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『光闇記(こうあんき)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:アルタ
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序章〜光と闇
もう、真夜中を過ぎたあたりだろうか。
彼は、自身を闇に溶け込ませるかのように、黒いマントで身体を覆っていた。完全に闇に溶けることの出来ない紺の髪の中、赤い瞳が炯々(けいけい)と光り輝いている。
彼は、その赤い光を隠すかのように目を閉じた。だが、いくら瞳を隠したからとて、彼はこの闇に溶け込めはしない。
なぜなら、彼は月明かりの無いこの闇よりも、さらに暗く深い闇に溺れているのだから――
時を同じくして、彼女はその闇を否定するかのように、白い衣服を身に纏っていた。ただその瞳だけが、その意思に反発するかのように暗く輝いている。燃えるような赤い髪の中、その瞳は暗い紺の色を保ったまま、彼女の意思を汲み取らずに暗いままだった。
だが、彼女はその瞳を受け入れている。これも含めて自分なんだと、幼い頃から納得してきた。
彼女は何もかもを飲み込みそうな闇の中、自分を貫き通すように白い衣服をたなびかせた。それは、彼女の強固な意志の表れだったのかもしれない。
同じ街の全く正反対の場所で、全く正反対でありながらどこか似た二人が歩を進める。それは、何かの予兆なのか、それともただの偶然なのか……
まだ誰も、知る由ではない。
第一章〜死神
全てを飲み込む暗闇の中、二人は出会った。
彼は、その赤い瞳に警戒心を剥き出しにして、目の前に現れた女を睨みつけた。自分とまったく正反対の身なりのその女は、彼を見て軽く目を見張る。
「あんたは……」
その呟きに、彼は訝しげに眉を寄せる。女はにこりと微笑んで、親しげに彼に歩み寄ってきた。
「こんばんは♪ かっこいいお兄さんが、こんな真夜中にどこへお出かけかな?」
親しげだがどこか揶揄を含んだその言葉に、彼は睨みつける目をさらに鋭くした。女はそれを見て可笑しそうに笑う。
「あはは、そんなに睨みなさんな。こっちは別に怪しいモンじゃないんだからさ」
そうは言うが、彼の目から見れば彼女は充分怪しかった。来ている服は真っ白、羽織ったショールまで白。燃え上がるような赤い髪。唯一彼と同じなのは、面白そうに輝く紺の瞳だけだ。
そもそも、彼に声をかける人間自体、その人の社会性を疑ってしまう。
紺の髪に血のような赤い瞳。身を黒いマントで包み、常に警戒心を剥き出しにして敵対心をばら撒いている彼は、危険人物そのもの。大概の人は彼を避け、彼も人を避けてきた。
そして、今回も避けるつもりだ。
彼は、笑っている女の横を無言で通り過ぎようとした。
「待ちなよ」
言葉と共に、後ろへと引っ張られる。仕方無しに振り向くと、女が彼のマントを引っつかんで彼の動きを止めている。
「あんただろ? この間の極悪賞金首をひっつかまえたのは。ちまたで噂になってるんだよ」
んなこと知るか。
そう言わんばかりに、彼は顔をしかめた。確かに、つい最近そんなような奴が道端で絡んできたので、軽くいなして街の自警団に突き出してきたが、賞金首だということすら知らなかったし、ただ単に通行の邪魔だっただけだ。
などと、頭の中で反論しても、彼女に伝わるはずもない。女は嬉々とした瞳を煌かせて、さらに彼に詰め寄った。
「ねぇ、何か答えてよ」
「……俺に関るな」
彼は突き放すように言った。少し低めの良く通る声が、まるで刃物か何かのように、彼女を硬直させる。マントの拘束が緩まったのをいいことに、彼はさっさと歩き始めた。
そう、俺にはかかわらない方がいい……俺は闇に染まった人間。闇とは何も相成れない。
「……ねぇ」
数歩歩いたところで、女はようやく口を開いた。今までとは違う真剣味を帯びたその声に、彼は止めてはいけないと思いつつも足を止める。
女は、軽く振り返った彼の赤い瞳を見つめた。闇の中で炯々と、光を灯す赤い瞳。
「最後に一つ。名前、教えてよ」
彼は答えなかった。無表情の中で、赤い瞳も無表情に動かない。
女はそれから目をそらさない。彼の瞳が軽く揺れた。誰もが、この瞳を嫌がるのに。すぐに目をそらすのに。
「あたしはフィア。フィア・ライズマーニ。魔術師だよ」
魔術師とは、この世界に満ちている自然のエネルギーを操って、様々な物理現象を引き起こす、魔術を使える者のことを言う。
彼が魔術師に会うのは、これが2度目だった。前に会ったのは、散々だった事を覚えている。
「さ、名乗ったんだから教えてよ。関るのはこれだけにしておくから。約束する」
今までそう言って、何度干渉されたことか。そして、その度にロクな事にはならなかった。
だが、彼はそんな自分の思考とは関係なしに、風に溶けるような声で名乗っていた。
「俺は、サージュ・アスライト」
……死神だ。
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■作者からのメッセージ
今日は。初めまして。アルタでございます。
初投稿から少し暗いですが、これで話は終わりではありません。是非最後の展開まで見ていただけたらと思っています。
これから浮上するサージュと、引き上げていくフィアをよろしくお願いします(^^
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。