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   『BACK!!』  ...  ジャンル:未分類 未分類
 作者:樺弦                 
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 『ゆかりはねー、けいちゃんが大好きなのー』
 
 『ぼくもゆかりが好きだよ』
 
 『ほんとう?』
 
 『うん。ほんとう』
 
 『じゃあねじゃあね、おおきくなったらおよめさんにしてくれる?』
 
 『いいよ。大きくなったら、ぼくがゆかりちゃんのおむこさんになるよ』
 
 『やくそくね!!』
 
 『うん。やくそく』
 
 
 
 
 ジリリリリーーー!!!
 けたたましい音があたりに響く。
 俺は布団から這い出ると、このやかましい音の元凶である時計を手に取り壁に投げつけた。
 「ったく、うるさいんだよ・・・・」
 無残に中身をぶちまけた時計を見て悪態をつく。
 この・・・この時計のせいで夢の世界から引き戻されてしまった。古きよき時代の夢から・・・。
 時計を壁に投げつけただけじゃこの怒りは収まらない。
 もっと形がなくなるくらいぐちゃぐちゃにしなければ・・・・・・。
 「ちょっと、なんかすごい音がしたよ!?」
 「ゆかり、ノックぐらいしろよな」
 「だって、すごい音がけいちゃんの部屋から・・・・あぁ〜〜〜!!また目覚まし壊したの!!今月に入って3個目だよ!?」
 長い髪を揺らしてゆかりが叫ぶ。寝起きの俺にゆかりの甲高い声はきつい。
 「こいつが悪い」
 「なにいってんの、もう!!」
 ゆかりとは幼馴染で、朝になると俺を迎えに来る。寝起きが決していいとはいえない俺の目覚まし役を俺のおふくろに押し付けられたらしい。
 「ほら、早く着替えて!!」
 ゆかりが俺にそういって、壁にかけられたハンガーから制服を取って渡してくる。
 「こんなもん着れるか!」
 「いい加減慣れなさい!!」
 強い口調で言うゆかりに気圧されて、結局制服を手に取る。
 いやだなー。セーラー服・・・・・。
 
 
 俺は男だ!いや・・・正確には男だった。
 3年前まではちゃんと男として生きていた。
 トイレももちろん男子便所。友達ももちろん男が多かった。普通の男子学生だった。
 それが1年前、忘れもしない中3の秋・・・。
 おふくろに無理やり受けさせられた健康診断で、それはあきらかになった。
 俺は・・・・女だったのだ。
 医者の悪い冗談だと思ったが、そんなはずはなかった。
 『私、娘がほしかったのぉ〜』
 おふくろのこの第一声には、実の親でもマジで殺意を覚えた。
 周りはあっさりとこのことを受け止め、女ものの服をもらう始末。
 しかもゆかりまで『けいちゃんだったら可愛い女の子になれるよ〜』とかいうし・・・。
 俺の人生はそこですべてが狂った気がする。
 「なあ、ゆかり・・・」
 「なに?」
 「俺、気分が悪いから帰る」
 「嘘つかない・・・」
 腕をつかまれて阻止された。なぜ嘘だとばれたんだ?
 「勘弁してくれよ。頼むから」
 「だーめ。」
 いつもの通学路を、いつものようにゆかりに引っ張られて歩く。
 同じ学校の生徒の視線が痛い。
 「俺幼児じゃないんですけど」
 「じゃあおとなしく学校にいきなさい」
 学校・・・、そこは女たちの思惑が渦巻くプチ社会。
 こわいし、少しの油断が命取りになる。
 女になって最初に思い知ったのは、女は怖いということだった。
 校門の前でいったん立ち止まり、深呼吸をする。
 今日もまた戦争の日々が始まる予感に、思いため息を吐いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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2003/09/28(Sun)03:43:36 公開 / 樺弦
 ■この作品の著作権は樺弦さんにあります。無断転載は禁止です。
 
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■作者からのメッセージ
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