『間違ったあゆみ』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ティア                

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 …気付いたら、何もなかった…。
オモチャも、漫画も、時間も、信用も、家族も、恋人も、記憶も…僕自身という存在も。

 
 一番、最初に信用を失った。
 学級で一番になりたくて友達に、任せろとか無責任に言って、全部失敗してしまった。
 そして、流されるように友達を失った。
 なんとか仲直りしたかった。
 思いついたのは、何かをあげて仲を取り戻そうという考えだった。
 友達にオモチャをあげると、仲が悪かったのに、すぐに仲良くしてくれた。次に漫画をあげた。やっぱり喜んでくれた。
 どんどんエスカレートして、今度はお金をあげた。
 でもある日、小遣いがなくなって、母さんのサイフからお金をぬいた。それを毎日続けた。
 しかし、ついに母さんに見つかってしかられた。
 父さんからも説教をうけて弟からは白い目でみられていた。
 僕は勇気をもって、もうお金はあげないって友達に言ったが、それを聞いた途端、友達は僕を殴りつけてきた。
 どうして? 友達なんだろ? なぁ?
 その日から友達は何も口をきいてくれなくなった。
 家族も、サイフの事がバレてからロクに口を聞いてくれなくなった。

 
 寂しかった。心の底から、寂しくて、何かで心を満たしたかった。
 そこで、タバコと酒に手を付けてみた。が、だめだ、ダメだ。こんなの美味しくもなんともない。マズイマズイ。

 麻薬。

 それに手をつけた。
 気持ちよかった。体が浮いたようにふんわかしていた。
 最初は無料だが、次からは有料と怖い兄ちゃんから聞いていた。
 だから、お金のない僕は、一度だけと決めていた。だけど、心の中の何かが叫んでいた。

『欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい』
 自分自身を止められなかった。気付いたら、家族の貯金通帳から全額おろして、麻薬を買っている自分がいた。
 ダメだ。すっちゃダメだ! …僕の体はそれを聞き入れようとしない。

 …気付いたら、牢屋の中にいた。
 麻薬の事がばれた。なんでばれたんだ? ちゃんと隠してあったはずだ。
 しかし、すぐに情報が入ってきた。
 そうか、親がチクったのか。奴らが僕を売ったのか。邪魔者の僕を売ったのか。
 牢屋を出た。空白の長い時間を過ごしていた。
 家には帰らなかった。すぐにマンションに入れてもらった。
 もちろん、家賃なんか払うわけないだろ? ある程度家賃がたまったらオサラバしてやるよ。
 何? そんな悪いことはするなって? 何言ってるんだ?
 世の中悪いことしなきゃ生きていけないんだろ? お偉い政治家なんかしょっちゅう悪いことしてるんだろ?
 貴様らがしらないだけなんだよ。目に見える悪事だけ正義ぶって正そうとしやがって。
 こんな小さな事を正して何になる? 何にもならないだろう? じゃあ、もう何も言うなよ? 

 
 しかし、ダメだ。金なんかなくても、万引きすればどうにかなるが、心がカラッポだ。
 麻薬はダメだ。冷たいのは嫌いだ。冷たい牢獄の中はもっと嫌いだ。
 じゃあ、どうする? 何が僕…、いや俺の心を満たしてくれる?
 …そうだ。
 恋人だ。
 俺のことを唯一理解してくれる。俺の心を癒してくれる。そんな人が必要なんだ。
 その日から、俺は町中にいる女に片っ端から声をかけてった。
 なのに誰一人受け入れようとしない。
 しかし、頭の良い俺は思うかんだ。そうだ、金持ちぶりゃあいいんだ。
 そう思いついた時、銀行を襲った。
 覆面をかぶり、ナイフをもった俺が突撃すると、全員猿のように叫んだ。泣け叫ぶ野郎どももいた。
 人質をとった。しかし、反抗する奴らがいた。

 まぁ、許せ。

 そんな感じで人質を一人殺した。
 別に何とも思わねえよ? 俺は? 殺人ドラマなんかあるから、俺はマネしたんだ。 だから殺人ドラマを作った奴が悪いんだ。
 面白いように上手くいった。牢屋にいただけあって、警官の対応は万全。無能なバカ共め。
 その金でファッションを、極めたもので体を包み、ダイヤのネックレスをつけて町中を歩いた。
 すぐに女は寄りついてきやがったよ。少し声をかけただけでな。
 それから何ヶ月かつき合ったよ。嬉しかったし、心が何かで満ちてった。
 だけど、ある日、彼女が俺は指名手配中の銀行強盗だと、知った瞬間、逃げていきやがったよ。しかも通報しやがった。
 裏切られた。そうだ、昔もこんな事があった。あの時は友達に裏切られた。
 そうか、人は信用できない。今頃気付くなんて俺はバカだなあ。他人なんて信用して何の特になるんだよ。
 あーあ、つまんねぇ。そうだ、久々にマンションじゃなくて、我が家に帰ろうかな。
 ん? 弟がこの家の主になってんのか? あぁオヤジと母さん死んだのか。別にいいけどな。
 家にはいったが、誰もいない。すぐに俺は自分の部屋へいってみた。
 相変わらず狭いぜ。汚いし。でも、なにかが心の中でうごめいた。
―――何だ? ここに何を忘れてきたんだ? 大事な何かだ…。いや、しかし、俺は金も知識も手に入れた…それ以上のものなんて――――
 なんでだ…考えると頭が痛い…いったい、何を忘れてきたんだ?
 その時、違う部屋から赤ちゃんのような泣き声が聞こえた。 すぐに声の元へ走った。
 ベットに寝る、赤ん坊がいた。誰の子だ? しかし、すぐに赤ちゃんの近くにある、写真立てに映ったかすかに面影が残る、弟と知らない女を見て、わかった。
 あー、弟の子供か。なんだ、あいつ結婚してたのか。なんで俺に教えないんだよ。なんかムカついてきた…。
 五月蠅いなぁ泣き声…。ほうら、ベロベロバア、泣きやめよ、ホラ。ホラ…。

 泣きやめつってんだ!!!

 
 あーあ…息してねぇや…やっぱ赤ん坊のクビは弱いな…しめるんじゃなかった。
 ゴトッっという音が廊下から聞こえた。女が真っ青な顔でこっちを見ている。そうか、コイツが弟の妻だな。

 なんだよ? なんだよその目は? 見下した目でみるなよ? まるで俺の母さんと同じじゃないか? 貴様も俺をバカにしてるんだな!
 気がついたら、血のついたナイフを片手にもっていた。女は血を流して倒れている。夕日の赤さと血の赤さで何とも綺麗じゃないか。

 
 そうして、弟が帰宅してきた。女とガキの死体を見ると、すぐに奴は目の色かえて叫びやがった。俺の胸ぐらもつかんで何わけのわからない事言ってんだ?
 俺は貴様の兄貴だぞ? 偉いんだぞ? 何様のつもりだ?
 何で他人が死んで泣いてんだ? 自分がよければ良いだろ? 
 あーあ、不愉快。
 やる気じゃなかったのに…また殺っちまったよ。

 まぁ、弟も幸運だろうな。刺す相手が兄貴で、妻と同じナイフで刺し殺されたんだからな。
 

 …………俺は死刑が決まった。

 外国まで逃げたんだがなぁ…捕っちまったよ…。甘く見たぜ。無能な警察共。
 これが噂のギロチンか。たく、俺のクビなんざ落として面白いのかね? 俺を生かしておいたら、まだまだ良いこと教えてやるのによ…
 あれ? なんでだ…? なんで昔の思い出がいまさらになって蘇ってくるんだ…。

 おかしい…今まで俺がやってた何とも思わなかった事が…、全部昔母さんの言ってた『悪い事』にあてはまってるぞ…?
 成る程。だから俺は、こうして死刑になるのかよ…。

 そういや…俺は何でこんな人生を送ってきたんだ? 何かを求めるかわりに何かを失って…今はなにもないぞ?
 最初はたくさんあったのに…いつの間にか…。なにもないぞ…。無い…無い…無い…。
 そして、俺という一人の人間も…今…。

 まぁ…最後に教えてやるよ。俺は世の中に何も良いことをした覚えがないが、最後に『良いこと』をみんなに教えてやるよ。

 

――――俺みたいにはなるな――――

 

 
 

 Fin


2003/12/01(Mon)17:26:18 公開 / ティア
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