『白海の巡り <中>』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:圭太郎
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目が覚めたとき、見知らぬ天井をまず見た。天井は高い。一般的な家の造りで特に変わったところは無さそうだ。レンガは砂避けにもなり、また強い造りだ。
「・・・・・・・!?」
少年は慌てて身を起こす。悠長に家を観察している場合ではない、ここはどこだ、と。
知らなかった。
布団が被せられてあり、その裾を握る。自分の家でもないし、どこかに泊まった覚えもない。
荷物のザックは寝ていたベッドの横にある。剣は、と腰を見たが無い。服はそのままで、薄汚れたものだ。砂避けのマントは外され、ベッドの裾にかけられていた。
「どこ、ここ」
「私の家だ」
ふいに背後から声が上がる。声は高くもなく、低くもないが、背後を慌てて振り返れば比較的白い肌の少女が立っている。
髪を上で束ね、高い位置で括り、頭には布が巻いてある。この時代のファッションは髪は長く伸ばし、頭上で括るのが常識、といった感じだ。
目つきはいささかキツイが、端正な、整っている顔立ちをしている。
服装は璋と変わらない。
しかし手には剣が握られていた。
「お前の剣だ。研いでおいた」
手渡されたのは握っていた剣。赤い布はきちんとまき直され、鞘が前より綺麗になったと感じる。研いでおいた、という言葉通り、抜いてみればギラリと妖しく光る。
魔物を何匹も斬ったために、刃こぼれがしていたが今はそれは無い。
背後に立っていた少女は脇に歩み寄り、璋を見据えた。
「・・・行き倒れか、それとも休んでいたのか」
「あ、助けてくれたんですね・・・・・・」
少女は苦笑する。酷く少年は疲労していた為、眠った。
動けない、とまではいかないが動きたくなかった為に熟睡してしまったと言えよう。
璋(ショウ)は同じく苦笑し、頭をかきながら頭を下げた。
「ありがとう。あのままだと魔獣に襲われるところでした」
「礼を言われるまでもない。余計なことをしたのかと思っていた。何か、食うか。」
何か食うか、と言われ一つ頷く。
実は酷くお腹が空いていた。持ってきた食料はパンだったり缶詰だったので他の物が食べたかった。
そうか、と言って手を招く。
よく見れば寝ていた場所は一つ寝室らしい。少女の物だろう、少し恥ずかしくなり慌ててベッドから降りる。ベッドとタンス、質素だが窓辺に一輪花を差してある。
少女に招かれるまま部屋を出、出た先はテーブル一つに台所の役割を果たす暖炉の部屋だ。この世界、暖炉といっても暖を取るために使うわけではない。年中暑いのでそんな物は不要だ。この場合暖炉というのは火を焚き、料理する所を差す。
暖炉には一つ鍋がかかり、汁ものが入っていた。
少女、いや少年名を庵(イオリ)という。
少女に間違えられる事が多いが、正しく男である。
これには間違えてしまった本人そのものが驚いた。心の中で何度も謝る。
庵は白海(ハクカイ)に一人で住んでいる。両親は早くに亡くし、悟(ゴ)と共に生きてきた。
そう、璋が探し求めた悟である。
庵と共に生きた、白海に住む悟は去年亡くなったという。
二人は向かい合い、食事をしながら話を進めた。
「そうですか・・・」
「すまなかったな。ここまで来たのに。」
「いや、仕方ないよ。その・・・庵はここに居て平気なの?」
「平気、だ。啓翁(ケイオウ)に生き方を教えて貰った。今では迷い込んだ者を導く位は出来るぞ」
啓翁、というのは悟の事らしい。啓が名、翁とは通り名の事を言う。また老人の事を翁とも差す。この場合両方だろう。
庵は軽く笑う。
璋も笑った。庵のおかげで死なずにすんだ。悟のおかげ、とも言えよう。悟は庵にここでの、砂海(シャカイ)の生き方を教え、迷った者を救う手立てを教えた。
ちなみに偶然歩いていたところ、璋を見つけたのだと言った。
「璋は何の為にここにきた。いや、啓翁に会いに来たのは分かる」
「理由っていみ?」
「あぁ」
「僕は慮(リョ)だ。慮として、悟に知恵を貸してもらいにきた。」
「慮?おまえが」
驚いた、と思う。しかしこの時代、年齢は関係ない。璋より歳の幼い慮もいた。
この場合では、璋が慮というのが見えない、という意味だろう。それも失礼なことだ。
頷き、璋はポケットから種を取りだした。比較的早く育つ、樹の種類の種だ。
「よく驚かれる」
「あぁ・・・いや、悪い」
「いいんだ。・・・僕は樹を育てる慮で・・・」
庵は黙ってそれを聞いた。
樹を育てればどうすれば良いか、自分がこれまで疑問に思ったことを次々と述べる。
すでに二人、食事は終わり、粗方食い終わっている。
一気に話し終えると、沈黙が流れた。庵は何か考えるように違うところを見て腕を組んでいる。どうすれば良いのか分からずと、長々と話してしまった事に少々後悔した。
庵が何も喋らないので始末悪く庵から眼を反らす。
家は質素で、必要最低限の物しか置いていないように思えた。食材などが入っているだろうしっかりした箱と、水の入ったタンク。タンクは蛇腹式のホースがのびている。それは外に繋がっていた。多分、モーターか何かでオアシスから直接汲み上げているのだろう。
他には何もないと言って正しい。
家主がよほど几帳面なのか、部屋はきちんと片づいていた。
白海のどこら辺りだろう。
3D地図はザックの中だ。聞いてもいいが、多分分からない。
そんなことを考えていると、庵が口を開いた。
「樹は、この地球の土では育たない」
「なぜ?それは啓悟の言葉?」
「そうだ。啓翁に教えて貰った。来い、私が教えて貰ったことを少しでも教えたい」
また招く。
先に立ち上がった庵は扉に向かった。向かった扉は外に通ずるもので開ければ白い砂が広がっている。後に続いて外に出る。砂避けのマントを付けていないが、他は平気なので躊躇なく歩んだ。
庵は導だ、と思う。
少なくともそう思えた。璋と同い年くらいであろうが、どこか璋とは違う。
向かったのは厩舎、馬や牛を飼う小屋を指すがこの世界、飼うのは馬や牛などではなく、妖魔だ。比較的大人しい妖魔を馬の変わりに使役する。
「禽馬(キンバ)・・・」
「空晶(クウショウ)という。乗り移動するが良いか?」
璋は渋々頷く。実は妖魔類は苦手だ。たとえ飼い慣らされたものと言えど。
空晶と名付けられている禽馬は金白色の毛並みをしていた。
禽馬は、馬に似た、いうならポニーのように毛が長い動物だ。ただ毛が羽毛に似ていることから禽馬という。しかし顔は馬ではなく、鳥のような顔だ。翼を持っていないが、飛ぶように軽く走る。記録に寄れば5日不眠で走り続けた、というものもいるほど健脚をしている。
禽馬は人二人は余裕に乗せられる大きさをしている。
幸い禽馬は一頭しかいない。一人で乗る、ということだけは避けられたようだ。
鞍はない。禽馬空晶は膝を折り、乗れというように琥珀色の瞳を向ける。恐る恐るまたがると、羽毛のような感触がふんわりと伝わってくる。
璋が乗ると立ち上がり、庵が手綱を引き、空晶を外へと出す。
元々禽馬は砂海に住むものなので砂避けのスパッツなどは履かず走れる。砂海に住む妖魔や魔獣といった類は、砂に対応して進化した。
ふわりと、庵は璋の後ろにまたがる。しっかり捕まっているように、と一言だけ言うと腹を蹴った。
*
2003/08/11(Mon)11:11:30 公開 /
圭太郎
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