!失礼でしょ。」
「いやいや、違うよ。まぁ、少し聞いてくれんか・・。」
そう言うと、沼田は目をつぶって語りはじめた。それは、約5日前のことだ。
沼田も俺と同じく何らかの衝撃を受け、目を開けた時、見知らぬ所にいたらしい。そして俺達と同じく、一人の女性に沼田は会ったらしい。そのころ、沼田達は、「トラップ」のことについて、だいたい理解していたらしい。沼田達が、この町を見つけたのは2日目のこと。すでに、沼田と女性は恋に落ちていたらしい。それにしても、一日で恋に落ちるなんて早いものだ。女性の名前は倉島絵里。年齢も近かったらしい。
「エリ、何かあったか!?」
「飲み物ぐらいしかないわ。もう、せっかく見つけたのに
食料がまったくないなんて・・・。」
「あぁ、まったくだ。でもいいんだ。」
「どうして?」
「食料よりも、水よりも大切なものを見つけたから・・・。
君という、永遠の傍らを。」
「・・・・もうっ!!何を言ってるんだか。」
二人は幸せであった。こんな場所にいるにもかかわらず、ずっとここにいても、いいと思っていた。
「ねぇ・・・正樹。」
「なんだい?」
「私達って・・・神様に選ばれたのかなぁ?」
「選ばれた?なんで、そう思うの。」
「神様は、正樹と私が結ばれるようにわざわざこの世界を用意したのよ。
そして・・・私達は・・・この世界でずっと・・ずっと・・」
「あぁ。神様は俺達を選んだんだ。神は・・・俺と、絵里を選んだんだよ。
アダムとイヴのように。」
「ねぇ、この世界で初めての恋人かな?私達。」
「あぁ。そうだよ。・・・きっと・・。」
こうして、沼田達は夫婦ともいえる生活を過ごしていた。そして、4日目。運命の日がやってきた。それは彼らの足りないものを指摘する結果となった。その日は、いつもと変わりなかった。毎日、同じ生活を繰り返す幸せというのもまたあるのだ。
すると、一人の男がやってきた。男の存在に気づいた沼田は急いで、男の傍に、寄った。もちろん、絵里も。
「大丈夫か?君も、この世界にやってきたのか・・。」
「すぐ来て、水ぐらいならあげられるから。」
「・・・・・・・」
男は何も言わなかった。そして、沼田達の後をただゆっくりとついてきた。沼田は最初から何か嫌な感じがした。この雰囲気は人間にあるものではないと・・・。とりあえず、居酒屋で男に水を渡すことにした。しかし、あやまって絵里はグラスを地面に落としてしまった。
「す、すいません。」
「大丈夫か?俺も手伝おう。」
「・・・・・・」
男は何一つやろうともしない。だから、沼田は少々ピリピリしていた。ちょっと、注意しようと男の方を向くと・・・。
「な・・・なんだ・・こいつは・・・」
腕にはグラスのガラスが刺さっていた。しかし、全然血が出てこないのだ。純粋な赤い血がまったく出てきていないのだ。沼田はようやく彼が人間ではないことに、確信を持てた。そして、絵里を連れて逃げようとしたその時・・。
「がぁあああああ!!!」
「きゃぁあああああ!!」
「え、エリーーー!!!」
男が急に絵里を襲いはじめたのだ。すると、男の足元が無くなって暗い穴が出来ていた。そこに、絵里の足を掴み無理やりその穴の中に引き込もうとしていた。そこで、なんとか沼田が絵里の手を掴んで引っ張ろうとしたが、男の力は凄まじいものであった。沼田はわかっていた。このままでは自分まで穴の中に引きずり込まれることを・・・。
「く・・・くぅ・・・・。」
「もう・・もうやめて。正樹。」
「やめない、絶対・・・。」
「私わかったの・・・。」
「な、何が・・・だい?・・・・」
「神様が何で私達を選んのかって・・・。」
「・・・・・どうして?・・なの・・」
「私のためだよ。こんなところで、死ぬ私に少しでも幸せな気分
にさせようと、正樹を選んだんだよ。」
彼女の手は、しだいに俺の手を握る力が弱くなってきた。これは、自分の意思で、弱くしているに違いないとわかった。
「・・・・笑って・・・正樹・・。」
「笑えるか・・・こんな場面で・・・」
「おねがい。最後のおねがい。・・・・」
「・・・・・ハ、ハハ・・・」
俺は苦笑いっぽい笑顔を絵里にした。そして、絵里も笑顔を俺に見せてくれた。そして、絵里は無理やり俺の手を離した。
「さよなら・・・正樹・・。」
「い・・・行くなぁーーーーーー!!!!」
そして、今日までの6日間。ほとんど、放心状態で生きてきた。何も生きる希望が無い。そう感じたのだ。涙は枯れるほど出た。そして、気づいたのだ。俺とエリは単純な「トラップ」に引っ掛かったのだと・・・。そして、またふりだしに戻る。達也と明日香が来た時に・・・。
「・・・・・正樹さん。俺、生きることが・・すごく難しく思えてきました。」
「そう思うかい?けど、・・・僕にとって絵里がいない人生なんて、
意味がないのだよ。もう、いつでも死ねるんだ。」
「そんなこと言わないでください!そんなこと言ったら・・絵里さんが・・。」
「君達も、早くここを去った方がいい。奴らが来る。」
「奴ら?・・」
俺は聞き返した。すると、沼田はすこし暗い表情になった。だいたいの見当は、ついていた。沼田の言う「奴ら」の正体が・・。
「・・・界導師だ。」
4、
「もしかしてあなたは・・1週間・・・」
「あぁ。経ってしまった。」
俺は一気に焦った。俺達が来たこの日がすでに沼田の「1週間目」だったのだ。慌てて、明日香の手を引っ張ってどこかに隠れようとした。
「ここに地下がある。隠れていればバレんだろう。」
「あ、明日香!はやく、入って。」
「達也、どこかに行かないよね?」
「あぁ、すぐ行くから。」
そして、明日香だけ最初に地下に行かした。俺はもう少しだけ沼田と話したかった。この世界のことについて、「界導師」のことについて・・・。
「いったい、なんですか。界導師って・・・。」
「はやく地下にいきなさい。私達の会話を聞いていればわかる。」
「私達?・・」
「・・・・・坊主、お嬢ちゃんを大切にするんだぞ。」
「・・はい!」
俺も、明日香に続いて地下に入り、ドアを閉めた。そこで、耳を近づけて沼田と界導師の会話を聞くことにした。しばらくすると、誰かが居酒屋に入ってきた。沼田は何も言わない。「界導師」だ。足音がコツコツと、沼田に近づいてくる。
「遅かったじゃないか。」
「すまないな。あまりに久しぶりなもので道を迷ってしまった。」
「あんたら良い死に方しないね。」
「同感だ。確かに、良い死に方はしなかったな・・。」
「はやく、やってくれよ。」
「・・・・最後に女のことでも考えるんだな。」
「き、貴様!」
すると、沼田は近くにあったライフルを手に持った。絵里のことを言われて、
無性に腹がたったのだ。俺も、少し地下のドアを開けて、覗いて見ていた。
俺はその時初めて「界導師」を見た。顔は仮面をつけているようで、大きい
帽子を被っていた。長い黒いコートを着て、じっと沼田を見ていた。
「絵里のためにも、この場で死ね!!」
沼田はライフルを「界導師」に向けて発射した。弾は見事に、命中した。しかし、まったく倒れる気配もなく、何事も無かったように立っている。無駄な抵抗だとわかっていても、沼田はライフルの弾が無くなるまで撃ち続けた。
カチ、カチッ
「くそっ!!弾切れ・・・。」
「お気に入りの服なのだがな・・。まぁ、いい。おまえも
この服と同じように蜂の巣にしてあげますよ。」
コツ、コツ、コツ、コツ・・・。
ゆっくりと、界導師は沼田に向かって歩いてきた。沼田は逃げるしかなかった。しかしその後ろには逃げ場は無く、死を覚悟した。その姿を、俺はじっと見ていた。そして、界導師は沼田の目の前まで来ると、いきなり沼田を抱きしめた。
「さよならだ。人間。」
「エ、エリーーー!!!」
次の瞬間、沼田の背中に何本もの針が飛び出た。針の先には血がついている。
そして、界導師は沼田が死んだとわかると、針から抜いて持ち帰ろうとした。
振り返った瞬間、どこから針が出たかわかった。それは、「界導師」の体から、出ていたのだ。とても鋭く、なおかつ大きい針が。すると、界導師とチラッと目が合ってしまった。急いで俺は地下のドアを閉め、逃げようとしたがなんと、界導師の手が床を貫いていて来たのだ。その手に俺の首は掴まれ、上まで引っ張り上げられた。
「あ・・・あぁ・・・。」
「また人間か。今日は運がいい。」
俺は恐怖に震えた。目の前にいるのは「界導師」。さっき、沼田を殺した奴なのだ。自分も、あんな風に死ぬかと思うと生きた心地がしなかった。
「・・・君は本当に運がいいな。仲間に二人も捕まえたなんて
言ったら怒られるからな。君は、見逃そう。」
「・・・・・・」
「愚かな生き物だ。恐怖で身も動かせんか。」
「・・・・・・愚かじゃない・・。」
「ん?」
「人間は・・・・愚かじゃない・・・」
俺は、恐怖に震えながらもあのことを思い出していた。そう、沼田と絵里のことをだ。そして、震える唇を押さえ、界導師に言った。
「人間は・・・信頼を・・・愛を持っている。」
「・・・・ハハハハッハハ!信頼か、愛か!やられたよ人間。
・・・おもしろい奴だ。名前を聞いておこう。」
「・・・・天領達也。」
「私の名は、マスクマーダァ。覚えておきたまえ。」
そして、界導師は何処かへと去っていった。俺は、何分か動けなかった。ようやく、明日香が登ってきて、なんとか動けた。あまりの恐怖に何もできなかったのだ。そんな自分が情けなかった。そして、今までのことを明日香に話した。
「おじさん・・・死んじゃったんだ・・・。」
「・・・・トラップは池だけじゃない。あらゆる所に仕掛けられて
いるんだ。俺達は・・・大きな勘違いをしていたんだ。」
「・・・・殺人仮面・・・・。」
「何て言ったんだい?」
「マスクマーダァ。日本語に直すと殺人仮面よ。」
「じゃ、じゃあビトゥレイってのは?・・・」
「確か・・・・裏切りって意味だったような・・。」
俺が最初にこの世界であったやつの名前が「ビトゥレイ」。意味は「うらぎり」。いったい、どういうことだ?なぜ、界導師が名前を持っているんだ?名前をつける習慣なんて人間にしかないはずだ。人間でもない奴らがなぜ名前があるんだ。色んな疑問が残るなか、俺と明日香はまた旅をすることになった。すでに、ここにいることが界導師にバレた以上、いることはできないだろう。
「・・・・寒くないか?明日香。」
「・・・大丈夫。」
「・・・・・悲しくないか?・・・明日香・・・。」
「・・大丈夫。達也が傍にいてくれるなら・・。」
5、
今日で、4日目。後3日で「界導師」が襲ってくる。まずい、毎日そんなことを、考えながら町を捜していた。どうやら、明日香もそんな落ち込んだ俺の表情に、気づいたらしく、心配してくれた。今じゃ、明日香と気軽に話せる仲になれた。しかし・・・「界導師」さえいなければ・・・・。
「タツヤ!あれ見て。」
「む・・村か・・。」
どう見ても「町」とは思えなかった。だから、あえて「村」と表現した。とりあえず、その村に行くことにした。村に入ると、色々な民家から視線を浴びた。不気味な感じがし、長くは居られないないと思い、すぐに出ていくことにした。
「ちょっと待ちなされ。」
「は、はい。」
俺の目の前にいきなり年老いたじいさんが現れた。じいさんは、冷たい視線で、俺と明日香を睨んできた。やはり、ここを一刻も早く出ていきたい。そう、思い話しをはやく終わらそうとした。
「名は何と申す。」
「・・・・天領達也です。」
「な・・・・・なんと!!」
俺が言った瞬間、じいさんがすごい顔で俺の顔を見た。そして、民家から人々が、たくさん出てきた。すると、その人達も俺の顔をじろじろと見てきた。いったい、何がなんだかよくわからなかった。
「メ・・メシアじゃ・・・メシアが来なさった!!」
「はぁ!?メシア?・・・ってなに?ロシア?」
「・・・・う、嘘でしょ・・。」
明日香も「メシア」という言葉を聞いて、かなり驚いている。そんなに、「メシア」という言葉はすごいらしい。とりあえず、明日香に「メシア」について、詳しく聞いてみることにしてみた。
「あ、明日香・・メシアって・・」
「救世主・・・。メシアは救世主と言うの。」
「はぁーー!?俺が救世主!!」
とりあえず、じいさんに連れられてこの村一番の大きい屋敷に行くことになった。俺はうまく事態が読みこめない。そして、よくわからんがじいさんの目の前で、明日香と一緒に正座させられて、じいさんの話しを聞くことになった。じいさんの手には何か書いてある紙があった。
「え〜と、我々にはいつかのためにメシアが必要となる。
この世を正しき方向に変え、メシアにすべてを委ねるべし。
メシアの名はテンリョウ・タツヤ。」
「・・・・・・・ま、まじかよ・・・・。」
「偶然じゃないの?」
「そんなことはないはずじゃ。外界はとてつもなく広い。
その中でここを見つけるなんてやはりメシアじゃ。これを・・。」
すると、老人は一つのリングを渡してきた。何か、うめこむ部分があるリング。ちょうど俺の腕にはめられるぐらいの大きさがある。まぁ、何か長い話を聞かされる前に颯爽とリングをつけた。すると、いきなり視界が真っ白になって、何かの声だけが聞えた。
「タツヤ・・・・タツ・・ヤ・・・。」
「誰だ?・・誰だ、あんた」
「・・・・オマエハ・・・・エサデハナイ・・・
オマエノ・・エサヲエサニシロ・・・。」
「エサ?なんだよ、それ。」
「サラバダ・・・マタ・・・アオウ・・。」
すると、また元の視界に戻った。まったく、どういうことだかよくわからない。けれどじいさんは気にせず、リングについて説明をはじめた。
「獣魔というのを知っていますかな?」
「獣魔?・・って、なんすか。」
「この外界に入る猛獣のようなものです。そのリングの点滅部分が
あるじゃろ?」
「あぁ。」
詳しくはこの通りだそうだ。自分の力がわかるというリングで、相手の危険性を表してくれるようだ。緑色→自分より弱い。青色→互角。黄色→判定不能。
赤色→自分より強い。黒色→危険大。逃げることを選ぶ。と分けられている。
そして、もう一つの力をおしえてくれた。
「そのリングにはテリトリーがあるのです。」
「テリトリー?・・・なんていうの?明日香。」
「領域っていうの。」
詳しくはこの通り。相手に触れることができると、自分の領域に相手を入れることができる。しかし、領域に相手が入ったからと言って相手はふつうに動ける。領域だと自分の特殊な力を使えるのだ。しかし、テリトリーを使わないと、自分の特殊な力を使えない。
「特殊な力ってなんなの?」
「そのリングに、何かはめこむ穴があるじゃろ。そこに、
特殊玉という玉をはめこむのじゃ。」
「じゃあ、貸してよ。」
「すまん・・・・ここにあるのは一つしかない。後は全部、
キーパーによって散りばめられたんだ。すまない。」
「キーパー・・・。監視員・・ってことか。」
「キーパーは界導師を倒そうとしているのじゃが・・・、
なぜか我々を良く思ってないのじゃ。つまり、君をな。」
「・・・なぜ、監視員が界導師を倒そうとするんだ?ふつう、
ちゃんとした者がやるんじゃないのか?」
「そんなことは知らん。奴らに聞くんじゃな。奴らは天使じゃが、
天使じゃないのじゃ・・・。」
この地獄で「天使」と言う言葉を聞くのも滅多にないだろう。なんせ、地獄に
天使なんているはずないのだから。いるとしたら「悪魔」ぐらいだろう。しかし、「悪魔」の名を聞く前に「天使」の名を地獄で先に聞くというのは、どうも・・。
「よくわかんないけど、その残ってるやつの玉って
どういうのなの?」
「玉には一つ、一つ能力が違う。全部で5つあり、その中の一つ。
こいつの能力はチェーン。相手に触れるとその部分にチェーンが
巻かれるというのだ。」
すると、どこからともなく爆発音が聞えてきた。慌てて、外に出てみると、
長い槍を持った顔無しの天使が現れた。口も、目も鼻もない。しかし、「天使」とはその姿から言えなかった。その姿はまさに「堕天使」。なにかと、暗いイメージをまとっていた。すると、じいさんは俺に言い出した。
「奴がキーパーじゃ!はやくそのリングの力を使ってみぃ!」
「そ、そんなこと言われても・・。」
「逃げようよ!タツヤ!」
「(そうか、明日香がいた・・・。そうだ、俺には守る者がいる!
俺は・・。)」
そして、俺はゆっくりと前に出ていった。キーパーは家を壊すのをやめた。どうやら、タツヤの存在に気づいたようだ。それに「リング」の存在にも。リングを見た途端、キーパーの目の色は変わり、攻撃目標を完全にタツヤに変えた。
「・・・守れる物があるなら、守れる人を守って見せる!」
-
2004/07/26(Mon)19:34:21 公開 / ディル
■この作品の著作権はディルさんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。