『Distance ―歩幅―』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:聖                

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気付いていた_

これが最後の恋である事を・・・・・・。




「Distance」


第一章 「自転車」



あれが最後の恋だとわかっていたら。
もがいてでも、取り戻したい。喚いて駄々をこねてまでも、戻りたい。



「Distance」



窓からの陽射しに思わず目をつむる。弁当の残りが気だるい下腹に残っている。

「千尋。付箋くれ。」
斜め後ろに振り向く。自分のストレートの髪が頬にかかる。うざったい。
「どーぞ。ご自由に。」
馴染みの黄色の付箋を渡す。好きなだけ取れという意味で、たくさん渡す。
彼は困惑していた。そして彼は1枚取るとあたしに返す。

「サンキュ。」


弁当の残りが口から出るくらい気持ち悪くて、そして最高の爽やかな笑顔だった。自分でこの気持ちをどう処理したらイイのかわからなかった。


もう、高校3年生。もう来年は成人式にだって出れる年なんだ。
馴染んだブレザーの制服はあたしの思いを知ってか知らずか光っている。

私。

内田 千尋。

千尋。千尋。

彼。

遠山 稜。

稜。稜。


あたしと彼の関係は、元カレ元カノ同士。
あたしは彼に裏切られたんだ。きっとそうなんだ。大好きだった。稜。
そう。そうしか思い当たらないくらいの恋の原石だったあたし。
原石のダイヤモンドを彼のトンカチでクダクダに砕け散らされた。

あたしの砕け散ったダイヤモンドを修復しようとしたのが、まるで別人のカレだけど、トンカチの稜だ。
またあたしを修復して砕け散らそうとしてるに違いない。


帰り道_
珍しく自転車で下校した。
自転車で下り坂を降りる気分は爽快―

目に見える光景が、すべて、ダイヤモンドのようにキラキラしてたから。





あれが、あたしの求めていた恋だったのだろうか。

全てのそれぞれの色で染まる空は。









第二章 「裏切りナイフ」

あれはあたしの思い違いだったのかも知れない。あたしが勝手に彼に裏切られたと思い込んでるのかも知れない。でも・・・・・・。
彼女が居るのにあろうことに、他に5人の女を作っていたなんてありえるだろうか。キスとか、抱き合うだとか。あたし以外に肉体関係を持っていた雌が5人もいたんだ。
友達は、
「別れたほういいよ。千尋はこれから音大行くんでしょ??もっといい人い るって!」

何てあたしの未来のことまでお節介に予想してくれるではないか。

稜は野球部だった。付き合ってた当初は
「千尋!待ってろよ!甲子園に行って優勝して、ヒーローお立ち台で、お前の名前、真っ先に喋るよ!」


なぁ〜んて。言ってたなぁ。思い起こせば今日あげた付箋だって、彼はもらって、すぐにシールのくっ付く部分を丸めて、投げて遊んでた。

何でいまさらあたしに関わりを持とうとするのだろう。もうあたしなんて、ただの遊び相手だったはずだ。
手だって繋いだし、キスの一つや二つしたし。京都への修学旅行だって、一緒に京都の夜をデートした。



―何であたし、嫌な思い出を無理にでも思いださそうとするんだろう。―

「嫌な思いでは心の何処かにおいておきなさい。」
何てよく、担任の偉そうな先生が言う言葉に今、謀反したのだ。

あたしは、引き出しの奥からあるものを取り出した。
―稜とあたしのツーショットの写真を―


「さよなら」

両手の親指と人差し指に力を上手にいれ、稜とあたしの間をこれまた上手に引き裂く。彦星と織姫のように・・・・・・。
天の川という、辛い空間は、騙されたあたしの過去だった。
そして神様があたしの指となった。



破いた二つに分かれた写真を、そっと窓から落とした。



―次の日―

あたしは高校を出たら音大に進むつもりだった。ピアノ専攻入学で。
ダイスキなピアノを弾くあたしの指は、昨日の神様だった。

学校の体育館で弾いたピアノだって、みんなに、

「今日、何か感じ違わない?」

とよく聞かれる。

「今日、何か感じ違わない?」

またか・・・・・・。と思ってその声の主に、「別に?」と言おうとした。
だが言えなかった。いえた言葉は別の意味を持つ名詞となった。

「稜・・・・・・?」
「何驚いてんだよ。早く弾けってー。」

懐かしくて憎たらしい声。このもどかしいキモチを彼はあたしにくれた。
一つ一つの音色が死へのロンドのようだった。






第三章「不安」


「もう、あっち行ってよ!!」
あたしに罵声を掛ける相手なんていらない。ただの邪魔者だ。悪魔だ。
「ったく・・・・・・。相変わらず素直じゃねぇんだから。」
「はぁ?」

ジャジャーン・・・・・・。

怒りがこみ上げて思わず調子の良かった「月光」が、幼稚園児のピアノのようにたたき上げて、怒りが音色に表れていた。
後ろを振り向けば、稜はもう、いなかった。居ないほうがいいに決まってる。

あたしにその時あった気持ちは、確実に「不安」という漢字二文字だった。
怒りがいつしか、「不安」になるのだ。

―何で、あたしにそんな近づくの?―
―何で、あたしの気持ちを知らないの?―
―また、騙すのでしょう?―
話し相手が居ないで、独り言を言ってるような強烈な熱烈的でもある、この孤独という不安にあたしはよく陥る。病気かも知れない。

あたしは、まるで癖のように、手馴れたように稜の向かう先へ行った。
稜がその場にいなくても行き先なんてわかっていた。

―グラウンド―

「暑いっ。」
砂煙の舞いかけている通路を歩いた。何のために歩いているのか。
「何で稜の所にあたし、行くの?」
今思えば、ピアノからこの通路まで、まるで癖のように無意識のうちに、手馴れたように来たのだ。あたしがしたいことはきっと、
―不安を取り除くため―



この不安は彼=稜でしか取り除けないんだ。別に恋愛感情とか、そんなのはない。別に蹴散らされてもいい。だから、どうなってもいいから、不安を取り除いてほしかった。



グランドに辿り着いた。だけど稜はいなかった。
「いない・・・・・・。」
つまらない入らぬ不安がより一層増す。
不安という病魔があたしの体を及ぼしていく。いらぬ病魔。
治せるのはきっと、薬という存在の稜だけなんだろう。

こういう時だけお節介してほしい。
でも、いらぬ時にお節介はしてほしくない。

稜はあたしを利用してる気がしてたけど、こうすればあたしだって彼を利用してる気がする。

その時、グラウンドに野球のユニホームを着た集団が現れた。
すぐさまその集団の元へ走っていった。
「お、千尋やん。どないした?」
話しかけてきたのは生まれも育ちも大阪の祥こと、しょうやんだった。
「しょうやん!!稜は??今何処?」
不安を取り除くためお節介なアイツを今探しているんだ。


「え・・・・・・?千尋知らんの?」
糸が張り詰めたように、心の鼓動が一瞬止まった。

「知らんの?って何が・・・・・・?」


「アイツ、さっき階段から落とされたとかで、頭打って病院行ったんやけど。」

不安がより一層漆黒の闇のように濃くなった。自然と手馴れた癖は、足は。
病院へとは向かわなかった。そのまま立ちすくんでいた。
しょうやんが肩に手を掛けた。そのぬくもりが、稜だったら、取り払っていただろう。

その稜が、階段から落とされたという事で、あたしはまだ、知らなかった。

巨大でもない渦に、巻き込まれていることを。





第四章「記憶」



裏切られ、また求められ、そしてあたしの体内をグルグル回る不安。
あたしは病院へ向かう気がしなかった。自然に足は登校時のように、教室へと向かっていった。頬に雫が流れ落ちるけど。それは涙と思いたくなかった。好きじゃない人へ、どうしてこんなに感傷的になるんだろ。

あたしのクラス。3−Aは誰もいなかった。嬉しかった。
そっと自分の机の傷に触れる。前付き合ってたころ稜が彫ってくれた痕だ。
「相合傘か・・・・・・。」
自分の名前と、稜の名前が相合傘の支えの部分を挟んで左右にある。
あたしが織姫で、稜が彦星で、支えの部分が天の川だった。
今になって、馬鹿げた心だとあたしは思う。だって、騙された相手に対して涙と思いたくない雫を流すんだ。馬鹿だ。

教室は、新しい家の、あたし自身の部屋に見えた。


―斬新だったよ。稜への思いは。―

記憶にまだ新しい彼の腕の中は、彼のあたしに対する裏切りと言う名の愛情とは別に、優しかった。胸板の厚い男だった。包容力のある稜だった。

―でも、裏切られた。―

他に女がいなかったら。あたしは稜を溺愛していたのだろう。天の川を越えて、神様に歯向かって。あたしらしい、愛し方。
彼らしい、愛し方。
その時。

教室に向かって歩いてくる足音がした。
カツ、カツ、カツ・・・・・・。
あたしは即座に稜だと思った。思い込みかも知れないけど、そう思った。


「稜なの?」
口を開いた。だけど返事の主は。

「稜だと思ったの??相変わらずだね。千尋は。」

声の主は、違うクラスの、志穂だった。
「志穂か。何か用?」

「今日、そーいえば稜。階段から落とされたんでしょ??」
嫌らしい、そして助言のヒントを出す博士のような口調だった。
「まぁ。よく知らないけど。」
「千尋、その事知って傷ついた??よね?」
志穂は、あたしを邪悪な存在のような目で睨む。

「別に・・・・・・。あたしは稜の何でもないし。」
あたしは、きっとこの一文は心の底から思っていない事だったろう。

「そ。じゃぁ突き落とした犯人。教えてあげよっか??」

鼓動が止まりかけた。モノクロの世界に入った。
「誰なの??」




「しょうやん。祥だよ。」



愕然とした。瞼を閉じれば、汗ばむ野球のユニホームの稜が、しょうやんに落とされている光景が自ずと目に浮かぶ。

「嘘でしょ??しょうやんはそんな人じゃ・・・・・・。」

「そんな人なの。私見たから。音楽室に楽譜取りに行くとき。」

違う違う。また志穂も稜と同じであたしを騙そうとしてるんだ。
気持ちを処理できないあたしに志穂は言う。

「私を信じなくてもそれは千尋の勝手だけどね。じゃあまた。」
志穂は教室を出て行った。出て行ってくれたと言ったほうが正しいかも知れない。
目の前が真っ白になった。真っ黒じゃない。矛盾とした純白の世界だ。
その中には黒い文字でくっきりと「騙された」という四文字が筆書きで書かれている。

教室の窓を開けると、グランドが見えた。野球部がキャッチボールをしていた。その中に目立つ存在。キャプテンのしょうやんが見えた。
しょうやんは、稜を突き落としたのだろうか。

あたしの胸に突き刺さった感傷した傷が、血が。
真っ白で真っ黒な世界を、赤く染めた。

2004/05/02(Sun)19:51:18 公開 /
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■作者からのメッセージ
ちょっと切ない系の恋物語です・・・・・・感想まってます!!

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