『白海の巡り <上>』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:圭太郎
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焼け付く砂。
不安定の形を一面に詰めながらそれは広がっていた。
大なり、小なりの砂の山は続く。
どれくらい歩いただろうか、と少年は思う。歩いてきたという印は風により消えかけていた。
少年、名を璋(ショウ)という。
ただ人より少しばかり学を好み、15歳で大学を出た。今は慮(リョ)という称号を頂いている。慮とは博士、というところか。慮とは「考える」ということを差す。
璋は砂を渡るオートドックスな服装で、今日で3日目になる白海と呼ばれる砂漠を渡っていた。
砂避けのマントに、ブーツ、直射日光を浴びないために頭は布で巻く。紫外線は人口オゾン層で遮断されつつある。しかし、強い。これは紫外線を遮断するためのクリームを塗れば良かった。
スパッツも履いている。これも砂が衣服の中へ入らないようにするためだ。
(それにしても)
自分は道に迷ったのかも知れない。
地図は3Dの立体地図だ。このころの地球は地核変動が多く起き、地形もすっかり変わってしまっている。
昔の大陸の名前すら、国の名前も今では忘れ去られてしまった。
代わりにAからNまでの記号で均等に分けられる。そして、それぞれ住区と危区にまた分けられる。住区は人の住める場所、危区は人の住めぬ場所、というわけだ。
そして危区は砂海(シャカイ)と呼ばれる大きな砂漠がいくつか存在する。そこは多く、魔獣と呼ばれる・・・突然変異で生まれた物たちが住まう。ゆえに人も住めず、危険なのだ。
地形はそんなに複雑な地形になってはいない。むしろ纏まったといえる。
Aからまず縦に地図へ線を引く。
そしてB、C、D・・・Gまで7本線を等間隔に引く。
次に横へH、I、J、K・・・Nまで引けば出来上がりだ。
立体地図は矢印でくっきりと「白海」を現在歩いている所を差す。
地図を見ていればよく分かるが、昔の地形が分かってくるようだ。
複雑な弧を描いていただろう場所や、入り組んでいただろう場所が分かってくる。大陸は大きく3つに分かれており、それぞれ風土も違う。他の大陸へ行くには海を越えるしかない。
しかし、海水の海を渡る技術も、飛空する技術も失われたに近かった。太古と呼ばれる時代にリセットされたかのようだ。
白海(ハクカイ)は白い。
海という名のつくのは一般で砂漠の事を差す。
白海という名は、砂が白く、乳色を思わせることから付いた。
他に理海(リカイ)や、赤海(セキカイ)、偽海(ギカイ)など様々な名を持つ。
璋はひたすら、砂を蹴って進んだ。
白海は地図から見て東に位置する。璋が住んでいた都(ト)は白海に近い。陸は同じなのでそう困らない、というわけだ。
しかし白海の西から東、つまり横断するには白海は大きすぎた。
無謀、だったのだ。慮といえど、15の歳の少年だ。他の慮に止められたが、一人で行くことをあえて望んだ。
これは意地、というものだったのだと思う。
慮とは世界の大きな財産となる。
穢れた空気を清浄したり、オゾン層の回復、木々の復活など、そういったこれからの人類いや、生物に役立つことを研究し、実行する。
今現在、樹はわずか、合計としても一握りしか無い。それを維持・増幅させていくのも博士の重要な役割と言えよう。
またこの世界では、慮は導(ドウ)になる可能性もある、といっておこう。
導、とは「導き、先頭に立つもの」を意味する。王や長のような役目だが、利益などは一切無く、税も受けない。ただ人々を導き、先頭に立つ、という役目だ。一般の人々と変わらず導とは肩書きだけだがその役目は広く、深い。
導は悟(ゴ)に選ばれる。悟とは「悟ったもの、道理をわきまえ、人々に助言し助ける役目」を言う。ただし悟は人前に現れず、ひっそり危区の何処かに住まうという。仙人のようなものだ。
導が選ばれると自然導がいるところに邑(ソン)が出来る。邑が出来、大きくなれば都、もっと大きくなれば国(コク)となる。これは導が人を引きつける力があり、それに人は集まってくるということだ。ただし国までは出来ない。人はあまりに少なく、無力だ。せいぜい都までにしかならない。
話を戻す。璋は悟に会いに行くため、白海を渡っている。
慮は悟には選ばれない。学に励み、大学を出、慮になる。慮を志すものは多いが、その5分の4は大学の時点で脱落する。
そして慮は様々な分野で活躍することになる。が、璋はそれを中断し、悟に会い勉強することにしたのだ。
すべては疑問に思った所から始まる。
璋は樹を研究していた。わずか一握りの樹を増やすには、育てるにはどうすればよいのか。小さな苗木は1メートルも育たない内に枯れる。
枯れるわけが分からない。また、他の成樹も大人の倍ほどの背丈しか無かった。
どうしても育たない。
樹を育てる研究は一番慮が悩む種だ。樹は酸素を作り、二酸化炭素を吸収する重要な役目を持つ。欠かせないものだ。
悟ならば、良い知恵を貸してくれる。璋はそうして出た。そして今に至る、ということだ。
3日目。
白海を3日も歩き続けている。
共にゆくものはなく、地図に備え付けられているガイド音声を頼りに歩き続けた。砂海にはいくつかオアシスという名の沸き水場があり、そこに住まいを構えているはずだ。
勿論、邑や都にもオアシスがある。水があるところに邑や都を作るのは当たり前だ。水は大切な物で、オアシスだけでは賄いきれないものは水を人口機械で作る。オアシスだけで成立している邑、都は無いと言っていいだろう。
どこまでも続く白い砂は太陽に反射して眩しい。
滲む汗を手の甲で拭い、辺りを見渡した。ごつごつとした岩陰を見つけるとそこにふらりと歩み寄る。もたれるようにして座り込むとザックに詰め込んだ水を取りだし一口だけ飲んだ。
少年は疲れ切っている。
はあぁ、と深い溜息を吐き、腰に下げられている剣をなどる。剣は身を守るものであり、また何度も魔獣を斬った。刃渡り80cmほどの短剣にしては長いものだ。短剣というより長剣に近い。持つ手の所には握りやすいよう赤布が幾重にも巻いてある。装飾は無いため、酷く地味だがよく切れ、使える。
服に散った血や、汚れが酷く目立つ。
無事に無難に砂海をわたれるとは思っていないので眼を瞑る。
食料はたっぷりと詰め込んだ。水は多めに持ってきた。そのせいで酷く重いが、それも眼を瞑る。まだ、3日目なのだ。換算してもあと5日は持ちこたえられる。水もオアシスを見つけ、そこで補給すればいい。簡単にいくとは思っていないが、自身があった。
自身がない、といえば。
(悟を見つけられるか、ということ・・・)
段々弱気になっていく。白海にいることは確かだが、どこにいるかは分からない。始めはすぐに見つかると高を括っていたがどうもそうではないらしい。
酷く疲労が感じ、本当に瞳を閉じた。しんどい、疲れた。剣をすぐ抜けるように抱えて、それをまた抱えるように足を抱える。ザックも背負ったままだ。ただ今は、少しでも休みたかった。
例え砂海真ん中と言えど。
例え魔獣に襲われるとしても。
慮と言えど少年。
璋は深い眠りに落ちていった。
*
2003/08/11(Mon)11:07:30 公開 /
圭太郎
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