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『ケンジの空』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:柳沢 風
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― 私は今日から自由になる ―
私は今、
なんで人間なんかに生まれてきたのだろうと、
つくづく思う。
他人が創った『檻』で皆を縛り付ける。
『勉強』『進学』『将来』というのは、
そんなに大事なものなのだろうか。
そのせいで今は、
『いじめ』『不登校』などの問題が発生している。
もううんざりだ。人間の生活なんて。
私は一番、
『野良猫』に生まれたかった。
好きな時に食べ、寝て、遊んで・・。
人間だとそんな事出来ないから。
私は、
『自由』になりたかった。
「今日は朝からついてない・・」
少女はかすれた声で嘆いた。
手にはしわくちゃな紙が一枚。
紙には『市野谷 由良』数学13点、
と書いてある。
今日はこの少女、由良のクラスで、期末テストが返された。
由良は数学が大の苦手だった。
・・といっても、大体すべてが50点以下だった。
「う〜、絶対怒られる・・」
引っ掻き回してクシャクシャになった髪が頭にたれ、
せっかくショートヘヤ―にも似合うように付けてきたピンが机の上にポトリと落ちた。
「もう嫌だ・・」
由良は机に軽く頭を伏せ、ぼそりと呟いた。
学校帰り。
午後3時という比較的早く帰ることが出来た。
由良はさっさと家に帰る気が出なかった。
帰っても母親が顔を鬼にして待ち構ええているに違いないからだ。(変に親はテストに敏感だ)
由良の家は少しはずれにあるので、この道から帰る生徒は誰もいない。
由良は少しため息をつくと、
草で生い茂った川に続く丘を下り、川辺にゆっくり座った。
ぽと・・
バックから数学のテストが出てきた。
「こんなもの、何に役立つって言うの・・」
由良はテストをぎゅっと握った。
「勉強なんてしなくても死ぬ事なんかない」
勉強と言う言葉一つで、
人は強くなったり弱くなったりする。
それが可哀想で、悔しい。
人生は勉強だけで決まるのか。
そりゃあ、全然勉強しないっていうのは幾らなんでもいけないと思う。
でもそれだったらある程度の勉強でいいんじゃないか。
「そんなことだったら・・」
由良は手の中のテストを、
勢いよく川に投げた。
ぽしゃん。
力の抜けた音と共に、テストが川に沈んでいく。
「野良猫になりたい」
由良はふっと言った。
自由な姿と考えたら、
自由気侭に生きる野良猫の姿が浮かび上がったからだ。
だが、すぐに現実に戻された。
「なれるわけない・・か」
「なれるさ」
由良ははっとした。
・・さっき、誰かの声がした・・?
由良はばっと後ろを向いた。
だが、あるのは草むらだけ・・、いや、
白い毛がよごれ、茶色くなっている、
一匹の猫がすぐ後ろで座っていた。
「・・猫」
由良はぷっと笑った。
「なんだ。あんたの鳴き声が声に聞こえただけかっ」
「鳴き声ではなくちゃんとした声だ」
「は?」
由良は目を見開いた。
この猫・・・、喋った・・・?
「な、なんで喋って!? 猫が喋ってるう〜!!?」
由良の顔は、みるみる内に真っ青になった。
「落ち着いてくれっ」
猫は落ち着けようとしたが、それが逆効果で由良は一層騒ぎまくった。
30分後。
由良は放心状態のまま、
喋る猫を見つめていた。
猫は由良を見つめると、ゆっくり言った。
「私は、人間から言えば『ねこまた』というやつだ。
言わば化け猫だから人語も喋れる。
ほら、尻尾がふたつに分かれているだろう」
猫は自分の尻尾を見せた。
確かに、ふたつに分かれている。
由良はあんぐりと口を開けた。
「・・・それで、そのねこまたさんがどうしたんですか」
由良は怖いので敬語で聞くと、
猫は顔を暗くした。
「ちょっと、・・君に気になったことがあってな」
「気にる?」
由良が聞きなおすと、
猫は眉間に皺を寄せた。
「君は3日後・・、心臓麻痺で死ぬんだ・・」
「・・・死ぬ・・?」
由良は苦笑いした。
「嘘・・」
猫は「はあ」とため息をついた。
「突然で悪いが、・・本当だ。
私は近い未来だったら見ることが出来る」
由良は愕然とした。
「そんな、信じられないよ・・私・・」
猫は由良からゆっくり視線を外して言った。
「出よう」
「え・・?」
猫は由良を見た。
「自由になりたいんだろう?」
由良は一拍置いてから頷いた。
猫はそれを見ると、ふっと笑った。
「ならなろう。野良猫に」
由良は猫を見つめた。
「・・・なれるの?」
猫は由良を見つめ返すと言った。
「私が連れて行こう。『外』へ」
風が吹いた。
その風が由良の髪を軽くまきあげ通り過ぎる。
由良はすっと立ち上がった。
その瞳は、どこか遠くを見つめている。
猫は由良を見て言った。
「私はケンジだ。
目上だからな。敬語を使うように」
由良はにやりと笑った。
「私は由良。
よろしく、ケンジさん」
「由良、お前は怖くないのか」
突然聞かれて、由良は首をかしげた。
「何が?」
「だから・・、死ぬのを」
由良は少し笑った。
「怖くないよ」
ケンジははっきり言われたので少し驚いた。
「そうか・・」
そっけなく返事をすると、少し空を見上げた。
空は少しオレンジ色が混じってきている。
『由良は・・、
自分の運命を現実視していないんだな』
ケンジは思うと、由良に着いて歩く。
たしかにケンジの思っている通り、
由良は『これは夢なんだ』とうっすら思っていた。
だが、
これが夢ではないと思い知らされる事が起こる。
ケンジには分かっていたが、
あえて由良には言わなかった。
そして、
何故ケンジが由良についていくのかにも理由があったが、
ケンジは言わなかった。
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2003/12/23(Tue)20:20:21 公開 / 柳沢 風
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■作者からのメッセージ
一応『共に生きる』の続編です。
タイトルが違ってスミマセン。
意味がわからなくありませんでした?!
分からなかったらすみません!!
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