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『悠久の山河にて』 作者:オレンジ / 時代・歴史 アクション
全角3677.5文字
容量7355 bytes
原稿用紙約11.2枚
紀元前500年頃、春秋時代の中国。孫子の兵法を説いた孫武の活躍を、多少アレンジを加えつつ描く大河ロマン。


〜前説〜

 数多の人間が傷つき、命を落とし、悲しみと怒りを産む、戦はそれだけのものだよ。戦で何人死のうがこの山河は揺らぐ事は無い。この大地が裂ける事もない。それなのに、何故人間は戦うのだろう。
 すべてはこの大地の恩恵の上に生かされている。
 塵屑の様な我々が、何を小難しい事を考える。
 国とはなんだろう。戦とはなんだろう。
 本当に必要なのかな。
 その答えを誰かが教えてくれるのだろうか。
 飽きる事無く登っては沈む太陽、この大地をずっと見てきたあなたなら解るか。
 何も答えてはくれません。
 だがしかし、ああ、今日もいい天気だ。



 一、呉へのしるべ


 呉の大夫、伯嚭(はくひ)は、門前払いをくらっていた。
「ですから、先生は今この斉の国においでになりません。どうぞお引取り下さい。こちらもあなたの様な方々が毎日やってくるので困っているのです」
「子どもの使いじゃないんだ。私も王の命を賜り、はるばる呉の国よりやってきて、はいそうですかと言っておめおめと帰れませぬ。せめて孫武先生が何処にいらっしゃるか、教えてくれませぬか。先生をお連れせずに私は国に帰れません、どうかこの通り」
「先生は、兵法書『孫子』を発表なさるとすぐ、この庵を飛び出し旅にお出かけになりました。もう一年以上帰ってきておりません。我々弟子一同も先生がどこにお出でか全く分からないのです。だからどうかお引取り下さい」
「そんなあ……」
 伯嚭はそのなで肩をさらに落としてあからさまな落胆の色を醸し出した。
「先生は今も諸国を巡り、兵法の研究をなさっているのでしょう。あなたも、先生にお会いしたいのならばこの大陸を隅から隅までお探しになったら良いのではないでしょうか。あなたの熱意次第ですけどね。では、私はこれにて失礼します」
 草庵へと続く門扉は堅く閉ざされ、呉からの使者を完全に遮断してしまった。
 呉王闔閭(こうりょ)の命を受け、斉の国までやってきた大夫伯嚭。兵法書『孫子』を記した若き戦の天才孫武を呉の国へ連れて来るという国家的大役を担って此処までやってきたが、いよいよ八方塞がりとなってしまった。来るべき楚との決戦に向けて、孫武を味方に引き入れる事は必要条件である。何としてでも孫武を呉へ招き入れなければならない。呉の国にも呉王の闔閭を始め、伍子胥など優れた人材は数多に登るが、こと軍師となると、なかなかこれと言う人物が居なかった。
 ある日、闔閭が『孫子』を読み孫武の存在を知ると、彼は「この男こそわが軍師、必ずわが国に招き入れよ」と触れ回った。
 大夫伯嚭は御前会議で使者として任命され、数人のお供とはるばる北の国斉までやってきたのである。が、やっと辿り着いた孫武の草庵でそっけなく門前払いを喰らい、数人のお供と途方に暮れているところなのだった。
「この広い中原の一体何処で何をしておいでなのだろう、孫武先生は……」
 
              *

 若き戦の天才孫武は馬小屋の藁敷きに横たわり、その鍛え上げられた肉体美を惜しげもなく露にしていた。だが、その行為に彼の自主的意志は全く反映されていない。衣類を着ていない状態を一糸纏わぬ姿と言うが、男の体には糸などという生易しいものでなく、触るだけで掌に引っかき傷が出来そうな荒々しい麻縄が幾重にも巻きついて、彼の体を締め上げていた。
 体勢を変えようともがいたりすると、食い込んだ麻縄の部分が酷く痛む。その度に孫武は昨夜の失敗を猛省するのだった。
 生まれ故郷の斉の国とは違い、南方にある楚の国はまだ若干暖かい。とは言え、日もすっかり遠くの山に隠れてしまったこの時間に、素っ裸で馬小屋に放り出されているのだから、寒くない訳が無い。
 麻縄の痛みと寒さで、もう体力は限界に近づいている。タコ殴りに遭い、縛られ、このボロボロの馬小屋に放置されて、間も無く丸一日が経とうとしていた。
「ああ、しくじった。まさか、庄屋のアホボンの女だったとは」
 生まれ故郷を発ち万里の旅に出て早一年、寂しい一人旅、時には夜のお相手が恋しくもなる。三日ほど前に立ち寄り身を寄せていた、楚でも随分南の外れにあるこの村で、昨夜一人の女と出会い、一夜限りの恋に落ちた。今、自分が置かれている環境とは間逆の、それはそれは熱い情熱的な夜だったのだが、まぐわいの最中にとんだ水入りが入ったのである。

「コラ、俺の女に何しやがる」
 背後から汚いダミ声、完全に不意を付かれた。
 村はずれの木陰、朔も近い闇夜なのに、まさか行為に及んでいる所を見られてしまうとは。
 下にいる女を庇いつつ、孫武は声のする方に顔を向ける。六、七人のいかつい集団がこちらを向いて構えているのは分かるが、この闇夜の中人相は全く分からない。既知の者であったとしても判別がつかないだろう。
「オラアア」
 ダミ声の発声者がおもむろに丸腰の孫武の腹を蹴り上げた。不意を付かれた腹筋は、その衝撃を耐える構えを取る事が出来ず、孫武はみぞおちに鈍痛を感じながら転がった。
 次に孫武の視界に入って来たものは、今正に自分の頭部へ一斉に振り下ろされる幾本もの棍棒であった。
「こいつ、ちょっと前から村の中をウロウロしてた奴ですぜ」
「いっちょまえに刀なんかぶら下げてよ。いつか何か仕出かすんじゃないかと思ってたら、案の定だ」
「まったく、怜華さんに手を出すなんてふてえ野郎だ」
「ぶっ殺しちまえ!」
 せめて棒切れ一本でも持っていたら、こんなゴロツキみたいな奴らあっという間に一蹴してやるのに。孫武は容赦ない棍棒の波状攻撃に耐えながら、この状況からの打破を考えていた。きっとこれ以上棍棒で殴られたら動けない。まだ体が動くうちに何とかしなければ。
 その時、ゴロツキ集団の中の一人が寝転がる孫武の顔前に立ちはだかった。
「まてまて、それ以上叩いたら死んじまう。坊ちゃん、こいつ生かしておくんだろ」
 と言うと、その男は孫武の顔面を蹴り上げた。たいした威力は無かったが、その衝撃は確実に孫武の脳髄を揺らす事に成功した。
 立てない……。平衡感覚を完全に奪われた。
 孫武の体はゴロツキたちの手であっという間に麻縄で縛り上げられてしまう。自分の顔面を蹴り上げた男がぐっと顔を近づけてきた。きつねの様な吊り上った細い眼が不気味に光る。
「このすけべえが、まんまと罠に掛かりやがって」
 そう言って、きつね眼の男はにやりと口をゆがめた。
「その男、馬小屋へとりあえず放り込んでおけ。まあ、何かの役には立つだろう」
 ダミ声の持ち主でこのゴロツキ集団のボス、庄屋のアホボンは、部下共にそのように命令を下すと、裸のままうずくまる見目麗しいつい先ほどまで孫武と抱き合っていた怜華と言う名の少女の方へ向かった。
 少女の体が小刻みに震えているのが、縛り上げられた孫武が見てもはっきりとわかる。
 男は少女の前にしゃがみこみ、俯く顔を覗き込んだ。その刹那、男の大きな平手が少女の左頬を引っ叩いた。
「このバカアマが!」
「申し訳ありません……申し訳ありません」
「いくら芝居でも、誰がそこまでしろっつった? 他の男のモン入れやがって、ただで済むと思うなよ、この淫乱女が」
 ひれ伏す少女の黒髪をひっ捕まえて、立ち上がらせる。孫武はゴロツキたちの打撃を浴びつつその一部始終を見ていた。
『私はまんまと嵌められたのだ、この庄屋のアホボン率いるゴロツキ集団に』
 孫武は全てを理解した。こんな闇夜にそもそも誰と誰が木の根元で交わっているなんて確認のし様がないのに、なぜアホボンは自分の女が寝取られていると分かったのか。答えは簡単、最初からこの孫武を陥れるために練られた罠だったのだ。

「この村を出た所に小さな川が流れているの。そのすぐ脇にとってもキレイな小さな紫色の花が咲いていて、丁度今頃がいちばん綺麗に見えるんだ」
「いいね、見に行こうよ、二人で」
「私を、この村の外に連れて行って……」
「行こう、二人で逃げよう、逃げる事も時には必要だよ。逃げるのも勇気の一つだ。さあ、勇気を出して……」

 あの時交わした愛の言葉は全てが偽りだったのか。だが、あの時の少女の表情には何一つ嘘は無かったはずである。それを見抜けないほど女心に関して無知ではない、と孫武は自負している。今この吹きさらしの馬小屋に放り出されて無様な姿を晒している状況においてもその信念は変わらない。
「よう、元気かい? はははっ、元気なわけないか」
 聞いた事のある声が、孫武の耳を掠めた。孫武は首だけを声のする方へ向けると、そこに男らしき人影があるのを見つけた。人影はみるみる孫武に近づいてきて顔前で立ち止まると、おもむろにしゃがみこんだ。見覚えのあるきつねの様な細い眼。昨日自分の顔面を蹴ったあの男だ。
「何しに来た?」
 男は、孫武の目の前にしゃがみこみ、昨夜と同じ様に細い眼を光らせながら顔を覗き込む。
「あんたを助けにきたよ。俺の名前は范蠡(はんれい)、よろしく」



続く



2008/04/01(Tue)21:40:14 公開 / オレンジ
■この作品の著作権はオレンジさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは。どうぞよろしくお願いします。
歴史を題材にしたお話は今回初チャレンジです。春秋時代の呉の国を中心としたお話を書いてみたいなと思い、後先考えず書いてしまいました。
孫武や伍子胥、范蠡など、けっこう魅力的な人物が多いのですが、なかなかこの辺りの小説って見た事が無いんですよね。(自分が知らないだけかもしれませんが)
いろいろと、不勉強なところもあります、ご指摘、ご批判、お待ちしています。
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