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『PIANIST』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:凪砂
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「やめる?」
「うん……。だって、こんな指じゃ……もう、弾けないんだ」
「だけど……訓練したら、動くようにはなるんだろ?」
「なることはなるよ?だけど……もう、ピアノは弾けない……」
「そっか……。」
「聖二?俺、曲を書くよ」
「曲を?」
「楽譜を書くぐらいだったら、出来るようにはなるんだ」
「じゃあ、彼方が作った曲を俺が一番に演奏する」
「うん。そうしよう?」
「お前、世界一の作曲家になれ。俺は、世界一のピアニストになる!」
「うん!なろうぜ!」
pianist
確かにあの時、俺こと、佐久間聖二と彼方は約束した。だけど……
「新しくGLプロからデビューした“rough”のプロデュースをなさっている、緒方
彼方さんです!緒方さんがプロデュースされるグループは、今まですべてミリオン
ヒットしていますが、今回も、いけそうですか?」
「そうですね。まぁ、今までのヒットは、僕の力も少々はあるでしょうけど、基本
的には、彼等の努力ですから。」
彼方は、プロデュースしたグループすべてを大ヒットさせている、天才プロデュー
サーとなっていた。
ところで俺はと言うと、学校内でかなりの成績の、来春からフランス留学が決まっ
ている、一音大生でしかない。
昔から、俺のほうが、音楽のセンスもあったし、ピアノも上手かった。だけど、結
局有名になったのは彼方の方だ。どこのCDショップへ行っても、彼方の作った曲
が置いてある。とはいっても、ピアノ曲は一曲もない。そして、すべて、彼方は演
奏していない。
彼方の作ったピアノ曲は、2曲。1曲目の楽譜を持っているのは、俺と彼方だ
け。
その曲は、中2のときに、仲のよかった女友達が転校してしまうときに、お別れ
会で弾いた曲だ。ちなみにその友達っていうのは、幼稚園からずっと同じクラスだ
った、彼方の彼女。
2曲目は、音楽コンクールの作曲部門で最優秀に輝いた。俺も、その曲を自由曲
で弾いてピアノ部門の最優秀に輝いている。
それからだった。
そのコンクールが終わった次の日から、彼方はピアノ曲をまったく書かなくなっ
てしまった。そして、歌を沢山書いた。そして、その曲を演奏した彼方のお兄さん
が、プロダクションにテープを送って、デビューした。
そして、彼方は芸能界に、天才作曲家として、デビューした。それから彼方は、
俺にとって、隣に住んでいながら、だんだんと遠い存在になっていった。
俺は、この間の学内発表会で、1曲目のあの曲を演奏した。そのとき、誰の曲か
とか、そんな事を友達や先生とかに聞かれたけど、俺は何も答えなかった。ただ、
“良い曲だろ?俺の幼馴染が作ったんだぜ?”と、言っておいた。
彼方?お前は、どうしてしまったんだ?あのとき、交通事故で両手が思うように
動かなくなって泣いていたお前は、どこに行ってしまったんだ?プロのピアニスト
を目指してあんなに夜遅く間で練習していた。俺達の夢はどこに行ってしまったん
だ?
♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
学校が終わって、自分の家に帰る途中、彼方の家の前を通った。そしたら、ピア
ノの音が聞こえてきた。最初は、妹でも練習しているんだろうと思ったが、聞いた
事の無い曲だったので、違うと思い、誰が弾いているのか少し気になって、部屋の
中を覗いてみた。
すると、彼方が何か真剣な顔付きで、紙に何か書き留めていた。しかし、少し書
いて、凄くゆっくりなテンポで弾いて、紙をくしゃくしゃにして、ゴミ箱へ放り込
む。
新局の制作でもしているのかと思ったが、メロディーを聞いて、違うとわかっ
た。ピアノ曲だった。彼方は、ピアノ曲を書いていた。
ずっと部屋の中を覗いていたら、通りすがっていく人達がなにかこそこそ言ってい
たので、家に帰ることにした。
それから、気になっていた。彼方が、今、どんな曲を作っているのか、それはち
ゃんと俺に弾かせてくれるのか。嬉しかった。彼方はまだ、ピアノが好きだったん
だということがわかって、俺はとても嬉しかった。
俺は、コンクールが近づいてきたため、早く家に帰れなくなった。だから、あの
曲の進行具合もまだ知らない。
ある日、郵便受けに何か届いていた。それは……彼方からの楽譜だった。もちろ
ん、その場で封筒を開けた。題名は“孤独の中の仮面”。その題名の本当の意味
を、俺は知らない。しかし、彼方のいる、芸能界が、今辛い状態になっているのだ
ろうという事を推測した。
コンクールに行って、俺は少しばかり驚いた。名簿に、名のある音大の学生のな
らぶ中、作曲部門に彼方の名前を見つけた。
ホールで、弦楽部門の選考が始まる。俺はピアノ部門だから、まだまだ始まらな
いけど、その前に、作曲部門の選考がある。作曲部門は、楽譜選考の後その中の優
秀作品だけを選んで、その曲を弾かせてみるのだが、彼方の手は動かない。前のコ
ンクールのときは、それを知っていた審査員の先生が、俺に弾かせてみてくれたけ
ど今回は、きっとそうはいかない。そのとき彼方は、どうするつもりなんだろう?
考えているうちに、弦楽部門の演奏がすべて終わった。そして、ステージ上に
は、彼方が出てくる。審査員の先生に、あれこれ質問されているが、さらさらと答
えていく。同じだ。あの時と。審査員の先生が言った。
「じゃぁ、弾いてみて」
彼方は少し困ったような顔をした。しかし、
「わかりました」
と言い、ピアノの方へ向かった。
彼方の指は、昔のように、事故にあう前のように滑らかに鍵盤の上を走ってい
た。
5分ほどの曲が終了した後、客席からは、拍手が起こった。彼方の指は、完全だ
った。完全に治っていた。
そして、彼方は、審査員席に向かってお辞儀をして、控え室に戻った。
ピアノ部門の選考が始まり、俺はステージに立った。このコンクールは、課題曲
と自由曲の2曲を演奏しなければならない。課題曲はおいといて、自由曲は学内発
表会で演奏したあの曲だ。題名は、学内発表会の直後に彼方から送られてきた。そ
の題名は“いつまでも君と”。君っていうのが、誰かはわからない。しかし、それ
が、あの時の女友達ではないことだけはわかった。
そのコンクールの結果、彼方は作曲部門最優秀、俺はピアノ部門最優秀だった。
確か、このコンクールの最優秀者は、フランス留学……だった気がする。彼方も、
フランスに行くのか?と思いきや、彼方は、言った。
「誠に申し訳無いのですが、俺、フランスは行きません。俺、こっちで仕事もある
し」
「ですが……っそう言うことになっておりますので……」
「優秀賞の子に行ってもらってください。俺、忙しいから……」
彼方は、フランス行きを拒否した。外国語の成績がよくないから心配だったのか、
仕事があるからかは知らないけど、とりあえず、拒否していた。
そして、フランスへは、優秀賞の子が行くことになった。
「緒方さん!あの、音楽コンクールで、作曲部門最優秀賞を獲得されたと言うの
は、本当なんですか?」
「本当ですよ」
「どんな曲を書いたんですか?」
「“孤独の中の仮面”という曲です」
「“孤独の中の仮面”ですか……それは、どういった意味なんですか?」
「それは言えませんね」
「えー。それでは、皆さんにお聞き頂きましょう。緒方彼方さんで、“孤独の中の
仮面”」
深夜のラジオ放送に、彼方がゲスト出演していたのを、俺は偶然に聞いた。
“孤独の仮面”という曲を俺がラジオで聞いた次の日、彼方が俺の家にやってき
た。
「コンクールのとき、聖二はかなりびっくりしたと思うけど……実は、かなり前
に、指……治ってたんだ」
「………?」
「T大の合格が決まってすぐ俺、芸能界入ったろ?それから少し経ったころに、
俺、ドイツ行ってたんだ」
「ドイツ……?」
「そう。それまでも一応、日本の病院で手術してみたり、リハビリとかやってみた
りしてたんだけど、ぜんぜんよくならなくて……そのとき、病院で、事故でまった
く指が動かなくなって、ドイツで手術して、治ったっていう人にあったんだ。それ
で、そのドイツの医者を紹介してもらって、行ったんだ。そしたら、どんどんよく
なった。それで……今、ピアノも弾けるようになった」
「そっか………。」
「リハビリもすっごく頑張って、サイレントピアノ買って、夜遅くまで練習し
た。」
「…………」
「世界一になりたかったんだ。世界一の作曲家になれって、聖二は言ったけど、俺
は、世界一のピアニストになりたいんだ」
「駄目だね。世界一になるのは俺だから」
「だから……作曲でのフランス留学はしたくなかった。ピアノで、行きたかったん
だ」
「俺は、来秋から、フランスだけど?」
「知ってる。で、俺、聖二が留学する学校の試験受けてきた。もちろん、合格し
た。俺も、来秋から、行く」
「まじかよ……」
「T大は、やめるって言ってきた。聖二、一緒に行こうぜ!」
「………世界一になるのは、俺だからな」
「フランス語も出来ないくせに」
「お前だって、出来ないだろ?」
「英語はね。だけど、俺のじいちゃん、フランス人だもん」
「まじかよ…………」
そして秋。日本のテレビや新聞では、“天才プロデューサー緒方彼方、突然のフ
ランスピアノ留学”というニュースが、どのチャンネルを入れてもやっていた。そ
して、俺と彼方は、二人でフランスへと旅立った。ライバルとして、親友として、
幼馴染として。
世界一のピアニストになる夢を追って………。
END
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2003/08/30(Sat)22:05:48 公開 / 凪砂
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■作者からのメッセージ
・・・・・・めちゃめちゃな話だと思いますが温かい心で読んでください。
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