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『笑われる容疑者』 作者:みそ / 未分類 ミステリ
全角6344文字
容量12688 bytes
原稿用紙約19枚
事の発端は、おおよそ一年と半年前。
 春という季節の中へ静かに夏という匂いが一片混ざりつつあるようなそんな日だった。
 場所は岐阜県多治見市。多治見市という地域は、愛知県名古屋市から電車で一時間もかからない近場に隣接することから、土日に高校生が遊びに遠出するなら少し揺られても名古屋に行こうと思うだろう。
 人口はおよそ十二万人。名古屋市は百万人、東京二十三区は壱千万人と考えるならば、多いとは言いがたい。
 市として押すものは刃物、瀬戸物、町おこしキャラクターのうながっぱ、そして『日本一暑い町』ということだろうか。日本一暑い町というのは市の規模に比べると認知度は大きく、たびたび関東地方のテレビでも取り上げられる。しかし最近では多治見市並に暑い地域が東京都の隣接県で現れたことから、テレビのテロップでは小さく、『多治見市も同じく観測』とかかれ、それをみた多治見市民が「こっちにも取材にこいよ」と怒っていたことを記憶している。
 そんな多治見市で、事件は起こった。
 そんな多治見市で、殺人事件は起こった。
 ごく普通の、大都市と提携するような目立つところなど特に無く観光名所としては高山市に随分と遅れるような多治見市で、事件は起きた。
 不本意ながら、この事件が発端として多治見市はテレビを騒がせることになる。
 この事件が、連続殺人事件、関連し確認できる事件だけで述べ六十四人の男女を殺した発端となるのである。
 人を人と思わず、肉を肉と思わず。残虐なまでに残酷なその事件は、一年半経った今でもまだ続いている。
 きっとまた事件は起こるだろう。
 テレビは事件の被害者を悲観し、週刊誌は勝手な犯人像を囃し立てるだろう。
しかしこの物語、この殺人事件はもうサスペンスとして成り立たない。
 主人公である咲桜木陰という一般の高校生は犯人を見定めることを可能にした。
 咲桜木陰は、友人たる子の父親を殺した犯人を見つけ出した。
 苦悩の末、悲しみの果て、小さな友達を救うことを決意した。

 だが殺人事件は終わらない。


 ――『笑われる容疑者』は、死なないのだ。





 六月二日。岐阜警察に所属し、何名かの部下をもった宮月団栗は、午前六時半、隣に小学校を構える高根山という小さな山の山道にいた。
 だいぶん景色が明るくなったこの時間帯にこの山にいるのは宮月だけではなく、朝早くから電話で叩き起こされ呼ばれたことに不満を持ちながらも黙々と現場写真をとる鑑識の人間や、宮月の部下でありもっとも最初に現場へと急行した次郎丸勇人や第一発見者である老夫婦に事情聴取をする大栗木智貴警部補、無関係者が近づかないようにと立っている地元警察官、述べ十人ほどがこの高根山にいた。
 みな、黙々と各作業についており、その顔はまだ早朝だというのに神妙だ。
 もとは午前六時ごろ、竹の子狩りをするためにこの場に足を運んだ老夫婦からの110番がことの発端である。
『高根山の山道の入り口付近で、人の肺のようなものを発見した』
 その電話を聞きつけ、一番にかけつけた宮月の部下である次郎丸はそれをたしかに人間の右肺に当たるものだと断定した。
 その肺は気管支部分、つまり喉に当たる部分はなく、本当にただ右の肺がある、ただそれだけだった。
 通報した老夫婦二人は上下長袖のジャージ、畑仕事に使うような長靴、タオルとリュックサック、と軽量ながら山に入るには最小限で最大の効果が出せるであろう装備で、山へと竹の子がりに来たらしい。
 この山には先週の日曜もきたそうで、そのときはこんなおぞましいものなど見てはいなかったということから、この一週間で起きた事件である可能性が高い。
「恐ろしい……」
 右肺の持ち主を探して山を散策している宮月団栗は自分の心の中で閉じ切れなかった感情の一部を小さな声で表現した。
 元々、宮月団栗は自分のこと冷静な人間だと評価している。それは自分を他人として、客観的な観点から自分を評価したときでもそれと同じ結論に至るだろう。
 つまるところそれは宮月の自分へ対する印象と、同僚、上司、部下、他人がみる宮月への印象と同じことを意味した。
 過大評価でもなく、過小評価でもない。
 時々気に食わない人間が彼女のことを『冷蔵庫』など呼ぶが、そんな的は射てもセンスは皆無であるあだ名を意外と気に入っている。
 だからそんな冷蔵庫と呼ばれる彼女が、周りを気にせず心のうちの一部を溢したことはありえぬことだったが、今回は都合よくそれを聞いた人間がいなかったし、さらに言うならばそれを指摘されなかったことにより、宮月本人はまさか声に出ていたとは気付かなかった。
 そしてこれは、宮月本人が自分の声に気付かないまで、発見された右肺に恐れをなしていることに他ならない。思っていた事柄があまりにも多すぎて、そのなかのうちである恐れるという感情のみが表面に出てしまったということだろう。
 宮月の頭の中には色々なものが煮詰められていた。
 まずは、なにより今彼女自身の、警察官としての目的である被害者の発見だ。きっと、この右肺の持ち主はもう亡くなっているとみるべきだろう。
 もっとも彼女自身には医学的知識など乏しく、発見された土だらけの右肺のみでは被害者へとつながるものはなにもない。もしかしたらこの山の捜索も無駄で、本当は別の場所で殺されたのかも知れない。だがそれは無駄骨だと悲観するような内容ではなく、警察官にとってはごく当たり前のことである。捜索など、基本はあてずっぽで無意味なことなど多いから。
 だから彼女の頭の中にあることは『どこにあるのか』ではなく『なぜあったのか』だ。
 宮月はすでに考えていた。おおよそ、まぁそれは先輩である大栗木さんを除いてだが、部下の次郎丸、その他大勢の警察官たちは死体を捜すことで手一杯だろう。
 だが宮月と大栗木はすでに犯人を捜すために数々の思考を凝らし、別々の回答へと導いていた。
 宮月自身、今回は私怨が理由だろうと理論付けていた。見境無く行われた殺人にしては不自然なことが多すぎた。誰かを殺して、その臓器を見たい。そう考える人間が、信じたくもないがいるかもしれない。そう仮定して、ならばなぜ捨てたのだろうか。肺の場合、骨がかならず邪魔をする。大事な器官というのを守るために骨が存在するのだから、必然的にそれが障害となりうるはずだ。よって今回肺を取り出すにあたって、かなりの徒労が生じたはずだ。
 そこまで考えて、結局宮月の思考は停止した。それ以上は確定するにまだ甘い世界だからだ。
 早合点するのは、良くない。
 そう冷静になって、宮月は道なき山を進んでいく。
 この山自体、そう大きくはない。半日もあればすみずみまで探しきれるだろう。
 宮月団栗の目には、完全なる決意がにじみ出ていた。そして確信があった。
 発見される死体は、きっと目も当てられないようなものに違いない、ならばまだ警官になったばかりの若い部下に見せるべきではないと感じていた。
 それはやさしさであり、甘えだ。宮月自身、あまりにもな惨劇な事件はいくつも目の辺りにしていたし、きっと部下もそういうのを体験して初めて一人前と言えよう。
 ――だけど。と心の中で苦笑する。
 きっとこんなことを思っているのなら大栗木さんに笑われ、小突かれるだろう。
 でも今回ばかりは、死体すら見慣れていない次郎丸や他の部下に見せるわけにはいかなかった。
 もちろん、どこかで発見されれば最終的に見るのだけれど、心を準備してみるのと、唐突に見せられるのは随分違う。
 部下の成長を願う上で、部下への負担が心配だったのだ。それを言うと、一番に次郎丸が現場にかけつけ、右肺らしき臓器を見つけたのは心苦しかった。
 私が見つけろとは思わない。
 でもどうにか、まだ若い部下には見せないでくれ――。そう思った矢先、

 午前七時二十四分、別で山を散策していた次郎丸の叫び声が森の中で響くことになった。






 宮月の部下の次郎丸の悲鳴を聞きつけた今、興奮する老夫婦から事情聴取を終えた大栗木智貴には、大柄な体に繊細な心を持つ人間には別の考えがよぎる。
 宮月が考え出した考え、考え方は大栗木にとってはまだ若い、と思わざる負えないだろう。宮月は前提として、単独犯というのを考えていたが、今回ばかりは複数犯という考え方のほうがしっくりくる。
 可能性として、同じ人物を嫌う複数犯。または、同じ趣味が災いを起こした複数犯。
 それを単独犯だと言い切るのは些か無理があるだろう。
 だが大栗木もまた、宮月が考えた答えにもたどり着いていた。
 つまり解答ではなく、回答ということである。
 答えをひとつに絞らず、二点の視点から一本の線を導き出す。 小説などではよくある光景かもしれないが、これを現実でやるのは難しい。すでにある答えに別の見方を示すなど、まだ二十代、大学を出てから十年も経っていない経験の浅い警察官が至るなど、なかなか難しいものだ。
 朝露で少し湿った髪の毛をペン先で書きながら今老夫婦から得た話をまとめた断片的なものを眺めた。
 これ以上即座に情報となるものはなかった。まぁ老夫婦は発見してからすぐさま連絡したのだから仕方ないといえる。話を進展するにはなにかしらモノが出なければなるまい。
 そうは思ったものの、事件を解決するために人間の死を望む自分に対して不快に感じた大栗木は、その矛盾を解決するためにも深く揚々とした森の中へと這入って行く。
 宮月や、宮月の部下である次郎丸が通った道ではない、道とはもう言えない雑林が生い茂る場所を進んでいく。
 普段ならば自然が好きな大栗木はこういう場所を休日に来ることができれば幸せなのなぁ、と思いを馳せるのだが、なんと言えどもこの森には死体が転がっている可能性がある。それは大栗木を憂鬱にさせる大きな要因となった。
 焦らず、驚かず。大栗木は鼓膜を振動させた音源へと近づいていく。
 木々の中に見えたのは見覚えがある二人。
 凛とした姿に漆黒のスーツ、ポニーテールのように髪の毛を紡ぐ宮月団栗。
 まだ大学を出たばかり、スーツを着てはいるがまだ着こなせていない、若者のような次郎丸勇人。
 ――そして。
 この騒ぎの原因であるモノ。
 それがそこにはあった。
 大栗木は最初、それがなんなのか判断がつかなかった。
 たくさんの生き物で満ちた緑と茶色の草原の中に、死で溢れた大きな赤色の塊。
 そう、塊だ。
 首から下。ただ、それだけだった。
 首から下、おおよそ腹に当たるであろう場所は、真っ赤な色で彩られたキャンパスのように裂かれている。そして裂かれた奥にあるはずの臓器物もなく、さらに拍車をかけるように浮き彫りになっている肋骨がひどく痛々しく見え、ただ鉄の匂いが辺りを埋め尽くしていただけだった。
 視覚と聴覚がこの場を仕切っている中で、次郎丸の泣きじゃくるような嗚咽が新たに加わっていく。
「次郎丸、落ち着きなさい。深呼吸をして、――鑑識の方を呼んできなさい」
 冷静な態度で次郎丸に指示をだす宮月であったが、至極真っ当、宮月は冷静ではなかった。普段の宮月ならば、次郎丸が嗚咽をしながら泣きじゃくる時点でその気持ちを汲み、自分の携帯で鑑識の人を呼ぶなり呼びに行くなりできたはずである。しかし、今の宮月はその判断ができなかった。冷静な判断ができないため、冷静な判断をしようと努力した結果、ただいたずらに泣きっ面の次郎丸へと声をかけてしまったのである。
 それでも、次郎丸勇人は警察官であり、自ら警察官であることに誇りを持っている。
「うぅっ……。わ、わかりました……」
 あまりにもの惨状に苦しみながらも、次郎丸は山の出入り口に最も近い大栗木が歩いてきた道を進んでいく。
「大栗木さん……」
「あぁ……。分かっている。――頭を、探さないと」
 宮月は次郎丸が草木に隠れ過ぎ去ったのを確認すると、耳打ちをするかのように囁いた。
 宮月と大栗木が担当した事件の中で、これほどまでに原型を留めていない死体は初めてだった。証拠を隠すために遺体を解体し、埋めるなんてものすら滅多に起こり得ない。
 この血泥まみれの塊を見る限り、頭を探すことに宮月は躊躇していた。先ほどまでは次郎丸が死体を発見しないことを新米への配慮としていたが、今回ばかりはそれが自分へと反映されていた。恐らく無事に形を保っていないであろう死体を――宮月は見つけたくなかった。
 交通事故や電車での自殺とはわけが違う。他人が自己へと及ぼした数々の悪意。
 そのひとつひとつがこの死体には表現されており、湧き上がる怒りは静かなる悲しみへと姿を変えていく。
 警察官として、宮月はできる限りの正義を振舞っていた。
 人を守りたいとか、悲しんでいる人を助けたいとか、大栗木に言わせれば中学生の卒業文集のような動機で警察に入った彼女は、ゆえにいつまでも人が美しいものだと思い込んでいる。
 時々黒い人間はいるけれど、その人間にももとを辿ればそこには真っ白があるだけだと、信じていた。
 別に人の無残な遺体を見たから裏切られたなどと思ってはいない。
 人をここまで殺しえる人間に育ててしまった周りへの環境に対して、宮月は憂鬱に感じているのだった。
 そういう理屈で言えば宮月にとって全ての加害者は被害者の一人であり、被害者は被害者でしかない。
 大栗木とは別れ探索することにして、木々の陰で薄暗くなっている山道を黙々と進んでいく。
 歩くスピードは、隅々まで見落とさないようにと至極遅い。目を凝らせば山々に生息するモンシロチョウや、バッタを捕獲し首筋から食べている蟷螂など、人とは比べることができない小さな生命で満ちていた。
 唐突に、直径5メートルほどの雑草が踏んで固められた場所へと到達した。
 その違和感を感覚で察することができた彼女は、見つけたことを確信する。
 中心を陣取るように置かれている被害者の頭は、天を仰ぐように置かれている。
 流動するように、逃げるように宮月はズボンの右ポケットに入れられている携帯電話へと手を伸ばす。
「……、大栗木さん? えぇ発見しました。さきほどの場所から北西に百五十メートルといったところでしょうか。はい、はい。お待ちしています」
 大栗木が携帯の通話を切ったことを確認すると、もう一度ポケットへとしまい、その場を少し離れて木へと腰掛けた。
 ――勘違いであるべきだ、と宮月は自分自身の脳裏に焼き付けた。
 しかしどこかで、視界から入った情報を真実とする自分がいた。
 もう一度確かめる勇気などなかった。
 あんなの、何度も見るなど、気が狂いそうだ。
 乱れた呼吸を整えるために大きく吐いた息は、まるで無駄足だったかのように虚空へと消えていく。
 現実を背けるためになにか別なことをイメージするも、背けるあまり、さきほどの映像が離れない。
 あぁ――そうだ。
 さっきの死体。
 頭だけの死体。
 殺される人間はどのような苦悩を味わっただろうか。こんな田舎の山奥で、殺される。知らない人間に偶然山の中で殺されることはないと思われる。
 ならば被害者と加害者はどちらも顔を知っているということになるだろう。
 友達、あるいは恋人、家族。
 そんな人々に殺される人間、裏切られた人間。
 苦痛といえる物は全て味わった玩具として殺された人間はどんな表情に歪むかなど想像すら難しい。
 ――それでも私が見たものに間違いがないのならば。
 ――あの顔は。
 ――菩薩のように。
 ――満面の。
 ――笑みだった。
2015/01/15(Thu)03:56:28 公開 / みそ
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