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『Docters』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:流浪人
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Docters
沖縄。海に囲まれたこの国の中でも、ひときわ美しい。
そんな沖縄にある一つの病院で、この物語は始まる……
「……以上で会議を終了する。最後に、新人を紹介する。」
「では村西君、皆に自己紹介したまえ。」
「はいっ!俺の名前は 村西 真吾(むらにし しんご)です!」
「今年が医者デビューなので緊張してるけど頑張ります!」
パチパチパチ、拍手が起きた。上手くいった!
「じゃあ今日はとりあえず帰っていいから。明日からな!」
「はいっ!」
今日は挨拶だけで終わりか。ずいぶん楽だなぁ。
ここは沖縄って言っても田舎の方だし、当たり前か。
ピリリリッ、メールが着た。きっと彼女からだ。
“新入りのお医者さん!初日はどうだったぁ?”
彼女の名はユカ。高校時代から付き合っている。
当時頭の悪かった俺を、一番支えてくれたのは彼女だ。
返事を返して、と。明日から仕事だ!頑張るぞ!
翌日、俺の仕事はまだ無かった。雑用をやらされた。
まぁまだ最初だし当然か!早く仕事をもらえるよう頑張るぞ!
「村西くん、この書類を高橋先生に届けて。」
看護婦長の太田さんだ。もう年配で、色々と知っている。
俺は軽い駆け足で高橋先生の元へ向かった。
「高橋先生、太田さんから、これ。書類です。」
「わざわざすまないな。……おや?君はもしかしてあの時の?」
まさか覚えていてくれたなんて!信じられない。
「そうです!あの時は色々とありがとうございました。」
六年前、母が重い病気にかかった時、この病院に来た。
その時に母の手術をしてくれたのが、この高橋先生だ。
俺はこの先生に憧れて、医者になった。
「大きくなったなぁ……そうだ!ちょっとついておいで。」
俺は高橋先生のあとに付いて行った。
廊下を歩いていると皆、高橋先生から目を避ける。
みんな緊張してるのかな?さすが偉大な先生だ。
着いた場所は、会議室だった。
「君が偉大な医者になるために、私から助言をしてあげるよ。」
こんなチャンスめったにない!
「お願いしますっ!」
やっぱり高橋先生に付いて来てよかった!
「医者はね、神様なんだよ。人の命を救えるんだ。」
「よくドラマなんかで『医者だってただの人間だ』とか言うだろ?」
「あれは嘘だよ。医者は神様だ。なんだって出来る。」
さすが高橋先生だ!治せない病気は無いんだ!
「君も頑張って、私を目指しなさい。」
ますます医者という仕事にやる気がわいてきた!
家に帰っても、興奮して寝れなかった。
ミキにメールを送ることにした。
“今日、高橋先生に凄く良い事教えてもらった!憧れるよ〜!”
夜遅くだったせいか、返事は返って来なかった。
朝目が覚めて携帯を見ても、メールは着てなかった。
今まで夜に返せなかったら朝返してきてたのにな。
一度も返事が来なかったことが無いので、少し不安になった。
一週間くらいすると仕事がもらえるようになり、忙しくなった。
あっと言う間に時間が過ぎて行き、すぐに一ヶ月が過ぎた。
久しぶりの休日。ラジオでも聞いてゆっくり過ごそう。
“ガーッガーガー…………今日も良い天気ですね。”
“では早速、皆様からの手紙を読みますね。”
“えーと北海道に住むタクヤ君からのお手紙です。”
“『彼女からメールの返事が来ないよ〜』”
“返事の無いメールは、きっと何かを意味してますよ!”
“例えば彼女に何かあったとか、嫌われたとかね!(笑)!”
ブチッ、すぐにラジオを消した。なぜ気づかなかった……
忙しくて彼女に構ってやれなかった。何かあったに違いない!
すぐに彼女の携帯に電話した。プルルルルッ……
“おかけになった番号は、現在使われておりません……”
嘘だ!!嘘だ!!ユカに何があった!?
嫌われたのか!?いやそんな軽い仲じゃない!
高校からの仲だ!一言くらいあるはずだ!
急いで四方八方探したが、ユカは見つからなかった。
ユカの母親いわく、一ヶ月ほど前に家出したらしい。
俺にはどうすることもできず、ただユカからの連絡を待つしかなかった。
それから二週間後。まだユカからの連絡は来ない。
今日は俺の初めての大仕事。手術の助手を務める。
「じゃあ急患が来るまで仮眠してていいぞ。」
仮眠用のベッドで、ずっとユカについて考えていた。
考えている内に、いつのまにか眠っていた。
ジリリリリッ!でかい目覚まし音がなった。急患だ。
俺は急いで手術室に向かった。
「ただいま到着しました!」
手術のメインを勤めるのはもちろん高橋先生。
「おう、真吾。ひどいぞ今回の患者は……」
患者は交通事故で運ばれてきた。かなりの重傷だ。
「しかも女の子だよ。まだ若いのに、かわいそうに……」
患者の顔を見て俺は愕然とした。
「ユカ…………!!」
「なんだ、知り合いか?」
「お願いします高橋先生!!必ず、必ずユカを助けてください!!」
あの時のように、高橋先生を祈るような気持ちだった。
「オペを開始する。メス!」
手術は緊迫した雰囲気で行われた。
傷はひどく、一刻を争う事態だった。
俺は助手と言っても道具を渡すだけで、何もできなかった。
なにもできない自分が、悔しかった。
「……くっ。もはや手遅れか……」
ピーーーーーッ一定の音程の電子音が鳴り響いた。
「22時34分、ご臨終です。」
ちょっとまて。俺には何を言っているのかわからない。
何が起きた?なんでユカの心臓は止まっているんだ?
俺は感情を押し殺し、震えるような声でしゃべった。
「高橋先生……医者は、医者は神様じゃないんですか……」
「何でも出来るって、命を救えるって。そう言ってたじゃないですか……」
「この患者は重傷だった。救えない命だってある。」
噛み殺してきた怒りが、溢れだしてきた。
「ふざけんな!!あんた言ってる事違うだろ!!」
「やめなさい、村西くん。オペ中ですよ。」
婦長が必死に俺を止めようとするが、俺はおさまらない。
「あんた医者は神様だって!どんな命でも救えるって!そう言った!」
「俺は信じてた!あんたが言うなら本当なんだろうって!憧れてた!」
「母さんの時のように救ってくれるんだって、そう思ってた!!」
「黙れっ!!!!」
「お前に医者の何がわかる!!新人の分際で偉そうに!!」
高橋先生は俺を一喝して、手術室の出口に向かった。
「はぁはぁ……医者だって……」
ユカとの思い出が次々によみがえってきた。涙が溢れ出る。
俺はこの人に憧れて、必死で勉強して、この病院にやってきたのか……
「医者だってただの人間じゃねーか!!!!!!」
事情を悟った婦長が、俺に語りかけてきた。
「あの先生ね、技術はあまり無いの。ただ頭が良いだけよ。」
「だから病院の人みんなに嫌われてるのよ……」
だからあの時、みんな目をそらしたのか……
「今回の事は、本当に不幸としか……」
「……俺は、神様になってみせますよ。」
「……え?」
「今回だって、俺が偉大な医者だったら、ユカは救えた。」
「大事な人も守れないようじゃ、医者失格です。」
「だからこそ、俺は神様になってみせます。なんでも治せる、医者にね。」
“頑張ってネ、未来のお医者さん!”
完
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■作者からのメッセージ
ちょっといつもと違う雰囲気です。
なんかおかしなとこ結構あるかもです 汗
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等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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