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『銀色の狼 序 〜4』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:九邪
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――ある晩――
風のような速さで森を駆けていく一台の車。
車には一人、男性が乗っている。その横の助手席には大きな袋が置いてある。中に入っていた物はキラキラと光っていた。
「ハァ…ハァ…、やったぞ!あの『銀色の狼』から宝石を奪った。俺は仲間に自慢話が出来そうだな…」
車の中で男が気味悪くにやける。たった今誰かの寝込みを襲って、宝石などを奪ってきたのだ。男はそのためかなり興奮している。
その時、後方からすごい勢いで人が追いかけてきた。『走って』だ。
男は気づかなかった。エンジン音などは全くしない、するはずもない。追いかけてきた者は一直線に男の車に向かっていき、ひとっ跳びすると男を後ろから殴りつけた。
「ウワッ!!」
男は豪快に車から吹き飛んだ。車は主を失いそのまま崖底へ落ちていった。
男は何がなんだかわからなかった。しかし、追いかけてきた男の目も覚めるような鮮やかな銀髪を見ると悟った。
「まさか…『銀色の狼』!?走って追いかけてきたなんて……嘘だろ?」
男は現状を理解できずにいた。人が車に“走って”追いつくことが出来るなんて……男は呆然と追いかけてきた男を眺めていた。
「俺の宝を奪うとはなめた真似してくれるじゃねぇか」
追いかけてきた男は近づく。男は、ヒィッ、っと小さな悲鳴をあげて座ったままあとずさる。
「…………しかし、俺の寝込みを襲うなんてなかなかいい根性だな……」
追いかけてきた男は、考えるように顎を押さえながら、男の周りをグルリと一周する。
「フ〜ン……オイ、お前銃は持ってるか?」
「は、はい! 持ってますが……」
「よ〜〜し」
追いかけてきた男は意地悪そうな笑みを浮かべると、近くにあった木に近づき、生っていた実を一つちぎり取る。
その実を自らの頭に乗せ、男のほうに向き直る。
「この実をその銃で撃ち落してみな。もし巧く打ち落とせたら見逃してやるよ。」
男は打ち落とせなかった場合を聞こうと思ったが、すぐに思いとどまった。せっかくチャンスをくれているのだ、今機嫌を損ねたら……
男はゆっくりと銃を構え、頭の上にある木の実に狙いを定める。男は自慢じゃないが銃の腕には自信があった。
このぐらいの距離なら実を打ち落とす事などわけはなかった。
しかし、男の頭にある考えが浮かんだ。
――今、実を狙う振りをして、あいつの頭を打ち抜き、殺せば、自分は逃げられ、しかも宝も自分の物……
――いや、しかし相手はあの『銀色の狼』そんな危険な目は……
――だが、相手は今油断している、やるなら今!
そんな二つの考えが頭の中で争い、とうとう後者の意見が勝った。
男はゆっくりと銃の向きを下にそらす。相手の頭に狙いを定める。
ズドン!!
鋭い銃声。森の鳥たちは飛び去り、あたりの草木もざわめいた気がする。 それと共に頭から血を吹き、倒れる人。
「ったく。バカなヤローだぜ。殺気と、銃口の向きでどこを狙ってるかなんてバレバレなんだよ。せっかく実を打ち落としたら見逃してやろうと思ってたのによ……」
追いかけてきた男は男の死体にペッと唾を吐く。そして、そのあと数発男を撃つ。
追いかけてきた男が撃ち終わり、去ったあと、森の野鳥、野犬が集まり男の死体をむさぼり始めた。
見るに耐えない光景。男の死体は森の掃除屋達によって完全に消え失せた。
第1話.銀髪の男と敬語の男
かつて、この世界に『銀色の狼』と呼ばれる大盗賊がいた。
怪盗まがいなことや強盗など、あらゆる手段で世界中の美術品、宝物を盗み世界中に名を知らしめた世紀の大悪党。人の命を奪うことにも躊躇いはなく、愛用の銃で容赦なく警官を撃ち殺した。
彼は約200個の美術品、宝物を盗み、被害総額は12億3千万にも上る。
狙った獲物は必ず盗むため世界中の美術商達は美術品の展示を禁止し全ての美術品を銀行の金庫などに保管するよう命じた。(金庫に入れたものは絶対盗られなかったという訳でもないが)
このため世界中の美術館が潰れ、一般人も美術品が見れなくなった。
それに困った警察は、以前にも増して力を入れて『銀色の狼』を探し出し遂に追い詰めた。追い詰められた『銀色の狼』は海に飛び込み、その後は行方不明となっている。
半年たっても、現れる気配はなく、警察は死んだと決め付け、世界に公表した。
このため再び世界中の美術館に美術品が展示された。
しかし、『銀色の狼』はまだ生きている。そんな噂は後を絶たない。
照り付ける灼熱の太陽。それを照らし返す砂。
ここは砂漠、見渡す限り砂砂砂……。ただそれだけの世界。
そこの道路を一台の車が突っ切ってゆく。中には2人の男。
なぜ砂漠に道路が? そんな事を考えていたらこの世界では生きてはいけない。よく考えれば飛行機とかいう鉄の塊が空を飛ぶのもおかしいだろ? それと同じだ。無理矢理に聞こえるのは気のせいだ。
その車の中からは何やら音楽が聞こえてくる。歌っているのは最近話題沸騰中のアイドル「島谷☆あやや」だ。
曲は「亜麻色の片思い」。中の男はそれをノリノリで歌っている。
「亜麻色の〜片思い〜♪」
「銀狼さん。気持ち悪いんでやめてもらえますか?」
「何だとッ!」
「運転してんのは俺ですよ? 事故ってもいいんですか?」
歌っていた男はブスッと顔を膨らませて、歌うのをやめた。明らかに不機嫌だ。
さっき歌を歌っていた男の名は坂下銀狼(さかした ぎんろう)。犬のような少し長めの八重歯に鮮やかな銀髪。髪の色とは正反対の金色の目の二十歳くらいの男だ。スマートな体型で腰にはボロボロの銃が一丁結び付けられている。
先ほど銀狼にツッコミを入れた敬語の男の名は一二三麓(ひふみ ろく)。 16〜8歳くらいで、黒い髪に黒い目でなんとなく、冷めた目をしている。
鼻は常人より高く、口はやや小さい。行く人を振り向かせるほどの美形だ。武器のような物は一切持ち合わせていないようだ
「で、銀狼さん、街はどっちですか?」
「あ〜ちょっと待ってくれ……」
銀狼は荷物から地図を取り出し街の方向を確認する。
「このまま、ずっと北だ」
「わかりました」
「着きませんね……」
「おかしいな……」
二人はあの後ひたすら北へ進んでいた。しかし、見えてくるものは見渡す限りの砂砂砂……
おかしいと思った銀狼は再び荷物から地図を出す。
「あ!」
銀狼は地図を見てあることに気付く。
「悪ぃ、さっき地図逆さまだったみたいだ。つまり街の方向は南だ」
照れたように舌を出しながら銀狼は言う。
「このウスラバカが……」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ、何も言ってませんよ」
笑顔で銀狼に答える。
「そうか。なら気を取り直して街へ向かおうぜ」
「了解です」
麓は深〜〜いため息をついて、今までと逆の方向に向きなおり、街への道をひた進む。
「やっと着きましたね……」
「おぅ」
二人はようやく街に着いた。
着いた時にはもう夜になっていた。しかし、あたりは昼間同様に賑やかで、旅人の二人を物珍しそうに道行く人は眺めていた。
「で、まずどこに行くんですか?」
「まずは、武器の調達だ」
「武器?」
「あぁ、最近砂漠の旅で痛んできたからな、新しいの買っとこうと思ったんだよ」
二人は賑やかな商店街を抜け、路地裏のひっそりとしたところにある武器屋に向かった。その場所では商店街の人の声もどこか遠くに聞こえた。
武器やらしい仰仰しい入り口をくぐり二人は中に入る。
中には様々な銃、刃物、爆弾など多くの武器兵器が置いてあった。麓は品揃えの多さに感心する。
「いらっしゃい。何をお求めで?」
中に入ると店の主人が愛想良く出迎えた。
「マグナムのV23ってある?」
武器屋の主人が顔をしかめる。
「あるにはあるが……。オイ兄ちゃん、あんたが使うのかい?」
「あぁ、当たり前だろう?」
「悪いことは言わねぇ、やめときな。マグナムは今V42まで出ているがその中でも23は一番破壊力、威力が強い。その分コントロールするのが異常に難しいんだ。あんたみたいな奴に使いこなせるとは思えねぇな」
「ビッグなお世話だぜ。あるんならさっさとよこしな」
銀狼は主人をにらみつける。主人は不満顔でマグナムV23を取り出した。 この店に来るのは荒くれ者ばかりだ。そのため主人は客には素直にしないといけない。でないと殺される恐れもあるからだ。
「ホラよ!」
銀狼は主人が乱暴に投げたマグナムを受け取る。主人はまだ何かブツブツといっていた。
「しつこいヤローだな。なんなら俺の実力を証明しようか?」
銀狼は隣にある射的場を指差す。
「おもしれぇ。やってみな」
銀狼は主人と共に射的場へ行った。
射的の的はダーツの的のような真ん中に行くほど点数の高くなる的だ。
銀狼は主人と麓の見守る中、的に狙いをあわす。
鋭い轟音、マグナムV23から弾丸が飛び出す。その弾はキレイに的の中心に当たった。
「どうでぃ?」
銀狼は驚いて口をあんぐりと空けている主人に言った。
そして、続けてもう3発的に弾を撃った。しかし、的には弾の痕はつかなかった。
全ての弾が一発目の当たった所に当たったのだ。ものすごいコントロールだ。
「………………フ、フフフ…ハーハッハ。おもしれぇ、お前気に入ったぜ」
主人が銀狼の肩をがっしりと掴む。
「あんた、すげぇ使い手だな。気に入った。マグナムの弾100発タダでプレゼントするぜ。武器は強い奴に使われるのが本望だからな。」
「本当か? サンキュー!」
二人はすっかり意気投合して、肩まで組んで色々な事を語り合った。
その光景を見て麓は首を振り、ポツリとつぶやく。
「すっかり意気投合してるし……単細胞(バカ)は単純でいいですねぇ……」
二人はその晩、遅くまで飲み明かしたという。
第2話.金欠二人組み
夜が明けた。太陽が顔を出し、あたりは徐々に明るくなっていく。
ここは武器屋。店の主人とすっかり仲良くなった銀狼は昨晩遅くまで飲んでいた。
「う〜ん、二日酔いだぜ。頭が痛い……」
頭をさすりながら早くに目が覚めた銀狼は布団から出てきた。
「昨日、あんなに飲むからですよ」
「そんなこと言われても……そういえば麓ちゃんはまだ酒飲めないんだっけ? 一度飲んだら忘れられないよ、酒の味は」
「そんなことよりも、まだここにいるんですか?」
「そうだな……これ以上居たらあのおっさんに迷惑がかかるかもしれないしな……。金は払ったんだしそろそろいくとしますか」
銀狼は荷物を持って、立ち上がると、玄関に向かった。
その様子を店の主人は見ていた。本当は銀狼よりも前に起きていたのだ。
「行ったか……“これ以上居たらあのおっさんに迷惑がかかるかもしれない”……か。なにが“生きていてはいけない者”だ。全然普通の人間じゃねぇか……」
主人は再び布団に体をもぐりこませる。
「そういえばあの『銀色の狼』もマグナムV23を使ってたって聞いた事があるな……」
「腹が減ったな。あのおっさんの家で食ってくりゃよかったぜ」
銀狼はチッと舌打ちをした。
「というわけで麓、なんか喰おうぜ」
「あのですね銀狼さん。先日の武器購入やらなんやらで金がもうないんです」
麓は空っぽになった財布を振りながら言う。
「そんなバカな! あんなにあっただろ?」
「ですが、マグナムV23は思ったより高かったようですね」
「マジかよ……」
銀狼はそう呟いて、商店街の道に大の字で横になる。
その姿を見て、朝早く起きた商店街の人はクスクスと笑っている。
恥ずかしかったので麓はそのまま銀狼を引っ張っていった。
「やめてくださいよ。恥ずかしいじゃないですか」
「だってよ〜〜」
銀狼は腹をさすりながら、いじけた声を出す。
その時金をもうける方法を思いついた。なんだ簡単じゃないか
「麓! いい事思いついたぞ! 金を儲けるあてがある!」
「銀狼さんのいい事って、どうせ大した事じゃないんでしょ?」
麓はなんら信用する様子もなく話を聞こうともしない。
「いいから来い!」
今度は銀狼が麓を引っ張っていった。
「ここですか? そのお金のあてってのは……?」
「おう。ここで勝てば金がたんまりよ」
麓はやっぱりいい事じゃなかったとため息をつく
朝早いのに異常な盛り上がりを見せるこの場所。
街の外れから入れる地下にあるこの場所の名は『カジノ』
当たれば一獲千金、負ければ大損、まさに人生を左右する場所。
銀狼と麓はそこの入り口に立っていた。
「じゃあ、二人分かれてやるぞ。あとでまた会おう」
「ちょ、ちょっと銀狼さん……行っちゃった」
銀狼はスキップをしながらスロットへと向かっていった。
「あんなこと言われてもなぁ……俺カジノなんか来たことないし……」
麓がウロウロしていると、テーブルでなにかやっていた。
カードゲームのようなのでとりあえず近くによって見る。
「これは何ですか?」
ルールをディーラーに聞く
「んあ? これはポーカーさ。決まった絵柄をそろえて、相手より自分の手札が強ければ勝ちと言う単純なゲームさ」
「へぇ、面白そうすね……とりあえずやってみますか」
麓はテーブルに着く。
その頃、銀労はと言うと、スロットの前で一生懸命戦っていた。
「だぁ〜畜生! 何で揃わねぇんだよ!」
まだ一度も揃わないスロットを銀狼はガンガンと叩く
「きっと、台が悪いんだ。台を変えよう」
こう言って台を変えるのはこれで8回目である。もうすでに台の所為に出来るレベルではない。
「ここならば!」
しかし、しばらく粘っても一向に揃わない。
その時、さっきまで居た台に別の客が座った。
銀狼は横目でチラチラそれを見る。
(かわいそうに……あの台は全然あたんねぇぜ)
「やったー! スリーセブンだ!!」
銀狼は思わずずっこける。スリーセブン――スロットで一番の大当たり――さっき居た時にはまるで当たらなかった台が……
「えぇい! もうやめだ! やめだ! つまらん!」
銀狼は怒ってスロットを後にする。
何をしようか考えていると、ポーカーのテーブルのあたりに人だかりが出来ていた。
なんだろう、とそばによってみる。
「なんなんすか? この人だかりは」
外側にいた紳士服を着た男性に話しかける。
「あぁ、ものすごく強いポーカーの人がいるんだよ。皆それを見てるのさ」
「ふ〜ん」
面白そうだと思い、中に入り見てみる。
「フルハウス!!」
対戦相手の男がカードを出す。
対戦相手の男は勝利を確信した笑いを浮かべる。
しかし、そのもう一人の男もフフフと笑う
「ロイヤルストレートフラッシュです」
男がカードを並べる、対戦相手の男は悔しそうに金を差し出す。
しかし、見覚えのある顔だ。しかもあの口調……もしかして!!
「麓ーーーー!!!???」
「あ、銀狼さんじゃねぇすか。どうしたんですか?」
「どうしたんですか? じゃないだろー! お前なんでそんなにポーカー強いんだよ!?」
「………さぁ?」
銀狼はまだ何かを言おうとしたが、テーブルの麓の席にある金を見て思いとどまった。
「その金お前の・・・?」
「そうですよ」
「………」
銀狼は思った、自分は一円も手に入れてないのになぜこいつだけ、と銀狼は麓に異常な対抗心を燃やした。
「ちょっと待ってろよ! 今お前より稼いできてやるぜ」
猛烈な勢いで銀狼はスロットへと向かっていった。
数分後、二人はカジノから出てきた。
銀狼は下を向いて、かなりへこたれているようだ。
「銀狼さん、元気出してくださいよ。俺は今回たまたま運がよかっただけですよ」
「同情はいらねぇ……負けは負けだ…」
「銀狼さ〜ん……」
麓は途方にくれていた。銀狼は泣きそうだった
第3話.『情報屋』喜助
「では、そろそろ話してください。この街に来た目的を」
「フガ?」
注文した焼き鳥をほおばっているため変な声を出す銀狼。
二人は今、商店街の食堂に来ている。銀狼は大の鶏肉好き。客は多くもなく、少なくもない、まだ昼前だから仕方ないが。
中には二人先に客が座っていた。厳つい男だ。銀狼たちが中に入ってきたとき、睨まれたので麓はチラチラとそっちを見ていた。
「なんでだ? この街に来たのは武器調達と……」
焼き鳥を飲み込み普通に話すが、途中で麓が制す。
「とぼけないで下さい。ここ数日夜中に家を出てどこかへ行ってるのを俺が気付いてないと思ったんですか?」
「何だお見通しか……できるだけ一人で行きたかったんだがな……」
銀狼は言うべきか言わざるべきか悩んだ様だが、麓を信用し話し出す
「黙ってて悪かったな。実はこの街には俺の友達の『情報屋』がいるんだ。そいつがなんか物騒な情報を手に入れたって言うからな、こうして来た訳だ。けど、場所が判らないからここ数日、探してたわけだ。まぁ、見つかったがな。」
「じゃあ、早速行きましょうよ」
「まぁ、そう焦るな。スイマセ〜ン、焼き鳥4本追加お願しま〜す」
『情報屋』喜助。裏の業界ではかなり有名な男。
頼めば何でも調べてくれる、しかし、その内容によっては法外な額の料金を取る事もある。
知り合いに不利な情報があればタダでも教えてくれる人情派でもある。
二人が知り合ったのは4年ほど前、情報調べに失敗し、敵にやられてボロボロに負傷していた喜助を介護してからの付き合いだ。
「よ〜喜助」
「ひっさ〜銀ちゃん!」
二人は抱き合う。結構長く銀狼と付き合っている。麓もこのような光景は始めてみる。
「貴方が喜助さん?」
おずおずと麓が尋ねる。
「そう、俺が森上喜助(もりかみ きすけ)一応情報屋をやっている男だよ〜ん。君は一二三麓君だね? 守野村出身の18歳。IQが人一倍高く確か140だっけ?こないだカジノで大儲けしたらしいね」
その後も喜助は麓の様々な事を話し出した。
「へぇ〜スゴイですね。情報屋ってそんなに何でも知ってるんだ」
「いや、まぁね。スーパーインフォーマーと呼んでくれ!」
喜助は親指を立ててグッドのポーズを取る。
「で、何なんだ? 俺への忠告って」
「………」
さっきのふざけた時と違い、真剣な表情で話し出す。
「なんでも、あの犯罪集団『ククロル』がお前を狙ってるらしい…」
「な!!?」
ククロル――最近成り上がってきた犯罪集団。過激派犯罪集団といわれ殺しや爆弾などの犯罪行為を行なう。
しかも、テロなどの理由はなくただ面白おかしく世の中を滅茶苦茶にしたいため犯罪を犯す最低な集団である。
「バカな! なぜ俺が狙われなければならない?」
珍しく感情を丸出しにして、喜助に聞く。
「それは君の生い立ちに関係しているだろう……」
「!!」
「残念ながら世間には君達をまだ“生きていてはいけない者”という者達もいる。いや大半はそうだ。君はまだ、外見には出ていないから人間界にもいられるんだろうが……中には君を見破るもの達もいるというわけだ。」
「クソッ!! 何が“生きていてはいけない者”だ!俺たち自体は何もしていないだろう!!」
銀狼は悔しそうに、喜助の机を蹴り飛ばす。
喜助は冷静にそれを元の場所に直す。
「悲しいが人とはそういうものなのだよ。自分と違う者を受け入れる器が極端に狭い生き物なのだ。」
「…………」
「まぁ、くれぐれも気をつけてくれ。奴らは君を狙っているのだから。」
「あぁ……貴重な情報どうもな」
軽く礼を述べ、銀狼は足を引きずるようにズルズルと帰っていった。
住んでいるアパートに帰るまで銀狼はずっと一言もしゃべらなかった。
麓は声をかけようにも何を言えばいいのか思いつかず、そのまま黙っていた。
二人は住んでいるアパートの部屋についた。
小さなアパートの3階の端の所だ。小さなところだが、安く、見晴らしもいい。が、その分あまりキレイとはいえない。しかし、背に腹は変えられない。
だけど意外になかなか気に入ってる。
「はぁ――……」
深く溜息をついて、銀狼はベットに横になる。
しばらくブツブツと何かを言っていたがやがて寝たようだ。
銀狼は夢を見た。
幼い頃の夢だ。
「皆大変だ! 人間の兵隊が襲ってきた!!」
銀狼が昔棲んでいた山奥の集落は一気に混乱に陥った。
人間がとうとう銀狼達の住処を見つけて襲ってきたのだ。
その混乱の中、銀狼の家族は離れ離れになった。
銀狼は秘密の隠れ家に身を潜め、助かった。
村に戻って見た物は数え切れない仲間の死体死体死体・・・・・・
自分は泣いていた。燃え尽き、ほぼ炭になった自分の家に行き、自分の部屋、そして母の部屋へ行き出てくるはずのない母の名前を何度も呼んだ。
何度も何度も何度も……
夢はそこで終わった。
「ファ〜……」
目が覚め頭がボ〜ッとしている。
ぐっすり眠ったのに気分は最悪だ。
「嫌なもん見たな……気分最悪だ…」
銀狼が起きたのを気づいて、玄関口の麓が言う。
「あ、銀狼さん。今からちょうど買い物に行こうと思ってたんですよ」
「いいよ。俺が行ってやる。なんか気晴らししたいしな…」
そういって銀狼は起き上がり、玄関に居る麓から買い物袋と財布を受け取り外に出る。
「珍しいな……」
銀狼は今しがた見たことを忘れるために早足で去っていった。
第4話.麓がいない
「銀狼さんまだかなぁ……お腹減ったなぁ……」
そのとき玄関からチャイムが鳴った。
「おい、帰ったぞ。」
銀狼の声だ。麓はなぜ普通に入らないのかなんら疑問に思わず玄関に向かう。玄関のチェーンを開け、外に居る銀狼を迎え入れる。
「やぁ」
玄関に立っていたのは、銀狼ではなかった。まったく別の男。麓は何がなんだかわからず、その場に立ち尽くしていた。
玄関にいる怪しい男は麓に何かを投げつける
「!!?」
水風船のような物だ。もちろん中には水など入ってない。中に入っていたのは恐らく何かの薬品。水風船は麓に当たり、中に入っていた薬品が麓にかかる。麓は意識が朦朧としていった。
倒れた麓を担ぎ、男は表に停めてあった車に乗り込む。玄関に何か手紙を残して。
「麓、帰ったぞ!」
買い物を終え、帰ってきた銀狼。色々と頼まれていたため、荷物はかなり重い。麓を呼んで一緒に運ぼうと思ったのだが、返事がない。
「麓?」
その時、玄関の床に落ちている手紙に気付いた。麓が置いて行ったのだと思い、それを拾って読む。手紙はこう書かれていた。
『坂下銀狼へ
お前の相棒は預かった。返して欲しかったら、明日の正午までに俺たちのアジトに来い。一秒でも遅れたり、味方を連れて来たりでもしたら、どうなるかわかってるよなぁ?じゃあ、あばよ。明日を楽しみにしてるぜ
正義の使者:ククロル:』
銀狼は手紙をぐしゃっとつぶす。
「ふざけやがって!! 何が正義の使者だ。自分のアジトの場所も教えずに。」
銀狼は今まで見たこともないような顔で、一言呟いた。
――殺してやる――
「喜助!」
寝ていたらに突然誰かが尋ねてきた。『情報屋』喜助は眠そうな顔をして目を擦りながら玄関に向かった。正直迷惑だが、不満そうな顔で出て行ったら客に迷惑なので、精一杯顔を作る。
「はいは〜い、どなた?」
玄関口にいたのは急いで走ってきて肩で息をしている銀狼だった。
「ぎ、銀ちゃん!!? どうしたの? そんな格好で」
「話があるんだ……」
「と、とりあえず中に入ってよ。」
喜助は銀狼を家に入れる。
喜助に出された温かいお茶を飲んだら少しは気分が落ち着いた。
お茶からはハーブの匂いがした。それがより一層心を落ち着かせた。
「――で、話しって何?」
「仲間がククロルに拉致られた。奪い返しに行く。場所を教えろ」
「な!?それ、本当?」
「あぁ、家に帰ったらこんな手紙があった。」
銀狼が怒って潰したので手紙はしわだらけだった。喜助はそれを読み終わると溜息をついた。
「まったく、ククロルに気をつけろ、って言ったでしょ? 何でこの子を一人にしたの?」
銀狼はそれを聞くとバツが悪そうに下を向いて答えた。
「………すまん。嫌な夢を見てな、一人で散歩したかったんだ…」
喜助はもう一度溜息をついた。
「まぁ、もう良いよ。ククロルの場所だけどね、ここから南西に300`の地点にある海に面した工場だよ」
「300`!?」
銀狼は自分の腕時計で今の時間を確認した。
今の時刻は9時半。300`ということは時速100`で飛ばしても3時間はかかるということだ。つまり車では間に合わない。
「彼らは最初から君の相棒を殺すつもりで、無理な時間を要求したようだね。さて、どうする?」
「チッ…久々に“あれ”をやるしかないか……」
銀狼はあまり手をつけていなかったお茶を一気に飲み干す。
少しぬるくなっていたが、それでも少し落ち着いた。銀狼は行こうとする。
「ククロルは全部で約200人の集団らしいよ。気をつけてね。」
「おぅ、ありがとよ」
「―――どこだ?」
麓はどこか工場のようなところで目が覚めた。目覚めは最悪。気分も最悪。何か吐きそうな感じだ。
なぜ、自分がここにいるのかしばらく判らなかった。しかし、頭に電源が入ったように急に思い出す。
「そうだ! 俺は変な男になんか風船みたいな物を投げられて、気絶したんだった。ここは……どこかなぁ」
周りを見わたすも、やはり来た事のない場所だった。
自分も縛られているし、たぶん誘拐されたのだろう。
その時、前の方から男がやってきた。
「よぅ、気分はどうだい?」
「最悪ですよ。」
「ハッハッハ違いねぇ。お前は坂下銀狼の仲間だな?」
麓は答えずに男をにらんだ。
「ふん、まぁいい。」
「俺を誘拐して何をたくらんでいるですか?」
「お前を餌に坂下銀狼をおびき寄せ、殺す。これが我々の計画だ」
「!!!」
麓は驚く。
「あいつには、今日の正午までに来ないとお前を殺すと言っておいた。今は10時。お前らの家から、ここまで正午までには確実に来れない。つまり、お前は絶対死ぬということだ。」
「いや、銀狼さんは絶対正午までに来てくれる!!」
何も保障はないが、麓は男に向かって大声で言った。
「フン! まぁ、正午になれば判る事さ。約束だからな、正午まで、お前は生かしといてやる。俺は優しいんだ。」
男は右の方にある部屋に入っていく。
入ったと思ったら、少しドアを開け顔を覗かせる。
「せいぜい奴が来るよう祈ってるんだな。」
男はドアを閉じた。
広い工場の中にいるのは麓唯一人となった。
続く→
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2004/06/17(Thu)20:41:16 公開 / 九邪
■この作品の著作権は九邪さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
どうも〜。九邪です。
次あたりにバトルシーンを入れようかなと思います。
けど、試験近いんで更新遅れそう……。
卍丸さん>自分はそんな大層なこと考えてませんが、そんな感じになっているのであれば、嬉いです。
ファンタジーは書いてて楽しいです。次あたりに恋愛物もまた書いてみたいです。
次もぜひ読んでください
メイルマンさん>ご指摘ありがとうございます。全然不快になど思いません。とてもありがたいです(^^)
幾つか直してみました。しかし、どうも僕は容姿の描写が苦手です……。
ぜひ、また読んでください
DQM出現さん>素晴らしいといわれ、かなりカンドーです。
毎度DQMさんはボクの作品を読んでくれるので、とても嬉しいです。
「死のうとした男〜」は少し続きが行き詰まりまして、続きが思いつきましたら書きたいと思っています。
楽しみにしていてください。
その間はこの作品をぜひ読んでください
読んでくださった皆様、感想、アドバイスなどお願いします。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。