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『顔のないセネカ・暗い世界のSchopenhauer その1〜その3』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:深海
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「私はもうすぐ愛すべき大地に帰ります」
一通のメールが全ての始まりだった・・
第一話 〜 顔のないセネカ 〜
「世界が消えてしまうというのならば
私も消え去ろう
世界が滅びるというのならば
私も滅びよう
世界と私は同じだから
世界の運命は
私の運命
永遠など望まない
幸せなど作り物
私を理解するものは
この
大地
海
風
太陽
酸素
私が理解できるものもまた
この
大地
海
風
太陽
酸素
ただ・・
それだけ・・
PS
私はもうすぐ愛すべき大地に帰ります。」
午前七時
いつものように西島純也<キシジマ ジュンヤ>はベッドから起きあがり
毎朝の日課であるケータイのメールをチェックした
「・・・・!?」
純也は驚いて咄嗟にケータイを握り締めた
当たり前だ
朝起きて何気なくケータイのメールをチェックしていただけなのに
まさかこんなメールが届いているなんて誰が予想出来るだろう
そして
もっと驚かされたのは
件名だった
「顔のないセネカ様へ・・」
と書かれていたからだ
セネカとは
古代ローマの哲学者であり劇作家・・
そして純也のもう一つの名前である
純也は路上で絵葉書を売って生計を立てている
絵葉書といっても
ただの絵葉書ではなく
純也自身が作った完全オリジナル・・
世界で一枚しかない絵葉書だ
その絵葉書には必ず純也は
自分が作ったという証で「セネカ」と端に記入する事にしている
そう考えると間違いメールではなさそうだ
何故なら
絵葉書を買ってくれた人には次何処で営業しているかなどを
書いたチラシを渡している
そこには純也のケータイのアドレスもちゃんと書かれているからだ
しかし
今朝までケータイにメールが送られてきたことは一度もなかった
それを踏まえてみても
やはりこのメールには不思議な点が沢山あった
まず一つ
メールの詩の最後の部分
「私はもうすぐ愛すべき大地に帰ります」
これで読み取れるのは送り主が死ぬ・・
もしくはそれに近い状態などが連想される
詩全体を読んでみても
あまり明るいとはいえない表現が多い
人間がこの様な詩を書くときは
精神的に何らかのストレスがかかった状態が多い
そして二つ目は
件名の「顔のないセネカ様へ・・」の部分
顔のない=顔を知らない、表情がない
に当てはめることが出来る
つまり
送り主は純也の顔を知らないということにつながるだろう・・
ここでまた一つの疑問にぶつかる
それは
「何故純也の顔をしらないのか?」・・である
純也は絵葉書を買ってくれた人にアドレスが書いてあるチラシを渡している
つまり純也の顔を知らずしてチラシを受け取ることは不可能なのだ・・
もちろん
チラシが何処かで捨ててあって
それを拾ったのなら話は別である
しかし
いままでの経験からそれは無いだろうと純也は確信していた
チラシを配り始めてもぅ1年弱になるが
純也のケータイにはさっきも言ったように
メールは一通も送られてきていない
もちろん悪戯メールも・・・その逆も・・・
そうして三つ目
これが最も不思議な点だ
何故このメールが純也のもとに
送られてきたのか・・?
今まで一度も届かなかった(勿論プライベートを除く)メールが
今日に限って、しかもこんな内容で送られてくるなんて・・
純也は答えの出ない自問自答に頭を悩ませた
そうして悩むだけ悩み純也は一つの決断に行き着いた
メールを返信してみよう
最初からそうすればよかったんだと
純也は微妙な表情を浮かべながら返信画面を押した
「もし君が人に愛されようと思うなら
まず君が人を愛さなければならない
PSメール有難う御座います。 顔のないセネカより」
件名には
「暗い世界のSchopenhauer様へ」
と書き
メールを送信した
SchopenhauerとはFaustを書いた有名な作家だ
純也はこのメールを読んで
何処か悲しげな処がFaustの表現とよく似てると思い
この名前を送り主につけた
ここで一つ疑問が湧いてきた人もいるのではないだろうか?
「何故純也は詩や本に詳しいのか?」
その疑問は簡単
答えは純也の作っている絵葉書とチラシをみれば一目瞭然
其処には決まって
詩と
その詩にあったイラスト・写真が載っている
つまり純也は
詩人であり絵描きでありカメラマン(勿論素人)であるからだ
無論、若い頃から(といってもまだ24だが・・)
本を読むのが大好きだったといこともある
そして
生まれもっての才能も少しは関係しているのかもしれない
メールを送信し
少しかたの重みが降りたような気がした純也はふと時計を見た
時計の針はもう8:00を廻っていた
しまった!!
純也は急いで服を着替え
絵葉書とチラシの入ったアルバムとバッグを持ち
家を飛び出した。
第2話 〜 病院 〜
間に合った・・・
息を切らせながら純也は山手線の電車に飛び乗った
今日は平日にしてはすいていて
幸運にも座席に座ることが出来た
純也の行く先・・
それは・・未定・・
もともと目的地などあるわけもなく
純也はこうやって行きたいところを電車に乗りながら考えるのだ
そんな純也にとって山手線は格好の交通手段・・
それは何故か?
決まっている
好きなところで降りられなくてもずっと座っていればまた廻ってくるからだ
気が変わりやすい純也にとってはまさにピッタリの電車といってもいいだろう
さて今日は何処へ行こうか・・
早速純也は今日の目的地を決め始めた
昨日は[・・・・]
一昨日は[・・・・]
よし、今日は[・・・・]にしよう
そうして目的地もきまると
純也は徐にアルバムを開いた
其処には今まで書き続けた手作りの絵葉書が綺麗に保管されていた
絵葉書には一枚一枚思い出やメッセージが詰まっている・・
だから純也は自分が作った絵葉書をみるのが好きだ
ただ純粋に・・
子供のようにそのメッセージを読み取ると心が優しくなる気がするから・・
絵葉書を眺めていると
停車駅からお婆さんが純也と同じ車両に乗ってきた
残念ながら席は空いてなくお婆さん仕様がないといった感じで
つり革に手を伸ばす・・
もちろん純也はすぐさまお婆さんに席を譲った
ここが純也の良い所であって・・ちょっと駄目な所でもある
席を譲ったお婆さんと話し込んでしまい
気づく頃には手遅れ・・
さっき決めた目的地はとうに通り過ぎてしまっていた
やはり山手線は純也には格好の交通手段だ
お婆さんと別れしばらく電車に揺られながらふと
純也は電車から降りた
しかし
気まぐれな純也にとって
この行動はたいして珍しくは無いということを
そろそろ理解することはできるだろう
駅の名前も見ずに
純也は改札からでた
純也は予め一番金額の高い切符を買うので改札で
時間をとられることはまず皆無に等しい
改札からでた純也は早足で・・
否、走っていると言ってもいいほどの速さで
歩き始めた
歩いて
アルイテ
あるいて・・・
息を切らせながらも辿り着いた場所
そこは
大きな病院だった・・
電車に乗っていてたまたまこの病院が見えたので
純也は電車を降りたのだった
息を整えながらゆっくり病院の入り口に近づいた・・その時・・
ケータイが鈍い音を出しながら動いた
純也は一瞬ビクつきながら
ケータイをポケットから取り出しす
件名
ミス
「愛しい
愛しい
貴方へ・・
私は貴方に声を与えよう
私は貴方に綺麗な髪を与えよう
私は貴方に心を与えよう
私は貴方に全てを与えよう・・
だから
どうか
笑っておくれ
愛しい貴方のその顔で
私の愛したその声で・・・
私の命が尽きるまで・・」
純也は病院の前に立ち尽くし
また
答えのない自問自答の世界に引き込まれていった・・
第3話 〜 アスクレピオス 〜
今回もまた
純也の頭を悩ませる内容でメールは送信されてきた
一番初めに目に付くのはやはり件名だ
ミス・・?
失敗・・?
仮にミスが失敗という意味だとしても
メールの内容にはどう頑張っても接点を発見する事が出来ない
たとえ女性に例えたとしても行き着く先はなんらかわりはなかった・・
お手上げだ・・
深いため息をついたその時・・純也はある事に気がついた
「病院・・・そうか・・!」
小さく呟き
また
ケータイの画面を見つめた
ギリシャ神話にアスクレピオスという神がいる
アスクレピオスは医術の神で予言の神アポロンを父に持つ
その桁外れの知能で死者を蘇らせゼウスの怒りにふれ雷で殺されてしまう
何故アスクレピオスは恵まれた知能をもって禁術である死者蘇生を行ってしまったのか?
アスクレピオスには愛する女性がいたという噂がある
愛する女性は病に犯され死んでしまった・・
アスクレピオスは愛する女性を蘇らせるための禁忌を破って彼女を蘇らせた・・
つまり
この詩の内容は
アスクレピオスが愛する女性に向けた歌・メッセージであると推測できるだろう
なんて奥の深い詩なのだろう・・
純也は送信相手である人間・・暗い世界のSchopenhauerという人物に恐怖すら覚えた
彼・彼女の頭脳にはアスクレピオスの知能のように枯れる事の無い知識という泉
があるのではないかと・・
しかし
何故純也は病院からアスクレピオスが連想されたのであろうか・・
謎に思う人も多いだろう
純也は病院を見てまず「医学・医術」が連想された
そのあとにアスクレピオスの名前が出てきた
けれど
これだけではつなげる事が出来ない点が多すぎる
謎の扉の鍵は件名にこそ隠されている・・
神話、もしくは外国語に詳しい人はピンときたのではないだろうか?
神話には幾つかの読み方がある
その中に「ミス」という読み方が存在するとしたら・・?
純也はあの一瞬で鍵を発見し全ての謎を明かしてまったのだ・・
そう・・あの一瞬で・・
純也は返信するメールを打った
件名
愛しいアスクレピオスへ・・
「長くは此処に留まれない
私を呼ぶ声が聞こえるから
貴方に一言
「幸せでした」
そう
伝えたかった
愛しい貴方
どうか悲しまないで
この声が貴方には聞こえているでしょう・・?
貴方の指が私に触れる
冷たい私の体から
伝わるはずよ・・
目を閉じて
おやすみなさい
現実が幕を降ろすわ・・
だから
もぅ悲しまないで
貴方の全てを私は永遠に愛するから
私の全てを夢に変えて・・
貴方は苦しみから解放されて・・
お別れの時間
貴方が瞼を閉じる
もう逝かなくちゃ・・
大丈夫
遠くにいくわけじゃないわ
ただ貴方とお話できなくなるだけ・・
姿が見えなくなるだけ・・
貴方の全てを私は永遠に愛するから
私の全てを夢に変えて・・
おやすみなさい
PS これで二人は長い行き違いから解放されるでしょう。 顔のないセネカ」
純也はメールを送信した
正直
このメールの詩は本来純也が書くものとは異なっている
それほど暗い世界のSchopenhauerが純也に影響をあたえたということだろう
しばらくはずっとその場に立ち尽くしていた純也だが
またすぐに興味は目の前で厳かに構える病院へと変わっていた
好奇心の塊である純也にとって目の前に魅力的な宝箱があれば行かないわけがないだろう
そうして
純也はその宝箱へと引き寄せられていった
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2004/05/07(Fri)16:27:53 公開 / 深海
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■作者からのメッセージ
少しでも心に残る作品を書ければいいなと思っています。
更新が遅いかもしれませんが長い目でみてやってくださると幸いです;
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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