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『THE TONE 〜僕の奏でる道〜 3』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ナチョウ
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いつの間にか1週間が過ぎ、もう今日は金曜日だ。今日は先生の会議で午前中で生徒は完全下校となる。
今は、今日最後の授業、4時間目の音楽だ。ホルスト作曲の組曲「惑星」を聴いている。この曲は家にCDがあるので聴きなれている。
この曲は、占星術(星占い)をもとに、当時発見されていなかった冥王星を除く太陽系の惑星をホルストが曲にした、全7曲からなる組曲である。(1.火星 2.金星 3.水星 4.木星 5.土星 6.天王星 7.海王星)そして、例えば火星なら「戦争をもたらすもの」、木星なら「よろこびをもたらすもの」などの別称がついていることで有名である。僕は、木星が1番好きだ。理由は特にないのだが・・・ま、僕はこの曲は題名が有名なだけであり、曲自体はたいしたすごいものではないと思っている。
「起立」
学級委員長が号令をかけ、授業が終わった。さて帰ったら楽器でも吹くかな、などと考えながら第1音楽室を出ようとすると、
「西野君、ちょっと」
と、音楽の中野先生に呼びとめられた。この先生は女性で、年齢は30歳位。吹奏楽部の顧問をやっている先生だ。正直、面倒くさかった。
「なんですか」
「西野君、今度の11月23日にやる市のソロコンに出るの?」
今日は10月31日だ。
「それが何か・・・」
「いや、出場者名簿を見たら西野君の名前があったから、出るのかなと思って・・・吹奏楽部じゃないあなたが出るなんて不思議だな、と思って・・・」
先生は今年赴任してきたばかりなので、僕が去年1ヶ月だけ吹奏楽部に入っていたことを知らない。でも、この先生に説明したところで、なんにもならないので僕は、
「ただ出たいと思っただけです」
と言ってそそくさと立ち去った。
「ちょっと西野君・・・」
先生の言葉にも振り向かず、僕は教室へ戻った。
どうも僕は音楽の先生というのが好きになれない。もちろん音楽は大好きだ。しかし、音楽を「これはこうだから、こういう旋律だ」などと、断定して生徒に教えるというのは、僕はどうかと思う。先生にもいろいろあるのだろうとは思うが、僕はあくまでも音楽は人それぞれが自分で自由に感じるものだと思う。この先生の場合はそれが特に強く、感想を生徒に聞いておいて、教科書とは少し違った感想を述べると無理矢理教科書通り、又は自分の考えと同じ考えに誘導するのでなおさら苦手、というか嫌いである。
教室に戻り、自分の席で帰る準備をしていると、隣のクラスからナツキがやってきた。
「ねぇ、孝之君。今日の午後、何か予定ある?」
いつも通りのかわいらしく、明るい声で、そう僕に聞いた。
「別に」
呟くように僕は答えた。すると、ナツキの顔が明るくなった。
「実は孝之君にお願いがあるんだけど」
「何だ?」
「来年の春休みに、ピアノの発表会があるんだけど、その曲がなかなか決まらなくて・・・それで今日の午後、楽器屋さんに楽譜探しに行こうと思ってるんだけど、孝之君もし良ければ付き合ってくれないかな」
僕は別に構わなかった。
「いいよ」
「ほんと、ありがとう」
ナツキの笑顔を見て、僕も嬉しくなった。
「ホラ、学活をやるぞ」
先生が入ってきたので、ナツキは何か言いたそうにこちらを何度か振り返りながらも、教室へと戻っていった。
午後2時頃、ナツキが僕の家にむかえに来た。またナツキはおしゃれをしてきている。女の子というのは、そんなに自分を着飾るのが好きなのか、と疑問に思いながら歩き出した。「ところで、どこの楽器屋に行くんだ?」
僕が訊くとナツキは、
「それが・・・まだ決めてないんだ」
と少し下を見ながら顔を赤くして言った。僕は驚いた。人を誘っておいて、行く場所も決めてないなんて・・・ま、昔から少し抜けたところがあったからな、などと考えていると、「できたら、孝之君オススメのお店がいいなぁ、なんて思ってたんだけど、学校で言いそびれちゃって・・・市内のだいたいの大きな楽器屋さんには行ったんだけど、いいのがなくてさぁ・・・」
「なんだ、そういう事か」
僕は、少しホッとした。
「よし、僕について来てくれ」
「ホント?」
ナツキの目が輝いた。
「ああ」
「ありがとう、孝之君」
そう言うと、ナツキは僕に思いっきり抱きついた。とても、「ドキッ」とした。不思議な感情だった。僕にとっては全く新しいものであった。もちろん、今までの照れくさい感情もあった。が、しかし、何かが違う。ナツキは僕の身体から離れると、頬を赤くしながら、僕に笑顔を見せてくれた。僕はナツキを直視できなかった。その後、会話がトンと止まってしまった。
10分程経ち、商店街に入った。そこの中程にある細い脇道に入ると、僕のいつも利用する、早川楽器店があった。初めての人からすれば、人気がなく、とても営業しているとは思えない。
「ここが、孝之君のオススメ店?」
ナツキが目を輝かせながらも、不安そうな表情で言った。
「ああ」
「ホントにやってるの?」
「ああ、問題ない。さあ、入るぞ」
僕は慣れているので特に何も思わなかったが、ナツキはきっとかなり不安だったと思う。
僕達が店に入ると、奥の方からこの店の主人の早川勇(はやかわ いさむ)さんが出てきた。そんなに広くない店内には、楽器や楽譜が所狭しと並んでいる。早川さんは、この時間帯の客に少し驚いた様子だったが、僕の顔を見ると、
「やあ、いらっしゃい孝之君」
と明るく迎えてくれた。
「こんにちは」
僕とナツキがほぼ同時のタイミングで挨拶をした。すると、早川さんがニヤニヤしながら、
「孝之君、そちらのお嬢さんは?」
と訊いてきた。どうやら、ナツキを僕の彼女か何かだと思っているらしい。僕は、その誤解を解くように、
「幼なじみの、吉野ナツキです」
と早川さんに紹介した。
「初めまして、吉野ナツキです」
ナツキは少し緊張したような声で挨拶した。すると、先程までのニヤニヤした顔は戻り、誤解が解けたようだった。そして、
「僕は早川勇。この店の店主だ。こちらこそよろしく」
と軽く自己紹介して握手を求めた。ナツキはそれに明るく応じ、
「よろしくお願いします」
ともう1度挨拶した。
「ところで孝之君、今日は何のご用かな?」
早川さんが早速本題に入る構えなので、僕とナツキは隅にあったパイプ椅子を開き、そこに座った。
「実は、今日は僕じゃなくて彼女の方がちょっと用がありましてね。来年の春休みに開かれるピアノの発表会で弾く曲を選ぼうと思いましてね。お願いできますよね」
僕の話を早川さんはうなずきながら聞き、
「それじゃ、ナツキさん。こちらへ」
とピアノのある部屋にナツキを案内した。しばらくすると、ナツキの美しいピアノの音色が響いてきた。僕は、それを聴きながら、ガラスケースの中にある楽器をじっくり見つめ、時間をつぶした。
1時間くらい経っただろうか?奥の方からナツキと早川さんが出てきた。どうやら決まったようだ。僕とナツキは、早川さんにお礼を言い、店を出た。
帰り道、
「良い曲に決まったか?」
と僕が訊くと、ナツキは、
「うん、とても親切で思わず迷っちゃった」
と嬉しそうに言った。そして、
「始めはお店の雰囲気が少し怪しくて、少し不安だったけど、さすが孝之君オススメのお店!とても良かったよ。孝之君に相談して良かった。今日はありがとう」
とかわいらしく言った。
「ソロコンも頼むよ」
と僕が言うと、ナツキは
「うん」
と笑顔でうなずいてくれた。
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2003/11/19(Wed)19:41:15 公開 / ナチョウ
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