『恋愛漂流記 scene.1』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:佐古田璃雅
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キラキラと輝く目に痛い神々しい光。
あまりの眩しさに目を細め掌でそれを遮った。
眩しさの後には心地好い風が肌を撫で髪を揺らす。
「まったく…今日も………」
いい天気だ、と。
表情を歪め言葉にする事無く呟いた。
〜scene.1 終焉のバラード〜
ふとした瞬間に気づく目には見えない距離。
それは様々なところに表れ嫌というほど気付かされた。
例えば登校時。
一つ目のT字路にはいつも音が立っていた。
椎はその姿を見つけ傍へと駆け寄る。
足音に顔を上げ椎に気付くなり音はいつも怒った振りをしてみせた。
「もー、遅いよ、椎。置いてこうかと思った」
「悪ぃ、ちょっと寝坊……」
「…ちょっと……?」
「いや、その…かなり」
椎が遅れる日には大抵理由があって。
それを知っていながらなかなか現れない姿に音はいつだって心配させられた。
椎が独り暮らしのせいもあるだろう、何かあったのだろうか、とそんな考えばかりが意識を掠める。
時計を見て、椎の姿を探す。
待ち合わせの時刻が過ぎても、後1分、もう1分待てば…、と時計の針が動くのを見つめて。
音には椎を置いていく事が出来ないのだ。
たとえ自分も遅刻になるであろう時刻になっても、その場から動けない。
そんな音の性格を知っていたから椎は待たせたくはなかったのだ。
明日はこういう理由で遅れるから先に行って欲しい、と伝えなかったわけじゃない。
音が
「いいよ、待ってる」
さも当然だというようにそう答えるから、断れなかったのだ。
それに甘えついつい寝坊してしまう日があるのも事実だったが音は椎を見放さない、それこそ絶対に。
遅れるな、と言うくせに椎が音よりも先に来ていた日などはそれこそ信じられないものを見たというように驚くのだから、失礼な奴だ、とも思う。
「ホント、ごめん」
「寝坊の日はいい加減置いていくからね」
「悪かったって。つーか音、もー少し遅く家出て…」
「椎が早く出なよ、もぅ」
頬を掻きながら決まり悪そうにする椎に音が歩き出す。
タイミングは二人同時、自然と呼吸が合っていた。
分かるのだ、次に相手がどうするのか。
声にしなくても。
瞳を見れば。
表情が。
空気が。
全てを伝えてくれる。
正しくは、伝えてくれた。
お互いがお互いに踏み込む事を赦していた。
隣にいる者は他の誰でもなかった。
昔から続いていた関係。
そしてこれからも続く筈だった。
それこそ、未来永劫に。
幼馴染というには物足りず、親友と呼ぶにも近すぎた距離。
周囲から見れば、二人は誰もが認める恋人だっただろう。
本人達がそうと気付かぬだけで抱く想いはそれに違いなかったのだから。
ふとした瞬間に気付く目には見えない距離。
それは様々なところに現れ、嫌というほど気付かされた。
例えば登校時。
無意識に探している姿に気付き椎は自嘲気味に笑った。
音は自分を待ってはいない。
当然だった。
先に手を放したのは椎だ。
待っていなくていいと告げた。
お前には紅色がいるんだろう、と。
もう自分の場所はそこにはないのだから。
紅色に、あげてしまったのだろう、と。
確かめようともせずに手放した。
いつ思い出しても苦い感情に捕われる。
いや、思い出す、と言うのは間違った表現になるのかもしれない。
いつだって椎が記憶している「音」はその瞬間の表情を浮かべている。
会えば笑って話すのに、記憶の中の音は困惑したように、どこか哀しげな表情を浮かべている。
事実、音には意味が分からなかった。
ただチリチリと痛む胸に途惑っていた。
そして音もやや遅れて気付く―――あぁ、そうだったのか、と。
待っていなくてもいい理由。
それはあまりに簡単すぎた…簡単に思えた、少なくとも音には。
椎の隣には自然と水面が並ぶようになっていた。
自分はもう必要とされていないのだ。
そう気付き覚える一抹の寂しさ。
幼馴染だけとは言えない、親友とも呼べない関係。
それが、こんなにも脆い物だったのだ、とようやく気付く。
遅すぎた自覚。
始まりさえなかった。
椎は音の隣に誰もいないのだと言う事に気付けない。
音も、また同様に。
椎が手を離したその瞬間にもう終わってしまっていたのだ。
あるいは、音が手を伸ばさなかった瞬間に。
二人は終わりを告げた。
それは余りにも呆気なく…椎が、音が、自らの手で招いた結果。
その手は、始まりを招けぬ手であったというのに。
「……椎くん?どうかしましたか?」
椎を呼ぶ声。
それは、音のものではない。
「いや…何でもねぇよ」
椎は苦笑してみせ、小さく首を振る。
失くしてしまった。
空っぽに、独りになってしまった。
もう戻れない…いつだって、戻りたいと望むのに。
手を伸ばせなかった。
壊したくないからだ。
これ以上の距離にはきっと………耐えられないと知っている。
あと少し早く気付いていれば。
誰かの存在に気付かされるのではなく、自ら気づけていたのなら。
そうすれば、きっと、あるいは、始まりを招ける自分たちでいられただろうに。
誰よりも近くに―――そう想う気持ちは、確かに恋だったのに。
風が初々しい緑を撫でていく。
木々が揺れ、その枝が、葉が、奏ではじめる。
それは
もう、戻れぬ二人にだけ届く
終焉のバラード
2003/07/18(Fri)23:42:17 公開 /
佐古田璃雅
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■作者からのメッセージ
恋愛漂流記は4人の少年達を中心とした近未来物です。
それぞれの想いを形に…様々な心を書いていきたいと思っています。
過去篇、プロローグに始まり本編第一話(この作品です)まで公開中です。
どんな形でも良いので、感想を聞かせていただければ幸いです。
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