『貴方の愛し方。―翔・涼の場合― 完結』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:梓                

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貴方が、今日も人盛りの多い道を歩いていたとします。

その道の真ん中に、一つの杖が、杖があったとします。

この物語は、その杖を拾った人達の、運命を変える物語です。



STORY*ONE
―翔・涼の場合―

「おはよ。涼。」
「っせーな。ったく兄貴は。」
俺と涼は双子の兄弟だ。俺、翔が兄で涼が弟だ。別に双子は珍しいワケでもない。しかも双子の一卵性だから顔も似ていない。全然似てない。
生まれてこの方、涼と仲が良いなんて親に言われた事もないんだ。
喧嘩が絶えないとよくクラスメートに言われる。俺自身喧嘩するつもりなんてこれっぽっちもないのに、涼に近づくとそういう喧嘩ホルモンというものが体内で活発に活性化する。
そんな俺らもこの春高校に進学した。同じ高校だった。
またしても同じクラスだった。苗字が同じ「大倉」だったので、名前の五十音の違いで、俺が前の席で俺の後ろに涼だった。毎度お馴染みの事だった。クラスが一緒と言うときはいつも最初はこういう席だったんだ。
そんな俺ら。似ていない同士で。出逢いの春に。
―恋に落ちた―

窓際の一番前の席に座る彼女の名前は 吉岡 遥。
色の白い肌がとても透き通っていて、髪の毛を緩く二つに縛っていた。
きっとこのクラスの男子の全員の注目を浴びただろう。吉岡は。
そんな彼女に俺は恋をしていた。涼が恋に落ちていたのもわかった。涼は好きなヤツができるとすぐ俺に協力を求めて、俺にベタベタしてくるんだ。今日だって入学式だったから一緒に早く帰ったところ涼は、
「兄貴、吉岡って可愛いよな。」
「お前、また俺に協力を求めてくんのか??」
「兄貴、顔が広いだろ??頼むよ。」
「何とも言えない。てかあの前で歩いてるヤツって吉岡じゃねえ??」
前の歩道を歩いている制服姿は、間違いなく彼女。吉岡だった。
「本当だ!!兄貴ー俺吉岡と帰るわ!!んじゃ。」
涼は走って吉岡の元へいった。吉岡は少し戸惑いながらも笑っている。営業スマイルをばら撒いて。羨ましかった。
「んだよ・・・・・・。俺だって吉岡と喋りたいよ。」

俺はいつも恋に遅れがちだった。決してモテないワケじゃない。中学時代だって結構告られていたし。でも自分から求愛する時って必ず涼と好きなやつがカブるんだ。それで涼は俺より先に女の元へ行く。女は俺の気も知らないで涼と付き合うんだ。これまでそんな体験を沢山してきた。
今日もそんな憂鬱な気分で道を歩いた。そしたらそんな道の真ん中に古びたアンティーク風の杖が置いてあった。杖には英語でLUCK と彫ってある。
「何じゃこりゃ??杖?魔法使いが使うような。おもしれぇ。」
好奇心旺盛な俺は杖を利き手の左手に持ってまた歩き出した。
この杖が、このラックが俺の人生を変えるとは思っても見なかった。
しばらくして家に着いた。まだ涼は帰っていなかった。
「アイツまだ帰ってない・・・・・・。吉岡に何かしたらただじゃ済まねぇぞ!」
俺は昔からの心配性だった。部屋の中を何回もうろついた。やがて涼が帰ってきた。
「ただいまっ!!ランララン♪」
「お帰り。どうだった??」
「何が?」
涼はすっ呆けていた。
「吉岡だよ。吉岡遥。どうなったのよ。」
「付き合うことになったよ。今日だってキスしちゃたしぃ?♪」
「はぁっ????????!」
驚きというか、ビックリというか、唖然と言うか。ムカついた。
俺は怒りのあまり部屋にこもった。涼はウキウキで携帯を弄っていた。きっと吉岡とメールでもしてるんだろう。相変わらず涼は手が早かった。積極的というか。吉岡も吉岡だ。会って半日しか経っていないのにOKするなんて。涼は顔が良いからかもしれない。不図その時、帰り道拾った杖を思い出した。杖を取った。LUCK と彫ってある杖はまるで萎びた俺自身だった。
「お前、ラックっていうのか?」
杖は答えない。ただ何も変わらない空気が淀みなく流れている。
「俺に吉岡惚れないかなぁ・・・・・・。」
何て有り得ない事を考えていた。すると突然不思議な光に俺は包まれた。
「何じゃこりゃ?!」
その光が消えた瞬間、俺に何も変わりはなかった。だけど目の前にいる人物に俺は吃驚した。


「吉岡・・・・・・?何で此処にいんの??」
あろう事にも吉岡の格好はピンクのネグリジェ姿だった。
「私の事は吉岡じゃなくて、遥って呼んで。翔。」
「遥・・・・・・。何だその格好?!」
ストレートに質問をぶつけた。帰ってきた答えは俺にとって嬉しい答え。
「私、翔に抱いてもらいたくて思わず来ちゃった。抱いて?」

俺は男の本能で抱きしめた。まだまだ成長する遥の胸が当たった。夢だったかもしれない。でも今は夢でもいいから、こうしていたかった。涼の存在何て忘れていた。好きな女を抱ける喜びが今ヒタヒタと伝わってくる。
甘い甘い甘ったるい恋の海に俺は溺れていた。
抱き終えた後でコンコンと部屋をノックして入ってきた人物がいた。涼だった。
「兄貴?!何してんだよ!?離せよ!!俺の遥だぞ!!」
「うっせーな!!遥は俺の彼女だ。」
「さっき兄貴に話しただろ?!俺はさっき遥に告ってOKもらったって。キスもしたって。なぁ遥!!」

遥は答えた。
「私、翔の彼女だよ。翔はさっき私を思いっきり抱きしめてくれた。涼なんてただの手が早いだけの男じゃない。」
「そんな・・・・・・。」
涼は部屋を後にした。俺の勝ちだった。俺の魅力が遥を虜にしたんだ。
「私、もう遅いし帰るね、翔。バイバイ。」
遥は持ってきていた上着を着て帰っていった。


―次の日―
「涼、おはよ♪」
「・・・・・・。」
涼からの応答はなかった。昨日の今日で当たり前かも知れない。
学校に着くと真っ先に遥が俺の横についた。
「ねぇ翔、今日一緒にお弁当食べよう。」
「いいね!!」
そんなラヴラヴの俺と遥だった。涼からの目線は気になっていたけど、別によかった。
弁当の時間。俺と遥は二人きりで屋上に居て、弁当を食べていた。
すると屋上のドアがバタンと開いた。注目したその先には涼が仁王立ちでラックを持っていた。
「おい!涼!その杖は俺のだ!!」
思わずカっっとなった。あの杖は俺のだ。あのラックのお陰で俺は遥を手に入れたんだ。
「うるさい!兄貴。人の女をよくも横取りしやがって!!」
涼は杖を構え、大きな声で言った。
「吉岡遥と俺、大倉涼はこれから付き合うんだ!!」
ラックから不思議な光が出てきた。俺が部屋でラックを使った時のような光だった。光はラックと涼と遥を包んだ。
光が消えるとそこには前、帰り道で見たような涼と遥がいた。
「おい!遥。俺だ!翔だ!戻って来いよ!抱き合った俺だよ?!」
俺は焦った。ヤバい。
「は?!私は涼の彼女なんですけど。」
遥の口調は冷たかった。ひんやりとした大雪のように。深く。
「はっはっは〜そういう事だ兄貴。じゃぁね。この杖はいらねえな。兄貴にやるよ。」
涼はラックを俺の元へ投げ、さっさと遥を連れて屋上を出て行った。


俺とラックは、途方に暮れていた。


「んだよっ!!」
ラックを放り投げられた俺はただ、吉岡の愛おしさに呆れていた。俺はあんなラックでしか手に入れられないような女を好きになっちまったのか?!冗談じゃない。ピンクのネグリジェで俺の前に現れて、「抱いて」だと?できすぎた話だったんだ。俺の心はどうかしてる。平常心がまったくなかった。

「ねぇ涼。抱いて??」
「御免。今は抱けない。」
「どうしてよ?!」
涼はどうしても吉岡遥を抱けないでいた。遥より、さっきの翔を心配していた。どうしてだろう。喧嘩して当たり前の存在が今になって心配になるなんて。できすぎた話だったんだ。俺の心はどうかしている。平常心がまったくなかった。今の俺は遥を抱けない。
「じゃあ私、翔の元に戻るからねぇ〜?いいの?」
「好きにしろ。」
遥は俺の予想外の返事でついに怒ってしまった。でも俺の元を離れないで居た。まだまだとうの昼休みは終わらない。長く長い休み時間だった。いつもと変わらない時間帯が、複雑な気持ちのせいで長く感じていたんだろう。
遥は拗ねている。俺は落ち込んでいる。


俺は涼の事がたまらなく心配になった。あんな女とまた何かしてるんだろうか。苛立つ不安がしだいに冷や汗に変わり行くのをこの小さな体で実感していた。手元にはラックがあった。
「あれ・・・・・・?」
何故かラックは光を放っていた。俺の願い事を叶えてくれたときのような光なんかじゃなく、純白一色というイメージの光だった。それは初めて生まれて、一緒のお腹から先に出てきて、その後涼が生まれてきた時に見たような眩い光であった。その光の閃光は、涼と吉岡が帰った道のほうに向かい、まっすぐと直線を放っていた。俺に涼の元へ向かうようにと。
「行ってやろうじゃねぇか。」
俺は光の射す方へと足を運んだ。その先にはやはり涼と遥がいた。
「兄貴・・・・・・。俺やっぱコイツとは別れるよ。」
「はぁ!?何言ってんの?」
「涼。そうした方が良いな。ソイツ吉岡は人間じゃねえ!」
「え・・・・・・?」
俺は分かっていた。吉岡遥は架空の人物だということを。吉岡遥はこの杖LUCKラックから現れたヤツだということを。ラックの効き目は時間が少ない。だからもうそろそろ吉岡は消えるだろう・・・・・・。
「遥は、人間じゃねえのか?!」
「そうだ。」
涼は吃驚していたけど、時期に気持ちに整理がついたようだ。笑顔が見られる。
「よく、わかったね。」
遥がゆっくりとした口調で言う。
「お前の体の色彩が時期に薄れていくのを見てピンと来た。」
「そっか。」
遥はしだいに薄れていく。
「私実は蒲公英だったの。この汚い街に咲く蒲公英。人に踏まれ踏まれの人生。そんな私の元に一つの杖があったわ。その杖に『人間になりたい』って願ったの。そうしたら私は黄色い花から美しい吉岡遥という人間になったわ。そしてあろうことにも高校生となって、あなた方に惚れられていただいた。私を踏み潰した人間全てが許せなかったから私は貴方たちをもてあそんだ。そういう事ね。」
遥は蒲公英だった。太陽に向かう蒲公英だった。
「そっか。」
俺は妙に納得した。

「もうお別れの時間。それじゃあね。」
遥はラックから放たれる光に包まれ、消えていった。また何処かで蒲公英として咲いているんだろう。

「兄貴、ごめんな。」
涼が行き成り謝った。
「いいんだよ、俺のほうこそ。これからは仲良くしようぜ。」
初めて、和解した日だった。もう喧嘩ばかりの兄弟じゃねえんだ。そう思うと自然と伸びをしたくなる。
また、そして歩き出した。
「兄貴、あれ蒲公英だぜ!遥じゃない?」
「本当だ。遥だな。」
アスファルトの切れ間に咲いていた蒲公英は曇り空でも懸命に咲いていた。
俺らは蒲公英を踏まないように、そっとまた歩き出した。

「あ、ラックを忘れてる!!」
俺がラックを取ろうと振り返った。だがそこにはラックの姿はなかった。
「えっ・・・・・・?」
ラックがあった場所はもう何もない道だった。道の遥向こうには遥が咲いていた。
「兄貴〜!何してんだよ!早く行こうぜ!」
涼が俺を急かしている。俺はもう振り向かなかった。
「今行く!!」

二度と振り向かない俺だったが、ラックのあった場所に向かって言った。





「サンキュ。」





今日もまた何処かで。
不思議な光に包まれている人がいるんだ。



貴方の愛し方。―翔・涼の場合―完結

2004/05/05(Wed)19:32:18 公開 /
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■作者からのメッセージ
杖、ラックの第2弾です。瞳の場合は喪失感をテーマにした愛でしたが今度は双子の兄弟が同じ人を愛してしまう。という感じです。愛がテーマですがこの作品は1対1の男女の愛ではなく、喧嘩が絶えなかった二人が自分を見つめなおすというテーマです。好きな人が毎度カブってしまう二人の愛はどうなるのか。ラックは二人をどうしてしまうのか。そこをポイントに書いています。今回も2話完結編です。


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完結いたしました。どうだったでしょうか。感想をお待ちしております。

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