『彼女』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:junkie                

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彼女はいつも死人のような眼をしている。
そして誰ともしゃべらなくて、いつも一人で席に座ってる。
髪が長くて腰の辺りまである。髪質はまぁまぁ。
肌は驚くほど白くて、まるでゆきのようだ。
彼女はその暗い性格がたたってかいままでクラスの連中からはいいうわさを聞いたことがない。
例を挙げると 「暗い」「亡霊」「内気」「不気味」「わら人形」「貞子」 等などだ。
名を黒澤綾香という。
俺が思うに顔はそんなに悪くない、いや俺にしてみれば十分美人の部類に入る。
ただああいう人なので、むろん男子からも「怖い」などと言って不気味がられている。

でも俺はそんな彼女が気になってしょうがない。
要するに好きなのだ。
でも彼女と同じクラスになって早3ヶ月。もう夏休みを迎えようとしている。
なのに俺は今の今まで1度たりとも言葉を交わしたことはない。
いや、正確に言うと学校行事などの事でたまたましゃべったことはあるが、それは事務的なもので、とても会話と呼べるものじゃなかった。
しかしこのままでは流石に俺もまずいと思う。もう1学期も終わるころだ、なにも恋人とは言わないけど、せめて彼女がどういう人なのかということは理解したい。
なにが好きで、なにが嫌いで、普段どんなことを考えているのか。
俺は普通なら他人にはこういう疑問を持たない。
でも彼女にはいくつもいくつも聞いてみたいことがある。
それはきっと彼女がとても異質で、俺が今まで接した事のない人間だからだろう。
言ってみれば一種の怖いもの見たさなのかもしれない。

とにかく、彼女と話すチャンスを作ろう。

そんなことを考えながら4時間目の終わりの鐘が鳴った。授業の内容はもちろんまったく頭の中にはいってない。
弁当の時間だ。
ふと彼女のことが気になった。
(どんな風に弁当食うのかな?)
無論、彼女が鼻から食べたりするのを期待しているわけじゃない。本当にただちょっと気になっただけだ。
見ていると彼女はまるで弁当に味がないかのように食べる。
まずくもおいしくもない。だから表情もかわらない。
まるでエネルギーを充電してるロボットみたいだ。あれじゃあ、弁当作ってるお母さんも張り合いないだろうな、と思う。
(・・・・っと。こっちも見とれてばかりいないで弁当食わないと。)
それから10分ほどして彼女は立ち上がり、1人でどこかに歩いてゆく。
チャンスだ!!
実を言うと俺はずっと回りから人がいなくなるのを待っていた。
というのも彼女は先にも述べたように非常に評判が悪く、クラスの中で堂々と話しかけたりなんかした日には、貞子の友達ということで「貞男」なんてあだ名をつけられかねないからだ。
とにかく彼女が外に出たこのチャンスを逃す手はない。追わねば。
でもその前に弁当をしまわないとな・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・
しまった。見失った。くそ弁当をしまってる隙にどこ行ったのかわかんなくなっちまった。
しょうがない、探すか。
まずは図書室だ、あいつ本とかすきそうだからな。
・・・・・・あれ、いない。
じゃあ職員室か?呼び出しをくらったとか。
・・・・・あれ、ここもいない。
まさか相談室?そういう奴には見えないけど。
・・・・・・あれー。ここもいないぞ。
それじゃあ・・・・・・・・・くそ 次は・・・・・・・・・・・・・えぇい だとしたら・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
あれぇ???
おかしいな学校中どこ探してもいないぞ。これでもう全部探したはずだがなぁ。トイレも見たし・・・・
あ、でもまだ旧理科室は行って無かった。でもあそこは使われてない教室だからいるはずはないよなぁ。
でももう探すとこないし。

旧理科室。ここに来たのは高校に入ってから初めてだな。
にしてもなんちゅう古臭い教室だ。すげぇ埃の匂いが漂ってくるぞ。
取り合えず入るだけ入るか。
でもさすがに、いくら変わり者だといってもこんなとこに居るわきゃ無いよな。
ガラガラガラ
・・・・・・
・・・・・・あれ?居るぞ。
黒瀬は教室の一番端の窓から外を眺めていたようだが、俺が教室のドアを開いたので俺の方に振り向いている。
どうしよう。何かしゃべらねば。
よし。
「ありゃ。黒瀬じゃないか。こんなとこでなにしてんだい?」
ちとわざとらしすぎたかな?
でも彼女はそんなことは知らんとばかりに、いつものように無表情な顔で答えた。
「外を見てた。」
「なんでこんなところで?」
「・・・ここは人が来ないし、静かで落ち着くから」
そういうと黒瀬は視線を俺から窓の外えと変えた。
もしかして俺、邪魔?
だめだ、今ここで諦めたら何もかもがパーだ。がんばれ。がんばれ俺!
「外ってさぁ、何みてるわけ?」
「・・・景色」
「いやいや、そうじゃなくてさぁ、例えば鳥とか。」
「・・・外には何も無い。」
「へ?」
「外には何も無い。憎しみも、悲しみも。だから私は外を見るの。」
「漠然としてるなぁ、でも俺もそういうの結構好きだぜ。夜空とかさ、眼にもいいらしいし。」
「・・・・」
「こう、夜空を見てると宇宙のでかさとかを感じてさ、なんかすごくいい気分になれるんだよ。嫌な事とかみんな忘れられて。」
「・・・・」
「だから俺、結構星座とか物知りだったりして。」
「・・・・」
「・・・・」
あちゃー。まずい、無言モードに入られた。
でも黒瀬は俺の話を聞いててくれてるみたいだ。
それだけは分かる。
それなら・・・
「なぁ黒瀬。君はその・・・・・・人間が嫌いなの?」
「?」
「いや、君を見てるとなんかそんな感じがするよ。」
「・・・・・・」
「あ。余計なお世話だったかな?」
「私は・・・」
黒瀬はゆっくり口を開いた。
「私は人の持ってる憎悪とか憎しみとかそういうのが分かるの。人はみんな心の中にそういうものを持ってる。」
憎悪を感じる?
ずいぶんと非現実的な話だけど、黒瀬だとなぜだか信じられる。なぜだろう・・・・・?
「私はそれを感じるのがつらい・・・・だから一人でいるのが好きなの。」
「じゃあ・・・・・君は俺からもそういうものを感じる?」
これをいうには結構勇気がいったぞ。
よくがんばった、俺。
しばしの沈黙。
彼女は俺の目をじっと見つめて一言こう言った。
「いいえ・・・」
その時、彼女はほんの少しだが微笑んでくれたような気がした。

次の日
俺はまた昨日のように理科室へと向かう。
そして中には予想通りに彼女がいた。例によって窓の外を眺めている。
「また外をみてるのかぁ。」
「・・・・・・」
「あいかわらずだね。隣・・・・いいかい?」
彼女は何も言わないで、小さくうなずいてくれた。
そして俺は黒瀬と一緒に外を眺めた。
空は澄み渡り、とても美しいけしきだ。
「いい天気だ。」
「・・・・・・ええ。」
気のせいか彼女の声のトーンがこの間よりも明るい。
この日はそれだけで終わった。
でも俺はなぜかすごくいい気分になれた。

次の日も、また次の日も俺は理科室に向かった。
そしてそのうちに彼女も打ち解けてくれたのか、彼女の方からも俺に話しかけてくれるようになった。
そんなある日だった。
彼女の口からあの話を聞いたのは。
その日俺たちは、夜の7時くらいまでこっそり学校に残り夜景を見ていた。
「あー。やっぱ夜景っつーのはいいなぁ。心が落ち着く。」
「・・・・・・」
「どした?」
「聞いてほしいことがある・・・・・」
「何?」
「実はお母さんが自殺したの。もう何年も前のことだけど。」
「へ!?」
「ビルの屋上から飛び降りて。・・・・・私お母さんが好きだった。いつも笑顔で、やさしくて。でも父さんは・・・・」
そういうと黒瀬は言葉を詰まらせた。
「・・・・父さんはいつも怒ってて。夜になるといつも母さんを殴ってた。」
そういうと黒瀬はおもむろに何かを取り出した。
ネックレスだ。
「これ母さんの形見なの。私の唯一の宝物。」
「すごく綺麗だね。」
本当に綺麗だ。銀の鎖に鳥をかたどった金のアクセサリがついてる。
空を羽ばたく鳥のアクセサリが・・・・・・
「私に今まで優しくしてくれたのは、お母さんと、あなただけ・・・・・」
彼女は今にも泣き出しそうな顔をしている。
そして俺もまた同じように悲しくなった。
なにか冷たいものがこみ上げてくる。
俺は。
俺は耐え切れなくなって黒瀬の肩を抱いた。
「・・・・・・!?」
「好きだ。」
言ってしまった。
今まで言いたくてもいえなかったことを。
とうとう。
すると黒瀬もまた俺の肩を抱いた。
そして彼女は俺をいつものように無言で受け入れてくれた。
窓の外には月が輝いている。

こうして、俺たちは正式に付き合いだした。
一緒にメシを食べに行ったり、買い物したり、映画を見たり。
いままでにない充実した生活をすることが出来たし、彼女もまた今まで見せてくれなかった笑顔を見せてくれるようになった
でも、彼女は笑顔の裏に何か冷たいものがあるように感じた。でもそれが何かまでは分からなかった。

・・・・・・それはとても重大な物なのに・・・・・・

いつものように理科室で語り合う。
でも今日はいつもと何かが違う。
彼女はとても深刻な顔をしている。
まるで黒瀬が彼女のお母さんのことを話してくれた日のように。
「なぁ。どうしたんだよ。」
「あのね・・・貰ってほしい物があるの。」
「貰ってほしいもの?」
「これ。」
黒瀬が取り出したのは、彼女が形見だといったあのネックレスだった。
「え?でもこれ宝物なんじゃ・・・・・・?」
「いいの。お願い、あなたにもらってほしいの。」
「でも・・・・・・」
「・・・・・・あのね、あなたに最初にあった時、私景色を眺めてるっていったじゃない。」
「急にどうしたんだよ。」
「でもね。本当はあなたの言うように鳥を眺めていたの。私もあんなふうに飛び立ちたいって。」
そう言うと突然黒瀬は走り出して、教室を出た。
俺はあっけに取られ追うのことが出来なかった。
「なんでいまさらあの話を?」
俺は彼女のネックレスを手にしたまま棒立ちになっていた。

黒瀬はその後教室に帰ってこなかった。
担任いわく、家の用事で早退したらしいが、理由は良く分からないらしい。
確実に何かが変だ。

そして次の日の朝。
学校に登校すると校門のあたりに人だかりが出来ていた。
救急車やパトカーの姿もある。
俺は悪い予感がした。
「神様・・・・!!!」
気がつけば黒瀬のネックレスを握っていた。
「お願いだ、黒瀬じゃないでくれ。」
俺は人を掻き分けていく。
「水島(俺の名前)!!!」
突然声をかけられた。
振り向くと、そこにいたのは親友の小橋だった。
俺と黒瀬の関係を唯一知っていて、そして誰よりも理解してくれている。
「おい!何があったんだ!!」
「水島、落ち着け。落ち着いて聞いてくれ。」
「落ち着けたって。一体なんなんだよ。」
「落ち着けって!」
小橋の声で俺は我に返った。
「一体なにがあったんだ。」
「・・・・・・黒瀬が屋上から飛び降りたらしい。」
だめだ、頭が真っ白に。
何も考えられない。考えたくない。
「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

後日、噂で聞いた話では、黒瀬は彼女の母のように昔から父親に暴力をふるわれていたらしい。
彼女の母の自殺後、暴行は激しさを増しそれは恐ろしいものだったそうだ
きっとそのせいで彼女は人の憎悪を見る力を手に入れてしまったのだろう。
そしてその力のせいで彼女は他人に近づけなくなってしまった。
人の憎しみを感じるのがつらくて・・・・
俺は後悔した。
なぜ俺は彼女の悲しみに気づいてあげられなかったのかと。
なぜ俺は彼女を救ってあげられなかったのかと。
黒瀬の一番大事なあのネックレスを俺にくれたということは、彼女の唯一の支えだったあのネックレスを俺に渡したって事は、つまり”そういう”ことじゃないか。
あのメッセージに気づいてさえいれば・・・・・・

あれから一週間。
俺は毎日病院に見舞いにいっている。
生死の境を漂って、起きてこない黒瀬を励ますために。
看護士さんの話だと助かるかどうかは全く分からないらしい。
いや、むしろ助かる見込みのほうが少ないようだ。
そして例え助かっても後遺症は免れないらしく、悪くすれば植物状態もあるという。
でも何が起きようとも俺は黒瀬を・・・・・・



俺の首には金色の鳥が輝きながら羽ばたき続けている。

2003/12/14(Sun)21:46:49 公開 / junkie
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■作者からのメッセージ
本当は最後黒瀬に死んでもらおうと思ったのですが、それはあまりにかわいそうなのでそこら辺はあやふやにしました。

ストーリーの欠陥など、アドバイスを頂けると嬉しいです。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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