-
『銀行強盗のやり方』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:コヨリ
-
123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
これからどうなるんだろうか? 僕達は警官に押さえつけられ、パトカーに押し込まれる。
金が欲しくないか? それは大学時代の先輩からの誘いだった。
僕達は偶然街で再会し、それから頻繁に会うようになった。
先輩の話では前々から銀行強盗の計画を練ってきたらしいのだが、一人欠員が出てしまったのでその穴埋めを探しているそうだ。
僕の取り分は200万円。盗んだ金額にかかわらず、等分ではなく途中参加ということを含め、その金額が提示された。僕はそれで了承した。
先輩はこの計画は必ず成功するとはいえないが多分大丈夫だろうと言っていた。
先輩は不思議な人だった。
僕がこの計画に参加したのはお金のこともそうだが、先輩には何かあったからだった。人をひきつける魅力とでも言うのだろうか、何か人をその気にさせるものが。
先輩が言うに銀行強盗のポイントはいかにして通報ボタンを押させないかという所にあるらしい。
先輩は銀行の通報装置の場所や現金の保管方法などは全て把握していた。
先輩の知り合いに銀行の警備に詳しい物がいるらしい。
メンバーは先輩と僕の二人だけだった。
僕は先輩から説明を受けた。
まず先輩が前もって銀行の前に車を止めておく。先輩と僕は顔が割れない程度に変装し、別々に銀行に入り込む。
お客がいなくなったところで銃を取り出し金を要求する。金庫の位置やその鍵の保管者などは先輩が知っているのでそれは任せておけばいいそうだ。
僕の仕事は客の見張りだった。すばやく自動ドアを手動に切り替え、銀行の入り口を封鎖し、防犯カメラを壊す。その後先輩から銃を受け取り、通報をされないよう職員を監視することだった。
何回か下見を繰り返し、そして襲撃日が訪れた。
客の流れが切れ、僕と先輩と職員だけになったときそれは始まった。
先輩がカウンターの上に飛び乗り銃を取りだし一発天井めがけて撃つ。職員が静まり返った後、通報装置から離れるよう言い、こちらが通報装置の位置を把握していること、妙な行動をした場合はもう一度発砲しなければならないということを警告し、職員を伏せさせた。
その間に僕は自動ドアを手動に切り替え、防犯カメラを破壊した。
先輩から銃を受け取り職員の監視を交代すると、先輩は中年の男の職員に現金の入った金庫の鍵をしまってあるロッカーを開けるカードを要求した。男は最初渡そうとはしなかったが、僕が銃を向けると素直に渡した。
先輩はカードを受け取ると、ロッカーを開け、赤い札の付いた鍵を取り出す。そして金庫に鍵を差し込む。
その間三分ほどだっただろうか、職員は誰も抵抗せず床に伏せていた。通報された気配も無い。先輩だけがすばやく動き回り、現金をバックに詰める。三千万円くらいだったのだろうか? 現金の束などと縁の無い僕はそれがどれだけの額になるのか把握できなかった。
先輩がこちらに目配せした。逃走の合図だった。
僕は手動に切り替わったドアを手でこじ開けた。
しかしその瞬間、突然に警官が扉の外に現れ僕の顔を何かで殴った。
それと同時にもう一人が銀行の中に突入し、先輩に銃口を突きつけた。
そのとき先輩は両手で現金の入ったバッグを抱えていたので抵抗することはできなかった。
僕と先輩は後ろ手に手錠を掛けられ、あえなく御用となった。
警官が言うには警察が通報を受けたときたまたま近くをパトロールしていたので来ることができたのだという。
いつの間に通報されたのだろうか?
警官は銀行員に他の警官が到着するまで待っているように言うと僕達をパトカーに押し込めた。
車が発進する。警官をはさんだ向こう側の席の先輩は、後ろでされたままうつ向きこんでいた。
僕達は警察へと連行される。
車が角を曲がりしばらくすると先輩の体が震えだした。
そして先輩は静かに笑い始めた。それは大きな笑いへと変わっていった。
隣を見ると警官もニヤニヤしている。
運転席の警官も笑みを浮かべている。
隣の警官が言う。「うまくいったなぁ」
「早く手錠をはずしてくれ。金を確認できないじゃないか」先輩が言う。
僕は事態をよく理解できなかった。
先輩は僕の様子を見て取った。
先輩が言う。「よくみてみろ」
僕は車内を見渡した。それはパトカーにもかかわらず普通車と何も変わらなかった。無線も無ければ警察らしいものは何一つ無かった。そして助手席には現金の入ったバッグが置いてある。
僕はようやく理解し、先輩に笑顔を見せた。
「これが通報装置を押させないってことさ」先輩は得意そうに言う。
「どうして何も教えてくれなかったんですか? 本当に不安だったんですよ!」
「この方がおもしろいと思ってさ」先輩は笑っている。先輩はそういう人だった。
「あいつらが気づく前にさっさと車を乗り換えて逃げるぞ」運転席の偽警官が言う。
偽パトカーは青空の下、現金を積み悠々と街中を走り抜けていく。
終わり
-
2004/05/03(Mon)01:06:41 公開 / コヨリ
■この作品の著作権はコヨリさんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
短いのは書きやすくていいです。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。