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『りんご』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:青井 空加羅
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人は天に召されるとき全ての苦悩から解放されるという。
彼女の品のある綺麗な顔からは確かに全ての苦悩から解放されているように見えた。
僕はその天使のように愛らしい、愛しい彼女の隣に座っていられることをとても幸福に思った。
入院してから半年というもの、彼女のふくよかな顔からはひっそりと肉がそげ、手足は棒のようになり、唇はいつも乾いていた。
もはや元気になったら、などという言葉を彼女は口にしなくなっていた。
彼女はとっくに死を受け入れていたのである。
彼女は美しく、そして勇敢だった。
死の恐怖でさえも彼女の清らかな心を曇らす事はとうとうできなかった。
僕はそっと彼女の寝息を聴く。
すーっすーっという彼女の寝息はどんなに聡明なクラシック音楽よりも僕の心をやさしく癒してくれた。
ふと、彼女が目を覚ました。僕は笑顔でおはよう、といった。
彼女は顔だけ僕の方を向くと笑顔を返してくれた。
最近はもうほとんどしゃべることもない。
それでも不便という事は無かった。言葉なんてものを介しなくても彼女のいいたいことはみんなわかったし、もはや語り合う思い出なんてものは僕らの間に残ってはいなかった。
ただ彼女のそばにいてやりたい、それが僕の願いだった。
ふと、彼女が何かを口にした。
僕は彼女の口元に耳を近づける。
これが彼女の最後の言葉かもしれない。
「りんごが・・・食べたい。」
彼女が自ら食べ物を欲するなんて目面しかったが、僕はすぐにりんごを取り、剥こうとした。
しかし彼女はそのままでいい、と僕の方に手を伸ばし、僕の手からりんごを取った。
しかし力ない手はりんごの重みに耐え切れず、りんごはポトンと床に落ちた。
僕はそのりんごを拾い、Tシャツで軽く拭くと彼女の口元に直接運んでいった。
「ありがとう・・。」
そういうと彼女は優しくりんごに歯を立てた。
カリッ
突然みずみずしい空気が僕らの周りに満ちてくる。
カリッ
清楚な音とともにりんごの汁がまるで聖水のように彼女ののどを伝った。
噛むことに疲れたのか彼女は横を向くと窓の向こうの青い空を見上げた。
僕はりんごをベッドの横の台の上に置くと雲ひとつ無い綺麗な空だね、と言った。
彼女は返事はしなかったが、微笑みそれを返事にした。
「いつも・・・ありがとうね・・・お礼に何かしたいのだけれど・・・私、こんなだから・・・。」
彼女のその言葉を聞いたとき、僕の胸に懐かしい切なさが、願いがよぎった。
この言葉を口にすれば彼女を困らしてしまう、いやそれ以上に彼女を悲しませてしまうかもしれない。
それでも僕は僕の願いを抑える事は出来なかった。
目の奥がカッと熱くなる。
後ろから彼女をぎゅっと抱きしめ、僕は彼女に思いを告げる。
「僕は・・・君にずっと・・・ずっと生きてほしい・・・。」
僕の涙がそっと彼女の首筋に落ちた。
終わり
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2003/09/22(Mon)00:25:29 公開 / 青井 空加羅
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■作者からのメッセージ
初投稿でございます^^主人公を僕にしたのは女の子が主人公だと私っていったときに自分と感情がかぶってしまうからです。
でもやっぱり女の子主人公でも書いてみたいかも・・・。
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