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『一球入魂』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:鉄拳
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音崎太一(おとさき たいち)は、いい加減起きない主人に愛想を付かせた目覚まし時計を見つめる。
「朝のぉ、八時!!!」
文字通り飛び上がった太一は着地に失敗して、床とキスをする。あかん、また眠りの世界へレッツゴーになる。
「やっべぇ、入学してから毎日遅刻だ!」
そうはき捨てると、太一は階段を踏み外す。ごろごろと回転していき、最後は壁に激突する。いってー、ほんとに。
太一は朝が大の苦手だった。どういうわけか目覚まし時計五つくらいセットしても、起きられない。修学旅行では、気がついたらみんな見学に行ってしまっていた。
ご飯を勢いよくほおばって、お茶で流し込む。ついでに鮭も腹に収めておいた。成長期の男の子はとってもお腹がすくのである。
「ただいまー!」
間違った単語を叫んで、太一は自転車に飛び乗る。ここでかばんを忘れたことに気がついたのだが、どうせ何も入ってないからと無視する。
「えっと、南中学へいくには…こっちが近道だ!」
競輪選手のような格好で、太一は走り続ける。
「うおおおおおお!」
道路のど真ん中を激走し、急カーブにぶち当たりながら走っていく。もうなんかの映画なんじゃないかと、時々誰かが眺めている。だがそんなことは知ったことではございません。
道路交通法まったく無視の運転は、近くに居た白バイクの目にとまる。
「くをら、そこの中学生!」
知ったことかと通過。そんなことしたら白バイクは怒るわけで、これから自転車vs白バイクのカーチェイス(?)が繰り広げられる。
「ちっ、しぶといな!」
太一は舌打ちする。つかまらない様に狭い路地を選んでいるが、白バイクも負けじと走る。そこまで頑張る理由もないのだが、もうどちらも意地になって走っていた。
「止まれ!」
「止まれって言われて止まる奴がどこに居る!」
太一は大きな坂のある場所を選んだ。この坂は勢いよく下りると、目の前に広がる川に落ちてしまう危険がある。だからあまり選ばないのだが、来てしまったからしょうがない。
「このクソガキ!」
「んだと!」
太一はほくそ笑んだ。
「お前の負けだ!」
坂が終わるギリギリのところで、太一は制止する。すると白バイクは、そのままガードレールに激突、川へと投げ出された。
「ざまあみろ!」
人としていいのか悪いのか、太一はバイクの男を見捨てて、学校へと向かっていく。
一方川に落ちた男は、奇跡にも無傷であった。だがどうにも悔しいらしく、ヘルメットを叩きつけていたのだが。
そんなことは知らない太一、ようやく中学校に到着したのは、三十分もあとのことだった。
だが、そんなことはどうだっていい。今問題になっているのは、校庭にあいつが居るのか居ないのかである。
校門に隠れると、スパン、といういい音がした。
「見つけたぞ、音崎!」
急いで飛びのくと、校庭が見事に真っ二つ。漫画のような出来事に唖然となりつつも、太一は懸命に大地を蹴った。
「南中学二年四組音崎太一ー! 毎日毎日遅刻しやがって、今日という今日は処刑してやる!」
この中学校風紀委員である、山田風紀(やまだ ふうき)は、二尺二寸の刀を持って、そういう。
「どりゃあ!」
居合いの要領で抜かれた刀が、太一の制服に切れ目を入れる。
「お前、銃刀法違反だぞ!」
「学校の校則に銃刀法はない!」
「お前どんな理屈で話しているんだ!」
再び刀がこちらにやってくる。紙一重で交わしたが、腕には薄っすらと血がにじんでいた。
山田風紀は、どういうわけか取り分け太一を敵視していた。こうやって遅刻があると毎日やってきて、喧嘩を売って来る。買うつもりはないのだが、成り行き上いつもこうなっていた。
太一は校庭の砂を握り締め、風紀の顔面に投げつける。
「ひ、卑怯だぞ、音崎!」
「可愛い素手の男の子に真剣で相手してくる、お前のほうが卑怯だ!」
太一はそういい残すと、校舎へと向かっていく。
何故か拍手で迎えられた太一は、フラフラとした足取りで席に着く。
「お前、よく生きているよな」
「褒めているのか?」
「貶しているんだ」
太一のひとつ前の席に居る、朝日勇気(あさひ ゆうき)は、そう言う。
彼は太一の幼馴染であり、そして保護者(まさしく)であった。大体太一が無茶をして、勇気がとめる。それが日常茶飯事であり、この南中学の名物となっていた。
「どうしたら毎日遅刻できるんだ」
「知らん」
「…」
勇気はそれっきり、呆れたのか何も言わなくなる。
急に暇になった太一は、しょうがないからノートを開いた(勉強道具一式は学校に置いてきているのである)。
はう、と息をつく。なぜ勉強などというものをしなければならないのか、太一には不思議で仕方がなかった。
だってそうだろう。
勉強は何故するの、と先生に聞いても、先生は「社会に出たら必要だからです」というだけだ。だが今やっている江戸時代の文化が、社会に出たら必要だとは思わなかった。
特に必要ないんじゃないか、と思うのは、音楽や美術である。
才能がないとまったく役に立たないこの教科、そんなの、才能がある奴とかにまかせればいいじゃないか。
そもそも、音楽や絵がなんで必要なんだよ。
屁理屈と言われればそれまでである。だが、学生時代一度はぶち当たる疑問ではないだろうか。
少なくとも、太一は疑問に思っていた。
君は、物事をまっすぐ見ているんだね
太一は顔を上げる。今、誰かの声がした。女の子の声だった。
だが見た所、誰かが太一に何かを言ったわけではなさそうだ。とすると、一体誰が?
疑問に思った太一だったが、それ以上は何も考えないことにした。
だってわかんねぇもん。
もう一度ノートに向き直る。さて、何をしたもんか。別にノートみたって何も書いてねぇんだし。
太一は黒板を見ようとして、動きを止める。
「あんな子、うちのクラスに居たか?」
長い、綺麗な髪の毛の女の子。だが確かに昨日は、うちのクラスには居なかったはずである。
太一は勇気を呼ぶ。
「なあ、あんな子居たか?」
「ん?」
「ほれ!」
指を刺す。すると勇気は、「遅刻したから知らないんだっけ?」と軽く言う。
「今日転入してきたんだよ」
「え?」
「なんだ、忘れたのか。昨日の帰りに言ってたろって、お前は風紀に追い回されてたんだっけ」
確かに昨日の帰りは、死闘を繰広げていたが…。
勇気は説明する。
「楠木桜さんだ。確か帰国子女で、英語もばっちりとか言ってた」
「へぇ…」
そういうと、勇気は前を向いてしまう。もう一度読んでもいいのだが、それは気が引けた。
太一は桜という女の子を見つめる。
なんだか不思議な感じが、した。
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2004/03/31(Wed)18:15:07 公開 / 鉄拳
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■作者からのメッセージ
初めまして
時間がないのでここまでですが、これから話は続いていきます。
それでは…
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