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『ビンづめラブレター』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:山のこ。
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谷の奥に広がる樹海には<竜>が住むという。
その噂を初めて聞いたのは一体いつのことだっただろう。
青年は茂みをひらくために振るう短剣を持った右手は止めずに、つらつらとそんなことを思った。
無造作に背中で一つに束ねられた黒髪が、彼の腕の動きに合わせてわずかに跳ねる。どこか野生の獣のような鋭い雰囲気を帯びた青年だ。
彼は、ふぅと小さく息をついて額に浮いた汗をぐいと乱暴に拭った。そのまま両手を大きく腕にさし上げてしなやかな上身をそらす。その拍子にふと目に入ったのは茂りかえった緑の中に細く白く続く今まで自分が切り開いてきた道。緑の中に、延々と。
「……迷ったな。」
ぽつりと彼―――秋良(アキラ)―――はつぶやいた。
<竜>が住むという樹海には獣道をたどっていけば簡単にたどりつけると聞いていたのだが、この調子ではその獣道すら見つけられそうにない。それでもどうしてもあきらめるわけにはいかない『理由』があるので、もはやこうなったらひたすらに直進するしかあるまい。
「馬鹿雨月(ウヅキ)め。」
『理由』の名前を毒づくように呟いて秋良は再び短刀を振るい始める。お気に入りで愛用している短剣の刃先がすっかり緑色に染まってしまっているのを見てわずかに顔をしかめた。
雨月というのは秋良の親友であり、長年の相方をつとめるヤサ男のことである。優しく整った容貌のせいでナメられがちだが、実は性格が果てしなく捻じ曲がり、かつ過激であることを秋良はよく知っている。その雨月が、<竜>が住むという樹海に出向いて以来帰ってこないのだ。事の起こりは三日前。樹海に迷い込んだ子どもが帰ってこない、これは<竜>に攫われたのかもしれないぞ、と騒ぐ村人たちに頼まれて雨月が樹海へと出向いたのだ。<竜>というのは人智を超えた力を持つ獣を神格化したものの総称で、伝説によると彼ら一族はこの世界に見切りをつけ新世界へと旅立ったことになっている。それなものだから、「すぐに戻りますから」とお付き合い程度に雨月が樹海へと出発するときにも秋良はヒラヒラと手を振って見送った。<竜>などもう存在するわけがないのだから、何も心配するようなことはないように思えた。けれど、当の子どもが泣きながら村に帰り着いた今となっても、未だ雨月は帰ってこない。秋良にとって雨月は失うわけにはいかない大切な相方なのでこうして捜索に乗り出したのだが……自分が迷子になっては本末転倒な気もする。
「ま、あいつが無事ならあっちの方から見つけてくれるだろ。」
なんとも他力本願なことをぼやいて、秋良はうっすらと汗ばんだ背中に張りついた黒髪を鬱陶しげに払いのけた。本当はばっさり切ってしまっても構わないのだけれど、一度それを提案したら雨月に正面から反対された。
『家に帰りたくなったときに困るでしょう?』
それがその言い分だ。
その時のことを思い出して秋良はム、と眉をひそめる。
別に雨月に反対されたことが気に触ったわけじゃない。家のことを思い出してしまったからだ。
古くからの名に縛られた堅苦しい家。
秋良は小さな頃からそんな家が大嫌いだった。
別に父親の後を継ぎたいなんて思ってもいないのに異母兄弟たちに敵対視され続けた日々。
そして、死の床についてすら父の事を待ち続けた哀れな母……。
毎日毎日、来ることのないことを半ば知りつつも、父のために最期まで美しくあろうとしていた。
たくさんいる妻の中から、いつかその男が自分だけを見てくれることを夢見て。
そんな哀しい姿を見てきた秋良はその母が亡くなってすぐに雨月とともに家を出た。
ここ夏国(カコク)の中でも三本の指に入る名家の第三男という肩書きを捨てて、自由を手に入れたのだ。
都のあたりでは今でも捜索の目が厳しいだろうという判断で、こうして田舎のあたりをあてもなくさまよっていたのだが、まさかこんなことになってしまうとは。
「……手間かけさせやがって」
少しばかり太めの茂みを蹴り倒すようにして前へと進む。木々がうっそりと茂りかえっているため、常に薄暗い樹海の中では時間の感覚がなくてよくわからないが、すでにけっこうな距離を進んでいるはずだ。
と、ガサガサと茂みが鳴った。
秋良ではない。その奥、今から秋良が行こうとしている茂みの奥からその音は聞こえた。
全身の汗が急に冷たいものへと変わる。秋良は短剣を腰に戻すと、代わりに長剣の方へと手をかけた。<竜>などという噂は信用していないが、何か獰猛な猛獣だった場合下手な油断は命取りになる。腰を低く構え、いつでも長剣を抜けるようにする。
物音の主は秋良の存在に気づいていないらしく、なんの警戒もなくガサガサとこちらへと次第に音が近くなる。
ガサリ。
やがて姿を現したものに、秋良は言葉を失った。
真っ白な、巨大な虎。
純白の毛並みに、漆黒の紋様。
そして宝石のごとく輝く双眸は炎のごとき赤。
秋良だって小柄な方ではないが、目の前の白虎と比べればまるで子どもだ。
一方白虎の方も秋良の存在に驚いたのか、動こうともせずに秋良を凝視している。そんな白虎を刺激してしまわぬようにじり、と後退りかけて……秋良はあるものに気づいた。
白虎が口に咥えているもの。
見覚えのあるコートに、なぜか数本の向日葵。
「……薬味のつもりかよ。」
思わずつぶやいた。
見間違えるはずもない、あの淡い色調のコートは出掛けに雨月が羽織って行ったものだ。
それをこの白虎が咥えているということは。
―――雨月はこいつに喰われた。
秋良の双瞳に物騒な色が滲む。
なんの予告もなしに、ヒュと裂帛の気合で長剣の一撃を繰り出した。
鞘から抜き放つ勢いを利用した、下から斜めに斬りあげる一撃。
常人なら何が起こったかすらわからずに命の鼓動を止めるであろう一撃を、白虎は大きく跳躍することで避けた。
秋良を飛び越え、背後に着地する。
あれほどの巨体だというのに、ちっとも秋良に振動が伝わってこないのは太い四肢に備わったゴムのようにしなやかな筋肉がバネになっているからだろう。
「人様の」
すすす、と滑るように地面を低く走り今度は鋭く突く。
「相方を喰って」
スレスレの感で避けられたそれを、返す刀で今度は上身を前に傾け間合いを伸ばして横へ振り払う。
「只で済むと思うなよっ!?」
右に避けた白虎を追って斜め下から下顎を狙って突き出した長剣、白虎は避けられないと悟ると……突如反撃に出た。
鋭い爪でひっかけるようにしてその一撃を防いだのだ。
ギン、と鈍い音がして秋良の腕に痺れるような振動が伝わる。
それはほんの一瞬のこと。けれど白虎にはその一瞬で十分だった。秋良の眼前に白虎の牙が迫り。
死を覚悟した秋良に衝撃は別のところからきた。
ぐ、と首に圧迫感を覚え、苦しいと思ったときには体が宙に舞い、くるりときれいに弧を描いて何やら柔らかなものに叩き付けられる。
ふかふかとしたクッションに衝撃が吸収されたため、秋良にダメージはほとんどない。そのクッションが何なのかと辺りを見渡して……秋良は自分が白虎の背にいることに気づいた。白虎は秋良の襟首を咥えて宙へと跳ね上げ、それを自らの背中で受け止めたのだ。何のつもりでそんなことをしたのかわからないが、宙に跳ね上げられた際に長剣は取り落としてしまったらしく、秋良に残されたのは腰に下げた愛用の短剣のみ。
「ふははっへへ」
不思議な白虎の唸り声。
動物の咆哮というよりも、どこか人の声のような。
秋良が不審に思うよりも先に白虎が駆け出した。
ぐん、と体にかかった加速による重力に白虎の背から振り落とされそうになり、思わず太い首の付け根の長い毛足にしがみつく。
白虎はちらりと秋良の様子をうかがうと、勢い良く跳躍する。
ガクン、と上向いた拍子に秋良が見たのは綺麗に朱に染まった空。
ぐんぐん、と空に近くなっていく感じは、まるで空に飛び込むかのようで、秋良は状況も忘れてそれに見入った。
……って。
この鬱蒼と茂りかえった樹海の中、一体どれだけの高さを跳躍したから空が見えるというのか。
秋良はそっと下をのぞいて、白虎にしがみつく力を強めた。とんでもない高さだ。落ちたら間違いなく死ぬ。
白虎にテイクアウトで喰われて死ぬのも嫌だが、墜落死も御免だ。
白虎は背の高い木々の頂上近い梢の上を飛ぶように走る。
秋良の頭の中を、<竜>という言葉がよぎった。
古の、人智を超えた力を持つ神格化された獣。
旧世界に見切りをつけ、新世界へと旅立ったはずの一族。
「おひはいへ」
やっぱり白虎はどこか人の言葉に似た声をあげて、木々の梢から飛び降りた。
いつのまにか下に広がる景色はだいぶ変わっていて、そこには少しばかりの岩場が広がっていた。そして、白虎は降り立ったのだ。
にこにこと優しげな笑みを浮かべて手を振る雨月のもとへと。
「……おや」
それが雨月の、白虎の背中に張りついた秋良を見ての感想だった。
ちょこん、と雨月の前に座った白虎の背からずり落ちるようにしながらも、秋良は半眼で雨月をねめつける。
「……喰われてなかったのか」
「まるで喰われてた方がよかったような言いぶりですね?」
雨月が生きていたという安堵で脱力し、秋良は立ち上がるのも面倒になってしまってそのまま地面であぐらをかいた。
下から見上げた涼しげな友の笑顔に殺意がわく。
「お前人がどれだけ心配したと」
思ってるんだ。
秋良がそう言うよりも先に見知らぬ声が割って入った。
「俺が、悪いの。
俺が雨月、引き止めたから」
唖然として、秋良は白虎を見た。
今の声は雨月のものではない。ましてや自分のものでも。
と、いうことはこの白虎が……?
秋良の視線にわずかに目を伏せるようにしながら、白虎はもう一度繰り返した。
「俺が、悪いの」
足元には雨月のコートと、数本の向日葵。
さきほどまではそれを咥えていたせいでしゃべることができなかったようだ。
しゅんと、耳まで伏せてしまった白虎に雨月が歩み寄る。
「良いんですよ?
私だって好きでここにいたんですから。ね?」
子どもに言い聞かせるような優しい口調でそう言って、慰めるように喉の下を撫でてやる。
白虎は気持ちよさそうに雨月へと顔を寄せた。そんな白虎に雨月の笑みはますます優しいものへとなり、口調は甘みを帯びていく。
「ソラは悪くありませんよ……」
「ほんとに?」
「おや、ソラは私が嘘を吐いてるとでも?」
「違うけど、さ」
なんだか、二人の世界だ。
のけ者にされた秋良はおそるおそる片手をあげた。
「……質問してもいいか?」
「ダメです」
返事は即答。
「私今幸せ実感してますから」
コワいぞお前。
秋良は、心の中だけでそう呟いた。
いつも誰の前でも笑顔の仮面を装備する雨月が、心から幸せそうに微笑んでいる様など付き合いの長い秋良だって見たことがない。
それだけなら「ああ、良かったね」で終わるのだが、雨月の背後から蛍光ピンクのオーラが滴ってるようなのは気のせいだろうか。
「じゃあソラ、私は少し彼と話がありますので、準備ができたら貴方もおいでなさいね。」
雨月に送られて、少し名残惜しそうにしながらもソラと呼ばれた白虎が岩場の向こうへと姿を消す。それを蕩けそうな笑顔で見送って。
「私たちもこんなところで立ち話もなんですから場所を変えましょう」
雨月はガラリと表情を変えると、秋良へと向き直った。
……つくづく器用な男だ。
雨月が秋良を案内したのは、天然の洞窟に人が手を加えたと思われる空間。
小さいながら居心地の良い家に仕上がっている。
ほう、と感嘆の声をあげつつ秋良は中央に位置する囲炉裏のそばにどっかと胡座をかいた。付き合うように洞窟の奥に背を向ける形で雨月も腰を下ろした。
「で、どういうことよ?」
簡潔な秋良の問いに、雨月は苦笑を浮かべつつ懐から小さなビンを取り出して秋良へと放る。
ビンの中にはくるりと巻かれた小さな紙切れが入っている。
読め、ということなのだろうと解釈して、秋良はコルクの蓋を抜いて紙を広げた。そしてしばしの沈黙。
「……これ、あの<竜>が書いたのか?」
雨月はわずかに顎を引くことで肯定を示す。
すなわち、手紙を書いたものについてと、白虎の正体の両方において。
「なんで、こんなこと……」
「本人に聞いたらどうです?」
雨月の言葉に誘導されるように顔をあげて、秋良は硬直した。
いたずらっぽい笑みを口元に貼り付けた雨月の後ろに所在無くたたずむのは一人の少年。
少し不安げな小さな顔を包むのは、白い絹糸のような髪。
おどおどと揺れる双瞳は夕焼けを切り取ってはめ込んだかのような朱色。
「あの、白虎か……?」
かすれた秋良の声に、びくりと少年の薄い肩が揺れて隠れるように雨月の背中に駆け寄った。
「大丈夫ですよ、ソラ。秋良は乱暴もので手におえませんが悪いやつではないですから。」
……お前それフォローになってない。
喉元まで込み上げたそんな言葉を飲み込んで、秋良はなるべく優しげな声で少年へと語り掛ける。
「さっきは勘違いして悪かったな。……許してくれるか?」
ちょこ、と雨月の背中から顔をのぞかせていた少年の朱色の瞳がぼんやりと瞬く。
そして。
「俺のこと怖がらないひと二人めっ!」
嬉しそうに叫んで少年は秋良に飛びついた。
ぎゅ、と首ったまに抱きつかれて秋良は少年が恐れていたものを知る。彼が恐れていたのは秋良ではなく、拒絶。
拒絶されることにおびえていたのだ。
秋良は、そっと自分にしがみつく小さな体を抱きしめてやった。
「あんた秋良でしょ!? 雨月があんたのこといっぱい教えてくれた。俺はソラなの、よろしく秋良!!」
「よろしく、ソラ」
名前を呼んで、ぽんぽんと頭を撫でるとソラは嬉しそうに笑って秋良から体を離すと、その隣に寄り添うように腰掛けた。
身につけたダブダブの雨月のコートが愛らしい。
「ソラは、<竜>なのか?」
「……わかんない。俺ね、生まれた時からずっと独りなの。だから、自分が何なのかなんて誰も教えてくれなかったよ。」
生まれたときから、ずっと独り。
それもそのはずだ。
完璧な生き物である<竜>はその他の動物のように親を持たない。
自然の中から生まれ落ち、仲間とともに暮らす中で知識を育んでいくのだ。けれど、ソラは仲間を持つことができなかった。
それもそのはず。
<竜>はずっと昔に新世界へ向けて旅立ったのだから。
何故今更ソラのような<竜>が生まれてしまったのかわからないが……ソラはたった独りおいていかれてしまったのだ。
もしくは生まれ落ちる世界を間違ってしまったのかもしれない。
「けどね、『声』を覚えてる。誰かが繰り返し繰り返し俺に言うんだ、ひとには気を付けなさいって。
だから俺、ずっと独りで我慢してた。さびしかったけど、ひとは恐かったから。」
その『声』は旅立つ仲間が、未だ生まれぬ同胞へと遺した最後の言葉なのだろうか。
秋良は、小さな洞窟の中で途方にくれつつも言いつけを守り、誰かが来るのを待ち続けるソラの姿が簡単に想像できてしまって胸が痛んだ。
待ち続けても、仲間はすでに同じ世界にはいないのに。
次第に暗くなりはじめた外に気づいたように雨月が立ち上がり、囲炉裏に火をいれた。
小さな洞窟の中に、暖かなぬくもりが灯る。
「ずっと、ずっと独りで待ってたんだな……」
決して帰らぬ家族を。
まるで絶対に自分のものにならない男を待ち続けた秋良の母のように。
秋良はかさりと手に持っていた小さな紙切れを広げ、そこに視線を落とした。
「お前も、死にたかったのか……?」
秋良の母は病死ということになっているが、あれは半ば自殺だったと秋良は思っている。
彼女には生きようという意志がなかった。
食べ物は喉を通らず、無気力に横たわったか細い少女のような体。
待ち続けることに疲れた彼女は同じように生きることに疲弊した。
そして、ソラも。
『こんにちは。俺は悪い<竜>です。
そのうち悪いことをいっぱいするかもです。早く止めないと、すごいことになり ます。この手紙を見つけた親切な人はすぐに、俺を止めに来てください。
悪い<竜>より。 』
たどたどしく、まがりくねった文字でかかれた手紙。
言いつけを守り、ひとに出会うことを恐れるソラがそれでもひとに向けて川に流したメッセージ。
「独りで生きるのに、世界は広すぎるよ……。」
言い訳するようにつぶやいて、ソラはすり、と秋良の肩に頭を摺り寄せた。
「誰か……<竜>を殺す人間が来たら、って恐くなかったのか?」
「わくわくしてた。
どんな人が来るんだろう、たくさんの兵隊さんかな、格好良い騎士さんかな、どうやって俺を殺すんだろう、どんな言葉かけてくれるんだろう、って。俺は……ずっとひとに焦がれてた。」
来るはずのない仲間を待つことに疲れたソラは、待つ対象を自分の恐れる人間へと変えた。
人を呼ぶために、何度も何度も、空きビンにいれた手紙を川に流して。
ずっとずっと、自分を殺しに来るであろう人間を待ち続けた。
眠っていても、物音を聞けば飛びおき何度も外に走ったのだろう。
夢見るのは自分を殺しにくる誰か。
それでも誰も来てくれなくて。
次こそは、次こそは、とソラは小ビンに手紙を詰めて川に流す。
ひとに向けて、臆病な小さな<竜>が送り続けた命懸けの……ラブレター。
秋良はもう何も言えなかった。
ただただ、小さな<竜>を抱きしめた。
哀れな迷子を、力強く、やさしく、包み込むように抱きしめた。
翌朝。
洞窟の中には、村へと戻るために荷造りをする二人がいた。
そして、外では小さな少年が二人を急かしている。
「ね、ね、急ごうよ二人とも!!
俺、この森から出るの初めてなんだよっ。ね、まだッ?」
夜の間、ひたすら話し合った結果、秋良と雨月はソラを連れて行くことに決めたのだ。
もちろん、もしソラがそれを望むのなら、だ。ソラがここで仲間を待ちたいというのなら無理強いをするつもりはなかった。
ただ、すぐにあえるように樹海のはずれに小さな家を建てるだけのこと。
「だぁぁぁッ、うるさいぞソラ!もうすぐだからおとなしく待ってろ!!」
苦笑しつつ、返事を返す秋良。
小さな<竜>が人に寄せた想いの分だけ、慈しみ愛してやりたいと思うのは秋良も雨月も同じ。
雨月は最後に草を潰して作った染料を手に取ると、ソラを呼び寄せた。
「ほら、もし誰かがここに来たときソラがいなくてがっかりしたら可哀相でしょう?
何か一言書いておきなさい?」
「そーだそーだ、俺達が誘拐したと思われたら困るからな。」
ソラは何と書いたものかとしばらく迷っていたが…… 秋良が枯れ木をしだいて作った即席の筆を染料にひたすとデカデカと壁へと書き付けた。
『探しに行きます!!』
そう。
これからは自分で探しに行こう。
やさしい腕はそばにあるから、歩いて行ける。
もう待ち続けなくても良いのだ。
―――もう、ビンにつめた手紙を川に流さなくても。
「おし、行くか。」
「行きますか。」
「うん!!」
ソラはうなずいて、駆け出した。
生まれてはじめてできた友達の待つ、光の下へと。
それから数年後。
出奔し、姿をくらましていた第三王子が<竜>を従え参謀とともに王城に殴り込みをかけることになる。
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■作者からのメッセージ
ほのぼの仕上がってるかなぁ、と。一生懸命書いたので、いろいろ感想をいただけると嬉しいです。何か感想がありましたら、メールなどをくださってもとても嬉しいです。
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等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。