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『表月 〜偽りの仮面〜 第三章』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:名も無き詩人
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※注意事項※
この作品を読むにあたって注意。今回の事件は非常に長いです。大体全部読みのに早くて1時間。
遅い人だともっとかかると思います。そう言う訳なのでネットに長い間つなげない人は、今回の小説だけコピーを許可します。
ただし、著作権は放棄していませんので、ご了承下さい。
それから、今回もグロイ(性的、暴力的)表現が含まれておりますのでそれが嫌な人はあまりお読みにならないでください。
それでは、本編の程をごゆっくりとお読み下さい。
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第十話 月島殺人事件@
「きゃ〜〜〜!!」
夜の公園に突然女性の叫び声が上がる。
「お姉ちゃん!!」
少年は必死に声を上げる。
「げへへへへ。今日は上玉だな」
「やめろ。お姉ちゃんに手を出すな!」
「ほ〜う。いっぱしにこのガキや〜。ナイトきどりかよ。格好いいね。
それじゃあ、いっちょお兄ちゃんが遊んであげようか。よっと」
そういうと男は少年の腹を蹴飛ばす。少年はサッカーボールのように弾み地面に叩きつけられた。
「やめて!!その子には手を出さないで」
「へ〜。弟想いのいい姉だこと。そういうヤツの涙顔がそそるんだよな。俺」
「お前、鬼畜だな。まあ、俺も人のことは言えないがな」
「さてと、そろそろお楽しみタイムとしゃれ込もうか」
男はだらしない舌で女性の耳や頬、瞼をなめ回した。女性は目をぎゅっとつむる。
「お姉ちゃんに手を出すな」
少年は起きあがり必死で抵抗しようとするが、男に頭を捕まれて、地面に叩きつけられた。
「もうやめて、何でも言うこと聞くから。弟だけには手を出さないで」
「おお、いい感じだ。俺、興奮してきたぜ」
男はズボンのチャックを開けて、何かを取り出す。
その何かはとても気色の悪いもので、くさいにおいが立ちこめた。
「とっととやろうぜ。俺我慢できないよ」
もう一人の男がせかして、女性の方を掴む。そして、無数の手が女性を包み。
そのまま、消えて無くなった。
少年は泣いた、自分の弱さにそして、大切な人を守れないという現実に。
男の顔が恍惚に変わると何か白いものを出した。
その液が姉の顔にかかり、姉を白く染める。その白い液が姉を白く染めたのだ。
その行為がどれくらい続いただろうか。少年が気付いたときにはすべてのことが終わっていた。
男達の姿はどこにもない。地面には白く染められた姉が倒れている。その目には光はない。
ただ、瞳からは一滴の涙がこぼれ落ちた。そして、姉は静かに息を引き取った。
少年は姉をじっと見て思った。いつかあいつらに復讐してやる。少年はその時そう決意した。
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ここはとある研究室。一人の青年が机いっぱいの本と格闘している。
「それにしても、本当に財宝はあるのか?いや、財宝は確かにあるはず。
沖縄を荒らし回っていた海賊がどこかに財宝を隠したはずなんだ」
青年は別の本を取りだし、それに目を通す。
「文献では確かにその海賊は存在したはず。この秘密の言葉に何か秘密があるに違いない」
青年は懐から一枚の古びれた紙を取り出す。
『我ここにすべての財宝を隠す。二つの月が昇る場所。そこに我の宝埋める』
「この二つの月が昇る場所ってどこなんだろう? そもそも月は一つしか無いんだから。
くっそ〜。分けわかんないよ!!」
青年は頭をかりかり掻く。そんな時、突然扉をたたく音がした。
「解読は順調かい?」
入ってきたのは金髪の髪でサングラスをかけた、ショートカットの女性だった。
服装は胸が強調されるぐらいきわどいカットがされている。
その胸元にはきらきらした青い宝石のペンダントを付けていた。
「いや。まだだよ。ケイト」
「あらそうなの。天才もたいしたこと無いわね」
「う」
「まあ、だらしないあなたなら仕方がないけどね」
そう言うと、ケイトは青年の頭に胸を押しつける。
「なるほど、二つの月ね。そう言えば、あなた知ってる?二つの月が見られる場所」
「そんなバカな。月は一つだろ? そんな場所がホントにあるのかい?」
「あら、あなたって無知ね。月島って島が日本の最南端にあるんだけど。
どうやら、そこで年に一度だけ二つの月が見られるみたいなの」
「何だって!そんな場所が!! よっし、急いで準備していくぞ!! ケイト」
「え!もう暗いし明日にしない」
「そんなことを言っている場合じゃないだろう!!宝だよお宝。ああ、お宝が僕を待っている」
青年はそう言って、部屋を出ていった。
「全く、あなたはいつもこうなんだから。でも、そんなところも私は好きだな」
ケイトは誰もいない部屋でそうつぶやく。
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「あじ〜」
舌をだらけている少女が帽子をぱたぱたとさせている。
「我慢しろよ。美奈子」
「え〜。だって暑いものは暑いんだもん」
美奈子は必要にうるさくわめいた。
「あともうちょっとで空港だから。それまで我慢しよう。美奈子ちゃん」
俺の隣で柚江が美奈子をなだめる。美奈子はちょっと不服そうな顔をする。
「美奈子ちゃん。飲み物でも飲む?私、飲み物持ってるんだ」
柚江の隣の和美がそういって鞄から魔法瓶を取り出し、カップに飲み物を注いだ。
美奈子はそれを見て目を輝かせた。
「ごめんな。坂下」
「うんいいのよ。気にしなくても」
和美はちょっと頬を赤く染める。それを見て柚江はにかりと笑う。
「ありがとう。和美お姉ちゃん」
そういって、美奈子はカップを返した。
「あっ、坂下。俺にもくれるか?」
俺の右隣の男がそう言う。そいつは和美からカップを受け取り一気に飲み干した。
「しっかし、柚江と坂下はいいとして、何でお前まで付いてくる」
「つれないな。恭助。親友を置いて置いてバカンスを楽しむとは言語道断。
そんなヤツは犬に蹴られて死んじまえ」
なんか良く分からないことを言っているのが自称俺の親友、海月晴夫。
まあ、一人くらい男がいるとこちらとしても助かるから、俺はとりあえず晴夫のことは納得した。
さて、俺たちが何故空港へ向かおうとしているかというと。
月菜先輩にあることを頼まれたからである。そのあることとは、骨董品の鑑定。
まあ、俺の父が考古学者で。そう言った古いものを見る目は少しはあって。
たびたび、月菜先輩に鑑定を依頼されている。
月菜先輩の家ではそう言った珍しいものが多くあるのだそうだ。
それと空港に行くのとどういう関係かというと、今回は何でも月島というところに鑑定品があると言う。
けれども、それは持ち運びは出来ないので、直接鑑定して頂きたいと言われたのである。
そのお礼に月島の別荘に泊めてくれると言う。まあ、別に断る必要もなく了承した。
ただ、その話しを聞いていた。柚江がどうしても自分たちもいきたいと主張したのだ。
俺はそのことを月菜先輩に話したら柚江達の同伴を許されたのだ。
それと、美奈子を一人家に置いておく分けにもいかず。
美奈子にも一緒に来て貰ったと言うわけだ。
俺たちは飛行機に乗り、九州に向かう。
そして、港から月島行きの船に乗り込んだ。
船に乗り込むと、俺たちは荷物を客室に置くことにした。
何せ、月島まではここから五時間近くはかかると言う。
俺はとりあえず、この船を見学することにした。
船内は以外に広く、いくつもの部屋があった。
甲板に出るとそこには海の香りがする。周りを見渡すと海しか見えなかった。
「あっ、お兄ちゃん!こんな所にいた」
俺の肩に美奈子が乗っかる。美奈子は無邪気に笑う。
「ねえねえ。展望台に行こうよ。地平線が見えて、すごく面白いよ」
俺は美奈子に連れられて展望台に付いた。展望台には人がいなく。
ガラスの向こうには壮大な海原が俺を飲み込むほどのスケールを感じる。
俺のとなりで美奈子は無邪気にはしゃいでいる。
俺はその光景を見て少し安堵する。
あの時の事件を引きずってはいないみたいだ。ただ、あの時一体何が起こったのか。
俺は考えない事にした。考えても解けないことは考えても仕方がない。
美奈子が元気ならそれでいい。
美奈子がきゃぴきゃぴとしている間、甲板に出てみた。
甲板に来ると一人の青年が甲板にもたれ掛かり、う〜う〜うなっている。
どうやら船酔いらしい。俺は思い切って声をかける。
「あの大丈夫ですか?」
男はこちらを振り向くとすぐにまた、口元を押さえて胃液をはき出した。
「はあはあはあ」
男は息苦しそうにしている。そんな時、船内から金髪でショートカットの女性が飛び出してくる。
目はグリーンな色をしているから外国人だろう。その女性は青年の背中をさする。
「あなたって本当に手のかかる大人ね。まるで子どもみたい」
女性はクスリと笑うが青年の方は今にも死にそうな声を上げる。
「は〜や〜く。薬を〜」
青年はそう言って地面を這いずる。
「はいはい」
女性はそう言うとポケットから薬を取り出し、持っていた水筒と一緒に青年に渡した。
「はあはあはあ、落ち着いたよ。ありがと、ケイト」
「どういたしまして」
ケイトは青年の肩を持ち上げるが、青年を持ち上げる事は出来なかった。
「ちょっとあなたも手を貸してくれない」
起こった調子でケイトは俺を指す。俺は何となく逆らえないのを感じ仕方なく青年の肩を持ち上げた。
「すまないね」
青年は謝るがすぐにぐったりとする。二人の客室は俺の客室の向かって右側の位置にあった。
青年をベッドに横にして、俺はその部屋を出ようとすると、ケイトは強引に俺の腕を掴む。
「あら、帰っちゃうの。もう少しここにいない。少し話し相手になってよ」
俺は少し考えてから頷いた。
「別に良いですけど」
「そう。ありがとう。あ、自己紹介がまだだったね。私の名前はケイト。こっちの船酔い男は賢治」
「あ、俺の名前は朽木恭助」
「恭助君か。恭助君はどこへ行く途中なの?」
「月島ですよ。知ってますか」
「あら偶然ね。私たちも月島に行くところなの」
「そうなんですか。失礼ですが月島には何をしに」
「あら、無粋な質問ね」
「あ、すみません」
「謝らなくても良いのよ。そうね。言ってみれば宝探しかな」
「はあ、宝探しですか」
「その目は信じてないわね。まあ、今時宝探しって言うのも時代遅れかも知れないわね。
もっとも、私も半信半疑なんだよね。こいつの夢のため、しょうがなく付き合っているんだよな。
そんな、あたしに感謝しなさいよ。うりゃ、うりゃ」
ケイトは寝ている賢治の頬をぐりぐりする。賢治はうんうん唸っている。どうやら、まだ気持ちが悪いらしい。
「ところで、君は月島に何をしに来たの。観光ってわけじゃないでしょう」
「ええ、ちょっと友人に頼まれて骨董品の鑑定に」
「へえ。君はその歳で鑑定ができるんだ」
「いえ。ただ、古いモノを見入る機会が多くて。古いモノの価値が分かるんですよ」
「なるほどね。君はいい目を持っていると言うことか。それじゃあ、君に良いもの見せてあげようか」
「いいものですか?」
「そう、良いものよ。とっても不思議な宝石」
ケイトはそう言うとペンダントを見せてくれた。
「これはね。月の雫と言われるものでね。月の光で様々な色に輝くの。
今日はまだ月が出ていないから青い色だけど。月の中では緑だったり、赤だったり、まあ様々な色に輝くのよ。
どういった原理で色を発しているかは良くわからないけどね」
俺はそのペンダントをじっと見つめていた。青い青い色が俺の目から離れない。
目の前に一瞬だけ銀色の月が見えた。月の中には一人の少女が立っている。
けれども、月の光の影により顔ははっきりとは見えない。ケイトのよびかけにより、俺は現実に戻る。
「あ、すみません」
「いいのよ。君は月に見せられているみたいね。ただあまり月に惑わされない方がいいわよ。
月は死の象徴、人を惑わせ破滅を招く」
「そうなんですか」
俺は曖昧な返事をする。
「さてと、私はこいつの看病に励むことにするから」
「そうですね。俺もそろそろ部屋に戻ります」
俺はそう言ってケイトの部屋を後にした。
「さてと、部屋に戻るっていってもおもしろいことはないしな」
どこからか心地よい唄声が聞こえてくる。俺はさっき出た甲板とは反対方向へと向かった。
甲板に出ると先ほどと同じ潮風が吹く。そして、一人の女性が海を見ながらメロディーを口ずさんでいる。
それはどこか俺の耳をくすぐる。その女性の髪が潮風によりなびく。
俺は壁にもたれかかり、目を閉じて唄を聞いていた。どこか優しい調子のメロディー。
何だか心地よい。母さんの温もりと言う表現がぴったりである。そんな歌声をうるさい声がじゃました。
「おい! 見ろよ。海だぜ。海」
がっちりとした体格の男が妙にはしゃぐ。そして、その隣の長髪の男がめんどくさそうに言う。
「あんまりはしゃぐなよ。うるさいんだよ。お前は」
「まあまあ、折角の旅行なんだから」
長髪の男の後ろから眼鏡をかけた男が出てくる。
「まあ、そうなんだけどさ。おい、あっちに可愛い子がいるぜ」
長髪の男は先ほどまで唄を歌っていた女性に近づく。その顔は妙に嫌らしい。
「ねえ。彼女。俺らとお茶しない」
長髪男は強引に女性の腕を掴む。
「いえ。私はいいです」
「そう言わないでさ。俺らとお茶しようぜ」
長髪男は大胆にも女性の肩を抱く。俺は少し頭に来た。折角の歌声を台無しにされたからだ。
俺は男の腕を取りひねり上げた。男はいきなりなことで、大げさな悲鳴をあげた。
「彼女、迷惑していますから消えて貰えますか」
俺はできるだけやんわりと言ったつもりだ。しかし、力だけは強く入れていた。男の肩の骨がきしむ。
「てめえ、なにしやがる」
俺は問答無用で更に力を加える。
「わ、わかったから。放してくれ」
男は情けない声を上げた。俺はとりあえず、男を放してやる。
「ちっ、しらけちまったぜ。戻るぞ。お前ら」
そう言って三人組の男は船内へと消えていった。
「大丈夫だった?」
俺がそう聞くと、女性はにっこりと笑う。
「ありがとうございます。私、ああいう人たちに絡まれたのは初めてで」
「君、一人旅なの?」
「ええ、ちょっと月島に用事がありまして。本当は弟と一緒に来るはずだったんですけど。
弟はちょっと用事ができて、遅れてくるっていていたので私一人だけ先に来たんです」
「そうなんですか。ああいう奴らはちょっとしつこいですからね。俺らと一緒に行動しませんか。
あ、別にナンパって言うわけじゃないですよ。誤解しないで」
「うふふふふ、あなたっておもしろい方ですね。それじゃあ、お言葉に甘えてご一緒願えますか」
女性は頭を深く下げる。
「よろこんで」
「あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私、文月鏡子っていいます」
「俺は朽木恭助。それじゃあ、みんなに君の事を紹介しに行こうか」
俺はそう言って手を差し出す。鏡子はその手をそっと握りしめた。
そして、二人は船内へと入っていった。
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第十一話 月島殺人事件A
俺はみんなをラウンジに集め、鏡子さんの事を紹介をした。
「こちらがクラスメートの河口柚江と坂下和美」
柚江と和美は小さく会釈する。
「んで、こいつが俺の悪友とも呼べる。海月晴夫」
晴夫はにこりと笑う。
「最後に俺の妹の美奈子」
美奈子も小さく会釈する。
「私は文月鏡子といいます。恭助さんのお誘いにより、ご一緒させて頂きます。よろしく」
鏡子は丁寧な挨拶をした。
「和美ちゃん。ピ〜ンチ。新たなるライバル出現か!」
柚江はおどけた調子でそう言うと和美は真っ赤な顔になる。
「さてと、みんな集まったんだから何かゲームでもしようか。まだ時間もあるし」
「賛成!」
「六人もいるからババ抜きでもするか」
俺はポケットからトランプを取り出す。
丸いテーブルにみんなで座る。俺は適当に座った。
俺の隣が美奈子、柚江、晴夫、和美、鏡子の順に座った。とりあえず、俺たちはババ抜きを始めた。
何周か終えると、ババ抜きにも飽きてきたので、晴夫が鏡子に質問をした。
「失礼ですが鏡子さんは月島に何をしにおいでで」
「私ですか、叔父の家に用事がありまして」
「へえ、そうなんですか。俺らはバカンスのため月島にいくんですよ」
「違うだろう。俺は月菜先輩の依頼で、お前は俺に勝手についてきたんだろうが」
「細かいことは気にするな。恭助。マイフレンドの柚江君もそう思うだろう」
「え、あたし。そうね。みんなで楽しんだ方がいいんじゃない。
もっとも、それとは関係なくあたしは楽しませて頂くけどね」
柚江はにやりと笑い。恭助は頭を抱える。
「ところで恭助さん達は月島の伝説をお知りですか」
「伝説? いえ知りませんが」
「そうですか。では、退屈しのぎに私がお話ししましょう」
「月島はご存じの通り、九州からだいぶ離れた島です。
そして、この島では一年に一度、二つの月が見られる伝説があるのです。
それと同時に月をあがめる儀式も行われるとか」
「二つの月ですか?」
「ええ、二つの月です。もっとも本当かどうかは分かりませんがね。
それと、月島では温泉源がありまして、観光名所として温泉がいくつか存在します。
そちらを回って見てもよろしいかも知れませんね」
「温泉!?あたし温泉に目がないのよね。ああ、温泉、ビバ温泉」
柚江は手を握って目をきらきらさせていた。
「柚江。ちょっとはしゃぎすぎ。でも、私も温泉好きだな」
「柚江くん、今は夏だぜ。温泉に入ったらゆでだこになっちゃうよ」
晴夫はちょっと嫌そうにいう。
「バカね。温泉は何も冬だけってわけじゃないのよ。夏には夏の温泉の入り方があるのよ」
「ほほう。それはどういう入り方なんだい? 柚江くん」
「そうね。夏は温泉にさっと入って、後は足だけをつけて、景色を満喫するの。
冬だとどうしてもすぐに身体が冷めてしまうからね。それから温泉は回数を分けて入るのがコツよ」
柚江は胸を張ってそう言う。
「鏡子さん。そこって、いくつくらいの温泉があるの?」
美奈子は鏡子にそう尋ねた。
「そうね。正確な数は分からないけど、島中にあると思うは、もしかしたら秘湯なんていうのもあるかも」
「そうなんだ。混浴風呂なんてのもありますか?」
「ええ、たぶんあったと思いますよ」
「そうなんだ。うふふふふ、これならお兄ちゃん一緒にお風呂に入れるね」
その言葉で皆の顔が一斉に恭助の顔に集中した。
「ほほう。なかなかやるな恭助」
晴夫は恭助の顔を見てにやりと笑う。それは尊敬の眼差しだった。
「恭助君が、恭助君が」
和美は壊れた蓄音機のように、ただそれだけを言い続けた。
「和美。しっかりしなさい。傷は浅いわ」
柚江は一見和美を案じているような態度だが、実はこの状況を一番楽しんでいる。
「まあ、恭助さんってそう言う趣味がお有りで」
鏡子さんは恭助の目を見てにこりと笑う。
俺は俺でこの状況を笑ってごまかすしかなかった。
そんな楽しい(?)会話もそろそろ終わり。船は月島の港へと着いた。
そして、俺たちは鏡子さんとは別れて、月菜先輩の別荘へと向かった。
島の街はなかなか活気があり、様々な名物が列んでいる。
そのどれもが月という名がつけられており、観光名所らしかった。
商店街を抜けるといくつかの民家があり、畑なんかもいくつかある。
ここまでくると、潮風のにおいはなくなり、山の木々のにおいが流れてくる。
さっきまでは海だったのに、周りはすでに森の中だった。
林道には蝉の鳴き声がし、涼しい風が髪を揺らす。木々のせせらぎが、心地よいリズム奏で。
小川の水が流れる音が自然を感じさせる。
林道を抜けると、目の前に大きな階段が現れ、階段の横には立て札が立っていた。
立て札にはこう書かれていた。『この先所有地につき関係者以外は立ち入りを禁ずる』。
月菜先輩に渡された地図によると、この階段の上に別荘があるらしい。
とりあえず、俺たちは階段を上り始めた。階段は石造りでしっかりとしていた。
半分まで上がるとみんなの息は上がっていた。仕方なく、ここで少し休憩を入れる。
階段の横の林道からかすかに水の音がした。
「向こうから水の音がする。言ってみないか?」
俺の提案に皆は頷く。
俺たちは階段の横脇にある林道へと足を踏み入れた。
その林道は狭く。人が一人通れる位しかなかった。
先頭は俺、その次が美奈子、晴夫、柚江、和美の順に前へとすすんだ。
そして、視界が開けると、目の前には滝が見えた。
そんなには大きくないが間違いなく滝だった。そして、池には一人の女性が水浴びをしている。
それも、一糸まとわない姿で泳いでいた。俺は息をのむと、いきなり視界を奪われる。
「お兄ちゃん。見ちゃダメ」
そういって、美奈子は俺の視界を塞いだ。
泳いでいた女性は俺たちの事に気づいたのか。
池から上がり、身体を拭き着替え始めた。
着替え終わると俺の視界はやっと開放された。
そして、あらためて女性の姿を見る。
その女性は紅い袴と白い胴着を着ており、どう見ても巫女姿だった。
そして、何よりも驚いたのはその顔が俺の知っている人物そっくりなのだ。
「月菜先輩!こんなところで何を。いや、俺としては役得でしたが」
俺がそう言うと美奈子は俺の頭を殴った。
「・・・・・・・・」
月菜先輩はこちらをじっと見てにっこりと笑う。
何か様子がおかしいと俺はそう思ったが、月菜先輩は俺の手を引いて、山道の中へと入る。
そして、山道を抜けるとそこには立派な神社が建っていた。月菜先輩はにっこりと笑い。
俺を神社の境内へと連れて行く。どこからか誰かを呼ぶ声がした。
「お姉ちゃん!お姉ちゃんどこ!まったく、これから恭助君達が来るのにどこに行ったのかな」
神社の境内の奥から、俺の隣にいる月菜先輩と同じ格好の女性。いや、顔も同じ人が出てきた。
「あっ、お姉ちゃんみっけ」
そう言ってその人は俺たちのところまでかけてきた。
「あれ?お姉ちゃん、恭助くんを迎えに行ってたの?」
俺の隣の月菜先輩はうんうんと首を縦に振る。
「月菜先輩?」
「何どうしたの?」
俺の目の前の人が返事をした。どうやら、俺は少し勘違いをしていたみたいだ。
俺の隣にいるのが月菜先輩ではなく静菜先輩だった。俺はとりあえず、笑ってごまかす。
そして、後ろの方から俺を追っかけてきた柚江達が顔を出す。
「はあはあはあ」
皆一様に荒い息をしていた。俺の隣の静菜はにっこりと笑う。
「皆様よくおいでになりましたね。別荘はこの神社の奥ですので、まずは荷物を置きにいってください」
月菜はそう言うと静菜と共に神社の中へと入っていった。
「さてと、みんな荷物を置きに行くぞ」
柚江達は残りの気力を振り絞って、恭助の後を追う。
神社の裏手には更に山の奥へと続く道があり、暗い林の中に一本道があった。
道へ入ると凄く涼しく夏の暑さが吹き飛んでくる。それほどの冷気を感じた。
いってみれば自然のクーラーみたいに感じる。その林道を抜けると、目の前には大きな丸太の家が建っていた。
俺はチャイムのボタンを押すとすぐに、男の人が出てきた。その男は俺たちを見ると深々とお辞儀する。
「お嬢様方のお客様ですよね。ようこそおいで下さいました。
私、この別荘の管理人をしています。江崎と申します。ささ中へどうぞ」
俺たちはとりあえず、家の中に入る。江崎さんに言われて、俺たちはそれぞれの部屋へと向かった。
俺と晴夫は一緒の二人部屋。美奈子と柚江と和美は四人部屋へと案内された。
俺たちはそれぞれの荷物を置いて玄関に集合する事にした。
二人部屋につくとそこには大きな窓があり、外の景色がすばらしく。思わず声が漏れた。
「なかなか良い別荘だな」
「ああ」
「さすが月夜野氏と言ったところか」
「そうだな」
「ところで恭助。お前はどちらが好みなんだ?」
「い、いきなり何を」
「隠すな。俺の情報によると、彼女たちは実に君に好意的と聞いてるぞ」
「お前どこでその情報を」
「新聞部を甘く見るなよ。俺の知らない情報はない」
晴夫は妙に勝ち誇ったように胸を張る。
「さいですか。ところでお前はあの時、静菜先輩の裸はみたのかよ」
俺は少し顔を紅くしていった。
「それなんだが、残念な事にその時、柚江君にとっさに目隠しされて、ほとんど見れなかったよ」
晴夫は少し肩を落とす。
「そうか。それならよかった」
「良かった?」
「いや、何でもないよ」
「まあ、もっともお前の周りには何故か女性が集まってくる。
実にもてない男には殺意を感じるものだが、そこは置いておいて。白状したらどうだ」
「白状も何も、俺と月菜先輩は、先輩と後輩の間柄だよ」
「ふむ。そうか。おっと、そろそろ玄関に行かないとな」
「そうだな。行くか」
そう言って二人は部屋を後にした。
玄関にはすでに柚江達の姿があり、三人でおしゃべりしている。
「遅いよ。もう」
美奈子が俺の姿を見つけるとちょっと頬を膨らませる。
もっとも、本気で怒っているわけではないことはすぐに分かった。
「ごめん、ごめん。ちょっと外の景色がすばらしくてね。見入っていたんだ」
「そうよね。外の景色はすばらしいものね。私も凄いと思っていたの」
和美が俺のフォローする。こんな時の和美の機転には感謝する。
「まあ、それなら許してあげる」
美奈子はとりあえず機嫌を直す。俺たち一同は月菜先輩が待つ神社へと向かった。
「どうも、こんな遠いところまでよくおいで下さいました」
月菜先輩は深くお辞儀する。その後ろで静菜先輩もちょこりとお辞儀した。
「早速で悪いのですが、恭助君には品物の鑑定をお願いします。
この後、お連れの方は何か予定はお有りでしょうか?」
「いえ、特に予定は」
晴夫がそう言うと柚江がいきなり声を上げた。
「あっ、あたし温泉に入りたいんだけど」
「そうですか。それならば、この場所から少し遠いですが双子月旅館と呼ばれる温泉宿がありますから、
そこへ行ってはどうでしょうか」
「それいいね。そこ行こうよ」
柚江は行くき満々でいる。和美と美奈子は苦笑いを浮かべていた。
「まあ、もう四時回っているしな。その宿ってここからどれくらい」
「たぶん、30分くらいでしょうか」
「30分か。いいんじゃないか、そこへ行こうか」
晴夫がそう言うと柚江の瞳がきらりと輝く。
「それでは、そこまでの地図を持ってきますね」
月菜はそう言うと、神社の中へ入り、一枚の地図を持ってきた。
「これが地図です。そして、ここが双子月旅館です」
そういって地図に旅館の場所を指し晴夫に渡した。
「大体分かりました。それじゃあ、恭助。俺たちは温泉に入ってくるよ」
「お前、結構薄情者だな」
「それは違うぞ。恭助。お前はここへ仕事をしに。そして、俺たちは遊びに来たんだ。
ここで温泉に行かないでどうする。そうだろ、恭助」
「ああ、そうだよ。お前はそう言うヤツだよな」
俺は方をがっくりと落とす。そんな恭助の哀れな姿を見て、和美は声をかける。
「恭助君。私、残ろうか?」
そんな和美の意見に恭助は涙目になるが、すぐに首を振るう。
「いや。大丈夫だよ。坂下。温泉、楽しんできなよ」
俺は精一杯の笑顔でそう言った。
「よく言った恭助。あんたは偉い」
柚江は豪快に肩をたたく。和美はすまなそうな顔をした。
「それじゃあ、行きますか」
そういって柚江は先頭に立ち、歩き出した。
「お兄ちゃん。それじゃあ、私も行くね」
美奈子も和美同様すまなそうな顔をするが、柚江達の後をダッシュで追っかけていった。
「美奈子も温泉には目がないからな」
俺は小さなため息をつく。そんな一部始終を月菜はじっと見ていた。
「あの、すみません。何だか私のせいで皆さんと温泉に行けなくて」
「いいんですよ。こっちは仕事で来ていますから。それに、こっちの方はこっちの方で、おもしろそうだし。
さてと、依頼品を見せて頂けますか」
「ええ、依頼品はこの神社の中にあります」
そういって月菜先輩は歩き出し、その後を静菜がちょくちょくとついていった。
まるでカルガモの親子みたいだ。俺は一瞬そう感じ、笑いをこらえた。
「どうぞ。こちらです」
厳重に鍵のかかった部屋の中に入る。部屋の中はホコリはなく、整頓されていた。
月菜先輩は奥のふすまを開けて、中から大きなつづらを取りだした。
そして、それを俺の目の前に置く。月菜はそのつづらを開けると、中からはいくつもの箱が入っていたが。
月菜は手のひらに乗るくらいの小さな箱を取り出す。
そして、慎重にその箱を開け、中には布で包まれたものが出てた。月菜はその布を取り去った。
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第十二話 月島殺人事件B
『温泉、温泉楽しいな。ビバ、ビバ、温泉、ルンルル。タコが長湯でゆでダコだ』
意味不明の歌を口ずさむ柚江、そしてそれに合わせて美奈子も口ずさむ。二人の顔はにっこり顔だった。
「あいつら、ホントに温泉好きなんだな」
晴夫は苦笑いを浮かべる。その隣で和美も苦笑した。
そんな意味不明な曲も五番目までいくと温泉宿屋に到着した。
温泉宿屋は至って普通の宿で、別に変わった感じはしなく。
おもむきのある宿だった。
柚江達はとりあえず、中に入り宿の人に温泉の場所を聞いた。
「温泉ですか?それなら、そこの通路を真っ直ぐいって右に曲がればすぐだよ。
今の時間だったら結構空いてるんでないか」
宿の人はそう言って道を教えてくれた。
言われたとおりの道順をいくと、そこには男女と書かれたのれんが垂れ下がっている。
「んじゃあ。ここで風呂は別々な。そうだな。一時間もあれば十分だろ。
今から一時間後に宿のロビーに集合と言うことで」
晴夫はそう言うとのれんをくぐる。
「さてと、あたし達もいきますか」
柚江はそう言ってのれんをくぐった。
のれんをくぐると、そこには番頭さんがいて、一人三百円と書かれていた立て札があった。
柚江達はお金を払い。服をかごに入れ始める。
柚江は腰に付けていたポシェットを取り、次に絵柄の付いたTシャツを脱ぎ始める。
大胆なプロポーションがあらわになた。引き締まった曲線美に和美も美奈子も落胆と同時に尊敬した。
その後は、短パンを脱ぎ、ブラジャー、ショーツを脱いでたたんでかごに入れる。
「おっし、いっちょいきますか」
肩にタオルを乗せて柚江はすたすたと温泉の方へと消えていった。
「すごい」
和美は落胆する。その和美の肩を美奈子はポンとたたいてうんうん頷いた。
「私たちもいこうか」
和美はワンピースをさっと脱ぎ、ブラジャーとショーツを急いでたたんでかごに入れる。
そして、大きめのバスタオルで体を包んで柚江の後を追った。
美奈子はTシャツに半ズボンを脱ぎ去り、ブラジャーとショーツをたたまずにかごに入れて、柚江を追いかけた。
しーんと静まりかえった更衣室に、不気味な声がした。
「なんか。あっしの存在忘れられてる気がする。これは放置プレイ? 放置プレイと言うヤツですか? マスター」
チクリスは今はいないマスターに悲痛の想いを感じた。
「何だかこうしていても、つまらないからあっしも一風呂浴びますか。
この格好じゃあまずいか。とりあえず、変身っとな」
チクリスがそう言うと、見る見るのうちにチクリスが一人の金髪美少年へと姿を変える。
「さすがに、女風呂に入るとマスターに何言われるか。分かったもんじゃないからな。とりあえず、男風呂へ」
チクリスは男風呂へと向かった。
「ああ、いいお湯ね。もう最高!温泉は心から温まるね。これが温泉の醍醐味よ」
一人で納得する柚江は様々なお風呂に入る。初めは泡風呂、したから泡が飛び出して、体を刺激する。
これがなかなか気持ちいいのだ。お次は大理石のお風呂。豪華さを感じさせ、何だかリッチになった気がする。
そして、次は露天風呂。美しい緑の山の風景が夕焼けに染められて真っ赤に染まる。なんと風流な事か。
お次は滝風呂。名前の通り、上から滝の様にお湯が降ってくる、ちょっと変わったお風呂。
そして、大浴場風呂。学校のプールの半分ぐらいの大きさのお風呂。泳ぐことも出来そうなくらい広い。
あとは、ぬるま湯風呂や、硫黄風呂、流れるお風呂など本と色々なお風呂がある。
もちろん、混浴風呂もあったがあたしはいく気はない。
とりあえず、一番のお気に入りの露天風呂で温泉を満喫していた。
その時、一人の金髪の女性が湯船に入ってくる。
スラッとしたボディーにあたしより大きな胸、そしてきりっとした緑色の目。
たぶん、可愛いと言うよりも、格好いいというのが正しいようなそんな女性だった。
その女性の首には青いペンダントが架けられていた。
あたしはじっとその女性を観察していたが、どうやらあっちもあたしがじっと見ているのに気が付いたみたい。
「いいお湯ね」
「ええ」
「あなたも温泉好きなの?」
「どうしてそう思うの」
「あら、気付かなかった。あなたが色々なお風呂に入っているのを見かけてね。
ずっと後を追っかけていたのよ。たぶん、そうじゃないかと思ったのよ。
私の知り合いにも似たようなヤツがいるから」
金髪の女性は手ぬぐいで顔を拭いて言う。
「私、次は混浴風呂に行こうと思うの、あなたも一緒に来ない」
その女性はにっこりと笑う。あたしはちょっと考えて頷いた。
「いいですよ」
本当は混浴風呂に興味があったが一人で行くのは気が引けていたのだ。
この女性と一緒ならたぶん大丈夫だろう。その金髪の女性と柚江は混浴と書かれているドアを開けた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
一方そのころチクリスはというと、何故か混浴風呂にいた。
どうして、こうなったかというと偶然居合わせた、晴夫と名乗る青年に強引に連れてこられたのである。
というか、その時、男風呂にいたのはチクリスと晴夫しかいなかった。
そして、混浴風呂にたどり着くと、そこには一人の男がタオルを頭に乗せて鼻歌を歌っていた。
その他には誰もい。晴夫は肩を落とし落胆するが、ここまで来てあきらめられるかという思いで、
混浴風呂に入る。チクリスも黙った混浴に入る。男は二人がこの温泉に入ってきたのに気付き声をかけてきた。
「よう♪ 良いお湯だな」
何やら気さくな話し方をする男だ。チクリスと晴夫は仕方なくお湯に浸かる。
「君たちも混浴を期待して来たのかい?」
男はにやにやと笑いながら言う。
「ああ、そのつもりでしたが当てがはずれましたよ」
晴夫がそう言うと男は笑う。
「あははは、それはすまないね」
男は頭のタオルで顔をふき取り、もう一度方までお湯に浸かる。
そうこうしていると女風呂の方から誰かが入ってきた。チクリスは一瞬ぎくりとする。
晴夫は一瞬期待するがすぐに落胆する。そして、あの男は別に興味もなく。温泉を楽しんでいた。
「あらら、先客がいるわね」
金髪の女性がそう言って、温泉に浸かる。それに続いて柚江もお湯に浸かる。
「はああ、なんだ。柚江君か」
「何だとは何よ。こんな美人の柚江ちゃんと一緒に混浴よ。ちょっとは嬉しそうにしなさいよ」
「へいへい」
晴夫はそう言うと視線を金髪の女性へ向けた。
「良いお湯ね」
金髪の女性は晴夫の視線に気づいたのか、にっこりと笑う。晴夫は少し顔を紅くする。
「あ、海月が紅くなった」
柚江はちゃかすが、晴夫の隣にいる青年を見ていきなりぎょっとする。
「海月、その隣にいる少年は誰?」
「ああ、こいつ? 風呂場にいたのがこいつしかいなかったから、混浴へ行くために道連れにしたんだよ」
「なるほどね」
柚江は不気味な笑みを浮かべる。その少年は背筋に悪寒を感じ、肩を振るわせる。
「あれ? ケイトもこっちに来たのか」
今頃気づいたのか? 男は金髪の女性を見てそう言った。
「気づくの遅過ぎよ。賢治。やっぱりあんた温泉好きで子供ね。
こんな美人のお姉さんが入ってきたのに気づきもしない。あたしの美貌も子供には効かないのね」
「そう落胆するものでもないぞ。ケイトは美人だと思うけど。ボクにはそれよりもこの温泉を楽しみたいんだ」
ケイトはそれを聞いて少し落胆するが、すぐにいつもの調子に戻る。
「やっぱり、お子様なのね」
ケイトはそう言ってお湯から上がる。
「もうあがちゃうんですか?」
「ええ」
「ケイトも上がるのか。それじゃあ、ボクもそろそろ上がることにしょう」
賢治とケイトはそれぞれの出口から混浴風呂を後にした。混浴風呂に残った三人は無言で湯船に使っている。
その沈黙に耐えかねたのか。晴夫は無言で男風呂へと帰っていった。
最後に残されたチクリスは逃げるタイミングを逃した。
「さ〜てと、チクリス。あんた何でそんな格好してるのかな?」
ちょっと静かな怒り調子の柚江の声にびくりと反応するチクリスは、観念したように話し始めた。
「いや〜。あっしも温泉に入りたくってね。マスターも温泉に入ったから。
あっしも入りたくなってね。それで変身して温泉に入りに来たというわけです」
「ふ〜ん。そうなの。エッチな目的で温泉に入ったわけじゃないのね」
柚江は強い調子で言う。
「あっしはそんなつもりは全く。ただ純真に温泉を楽しみたかっただけです。マジですよ。信じてな〜」
チクリスは必死で弁解する。
「まあ、信じましょう。それと、そろそろ上がるから元の姿に戻っておきなさいよ!」
柚江はそう言うと、風呂を上がろうとする。その時、男風呂から悲鳴が上がる。
柚江とチクリスはお互いに顔を見合わせて、男風呂へと向かった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
その頃、恭助は月菜先輩から見せてもらった依頼品をじっくりと見ていた。
「これは一体?」
「これはこの島の神社に代々伝わる秘宝『月身石』と呼ばれるものらしいのですが、
これがいったい何なのか調べてもらえませんか」
恭助はその石をじっくりとこの石の輝きをどこかで見た気がする。
青い玉は俺の目に吸い付いた。
その輝きは俺の心に何かを映し出す。月をバックに女性が立っている。
しかし、その女性の顔は月の逆光により見えない。その時の月の色は銀色。
銀色の月は俺をあざ笑っていた。
「大丈夫?」
月菜先輩が俺を揺すったお陰で、正気に戻った。
「あっ、すみません。大丈夫です」
「今日はこの辺までに致しましょう」
月菜先輩はそう言うと、俺から月心石を取り、つづらの中へとしまった。
「さてと、皆さんが帰ってくる前に夕飯の準備をしましょうか」
月菜先輩はつづらを元の場所に戻して外に出た。俺もその後に続く。
「今日は何にしましょうか」
「・・・・・」
「大勢いますからね。バーベキューでもしますか。早速江崎さんに準備をしてもらわなくては」
「・・・・・」
「聞いていますか?」
「え、あ、すみません」
「どうしたんですか?」
「いや、別に」
「そうですか。あまり無理をなさらない方が」
「大丈夫です」
「そうですか」
「・・・・・実はですね。あの月身石を見たときあるビジョンが見えたもので、ちょっと気になって」
俺は真剣な顔になってそう言った。
「・・・・・そうですか」
月菜先輩は俺を顔をのぞき込む。
「何か?」
「いえ、ちょっと恭助君の真剣な眼差しがあの人によく似ていて」
「あの人?」
「うん。私の大切な人。うんん、ちょっと違うかな私の恩人でもあり、私を温かく包んでくれる人だった」
「だった?」
「うん。もうその人はいないんだ。どこかへいちゃったの」
「どこかって?」
「私にも分からない。ただ、私の幼い頃の記憶にあるのは彼の眼差しだけ。
あとは名前も顔も記憶に薄れているの。けどね、少しだけ君に似ているんだ。
それは、容姿とかではなくて雰囲気とその眼が似ているの。
彼も何かを見透かす眼を持っていたから」
「そう・・・・なんですか」
「だから、あなたにはちょっと甘えちゃうんだ。今回もこんな遠いところまで来てくれてありがとう」
月菜はにっこりと笑う。そんな時、林の奥が揺れてきょとんとした少女が一人現れた。
「あ、お姉ちゃん!」
林から出てきたのは静菜だった。静菜は俺をじっと見ると、とことこと近づいてべったりとする。
どうやら、静菜は俺にご満喫のようだ。
「ごめんなさいね。恭助君。お姉ちゃん!恭助君のお邪魔になるでしょ」
月菜がそう言うが、静菜は言うことを聞かず。俺の胸に頬をすり寄せてきた。俺は微妙な笑みを浮かべる。
「まあまあ、月菜先輩。そんなに怒っていると可愛い顔が台無しですよ」
俺は笑ってそう言う。
「ひどい!恭助君」
月菜はちょっとむっとした顔になるが本気では怒っていない。
「あ、お姉ちゃんまで笑う。そっちがその気なら、二人とも今晩はご飯なしだよ」
「それは困る」
静菜も俺もしゅんとした顔になる。
「・・・・なんてね」
月菜はぺろりと舌を出す。
それと同時に三人は笑った。何か仲良し三人組みたいな気がした。
俺はその時本当にそう感じていた。二人の笑顔を曇らしてはいけない。
例え何があっても俺はそう思った。空はもう薄暗く。月が空に上がっていた。
その月は不気味なほどの銀色の輝きを放ち、それが何かの前触れだとはこの時の俺には想像もつかなかっただろう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
第十三話 月島殺人事件C
柚江とチクリスが向かった先には腰を抜かした海月と風呂から上がったはずの賢治と呼ばれたあの男が立っていた。
二人が見ているものは、床に倒れた男性が頭から血を流していた。どうみても、その男は死んでいる様に見えた。
先ほどの悲鳴を聞きつけて番頭もその場に現れた。
「ダメだな。もう死んでいる」
賢治は男の脈を確認して言った。
その顔は妙に真剣で先ほどのお気楽さとはうってかわっていた。まるで別人の様にさえ感じる。
「とりあえず、警察を呼んで」
番頭にそう言って、警察を呼んで貰った。
「それにしても一体何があったんだ」
晴夫は声を震わせて言う。
「これは多分事故に見せかけた他殺だな」
賢治はハッキリとそう言った。チクリスと柚江は顔を見合わす。
「その根拠は何よ」
「根拠か。それはな。倒れている男の指先を見ろ」
賢治が言ったあたりを柚江は見てみた。そこには血文字で何かが書かれた後がある。
「これはたぶん犯人を指し示すメッセージだと思うんだ」
賢治はそう推理した。
『山』と書かれており、力つきたのか、その文字の隣には手が置かれていた。
「山?」
柚江は頭を傾げる。そうこうしているうちに、警察が現場に駆け込んできた。
とりあえず、柚江達は着替えることにした。そして、ロビーで現場の状況を警察に聞かれ、答えた。
「なるほど、遺体の状況からして間違いなく他殺ですね」
「それと、お風呂場にいたのは御崎賢治、海月晴夫の以下の二名ですね」
警察の人は番台の人に確認する。
「いんや、あと二人ほど入っとったぞ」
「二人?」
「おお、そこの金髪の坊主と三倉様じゃ」
「ということは、亡くなった三倉辰典は何番目に風呂に入ったんですか」
番台の人は少し考えてこういった。
「最初はそこの客人の御崎様がお入りになって、その次にそこの坊主が来て、
その次がそこの金髪坊主が来て、最後に三倉様がお入りになったから、四番目になりますか」
「なるほど、ということは犯行が可能だったのは残った三人」
「ちょっと待ってくださいよ。刑事さん」
賢治がいきなり、話しの間に入った。
「ボクたちを犯人扱いするのは早いですよ」
「どういう事だね」
「つまりですね。ボクたち以外にもあの風呂場に出入り出来たものがいるんですよ」
「それはホントか!」
「ええ、実はこの風呂場には三つ入り口があるんですよ」
「三つ?」
「ええ、一つは男風呂からの入り口、もう一つは混浴風呂と繋がっている女風呂。
そして、従業員が出入りする通路。この三つです」
「なるほど、それで」
「男風呂の方は番頭さんが目を光らせているし、女風呂と繋がっている混浴風呂は柚江さん達がいたので、
誰かが通ったら気付くはずです。問題は従業員が出入りする方にあると思いますよ。刑事さん」
刑事はそれを聞いて、アリバイのない宿の従業員を集めて貰った。
「女将さん。この五人ですか」
「ええ」
女将はそう言って従業員達を紹介した。
「右から樋脇さん、中山さん、山下さん、岬さん、里中さん」
順に説明されて従業員の方はお辞儀をする。
「女将。従業員の人なら誰でも従業員用の通路を通ってお風呂場には入れるんですよね」
「ええ」
「なら、この中に犯人がいるはず」
警察の人は従業員一人一人に質問をした。
「まずは、樋脇さん。あなたは五時半頃どこにいらっしゃいましたか」
ちょっと頭のはげた如何にもひよろり体型の男は汗をハンカチでぬぐい去り答えた。
「えっと、私は女将の言いつけで、夜のお客様への布団のチェックをするため、布団部屋にいました」
「なるほど、次は中山さん。あなたは五時半頃どこにいらっしゃいましたか」
「私はビールの在庫が足りなくなったので、酒屋さんまで車を飛ばしておりました」
頭が丸坊主の男の従業員が大きな声でそういった。
「なるほど、酒屋さんですか。では、次は山下さん。あなたは五時半頃どこにいらっしゃいましたか」
「俺はちょっと腹の調子が悪かったのでトイレにいたと思います」
男は裸足の足でスリッパを履いていた。
「次は岬さん。あなたはどうですか」
「私は休憩時間だったので、喉が渇いたので飲み物を飲んでいました」
女性従業員は着物の裾を気にしながらそういった。
「最後に里中さん」
「僕ですか。僕は休憩室でタバコを吸ってました。もちろんアリバイはありません」
ちょっと不良ぽい青年がそう言った。
「つまり、皆さんには決定的なアリバイがない分けですね」
刑事はそう言って従業員達の顔を見た。
「なるほどね。この中に犯人がいるみたいね」
賢治の後ろから女性の声がした。
「なんだ。ケイトか」
賢治は安堵の顔をする。
「で、犯人は分かったの?」
「ああ、たぶん。あの人が犯人だろう。一人だけおかしな行動をしている人がいる。
たぶん、あの人が犯人だろう。それに被害者のメッセージと一致するしね」
賢治はケイトに向けてウインクをする。
「あらそうなの。それなら、私はもう一風呂浴びてくるわね」
そう言ってケイトはお風呂場へと向かった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
一方そのころ男風呂でそんな事件が起こっているとは知らずに、和美と美奈子は温泉巡りをしていた。
まずは、ゆったり泡風呂で全身を刺激し、露天風呂で外の景色を満喫していた。
二人の頬はほんのりピンク色で、とてもご満悦だ。美奈子なんかは鼻歌を歌い出す始末。
そうこうしていると、隣から一人の女性が温泉に入ってきた。
「あら、あなた達は!?」
突然隣の女性が驚く。そして、美奈子が口を開いた。
「あ、鏡子さん」
鏡子さんは体をバスタブで巻いてお湯につかる。
「奇遇ね。あなた達もこの温泉宿なの?」
「いえ、私たちはここの温泉に入りに来ただけです」
「へえ〜。そうなの」
「そうなんです」
和美と美奈子は同時に頷いた。
三人はゆったりと温泉に浸かり、どの顔も桃色に染まっている。
「あ〜あ〜。お兄ちゃんも一緒に来れたら良かったのに」
美奈子は突然残念そうな顔をした。
「恭助さんは来てないんですか?」
「そうなのよ。お兄ちゃんは仕事のため、あの神社に残ったんです」
「あら、それは残念ね」
「残念なんですよ。せっかく、お兄ちゃんと一緒にラブラブ混浴出来ると思ったのに」
和美と鏡子は微妙な笑みを浮かべる。
「美奈子ちゃんってお兄ちゃんが大好きなのね」
鏡子がそう言うと、美奈子はにっこりと笑って頷く。
「うん。大好きだよ」
「でも、美奈子ちゃんは恭助君と兄妹なんでしょう」
「うん。確かに兄妹だけども私はそれでもお兄ちゃんが好きなの。
だから、和美お姉ちゃんには負けないよ」
それを聞いて和美の顔が一気に真っ赤になる。
「お兄ちゃんは気付かないけど、あれでも結構モテモテなんだよね」
「そうだね。恭助君は優しいから」
「そうそう、その優しさに女性は弱いのよね。鏡子さんもそう思いますよね」
美奈子にそう言われて、鏡子は一瞬びくりとする。
「う〜ん。確かに恭助さんは優しいですけど、そこだけじゃないと私は思うんです」
鏡子がそう言うと、和美も美奈子も顔を見合わす。
「さてと、あんまり長湯をしているとお肌が茹だってしまう。それにそろそろ時間だし」
和美と美奈子はお風呂から上がる。
「私はもう少し浸かっていくから」
鏡子さんはそう言うので、二人は一足先にお風呂を上がった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
第十四話 月島殺人事件D
御崎賢治は刑事さんに頼んで犯行が可能だった五人をロビーに呼んで貰った。
「さて、皆さんをここに呼んだのは。お風呂場で起こった殺人事件の真相を暴くためです。
つまり、あなた方五人の中に犯人がいます」
賢治は犯行が可能だった五人の顔をそれぞれ見回した。
「さて、男風呂には三つの入り口があります。一つは男風呂の入り口。それから、混浴と繋がっている女風呂。
そして、従業員が出入りできる通路。この三つですが、まず、混浴からの通路ですがあの時、
混浴を通ったものはいませんでした。そうですよね」
賢治は柚江の方を向き聞いた。
「ええ、確かにあの時は誰も混浴を通ってはいませんでしたよ」
「と言うことは、混浴風呂からの入り口は除外できる。
もちろん、男風呂の入り口は番頭さんの目があるのでこれも除外できる。
そして、残ったのは従業員用の通路となるわけです。
つまり、あなた方の中に三倉さんを殺した犯人がいます。
そこで、岬さん。あなた、先ほどから裾の方を気にしていますが、どうしてでしょかね」
賢治の言葉に岬は顔を青くする。そして、賢治は話しを続けた。
「あなたは、従業員通路を通って男風呂に進入し、一人でいた三倉さんの頭を鈍器か何かで殴りつけて殺害した。
その時にあなたは裾の方をお風呂の床でぬらしてしまった。だから、先ほどから裾を気にしてるんですよね」
賢治はにこりとして、岬の目を見た。
「でも、それだけじゃあ。私が犯人だとは限らないでしょ」
「残念ですが、あなたがやった証拠があります。
三倉さんが最後に残したメッセージにあなたの名前が書かれているですよ。
山という文字をね」
「何よ!山だったら私以外にもいるじゃない」
「いえ、この文字はあなたを指し示しています。山の隣に三倉さんは手を置いていました。
これは単に力つきて置いてあった分けではないんですよ。『山』と言う文字の隣に手を置く。
この手が実は『甲』という意味を表しているんです。
つまりあなたの名前、『岬』というあなたの名前を示してしているんです」
賢治のその言葉に、岬は愕然とする。そして、がっくりと膝を落とした。
「あいつが悪いのよ! あいつが! 三倉はねえ。あたしの元彼氏だったの。
あいつはあたしをおもちゃのように扱ってね。飽きたからって捨てるような男だった。
でも、それなら別に良かったの。あんな男に寄り添ってたのがバカだったんだから。
あたしはこの島に来て幸せな人生を送る筈だった。でも、あいつはこの島まであたしを追いかけて来た。
そして、今のあたしの生活を壊そうとした。だから、その前に殺したやったのよ。
あいつが一人で風呂に入っている間、後ろから木の丸太で一発思いっきり殴ってやったさ。
そして、あたしは従業員通路を通ってその場を後にした。あんたの言うとおりさ」
その後は泣き出した岬を警察の人が連行した。
「ご協力感謝します」
刑事は敬礼をして立ち去る前に、賢治は刑事を引き留めた。
「ところで、一つお聞きしたいのですが、死因は一体何だったのですか」
「死因ですか。死因は頭部による打撃の脳内出血です。
頭は二度ほど殴られていまして、二発目が直接の原因と思われます。
もっとも詳しいことは司法解剖が終わってからですがね」
刑事はそれだけを言うと車に乗ってその場を後にした。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
柚江達はとりあえず、事件が解決し神社に戻ることにした。
「え、そんな事件があったの? 気付かなかった」
美奈子と和美はびっくりする。
「あんたら二人はマイペースすぎ」
柚江は少しあきれている。その横でチクリスも頷く。
「それよりも、この金髪が何で俺たちに付いてくるんだ?」
晴夫は柚江の隣にいる金髪の少年(チクリス)を指して言う。
チクリスは急に指を指されて、びくりとする。
「この人はあたしの知り合いの人なの。偶然この島に来ていてね。
泊まる所も決まってないって言うから、月菜先輩に頼んで、泊めて貰おうと思うの」
柚江はとりあえず、口から出任せをつく。もっとも、本当の事を言うと話しがややこしくなると思うから伏せていた。
そんな柚江の苦労を知ってか。チクリスはすまなそうな顔をする。
「あのすみません。あっし、じゃなかった。私はケニッヒ・C・クリスといいます。
どうぞチクリスとおよび下さい」
金髪の少年チクリスは丁寧にお辞儀する。
「そうか。よろしく。チクリス」
とりあえず、晴夫達は彼を受け入れたみたいだ。
柚江達が温泉宿から帰る頃、恭助はと言うと、月菜先輩の勧めにより、別荘のお風呂を頂いていた。
この別荘のお風呂場も大浴場とまではいかないが檜のお風呂でそれなりに広く。
ちょっとした家族風呂ぐらいはあった。
そして、恭助は今日起こったことを思い浮かべていた。
船の上で出会った奇妙な二人組、一人は金髪の美人で確か名前をケイトさんと言ってたかな。
それに船酔いの賢治さんと一緒に宝探しをしているとも言ってたな。
そう言えば、ケイトさんが付けていた『月の雫』って、今日見せて貰った『月身石』と感じが似ていたな。
もしかしたら、近い存在なのかも知れない。
多分、あの二人は何日かはこの島に滞在している筈だから、もう少し詳しくあの石について聞いてみよう。
それに、あの石をさわったとき、同じビジョンを感じた気がする。あの銀色の月は何だったんだろう。
それにあの女の子は一体?
そう言えば、鏡子さんは無事に叔父さんの家に着いたかな。
甲板で野郎どもに絡まれていたから、少し心配だ。
弟さんが後から来るみたいだから、まあ多分大丈夫だろう。
俺の身体は芯まで温まったみたいなので、上がろうとすると。
風呂場の扉がいきなり開いた。
そして、そこに現れたのは白い薄手の着物、湯浴み着を着た月菜先輩が立っていたのだ。
月菜先輩はにこりと微笑み。風呂場の扉を閉める。
俺はいきなりの月菜先輩の登場で、すぐさま湯船に浸かり、前をタオルで隠す。
月菜先輩はシャワーで自分の身体をさっと洗いこちらに近づいてきた。
月菜先輩ってこんなに大胆だったけ? いや、もしかしたら過去の彼氏を俺に重ねてる? いや、待てよ。
落ち着け俺、確かにこないだまで美奈子が俺の風呂に乱入することがあったではないか。
そう、これはスキンシップ。スキンシップなのだ! 月菜先輩は俺の隣にすり寄ってくる。
しかも、俺の鼻には女の子の臭いがした。その瞬間俺のドキドキメーターは振り切れ寸前だった。
俺の股間のものがうずき出す。やばい、やばいぞこれは、どうしてこういう展開になる。
月菜先輩は確か用事があるから、先に風呂を俺に譲ったのではないのか。
まて、待て、なんかおかしいぞ。確かこれと同じ展開が前にあったような。
俺は首を隣にいる月菜先輩に向けて言った。
「もしかして、静菜先輩ですか?」
俺がそう言うと月菜先輩は頷いた。ああ、やっぱりね。俺はがっくりと肩を落とす。
それと同時に顔を湯船に埋めた。それを見ていた静菜はにっこりと微笑み、俺と同じようにまねをする。
俺はとりあえず、笑った。それにつられて静菜も笑った。
同じ顔だけども、月菜先輩と静菜先輩は違う。
もっとも、俺も区別はそんなについてない。
ただ、最近になって少しだけ分かるときがある。
それは目には見えない部分を感じ取った時に、二人の違いがハッキリと分かるからだ。
月菜先輩は普段おしとやかだが、たまに暗い影が見える。
それはさっき話していた名前も覚えていない少年のせいかもしれない。
俺的にはその少年に少し嫉妬するが、こんな子どもぽい嫉妬は月菜先輩には知られたくない。
それと静菜先輩はとても純真なんだ。汚れを知らない無垢な子ども。
そう言うたとえが一番合っていると俺は思う。
ただ、それはすごく危ういものであり、それが汚された時、静菜先輩がどうなってしまうのか。
この汚れ無き少女が、いつまでも笑顔を絶やさないで欲しいと願った。
俺がぼうっとしている間、静菜先輩は俺の背中にぴとっと張り付く。
いくら、静菜先輩だからと言って俺のMAXゲージはそろそろ限界点。
いや、もうそろそろ振り切ってもいい頃だ。
そんな時、またもや風呂場の扉が開いた。そして、今度こそ月菜先輩が風呂場に入ってきた。
もちろん、湯浴み着を着ているわけはなく、先ほどの巫女姿であった。
その顔は驚きとともに、怒りがにじみよっていた。
月菜先輩は無言で俺に近づき、そして、無言で俺の頬をはり倒した。
『バッチイイイイイイイイン』
その時の軽快な音は今でも覚えている。痛恨のダメージを与えられ、俺はあえなく撃沈。
戦艦は潜望鏡とともに水中に沈んでいった。その光景を如何にも楽しそうに静菜先輩は見ていた。
もしかしたら、静菜先輩は俺をからかっていたのかも知れない。俺は薄れる意識の中それだけを思っていた。
次に俺が目を覚ましたのは別荘のラウンジのソファーの上だった。
頭の下に何やら柔らかい枕がしかれていた。
「あ、起きたようね」
ちょっと顔を赤らめた月菜先輩が迎えのソファーに座っていた。その表情はどこかすまなそうな顔をしている。
俺の頬には冷たいタオルが載せられており、頬のはれは大分良くなっていた。
「えっと、ごめんなさい。あたし、ちょっと気が動転しちゃって。
いきなり恭助君をはり倒しちゃって本当ごめんなさい」
「いや、俺の方こそすみません。静菜先輩が入ってきて、俺も少し動転していたんです」
二人は顔を見合わせて真っ赤な顔になり、しばしの沈黙が訪れる。
「お姉ちゃんには後で言い聞かせておきますから。今回の事は本当にごめんなさい」
「いいですよ。先輩。俺気にしていませんから」
「・・・・ありがとう。それじゃあ、そろそろ夕飯の準備をしましょう。柚江さん達が帰ってくる頃ですから」
月菜はそう言うと、部屋を出ていった。
「あっ、俺も手伝います」
俺は月菜先輩の後に続いた。
その日の夕飯はバーベキューパーティーとなり盛大に盛り上がった。
それと、柚江達が連れてきたチクリスさんも、月菜先輩の許可を貰い泊まれるようになった。
もっとも、俺があの少年に会ったとき、何かただならぬ気配が感じた。
そう、あの転校生の月原朋美と同じ気配がした。
もっとも、彼女の髪の毛が銀色で、チクリスさんの髪の毛が金色だったのが同じに見えたのかも知れない。
同じ異国人のような不思議な感覚だったと、俺は無理矢理納得した。
そして、バーベキューパーティーも終わりを迎え、みなそれぞれの部屋へと帰っていった。
そして、その日は無事に終了した。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
男が一人、暗い林を駆ける。その息遣いは今にも心臓が破れる位激しかった。
空には銀色の月が昇り、その男の顔を照らす。男の顔は汗だらけで、恐怖に歪んでいた。
男は走り続ける。途中、石に蹴躓き顔面を地面に叩きつける。
その顔は泥だらけになるが、男はすぐに立ち上がり、逃げ出す。
まるで、ハンターに追いつめられた動物の様に、いや実際彼は狩られる存在なのかも知れない。
男はやっと林を抜けるが、すぐに落胆した。目の前には断崖絶壁が姿を現す。
下には海が見え、恐ろしい高さの波が岩を削っていた。その高さは三百メートルはあるだろう。
落ちたら一環の終わりだ。しかし、男の逃げ場は無かった。
男は後ろを振り返る。そして、そこにいるはずの無い人を見た。
「何で俺なんだよ。俺が何をした。俺は悪くねえ。何もかもあいつが悪い。
俺のせいじゃないんだ。俺は悪くない。俺はあいつの命令でやっただけなんだ。
だから、殺さないでくれ。いやだ、俺は死にたくねえ。死にたくねえんだ」
男はしょんべんを垂らし泣き言を言う。
しかし、男を追いかけてきたものは、男の言う事を耳にしていないようだ。男の顔が恐怖に歪む。
いや、恐怖と言うよりも亡霊でも見ている様な顔で、男は最後の言葉を吐く。
「何で生きてるんだよ。確かに死んだはずなのに」
男の最後の言葉とともに、男の胴体が真っ二つに避け、崖から海へと落ちていった。
『追いかけっこはここまでだ。残るはあと一人、いや後二人か』
影はそう言って闇へと消える。
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早朝のまだ、お日様が顔を出し始める時間。
早朝ランニングをしているお年寄りが、浜辺を走っていたとき、
浜辺に何やらうち上がれれている二つの黒い物体が目に入る。
老人はその物体に近づき、明るくなり始めるとう同時に腰を抜かした。
なんと目の前には人間が真っ二つになっているのだ。
それも、ベロをだらりと垂らして、目玉が今にも飛び出しそうなほど、開いていた状態で。
しかも、臓器は浜辺の鳥たちに食い荒らされており、悲惨な状態であった。
こうして、月島の朝が明けたのであった。
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第十五話 月島殺人事件E
月島の空気はとても澄んでおり、朝は特に美味しい。
そんなさわやかな朝に、一人の男が月島神社にやって来たのが事の始まりだった。
男の名は御崎賢治。自称お宝ハンター。
そんな彼が何故月島神社に来ていたかというと例の海賊が隠したお宝がどうやらこの月島神社の当たりにあるらしい。
さて、彼を怪しく思った美奈子と和美は、そんな彼の行動を監視していた。
美奈子と和美は朝早く起きて、外の空気を吸いに神社まで散歩に来ていた。
ちなみに、柚江はというとおへそを出しながらグウグウと熟睡していた。
だから、柚江を置いて来ている。さてと、賢治はそんな二人に監視されているとは思わず。
神社の作りを見て、手に持っている紙をのぞき込みながら、何かを確認していた。
賢治は神社の正面に立ち、方位磁石を取り出し方向を確認する。
そして、ある方向を向くと一歩一歩前へと進む。そして、林へと消えていった。
「あの人一体何してたんだろう?」
和美は首を傾げる。
「でも、何だか怪しいよね」
美奈子は好奇心の眼を向ける。
「美奈子ちゃん。そろそろ帰ろうよ」
「何行ってるのよ。和美お姉ちゃん。これは追跡しかないでしょ。追跡」
美奈子の眼はランラン輝く。たぶん、和美の言うことはもう聞かないだろう。
和美は美奈子を説得することを諦める。
「でも、私たちだけで行って大丈夫かな?」
和美はちょっとおどおどする。
「大丈夫、大丈夫」
「何が大丈夫なんだ?」
突然二人の後ろ側から男の声がした。そこに立っていたのはなんと、首にタオルを巻いた恭助だった。
彼はどうやら、さっき起きたばかりなのか髪の毛が所々はねていた。
「お兄ちゃん」「恭助君」
二人は同時に声を上げた。そんな二人を不思議そうに恭助は見ていた。
二人の話によると怪しいヤツが神社の周りをうろついていたということだった。
「というわけで、お兄ちゃん。一緒に来てよ」
美奈子は恭助の腕を取り、グイグイと引っ張った。
「‥‥‥恭助君」
和美は不安そうな顔をする。
「大丈夫だよ。坂下。俺が一緒なら平気さ」
恭助は和美の不安を取り除くように、笑顔を向けた。そんな、笑顔に和美は頬を染める。
「早くしないと、あいつを見失っちゃうよ」
美奈子は二人をせかす。そして、三人は怪しい人物が入っていった林へと入る。
森の中は案外涼しく、冷たい風がながれてくる。恭助の右手には美奈子、左手には和美が手を握りしめていた。
森は朝日が差し込み、自然の芸術が展開されている。三人はとりあえず、男の足跡と思われる跡を追い掛けた。
そして、視界がいきなり開かれた。目の前には小さな滝が流れていた。
そう、目の前にあるのは昨日、静菜先輩が水浴びをしていた滝だった。
滝の近くには男の姿はない。美奈子は当たりを調べるがやっぱり男の姿はなかった。
「どうやら、見失ったわね」
美奈子はつまらなそうな顔をする。和美はちょっと安堵した。
俺はそんな二人を見て小さく笑っていた。
そんな時、俺は滝が昨日と違う流れをしていることに気が付いた。
恭助は滝に近づき、そして驚いた。
「二人ともちょっと来てくれ」
俺は二人を呼び、滝の奥をじっと見てもらった。
「あ、滝の後ろに洞窟がある」
美奈子はそう言って、滝の中へと入っていく。それに続いて恭助が、最後に躊躇する和美が洞窟の中に入った。
「入口は狭いけど中は案外広いね」
恭助は洞窟の周りを見てそう言った。
「お兄ちゃん。結構、奥深そうだよ」
美奈子は奥を指して言う。洞窟の奥は暗く、不気味に見えた。
今いる当たりは洞窟の入口だから、かろうじて明かりがあるのだろう。
恭助はこれ以上行くのは危険と感じたが、美奈子は恭助の手を放し、すたすたと洞窟の奥へと進んでいった。
「おい、美奈子」
俺の声を無視して、美奈子は洞窟の奥へと進んでいった。
「しょうがない。坂下はみんなのところに戻ってくれ」
「え、恭助君はどうするの?」
「俺は美奈子を連れ戻してくるよ」
その言葉を聞いて和美の心がざわめいた。
「‥‥‥‥あたしもいく」
和美は精一杯の声を出していった。そんな和美の言葉に俺はちょっと面を喰らう。
「わかった。一緒に美奈子を連れ戻そう」
恭助はそう言って和美の手をきゅっと握る。和美の体温が上昇する。
たぶん、頬を紅く染まっていただろう。和美はここが洞窟で暗くて助かったと思った。
「それから、坂下は絶対俺の前には出ないように」
恭助は一瞬和美の目を見てそう言った。和美は曖昧に頷いた。
大体、五分くらい経っただろうか。洞窟はどんどん幅が広くなり、天井も高くなってきた。
それと、歩いていて分かったのだが、俺たちはどうやらどんどん下の方へと歩いているみたいだ。
その証拠に先ほどまでの道は下り坂だったのだ。不意に、洞窟の奥から美奈子の声がした。
「お兄ちゃん!」
二人は顔を見合わせて、慌てて声のする方へと走った。
そして、洞窟は球場の様な広さの場所へと出た。
目の前には大きな入り江が姿を現す。その入り江の近くに美奈子の姿があった。
「お〜い。美奈子」
俺は声を張り上げて言う。
「遅いよ。お兄ちゃん」
美奈子はちょっと頬を膨らませるが、すぐににっこりと笑う。
「凄い場所だね」
和美は驚きの声を上げた。
「まさか、あの滝からこんな場所に続いてたとはホント驚きだよ」
俺も和美に同意した。
三人が入り江に感動しているとき、左の岩の上に人影が見えた。
「あ、あそこに誰かいるよ。キッとあの怪しいヤツだよ」
美奈子はそう言って、その影に近づく。その男は岩の上で何やら瞑想にふけっていた。
恭助はその男の顔に見覚えがあった。
「賢治さんじゃないですか」
恭助がそう言って男に近づく。男は一瞬ぎょっとしたが、相手が恭助だと分かって安心する。
「恭助君の知り合いだったの?」
和美は驚いたように言った。
「ああ、二人はあったこと無いんだったね。こちら、賢治さん」
賢治はにっこりと笑う。
「でもって、こっちが俺の妹の美奈子とクラスメートの坂下さん」
二人は小さくお辞儀した。
「それにしても賢治さんが何故このようなところに」
恭助は疑問に思ったことを口にした。
「いや〜。地図に書かれている通りに来たら、ここに出てね」
賢治は頭をかく。その仕草が妙に子どもぽかった。
「と言うことはここに。宝物があるの」
「よく知ってるね」
「賢治さんが船酔い中にケイトさんからいろいろ聞かされましたから」
「なるほど、あいつも結構おしゃべりだな」
「ねえ、二人とも一体何の話しをしてるのよ」
美奈子は頬を膨らませて聞いた。
賢治は事の顛末を話し始めた。
「ボクは海外で宝の地図を手に入れたんだ。どこで手に入れたかはいえないけどね。
そして、その地図には大ざっぱな位置とその場所のヒントと思われる言葉がいくつか書かれていたんだ。
その一つのヒントが二つの月が昇る場所。そう、この島で年に一度月が二つに見えることなんだ。
そして、今晩がその二つの月が昇る日なのだよ。その情報を手に入れたボクとケイトはこの島に来たと言うわけ。
そして、この場所はその大ざっぱな地図で行き着いたところ。
結局は二つの月が昇った時にしか、その財宝は見つからないようだ。それに、最後の一文が気になる。
『月に魅入られし眼を持つ者のみ、真の財宝を持つ資格を得る』。
この『月に魅入られし眼』って言うのが、まだ解読できていないんだ。ボクの天才頭脳をもってしても解けなかった。
もっとも、今晩この場所で何かが起こるのは間違いないことだけどね」
「ふ〜ん。何だか良くわからないけど。要するに宝探しをしていると言うわけね」
美奈子は賢治の顔を見てそう言った。
「おお、君は良くわかっているね」
「でも、本当に宝なんてあるのかな」
和美はまだ半信半疑な態度で言う。
「ちっちっちっ、宝なんてものは二の次さ。ボクはその経緯が目的なんだから」
「だったら、あたし達が宝を見つけたら、山分けしてもいいってこと」
「ふむ。それは別に構わないよ」
「やったぁ〜♪」
美奈子はぴょんぴょん跳びはねる。
「さてと、ここでこうしていてもしかたがないから、戻ろうか」
賢治はそう言って元来た道を戻る。恭助達もそのあとを追った。
だけども、元来た道を戻ると何故か枝分かれした道についた。
「こんなところに枝分かれなんてありましたっけ?」
恭助は首を傾げる。賢治の顔が険しくなった。
とりあえず、右の道を進んだが、その道はすぐに行き止まりになる。
俺たちはとりあえず元来た道に戻ると今度は何故か三本道に分かれていた。
「これは一体?」
恭助の言葉に賢治の顔は更に険しくなった。
「やばいなこれは、たぶん侵入者用のトラップが作動しているみたいだ」
賢治が突然そんなことを口にする。
「トラップ?そんなバカな」
「いや、こういった罠があると言うことはますます、この場所に宝があると言うこと、
それもとびっきりの宝さ。これはおもしろくなってきたぞ」
賢治の顔は楽しそうに見えた。
「賢治さん。ちょっと不謹慎では?」
「あ、ごめんごめん。たぶん、大丈夫無事に地上に帰れるさ。
何せ地上にはボクの最高の相棒がいるんだから心配いらないよ」
嫌に自信満々で賢治は答えた。三人はとりあえず、苦笑いを浮かべ、頂上を目指して洞窟をさまよった。
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一方その頃、残された柚江と晴夫はまだ寝ていた。
いや、晴夫は一晩中恭助に自分のジャーナリストとしての出発点を永遠と語っていて寝不足。
柚江は低血圧なので寝起きは悪い。
それと、チクリスはと言うと、彼の場合は晴夫の演説に偉く感心し結局彼に付き合ってしまったのだ。
まあ、眠らなくてもいい体質なので、誰よりも早く起きていた。いや、寝ていないと言うのが正しいかも知れない。
そんな彼だから、美奈子と和美が出て行くのも、その後恭助が出て行くのも、知っていた。
もっとも、彼らとあんまりつきあいは無いので、声はかけていない。チクリスは一人、散歩に出かけた。
たぶん、マスターはまだ起きてこないだろう。あの人の寝起きはいつも最悪なんだ。
おこす身にもなって欲しいとマスターに言いたいのだが、そんなことを言ったら後でどんな報復があるか分からない。
そういうわけで、チクリスは一人、島を散歩していた。
散歩の途中、海岸の方が騒がしかったが、特に気にもとめず素通りする。
その時、いきなり肩を叩かれて、チクリスは振り向いた。
その頬には何故か指が刺さる。
「何ですか?」
チクリスはとりあえず、そう言った。目の前の女性はつまらなそうな顔をする。
「十五点」
「何ですか? その点数は?」
「君のリアクションを点数にしてみました」
チクリスは少しあきれる。最もその顔にはかすかだがうれしそうであった。
「数百年ぶりの再会かな?」
チクリスは素っ気ない態度で言った。
「あら、五十年前にも一度だけ会っていたわよ。確か」
「そう言えばそうだったな」
「そうよ」
「悪い悪い。最近ボケ気味でね」
「あら? 私たちはボケ無いわよ」
痛いところを疲れたのかチクリスの顔が歪む。
「まあ、何だ。君も相変わらずで何よりだ」
「そうね。そう言えば、あなた今は何してるの? 五十年前は放浪の旅をしていたけど」
「あれからいろいろあってな。今は彼女に使えているよ」
「ああ、あの子ね。なかなかおもしろい子よね」
「会ったことがあるのかい? ああ、そうか。そう言えば、混浴風呂で見かけているな」
二人はしばらく無言で歩き続ける。
「君はあれからどうしたんだい? 本当の‥‥‥いや止めておこう。そんなことを聞く必要はないよな」
チクリスはまたもや押し黙る。
「ところで、用があって私に声をかけてきたのではないのか?」
「用はね。実は朝から彼の姿が見えないの。あなた知らない?」
チクリスは少し考えてから言う。
「彼ならば、朝方神社で見かけたぞ」
「なるほど、神社に行ったのね。なら、心配はいらなそうね。それなら、私と一緒に泳がない?」
いきなりの提案にチクリスは驚く。
「それと、あなたの使えている彼女も一緒に、もちろんそのお友だちも一緒で良いわよ」
その女性は言うだけ言うと、ウインクしてそのままかけだしていた。
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ここは月島の派出所。一人の男性警官が机に向かって瞑そうをしていた。
「しっかし、こうも立て続けに事件が起こるとは、二十年この島にいるが初めてだ」
男は頭を抱えると、奥の方からもう一人の警官が出てきた。
「そうですね。私はまだ五年目ですが、こういった異質な事件を我々だけで対処できるのでしょうか。
本庁の方からはなんて言ってるんですか」
「それが、本庁の方でも何やら大事件が発生しているとのことで、送るのは遅れると言ってきている」
「そんなんで良いんでしょうか? もし、また殺人事件が発生したらどうします。
それも、あんな奇妙な殺し方を見たことが無い」
「確かにな、上半身と下半身が真っ二つにされていた。そんな、殺し方を人間が果たしてできるのか」
男の顔が恐怖に染まる。
「まあ、我々ではどうしようもありませんね」
「・・・・・そうだな」
二人はため息をついて、眼を閉じた。
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第十六話 月島殺人事件F
柚江と晴夫が起き出したのは結局お昼過ぎだった。
それも、チクリスが必死におこした結果何とか柚江は起きることができた。
その時の状況はこうだ。
「マスター。いい加減に起きてくださいよ」
チクリスは柚江の肩を揺すり動かすが、全く反応がない。むしろ穏やかな寝顔ですうすうと眠っている。
チクリスはため息をつく。仕方なしに、最後の手段を取ることにした。
チクリスの細い腕が柚江のはだけたパジャマをまくし上げて、柚江のおへそが顔を出す。
チクリスは一瞬にやりと笑い。微妙な手つきをする。その手を柚江のお腹に触り、くすぐりだした。
最初は無反応だった柚江だったが、だんだんと反応が出てきた。
そして、いきなりガバッと飛び起きて、目の前のチクリスの顔面にヘッドロックを決めて、再び夢の世界へと入ろうとする。
チクリスは紅くなった額を抑えて、禁断の手段を取った。
あろう事かチクリスは柚江の鼻と口を力一杯押さえ、柚江が息できない状態にした。
柚江はパッと目を開けて、チクリスを蹴り飛ばした。柚江は思いっきり息を吸うと、再びベッドに入ろうとする。
「いい加減に起きてくれないか」
チクリスはうんざり気味で言った。
「う〜ん。いい朝ね」
柚江は大きな伸びをして、深呼吸した。その隣であきれた顔をするチクリスがいた。
「もう朝じゃなくて、昼だよ」
チクリスの言葉に柚江は一瞬睨んだ。
「別にいいでしょ。あたし的には気分は朝なんだから」
「さいですか」
「そう言えば、恭助の姿を見かけないな」
もう一人の寝坊助の晴夫が言った。
「あら、こっちは美奈子ちゃんと和美がいないわよ」
「ああ、彼らなら朝方散歩に出かけたまま帰って来てないな」
「ふ〜ん。なるほどね。和美もなかなかやるわね」
何故か柚江は不気味な笑い声をあげる。
「それよりもさ、さっき散歩に出たとき、ケイトさんに海に誘われたんだが行かないか」
チクリスのその言葉に晴夫は突然チクリスの肩を掴む。
「いこう!」
その目は何故か炎が揺らいでいた。
「なんか。海月いっちゃってる」
柚江は晴夫から離れる。
「でも、恭助達はどうするの。あたし達だけで行ったら、あいつらに連絡出来ないよ」
「それならば、月菜先輩に頼めばいいのさ。それで万事解決。さあ行こう。
それ行こう。ケイトさんが僕らを待っている」
嫌に張り切る晴夫は鼻歌交じりで気色が悪かった。
「あいつ変なものでも食ったのか?」
柚江の問にチクリスは首を傾げた。
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白い砂浜、青い海、その境界線には波が行ったり来たりしていた。
浜辺には何人か人がいたが、その誰もがサーフボードを片手に海へと向かっていた。
サーファーの肌は太陽のせいか黒く。男らしさがみなぎっている。この辺では波が高く。
サーフィンをするには最適なのだという。もっとも、そことは別に泳ぐ人たち用の場所には浮き球で仕切っていた。
こうすれば、間違ってサーファーが泳いでいる人をひくこともないと言う配慮からなのだろう。
浜には二つの観察塔があり、レスキューの人が待機している。
海での危険から人々を守るため、レスキュー隊は目を光らせていた。
「結構良い砂浜ね」
柚江は砂浜を見てそう言った。
「そうね。人口砂じゃない自然の砂は本当に綺麗よね」
その隣のケイトは頭の上の麦わら帽子を押さえ言う。
「そんなことより、どうして私たちは荷物持ちなんだ?」
後ろから両手いっぱいに荷物を持つチクリスが悪態をついた。
「あら? 女の子に重い荷物を持たせるき?」
ケイトは意地悪そうに言い、すたすたと浜辺に降り立つ。
「ああ、待ってくださいよ。ケイトさん」
その後ろをチクリスより、いっぱいの荷物を持った晴夫が後を追う。
「チクリス。あんたも彼を見習いなさいよ」
柚江はそう言って海辺へと走っていき、チクリスは無言でその後を追った。
浜の砂は踏みしめるとキュキュと音がした。どうやら、この辺は鳴き砂と呼ばれる砂らしい。
柚江達は着替えるために、海辺の更衣室を借り、そこで着替えることにした。
更衣室を出るとそこにはすでに晴夫とチクリスの姿があった。
「おおおおおおお!!!すばらしいですぞ!!」
晴夫は大げさな態度を取るがチクリスは無表情であった。
ケイトの水着は白のセクシーな水着で胸が強調されている。
腰には薄い布を付けていた。もちろん、頭には麦わら帽子を乗せている。
一方、柚江はと言うと黒ビキニでケイトに劣らずとも大きな胸が黒で強調されていて、
大人の雰囲気を出している。その上には白のパーカーを羽織っていた。
晴夫の鼻の下が伸びるが、すぐに元の顔に戻る。
「二人ともなかなかの水着だね」
二人は頬を染める。チクリスは少しあきれていた。
四人はとりあえず、海辺でビーチボールをしたりしてあそんでいた。
太陽が真上から少し傾いた頃、四人に声をかけてきた人物がいた。
「あのすみませんが、双子月旅館へはどういったらよいでしょうか」
丁寧な物腰の少年が柚江達に尋ねてきた。
「ああ、それならばあたしが泊まっている旅館よ」
ケイトが言うと少年は安堵する。
「なにぶん、この土地は初めてなモノで場所が分からなくて」
少年は恐縮する。
「そういえば、あなた名前は?」
「あ、僕は文月和人っていいます」
和人はバカ丁寧にお辞儀する。
「文月って確か?」
柚江は晴夫に視線を送る。
「恭助が連れてきた女性の名も確か。文月だったよな」
晴夫と柚江はお互い頷く。
「もしかして、皆さんは姉さんをご存じで?」
どうやら、この少年文月和人は文月鏡子の弟だという。
そう言えば、鏡子さんが後から来る弟がどうとか言っていたかも知れない。
時間はお昼を回っていたので近くの海の家で昼食を取ってから和人を双子月旅館まで送ることにした。
海の家の食べ物は伸びきったラーメンと味の薄い焼きそば。
なぜ、こんなものが海だと高いのか不思議に思うが、それしか食べるものはないので結局みんなでラーメンを食べた。
ちなみに、ケイトの奢りである。柚江達がラーメンと格闘しているとき、
海の家の前を凄い勢いでレスキュー隊が通っていた。
どうやら、何事か事件があったみたいだ。柚江と晴夫は残ったラーメンを一気に平らげて、その後を追った。
「二人ともどうしたんでしょうか?」
和人が不思議そうに言うと、チクリスはあきれ顔で言った。
「たぶん、野次馬しに行ったんでしょう。おもしろそうな事には目がないですからね」
「あら? あなたも昔はそうじゃなかった」
ケイトは意地悪そうな顔をして、ラーメンのスープを飲み干す。
「昔の事は持ち出さないでくれ」
そんな二人の会話をよそに、柚江達はレスキュー隊がいるところについた。
そして、そこで血だらけで倒れている人物を見た。
「しっかりしろ! 一体何があった!」
レスキューの人は声を張り上げる。男は口をぱくぱく開けるが声が出ない。
「おい! 坂巻、レシーバーで救援を呼んでくれ。それと医者だ。これは俺たちじゃ手に負えない」
隊長らしき人が必死に男の血を止めようとするが、血はどんどんと吹き出して止まる気配がない。
男は更に口をぱくぱくと開ける。
「その男何か言いたそうだよ」
柚江は男の口に耳をやる。レスキューの人たちは一瞬呆然とした。
男は最後の力を振り絞って声を上げた。
『あの女の亡霊が・・・俺たちを・・殺し・・・・・ぐは』
男は口から血を吐いて首を落とした。
「坂巻、医者はもういいから。警察を呼んでくれ」
隊長は男を静かに浜辺に寝かせた。
「おい! 柚江君」
「言わなくても分かっているよ。これは殺人だな」
「ああ、ただ気になるのは亡霊って何の事だろう?」
「さあね。ただ、あの女って言ってたから犯人は女と考えて間違いないね」
それからすぐに警察が現場に訪れた。レスキューの人が警察に事情聴取される。
そして、柚江達も事情聴取された。
「しかし、こうも立て続けに事件があるとは、月島に努めて以来の大事件だな」
「えっ、この事件以外にも何かあったんですか?」
「ああ、昨日の夕方起こった双子月旅館の事件と朝方起こった胴体が真っ二つの死体。
前者は犯人が捕まったが、後者はまだ捕まっていなくてね。本当に恐ろしいよ」
「なるほどね。二日続けて三人もの死者が出たというわけですか。それは、怖いですな」
「ああ、だが安心せい。本土の方でも時期に応援が来るはずだから」
警察の人は力無く笑った。どうやら、本土の応援はあまりあてにならないようだ。
「三上さん。大変ですよ!」
砂浜の端っこから全力疾走でかけてくる若い警官がやって来た。
「どうした?」
「それが、例の双子月旅館での事件の犯人が脱獄しました!」
「何それは本当か?」
若い警官は頷くとすぐに、二人は砂浜を出て行った。
「何か解ったかい? 柚江君」
「ああ、一見バラバラに見えるこの事件も実は一本の糸によって繋がっている。ただ・・」
「ただ?」
「亡霊って言葉が気になる。その辺がこの事件の鍵になると思うよ。
まあ、殺された人の身元が分かれば調べようがあるけどね。
あとで、もう一度警察に行ってみよう。それに、脱獄犯の事も気になるしね」
柚江はそう言って、チクリス達の元へと戻った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
『はあはあはあはあ』
心の息づかいが荒くなる。
『あと一人で何もかも決着がつく。あと一人で全ての復讐が終わる。ここまでは計画通りだ。
警察も私を疑うことはないだろう。何せあっちでは脱獄犯の事で忙しいのだからな。
さあ、その間に最後の仕事に取りかかろう。あの醜い道化師を復讐の業火で焼き尽くしてやろう。
何もかも灰と化すように。己の罪をこの私が裁いてやるのだ』
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
第十七話 月島殺人事件G
「一体いつまで続くんでしょうね。この洞窟?」
恭助はため息とつく。その横では和美と美奈子が不安な顔をする。
「・・・・こっちから風が吹いているみたいだ」
賢治は突然そう言って走り出した。恭助は慌てて後を追う。洞窟の周りがだんだん狭くなる。
そして、いつの間にか前の方が明るくなってきた。そして、恭助は洞窟を抜け出た。
「こんなところにも洞窟があったとは・・・ここは島のどこら辺だろう?」
賢治が周りを見渡す。前方には崖があり、その下はたぶん海だろう。波の音が聞こえた。
恭助はこの場所を見て嫌な気分になった。
「恭助君・・・大丈夫?」
和美が心配そうな顔をする。
「どうやらここは島の反対側みたいだな」
賢治はそう判断した。
「お兄ちゃん。どうしたの?」
「いや、何でもない。ずいぶん時間が経ったから柚江達が心配している。早く戻ろう」
恭助はそう言って和美と美奈子の手を取った。
そんな時、いきなり草陰がそして、女性が顔を出した。
その女性は恭助達を見ると驚いて逃げ出した。
「あれ? あの人は確か?」
賢治はその女性に顔に見覚えがあった。
「あの人が何か?」
「先日起こった事件の犯人だよ。何でこんなところにいるんだろう?」
「もしかして、脱獄って事はないでしょうか?」
「それはあり得るね。こういった島の牢獄施設は結構ずさんなものだから」
「それじゃあ、早く捕まえないと」
恭助と賢治は頷く。
「坂下と美奈子はここにいてくれ。俺たちはあの脱獄犯の様子を見てくる」
「恭助君。危ないからやめなよ」
「大丈夫さ。男ふたりならたぶん」
「そう。なら安心だけども」
和美はそう言ったものの心では凄く心配していた。
「あたしは心配しないよ。お兄ちゃん、しっかりやってきな」
「ああ、じゃあ行ってくる」
そう言って恭助達は岬が消えた森へと入っていった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
恭助達が無事洞窟を抜けた頃より少し前。柚江と晴夫は事件の詳細を聞くために島で唯一の交番へと向かった。
「ここが交番?」
柚江は交番を見てそう言った。
「どうやらそのようだね」
交番に入るとそこにはお巡りさんが座っていた。
「あの〜」
柚江は少し遠慮深そうに言う。お巡りさんは柚江達の存在に気づき振り向いた。
「何かね?」
お巡りさんは気の良い顔をした。
「実は先ほど起こった事件についておたずねしたいのですが?」
「さっき起こった事件? ああ、海岸の死体かね」
「そう! それです。遺体の身元は分かりましたか?」
お巡りさんは少し考えてから言った。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「あたし達こう見えても過去に殺人事件を解決したことがあるんです。
だから少しでも警察のお手伝いをしてくて」
柚江はうるうるした眼差しをお巡りさんに向ける。お巡りさんは顔を赤らめた。
「仕方ないな・・・こっちも分かっている事は少ないんだが。どうやら、殺されたのは観光客らしい。
それも、双子月旅館で殺された被害者と朝方発見された真っ二つの死体と、
先ほど殺された被害者はどうやら、友人関係にあったらしい。昨日の船のリストに名前が載っていたし。
同じ部屋に泊まっていたらしい」
「なるほど、つまり殺された被害者の共通点はそこですか。
もしかして、次に狙われるのはその逃げた脱獄犯じゃないですか?」
「・・・・どうして?」
「だってこの島にいる三人に共通した人はあの人しかいないでしょ」
お巡りさんは顔を青くしていきなり奥へと消えた。
「どうやら、次に殺される可能性があるのは彼女みたいね」
そう言って柚江は交番を出た。
「これからどうするよ」
「そうね。まずは全ての事件の洗い直しかな。最初は双子月旅館に行ってみましょう」
「了解」
二人は旅館へと向かう道を歩き始めた。
「でも、何でもう一度あの旅館に?」
「あの時起こった事件の犯人はひょっとしたら岬さんじゃない可能性があるの。
あの時、岬さんは頭を一発殴ったと言っているけど、殴られた後は二ヶ所あった。
たぶん、岬さんが三倉を殴ったあと何者かにトドメをさされたのね。そいつが今回の事件の真の犯人よ」
「でも、確かにあそこにはあの二人しかいなかったんじゃ」
「確かにあの時の状況を考えるとそうなるけど。きっと第四の道があの風呂場にあるはず。
それもあたし達には見えているのに気づかない道が」
柚江は妙に自信満々で言う。
「まあ、言ってみればわかるかな」
旅館に着くと二人は早速お風呂場へと向かった。
事件の事を調べてると言ったら女将さんは快く承諾してくれた。
風呂場は今は清掃中と書かれており、中には誰も入っていない。
「ここで三倉さんが殺されていた。そう言えば、海月はあの時どこにいたのよ」
「・・・・確かあの時はサウナに入っていたかな」
「その時、変わったことは無かった?」
「変わったこと? −−−−−−特になかったと思うよ。
あ、そう言えばあの時番頭さんは男風呂に入っていたのは四人だっていったけど。
確かもう一人いた気がするな。俺の気のせいかも知れないけど」
「風呂場に入っていたのは確か、海月とチクリス、三倉にケイトさんの連れの賢治っていう男ね」
「そうなんだけども、やっぱりもう一人いた気がする」
「たぶん、そいつが犯人だ。やっぱりこの風呂場には第四の道があるのよ」
「でも、そんな道どこにもないよ」
「まずは一つ一つ検証してみよう。まずは男風呂の入口。こっちは番頭さんの目があるから除外。
次に従業員用の入口は岬さんが使っているからこれも除外できる。と言うことは最後には女風呂の入口か」
柚江は男風呂から混浴風呂の入口へと向かった。
混浴風呂の左右に男風呂、女風呂へと続いている。
「悲鳴が上がる前まで混浴風呂を通ったものはいない。
と言うことは犯人は最初から男風呂にいて待ち伏せをしていた」
「その可能性は高いね」
「もしかしたら、犯人は女風呂を通って男風呂に侵入した。
そして、三倉氏が入ってきて撲殺するはずだった。しかし、ここでアクシデントが発生した。
なんと三倉氏は岬さんに殴られて昏睡したからだ。だが、犯人はそれを利用して罪を彼女にかぶせた」
「う〜ん。悪くないけど、それは全て机上の推論でしかないな」
「そうなのよね。今ひとつ決定的な証拠がないのよ」
「考えてもらちがあかない。とりあえず、番頭さんのところにいってあの時女性風呂にいた人の事を聞いてみよう」
番頭さんは風呂の準備のため、更衣室で準備をしていた。
「番頭さん。すみませんがあの事件の時、女風呂に入っていた人の事を聞きたいのですが」
番頭は少し渋い顔をしたがすぐに話し出した。
「確かあの時は、最初にケイト様が入られてその次に文月様が入られました。
その後、あなた様とお連れの二人が入られましたから。五人ですかね」
柚江は番頭にお礼を言って風呂場を後にした。
「これは一体どういう事だ! まさか文月さんもこの旅館だったとは」
「何か怪しいわね。 でも、証拠が何一つ無い」
柚江は頭を回転させる。
「ねえ、海月。別荘にパソコンってあるかしら?」
柚江はいきなり尋ねる。
「それはどうだろう? こんな島にパソコンなんてあるかどうか?」
「そうよね。でも、ダメ元で月菜先輩に聞いてみましょうか?」
二人は急いで別荘へと向かった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
柚江達が別荘に向かう頃、恭助達は森をさまよっていた。
「洞窟の次は森かよ」
恭助はうんざり気味で言う。
「まあ、そうぼやかない方が良いかもよ」
「でも、そろそろ日も傾きはじめたし、時期に夜になりますよ」
「確かに、夜になったら森を捜索するのは危険だな」
そんな会話をしていると、前方の森が開けたところに誰かがいた。
「あそこに誰かいる!」
恭助は急いでそこに近づく。そして、目を大きく見開いた。なんとそこには宙づりにされた人だったのだ。
首が縄に食い込んでいて、その人の顔は醜く歪んでいた。
しかも、よだれを垂らして、目は大きく見開かれ、穴と言う穴から水見たいなものが垂れていた。
非常に目を背けたくなるよな光景だった。
「どうやら、間に合わなかったみたいだ」
賢治の冷たい声だけが聞こえた。
その時、恭助の目に何かが映った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
少年の目の前にぶらぶらとぶら下がるものがあった。
その顔は父と母のものだった。
『父さん、母さん。てるてるぼうずみたいだね』
『・・・・・・・』
『どうして、黙っているの。僕を置いていかないで』
『・・・・・・・』
『何で二人ともしゃべってくれないの。ねえ、父さん、母さん』
『・・・・・・・』
『君のお父さんとお母さんはもう動かないよ』
いきなり少年の後ろに立つ男が言った。
『二人が動かなくなったのは君のせいさ。だから、ボク達のところにきなよ』
男は幼い声に変わる。少年はびくびくする。
『君は決めなくちゃいけない。それが破滅の道だとしても』
男がそう言うとすーっと闇へと消えた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
恭助はハッとして我に返る。周りを見渡すと森だった。
「平気か? 顔色が悪いみたいだが」
「平気です。それよりも、ここにいてもしかたがありません。
一旦、美奈子達のところに戻って警察に行きましょう」
「その方が無難だね」
二人は頷き、美奈子達のところへと戻った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ちょうど、恭助達が岬の死体を発見した頃、柚江と海月は別荘のパソコンの前にいた。そして、一緒に月菜先輩もいる。
「しっかし、良いパソコンを持っていますね」
「ええ、私の知り合いの叔父様がある会社の開発部におりまして、
こうしたパソコン関係のものを色々と送りつけてくれるんですよ」
「へえ〜、そこにあるのは最新式のFMDでは?」
「ええ、それも叔父様が送って下さるの」
「二人ともそんなことよりも、調べるわよ」
「えっと、個人情報を開くには・・・・ここね」
そう言って柚江は器用にもパソコンを操作する。
「柚江君って案外パソコンに強いんだね」
「あら? それは褒めてるの」
「ああ、もちろん」
「そう。えっと、名前は文月鏡子っと」
柚江はその名前を打ち込み、データを呼び出した。
「えっ、これってどういう事?」
柚江はある文字を見て驚いた。
『文月鏡子 死亡』
「どういう事だこれ? じゃあ、あの文月さんは一体誰なんだよ」
「そう慌てるな。海月。もうちょっと詳しく調べてみよう」
柚江はせわしくキーボードを叩く。そして、出てきたデータを見て更に驚いた。
『近年に起こったレイプ事件の犠牲者であり、各種マスコミで注目を浴びた。
しかし、その結果から得た物は悲惨なものだった。家族はマスコミに目をつけられ、逃げるように消えた。
そして、悲しいことに犯人はまだ捕まってない。目撃者の情報からすると三人組の男だったと言われているが、
被害者の弟はその時の事を一部始終を目撃していたとみられる』
「もしかしたら、私たちは犯人をすでに見ているかも知れない」
柚江はそれだけを言うと文月鏡子のデータを全てプリントした。そして、部屋を後にした。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
第十八話 月島殺人事件H
柚江と晴夫が別荘で文月鏡子の事を調べている頃、ケイトとチクリスは文月和人を連れて双子月旅館へと向かっていた。
「ここから近いんですか?」
和人は汗をぬぐって言う。
「う〜ん。あと10分程度かな」
「確かにこの暑さはたまらないな」
チクリスも汗を服でぬぐった。
「全くよね。いつの時代も暑さだけは変わらないわ」
ケイトも少し暑さに負けていた。
「そうだ。ちょっと道にずれたところに小さなお寺があるんだが。そこで休まないか?」
「いいね。和人君も少し休もうか」
チクリスの提案に二人は頷き道をそれて、小さなお寺へと向かった。
「涼し〜い♪」
ケイトは風を感じて涼む。
「ところでそろそろ君の正体を教えてくらないか?」
チクリスは唐突に和人を見て言った。
「何の事ですか?」
和人は何の事か分からない顔をする。
「あらとぼけるつもり?」
「君から人の血の臭いがするんだよ。それも最近浴びたような臭いがね」
「それにあなたからは人の気配がしないのよ。もっとも、普通の人は気づかないでしょうけど」
「たぶん、君がこの島で起こっている殺人事件の首謀者なんだろ?」
チクリスにそう言われた和人は少し顔をゆがめる。
そして、顔を伏せにこりと笑う。
「ああ、そうさ。でも、そこまで知られちゃ仕方ないな」
そう言うと和人はケイトとチクリスに近づき頸動脈をナイフで切り裂いた。
ケイトとチクリスの首筋から大量の血が吹き出る。そして、二人は地面に倒れた。
「あんまりしゃべりすぎると早死にするよ」
和人は近くにあった井戸に二つの死体を放り込み、井戸は閉じられた。
そして、和人はにやりと笑う。
「さてと、最後の仕上げといきますかね。姉さん」
和人は独り言をつぶやきお寺を後にした。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
恭助達は和美達のところに戻り、警察へと向かった。
そして、全ての事情を話しているところに柚江と晴夫の二人が現れた。
「おお、恭助どこ行ってたんだ?」
「ちょっとな。島の洞窟で遭難しかけたんだ」
「それは災難だ」
晴夫は恭助の方を叩いて笑う。
「それよりも、お前らは何を急いでいるんだ」
「それがさ。俺たちの会っていた文月さんが実は亡くなっていたことが分かってさ。今までの事件を洗っていたのさ」
恭助は晴夫達が調べた事を聞いてある一つの仮説を思い浮かべた。
「警察の人にいって容疑者の人を集めて貰おう」
「おお、と言うことはいよいよ真犯人との対決」
「ああ、謎は全て解けた」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
※作者からの挑戦※
さてと、この後から真相の全てを語っていくわけですが。
いきなり答えを見るのも何ですので少し事件の整理をして、犯人は誰なのか?
そして、どういった形でこの殺人劇を実行したのか。そこを考えて貰いたいです。
さあ、真相偏のはじまりはじまり。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
樋脇さん、中山さん、山下さん、里中さん、文月さんの五人を双子月旅館のお風呂場に集めて貰った。
そして、恭助が前に出て容疑者の人を見回した。
「さてと、みなさまに集まって貰ったのはこの島で起こった四つの事件の真相を明かすためです」
恭助が言うと皆はざわめく。
「さてと、そもそも最初の事件の犯人は岬さんではなかったのです。
真犯人は岬さんに罪をかぶせ殺すという残忍な行動を起こしています。
そこから考えてよっぽど恨みのある犯行だと思われます。そして、最初の犯行はこうでした」
恭助は一拍開けて事件の真相を語り出した。
「真犯人は岬さんが三倉氏を殺す前から男風呂に侵入しており、本当は三倉氏を殺すはずだったのが、
岬さんに殺されてしまったので計画を変更したのです。その証拠に岬さんは一発だけしか殴ってないと証言してました。
そして、二発目の打撃を与えたのがこの事件の真犯人なのです。そう、真犯人は文月鏡子さんあなただ!!」
恭助は文月をさして言う。
「あなたは女風呂から混浴風呂を通って男風呂に侵入し、そこで三倉氏を待ち伏せしていた。
そして、岬さんが三倉氏を殴った現場を見たあなたはトドメにもう一撃を加えた。
その後、三倉氏の死体が発見されて混浴風呂の人達が男風呂に来た瞬間を狙って女風呂に戻った。
柚江達はその時、三倉氏しか目に入っていないので気づかれることはまずない。
あなたはそうやってまんまと男風呂から脱出したんだ」
恭助の言葉に文月はじっとしていた。
「そして、あなたは三倉氏の友人の二人までもを殺害し、復讐劇を完結させた。
そう、罪を全て岬さんにかぶせようとしてね。ただ、失敗だったのは岬さんが俺たちの前に現れたこと。
そして、逃げたという事が気になったのですがそれも納得しました。あの時、彼女は犯人に何かを吹き込まれたんです。
そう、俺たちが岬さんを陥れようとしているとでも言ったんでしょう。その後、岬さんは殺害された。
何故あの四人が殺されたのかは正直良くわかりませんでしたが、柚江の持ってきたデータにより何もかも分かりました」
恭助はデータの書かれた紙を鏡子の目の前に突きつける。
「文月鏡子はすでに亡くなっている。そして、そのレイプ犯がたぶんあの三人なんでしょう。
そう、君は文月鏡子じゃない! 失踪中の文月和人君だ!」
恭助の指摘に鏡子は笑った。
「クックックックッ、何を言っているの恭助君? 私は鏡子だよ」
その笑みはすでに笑っていなく。不気味さをいっそう引き立てる。
「違うな。君はお姉さんが殺されたショックで、お姉さんがあたかも周りにいるように演じていただけなんだ。
それは、幽霊と言う存在として三人を脅す為だったのかも知れない」
「あら、でもそれら全ては推論であって私が彼らを殺したことにはならないんじゃない?」
鏡子は白々しくも言う。
「・・・・・・でも、あなたは鏡子さんではなく。和人さんだということは確かだ」
「ああ、確かに僕は文月和人ですよ。でも、僕があの三人を殺したという証拠はあるんですか?」
恭助はそれを聞いて押し黙る。確かに決定的な証拠はない。
現時点で一番犯行が可能だった者を言っているに過ぎない。
恭助の沈黙が皆を押し黙らせる。和人は勝ち誇った顔をする。
「恭助! 諦めるのはまだ早いよ」
そう言って現れたのはケイトとその隣にいたチクリスさんだった。
その時、和人の顔が一瞬歪んだ様に見えた。
「バ、バカな!」
「あれれ? 私たちが死んだと思ったみたいね。
あんな攻撃わざと喰らってやったのはこれを入手するためよ」
そう言ってケイトはポシェットから録音機を取り出し再生した。
「あの時、あんたの会話が録音されているわ」
『たぶん、君がこの島で起こっている殺人事件の首謀者なんだろ?』
『ああ、そうさ。でも、そこまで知られちゃ仕方ないな』
ケイトは再生を止めにやりと笑う。
「これで君は言い逃れをできないよ」
ケイトの言葉とともにいきなり、和人は走り出した。
警察数名は犯人を追いかけていった。
「俺たちも追うぞ」
恭助はそう言って和人を追うため風呂場を後にした。それに続いて、晴夫、和美、美奈子も出て行った。
風呂場にはチクリスとケイト、それに柚江の三人が残った。その後に続こうとする柚江をチクリスが制した。
「マスター。お仕事ですよ」
チクリスは元のカエル姿に戻り、柚江の腕の中に収まる。
「きゃ〜! かわいい!!」
ケイトはチクリスを撫で撫でする。
「やめてくれるかね。ケイト」
「うりうり、何その格好で決めても全然しまりがないわよ」
ケイトはチクリスの頬を指で突っつく。
「二人とじゃれあってないで、行きますよ」
柚江はそう言って風呂場を出て行った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
海岸線を和人は全力疾走で走る。後ろには数人の警察官が追っかけていた。
そして、和人は断崖まで追い込まれた。警察は和人を囲む。そして、その後ろには恭助達が見守っていた。
「バカな事はよせ!」
恭助の声に和人は振り向く。
「君は悪くないさ。ただ、真実を暴くことが必ずしも正しいと思わないでくれ。
時には真実が絶望を生むことだってあることを忘れないで。ところで、君は一つ思い違いをしているよ。
姉さんは死んじゃいない。姉さんは生きている。そして、あの四人に復讐したんだ。僕を使ってね」
和人の叫び声が響いた。そして、空には大きな月が昇っていた。
月の周りは朧気になり、だんだんとその輪郭が二つに分かれはじめた。
二つの月はどんどんと離れてついには空に二つの月が昇った。
「どういう事だ! 本当に月が二つに分かれた!」
皆の驚きをよそに和人は崖から落ちた。その瞬間を恭助は見ていた。和人の顔は笑みを浮かべていた。
そう、勝ち誇ったみたいに。その後、和人の体は暗い海の藻屑へと消えていった。
「どうしてなんだよ。 こんな結末で終わりなのか!」
恭助は地面に拳を叩きつけて叫んだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
暗い海岸線に二人の人影が立っていた。
そして、海から何かがはい上がってきた。
「来たわね」
「ああ、そのようだ」
「お、お前らは」
海から上がってきたのは体がボロボロの和人だった。
「さてと、あっしにケンカを売っておいてタダですむと思ってるのかよ。おい若造」
久々のヤンキー風の口調に柚江もケイトも口を押さえて笑い出す。
「久々にチクリスのヤンキー口調聞いたわ」
「マスターそこは笑うところじゃないでしょ。こいつをどうやるかはあっしに任せてくれませんかね?」
「いいけど、どうするの?」
「さてね。ミンチにして海の魚に喰わすのもいいですけど。その前に聞くことがある」
チクリスはカエル顔で和人に尋ねた。
「お前はいつ生まれた」
「俺は最近生まれたばかりなんだ。だから許してくれ!」
和人は懇願して頭を地面につける。
「やだね〜。男の土下座ってなさけな」
「で、結局こいつどうするの? チクリス」
「いいよ。見逃してやるよ」
そう言って和人は安堵し、その場を立ち去ろうとするが。
その瞬間、和人の体がバラバラになる。そして、それは粉々に砕け散った。
「見逃すと言ったが殺さないとも言ってないぜ! 若造」
チクリスの最後の締めとばかりに決める。
「相変わらずえげつないね。もっとも、あの野郎ももう少し長生きしたかったら
誰にケンカを吹っかけたかあの世ので後悔しているわね。もっとも、彼にあの世があればの話しだけど」
そう言って、三人は暗闇へと消えていった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
恭助達はその後、早々と鑑定をすませ、数日は遊んだがあの事件の事があり。
五日目の朝に帰りの船に乗っていた。そして、海を眺めてはあの和人の最後の言葉を思い出していた。
「よっ! 元気してるか」
いきなり隣に賢治さんが現れた。その顔には満面の笑顔だった。
そう言えば、あの事件の真相をあかすときはあの場にいなかったが一体どこにいたんだろう。
「おっ、その顔はあの時、僕がどこにいたか知りたい顔だね」
賢治さんは恭助の心が読めるみたいに言った。そして、恭助が頼んでもいないのに語り出した。
「いや〜。結局宝はなかったんだ。けどね、それよりも良い物を僕は見たよ。
たぶん、あれが本当の意味の宝だったのかも知れない」
「へえ〜。そうだったんですか。それで結局どんなものでした」
「う〜ん。口では説明しづらいんだけど。言うなれば僕のポケットには収まらないものだったよ。あれは」
賢治はそれだけを言って船の中へと入っていた。
そして、順調に僕らは船の航海を終え、空港で飛行機に乗って家へと帰った。
その空港の中でみんなは泥の様に眠っていた。
そして、俺も眠たい瞼を閉じ始めていた。
隣にいる人が大きく新聞を広げて見ている。
その表面には何やら大きな見出しがあり、その大きさがその事件のすさまじさを物語っている。
けれども、恭助は眠気には勝てなくそのまま夢の世界へと誘われた。
新聞の文面にはこう書かれていた。
『月ヶ丘総合病院爆破、驚愕のテロか? 重軽傷あわせて300人。
死亡者は五名。内海健太、藤堂由紀子、相原つぐみ、門川慶吾、松永沙羅・・・・・・』
こうして新たなる事件が恭助達の知らないところで動き始めていた。
そして、舞台は恭助達が月ヶ丘市を発った後の出来事からはじまる。
そう、この日は月ヶ丘市を恐怖に陥れる日だったのだ。
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2004/05/01(Sat)17:33:15 公開 / 名も無き詩人
■この作品の著作権は名も無き詩人さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
長らくお待たせしました。遂に第三章突入。こんなに長い文章で果たして何人の人がわたしの小説を読んでいる事やら。
少し気になるところですが。
まあ、多くの人に読んで貰いたいですが、ジャンルがジャンルだけに苦手意識をもつ人もいるでしょう。
それに、わたしも無い知恵だしてる割にはショボイトリックですからね。
読者が面白いと感じるか非常に気になるところです。
さてと、次回は第四章に入るわけですが、次の話しは恭助達のメンバー抜きでお話しが進みます。
舞台はもちろん月ヶ丘市。第三章の最後の事実が何を物語っているのか。その辺が見所です。
そして、そろそろ彼女が動き出すかも。第四章も波乱の展開ですのでこうご期待です。
キャラデータA
ケイト・A・フィニシア
性別 女
歳 25
詳細 賢治の彼女にして、お宝探しのパートナー。ショートカットの金髪がトレードマーク。
体型はグラマーでどこかの写真に出ていそうなほどプロポーションがいい。
胸には月の雫と呼ばれる宝石をいつも肌身離さずつけている。
性格はさっぱりしているが、時たま見せる邪悪な笑みは悪戯心からくる。
賢治にはぞっこんであるが口にはあまりださない。
賢治のことはいつも子供扱いする。
御崎賢治
性別 男
年齢 26
詳細 本人曰く自称、お宝ハンター。相棒のケイトと共に世界中のお宝を探し求めている。
今回は月島に隠されている。海賊の財宝を探すため、ケイトと共にこの島に来た。
しかし、途中船酔いのためグロッキー状態となるが、本来は凄く頭が良い。
考古学や最先端科学など。色々な知識を持つが固い頭のせいか、簡単な所でよく突っかかる。
性格は至って無邪気でこうと思ったら一直端である。時たま子供のような無邪気な面を持つ。
お宝が欲しいわけではなく。隠されたものを見つけるのがたのしいらしい。
文月鏡子
性別 女
年齢 23
詳細 恭助が船の上で出会った女性。長い髪く心地良い歌声が特徴。
月島には用事で来たらしく。弟が一人いる。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。