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『終わった跡に残るもの』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:霜
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私の名前は笹木良子。とある高校の三年生。いたって普通の受験生だ。特に良い部分も無く、悪い部分も無い。普通に勉強をがんばって、ちょっとした恋心で、一般的な悩みをそれなりに抱えている。
私は今、とある大学に向けて一生懸命勉強をしている。国公立ということもあって、なかなか大変だ。どうしてその大学に入りたいのかというと、彼がそこに行く予定だから。
私以外の人は、そんな目的で選ぶことに馬鹿らしく思うかもしれない。そのせいで落ちてしまう人もいるかもしれないのだ。私もそれは少しかわいそうだなあと思う。
でも、何を求めるかは人の自由だ。私にとって、彼は何よりも大事な存在だから……。一時の感情で周りが見えなくなる、というのは誰しも経験したことがあると思う。今の私もまさしくそれなのかもしれない。ただ違うのは、目標に対して並々ならぬ努力をしているということ。
深夜二時。勉強道具で埋め尽くされた、私の机の上で無機質な音が鳴り響く。携帯の音だ。
即座に見てみると、メールが一通来ている。彼からの。
『今日もお互いに頑張ろう!』そう書いてあった。
この時間帯になると、私は睡魔に襲われる。なんとか頑張ろうと思っても、ぼんやりした頭では回転が格段に遅くなってしまう。
その悩みを彼に打ち明けたところ、毎日この時間に一通のメールを送ってきてくれるようになった。何故かは分からないけど、このメールを読むと一気に眠気が吹き飛んでしまう。
私はそんな彼の優しいところが好きだ。
メールを読み終えた後、携帯を両手でやさしく包む。今の私の気持ちが、あなたに届きますように。そう祈った後、私は勉強を再会した。
私は、いつも三時半まで勉強を続けている。そうしないと彼と一緒に合格できないかもしれないから。彼もまた、私と一緒に、そして夢をつかみたい想いで同じくらい勉強している。
私が彼のことを一番理解できる時間。
彼が私のことを一番理解してくれる時間。
あなたのためなら、私はいくらでも頑張れる。今の私はそんな気持ち。
学校では、彼とあまり話す機会が無い。同じクラスなのに。休み時間のわずかな時間さえも、彼は無駄にすることが無い。もちろん私も。
私たちだけではなく、他の人たちも集中して勉強している。
彼の席は、私の前の席の右側。ぎりぎり表情が見えるか見えないか、そんなところだ。
指先を、カタカタとせわしく動かしながら、私は彼の表情を見ようと身を乗り出す。すると、その様子に気づいた彼が私と目を合わせる。
一瞬、時が止まったように思えた。
彼は、にっこりと私に微笑をかけてくれた。その後、勉強に集中し始める。私には、彼の表情はもう見えなかった。たくましく見える彼の背中がほんのちょこっと動くだけ。
なんて優しい笑みなんだろう。
ほとんど会話できない私にとって、彼の微笑は何よりも嬉しかった。何か力をもらえたような気がする。
私は再び勉強に集中した。
これが、私と彼の日常。勉強でほとんど埋め尽くされているけれど、わずかな隙間が本当に充実しているような気がする。
来年、二人で合格したらどうなるのだろう。一年間溜まりに溜まった想いをすべて出すことができるだろうか。未来のことなんか私には分からない。でも、私と彼はきっと信じている。
夜間に積もった雪が、溶けずに残っている。
テストの当日は、やっぱりいつもと違った雰囲気だった。
緊張と、凍った地面で足を滑らせそうになりながら、必死に歩みだす。久しぶりに彼と歩くことができた。吐く息が白い。顔がちくちくする。寒いね、と言ったら『もうすぐ暖かくなるから。そしたらいろんなところに行こう』と言ってくれた。
この緊張も、この寒さからも、やがて開放される時が来る。
彼と頑張ったこの日々。私には充実したものだった。後は頑張ってテストを受けるだけだ。大丈夫。頑張ることに関しては誰にも負けないから。
私は、ようやく春を迎える準備を整え、唯一の入り口へと足を踏み入れた。
彼と一緒なら無理なことなんて無い。
そのはずだった。
私が通った春への入り口。その先に見えた光景は、寒い寒い冬だった。本当に滑り落ちてしまった。一緒にいたはずの彼はもういない。一足先に春へと行ってしまった……。
私を支えてくれるものは何も無い。凍りつく雪の上で、私の体は冷えるばかりだった。
私は同じ時間を二回繰り返す羽目になってしまった。そして、前回とは違う時を。
悲しみが溢れてくる。もう、学校で彼と会うことはできない。一緒に頑張ることも無い。私はどうすればいいのだろうか。
突然、整然とされた机の上で、無機質な音が鳴り響く。彼からだ! 私の悲しみは吹き飛ばされた。彼から送られてきた一通のメール。彼らしい励ましの言葉が書かれていた。最後に、待っているよ、と。すべてが救われるような気がした。
瞬時に机の上が本で溢れ返る。
頑張ろう。私は、そう自分に言い聞かせた。彼が待ってくれている。どんなときも、彼は私を応援してくれている。彼に応えるためにも、こんなところでぐずついている暇は無い。
それから、私は今までよりもさらに努力した。彼のメールなしに勉強をすることができた。一人残された悲しみでなくことなんて無かった。
でも、一つだけ気になることがあったんだ。励ましのメールをくれた後、彼は二度と送ってこなかった。
二度目の入り口。冬から春へと続く道。私かもう一度彼に会うために、絶対に通らなければならない道。
私は躊躇しないで飛び込んだ。彼に会いたい。その一心で。その入り口を通り抜けたとき、本当に、涙が溢れてきそうだった――。
私はやっとたどり着いた。暖かい。寒い心など一瞬で解かされる。
桜のつぼみができ始めている。すべてが始まる新しい季節。掲示板に私の番号が載っている。先に彼がいて、真っ先にそれを教えてくれていたらどんなに良かったことか。
私は見ちゃったんだ。
周囲に彼がいた。あれから一年たったけど、まったく変わっていない。だからすぐに分かった。でも、掲示板を見に来たわけじゃなかった。ただ通り過ぎただけ。彼の横にはかわいらしい女の子がいた。仲良く腕を組んでいる。
一粒の雫が頬を伝い、流れ落ちた。それに続いてたくさんの雫が落ち始める。周りからは嬉し泣きをしているようにしか見えない。私を慰めてくれる人なんか誰もいなかった。
何かが喉に溜まる。とても苦しい何かが。せっかく春にたどり着いたのに、見渡す世界は冬の模様。
終わってしまった。何もかも……。
私はこれからどうすればいいんだろう。何も考えたくない。もう、何も。
アスファルトに染み込んだ跡が点々と残っている。うつむいた私にはそれしか見えない。
私は……。
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2004/07/07(Wed)20:57:56 公開 / 霜
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■作者からのメッセージ
久しぶりの投稿です。
これを読んで何か感じていただければなあと思ってます。
自分の力量でどれだけ感じられるかは疑問ですが(汗
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