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『サボテン』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:九邪
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皆さんは『サボテン』を知っていますか?恐らく知っているでしょう。ポピュラーな植物ですから。
サボテンはトゲだらけで、怖い植物というイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。
サボテンにはお花が咲くのです。きれいで小さなお花が……
【読みきり作品】〜サボテン〜
「仙人さん……」
「あん? なんか用かよ?」
「あ、あの今日の掃除当番……」
「うっせんーだよ! そんな事お前らだけでやれよッ!!」
凄みを利かせて怒鳴りつけると、彼女たちはすっ飛んでいった。
今、怒鳴りつけていたこの名前は仙人 掌(せんにん たなごころ)女である。
クラス、いや、この辺りの高校一の不良であり、彼女の行く所、行く所に事件が付きまとう。教師も歯が立たず、相手にしてない(というか、できない)そのため、自由気ままな毎日を過している。
しかし!そんなどうしようもない不良に思いを寄せる少年がいた。
「仙人さーーん!!」
猛烈な勢いで、向こうから走ってきたのは逆瀬泰三(さかせ たいぞう)仙人に思いを寄せる現役の高校生。一風変わった好みだが(彼は決して変態ではない)それには訳がある模様。
「仙人さん。お昼、一緒に食べない?」
「あん? なんで俺がお前みたいな奴と飯食わなきゃならないんだよ!?」
今日もふられる。毎日がこんな様子である。
「だめだよ。女の子が「俺」なんて言っちゃ。せっかく可愛い顔してんだしさ。」
「なな、何言ってんだよ! バカじゃねぇのお前!」
顔を真っ赤にして仙人はうろたえる。こういうところは女の子っぽいのだ。
「いや、本当だよ。笑えばきっと可愛いよ」
泰三はニコニコと笑いながら言う。
「ヘラヘラ笑ってんじゃねぇよ! 気持ち悪ぃんだよッ!」
一発、泰三の顔に張り手をかまし、仙人は一目散に駆け出した。泰三はぶたれた頬を押さえながら
「う〜ん、今日もふられちゃったなぁ」
「おい、泰三。お前、今日も仙人にアタックしたんだって?」
「うん。まぁ、いつも通りふられちゃったけど、俺は諦めないよ!」
休み時間、クラスの中で泰三は友達に囲まれて喋っていた。泰三はその笑顔、明るい性格、優しさからクラスの人気者だ。女子生徒にも人気はある。
だからこそ、なぜ仙人なんかにアタックするのかが皆疑問に思っていた。
「お前もいい加減諦めろよ。あんな不良のどこがいいんだ?」
「それは――」
泰三が何か言おうとしたとき、ドアを勢いよく開けて仙人が入ってきた。クラスのみんなはそれを見て静まる。泰三を除いて。
「あ、仙人さん。今度映画見に行かない? 今面白いのが――」
泰三が言い終わる前に、仙人が泰三の胸倉をグイッと掴んだ。
「いい加減にしろよ!! 目障りなんだよ!」
仙人は泰三を投げ飛ばした。泰三は机に当たった。大きな音をたてて、机が倒れる。
「何なんだよお前は! いちいち話しかけてきやがってよ。なんだ? こんな女不良が珍しいからか? そういうの、マジむかつくんだよッ!!」
仙人は自分の机に行き、荷物をまとめる。そして、クラスから出る。去り際に一言こう言った。
「何の悩みもない奴は、幸せそうな顔で人を傷付けるんだよね。俺、お前みたいな奴、嫌いなんだよ」
「――!」
クラスから去っていく前任を観て、しばし泰三は呆然とする。友達が呆然とする泰三に手を貸し、泰三を起こす。
「な、判ったろ? あーいう奴なんだよ。」
泰三はボーっとした顔から戻り、荷物をまとめ始めた。
「僕、行くよ。今の仙人さん、なんか変だった。きっと何かあったんだよ。」
友達が止めるのも聞かず、泰三もクラスから飛び出していった。
別に、ただ何となく、とか気まぐれで彼女を好きになったわけじゃないんだ。僕が彼女に惚れたのは確か2ヶ月前の、雨の日のこと――
その日は雨が降っていて、それはもう土砂降りで、洪水になるかとも思ったくらいだ。僕はその日、バスケ部の帰りで、家に向かっていた。
「どこに行〜くのこんな雨の中〜♪ それはボクの家で〜す♪」
ポルノグラフィティのサボテンのわけのわからない替え歌を歌いながら、僕は家路を急いでいた。
「おんや? あれはなんだろう?」
通り過ぎそうだった公園の中に何かが置かれていたる。近づいてよく見ると、それは子犬を入った段ボール箱だったんだ。捨て犬だ!
「大変だ。助けなきゃ! けど、今はタオルも何も持ってないし……、早く家に帰ってもう一度来よう」
僕は子犬を助けるため、一度家に戻った。
家に帰った僕はまず、ぬれた子犬を拭くためのタオルと、ミルクを出し、それらを抱えて、もう一度公園に向かった。
急いで、やって来たので僕は息を切らしていた。しかし、その間にも子犬は体温を奪われ、どんどん衰弱しているのだ。僕は尚も急ぎ走った。
公園について、子犬の元に駆け寄ろうとしたら、すでに誰かが子犬の側にいた。見ればそれは女の子だった。子犬を抱き上げ、子犬に向かって優しく笑いかけたあと子犬を抱いたままどこかへ行った。
その時だと思う。彼女に惚れたのが。子犬に向かって優しく微笑む顔が、たまらなく可愛かった。
後に彼女が自分と同じ学校の生徒で、とんでもない不良だと知った。
これが僕が彼女に惚れた理由だ。
「どこに居るんだろう……?」
泰三は勢いに任せ、飛び出して来たはいいが、肝心の仙人の場所が全く判らなかった。
「どこだろうな……。! もしかして」
泰三は駆け出した。あこしかない。泰三が始めて、仙人掌をしった、あの場所しか――
泰三が来たのはあの雨の日来た公園だった。泰三は仙人がいないか探した。予想通りそこに仙人はいた。
「仙人さん……」
「! ちっ、またお前か……」
仙人は泰三に気付き、舌打ちする。
「仙人さん、どうしたの? なんか今日変じゃなかった? 何かあったの?」
「本当にお節介な奴だな……」
仙人はくるりと振り返った。泰三と目が合う。
「案外鋭いな。なんで判ったんだ?」
否定するかと思っていたら、素直に認めたので泰三は驚いた。
「別に……。なんかどことなく淋しそうだったからさ」
「的を得てやがる……。原因はこれだよ」
仙人さんは泰三の後ろの地面を指差す。そこにあったのは、盛り上げられた土だった。なんなのか仙人さんに泰三は尋ねる。
「墓だよ。飼ってた犬の……」
飼ってた犬と言うのは多分、2ヶ月前にここで拾った子犬の事だろう。泰三が慰めようとする前に仙人は話しはじめた。
「俺さ……小さい頃に母親が家から出て行ったんだよ。原因はわからねぇ。ただ、俺が関係してたらしい。親父は母が出て行ったショックで酒びたりの毎日。俺に毎日のように当たってたよ。「お前なんか生まれなければよかったんだ!」てな……」
泰三は黙って聞いていた。
「んで、俺は家を飛び出した。そっからかな俺がグレ始めたのは。でけぇ顔して、威張り散らしてたら、いつの間にか友達がいなくなっちまってた。そして、いつの間にか親父は死んで……俺は本当に一人ぼっちになった。」
仙人は悲しそうに、チラッと子犬の墓を見た。
「だんだん、一人が淋しくなってさ。ひょんなことから犬を飼うようになった。いつの間にか一番の友達になっていた。けどそいつまで死んじまって……。俺はまた一人になっちまった」
そこまで言い終わると、仙人は泣き崩れた。
「一人じゃないよ」
泰三が言った。仙人は泣くのをやめ、泰三を見る。
「僕が友達でいるよ。」
泰三は仙人に手を差し伸べる。
「……」
仙人はその手を取り、立ち上がる。
「本当に、俺みたいな奴と友達でいてくれるのか……?」
「あぁ、もちろん!」
「なんで? 一体なぜ?」
泰三は顔を赤くして、顔をぽりぽりと掻き言った。
「君のことが好きだから」
仙人は口を開け、ポカーンとしていた。やがて、我に返った。
「ハ、ハハハハ。」
仙人は大声で笑った。嬉しくて。生まれて始めてもらった言葉がただ嬉しくて。
「うん、やっぱりそうだ」
「あん? 何がだよ?」
「仙人さんは笑うと可愛いってこと」
仙人は笑うのをやめ、顔を赤くした。
「仙人さんは、『サボテン』だよ。トゲトゲしてて痛そうだけど、キレイな花を咲かす。花が咲くと、笑うととてもきれいなんだよ。」
「何だそりゃ?」
「まぁ、いいじゃん。さ、帰ろうよ。学校に」
もう、日は沈んでいた。辺りは暗くなり始めていた。そんな中二人は並んで学校に戻っていった。
「ねぇ、仙人さん」
「あん? なんだよ?」
「学校行ったら、みんなに謝ってみんなと仲直りしようね」
「な、なんで俺がそんな事を」
仙人はうろたえる。今まで人に謝った事などないから。
「だめ、ちゃんと謝りなさい」
「判ったよ!けど、その命令口調、気にいらねぇんだよッ!!」
仙人は泰三の頭を殴った。泰三は「痛いなー」十文句を言った。
二人は笑いながら学校に戻っていった。
まだ、仙人はトゲの方が目立つサボテンだが、いつかきっと、立派な花を咲かすに違いない。
【完】
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2004/06/02(Wed)20:16:00 公開 / 九邪
■この作品の著作権は九邪さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
どうもーー!!九邪です。
思いつきと感性で書き上げた小説です。
いや〜ショーとって難しいですな。こんな短い中で、恋愛物を書くなんて、大変でした。
ショートをたくさん書く卍丸さんはやっぱりすごいと再度思いました。
この作品はポルノグラフィティのサボテンを聞きながら思いついたものです。
なんか、変なところなど多々あると思いますが、どうか見てやって下さいませ。
この話に出てくる仙人掌(せんにん たなごころ)は本当はサボテンと読みます。変換したら出ると思いますよ。
逆瀬泰三は逆瀬泰三→さかせたいぞう→(サボテンの花を)咲かせたいぞう
と言う具合に考えました。気付いた人結構いそうです……。
読んだ人は感想など書いてくれたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
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