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『ディピングエピローグ』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:吐人
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ユウヤンこと、加藤裕子がいなくなって、はや三ヶ月が経った。
そしてクラス、彼女の2−dにはすでに彼女の居場所が無くなっていた。
そう、「存在しないモノ」に対していつまでもただで場所を空けていられるほどこの世は広くもないし、優しくもない。
墓にしろゴミにしろただで現状維持する事はできない。(こちら)側にれっきとした「代償」が払えなければ、本当に消えてゆく道しかない。
だが、それは物理的な事だ。物理はこの世に存在しないものに対して存在理由を与えていない。
だが、精神界、内面では「存在しないモノ」に対しては来るもの拒まず、去るもの追わず、そう、全てのあり得ぬものに対しては自由という免罪符を与えている。
何をしようが、何を思おうが、何を置こうが罪に問われる事の無い世界。
それらは個々の内側にあるものの、集合という「物理」で共有するべきものではない。
この世に存在しないものは(こちら側)では禁忌、そうタブーにあたるのだ。
そしてこの僕にあたるタブーとは「彼女全般」がそうだといえる。
『彼女との会話、彼女とのキス、彼女に助けられた事』そのどれもがこの世で認められない。そう、腕の痣もだ。
彼女と別れる際につかまれた腕に、くっきりと手形が今も残っている。
当初は気にもかけないものだったが、あまりに消えないため、恐ろしさと不気味さから両親、友達、遂には内緒で医者にも見せてみたが、全てが全て僕を異常者と見るだけであった。
どうやら、この痣は僕以外の誰も、見る事も知る事も信じる事も起こる事もないようだ。
このあざは僕以外誰も見る事も知る事も信じる事ができない。
自分以外誰も見る事も知る事も信じる事も起こる事がないものに対して一体これにどう評価する事ができるのか。
「存在しないもの」に対してどれほど、現実としての価値がつくのだろうか――
世間的矛盾問題に一通り区切って意識を標準に戻した。
「って僕は馬鹿ですか?」
思考することが、過去に浸っていた事が愚かしい?いや違う。思考するのは人が人であるための証、過去に浸るのは過去を生き抜いた者の特権である。問題はその行為がどのような状況で行われたかだ。
そして、僕の脳内会議室が満場一致。有効投票100パーセントで馬鹿の烙印が押された。
「…………。乗り過ごした…………。」
通常レベルでまた車内外を見渡す、と。
車内には自分だけしかいないし……。
大体、外の景色が半端じゃねえ。霧がでているせいで全部が全部見えるわけじゃないが、フィトンチットが滅茶苦茶豊富そうだ。
おれの町ですら大都会じゃねえか。
ああ、いいなあ。うらやましいな。田舎って。外の霧具合が濃すぎでもなく薄すぎでもなくてねぇ。こりゃあ、全く最高じゃないか。
だけど、住んだら住んだで太陽が当たらなそうで不快指数は相当なものだろうが、何分住んでいない人にとっては避暑地としはこれ以上最高の場所は無いだろう。だが、それ以外はあり得ない場所である。
時折流れるアナウンスと車内に貼ってある駅場表を照らし合わせると……。
半端じゃねえ。新記録だ。12駅やっちまった…………。
まぢで12駅って半端じゃねえ……。
どうするんだ、次は?13駅目じゃないか。まあ、僕の町からだけど。不吉な数字さ。
仕方ない。次の駅で乗り換えようか。
全く、と呟いて左腕を見る。そう、あの痣がある腕を――
「次は霧湧駅ぃ。霧湧駅ぃ。終点です。この車両は納庫致しますので、お手のお荷物をお忘れなく――」
なんだって、終点?霧湧駅だって?霧が湧く駅かあ。どっかで聞いた名だな。
そうだな、いつだっけなぁ。
確か、One code(一言)しかなかったからなぁ。あれは、
あれは、、
あ、れ、は、、、
『……にあってはならない禁忌ともいえる場所。霧が湧く町……辺りは霧に暗闇が迷い込んだ夜になって……』
嘘だろ?嘘だといってくれよ。冗談だろ。冗談のはずだ。
いや、終点はあそこだったんだ。自分にそう言い聞かせる。だが、表情が硬くなり、全身の肌があわ立つのを覚える。小刻みに震えながら席から立ち上がって駅場表を見上げる。
南ヶ丘駅――は僕の町駅だから、そこから数えて……。
…2、
……3、
………4、
…………5、
……………6、
………………7、
…………………8、
……………………9、
………………………10、
…………………………11、
……………………………12、
……霧湧駅、13と。しっかりこっきりあるじゃないか。残っているじゃないか。本当に馬鹿だなあ。「終わった事」に脅ていたなんて。全く恥ずかしい。はははは。笑えるよ、もう。
ぁあ、早く乗り換えて家に帰らなくちゃ。
僕はそのまま、ドアの前で待つ。ガラス越しから見える景色は何時の間にか霧だけだった――
丁度、電車が減速し始めた。
キィー、ガタ、、ガタン、ガタン――――
アナウンスが流れる。
「間もなく霧湧駅ぃ。霧湧駅ぃ。終点です――――
プシューゥッとドアが開く。冷たい外気が頬を切り裂き、全身を切り抜ける。
僕は、ゆっくりと体を外へ運ぶ。
目をつぶりながら……。
冷たい
全身が針で貫かれたような寒さ
雪が降らないから余計に響く
体が外に出たのを空気で体感し、目をゆっくりと開き、その世界をじっくりと吟味する。
見覚えがあった。どこに?
あの場所だよ。
『――霧が湧く町――』
でも、いい表現ではない、な。
『――存在しない場所――』
そう、これ。これが正しい。君とであった場所だよ。君とキスした場所だよ。
そして、最後に別れた場所だよ。
車内に戻ろうとして、急いで振り返ったが、時、既に遅し、手遅れだった。
ああ、扉は閉まる。と、同時に目の前が溶暗する――
体が遠のく――
意識だけがその場に残り――
お開きだ。さあ、君たち、帰ってくれ。長居は無用だ。
そして最後に、つまらない解説者のお出ましだ。
扉が開かれ、式が読み込まれた。
彼らたちは、みな沈鬱な表情をして待機している。
解説者は重い口を開き始めた。
「おはようございます。皆さん。加藤さんに続いてまたしても悲しいお知らせをお知らせしなければなりません――
咲川君がダムで発見されたそ――――
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2003/10/15(Wed)08:39:44 公開 / 吐人
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