『サミクラウスのおはなし2 〜サミクラウスのおくりもの〜』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:PAL-BLAC[k]
123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
とある島国でのお話です。
長いこと鎖国していた国にも、西欧の異文化が入ってきました。
洒落た飾りのついた家具、真っ赤なお茶。
南国の果実から作ったチヨコレイトウ、遠くの人とお話のできる不思議な紐。
そして、生まれついての身分など空しいと説く、ありがたい新しい教えも・・・。
もちろん、何人もの外国の人々も来ました。
つるりとはげあがった頭に赤ら顔をした大きな男の人。
銀色の髪に緑色の目をした女の人。
黒い、長い丈の上着に聖なる印を付けた宣教師もやって来ました・・・。
浜の港は、毎日こんな「異人さん」と「舶来品」であふれかえっていました。
港町の異人さん達は、自分たちの神様の記念日がいよいよ明日に近づき、浮かれ気分でした。
そんな中に、大きなお腹、つるりとした頭、もじゃもじゃの白い髭、といった人がおりました。
このお爺さん、見た目は陽気そうなのに、いやにしょげ返っています。
お爺さんは、大きなトランクを抱えていました。
「ちょいとそこの異人さん!茶でもどうかい?」
威勢の良い物売りや客引きが盛んに声をかけてきます。
船に同乗していた人たちは、異国の港町を物珍しそうに見渡しているのに、お爺さんは
華やかな客寄せには目もくれずに歩いて行きいます。
何か、捜し物でもあるかのように。
始めに、町外れの教会をお爺さんは訪れました。
まずは祭壇に向かって丁寧なお祈りを。
旅装を解かずに教会を訪れ、真剣な祈りを捧げるお爺さんに神父様は感激し、共に祈りを捧げました。
神父室でお爺さんにお茶を勧めながら、神父様は用件を聞きました。
「ありがとうございます、神父様」
供された異国の緑色のお茶を押し頂いて、お爺さんは言いました。
まだ若い神父は、手を振って言いました。
「いえいえ。共に祈りを捧げた神の子同士ではありませんか」
そう言われて、無言で頭を下げたお爺さんを、神父様は見ながら言いました。
「さて・・・私の教会にどんなご用でしょうか?」
お爺さんは、お茶を置き、ポツリポツリと切り出しました。
お爺さんは、ある物を探して、遙々とこんな島国までやって来たのでした。
お爺さんは以前にもこの国を訪れていました。
あれは、ちょうど1年前のことでした。
仕事で訪れたこの国で、お爺さんは用事を済ませ、帰路につこうとしたとき、
ある女の子を見つけたのです。
貧しい身なりをして、協会の柵の外で跪き、何かをお祈りしているようでした。
お祈りをするのなら、協会に入ればよいのに。
お爺さんは、そう思いました。
その時、教会のドアが開き、一団の身なりの良い紳士達が出てきました。
その一団は、女の子を見ると声を荒げ、蹴り飛ばす仕草をしました。
それを見てお爺さんは初めはびっくり仰天しました。が、次第に腹が立ってきました。
彼らに何か罰を与えてやろう、と、周りに投げるものがないかとキョロキョロしました。
その拍子にバランスを崩してしまい、大切な帽子が暗闇に落ちてしまいました。
帽子を拾わなければいけない。でも、そうしたら人に姿を見られてしまう。
仕方なく、お爺さんは去っていきました。
お爺さんの捜し物とは、帽子だったのです。
それは、何物にも代え難い、とてもとても大切なものでした。
「私にはどうしてもその帽子が必要です」
そう、お爺さんは結びました。
黙って聞いていた神父様は、顎をさすりつつ聞いてきました。
「そんなに大切なものですか?」
「貴方の胸元の、聖なる十字のように」
そう返され、神父様は困った顔をしました。
「是非、お力になりたいとは思いますが・・・私はそのかわいそうな女の子のことも帽子のことも存じません」
神父様は先月、この地に降り立ったばかりでした。
「そうですか・・・」
お爺さんは、すっかりしょげ返ってしまいました。
実のところ、お爺さんはこの教会か件の教会かどうか自信がありませんでした。
暗い夜、初めて訪れた異国でのことなのです。教会の尖塔なんてどこも似たり寄ったりですし。
神父様は、しょげ返るお爺さんの肩を優しく叩きながら言いました。
「私の前任者は、隣町の教会におります。彼に聞いてみると良いでしょう」
なんと、前任者は、この辺り一帯の司教様に昇格して、隣町にある大きな教会におられるのだそうです。
親切に、神父様は紹介状を書いてお爺さんに持たせてやりました。
隣町の教会に行けば、帽子の行方も女の子の行方もわかるだろう。
お爺さんは、神父様に礼を言うのもそこそこに慌てて出ていきました。
隣町の教会はすぐにわかりました。大きく立派な教会の先頭が、平屋ばかりの町では
遠くからでも見えたからです。
例によって祭壇にお祈りをし、当番をしていた若い神父様を捕まえて司教様を探していると申しでました。
その神父様は、にっこり笑って、
「神は、求める者の前に道をお示しになります。司教様は、ただ今執務室においでです」
そう言って、ついてくるように手振りで示しました。
司教様は、お爺さんを暖かく迎えました。応接室の椅子に座り、2人は向かい合いました。
「そうですか。隣町の教会から・・・ね」
隣町の教会の若い神父様が書いてくれた紹介状を読み、司教様は言いました。
「それで、あなたはご自分の帽子をお探しですなんですね?」
そう言われて、お爺さんは深く頷きました。
「そうです。司教様なら、帽子と女の子のことをご存じではないかと」
「女の子?」
神父様の紹介状には、女の子のことは書いてなかったようです。
首を傾げて不思議そうにする司教様に、お爺さんは帽子を落としたいきさつを話して聞かせました。
しかし、女の子のことにふれた途端、司教様は、大変不機嫌になりました。
「そんなものに関わるのはおよしなさい!」
今までの穏やかな物腰とうって変わった、厳しい口調でした。
「あれは悪魔の子です!あなたもあれに関わると、ろくな事がありませんぞ!」
そう言うと、司教様は、立ち上がり、応接室を出ていってしまいました。
なぜだかわからないけれど、司教様を怒らせてしまったようです。
お爺さんは、来たとき以上にしょげ返って、すごすごと退出しました。
唯一の頼みの綱も、プツンと切れてしまいました。
これからどうしたらいいのだろう?そう、お爺さんは悩みながら通りを歩いて行きました。
まだ宿も決めていない上に、不慣れな町をあてどもなく彷徨っているうちに、いつの間にか陽は傾き、
夕闇が押し寄せてきました。
ふと気がつくと、また司教様の教会の前に出ました。あてどもなく彷徨っているうちに、
また教会へ着いてしまったのでした。
「あぁ主よ、私に道をお示し下さい」
お爺さんは、教会の柵越しに神への祈りを捧げました。
「お爺さんも神様にお祈りしているの?」
突然、背後からかけられた声に、お爺さんはびっくりして振り返りました。
「お爺さんも教会に入れないの?」
声の主は、みすぼらしい格好をした、焦げ茶色の髪に澄んだ黒い瞳のかわいらしい女の子でした。
この子が探していた子だ!
お爺さんは、あまりの驚きに声も出ませんでした。
その後、お爺さんは女の子と仲良くなりました。
誰からも好かれるお爺さんは女の子に気に入られ、また、お爺さんはあのとき助けられなかった
女の子に何かをしてあげたかったからです。
教会の側の木賃宿を教えてもらい、そこに腰を落ち着けたお爺さんは、女の子を自分の粗末な部屋に招き、
お喋りをしました。女の子を見たとき、宿屋の主人は渋い顔をしましたが、お爺さんがそっと、いくらかのお金を
握らせると何も言わずに通してくれました。
女の子は、お爺さんが探している女の子に間違いはありませんでした。
ポツリポツリと女の子は身の上を話して聞かせました。
女の子の名は真理亜といい、娼婦の娘として隣町に産まれ、父を知りません。
下賤の、「あいのこ」として、町の人からも疎まれていました。
母は、敬虔な信者で、いつも堕落した職の身を恥じていました。
ですが、子供の面倒を見るために働くことを厭いませんでした。
一生懸命働き、一生懸命真理亜の面倒を見てやり、弱り切って死んでしまったのです。
今はこの町の司教様をしている聖職者様は、この子が教会に近づくことを嫌いました。
母に似て、敬虔な信者である真理亜は、教会に入ることができず、いつも柵越しに祈りを捧げていました。
初めは隣町の教会のそばをうろついていた真理亜は、先月からこの町に移り、やはり
教会の見えるところでお祈りをしているのだそうです。
真理亜の身の上を聞いているうちに、お爺さんは我が事のように悲しくなりました。
子供好きのお爺さんは、この子の不幸が辛いのです。
そんなお爺さんを見て、真理亜は不思議そうに、首を傾げました。
「お爺さん、どうしたの?とても悲しそう」
そう言われて、お爺さんは正直に答えました。
「君の身の上がとても気の毒で悲しいんだよ。子供が不幸なのは耐えられない」
「ううん、私は不幸じゃないよ!」
言って、真理亜はアハハと、綺麗な声で軽やかに笑いました。
「こうやって生きていられるのは、神様のおかげだもの。神様はちゃんと私を見ていて下さる。
だから、私はとっても幸せよ」
その顔は、本当に嬉しそうに輝いていました。
驚いたお爺さんは、真理亜に何か言おうとしました。が、そのとき。
「ちょっとあんた。そろそろそいつを追い出してくれ!玄関を閉めちまうぞ」
意地の悪い宿屋の主人が乱暴に戸を叩いて言いました。
しょうがなく、お爺さんは真理亜に別れを告げました。
何かしてあげられないかと、辺りを見渡すと、自分の旅行鞄が目につきました。
鞄を急いで開け、中を引っかき回して、お菓子の詰まった袋を見つけ、真理亜に丸ごと与えました。
美しい装丁の異国のお菓子をたくさん貰った真理亜は、とても嬉しそうでした。
女の子は、屈託無く笑い、礼を言い、帰ろうとしました。
「あ、そうだ」
真理亜は、服のポケットをゴソゴソと探りました。
「お爺さん、この国は初めてでしょう?夜は冷えるからこれを被って寝るといいわ」
そう言って差し出したのlは、お爺さんの探していた帽子でした。
「私には、お爺さんの方が不幸せそうに見えるわ。これは私のお守りなの」
言いながら、驚きで固まっているお爺さんの手に帽子を握らせました。
「お爺さんはすごく優しいもの。 お爺さんにもきっと神様のご加護があるわ!」
真理亜は、軽やかに部屋を出ていきました。
お爺さんは、しばらくそのままの姿勢で固まっていました。
やがて、涙がつーっと両頬をつたい、その場にひれ伏し、帽子を握りしめながら感謝の祈りを捧げました。
その晩、お爺さんに貰ったお菓子の袋を大事そうに抱えて、真理亜は橋の下に丸まっていました。
町中から忌み嫌われている彼女には家がありません。でも、たまに優しい人が施しものをしてくれます。
その中にあったぼろ切れのおかげで、女の子は凍えずにすんでいるのです。
異人さんの住まう高級住宅街からは、陽気な音楽がかすかに風にのってきます。
今日は、神様の記念日なので、皆が浮かれ騒いでいるのでしょう。
女の子、澄んだ瞳で神様へお祈りをしました。
その時、白い精が空から待ってきました。
「わぁ・・・」
暖かいこの辺りでは、雪はとても珍しいものです。
女の子は産まれて初めて目にしました。
ホワイト・クリスマス
教会に出入りする人達が、雪の記念日をそう呼ぶのだと話していました。
なんだか嬉しくなった女の子は、掌に雪を受けてみました。
シャンシャンシャンシャン
星が鳴っているかのような澄んだ音が聞こえてきました。
目を閉じて、その素敵な音色を聴いていた女の子に、誰かが優しく話しかけました。
「寒くはないかい?」
目を開けると、そこには白い縁取りのされた赤い衣装に赤いブーツ、赤い帽子をかぶった人がいました。
「お爺さん?!」
真理亜はびっくりしてしまいました。
そう、それは、夕方会った優しいお爺さんだったのです。
お爺さんはサンタクロースの衣装を着て、女の子の前に立っていました。
「え・・・なんで?」
事態がよくわからなくて戸惑う女の子に、お爺さんは優しく言いました。
「私はサンタクロースだ。良い子を祝福するために世界を回っておるのじゃ」
そう言って、ホッホッホッと笑いました。
そう、お爺さんの正体はサンタクロースでした!
1年前、この島の子供の祝福に来て、サンタの聖なる力のこもった帽子を落としてしまったのを、
今日、真理亜から返して貰い、また力が戻ったのです。
「私の帽子を預かっていてくれたお礼に、あなたの望みを何でも叶えてあげよう」
厳かに威厳をもってお爺さん、いやサンタクロースは言いました。
そう言われて、真理亜は、しばらく考えていました。
やがて、
「ではサンタさん、私に洗礼をして下さい」
そう言って、にっこりと微笑みました。
サンタクロースはその望みを聞き、頷きました。
「では、そこへ跪きなさい」
跪いた真理亜の上で、サンタクロースはゆっくりと聖なる印を書きました。
「主に許された我、御身に変わりて、この敬虔なる御子に祝福を・・・」
洗礼を終え、真理亜を立たせてからサンタクロースは、彼女の胸元にロザリオを掛けてやりました。
「他に、何か望みはあるかい?」
優しく、サンタクロースは訊ねました。
その問いに、女の子は微笑みながら首を振りました。
「私は、もう十分にして頂きました」
「他にも不幸な子は大勢います。その子達にしてあげて下さい」
「・・・本当にいいのかね?」
サンタクロースは、何か言おうとしてから口をつぐみ、しばし考えて聞きました。
「はい!」
また、しばしの沈黙の後、サンタクロースは言いました。
「私は、子供達に喜びを与えることを務めとしてきた」
真理亜は、じっと聞いています。
「子供達が素直に願いを言い、喜ぶ姿を見るのが何よりの楽しみじゃった。・・・しかし」
「子供から私が喜ばせてもらえるとは・・・」
まっすぐ、真理亜の瞳を見つめながら言いました。
「私は何もしていませんよ?」
首を振って、女の子の言葉を否定しました。
「こんな心優しい子に出会ったのは初めてだ。君は、私に最大の幸福を与えてくれたよ」
そう言うと、サンタクロースは、彼女に十字を切り、別れを告げました。
「また、来年会おう」
「ええ、サンタさん。お気をつけて」
きびすを返し、サンタクロースは、橇に乗り、行ってしまいました。
翌朝、教会では盛大なミサが行われました。
いつもなら、教会の外で1人で祈りを捧げている女の子が、今日は教会の柵の内側に入りました。
由緒正しそうなロザリオを持ち、ホーリーネームを持つ、洗礼された信徒になった彼女は、
堂々と入っていきました。
そうして、彼女は信徒席で産まれて初めて祭壇にお祈りをしました。
天にまします我らが父よ
願わくば、御名を崇めさせ給え
御國を来たらせ給え
・
・
・
そして、御身の使い、優しいサンタクロースのお爺さんに、祝福を・・・
2003/12/28(Sun)23:41:53 公開 /
PAL-BLAC[k]
http://www.smat.ne.jp/~pal
■この作品の著作権は
PAL-BLAC[k]さん
にあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
第2話です。女の子は幸せになったようです。次でラストになります。
作品の感想については、
登竜門:通常版(横書き)
をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で
42文字折り返し
の『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。