『静寂の守護者』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:紅の道化師                

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   【良いな、ゼフィルス。期限は一週間だ】

   「はい、心得ています」

   【これが最終試験だ。幸運を祈る】

   「有り難うございます。それでは行って来ます」

   



  

 [1日目 ]


   「・・・とはいえ。」

 
     月夜の下で青年は何度目かの溜め息を洩らす。歳は17〜8だろうか?
    月光に照らされるその瞳は深い紅。漆黒の服に身を包み、少し伸ばした
    髪の間から十字のピアスが見え隠れする。その姿はまるで・・・。


   「・・・どうやって探したもんですかねぇ?」


     高層ビルの屋上から眼下に広がる街並みを再度見下ろす。・・・広い。


   「本当にこの街にいるんですか、メル?」

     メルと呼ばれた少女(といっても普通の人間ではない。
    見た目は何処にでもいる女の子。羽が生えていて身長が
    20cm程であるのを除けば・・・であるが。それは例える
    ならそう、物語に出てくる妖精のような)は、首を横に振る。

   『わからないわ。気配はするけど場所までは特定できなもの。
    もしかしたらただの低級霊かも知れないし』
   「・・・まあ、要は地道に探すしかないってことですかね?」
   『そういうことね。』
   「・・・よいしょっと。」

     青年は足場から軽く跳ねた。普通に見れば飛び降りたように
    見えるかも知れない。しかし青年が地に落ちることはなかった。

   「行きますか。」
   「ええ。」

     青年は漆黒の翼を広げて眼下の地上へと降りていった・・・。



 

 [2日目]


   「あ、気が付いた?」

     1人の少女が僕に声をかけてきた。

   「イテテテ・・・」

     傷を負った手を押さえ起きあがった。

   「大丈夫?すごい傷だらけだったけど。不良にでも絡まれたの?」
   「あ、いえ・・・その・・・」

     言えない。まさか空を飛んでいてカラスの大群に襲われて
    墜ちたなどと口が裂けても言えない。いろんな意味で。

   「すみません、大丈夫です。・・・貴女が手当てしてくれたんですか?」

     僕は少女を真っ直ぐに見つめた。年は15〜6だろうか。
    まだ幼さが残るがそれもまた可愛らしく思える顔立ちだ。

   「ああ、うん。家の前に倒れてたから」
   「すみません、ホント。ご迷惑をおかけしてしまって・・・」
   「良いよ、あたしが勝手にやったんだし。それより起きあがれるんなら
    コレ食べちゃって。早く片付けたいからさ」

     示された方を見てみるとそこには食事の用意がされていた。

   「いえ、そんな。見ず知らずの人にこれ以上迷惑はかけられませんし・・・」
   
   「あら、そう?この子はすんなり食べてくれたけど・・・」
   「・・・この子?」

     ものっすごく嫌な予感がした。

   『あ、ゼフィ起きたの?大丈夫?』

     ずばり的中。

   「メルティナ。君なにやってるんです?」
   『なによぅ、その目は・・・。言っておくけど私だってゼフィが
    気絶した後いろいろと大変だったんだからね!いきなり猫が
    飛びかかってくるし犬には吠えられるし・・・』
   「それで犬に吠えられているのこの子をあたしが見つけて・・・」
   『仕方ないからゼフィのことを正直に彼女に話して・・・』
   「・・・現在に至るというわけですか」
   「・・・・・・」
   『・・・・・・』
   「・・・・って」
   「・・・・ん?」
   「メルティナが見えるんですか!?」
   「うん、ハッキリと。」
   『見えなかったらゼフィあのまま野垂れ死んでたって。』

     当の本人は無責任にも手をひらひらとさせている。

   「いや〜、あたしも初めはびっくりしたんだけどさ、なんか悪い子
    じゃないみたいだし、君も結構な怪我だったしね。」
   「はあ・・・」

     “こっちの世界”の存在ではないメルティナを見ることが出来る。
    それは極めて特殊な例であった。(ゼフィルス本人も忘れているが、
    彼自体“あちらの世界”の人間なので、普通の人間には見えない筈
    なのである。)多くの疑問が僕の中に渦巻いていた。

   「まあそんな話は後にして、早く食べちゃって。」
   「でも・・・」
   「良・い・か・ら!」

     まだ疑問が拭いきれないかったが、この状況では彼女の言葉に
    従うしかないようだった。

   「・・・わかりました」
   「よろしい♪」

    とりあえず言われたとおりに食事の用意された席に座る。
   
   「あ、申し遅れました。僕はゼフィルスといいます。ゼフィと呼んで下さい」

    言って一礼する。少女はそんな僕を見て可笑しそうに微笑む。

   「あたしはアリスよ。よろしくね。」

     アリスの手が差し出される。

   「こちらこそ、よろしくお願いします。」

     僕はその手を握ろうと手を伸ばす・・・っと。

   「あたしのことも忘れないでよね!」
   「もちろんよ、メルティナ。」
   「メルで良いわよ、アリス。」

     やはり女の子同士だと話が盛り上がるのだろうか?
    あんなに楽しそうなメルティナを見るのは久しぶりだった。
    嬉しいような寂しいような、少し複雑な気分だった。

   「あの、アリスさんは独りでここに住んでるんですか?」

     トーストに手を伸ばしながら尋ねた。

   「ええ、今はね。お母さんはお父さんは小さい頃に死んじゃったし、
    お兄ちゃんがいるけど一ヶ月前に友達と海外に出て以来連絡なくて
    行方もわからないし・・・」
   「あ、あの・・・えっと、すみません・・・。」
   「良いのよ、気にしないで。寂しくないって言ったら嘘になるけど、
    あたしが暮らしていけるだけのお金はあるし。それに兄ちゃんも
    まだ死んだって決まった訳じゃないし。・・・だから大丈夫なの。」
   「・・・・・」
   「ホントだよ?」

     マリアの笑顔に心が打たれた。強い娘だと思った。
    彼女がメルティナを受け入れた理由がなんとなくわかった。
    この2人は“似ている”のだ。いろいろな面で・・・。
    そして、メルティナだけでなく、“もう1人”とも・・・。
    
     部屋に広がるほのかな香りが心地よかった。
    


 

 [5日目]


   「・・・どうしよう。」

     正直僕は焦っていた。それというのも・・・。

   『なんだかんだで手がかりも掴めないまま期限まで今日を含めて
    後たったの3日だもんね。』

     約束の期限は一週間。そして今日は5日目。普段はあまり動揺
    することのない僕も流石に焦らずにはいられなかった。“こっち”
    に来てからはペースが狂いっぱなしであった。その理由の1つ。

   「・・・ていうか“アレ”探すのを僕一人に任せてメルがアリスさんと
    どっか行っちゃうのも原因の1つじゃないですか!」
   『仕方ないでしょ。アリスがどうしてもって言うんだから。世話に
    なってるのに無視するわけにもいかないじゃない。それに・・・』
   「・・・・?」
   『アリスは“友達”だもん!“友達”の頼みなんだから仕方ないでしょ!』
   「・・・そうですね。」

     照れながらそう言う彼女がとても可愛く、健気に見えた。
    彼女と初めてであった時を思い出した。そう、あれは確か・・・。


              “ コンコン ”


     ノックの音がし、アリスが顔を覗かせた。

   「メル、そろそろ行こうか?」
   『あ、うん!今行くから玄関で待ってて!』
   「うん、わかった」

     彼女がドアを閉めると、メルティナはゆっくりと僕に振り返った。

   『・・・と、いうわけで〜』
   「・・・わかりました。約束じゃ仕方ありませんね。それに・・・」

     部屋の扉を開けながら僕はメルティナを見た。

   『なに?』
   「“友達”は大切にしなくちゃいけませんしね」

     僕は微笑みかける。彼女のことをよく知っているから。
    
   『・・・うん!それじゃ行ってくるね!』

     玄関でアリスが待っていた。

   「気を付けて行って来てくださいね。アリスさんも」
   「ええ。出かけるときは鍵はいつもの所にね?」
   「わかりました。メル、アリスさんに迷惑をかけないようにね?」
   『わかってる!それじゃ、行って来ま〜す!』
   「行って来ます!」
   「ええ、行ってらっしゃい。」
    
     僕は彼女たちを見送り、部屋へと戻った。

   「“友達”・・・か。」


    

 [6日目]


     事件が起きた。・・・っといっても誰かが事故にあったとか
    そういうのではないが、ある意味でそれより大きな事件だった。
   
   「おにい・・・ちゃん?」
   「アリス・・・心配かけたな。」

     そう、行方不明だったアリスさんのお兄さんが帰ってきたのだ。
     
   「無事・・・だったの?」
   「ああ、あの飛行機には乗らなかったんだ。仲間の1人が急に
    体調を崩してね。パスポートの申請に時間がかかって連絡も
    出来なくて・・・。心配かけて悪かった、アリス。」
   「良かった・・・。お兄ちゃん・・・お兄ちゃぁぁぁぁん!!!」

     彼女の目から涙が溢れていた。その光景を僕たちはただ
    見ていることしかできなかった。ただ、見ていることしか・・・。

   『・・・行こう?』

    不意にメルティナが言った。

   「・・・え?」
   『私達はもうここにはいられない。・・・そうでしょう?』
   「・・・良いんですか?」
   『後2日しかないんだから!もうこうなったら本気で探すわよ!』
   「・・・・・」

     彼女が無理をしているのは痛いほどわかった。無理もない。

   『ほら!なにぐずぐずしてるの!行くわよ!』

     心なしか彼女の声は震えていた。ここからでは彼女の顔は
    見ろ事は出来なかったが恐らく・・・。

   「・・・わかりました。」

     僕たちは彼女に手紙を残して窓から家を出た。

     半日が過ぎた。手掛かりは0。メルも黙りっぱなしだ。
    重い空気が流れる。時間がだけがただ過ぎていく。

   「・・・本当に良かったんですか?」

     この空気に耐えられず僕は彼女に聞いた。返事はない。

   「せめてお別れくらいちゃんと言った方が良かったんじゃ・・・」
    『うるさい!放っといてよ!』
   「・・・・・!?」
   『あ・・・』

     彼女を見ることが出来なかった。・・・辛かった。
    
   『ごめん・・・ゼフィ・・。・・・あ!』

     僕は逃げた。彼女を置いて。ただひたすらに・・・。

   『待って!ゼフィ、お願い!1人にしないで!嫌・・・。もう・・・、
    もう1人はイヤァァァァ!!!』

     聞こえることのないメルティナの声が虚しく街に響いた。




   「なにをやってるんだ、僕は・・」

     夜になって後悔の念が僕を蝕んだ。

   「メルのことを誰よりも知ってるくせに・・・。彼女の気持ちを
    誰よりも知ってるくせに!!!」

     他の誰でもない、自分に対して怒りをぶつけた。

   「ちくしょう・・・なんで僕は・・・。ちくしょう!!!」

     メルティナはいつも優柔不断な僕を怒ってくれた。
    僕が悲しかったときはいつも側にいて、僕のために泣いてくれた。    
    彼女だけが僕に微笑みかけてくれた。あの時から・・・ずっと・・・。
    僕の隣には彼女がいた。彼女だけが・・・。

   「メルティナ・・・」

     立ち上がり、眼下を見下ろす。・・・探さなければならない。
    見つけて、そして謝らなければ・・・。伝えなければ・・・。


      僕がこの世で絶対的に信じられる唯一の・・・
     
      僕がこの世でなによりも大切に思う唯一の・・・
     
      僕がこの世で絶対に失いたくない・・・ただ1人の・・・


              “ 友 達 ”





 [7日目]


   『ゼフィ、お願い・・・1人にしないで・・・。』

     ただ1人、まだ暗い深夜の街。月明かりの下ただ彼の姿を探していた。
    頭から離れない彼の傷ついた表情。自分への嫌悪が心を縛る。

   『ゼフィがいなくなったら・・・私・・』

     嗚咽がでる。思い出したくもない過去の孤独。その絶望とも言える
    孤独から救ってくれた彼。初めて信じた唯一の人。

   『ゼフィ・・・』


         “メルティナァァァ!!!”


   『声・・・?この声は・・・』

     彼の声ではない。女の人の・・・。

   『・・・アリス!?』

     間違いない。アリスの声だった。

   『・・・・・』
   
     嫌な予感がした。すごく・・・嫌な感じ・・。
    考えるより先に体はアリスの家へと向かっていた・・・。


     

   「おら、さっさとあのチビを呼ぶんだよ!そうしねえとぶち殺すぞ!」
     
     アリスの兄は刃物を片手にアリスを脅していた。狂ったように。
   
   「嫌、助けて!お兄ちゃん!!目を覚まして!!!」
   「あ?まだ信じてやがんのか?ギャハハハ、コイツは傑作だ!!」
   「・・・・え?」

     アリスには訳が分からない。

   「俺はてめえの兄貴なんかじゃねえよ。てめえの兄貴は死んだよ。
    飛行機事故に巻き込まれてなあ・・・」
   「嘘・・・そんな・・・」
   「嘘じゃねえさ。その証拠に俺の今のこの姿はその男の魂を喰ったから
    存在するんだからなあ。」
   「食べ・・・た?」

     次々と語られる残酷な真実。ならがこの男は・・・?

   「こないだの飛行機事故で死んだ奴等の魂はみんな喰ってやった。
    だがまだ傷が癒えねえ・・・。奴等に負わされた傷が・・・」

     アリスの兄の姿は徐々に醜い姿へと変貌していった。
    それはまさに“魔物(モンスター)”。

   「イヤァァァァァァ!!!!」
   『コノ傷ガ癒エヌ!奴等ニ・・・“静寂の守護者(ナイト・キーパー)”ニ
    負ワサレタコノ傷ガ!!ドンナニ人間ヲ喰ッテモ消エルコトガナイ!!』
   「あ・・ああ・・・」
   『ダガ、オ前ト精霊ガ共ニイルノヲ見タ。精霊サエ喰エバ・・・。
    奴等ノマナサエ喰エバ、コノ傷モキット・・・』
   「まさか・・・そのために私を・・・?」
   『アノ小娘ハオ前ノコトヲ信用シテイタカラナァ。マサカ家ヲ
    出テイカレルトハ誤算ダッタガオ前ガ呼ベバ必ズ来ルダロウ・・・。
    自分ガ喰ワレルトモ知ラズニナ・・・』
   「そんな・・・」
   『サア、モット叫ンデモラウゾ・・・。アノ小娘ヲ呼ブタメニ・・・』

     異形の魔物はアリスに近寄っていく。その手がゆっくり伸ばされる。
   
   「いや、来ないでぇぇぇぇ!!!」
   『待ちなさい!!』

     窓から光が飛び込んできた。メルティナだ。

   『・・・来タカ』
   「メルティナ!?駄目!逃げて!!」
   『黙レ娘!!』
   「きゃあ!?」
   『アリス!!』

     異形の魔物はメルティナに向き直る。

   『貴様ヲ喰ッテ傷ヲ回復サセテモラウゾ・・・』
   『そのために・・・そんなことのためにアリスのお兄さんの名を
    語ったの!?アリスの気持ちを踏みにじったの!?』
   『ソンナコト俺ノ知ッタコトカ。』
   『・・・下衆!』

     言うが早いかありったけの力を魔物向けてに放つ。

   『あんたなんか・・・消えちゃえぇぇぇ!!!』
   『効カヌワ!!愚カ者メ!!!』
   『・・・!?』

     放たれた力は分散し消えた。伸ばされた魔物の手にメルティナは
    捕らえられた。体が軋む。

   『ナカナカノ力ダナ・・・。コレナラ傷モ癒セソウダ・・・』
   『くう・・・』


          “ごめんね・・・ゼフィ・・”

   
     メルティナの瞳から大粒の涙が零れた。


   
   



       【ギャアァァァァァァァァァ!!!!!!】


  

   『!!??』
    
     聞こえてきたのは魔物の叫び。

   『貴様・・・ハ・・?何故・・・ココニ?』
   「メルティナの声が聞こえた。メルティナを泣かせる奴は俺が許さない。」
   『ゼフィ・・・ルス?』
    
     ゼフィルスだった。メルティナを捕らえていた手は切り離されていた。
    その手に握られた巨大な大鎌によって・・・。彼はゆっくり舞い降りる。
    メルティナが今までに見たこともないゼフィルス。その口調、その表情、
    どれも今までゼフィルスが見せたことのないモノ。心の底からの怒り。
    それはこの魔物に対し手か。それとも己自身に向けたモノなのか・・・
   

   
   『何者ダ・・・?今マデ・・・何処ニ・・・?』
   「俺か・・・?俺は・・・」


     その漆黒の翼を広げ、大鎌を振りかぶる。魔物の顔が恐怖に醜く歪む。


   「ナイト・キーパー(仮)だ!!!」

   
             
            ・・・静寂が訪れた。









   【最終試験終了。今この時を持って、ゼフィルス=ディアボロスを
    正式な“静寂の守護者(ナイト・キーパー)”として任命する】








2003/11/03(Mon)21:49:16 公開 / 紅の道化師
■この作品の著作権は紅の道化師さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最後まで読んだ方、お疲れさまでした。
なんとも中途半端になってしまいましたね(汗)
初め考えてた話と大分変わってしまいました(泣)
友達との交流の話がいつの間にかファンタジーに!(しかも半端)
ゼフィとメルの過去の話とかもあったんですが長くなるので消えました(マテ!
ご意見、感想書いていただければ嬉しいです。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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