『夏始夏終―二人の夏―(完)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:千夏                

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日光が直に当たって、熱い。当たり前か、夏なのだから。私は今砂浜の上で寝転がっている様だ。まぶしいながらも目を開ける。晴天の青空だけが目に映る。
「ここ、どこだろう」
思わず口に出してしまった。まあ良いか。誰も聞いてはいない。
と、遠くのほうから声が聞こえる。「大丈夫か」という。どうやら走っているらしい。ザッザッという足音がみるみる内に近くなっていく。近く、近く、近く・・・。
目の前に光りがなくなった。と思ったら男の子・・・いや、私と同じくらいだろうか。私と同じくらいと思われるその少年が私を覗き込んでいる。彼は一人でぶつぶつ言っている。
「大丈夫じゃない?どうしよう?どうしりゃいいんだ?目、開いてるけど・・・」
あぁ、そうか。この人私のこと心配してるんだ。
私はとりあえずこれ以上心配させまいと思って重たい身体を起こした。そして言った。
「すいません。全然平気」
彼はびっくりしてから安心したように「良かった」と言った。笑った顔はとても幼く見える。
「大丈夫でしたか。こんな所で、どうかしたんですか?」
「ねぇ、ここって何処?」
言ってから気付いた。情けない。ここは何処だ、だなんて。
沖縄だ。私は昨日、東京から引っ越してきたのだ。父親が探し物を探す為に。
彼は少し間があってから思いついたように言った。
「もしかして、岬真紀さんですか?」
「なんで知ってんの?」


びっくりした。なんで知ってるんだ。この人。
彼は「いや、あのね」と言ってからもう一度言った。
「俺、岬さんの隣りに住んでる宮川ジョウです。ジョウは片仮名・・・って、何言ってんの俺」
彼は照れながら笑っている。可愛い人。
「そうなんだ。良かった。ねぇ、私、真紀でいいよ。っていうか、真紀の方がいいから。私はジョウって呼ぶし。片仮名のジョウ」
「片仮名の」に力を入れて言った。可愛い人なのでからかったのだ。彼は言った。
「止めて。あー。でも良かった、マジ。ちょっとどんな人が来るのかドキドキしてたんだよね。だから真紀さんみたいので良かった。これからよろしく真紀さん」
にっこりして言った。私もつられて笑ってしまった。
「よろしくジョウ。ねぇ、ジョウって幾つ?私15なんだけど。14,5くらい?」
ジョウはいきなり馬鹿笑いした。なんで笑ってるんだろう?私はそんな面白いこと言っただろうか。
「アーッハッハッハ、ヒィー!!ウケた、今のウケた!!マジで俺15に見えるわけ!?アヒャヒャヒャヒャ」
変な笑い方。こっちまで笑えてきちゃうよ。
「ハーッハハハ!もう笑うの疲れちゃったよ。っていうか本気で言ってる?俺が15とかって」
「本気も何も。見たまんまのこと言ってんだけど」
ジョウは笑いながら驚いている。実際のところどうなのだろうか。ジョウは本当に14,5じゃないのだろうか。見た限りではそれくらいだ。背は私と同じくらい・・・それより少し下で、肌は黒と肌色の間くらい。髪は茶色。染めてるんじゃなくて日光に当たってなったように見える。
ジョウは言った。
「俺ねぇ、16なのよ。これでも。もうすぐ17だし」
「16!?っていうか17!?有り得ないんだけど」
思わず言ってしまった・・・。怒るだろうか。怒るよな、そりゃ。年下にそんなこと言われたら・・・。
「有り得ないなんて言わないで。背はこれから伸びるし。最近グンッて伸びたんだよー?真紀さん酷い」
私は申しわけないので「ごめん」と言った。するとジョウは笑って「ヤダ、冗談なのに」と言った。こっちは良い迷惑だ。
それから、いろんな話しをした。その間に日が暮れて来た。私とジョウは今日はとりあえず帰ることにした。なので家まで一緒に帰ることにした。
家の前に着くと、ジョウと私は最後に言った。
「バイバイ、ジョウ。また明日。忘れないでね?」
ジョウは笑って答えてくれた。
「忘れませんよー?とか言って真紀さん先に忘れてたりして」
私は平手打ちをお見舞いしてやった。もちろん、全身の力を入れて。
「ごめんごめん。ウソですよ。んじゃ、明日ね」
手を振って家に入った。
私は一言「ただいま」と言って自分の部屋に直行した。眠くなったのでもう寝よう。父に一言、「おやすみ」と言った。


私の名前は岬真紀。15歳。最近ここ、沖縄に引越して来たのである。
その理由は、両親の探し物、だ。両親二人は何か大切なものを探しているらしい。実を言うと、私はその探し物が何なのか知らない。今まで私に秘密なんてほとんどしなかった二人が、今回のことについては話題にも触れようとしないのだ。それを無理して聞くのは、私の気持ちが嫌なのである。その前に、話してくれるかさえ分からない。
沖縄には父親と来た。母は東京に残って探し、父は沖縄に来て探す。そして私は父親に着いてきたのである。なぜ沖縄なのかも実際のところ知らない。いや、分からないのだ。勝手に解釈すると、手がかりが沖縄にあるのだろうと思う。あくまで予想だが。
今日は土曜日なので学校はお休み。父は今日も出勤。
暇なのでジョウでも誘おう・・・と、思ったその時、
「・・・っだよ!俺だよ!けど帰らねぇぞ!・・・ざけんじゃねぇ!!」
隣りの家からこんな怒鳴り声がする。誰かは分かる。怒鳴ったところなんか見たことないが、それは、まぎれもなくジョウの声だった。
(バン!)
怒鳴り声の次はドアの閉まる音・・・。一体何があったのだろうか。
そう思う間もなく、私の足は玄関に向かっていた。ジョウがあんなになるなんて、そう無い気がする。
靴を履く。上手く履けない。なぜか鼓動が早くなっている。
「くそっ。なんで履けないのよっ」
履けた。ドアノブを回し、勢い良くドアを開けた。
私は言葉を失った。隣りの家を見ると、そこには、私の父親がジョウの家から出てくる姿があったのだ。
私に気付くと、さっと右下を向いた。そして、私に目を合わせた。
「真紀・・・」
私は何がなんだか分からなかった。けど、心の中ではうっすら感じ取っていた。
ジョウを怒らせたのは、私の父親なのだ、と。


私と父はとりあえず我が家に帰ることにした。
(コトッ)
私に気をつかってか、お茶の入ったコップを私の目の前のテーブルに置いてくれた。
「本題に・・・入っていいか」
私はコップを一口飲みながら一度、小さくうなずいた。父の顔を見ずに。
「まず、真紀、隣りのジョウ君をどう思っている。特別な感情とか抱いてたり」
私は本当のことを言っていいか分からないので、嘘をついた。
「どうも思わないよ。ただの友達」
すると父親はほっとした様子でこっちを見てきた。
私はその時、さっき言った事がどういう意味だったかがよく分かった。
私とジョウは、彼氏彼女になることはできない。
「真紀、今日、初めて言わせてもらう。お前には」
私は唾をゴクリと飲んで、父の顔を見た。
「兄がいるんだ。岬、丈という名の」
私は絶句した。ジョウ・・・ジョウって、あのジョウなのだろうか。片仮名なのだろうか。
「ジョウって・・・隣りにいる、ジョウ?」
父は私を見て、首を小さくふった。そして口を開いた。
「分からない。が、多分、片仮名だと言ってるのは嘘だ。丈は漢字だからな。それに、年齢も丈と一致している。そして何よりの証拠が、本人が、納得した」
私はジョウの妹・・・。信じられない言葉に声が出なかった。父は続けた。
「探し物のことだが。捜し物は、丈だったんだ・・・。丈がなぜ家を出たかも聞いた。丈は・・・」
私は目の前が真っ白になった。でも、自分でも分からないけど、足が勝手に動いた。意思とは別に、足が勝手にジョウを探しに外に出ていた。
「丈の出ていった理由は、真紀が原因なんだよ・・・」


サンダルも何も履かずに走る私。はたから見れば変な女に見えるだろう。
私はとにかくジョウと会った場所の全部を捜した。そして、その何処にもジョウの姿は見当たらない。一体何処に行ったのだろうか。私は海に沿って走った。
「ジョウ・・・」
私はジョウの口から本当の事を聞きたくて、とにかく捜した。
もやは足は血だらけになっていた。無理もない。砂利道さえも全力で走ったのだから。
と、走れなくなり砂浜を歩いていた私の目に一つの人影が映った。
「ジョウ・・・。ジョウ!」
私は後姿でジョウだと確信した。私より少し背が小さく、暗くなってきた空に茶色の髪がキラキラしている。
私は最後の力を振り絞って、足がもつれそうになりながらも走った。
「ジョウ!ジョウ!!」
ジョウは私に気付いて、足を止めた。
走って走ってやっとジョウに追いついた。ハァハァ息を切らしながらジョウを見上げる。
「ジョウ・・・」
「真紀さん・・・。どうしたの」
私は笑ってしまった。どうもこうも無いよ。死に物狂いでジョウを捜したのに。
「はは、もうやだ・・・。ジョウ、捜したんだよ。ジョウ・・・。丈、お兄さん・・・」
私はなぜか泣いてしまった。
「ジョ・・・ジョウー・・・。なんでお兄さんなんだよ・・・うぅ」
驚いた。ジョウは、私を抱きしめたのだ。
「真紀・・・。知ってたのか・・・。真紀・・・。・・・真紀、泣くなよ」
私はそう言われた途端にもっと涙が溢れてしまった。
ジョウは私をさらに抱きしめて、微笑み、言った。
「真紀。話、聞いてくれるよね」
私は泣きじゃくってヤバイ顔をジョウの胸に押し付けた。そして、一回、二回、頷いた。


泣き止んだ私とジョウは浜辺に座った。ジョウは、私が泣き止むまで何も聞かずに隣りに居てくれた。
「・・・ごめんね。ジョウ。でもジョウって・・・お兄さんなんだよね」
ジョウは私の目を見て言った。
「真紀。俺が出ていった理由、知ってる?」
知らない・・・。聞くところで捜しに来てしまったのだから。もちろん、ジョウに聞く気でいたわけだし。
「知らない。教えて。なんで出ていったの?」
ジョウは苦笑して私を悲しいような、切ないような目で見てきた。
「俺さ、父さんとかに構ってもらえなくなったんだよ。真紀が産まれた途端、なんか二人とも女の子が欲しかったみたいで、俺のこと見なくなったんだよね。そんで俺、幼いながらに真紀を嫌ってしまって、出ていったの。でも行く手なんて無いし、かなり困ったのね。したら空港に行く途中の、今のおばさんが着いて来るかって言ってくれたんだ。おばさんの息子さんと行く予定だったけど息子さん行かなくなったからって」
「はは、普通着いて行かねぇし」と言って笑っている。私は、悲しかった。こんなにジョウを好きなのに、この恋は実らない事に。こんなにジョウを好きなのに、ジョウは私を嫌ってる事・・・。
「ごめん。ごめん。ごめん。ジョウ、ごめんね・・・」
ジョウは「えっなんで!」などと言っている。なんでって、私のせいで出ていったのに。
「真紀、昔の俺はアホだったの。今は全然ムカついてないよ。全然」
私は本当のことを言った。
「お兄さん。ごめんね。私、会ったあの時から、好きになっちゃったんだよ。優しくしてくれたし。最初は恋愛感情じゃなくて近所の大好きなお兄さん程度だったんだけど、なんか、ドキドキしてたの。仕草とか。会いたいって思ったし」
ジョウは目を丸くして驚いた。そして、またあの、悲しいような切ないような目で見てきた。
「真紀。俺もね、好きだよ。ホント言うと、恋愛感情で。越してくる前に妹が来るって分かってたんだよね。だから嫌おうと思ってた。んで越してきて次の日に会ったじゃん。あの時、誰が寝てるのかと思った。で、見てみたら結構可愛くて、でも、小さい頃の真紀にどことなく似てたんだよ。感じが。だから俺、めちゃくちゃ嫌おうと思ってた。でも無理だった。やっぱ、好きになってしまったから」
ジョウはそう言うと、下を向いた。小さな光りが見えた。
ジョウは、泣いてた。


ジョウは手の甲で涙を拭って私の目を見た。そして言った。
「真紀。俺、家には帰らないから」
私は悲しくなった。
「なんで!私といるの・・・嫌?」
ジョウは苦笑して優しい目になって言った。
「真紀。俺さ、お前と兄妹でいるなんて無理だよ。妹との接し方なんて忘れちゃった。一緒に居たい。けど、多分、俺・・・苦しいんだ」
私はジョウが何を言いたいかはすぐに分かった。すぐに分かったけど、分かりたくなかった。だってジョウと一緒に居たかったし、ジョウが好きだし、たとえ恋人同士にはなれなくても、好きだから。
「嫌だよ・・・。一緒に居ようよ・・・。それか・・・」
私は決死の思いで言った。
「私が出て行くよ」
ジョウは怒った。「俺でいいんだよ!お前は母さん達のそばにいろよ!」と言って。
「真紀は女の子だろ?俺のほうがまだ良いんだよ」
私は口答えできなかった。できなかったけど、しなかった。今言ったのは、お兄さんだったから。
「真紀。今日はもう帰りな。俺は飛び出して来ちゃったから」
「嫌だよ・・・。一緒に帰ろう」
「明日、家に戻るよ。・・・家の前まで送るよ」
私は小さく頷いてジョウと手を繋ぎながら歩いた。
家の前に着いた。来るまで、一言も話さなかった。私もジョウも、疲れていたし。
「ジョウ、明日、絶対に来るんだよ。来てね、絶対」
「・・・あぁ。うん。分かったから。おやすみ」
ジョウと別れた。私は心の何処かで、ジョウは帰って来ないだろうと思っていた。
ドアを開けると、心配していた父親が出迎えてくれた。私は何も言わずに、部屋へ向かった。


「真紀!真紀!起きろ真紀!」
父親の五月蝿い声で起きた。父は紙切れ一枚を持っていた。
「何、それ」
私の勘は的中した。ジョウの、置手紙だった。
『父さん、俺の妹・真紀へ
俺は家には帰らない。でも、心配するな。捜すなよ。
今更帰っても全然意味無いし、帰る気無いし。
真紀、俺の考え分かってくれよな』
私は声が出なかった。悲しかったけど、ジョウの気持ちを考えると、どうしようもなかった。最後の一言が、胸に矢が突き刺さったように痛かった。俺の事を忘れろと言っているような気がしたからだ。実際、そういう事なんだろう。でも私はもうお兄さんとして、丈を好きだから、ジョウなんていないと思うようにしよう。始めの内は無理かもしれないけれど、そのうち・・・。
「ジョウほど良い男なんていないよ」
私は小さな声で呟いた。
父親は動揺していたけれど、私はしょうがないなと思って現実を受け止めた。
「お父さん、もう帰ろう。お兄さんがよく考えた結果だよ」
父は私の気持ちが分かったのか、「母さんにはこの事内緒だ」と言って帰りの支度をした。
明日、東京の我が家へ帰ろう。


空港に着いた。
「ジョウ。さよなら」
私はそう一言、振り返って言った。ジョウは居る筈ないけれど、ジョウに言った。
荷物を持って父さんの後を着いて行った。すると父さんが一言私に言った。
「真紀、お前と丈が違うところで知り合えば良かったな。兄妹以外とか」
私は顔が真っ赤になるのが分かった。父さんは分かっていたらしい。やられた。
「バカ言うなよ!」
父さんの背中を叩いた。
これからまた今まで通りの生活が始まる。
一つ、叶わぬ恋をしたという事を除いて――
(終わり)

2004/06/06(Sun)16:24:22 公開 / 千夏
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■作者からのメッセージ
今日和vv終わらせちゃいました!!!!
無理矢理に近かったかもしれませんが・・・。
最後まで読んでくれた方、有難うございますvv
次の作品に向けて根性貯めときますかね。
ではvv

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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