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『PIANISTU』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:凪砂
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私は、あの天才ピアニスト“佐久間聖二”の妹。そして、あの天才プロデューサー
“緒方彼方”の彼女です。
PianistU
「あれ、お兄ちゃん、帰ってたの?」
「帰ってたけど何か文句あるわけ?バカ妹の美里維ちゃん?」
「ふーん。暇なんだね。お兄ちゃんは。行く所とか、別に無いんでしょう?」
「彼方と一緒に、ちょっとテレビ局に行ってくるけど」
「彼方さんと一緒?私も行きたい」
「お前、部活だろ?それに、そのあとレッスンあるし」
「いいじゃない。別に1回ぐらいサボったって」
「だめだね。ただでさえ下手なんだから、少しくらい練習したら?」
「確かに、お兄ちゃんが中3のときに比べたら下手かもしれないけど、私教室の中で一番上手なんだよ?」
「はっきり言うが、彼方が小学3年生のときよりも下手だな」
「それって……」
「ド下手ってことだな」
「………お兄ちゃん!」
「さぁてと、出かけるかな。部活頑張れよ。」
私の兄は、2年前からフランスに留学していて、今日はたまたま帰ってきている。
ピアノが上手いのは、私だって、見とめざるを得ない事実。だけど、人のこと、下
手、下手って顔を見るたびに言うのは、少しムカツク。たしかに、お兄ちゃんが中
3のときから時の見たら―兄は、中3の時にかなりある日本の有名な音楽コンクー
ルのピアノ部門の最優秀賞を総なめにしたことがある―下手だけど。さっきも言っ
たけど、ピアノ教室の中では、一番上手いんだって。
それに、お兄ちゃんは、頭もいい。外国語も、かなり喋る(8ヶ国語ペラペラ)。
だから、私の事をあんなにバカにする。ちなみに私は、演劇部に所属している(私
の学校、なぜか、英語劇なんだよ。今年)。家で練習していると、少し聞いてて
「そこ発音違う」とか、「もうちょっと、感情込めて読んだら?」とか、かなりい
ろいろ言ってくる。
そして、私の兄は、今、日本中でかなり人気のピアニストだ。だから、日本に帰っ
てくると、必ずテレビ局などに、出かけている。そんな大人気のピアニストって顔
がよくないと駄目なような気がするけど、兄は、そこらのアイドル顔負けの美形だ
と、妹の私が見ても思ってしまう。だけど、性格は最悪。まず、口が悪い。そこ
が、×。
その点、お隣に住んでる彼方さん。彼方さんは、お兄ちゃんの100倍、くらい
格好いい。優しいし、それにピアノも上手いし、作曲だって出来るし、天下の大手
プロダクション“GLプロ”の天才プロデューサーでもある。ものすごい有名人な
んだ。それに、頭も良いし、フランス人クオーターだしv
私は、そんな彼方さんに、ずっと―小学校5年生くらいのときから―片思いしている。
私がピアノを始めたのは、3歳のとき。そのときお兄ちゃんは10歳。その頃か
ら、ものすごくピアノが上手かった。3歳だった私は、純粋にお兄ちゃんを尊敬し
ていた。
そのときから、彼方さんは、家によくきていた。それこそ、毎日のように。そし
て、ちいさい私と、よく、遊んでくれた。その頃から、私は彼方さんのことが好き
だったのかもしれない。
だから私は、少しでも、近づきたかった。だから、何度もやめようと思ったピア
ノをここまで続けて来れた。コンクールでもたくさん賞を取った。頑張ったね。っ
て、彼方さんが笑顔で言ってくれたから。
だけど、彼方さんは、きっと私のこの気持ちになんて気づいてくれていない。そ
れに、彼方さんには常に、凄く綺麗なモデルさんみたいな(本当のモデルさんと
か、女優さんとかもいるけど)彼女がいる(いつも違う人だけど)。きっと、私の
ことなんて、親友の妹くらいにしか見てくれていない。
それが寂しい。寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい……………
こんなに好きなのに、彼方さんが音楽を好きなくらい、私だって彼方さんのこと
が好きなのに。
泣いてしまいたくなる。片思いがこんなに辛いなんて。お兄ちゃんのことがとき
どき羨ましくなる。ううん、いつも。お兄ちゃんが羨ましくて羨ましくてたまらな
い。いつだって、彼方さんの一番近くにいるのはお兄ちゃんだったから。いつだっ
て……。
近くて遠い。こんな関係が一番辛い。叶わない恋なら、いっそ届かないくらい遠
くに行ってしまえばいい。
―その日、震度6強の地震が、東京を襲った。いろんなものが壊れた。私の家
は、震源地から遠かったからあまり強くは揺れなかったけど、テレビ局は、震源地
のすぐ近くだった―
「母さん!お兄ちゃんは?」
「それがね?まだ見つかってないの……。無事だと良いんだけど」
「彼方さんは?」
「彼方君?彼方君ならさっき、病院に運ばれていったけど」
「どこの病院?」
「中央病院よ」
「中央病院?わかった。母さん、お兄ちゃんが見つかったら、メールして」
「わかったわ」
「あの、緒方彼方さんって、今どこにいますか?」
「緒方さんなら……今手術中だと思うわ。運ばれてきたとき、かなり酷い怪我、してたみたいだから」
「ありがとうございます」
階段を駆け登った。中央病院には、過去にも来たことがあったから、手術室がど
こにあるかは、知っていた。おねがい!生きてて!
私が手術室についたとき、ちょうど、“手術中”のランプが消え、中からたくさ
んの人が出てきた。そのとき気付いたのだが、お隣のおばさんが、となりで祈って
いた。私も、祈った。
「緒方さん……ですか?」
お医者さんが、お隣のおばさんに話しかけた。
「あの、彼方は?大丈夫なんですか??」
そして、お医者さんは少しだけ笑って言った。
「大丈夫です。麻酔が切れたら、目を覚ますでしょう」
―よかった……。お隣のおばさんが、凄く、ほっとしていた。もちろん私も、凄
く……ほっとした……のもつかの間。
「申し上げにくいのですが……。指の神経が、何本か切れていて……今までどうり
に完全に指は……動きません」
隣のおばさんは、“命さえ助かったのなら”といい、何度も、お医者さんに“あり
がとうございます”といっていた。
私は、彼方さんに会わずに、病院を出た。病院を出て、携帯を開くと、お母さん
からのメールが届いていた。
《お兄ちゃんったらね?あの後すぐに、見つかったのよ。見つかっていうか、自分
で出てきたの。3歳くらいの小さな女の子を抱えて。それに、かすり傷しか、負っ
ていなかったのよ?一体、どういう身体の構造になっているのか、不思議だわ》
そのメールを見て、少しだけ笑えた。本当に、どういう身体の構造してるのかし
ら。というか、ものすごい生命力だわ。それに、良いわね。お兄ちゃんたら。かす
り傷だけって。
私は、お兄ちゃんの携帯に、メールを送った。
「誠二……俺って、神様に嫌われてるのかな」
「なんで……」
「同じスタジオにいたのに、なんで誠二はかすり傷で、俺の指は動かなくなってるわけ?」
「完全に、動かなくなったわけじゃないだろ?今度だって、この間みたいに……きっと動くようになる」
「ならないよ。きっと。きっと神様は、俺に、ピアノを諦めなさいって言ってるんだ」
「そんな事、言うわけないだろ?」
「それか、きっと神様は、誠二のことをひいきしてるんだ。すべての、音楽の神様が」
「ちがう……」
「諦めてその力を、俺の持つすべての可能性を、誠二にあげなさいって言ってるんだ!!」
「そんなこと言わない!」
「いいよな。神様に好かれてるやつは。何やらせても出来るし、怪我で一生楽器が出来なくなるなんて事もないし。」
「……彼方のアホ!一生出来ないなんて言いやがって!諦めたら終わりだって、俺に言ったのは誰だよ!
そんな事ばっか言ってるから、音楽の神様に嫌われるんだよ!」
「誠二……」
「お前なんか……ホントに一生、ピアノ引けない指になっちまえ!!いいよ!俺は1人でやってくから!
かってに、世界一のピアニストになって、超有名人になってやる!」
バタンッ
お兄ちゃんは、乱暴に扉を閉めて、病室を出ていった。
「お兄ちゃん……」
「美里維ちゃん……。俺、きっとすべての神様から嫌われてると思う……。」
「何で……そう思うんですか?」
「さっき、俺、彼女に電話かけたんだ……。15人くらい。みんなに。冷たいもんだよな。
俺が、もうピアノ弾けないかもしれないって言った瞬間に、態度が豹変するんだ。」
「……(彼女、15人もいるんだ)……」
「あいつ等全員……俺の……金と、名前と、セックスが欲しかっただけなんだ」
彼方さんは、半分くらい、泣きそうになりながら喋っている。
「ホント、一体何なんだろうね。俺って、それだけの人間な訳?って思っちゃうよ。」
「それだけじゃ……ないです。ずっと、好きでした。彼方さんが、有名になる前から」
こんな場面で告白するのも、なんか違うような気がするけど。
「私……彼方さんが、ピアノ弾けなくてもいいから、ずっと近くにいて、私の事“親友の妹”ってだけじゃ無くて、
1人の人間としてみてくれたら、嬉しいです」
「そっか……。ごめんね?俺、ずっと、夢中で……全然気付いてなかった。」
「わかってくれたら、いいです。私……ずっと……好きでした。」
「わかったよ。僕も。ずっとね?何か違うなって、思ってたんだ」
「僕も、美里維ちゃんが、好きだよ」
「ホントですか……?」
「たぶん。そして、今神様に、嫌われてたんだって、実感した。」
「なんで……?」
「だって、本当の気持ち、こんなに近くにあったのに、気付かせてくれなかったんだよ?」
「それ、神様の所為にしたら、可愛そうですよ」
「いいんだよ。べつに」
「そんな事言ったら、ホントに指、一生動かなくなりますよ?」
「それは、困るね。どうしようか。」
「お願いしてみたらどうですか?」
「神様に?」
「私も一緒に、お願いしますから。」
初めての恋が、こんなに綺麗に叶うなんて思ってなかった。だけど、叶ったから嬉
しい。近くにいたから、お兄ちゃんがいたから、彼方さんがピアノをやっていたか
ら、この恋は、叶ったんだと思う。ありがとう。神様。
私は、あの天才ピアニスト“佐久間聖二”の妹。そして、あの天才プロデューサー“緒方彼方”の彼女です。
ありがとう。神様。人間に、音楽をくれて。感謝しています。神様。
END
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2003/08/30(Sat)22:14:07 公開 / 凪砂
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■作者からのメッセージ
だらだらながくて、ごめんなさい
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