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『欠片となって降る記憶』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:LOH
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先ほどの真剣な表情はとけて、私に向ける顔はまさに想像通りだ。
「シラン、よくここがわかったね。声を掛けてくれればよかったのに」
「ヴァイオリンの音を辿ってきたの。上手ね」
私はライに誘われて、デザインの凝った白いベンチに座りながら言った。
「あぁ、幼少の頃からやっていたからね」
「さっきの曲はなに?」
「あれは別になにも。俺が思うままに弾いたものだよ」
音は弾く者の気持ちを表すと昔聞いたことがあるが、あれがライの今の心境なのだろうか。
あの悲しい曲調の原因は私だけではないだろうが、少なからずはいっているだろう。
「もっとライのヴァイオリンを聞いてみたいな。リクエストいい?」
「なんなりと」
腰を上げて、ヴァイオリンを弾く姿勢になる。
その姿に私は笑みを零しながら、口を開いた。
「さっきは少し哀しげだったから、今度は元気がでる曲、なんて……」
「かしこまりました、お姫様」
あなただって王子様じゃないとつっこみたがる口を抑え、私は目を閉じた。
曲に集中したいからだ。
目を開けていたら、ヴァイオリンを操るライについ魅入ってしまう。
ライの深呼吸する様子がわかた。
今はきっと、笑顔のライとは別人のような真剣な表情になっているのだろう。
……出だしの音が響いた。
高い音でアップテンポな曲だ。
まるで小鳥が元気よく歌っているような……子犬が跳ねているような。
そんな曲の雰囲気に、私までのってきてしまう。
歌いたい……私も歌いたい…。
「ァ……」
軽く咳払いして、喉を整える。
「ラ――……」
試しにのばしてみるが、悪くはない。
深く息を吸い込んで、小さな声で鼻歌のように歌ってみた。
適当にのばしてみたり、途切れさせてみたり、歌詞をつけてみたり……。
初めてのはずなのに、この慣れた感覚はなんなのだろう。
胸が弾んできた。
ライはこっちを見ているだろうか。
なにか急に気恥ずかしくなってきたが、止められない。
だんだん声のボリュームを上げていき、気持ちよく声を出せるほどにまでなった。
ライの音は私に出しやすい音域で、楽しめる余裕がある。
―――突然、脳裏に映像が過ぎった。
私は無意識に身体を反応させて、危うく声が止まりそうになった。
今のはなに…?
また一つ、カラフルな映像が浮かんだ。
「え……?」
妙な現象にひとまず声を止めてみるが、目の前は真っ暗だ。
再び歌いだすと、さっきよりもはっきりとしたものが映った。
ライと私の図だ。
画面の移り変わりは序序に速さを増してきた。
音声は何もなく、画面だけ。
一場面一場面が今にカシャッと音をたてて変わるような、昔の映画みたいだ。
あまりに早く映像が過ぎていくから、ゆっくりとは見ていられない。
それでもなぜか、はっきりと頭に残っている。
悲鳴を上げたくなるほど場面のうつりかわりが早くなると、私は別世界にいた。
白い世界。
しかし、無の世界ではない。
私が見渡す限りには、多くの写真が浮かんでいるのだ。
それらをじっくり見る事もできないのに、次々と私の頭は認識していく。
写真の隙間では、光るものが降り積もって、また別の写真ができた。
……記憶の欠片だ。
一目見ただけで全てを自分の中に取り入れて、私は目を閉じた暗闇に戻ってきた。
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2003/11/10(Mon)16:51:05 公開 / LOH
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■作者からのメッセージ
はぅ。やっと記憶を取り戻しました。
なんちゅう微妙な取り戻し方でしょう。実際は私が記憶喪失になったわけではないので、
ほとんど想像なのですが…。
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