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   『トンネルに続く道』  ...  ジャンル:未分類 未分類
 作者:香也                 
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 『おいで…。』
 そう、声が聞こえたんだ。
 『おいでよ…。』
 誰だったか…同じ事を言う者がいた。
 『怖くないよ…皆と一緒だから…。』
 そう、アレは俺が七歳の時だった。
 乗っていたバスが事故を起こしたときだった。
 友達のヒロ君とヒロ君のお母さんと俺と…そして、隣のお兄ちゃんと海に行った時の事、バスに乗って帰る途中に大きなトンネルにバスが入って、急に中で止まったのだ。
 「ユキ君、ユキ君、トンネルの中にもバス停ってあったんだね…どんなバス停かなぁ?」
 俺らは子供だったから、何の疑問にも思わなかった。
 大体…バス停なら、電球ぐらいあるはずなのだが、ソレも無く…真っ暗闇だった。
 普段は暗く感じるバスの中が明るいと思える。
 「でも、バス停見えないな…。」
 皆、暫く待っていたが、誰も降りない上にいくら待ってもバスが動かない。
 流石に子供の俺らにもオカシイと思った時にはバスには誰もいなかった。
 「お母さん?」
 ヒロ君のお母さんも、お隣のお兄さんも…誰もいなくて…。
 「ママ…ママ…ママー!!。」
 「ヒロ君!!」
 そう言ってヒロ君がバスを飛び出して行った。
 俺も慌ててバスから降りたけど、ヒロ君はどこにもいなくて…トンネルの中の筈なのに、そこはとても広く感じた。
 多分、パニックになったんだと思う、闇雲に走って…でも、どこまで走っても暗闇しかない…顔は涙と鼻水でグシャグシャになり、何度も大声でヒロ君の名前を呼んで咽が痛かった。
 「ユキ君?」
 突然、後ろで声がして振り向くと、お隣のお兄さんが立っていた。
 「お兄…さっ…。」
 ガラガラになった声で俺は彼に飛びついた。
 何故、あの暗闇の中で俺が見えたのかは分からないが、自分にとってお兄さんは救いの神のように見えた。
 「あのね…ヒロ君がどっか行っちゃったんだ。」
 「うん?」
 お兄さんは俺の手をつないで歩いてくれたから…俺は安心して、それからヒロ君の事を思い出した。
 ヒロ君はお母さんに会えたのか…お兄さんみたいに見つけてもらったのか…ヒロ君は淋しくて、泣いていないか…ソレを全部お兄さんに話した。
 心配してたのは本当だったが、話し相手が出来たのが嬉しかったし、暗闇が怖くないために、お兄さんが消えてしまわない様にガラガラ声で必死に喋った。
 「ユキ君、ヒロ君を探したいの?」
 「うん、ヒロ君って泣き虫だから…俺が行って大丈夫って言ってあげるの。」
 お兄さんは少し黙って、それから俺に問いかけてきた。
 「本当に探したい?」
 「うん。」
 その内容の意味を俺は理解していなかった。
 「じゃあ、おいで…。」
 「お兄さん?」
 「僕らの世界に来れば…ヒロ君はきっと見付かるよ。」
 「僕らの…世界?」
 意味は分からなかった…お兄さんは笑って手を差し伸べて笑っていただけで、いくら聞いても「おいで」と言うだけ…。
 「ヒロ君を探したいのだろう?」
 「うん、ヒロ君とまた海に行くんだ…もう怖くないよ…だって、お兄さんと一緒だもん。」
 俺は彼の手をとった…意味も分からずに俺は…魔の領域に足を踏み入れた。
 それから、十年が過ぎた。
 俺は人間である事をやめ、魔の者として…妖怪として生きている。
 お兄さんは嘘を言ったわけでは無い…あのトンネルは異界とを結ぶトンネルだから、確かに迷い込んだヒロ君がいる可能性は高かった。
 だから…有名になって、ヒロ君を探そうと思った…二度と引き返せないと分かった時から、親友と呼べる彼を…。
 俺が、妖怪として名を上げる様になった頃…一つのウワサが耳に届いた。
 『敵方にヤバイ天使が出てきたらしいな…出会った仲間が全員、殺されていた。』
 少し興味を持った…そいつを倒せば、また名前が上がるかも知れないと思ったから…。
 『あぁ…何でも新参者らしいな…アンタと同じ位かな…何でも付いたとおり名が『皆殺しのヒロ』ってよ。』
 正直、自分の耳を疑った。
 ソイツに何度も聞き返した。
 あのヒロが『皆殺しのヒロ』と呼ばれているなんて信じられなかった。
 俺の知ってるヒロは、優しくて、少し泣き虫で…いつも、クラスの連中にからかわれて…。
 「兄貴…。」
 「知ってしまったか…ヒロ君だよ…確かに…。」
 「どうしてだよ…一緒に行けば見付かるんじゃなかったのか?」
 「保証は無いと言ったぞ…。」
 知らない事だらけのこの世界でただ一つ…『ヒロ君を探す。』それが自分を支えてくれたから…。
 「…………ヒロ…………。」
 それから、何日か過ぎた日に事…兄貴…つまり、お兄さんの組が天使に襲われたと言う知らせが入った。
 『アイツが死んだ。』
 『皆殺しにやられた…。』
 そんな知らせだった。
 あぁ…もう戻れないんだ…そう、あの頃をまだ夢見ている自分がいた。
 「ヒロ君はもう敵だ…もう、戻れないんだ。」
 それならば、誰の手でもない…この手で…他の者の手にかかるより…自分で彼を殺そう…自分で夢を終わらせよう。
 せめて、自分の手で、終わらせよう…。
 場所は…あの海で…。
 「待たせたな…。」
 「ユキ…君…。」
 
 
 「君は一人で淋しいのかい?」
 「う、うん。」
 「そう、なら…おいで…。」
 「?」
 「淋しいのなら…一緒にいたあげるぞ。」
 「本当?」
 「あぁ。」
 
 
 「お兄さんの名前は?」
 「名前か…お兄さんはヒロユキって言うんだ。」
 
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2003/09/28(Sun)00:48:10 公開 / 香也
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■作者からのメッセージ
 初めて投稿します。
 思いっきり暗いです…。
 ご、ごめんなさい。
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