『夜の宴・第二章』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:卯月弥生                

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…………………
にこにこ
…………………………
にこにこ にこり

「ねぇ、あたしの顔見てて面白い?」
「嫌。面白くは無いけど?」
何故に疑問形。
「…まともな会話が出来ないのか?」
ボソリと呟いた月世の声が聞こえているのかいないのか、倉又はにこにこと笑う。

これは、新手のいじめなのだろうか。それも教師から生徒に対する。
なぜ、決して好意を持っていない相手と席が隣にならなければいけないのだろうか。
しかも転校生は月世の顔を見、にこにこと微笑んでくる。
それも、薄い、うそらしい笑みで。
「…あー。クラマタ君、だっけ?気が散るからこっち見ないでくれる?」
「ん、わかった」
……女子の視線が痛い。
月世と倉又は喋っているが、授業中である。
にもかかわらず、女子達の視線が月世に突き刺さる。
「(こっち見てる暇があったら授業聞けよ)」
授業中ずっと人の顔を見ていた倉又も十分言える事だが。
「あのさ」
「ん、何?」
ボソリと呟くと、倉又が嬉しそうに月世の方を向く。
月世は、苦虫を噛み潰したような顔をして少し黙り、また口を開いた。
「あんた何?私人になれなれしくされるの嫌いなんだけど。」

「そんなつもりは全く無いよ。」
つかみ所の無い笑顔。

「月世、授業中に何やってる。」
すこーん
教師・三山の手からチョークが飛んだ。



「倉又君は何処から来たの?」
「誕生日は?」
「血液型は?」

1時間目が終わるとすぐ、恒例の質問タイムが始まる。
無論、月世はこれに混じらなかっが。
女子生徒たちの質問に紳士的な笑顔を浮かべながら丁寧に答えてゆく。
「実はね、僕は昼間の授業にあまり来れないんだよ。」
「え、何でー?」
「僕はね、肌に病気があるんだ。だからあまり紫外線に当たる事が出来なくてね。
今日は曇りだから来れたんだけど、次からは夜の授業に出るよ。」
黒羽学園には「夜間授業制度」と言う物が存在しており、
昼間の授業に出たくない人、出なかった人、出られない人が受ける夜間に行われる授業である。
―――そんなに危険なリスク負ってまで学校に来るか?普通。
夜間の授業にも一緒に出なければいけないという事実は、あえて無視して思考する月世。

「ねぇ、月世さん。」
窓の外を眺めていると、肩に手が置かれた。
一瞬倉又かと思ったが、声が違う物だったので少し安心した。
「・・何?あずま東さん。」
月世が振り向くと、気弱そうな少女の姿がいた。
あずま かすみ東 香澄というこの少女は、このクラスで月世と普通に会話できる唯一の存在である。
大概の者は月世の独特な雰囲気に気圧され話し掛けてなど来ない。
「あ、あの、倉又君のことどう思う?」
もじもじしながら東はそれだけ言った。
頬をわずかに紅潮させているところを見ると、どうやら東も倉又に気があるらしい。
…数秒、思考した後
「いけ好かないね。私は好きじゃないよ、ああいうタイプ。」
だいたい、何時も笑ってるやつほど腹の中で何を考えているのか解らない。
「そ、そう?良い人だと思うけど…」
「良い人ねぇ、そもそも良い人なんていないと思うんだけど」
月世は人をあまり信用しない節がある。それが両親の影響かどうかは不明だが、月世は人と必ず一線を置く。
だからこそ、倉又に好感は持てないのだろう。
東とは割と親しくしているが、素っ気無いところは他の人と同様である。

「月世さんはそう思うかもしれないけど、私は、好きだなぁ」

* * *

今日は、とことんついていないらしい。
何時もの日課どおり、月世が図書室へ行くと倉又が居た。
「…あんた、本なんて読むんだ。」
「失礼だなぁ、読書家の僕にそれは無いだろう?」
知った事か。 月世はぼやきながら本棚に手を伸ばした。
そのまま適当に本を一冊手に取り、設置してある椅子に座った。
月世は結構な読書家だ。本が友達、と言っても過言ではない。
読む内容はさまざまだが、最近は専門書より小説の方をよく読んでいる。
ちらり と倉又の手にしている本を見た。
『吸血鬼ドラキュラ』ブラム・ストーカー著
「あんたそういうの読むの?」
興味本位で聞いてみる。ろくに喋らない月世からの問いかけに、倉又は答えた。
「うん。結構好きだよ。こうゆうの。」
「私もそれ読んだけど、あんまり面白くなかったな。翻訳した人が下手でね。独特の雰囲気が出てない。」
本の事なら、月世はよく喋る。気が向いたときだけだが。
月世の本の感想に、倉又は頷いた。
「確かにね。それにこれは原書を基本としてるんじゃなくて、映画の方を中心に書いてるみたいだ。」
一瞬、月世は目を瞬いた。
「…へぇ。よく知ってるね。そもそも、原書ではドラキュラってよぼよぼの老人だったんでしょ?映画ではやけにカッコ良くなってるけど。」
「そうそう。僕は映画の方が好きだけれど、この本はもっと原書に忠実に、雰囲気を出すべきだと思うな。」
どうやら、意気投合したらしい。話が弾んでいる。月世と倉又はしばし本について論じた。
「そう言えば、似てるよね。」
「何が?」

「倉又君。映画版のドラキュラ伯爵にそっくりだよ。」
「…。何?顔とか?」
「違うよ。若くてイケメンで、日光がダメで。同じジャン。」
月世は嫌味ったらしく言った。
「…そうかもしれないね。」
少し、真剣な表情で倉又は言った。月世としては軽い冗談のつもりだったのだが、こういう表情で答えられるとこちらも返答に困る。

「じゃ、僕は寮に戻るよ。」
月世の返答を待たぬまま、倉又は図書室から出ていった。
月世の前には置いていかれた本が一冊、窓から差す光を受けていた。


2003/12/19(Fri)21:59:09 公開 / 卯月弥生
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■作者からのメッセージ
第一章を書いてから随分とたってしまいました。一章と雰囲気が変わってなければ良いです。まだまだ小説初心者の中坊ですが、続きもよろしくお願いします。

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