オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『ボンベイ・サファイア・ブルー その1〜その4』 作者:裏山 咲 / リアル・現代 未分類
全角22384.5文字
容量44769 bytes
原稿用紙約64.15枚
 その一


 また選択を誤った。僕は芸術的なほどに選択を誤りながら生きている。しかもそれらは、小学生でも間違えないようなわかりきった選択ばかりなのだ。僕はあえて間違った選択をしている。あえて選択を間違えることは実はノーリスクである。正しいと信じてする選択こそ、いくばくかのリスクを含有しているのだ。それは新宿駅西口の前にたたずんでいる易者に、冷やかしで占いをしてもらうのに似ている。占いの代金さえ払う覚悟があれば、失うものは何も無い。
 一九九四年、中学一年生のある時期、僕はこのことを発見してひどく驚いた。まるでそれが世の中のすべての秘密を解き明かすカギであるかのようにさえ思えた。


 僕におけるバランスに対する比重が大きくなり、僕はバランスが取れなくなっていた。僕は逆立ちしながら玉乗りするピエロを思い浮かべた。しかし僕はピエロになるわけにはいかない。


 池袋の東口を出てすぐにあるコーヒーショップの二階でヘッセの「車輪の下で」を読んでいた。「車輪の下」というタイトルで知っている人も多いかもしれない。僕の部屋の小さな鶯色の本棚には、それぞれ別の訳者が書いた「車輪の下(で)」が三冊ある。それでもどの作品でも、ハンスは頭痛もちの華奢な少年だし、風景描写はいつも頭が痛くなるほど美しいし、いつも彼は比喩的な意味で車輪の下敷きになってしまう。僕は携帯を見る。高木との待ち合わせまでにはまだあと二十分ほどあった。
 二月、外はもう暗くなってしまっていて、駅前を歩く人々はみな乾いた色のコートを着て、小さな歩幅で歩いている。一回くらい本当に車輪の下敷きになってしまいでもすれば、すこしはましな結果になったんじゃないか。
 17:52……デジタル表記の時計は僕に世話好きのおばさんを思わせる。彼女は僕が知りたいこととは少しずれたことを、いつも正確に教えてくれる。本を閉じ、駅に向かう。待ち合わせ場所にはすでに高木がいた。駅から少し離れた小さなゲームセンターの隣のバーに入る。
 バーは木曜にもかかわらず客で賑わっており、大学生のようなグループが大声で何か言いあったり、まっすぐな長い髪の日本人の女と、すっきりとした顎のラインが特徴的なイギリス人の男カップルが英語でしゃべったりしていた。僕はカウンターでビーフィータのロックを、高木はウイスキー・ソーダを注文して、煙草を喫える席を探して座った。
「三年、たったんだろう?」高木には先月で付き合って三年になる彼女がいた。僕も高木もその彼女も、大学時代に同じサークルでアコースティックギターを弾いていた。
「そうだね、まぁもうそこまで特別な感慨ってモンもないよ」彼はグラスを回しながら答える。
「呼びだしたのは彼女とのことじゃなかったのか? とつぜん飲もうだなんて」
「いや、そのことだよ」それだけ言って、ウイスキー・ソーダをひとくち飲み、ポケットからハイライトを取り出し、火をつけた。
 しばらく、どちらも何も喋らなかった。できるものならすぐに店を出て、もう何度も読んでしまった「車輪の下で」の続きを読みたかった。
「彼女に不満でもあるのか?」僕はもう一つの灰皿を手前に置いて訊いた。ミシェルブランチの「エヴリウェア」が流れていた。
「逆だよ、俺は愛なんてものを信じていないし、いまさら俺の親が俺にしたことを言うつもりもないが、俺には人を愛するのに必要な感情が与えられなかったとも思う。しかし、もし俺の人生で誰か一人、人を愛すことが許され、それを信じることができる可能性があるとすれば、それはあいつだけだと思う」
 こんなに早い段階で「愛」なんて言葉が出てくるんじゃあ、小説にしたってろくでもないな。しかし僕のそんな非難は受け入れられないようだ。すでに、いつも来ているバーはうるさい客で賑わっていたり、流れてくるのはミシェルブランチだったりしているのだ。
 とはいえ、小説にすることさえ考えなければ、僕はなんだかんだ言ってこの状況を楽しんでいたと言っていい。もちろんこの後高木の話がめんどうな方向に向かうであろうことは、僕にだって予測はついている。僕はそういうトラブルに好んで近づいていく傾向がある。そしてこの傾向は自暴自棄の一つの形態からくるものだと、僕は勝手に結論付けている。いつのまにか、マルボロがフィルター近くまで燃えている。灰皿に垂直に立てるように煙草を押しつけ、端に吸殻を置く。


 高木と出会った日のことを思い出していた。それは雨にぬれた桜が灰色の空に音も立てず混じり合う……四月。僕は十八だった、高木は一年間の浪人生活を経て十九だった。駅から大学までの道を、きれいな頭にたっぷりの脳細胞を詰め込んだ新入生たちが、歩き方一つ覚えたてのような弾む足取りで歩いていく。彼らはまだ寒さの残る春の、昨晩の雨の水分さえ淀まずきらきらと通り抜けるすがすがしい空気を、胸一杯に吸い込んでは吐き出し、歩いていた。
 僕はといえば彼らの吐き出した空気を胸一杯に吸い込み、その空気をたっぷり含んだ脳は「この道から逸れてくれ」と僕に合図をだした。
 コンビニの角を曲がると、途端に人は少なくなった。二年ぶりに煙草が喫いたいと思った。しばらく辛抱強く歩くと、どう好意的に見ても今日向きとはいえない喫茶店があった。それはどこの町にもあるような床屋と、どこの町にもありそうな小さな灰色のアパートに挟まれ、飴色のガラスの中をちゃんとのぞいてみないことには、営業中なのかどうかも分からなかった。
 しかし僕はもう歩き方一つ思い出せないくらい脳からの合図を受けていたので、大学生のいなそうなその喫茶店――とはいえ大学の最寄駅にあって大学生が行かない店などはない、強いていうなら新入生のいなそうな、だが――にすんなりと入ることができた。
 そこに高木がいたのだ。
 店には大学生どころか、一人の客もいなかった。もちろん、高木を除いて。寒いところと暖かいところを何度か行き来したカカオ七二%チョコレートのような色のドアを開けると、チリチリとドアにくくり付けられた鈴がきまり悪そうに音を立てた。鈴は静かな店内にそれなりに大きく響いたが、それでも店員はすぐにはやってこなかった。
 しばらくしてやけに背の低い中年の女性店員に案内され、高木と通路をはさんでななめの位置にある四人席に座った。高木は黒に近いジーンズに、丁寧にアイロン掛けされた薄い緑色のストライプのワイシャツという格好でコーヒーをすすっていた。灰皿からは甘い香りのする茶色い煙草の煙がたちのぼっていた。ふと目が合う。
「S大の新入生ですね?」先に声をかけたのは高木の方だった。
「そうですけど……」僕は言葉を濁した。少し間が空いて、高木は何かに気がついたように付け足した。
「新入生はみんなこの袋を持ってる」そういって彼は今日大学で配られた講義要項の入った、派遣会社のロゴが印字された手提げ袋を右手で持ち上げ、僕に見せた。僕はふと手元を見る。同じ袋を僕も持っている。
「なるほど。それ、ブラックストーンですね?」僕は彼の煙草を見て言った。僕はころころ煙草を変えるので、高木の煙草も喫ったことがあった。
「匂いが嫌ですか?」
「いいえ、僕もたまに喫うくらいです」
 そうして僕らは知り合った。それは多くの大学一年生の二人組みがそうなるのと全く同じようでいて、全く違うものだった。少なくとも二人はそう信じなければいけないと思っていた。アイデンティティが云々だとか、自意識がどうだとかの問題ではなく、と二人とも思っていたのだ。そしてその認識は、ある一面から言えば正しく、ある一面から言えば間違っていた。


「ところでお前の方はどうなんだ? なにか仕事はしているのか?」
「それは本当に仕事のことを尋ねているのかな?」僕はとっさにそう言った。高木は一度背筋を軽く伸ばし、懐かしそうに笑ってからまた元の姿勢に戻った。
「よせよ、もう大学生じゃないんだぜ。そんなところでわざわざ回りくどい言い方はしないよ」
「そりゃそうだ」そりゃそうだ。僕は大学にいた頃から大して進歩もしていなければ、考え方のスタンスも変わってはいない。いわゆる世間で言う進歩は僕にとって進歩ではない。そして僕の周りの世間は、僕に進歩を求めない。だから僕にはいわゆる世間で言う進歩をするシステムそのものがないのだ。しかし今、僕がそう答えたのには別の理由がある。
「あいかわらずだな。女の一人でもできたか?」高木は本当にあきれたように言う。どうやらうまくごまかせたようだ。
「それは本当に女の……よそう、面白くないね。まあはっきりいって全然だよ。もともと僕の交友関係が狭いのは知ってるだろう?」
「『全然』という言葉は肯定にも否定にも使えるけど?」……今度は僕が笑う番だった。
「さすがだね」僕はマルボロの箱を開け、中身を確かめながら言った。五本あった。「複雑なんだよ」結局僕はこう答えることになった。
 僕は小説を書いている、といっても仕事になど到底なっていない。大学を卒業して二年間特に就職しようともせずにバイトしていたことしか高木は知らない。その後高校時代の友人のつてでコンサルティングの事務所の雑務をさせてもらうことになった。小説はその傍らの趣味のようなものだ。そして、小説を書いていることについても、高木はもちろん何も知らない。
「ユウと結婚するつもりなのか?」僕は尋ねてみた。高木の手にもった煙草の灰が随分長くなっている。
「そうだね」高木は言った。「そうだね」僕も心の中で繰り返してみた。何とも変な響きの言葉だったが、だからといってこちらから何をどう尋ねていいものかもわからず、僕は黙っていた。
 いつのまにか大学生のグループは去り、店内の音楽はオアシスのリトル・バイ・リトルになっていた。やれやれ。どうしてこう気の利かない曲ばかりなんだ? と僕は思った。しかししばらくしてここがブリティッシュバーであることを思い出した。ウェイターにボンベイ・サファイアでジンライムを作ってくれ、と言った。ジンが好きなのだ。高木に「何か飲むか?」とたずねたが、いらない、と答えた。僕は次の高木の質問に身構えた。彼が酒を断った次の質問には大きな意味があることが多いのだ。もっとも、僕の使い古しの思考システムに記録された、あてにならない大学時代の彼の傾向だ。
 …………。
「最近ユウと話したか?」
 なんでそんなこと聞くんだ? と僕は思った。そんなことユウに聞けばいい話じゃないのか?
 いくら考えても分からなかった。「なんでそんなこと聞く?」と僕は言った。そんなこと言うべきではなかったと思った。僕は大学を卒業してからというもの、ほとんどユウと話していない。メールもしてない。それでよかったんじゃないか。僕は的外れなことを言いすぎる。あてにならないはずの傾向があてになったところまでは良かったが、身構えたことがアダとなった。サッカーのペナルティキックで、蹴る方向は分かったけど、先に飛んでしまって得点されるキーパーの気分だった。
 高木は黙っていた。高木にも、なんで自分がそんなことを聞いたのかは分からないようだった。
 高木は僕の背後にあるダーツコーナーのボードを見ているようだった。もちろん本当に見ていたのかは分からない。もっと遠くを見ていたのかもしれない。どこかのトリプルに入る「タタタン」という音が聞こえたが、声は聞こえない。もしかしたら、高木がダーツボードに思念の塊でも投げつけ、それが九のトリプルにでも入ったのかもしれなかった。僕は煙草を取り出した。残りは三本になった。……三本? ん、もう一本はいつ喫ったんだ?
 僕は何気なく後ろを振り返った。一人のスーツの男がダーツボードに向きあっていた。そりゃそうだ。思念の塊でダーツをするなんて話は聞いたことがない。
「悪かった」高木は言った。「こういうことを言うつもりはなかったんだ」
「僕もだ。ユウとはあれ以来ほとんど喋っていないよ」
 回り道だ。エッシャーの騙し絵のようにどんどん悪い方に落ちていってしまうような気がした。背景もグラデーションでどんどん暗くなる。エッシャー特有の黒み。
「ユウに会って欲しいんだ」と彼は言った。そんなことだろうと思った。あまり気が進まなかったが、それなら高木と出会った日のことを回想する前にでも帰ってしまえばよかったんだ。
「何か聞いてみて欲しいことでもあるのか?」
「いや、今日俺とお前が話したように喋ってみてくれればいいんだ」
「わかったよ。近いうち僕の方から誘ってみる」
 僕は半分ほど残ったジンライムのグラスを二回ほど回し、一息に飲んだ。


 店を出て黙って駅まで歩く。池袋駅東口のコーヒーショップ。僕らの大学時代。
「どうやら俺たちは回りくどい言い方をしなくなったかわりに話す内容をなくしてしまったみたいだな」
「もともと話す内容なんてなかったって言ってるのとあんまり変わらないように聞こえるな。でもまぁそのとおりだから仕方ないね」
「うん、仕方ない。大学生じゃないんだ」彼が大学生じゃない、と繰り返すのが、はたして僕に対する皮肉なのか、それとも高木自身に対する皮肉なのか、僕には分からなかった。きっと僕ら二人まとめて皮肉られているのだろう。そこにユウは入っているのだろうか?


 僕らが大学時代に作り上げ、守っていこうとしていたあの小さな世界には、いったいどんな意味があったのだろう。少なくとも僕らはその世界を、何よりも大切だと思っていた時期があったはずだった。どうしてその気持ちは失われてしまったのだろう。
 新しく小説を書くべき時が来たのだと思った。僕らが失った何かを再び蘇らせることができるかは分からない、きっとそんなことはできないのだろう。小説というもののサブスタンスは復元にはないのだから。だけど僕らにかつて失った何かがあったのだということ、それを残すことくらいはできるかもしれない。それによって確実に過去になってしまうものもあるだろうし、さらに僕らは何かを失うことになるのかもしれない。
 それでも僕は書く。黙っていたら確実に失われてしまうものにほんの少しの可能性を与える。それが小説の持つ大きな意味なのだ。


 その二


 二週間ほどすると僕はすっかり高木やユウの出てこない現実世界に戻っていた。もちろん彼らだって現実世界の人間なのだから、こういう言い方は正しくないのだろう。でも僕にはそう感じられる。現実は「現実的な現実」と「非現実的な現実」の絶妙なバランスによって成り立っているのだ。
 晴れの日は自転車で最寄駅まで行き、雨の日はバス。現実的な北千住駅から現実的な地下鉄千代田線。ありがたいことに事務所はそこそこ忙しく、非現実の入り込む隙間はなかった。


 三月最初の金曜日、成人式に祖母から買ってもらったビサルノのコートで、冷凍庫の中身と取り違えたような冷たい風をしのぎ、自転車で家に帰る。いつも通りカバンを仕事用の机の上に置き、コートとスーツをハンガーにかける。明るいブラウンの長財布と黒い腕時計はどちらもハッシュパピーのものだ。それらを電話の横に置き、熱めのお湯で手と顔を洗う。僕はスーパーで買ったギルビージンをグラスに指三本ぶん注ぎ、ライムを軽く絞ってジンロックを作った。ボンベイ・サファイアは地元のスーパーには売っていない、別に飲みやすくもない。非現実的なのだ。「非現実的なジン」僕はひとりごとを言った。
 ふとアラブの方にそんな名前の精霊がいたような気がした。精霊が「いた」ような気がしてしまったことで、僕の頭は少し混乱した。精霊なんていう非現実的なものを「いる」とか「いない」とか……? ……僕は気を取り直して現実的な方のジンを指二本分ほど注ぎ足し、大きめの氷を探して一つ入れた。そしてそいつを左手で持ち上げて、目の高さで横からしばらく眺めた。気分はいくらかおさまったようだ。
 この調子で仕事のことを考えてみよう。鶯色の本棚から『証券外務員必携』を一冊取り出し、パラパラとめくった。金融商品を扱う僕にとって、『証券外務員必携』はいわば、法律家にとっての『六法全書』である。熱狂的野球ファンにとっての『プロ野球選手名鑑』であり、ヘビースモーカーにとってのジッポオイルである。読書家にとってのしおりであり……ともかく僕はそれをパラパラとめくった。
 今の仕事には大学時代に取った証券外務員の資格が活きているわけだ。と僕は思う。大学時代……僕の大学時代のささやかな現実的現実がここに繋がっているのだ。そして仕事というのは僕の中の現実的なファクターを担っている。……なんだ当たり前のことじゃないか、誰だってそうだ。
 僕は部屋の南にあるヴェランダに出てブラックストーンのバニラフレーバーに火を点ける。口の中にバニラの香りが広がる。外はひどく寒い。まるで数日間太陽が出ていなかったみたいだ。僕は太陽のことを頭から離して、グラスを傾けた。五階建てアパートの四階にある僕の部屋のヴェランダから川が見える。夜の川は、普段のそれ自体の役割を離れ、夜の闇を絶え間なくどこかへ運んでいた。僕はそんな黒い川をずっと眺めていた。長い煙草を一本ゆっくり喫ってしまうと、寒さはもうそれほど感じられなくなっていた。


 部屋に戻り、小説のことを考えると、僕の頭は痛んだ。そもそも僕が小説を書く時、僕は頭の中に「小説を書く」という意識をフィールドのように平たく敷き詰め、その状態で日常生活を送る。そしてそのフィールドにしっくりと収まるものがいくつか集まった時(まるでモデルルームに置かれたシンプルなデザインの家具達のように)、それらの本質のみを残しぐちゃぐちゃに混ぜ合わせてしまう。それはウォッカ・ブルーキュラソー・レモンジュースをシェイクしてブルーラグーンを作るようでもあり、蕎麦粉と小麦粉に水を加えてこねるようでもある。時には一家四人の洗濯物をいっぺんに洗濯機に放り込み、スイッチを入れた時のようであったりもする。そうして生まれてくるものは、ほとんど完全なフィクションに近い「事実に基づいたフィクション」なのだ。
 ところが、今僕は「書かなければならない」という意識に揺り動かされている。こうしている間にも薄れていってしまう「何か」が、僕の中に存在していることを、僕はしっかりと感じ取ることができる。そういった感覚で書くことが正しいのかどうか、僕には判断することができない。そしてそれが正しいのかどうかを判断する必要があるのかさえ、僕には判断することができない。僕には判断することができない。僕には判断することができない……。
 程なくして、暖かい波が足元の砂を持ち去るような眠りがやってきた。


 僕は身体中の痛みとともに目を覚ます。僕は一人で使うには少し大きいなといった程度のサイズのソファにもたれて眠りこんでしまっていたのだ。お酒を飲んで眠った時特有の、時間に対する感覚の鈍りを感じる。テーブルの上にはもうすっかり薄まってしまった現実の残滓。僕は時計を見る。五時五十三分……。夕方? どうやらそれは考えても分からない部類の問題のようだった。僕はまだ痛む身体とぼんやりした頭を抱え、台所に向かう。
 大きなグラスに氷をいくつか入れ、トニックウォーターを注ぐ。そしてふた口で飲み干した。頭がズキズキと痛んだ。
 ――何かが僕を呼んでいる――
 外だ。僕は台所からバルコニーに出る。太陽がまぶしい。太陽はどこか別の惑星から見る別の恒星のように真っ赤に光っていた。川までが赤く染まる、この世の果てのような光景だ。いや、そんな非現実的な発想は捨てるんだ。そうだ、東向きのバルコニーに太陽が出ているんだから僕は朝焼けを見ているはずだ。僕は今が朝であることを知った。
 しかし今が朝であることがわかることは大した慰めにはならなかった。――イルカがそこにいるのだ。イルカはこちらを向いて僕を見つめているように見える。イルカは遠くの空、といってもこの部屋の高さと大して変わらないあたりに浮かんでいた。ずいぶん遠くにいるが、僕にははっきりとそれがイルカであることが分かる。滑らかな身体は美しいコバルトブルーの光沢をたたえ、それは明け方の空の赤、空の青と見事に調和していた。
 しばらくの間、僕とイルカは向きあっていた。僕は全くイルカから目を離すことができなかった。イルカから目をそらすという行為が、ひどく非現実的な選択肢のように思われた。なぜだかは分からない。また、イルカの方もずっとこちらを見ているようだった。この距離では彼の視線までは読み取れないが、やはりイルカも僕を見つめているのだろう。こういう状況で、実はイルカは一つ下の階の高橋さんを見ていました。なんてのはどう考えてもナンセンスだ。


  『あれはとほいい処(ところ)にあるのだけれど
  おれは此処(ここ)で待つてゐなくてはならない
  此処は空気もかすかで蒼く
  葱(ねぎ)の根のやうに仄(ほの)かに淡い』


 イルカは言った。いや、言っていない。こんなところまで声が届くわけがないのだ。それはどちらかといえば思念の塊を投げつけられているのに近い感覚だった。
 思念の塊でダーツをするなんてことはありえないのだけれど、こうして僕は現実に、イルカから思念の塊を投げつけられているのだ。
 しかし僕がびっくりしたのは、イルカの思念の内容である。中原中也の『在りし日の歌』という詩集の詩の一部。詩のタイトルは……思い出せない。なぜイルカが中原中也を引用するのだ? 海にいると錯覚させるような、硬く冷たい風が吹き、一瞬潮の香りがする。と同時に、僕のまぶたは水風船のようにずっしりとした重みを持つ。僕は目を閉じる。……数秒後(僕には数分にも数十分にも感じられたが、きっと数秒だろう)目を開けると、もうイルカの姿はなかった。
 イルカが突然現れてからすっかり消えてしまうまで、ほとんど時間はたっていないのだろう。その証拠に空の色も太陽の位置も、先ほどとほとんど変わっていない。僕はしばらくイルカのいなくなってしまったその景色をぼんやりと眺め続けていた。宿命のように赤い太陽は、蒼く分厚い雲にその本体を隠し、存在の赤だけをその周囲に散らしている。


 潮の香りがする――。
 ふいに、絵が、僕の見ている景色と重なる。有無を言わせず、重なる。――『サファイア・ナイト』だ。もちろんそこには海も、ヤシの木もない。だけど、世界の隙間に忘れられてしまったような時間の、違う場所から切り取ってきてしまったような空が、おそらく僕の一部であろうイルカや、潮の香りを呑み込んでしまった時、その景色は僕の中で、あるいは外で、劇的に変わってしまった。眠気も、寒さも感じなかった。その瞬間僕は爪の先まで視覚になってしまっていた。普段理不尽な力に押しつぶされ、暗いところに隠され、脆さゆえに虐げられているあまねき綺麗なものたちが、僕の前でだけ手違いで解放されてしまったみたいだった。
 そうして、僕の書くべき小説のタイトルが決まった。


 目がさめると僕はその日の朝に起こったことを不思議なほどすんなりと受け入れていた。それは紛れもなく実際に起こったことだという根拠のない確信が僕にはあったわけだけれど、内容のありえなさとパラレルに距離を保ち、僕の記憶にすっかり落ち着いてとどまっていた。あるいはそれは僕がギター弾き語りをすることによってシステムとして確立された賜物なのかもしれなかったが、もちろんそんなことは確かめようのないことだった。
 二週間ぶりくらいに土日がやってきたような気分だったが、とにかくギリギリでも午前中に起きられたことはいい傾向だ。ハンガーにかかっているスーツのポケットからラークの箱を取り出し、一本ゆっくりと喫った。締め切った部屋の中で脳味噌のしわのように立ち昇る煙は、何か考えごとをしようとしているうちに薄くなり、消えてしまう霊のようだった。それから十五分程でシャワーを浴び、申し訳程度に生えている髭を剃った。
 中原中也の詩集……。最後に読んだのは高校の時だっただろうか。本棚の上三段を文庫が占めているが、中原中也の詩集はなかった。ここで一人暮らしを始める時に実家に置いてきてしまったのだろう。とりあえず古本屋にでも行って買ってこよう。タイトルこそ決まったとはいえ、まだ僕はほとんど何も持っていないといってもいい。店は構えたがリキュールをまだ仕入れていないバーのようなものだ。薄暗い間接照明の中、アイスピックで氷をつついているだけでは話は先に進まない。そして、今僕にできるのは、今朝イルカに投げつけられた思念を手にとってみることだけなのだ。
 僕はリキュールだとかアイスピックだとかを頭から離し、遅めの朝食をとることにした。トーストをオーブンに入れ、目玉焼きを焼いた。冷蔵庫の卵をよくよくにらんでみると、十個パックのうちあと八個も残っているにもかかわらず、賞味期限が二日後であることに気付いた。まったく、一人で暮らしていて三日間でこんなに卵が使えるわけがないじゃないか。
 とりあえず三つをゆでたまごにしてタッパーに詰め、冷蔵庫に放り込んだ。夕飯でサラダにでも使えばいい。塩をかけておやつにしたっていい。コレステロールが云々というには僕は昔から煙草を吸いすぎていたし、酒だって飲みすぎていた。
 僕は気を取り直して自転車で駅前の古本屋に向かう。外は昨日を否定するかのように暖かく、前ボタンを外された春用の薄いジャケットは、心地よさそうにパタパタと柔らかな風になびいている。今朝あれほど別の星のように見えた太陽も、春らしくのびのびと高くを泳いで、「今朝のあれは手違いなんだ、まぁ忘れてくれよな」とでも言いたそうに見える。やっぱりいい傾向なんじゃないか。


 駅前の通りに面したその古本屋は、倉庫を改装してあるらしく、中は天井が奇妙に高い。柱らしい柱がないため、やけに広々としている。文庫のコーナーは、出版社に関係なく、筆者の名前順で本が並べられている。僕は「な行」のところから彼の詩集を一冊抜き取り、外国作家の棚からトルストイの薄い本を抜き取った。五〇〇円。こうやって僕は古本屋でいつも買いすぎてしまう。すでに部屋の本棚に収まらなくなってしまった本たちが、読み終わったり読み終わらなかったりしたまま、本棚の上、ソファの横と侵攻してきてしまっているのに。
 そのまま店に自転車を置き、駅まで歩く。最寄駅のスターバックス・コーヒーはたいてい空いている。外はなかなか暖かいのに店内は暖房が効いていたので、ホット・ラテを作り始めたバイトの女の子に「やっぱりアイスにしてもらえますか?」と言って、彼女を慌てさせることになった。
 コーヒーを待つ間、僕はコーヒーを淹れてくれている女の子の所作を見るともなく見ていた。髪は真っ黒で長く、後で一つに束ねられていた。背は女の子にしては高い方で、一六五センチに少し届かない位だろう。いかにも「普段は都内の大学に通っていて、休日は地元のスタバでバイトしているんです」といった感じだった。化粧はいたってナチュラルだ。男ウケを考えているのか単にバイトだからなのかは分からないが、顔立ちがなかなか整っていたのでとてもなじんでいるように見えた。黒髪だからか、全体としてはどことなくアルカイックな趣がある。コーヒーを淹れるバイトじゃなく、一緒に飲んであげるバイトでも始めればとてもいい評判が立ちそうな感じだった。
 そんなろくでもないことを考えていると、彼女はコーヒーを淹れ終え、こちらに営業的な笑みを向ける。
「アイスのスターバックスラテ、トールサイズでお待ちのお客様」そりゃいくらありきたりなメニューを注文していたって、僕しか待っていないんだから僕に決まっている。
「ごゆっくりどうぞ」
「どうも」僕は右手でそれを受け取る。柔らかいソファの席が空いているのでそこで読むことにしよう。二人席だけれど、これだけ席が空いていれば問題ないだろう。
「お客様」女の子の声が少しイレギュラーな響き方をする。
「はい?」
「申し訳ありませんが店内は全席禁煙となっております。お煙草をお吸いでしたら外のテラス席をご利用下さい」……スターバックスが禁煙なのは知っているけど、どうしてそんなことわざわざ言われなきゃいけないんだ? しかし彼女の視線の先――僕の左手――にはしっかりとブラックストーンの箱が握られていた。おかげで、
「あぁ、すみません。喫いませんから、すみません。無意識って、恐いですよね」と、訳のわからない呪文のようなことを唱えることになった。
「いえいえ、ごゆっくりどうぞ」今度は少しプライベートな笑みを浮かべて言う。この笑顔の使い分けが、なかなか難しいものなんだけどな、と思う。
 ともあれ、と僕は思う。ソファに座ってトルストイの『光あるうち光の中を歩め』をパラパラとめくってみる。
 薄い本なのだが、ずいぶんと書き口に偏執的なところがあって、すぐに読み疲れてしまう。そのうえ接客をしているさっきの女の子の声が気になり、読書に入り込むことができない。そもそも、僕は一刻も早く中也の詩集を読まなくてはいけないのだ。衝動買いしてしまったトルストイを先に読んでいて集中できるはずがない。とりあえずあとがきを読んでみる。やはりトルストイ晩年の作であるらしい、そのことは内容からもうなずける。
 僕はラテを一口飲み、本を閉じてあたりを見渡してみた。相変わらず席はあまり埋まっていない。二つ隣の席では、高校の土曜授業の帰りなのだろう、制服のままの女子生徒二人が、コーヒーを飲みながら声をひそめて話している。一方は健康的に日焼けして、髪の毛はカフェモカのようなきれいなブラウンに染められていた。目は切れ長で少し垂れ気味だ。その姿は僕にとあるプロテニスプレイヤーを思い出させた。もう片方はいかにもおっとりした様子で、ほっそりとした真っ白な肌に真っ黒な髪が映え、長い髪はのびのびとクロールでもするように、小さな肩に落ちかかっていた。
 そんな対照的な二人にどんな共通の会話があるのかは僕の理解の範疇を超えていた。だいたい僕には二人が対照的かどうかにかかわらず、女子高生の会話がどんなものかも全くわからないのだ。女の子の会話だってあやしいものだ。人間の会話だって……。僕にはわからないことがいくらでもある。それなのに僕は小説なんてものを書こうとしている。そう思うと僕は今まさに、とんでもない間違いを犯そうとしていて、誰かがそれを指摘し、めちゃめちゃに踏みにじろうと、すぐそこの角で待ち構えているように感じられる。
 僕は、他でもなく僕自身の狭さや、蒙(くら)さによって、僕の周りに音も立てず横たわっている優しい絶望を決定的に硬化し、より冷酷なものとしてしまうのではないか。それはやがて海底の冷たい岩のような重みをもち、僕はどこにも辿りつけないまま真っ暗な世界のどこかに追いやられてしまうことになるのかもしれない……。
 僕は首を振った。だめだ、いいイメージが湧かない。


「カワムラさん」
 ……それは間違いなく僕の名前だった。しかも僕を呼んだのはさっきコーヒーを淹れてくれた女の子だった。彼女はいつのまにかスターバックスの制服ではなく私服になっている。ポケットのたくさん付いたオリーブ色の分厚いジャケット。思ったよりカジュアルな格好だったが、それはそれでとても似合っている。
 ……じゃなくて、返事をするんだ。
「はい?」どうして名前を? 的な語尾上げ。
「四〇五の川村さんですよね。私、一つ下の階の高橋です」
「あ……」僕は正直びっくりしてしまった。一階にまとめて置いてあるポストで、下に「高橋」という人が住んでいることは知っていたけれど、この人だったとは。何だこの情報格差は。
「はじめまして。ご一緒していいですか?」
 僕は黙ってうなずいた。一言で言えば、僕は緊張していた。彼女は向かいのソファにきちんとひざをそろえて座り、小さなバッグをその上に載せた。
「突然ごめんなさい。でも、どうしてもお話したいことがあって」と彼女は言った。僕はどうして彼女が僕のことを知っているのか訊こうかと思ったが、訊くのは野暮なことのように感じられてやめた。


 僕らが訊ねたいことと、訊ねるべきことの間には、しばしば深い溝が横たわっている。僕はそのことを知ってからというもの、基本的に訊ねたいことがある時には、それは訊ねるべきではないことではないかと考えてみるようにしている。それは僕が短い人生でわずかにいくつか得た有効な手段の一つだった。「ものごとをできるだけ客観的に捉えるべきだ」などという迷信めいた考えなんかよりもよっぽど実際的だ。意外なことに、この僕の態度を評価してくれるのは、おもに男より女性だった。


「下の階に高橋という方が住んでいらっしゃるのは知ってましたが、あなただったんですね」
 僕は先ほどより幾分リラックスしてそう言った。
「はい。たまに上からギターの音と歌が聞こえてくるので私は初めてお話する気がしないですけど」彼女はにっこりとして言った。
 僕は少し赤くなった。おおよそ酔いに任せて弾いた拙いギターや歌を、まさかこんな女性に聞かれていたとは。僕はあのアパートの壁の薄さを呪うべきなのだろうか、それとも感謝すべきなのだろうか。氷の溶けかけたコーヒーを大きく一口飲む。
「あ、迷惑だとかで言ってるんじゃないんで、気になさらないで下さいね。私も好きですよ、『♪幸せは、今君の傍で、笑ってる? それとも泣いてる?』」
「斉藤和義……」
「そうそう。あと、『♪冗談のように、過ぎる毎日を、笑いとばしたり、こだわってみたり……』とか」
「山崎まさよし……。というか、そんなに聞こえます?」
 彼女はまたにっこりと笑う。「いえ、聞こえるのはコードとサビのちょっとしたメロディくらいですよ。今度からもうちょっと大きく弾いて下さいね。隣りの人から苦情がくるかもしれないですけど」
 何と言っていいのか分からないので、僕もとりあえず笑ってみた。あるいは謝っているように見えたかもしれない程度に。
「あの、よかったら場所をかえませんか? ここだと私の知り合いばかりだし、それにほら……禁煙ですし」といって小さく声を出して笑った。僕は彼女の喋り方と冗談のバランスにも何となく好感を持った。
「なんなら、お酒でも飲みながら話しますか?」僕は聞いてみた。向こうから話しかけてきたのに、なんだかまるで僕が口説いているみたいな気がした。まぁ、その通りなのかもしれない。
「いいですよ。私日本酒が飲みたいので、居酒屋に行きませんか? 少し前までは地元から送られてきた美味しい大吟醸酒があったんですけどね。うち、実家が石川なんですよ」
「それは惜しかったなぁ」僕は本当に惜しそうに言った。
「ところで、お話したいことって何なんですか? さわりだけでも」
「今朝のイルカの話です」彼女はなんでもなさそうに言った。
「なるほど」と僕は言った。
 今朝イルカに出会った時に僕が高橋さんを出演させてしまったのだから、高橋さんがイルカについて知っていることはもっともだ。さらに言えば、僕が彼女の話を聞くことも、責任のようなものだ。責任……もっといい表現があるのかも知れない。


 その三


 休日もしばしば出勤する高木と違い、小さなインターネット広告会社に勤めるユウは、休日をしっかりとることができる。高木の仕事が終わるまで、今日は久々に一人で出かけてみようと思った。六時半に桜木町に着けばよい、時間はたっぷりある。


 ユウが桜木町駅の喫煙スペースに着いた時、高木はもうそこで煙草を喫っていた。
「さすがに夜は寒いね」と言いながら、ユウは嬉しそうだった。
 赤レンガ倉庫は、夜になるとまだまだ寒い三月の風を正面に受け、身をしっかりと固めているようにも見える。その姿は、高木に「怒られているカツオ君」を思わせたが、もちろんそんなことは黙っていた。
「赤レンガ倉庫か。久しぶりだな」高木も感慨深そうに言った。
 二人は中のボディショップなどをひととおり周ってから、本格的なイタリアンを出すという店に入った。
 高木もユウも、ワインは好きだが銘柄のことはよくわからないので、高木は「辛口の白ワインをボトルで」とウェイターに告げる。窓際の席で、外は青い柔らかな照明に包まれていた。
「コーダイ。どうして今日急に横浜でご飯食べようとか言い出したの?」
 ペスカトーレの殻付きエビを何度もフォークで突っつきながら、ユウは尋ねた。
「俺らが付き合い始める前に、一回だけ山下公園に来たけど、覚えてる?」
「……大学の時の話でしょ? たしか、川村君と三人でギター弾きに来たんだよね」
 たしか……その一見無意味に付け加えたように見える些細な言葉が高木に行くあてのない苛立ちを感じさせた。どこに行くあてもなく、優しい苛立ちの感情のさざなみを、高木はゆっくり何度か目を閉じ、やり過ごす。
「そして、そこでユウはふられたんだよな。川村に」
「そんなこともあったね。あたし、コーダイにウザいくらい相談してたもんね」ユウは楽しそうに笑いながらパスタをフォークに巻きつけている。
「あの頃のコーダイはあたしにとってはすごく大人で、優しかった。口は悪いくせにね。相談するうちどんどんコーダイの良さが……って、なんで今さらこんなこと言ってるのかな、あたし。なんか失敗したなぁ」そしてユウはワインを一口で三分の一ほど飲んだ。
 胸元にはプラチナの小さなペンダントが、店のやわらかな白熱灯を受け光っている。ペンダントのトップは、凍てつくようなサファイアの目を埋め込んだ……イルカだ。付き合って一年の記念日に高木がユウにプレゼントしたものだ。ユウは胸元に光るペンダントに目を落とし、指先でいじくりまわしている。ユウはひとたび自分の世界に入ってしまうと、なかなか戻ってこないことがよくある。それは高木にも十分わかっていた。
 どうして今日急に横浜でご飯食べようとか言い出したの? ……高木はさっきのユウの質問を反芻していた。スープパスタのスープを静かにすすると、自然と彼も自身の暗い沼のような場所に心を沈めていった。


 ――七並べだ。
 一枚一枚に模様が描かれていて、全て並べると一つの綺麗な絵が出来上がる。そんなトランプを俺は持っているんだ。今まで何人もの人々がその完成した絵を見たがって、俺と七並べをした。でも一度も完成しない。トランプが足りないんだ。三、四枚。俺は自覚していながら、いつも相手にそれを言い忘れる。たいしたことではないように思っているからだ。
 でも相手にとっては違う。トランプというのは五十二枚で一セットなんだ。数の足りないトランプは一セットではない、ゼロだ。俺はトランプなんてはじめから持ってはいなかったんだ。そうしてみんな失望し、時にはひどく俺に当たり散らし、俺の傍を離れていく。
 俺はどうすればいいのだろう。はじめにちゃんと打ち明けて、誰も寄り付かないようにすればいいのだろうか。俺は俺にとってのベストを尽くさなければならないはずだ。行けるところまで行って、それでダメなら諦める。そうするべきではないんだろうか。


 彼の中では、もう結論が出ているのだ。
「ユウ」
「……ん?」
「結婚しよう」
 全く予期していなかったのだろう。ユウはしばらくイルカを指でつかんだまま高木の顔を見て固まっていた。少なくともいつもは三分以上戻ってこない自分の世界から、高木の一言を聞いた途端に戻ってきた。
 高木もユウの目を見ていた。ユウの目が少し赤く見える。泣いているのかもしれないが、きっとワインを少し飲みすぎたんだろうな、と高木は思った。
「三年って、結構長いよな。まぁ最初は金には苦労するかもしれないけど、このまま二人で働いていれば、次第になんとかなるだろ」
 高木は小さな白い箱を取り出す。中に何が入っているかは言うまでもない。
「ずるいよ。こんなに酔わせてから言わなくても、断ったりしないんだから」
「酔わせてないよ。お前が飲んだんだろ」
「……ワインってこんなにおいしかったかな?」
 高木はやわらかな声で笑い、指輪をユウの小さな指に滑らせた。
「これ、とてもガラスには見えないんだけど」
「お前、四月生まれだからな。やっぱり婚約指輪はダイアだろ。そのかわり来月のお前の誕生日はガラス玉になるかもしれないけど、勘弁してくれよな」高木は楽しそうにワインを一口。
「はぁ、ずるいなコーダイ。今そんなこと言われたら勘弁しちゃうよ」ユウも一口。
「お前はもう水な」
 高木は手をあげてウェイターを呼んだ。
「いやいやいや。今日は飲む日でしょう? 記念すべき高木ユウの誕生日だよ?」
「まだ婚約だけどな。ま、いっか」高木は呼んだウェイターを帰す。


 食事を終えると、二人は自然に公園の方まで歩いていった。
 こんな寒い時期ともなると、さすがに公園は閑散としている。二人が目指しているベンチに着くまでにすれ違ったのは、体の線が細く賢そうな黒い犬と散歩している、大きなウィンドブレーカーをはおった男一人だけだった。二人は芝生のやわらかな感触を大切にするかのように優しく踏みしめながら、ゆっくりと歩いた。


 人はときに本に線を引く。重要な部分、感心した部分、間違っていると思った部分、わけのわからない部分。さぁ、ランタンは持っただろうか? それはトンネルに入りこむ行為である。トンネルを抜けることができるかどうかも、トンネルの中に何かを見つけられるかどうかもわからない。
 でも線を引いた本を古本として売るのはどうなのだろう。僕はそれを許すことになるのだけれど。
 ……ところでイルカは、鉛筆が持てるのだろうか?


「今朝は、早番のバイトだったので、六時半に目覚ましをかけていたんです。でも、なんだか、――遅刻した――っていう感覚になって、飛び起きました。でも、まだ五時半にもなっていませんでした。早番のときたまにこういうことがあるんで、別にそれ自体は特別おかしなことじゃないんですけど。とりあえず、いつもそうするようにシャワーを浴びました。そして、ドライヤーで髪を乾かしながらなんとなく部屋を見渡してみたら、いなくなってたんです」
 そこまで一気にしゃべると、高橋さんはぐいっとおちょこを干した。僕は黙って煙草を灰皿に置き、冷の白鶴が入ったとっくりから二つのおちょこに注いだ。居酒屋に入って一時間半で、すでにこの二合入りの徳利は四本目だ。ここまで高橋さんが酔わないと、僕が高橋さんの分まで酔ってしまうような気がした。
「いなくなってた?」
「イルカが」高橋さんは箸の袋を指でつつきながら続けた。
「私がここで一人暮らしを始めることになったときに、母が気に入っている絵を一枚くれたんです。イルカが上に向かって泳いでいる素敵な絵。そこからイルカだけいなくなっていたんです。きれいな海だけが残っていました。でも、なぜか私はちっとも驚きませんでした。『イルカだってたまには外を泳ぎたいのだろうし、何か伝えたいことがあるんだろうな』そう思いました。キッチンの横のバルコニーに出ると、遠くにイルカがいました」


「どうしてその話を僕にしようと思ったんですか? あなた以外誰がその光景を見ていたかなんてわからないはずですよね」
「イルカが私を見ていなかったからです」
「私、先月レーザーで近視治療をしたばっかりだから、今両目とも相当良いんですよ。一・五とかあるんです。で、『あれ、あのイルカ私を見てないわ。上の川村さんでも見てるみたい』って思ったんです。しかもそのあと、なんかわけのわからないことを言い始めるし。ネギがどうとか……私にわからないことを私に言ってもしょうがないだろうし、川村さんならいろいろ本を読んでるみたいだから知ってそうだし」
 つっこむべきところが少し多いような気がするが、とりあえず話を進めるために最低限のつっこみを入れることにする。
「僕がいろいろ本を読んでる?」
「スタバにたまに一人で来てずっと本を読んでますよね。そういう男の人って、何人かのスーツのおじさんか、あなたくらいですよ」そう言ってにっこりと笑った。
 これだけお酒を飲んでいてこんなに笑顔が崩れない人はなかなかいない。僕は突然自分に対して嫌悪感がわいてきた。でもまぁ、とりあえず僕はおじさんには数えられていないらしい。
「そうだ。その葱がどうとかのところだよ」と言って、僕はカバンから中也の詩集を取り出した。
「イルカはこの人の詩の一部を言っていたんだよ。ほら、……このページ」僕は目次から『在りし日の歌』を見つけ、開いた。……『あれはとほいい処(ところ)にあるのだけれど おれは此処(ここ)で待つてゐなくてはならない 此処は空気もかすかで蒼く 葱(ねぎ)の根のやうに仄(ほの)かに淡い』……。
 その部分には鉛筆で線が引かれていた。高橋さんが身を乗り出して言う。
「もうちゃんと確認して線まで引いてあるなんて、やることが早いですね」
 ……イルカは、鉛筆が持てるのだろうか? いや、持てないだろう。イルカは僕らの意識レベルにしか今まで行為をしていないし、そういう存在であるはずだ。だからこそ、僕は今朝イルカと向き合ったとき、彼を僕の中にはっきりと感じたのだ。
「予習は苦手なんですけどね、こういうことは早いんですよ」
 僕はとっさにこのことを高橋さんに告げないことにした。そうした方がいいと思った理由はよくわからないが、あえて言うなら、これはきっと僕がこれから書こうとしている小説の中に属する部分なのだろう、と感じたからだ。


 その四


 高木と池袋で飲んだ翌日、僕はユウにメールを送った。ユウの返事は大学時代からの約三年のブランクなど感じさせないほどすぐに返ってきた。
 その二日後の日曜日、十七時に渋谷駅。
 そんなにすぐに会ってみるつもりもなかったのだけれど、遅かろうと早かろうと、大した違いはない。表参道で銀座線に乗り換えて一駅、プラットフォームに出るなり地下の強風に思わず目を閉じる。
 僕は待ち合わせの宝くじ売り場前に、十分ほど余裕を持って着き、タバコに火をつけた。
 僕は分厚いダークブラウンのジャケットにしっかりとくるまり、前で手を組んで周りを見回してみた。ほとんど夕焼けの赤みも失せた空に向かって伸びる、つまらないビルの大型スクリーンからは、今回限定でコラボするという、二組のアーティストのプロモーションビデオが流れていた。高校一年の秋に初めて、当時の彼女と渋谷に来たときから、僕はこの街を、この街に集まる人々を、全く好きになれないでいた。
 待ち合わせをしている人たちも、ラーメン屋に並んでいる三人組のサラリーマンも、はたまた『サーティーワン・アイスクリーム』の店の前に散らばっているコーンの食べカスさえも……、なにもかもが「正解」というオーラをまとっているように感じられるのだ。それ自体は特に問題ない。ただどうしても僕には、その正解が正解という意味を持っていないように思われてならなかった。それは諦めであり、嫉妬であり、しかし僕にとっての正義でもあり、なおさら僕はこの街に戸惑いを抱くことになった。
 それでも最近ようやく僕も、この街、もといこの街が帯びる正解を受け入れることができるようになった。しかし依然僕とこの街の間には「ねじれ」のようなものがあって、それは言うならば僕が「優しさ」に対して抱いている違和感のようでもあった。
 そんなことを考えているとふいに携帯が震えた。
「もしもし?」ユウがどなる。電話の向こうからはかなり大きな笑い声が聞こえてくる。
「私もうスペイン坂のぼったトコのHUBにいるからさ、そのタバコ喫い終わったらおいでよ」
 僕がいつも待ち合わせ場所に早めに着いてタバコを喫うことをユウはまだ覚えているらしかった。僕はわかったと告げ電話を切り、もう一度あたりを見回した。空はまだ幾分明るく見えこそするが、それはこの街の明かりのせいで、太陽自体はもう完全に沈んでしまったようだった。いったいこんな空のどこが正解なのだろうか。


 僕だって覚えている。タバコを喫うのをやめろと何度も言っておきながら、タバコを喫う時の手が好きだと言って百円の携帯灰皿をくれた時のユウの泣きそうな声だって、あの十月、ユウが僕を好きだと言った山下公園の乾いた風の匂いだって。
 あのとき僕に突然与えられた選択肢はとても絶望的なものだった。選択するまで両立されていたものが、選択することで半分になる。三択ならば三分の一になる。選択し大部分を切り捨てることによってしか、互いを確かめ合う術を持たない。そういう選択がこの世界を埋め尽くしているのだということを、僕は初めて思い知らされた。
 僕も間違いなくユウを好きだった、そして高木はそのことに気づいていただろう。ちょうど高木がユウのことを好きだったことに僕が気づいていたように。
 だが僕にとってはそれ以上に「三人でいること」のほうが大切だった。ただそれだけのことだ。……選択を間違えるんだ。そうすれば僕は傷つかない。僕とユウが付き合わないということは、ユウと高木が付き合うということでもあった。高木の優しさは僕がよく知っている。僕は本当にそれでもいいと考えていた。だがそれが及第点を目指すものですらないことも、僕にはわかっていた。


 ユウは壁際のカウンター席に座って、グラスを持ったままうつむいていた。あの頃から変わらない少し猫背気味の背中、栗色のショートボブ。でもその横顔には明らかに当時の彼女にはないものが感じられた。造形というよりは表情の作り方の違いだ。たいていの女性は、ある時突然びっくりするくらいに大人らしくなる。それは表情の作り方が変わるからだと僕は思う。そしてその見た目よりはるかに中身の方が、大人らしくなっているんだ。
 わかってはいるけどそういう女性の性質が、僕のようなかつての友人にいつも寂しい思いをさせる。
 そんなことを考えていると、店員の一人が僕に気づきこちらに向かってきた。それとほぼ同時に、ユウもこちらを向く。僕は店員に目で合図をし、ユウの隣まで歩く。
「久しぶり。あ、お酒頼んでくるならついでに私の分もお願い。んと、モスコミュールね」
「うん。サイズは?」
「大きいのに決まってるじゃん。カクテル半額の時間帯にここに来るのすっごい久し振りだからなんかわくわくして先に飲み始めちゃってるんだけど」ユウはすでにカクテルを二杯飲んでいると僕は見当をつけた。
「はは。飲みすぎて帰れなくなったりしてね。明日仕事でしょ?」
「はいはい仕事の話しないで。お酒頼んで来て」
「はいはい」
「あ」
「?」
「タバコ喫っていいから灰皿も持ってくるんだよ?」
「はいはい」僕は相手が喫煙者じゃない限り基本的にタバコは喫わない。「喫ってもいいですか?」という質問自体が、相手に選択権を与えていないように思えるからだ。ユウはそんなことも覚えているようだった。


 僕は大きなグラスで二六○円のジントニックを口に含み、たいていの日本人には少し高過ぎる椅子に座りながら灰皿を手前に寄せた。ここのジントニックは肝心な時に少しだけ炭酸が足りない。……肝心な時に僕の舌が鈍っているだけなのかもしれない。
「なんで乾杯する前に飲んでるのよ」
「ユウがもう飲んでるんだからいいじゃないか」
「ほんとだ。まあ細かいことはいいや、乾杯」
 テレビの画面ではホームのユニフォームを着たアーセナルの選手がボールと向き合い、フリーキックのためにゴールをにらんでいた。店内の四隅にぶら下がったBOZEのスピーカーからは、ドラムの手数にはおよそ不釣り合いな細い声のボーカルが、HEAVENだとかDRIVENだとかで韻を踏んでいたけれど、なぜ彼がHEAVENとDRIVENで韻を踏まなくちゃいけないのかはさっぱりわからなかった。おまけに、なぜその韻が僕の耳に流れ込んでこなくちゃいけないのかも、僕にはさっぱりわからなかった。
 シュートが大きく枠を外れてしまうと、僕は席に向き直って煙草に火をつけた。


 僕らはしばらく黙ってお酒を飲んでいた。僕とユウはいつもそうだった。三人以上でいる時にはよくしゃべるのだが、二人になると途端にお互い恐ろしいほどしゃべらない。そして、気まずいというわけでもない。人のほとんどいないプールでゆったりと泳いでいるようなこの独特な感覚を、僕は本当に久しぶりに感じていた。まだ僕とユウがこんな風に穏やかで柔らかな空気の中で飲む事ができるということを、悲しく思った。そして、大きく外れてしまったさっきのシュートの軌道を思い出した。
「でもこんな風に黙って飲むのも、昔ほどは楽しくないね。そう思わない?」口に出したのは僕ではなかった。
「そう? 昔からこんな感じじゃないかな」
 自分がどういう時に嘘をつくのかはっきりと認識してしまうのは嫌なものだった。ユウは何も答えなかった。


 ユウが黙って席を立ち、戻ってきたその左手にはライムの乗ったショットグラスがあった。グラスの中には白熱灯の金色を含んだ鈍い透明の液体が入っていた。
「ストレートで飲むの?」思わず僕はそう訊いた。
「そういう女の人は嫌?」
「ごめん。特に意味のない質問だった」ユウは時々こんな風に意地悪くなる。でもたいてい悪いのは僕だ。それも大学時代から変わらない。
「一舐めで何の銘柄か当てたら許してあげるよ」
 ユウは僕の前にショットグラスを差し出す。グラスを傾け舌を湿らせると、ジンならではの熱い渇きが一瞬にして口内を支配する。僕はその棘(とげ)でボンベイだとわかってしまう。ただ、許してもらう気にはどうしてもなれなかった。
 少し考えるふりをしてから、
「ビーフィーターだね」とユウの目を見て言った。
「相変わらずだね」
 ユウはあきれるように僕から顔をそむけ、そう言った。


 僕らは悲しみを共有していながら、その悲しみを共有できずにいる。共有することは即ち終わりを意味している。僕らが守ってきたはずの何かの終わり。しかしそれは終わらずとも、もはや外堀から埋められ、別のものに変わってしまっていた。非現実の残滓、と僕は思う。
「この前コーダイと飲んだんでしょう?」
 ユウは生(き)のジンに眉を少ししかめながらそう言った。
「うん。あいつだって相変わらずだろう?」僕は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「あの人が何を考えているのか、最近よくわからない」
 ユウはぽつりとそう言った。
 ユウは黙って席を立ち、化粧室に向かった。
 ふとユウの置いて行ったポーチに乗った財布を見ると、さっきのレシートがはみ出していた。なんとなく僕はそれを引き抜いてみる。
 ――ビーフィーター三〇ml――。
 肝心な時に僕の舌は鈍っている。僕はそのレシートを四つに折りたたんで、定期入れに押し込んだ。


(その四 了 その五へ続く)
2008/11/19(Wed)16:35:16 公開 / 裏山 咲
■この作品の著作権は裏山 咲さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして。
裏山 咲(うらやま さき)です。

ココに投稿させていただくのは初めてで…というかそもそも処女作です。
規約は頑張って読んだつもりですが、もしお気づきの点がございましたらご指摘いただけると幸いです。

随時更新してまいりますが、とりあえず全体としては中編(原稿用紙250枚)程度の量を想定しております。よろしくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!続き読ませて頂きました♪
一度書いたのですが消えてしまったので、もう一度書かせて頂きます。ユウと主人公の関係が会話などから、よく伝わり良かったです。また主人公の自分に合わない街という感覚は分かる気がしまた。どうして合わないのか自分自身では深く考えたことがなかったので(臭いや雰囲気なのかぐらい)、街の正解というのは新鮮な感じで面白かったっです。最後に結局は、空回りしていた主人公というのも、「あらら」と思えて良かったです。
では続きも期待しています♪
2008/12/03(Wed)18:10:200点羽堕
>羽堕さん
毎回読んでくださってありがとうございます。
消える前のコメントは見られなかったのですが、わざわざ書き直して下さったみたいで、ありがとうございます!
僕自身もいろんな理由で「自分となじまない街」がたくさんあります。たくさんあるのもどうかと思いますが。ただ人ごみが嫌いという説も…?
次の更新もしばらく間が空きそうですが、どうか期待せずに、気長にお待ちください。
2008/12/06(Sat)02:37:130点裏山 咲
続きを読ませていただきました。感想も消えてしまったことだし、良い機会だからもういちど冒頭から読み返してみました。
「現実的な現実」と「非現実的な現実」のありようが様々小道具によって演出されていてオシャレですね。ちょっと小道具に拘りすぎて解らない人も多いんじゃないかな、と言う感じもしますが幸い私はまだ着いていけています(笑
渋谷は「正解」の街かなぁ……以前ならイラン人のヤクの売人とかヤクザとかスーダンマフィアの手先などがちゃんといて街は「正解」だったけど、今や彼等の姿も消え上辺ばかりの「正解」で本当は解答のない街に成り下がっている感じがするんだけどなぁ。
色々とジンが出てくるけど、ヘンドリックスとかジュネヴァとかプリマスとかシュリヒテ・シュタインヘガーとかは出てこないのかなぁ。旨い酒だと思うんだけど。
では、次回更新を期待しています。
2008/12/07(Sun)12:37:230点甘木
>甘木さん
コメントしたつもりでいたのにどうやら送信ミスしていたようで;
自分自身も読み返してみていますが、たしかに引っ張りすぎの部分もあるというか、表現を引きずりすぎているのかなぁ、とも思いました。少し気をつけて書いてみたいと思います。

どういう部分を見て正解とするかは人それぞれだと思うので、あくまで彼らが高校・大学時代などの視点で見ていた「渋谷」という視点だという感じで読んでもらえれば……。
ついでに言えば、「当為」という意味での正解、というか、多数決的な正解、というか……。
余計わからなくなったという批判は甘んじて受けます(笑

あんま出しすぎても、なんというか大学時代に好きだったレベルを超えてしまうのかな?なんて思ったりして悩んでいます(笑

自身の都合で間が空いていますが、もし更新したときに覚えていて下されば、ぜひ続きも読んでいただければ嬉しいです。
2009/04/04(Sat)04:54:120点裏山 咲
合計0点
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除