オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『狼[第二章まで]』 作者:夏海 / ファンタジー 異世界
全角32970.5文字
容量65941 bytes
原稿用紙約100枚
 一人の食いはぐれの元傭兵と、得体の知れない少女や邪悪な酒場の店主が織り成すファンタジーの長編作品。




      




      序章

     
 
  

 半月の綺麗な夜だった。やけにその月が大きく見える。
 白刃が月光を反射して煌く。名工に鍛えられたその剣は片刃の長剣で、鍔には竜が彫り抜いてある。
 俺は息を呑んだ。心臓の音がすぐ耳元で聞こえてくるようだった。
 闇討ち。それが、俺の狙いだった。
 俺の名はイス=ファレイ。傭兵だ。傭われの暮らしに身を窶すようになってもう十年になる。十九の頃にこの世界に足を踏み入れてから数えてだから、もう俺もいよいよ三十路一歩手前というわけだ。自慢の黒髪にも白髪が混じるようになってきた。
 ザラつく無精髭を撫でて、白刃に魅入った。
 遂に、こんな仕事を受けるまで落ちたのか。俺は自分の不甲斐なさを呪った。
 この大陸ランドロギアが戦乱の世に満ち満ちている頃は良かった。あの頃は戦場で剣を振るっていれば金が腐るほど懐に舞い込んできたのだから。酒場は酒場でも冒険者が集まるような安酒場ではなく、ちょいと上等な所で酒が飲めた。革袋から金貨を見せればひょいひょいと女がついてきた。そんな時代が、俺にもあったのだ。
 それが今はどうしたことか。天下のイス=ファレイ様が闇討ちだと。こんな薄ら寒い月夜に、身体を温める安酒も飲めずに敵を待っているだと。なんということか。
 何もかもガルア帝国が悪いのだ。ランドロギア大陸の中央部に絶対的な武力を持つあの国が鎮座ましましてからは、いよいよ戦が減った。対抗する勢力も軍事上重要な要衝にあのような強大な国がいては立ち上がる気力も失せるのだろう。そして強大な武力を背景にガルア帝国が大陸の各国と平和的外交を行うようになってからは、いくさのいの字も無い平和な時代が訪れた。
 帝国暦が大陸の主要な暦となってもう七年になる。帝国暦七六八年、俺はいよいよ食うに困るようになった。
 元々誰かに飼われるのが嫌いな性分で始めた稼業だ。今更正規兵に志願しようなんてつもりはさらさら無く、なんとか残された金で食いつなぐようになってから、俺の生活はガラリと音を立てて変わってしまった。
 安酒場で酒を呷る毎日。女なんぞ寄り付く暇もない。ただ剣一振りで世を渡り歩いていた俺の人生は、一流の傭兵としての誇りに邪魔立てされて新しい道に足を踏み入れることのできないというジレンマに閉ざされていく。
 そして今月、冬のアリーシャの月に入ってからだ。全く金が無くなってしまったのは。
 安酒場にツケを散々残し、それを払うまでは飲ませない、と店主に詰られる毎日。そんな酒場ばかりが廃都ラルージャ中を埋めたある日、店主の一人が、こんな話を持ちかけてきた。
「金は払う。ツケもチャラにしてやる。だから、人を一人斬ってくれねえか」
 その言葉に、俺は生唾を飲み込んだ。
 人を斬るのには馴れている。当たり前だ、それが仕事なのだから。
 だが、もう七年も平静の世を生きてきて、今更俺に人が斬れるのか。
 初めて人を殺めたのは、傭兵になりたての頃だった。首筋に突き立てたナイフを引き抜くと、激しい返り血が俺を襲った。凄まじい光景であった。その光景は今でも覚えている。葬った敵が百を超えた今でも、目に焼き付いて離れないのだ。
 錆び付いていた剣はもう今では、鞘から抜くのに手間取るほどの状態だった。鉄鎧も錆が浮き、磨きを入れなければ鍋釜の代わりにもならないような状態である。そんな状態になるまで道具を放っておくとは、我ながら傭兵の風上にもおけない。
「相手は、どんな奴だ」
 砂色の髭を蓄えた店主に俺は問うた。
「なあに、心配はいらねぇ。俺の同業者さ。野郎、賭場でイカサマこきやがって、こちとら散々な目に遭わされたのよ。その報いを受けさせてぇ」
 なんということか。七年ぶりに斬る相手はただの一般人だというのだ。俺は一流の傭兵だ。私怨の為に人を殺めるのが仕事ではない。大義の為に人を殺めると言ったら過言になるが、殺人にはそれなりの理由が必要だ、俺はそう思っている。
「金なら心配いらねぇ。ジクザル金貨十枚でどうだ。相手を殺して、目印の首飾りを奪ってきてくれればいい」
 そんなくだらない殺人のために俺が手を貸すのか。
 しかし、背に腹は変えられない。俺はその依頼を受けることにした。いや、受けざるを得なかったというのが実際のところだ。
 剣にだけは自ら研ぎを入れた。鉄鎧は着ずに、革鎧で代用することにした。薄っぺらな革細工だが、一般人一人撃つのには十分だろう、と判断したのだ。砥石代も馬鹿にならないのである。それほど我が家の台所事情は逼迫していたのだ。
 そうして、現在この町外れの街道沿いにある岩陰に身を隠している。寒さが地面から這い上ってくるようで、俺は思わず肩を竦めた。
「まだ、来ないのか」
 独りごちて、空しくなる。
 月明かりでも十分に街道の様子は見渡せた。先程から通りかかる人間はただの一人もいない。それも当然である。廃都ラルージャ自体がそもそも廃れた街で、その上にこの道が通じているのは場末の賭場のみ。通りかかる人間などほぼ皆無なのだ。
 相手の容姿は聞いていた。銀髪に丸眼鏡の中年男で、ころころと太っているそうだ。まず見間違えることなどないだろう。
 また、もし間違った相手を斬ってしまったとしても、それがどうしたというのか。百を超える人間を斬り捨ててきた半生を思えば、例えそれが平静の世の法に触れようと、なんということもない。要は金さえ受け取れれば構わないのだ。その後に逃げ去ることだって出来る。敵に追われる人生というのも悪くはないかもしれない。
 今の俺は、久々に愛剣ファルターガを手にしたことでひどく興奮していた。その興奮をどこか他人のような目で冷静に分析している自分がいる。まるで傭兵の現役の時代に戻ったようだ。気のせい、かもしれないが。
 剣を持つ手に震えがはしる。その震えを抑えようとはしない。自然のままに任せておけば震えは止まるものだと、経験上知っていたからである。実際、震えはすぐに収まった。
 星の位置から時刻を読み解こうとして、砂利を踏む音が聞こえてきた。
 岩陰に身を潜める。街道の反対側は深い森になっている。そちらに逃げ場は無い。
 ちらりと岩から目だけを出して、足音の方向を見遣る。細心の注意を払った。
 ……間違いない、あの男だ。
 名前すら知らされていない、丸眼鏡の男である。
 既に抜き払った愛剣ファルターガを脇構えに持つ。一太刀で終わらせるつもりだった。反撃の余地も与えるつもりは無い。素人一人斬るのに、一瞬も要らない。
 近づいてくる足音の主を斬ってやる。
 そのつもりで身構えた時、俺の耳に奇妙な音が伝わってきた。
 ……足音が、二つ?
 男の大きな、地面を擦るような足音の他に小さな足音が一つ従っている。
 ……どういうことだ?
 考えている最中でも足音は近づいて来る。一足一刀にはまだしばらくある。
 だが、俺の頭の中は混乱していた。俺が斬るのは一人、しかし足音は二つ? 一体どういうことなのだ。
 同伴者がいるのか。それならばそいつの処理はどうしたらいい。先を歩く男を斬った後、後ろを付き従う人間は斬るべきなのか。その辺りの指示は受けていない。
 さすがに今が戦乱の世では無いことは承知している。人を斬れば罰を与えられる、そんな法があることも重々知っていた。
 果たして、二人を斬るべきなのか。
 ……ええい。
 熟考している間はない。一人を斬ったら、後ろの人間が反撃に転ずるかもしれないのだ。二人を斬るしかない。
 ままよ、と俺は覚悟を決めた。
 音に耳を澄ませる。ざ、ざ、と一定の歩調を保って男は近づいて来る。
 いよいよ一足一刀の距離に達した時、俺は砂利の街道に躍り出た!
「ひ、ひぃ」
 情けない声を発したのは標的の男だった。
 こんな男、斬る価値も無い。頭で考えながら、俺は愛剣を大きく振りかぶっていた。月光が鈍く男を照らす。
「お助け」
 踵を返して逃げようとした男の脳天に、片刃の名剣が吸い込まれていく。闇に閃光が煌めいた。
 剣は男の頭を軽く叩き割った。それどころか、脳を突き抜けて首までも斬り下げた。
 続いて俺は、第二の標的の捕捉に移る。同時、剣を引き抜いて再び振り上げていた。
 その小さな影に剣を振り下ろそうとしたところで、俺はピタリと動きを止めた。我ながら、よく堪えられたものだと思う。
 そこにいたのは、一人の少女であった。
「なんだ、お前は」
 思わず呟いた。
 見ると襤褸を身に付け手枷をされ首輪を付けられた、その年の頃は六、七というところの少女が、俺を見つめて微笑んでいた。
 目の前で人が一人殺されたというのに、長い金髪の少女は笑っていた。なんと無邪気な笑みであろう。俺は殺気を削がれた。
 力無くファルターガに血振りをくれると、俺は腰の鞘に剣を納める。まさか、こんな子供までは殺せない。
 しかし、この状況をどうしたらいいものか。
「……お前、何者だ? 何故こんなところにいる」
 俺が問うても、少女は相変わらずの笑みを浮かべている。
 耳が聞こえないのか。俺はなんとなくそう思った。いや、知恵が足りないのかもしれない。目の前でこんな殺劇が行われたというのに笑っているというのは、耳が聞こえないだけでは説明がつかない。
 死骸から瑪瑙の首飾りを奪い去ると、俺は踵を返す。
 用は済んだ。狙い通り、標的は確実に消した。あとは依頼主から金を受け取るだけだ。
 そんな俺の後ろから、足音がついてくる。
「……おい」
 俺は振り返って、すぐ後ろに居た少女の目を見つめた。少女は相変わらず笑っている。
「なんのつもりだ。ついてくるな」
 一人、縁もゆかりもない標的を殺めた。そのことで俺はひどく気が立っていた。
 しかし少女は全く意に介さず、ニコニコと笑っているだけだ。
 俺はそれ以上何も言う気が無くなって、再度踵を返すと、急ぎ足で歩き出した。
 その後ろから、足音はついてくる。
 構うものか。俺は足を速めた。
 それでも足音は俺を追いかけてくる。俺はムキになって帰路を急いだ。



「おい」
 安酒場の勝手口から声を掛ける。
 そんな俺の隣に、謎の少女がいるのは気のせいではない。なんという健脚なのか、俺の最高速度についてここまで来てしまったのだ。
 俺は呆れながら、せめてこれくらいは、と木製の手枷を外してやった。それに喜んだのか、それまで以上に少女は俺に対して微笑んできた。首輪も外してやればいいのだが、特殊な鍵のようなものがついていて外れない。仕方なくそのままにしておいた。
「なんだ、……あんたか」
 砂色の髭の店主は勝手口に顔を出す。
「なんだとはなんだ、俺はあんたの依頼で人を一人殺ってきたんだぞ」
「ちょっと! 声が大きいぜ旦那……、ん、なんだ? その娘は」
「知らん。標的の男が連れていたんだが、あんたにも心当たりは無いか」
「知らねぇなぁ。……それじゃ何かい、その娘はあんたが」
 俺は項垂れた。
「ああ。標的を殺ったところを見られた」
「なんでついでに殺しちまわねぇんだ!」
 店主は叫んだ、その口を慌てて自分で押さえる。辺りを見回す目がいかにも悪人面だった。
「いけねぇいけねぇ……。とりあえず入んな。話はそれからだ」
「酒は?」
 俺は念を押す。酒のために人を一人殺めてきたといっても過言ではないのだ。
「いくらでもあるよ。……おいおい、娘っこも一緒に入るのか」
「知らん。俺に聞くな。気にするな、少し頭が足りないようだ。目の前で人一人殺されても笑ってたような娘だ」
 大きな溜息をついて、大柄な店主は勝手口から俺たちを引き入れた。たち、というには余りに互いのことを知らない二人ではあるが。
 勝手口の奥は店主の生活スペースになっているようだ。木造の部屋に雑然と調理器具や食器、酒器などが置かれている。吊りズボンにエプロン姿の清潔そうな容姿からは想像もつかない部屋の荒れようだ。
「店は?」
 俺は酒樽の一つに腰掛けて聞いた。他に腰掛ける場所が見当たらなかった。少女もそれに倣う。
「若いのに任せてある。心配はいらねぇよ」
「そうか。それじゃあまずは酒だ」
 遠慮無く俺は言った。
「その前に、例の首飾りを」
「これか。そらよっ」
 俺は瑪瑙の首飾りを投げ渡す。男は慌てふためいた様子でそれを受け取った。
「乱暴な野郎だなぁ。これは大事なモノなんだぜ」
「俺の知ったことか。それよりも酒だ」
「へっ、物の価値のわからんヤツだな」
 文句を言いつつも、店主は酒樽から木製のジョッキに麦酒を注いで持ってきた。俺は受け取りざまにたちまち一杯を干してしまう。店主は呆れながら、おかわりを持ってくる。
「おい、こいつにも、温かいミルクでも持ってきてやれ」
 少女を指さしながら言った。店主は溜息をついて部屋のドアを開け、店の方へと消えていった。
 酒と俺と少女と汚い部屋だけが残される。俺が酒を飲む音だけが部屋に響いた。
「……なあ」
 俺は少女に声を掛ける。少女は辺りのものを興味深そうに見つめていた。その瞳を俺に転ずる。
「お前、名前はなんてんだ。それぐらいは言えるだろ」
 少女の瞳は紺碧の海のように碧く、光彩に六芒星のような文様が浮かんでいるのがわかった。不思議な少女である。
 彼女は答えようとはせず、微笑みを返してくる。
「おいおい、笑ってるばかりじゃ何もわからない。自分の名前ぐらい、わかるだろう?」
 少女は黙ったまま頷いた。
「じゃあ言ってみろ」
「フェリユ」
 初めて声を聞いた。フェリユの声は透き通っていて、襤褸を着ている割には端麗な容姿に似つかわしい声だった。
「フェリユか。それじゃあフェリユ、お前はなんであの男に連れられていたんだ」
 そう問うても、答えは返ってこない。微笑みばかりが返ってくる。
 俺は思わず溜息をついて、麦酒を飲み干した。空きっ腹にアルコールはやはりきく。それも久方ぶりの酒だ、すぐに酒が回って眠くなってきた。昔はこんなこと、なかったのに。
「はいよ、ホットミルクだ。こんな注文、他の店じゃ受けないぜ」
 店主がグラス片手に部屋へ入ってきた。少女にそれを手渡すと、俺の前に立ちはだかった。
「それと、こいつが礼金だ」
 男は俺の右手を強引に引っ張ると、金貨をまとめて手渡してきた。俺は酔った気持ちよさの中で、それがジクザル金貨であることを噛み付いて確認した。確かに十枚ある。
「それにしても、こんなに早く仕事を片付けてくれるとは思わなかったぜ」
「……それだけ飢えていたということだ」
 そう、俺は飢えていた。このところまともに飯さえ食っていない。
 そればかりではなく、仕事に、血に飢えていたとも言えるかもしれない。
「それじゃ、帰るぞ」
 俺は店主にそう言い、酒樽から立ち上がろうとした。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ旦那。少し俺の話を聞いてくれねぇか」
 そう言われ、俺は再び酒樽に腰を下ろす。
 だいぶ酔ったようだ。立ちくらみがする。
「なんだ」
「今回あんたは確かに依頼をこなしてくれた。……もしよかったら、今後もこういう仕事を請けてみるつもりはないか、ってことさ」
「何?」
「つまりだなぁ、こういう依頼はいくらでもこの街にはあるってことよ。仕事柄そういう話がちょいちょいと舞い込んできてな。依頼を俺が受けて、仕事をあんたが請け負う。報酬は山分けでどうだ」
 俺は吐き気がした。酒のせいではない。店主の言葉を聞いていてだ。
「ふざけるな。俺はまだそこまで落ちぶれちゃいない。金の為に人を殺すなんてことは、もうこれっきりだ」
「まあまあ落ち着いて」
 店主はそう言って俺の空のジョッキに酒を注いで戻ってくる。俺は仕方なく口をつけた。
「考えてみりゃ、傭兵ってのも金をもらって人を殺す仕事、そうじゃねえか?」
 言われて、それは否定できない、と思った。
 確かに傭兵は人殺しのプロと言えるだろう。その為の技術を戦場で磨いたといっても過言ではない。
 しかしそれには、あくまでも戦争のプロとプロの殺し合いの中に限る、という条件が付く。今回のように武芸のいろはも知らない一般人を殺すというのとはわけが違う。兵士同士が戦うことには誇りがある。今回の殺しにはそれが無かった。
 だが、俺は言葉を返すのも億劫だった。酒をちびちびと飲みながら、店主の言葉に耳を傾けている。
「金持ち同士ってのは意外に憎み合ってるものでな、いつか相手を追い落としてやろうって気持ちでいつもいるらしい。そんな金持ちの依頼を受ければ、金貨十枚なんて目じゃないぜ? もちろん相手には護衛や用心棒みたいなのがついてることもあるだろうが、あんたのその腕なら、どんな相手でも問題ないだろ」
 まるで先ほどの殺劇を見てきたようにものを言う。
 俺は店主の熱気にあふれる言葉に飽きて、視線を少女のほうに向ける。フェリユといったか。可愛い少女だ。グラスを両手で持って、ミルクを飲んでいる。
 この少女は、これからどうなるんだろうか。一体誰がこの少女の面倒をみていくのか。
 ……まさか、俺か?
 俺はかぶりを振る。なんだってこの俺が。俺はまだ独身で、子供の面倒なんかみられやしないぞ。
 じゃあこの店主に少女を任せるか。
 そこで、いや、と首を振る。このいかにも邪悪そうな店主に少女を任せておけるわけがない。どこぞに売り飛ばされても不思議ではないのだ。
 それならばやはり、自分が面倒をみるしかないのか。
 俺は渋々、首を縦に一度振った。仕方ない。
 するとどういうことか、店主が揉み手をした。
「ファレイの旦那ならそう言ってくれると思ったぜ。なあに、万事オイラに任せといてくんな、きっといい仕事を回しみせるって」
「な、ち、違うぞっ。これはそういう意味ではなくてだな」
「何が違うってんですかい。何も心配はいらねぇよ、オイラに任せなってば」
 再び否定しようとして、思いとどまる。
 俺一人の生活を立てていくぶんには今のままの浮草暮らしで支障はない。
 だが、娘一人を育てていくとなれば話は別だ。毎日の食費がいる、生活費もいる、服だって買ってやりたい。そうなれば、やはり先立つものが必要になる。
 となれば、仕事は必ず必要だ。そんな俺の前に今、人参をぶら下げようとしている男がいる。
 俺には、剣の腕しか売れるものはない。そんなことは重々承知していた。
 哀れな娘のために、傭兵としての矜持を捨てるのか。
 決心は、早かった。
「……わかった。ただし、取り分は八二だ」
 店主は大袈裟に両手を振る。
「まさか。冗談でしょう旦那。せめて六四」
「七三。これ以上は譲れん」
「ちぃ、意外に細けぇや。参りました。じゃあ取り分は七三ですぜ。これで万事決まりだ」
 誇りなど、食っていく為には役に立ちはしない。俺はそんなものに縋り付いてはいられないのだ。
「ところでお前の名前を聞いていないが」
 俺は唐突に訊いた。店主はガハハ、と笑う。
「オイラは、ダンカスってぇ名前ですよ。前にも名乗ったハズなんですがね」
「そうだったか」
「オイラが旦那の名前を知ってるんだ、当たり前でしょう」
 すっかり忘れていた。こんな付き合いになるとはその時に思っていなかったからに違いない。というより、俺は人の名前や誕生日などを覚える能力が平均よりも大分低いのだった。フェリユの名前を一発で覚えられたのは奇跡に近い。
「ではダンカス、俺はこれから毎日お前の店に顔を出す。その時に依頼があったら、俺に教えろ。わかったな」
「はいよ、旦那。……それにしても、この娘っこ、どうしたもんかねぇ」
 ダンカスは砂色の髭を撫でながら言った。その視線に不純なものを感じて、俺は思わずダンカスの視線を手で遮った。
「こいつのことなら心配いらない。俺が面倒をみる。キチンと学校にも通わせて、立派に育て上げてみせる」
「へぇ? 旦那が? そいつぁいいや。子連れの狼ですな」
 ダンカスは再びガハハと笑った。うるさい奴だ。
 俺はフェリユの顔を見遣る。
 彼女も俺を見つめて微笑んでいた。俺が言った言葉の意味がわかるのだろうか。今日一番の笑顔に見える。
 こんな娘の前で、俺は人を殺したのだ。そのことを深く悔いた。
 同時に、これから人を斬ることを生業にしていく俺が、本当に彼女の育ての親でいいものだろうかと自らに問いかける。
 仕方がないだろう。孤児院に放り込んでしまうよりは遥かにマシだ、俺はそう思った。斯く言う俺も、孤児院育ちだからこそ、余計にそう思う。こんな幼気な少女にあんな悪逆な環境は見合わない。
「……帰る」
 俺はそう言って立ち上がった。フェリユもそれに倣ってちょこんと立った。やはり俺の言った言葉の意味はある程度わかるらしい。
「そうかい、旦那。それじゃあ明日から色々と頼むぜ、相棒」
「俺に相棒はいらん。一匹狼が性分だ」
「ガハハ、ならそれでもいいさ。さしずめオイラはその飼い主ってとこかね」
 狼を飼い馴らせるものか。内心で思った。
 薄汚れた部屋から出ると、夜風が酔い醒ましに心地よかった。美しい半月も綺麗に見えている。
 俺はフェリユの手を引いて、家路に着いた。
 明日からは、修羅の道が俺を待ち構えている。そんな日々を迎えることを、俺は心のどこかで喜ばしく思っていた。





      第一章『愛剣ファルターガ』



 
 剣を抱いて目を覚ます。石造りの家のベッドの上だ。
 隣にはフェリユも寝ている。薄い布団に二人身を寄せ合って眠っていたのだ。
 こういう時、俺は独り身だが幸せを感じる。他の存在が自分を温めてくれる、そのぬくもりに何とも言えず幸せを感じるのだ。
 俺はフェリユを起こしてしまわないようにそっと身体を起こした。
 もう朝だ。石壁に穿たれた窓枠に嵌められた木戸から、薄明かりが射している。そこから冷たい朝の、新鮮な空気が漏れていた。真冬の月アリーシャは本当に寒い月だ。
 俺は朝食の準備に取り掛かる。
 昨日の昼に市場で仕入れてきた生野菜をさっと水で洗い、包丁を入れてサラダに仕立て上げる。かまどで鍋に湯を沸かし、骨付きの鶏肉を放り込んで塩コショウで味をつけた。最後に黒パンを皿に盛り、簡単な朝食が完成する。
「お〜い、フェリユ、朝だぞ」
 俺がそう声をかけると、少女はまだ眠そうにむにゃむにゃと顔を手で擦り、布団から出ようとはしない。どうやら寒いらしい。
「ほら、朝ごはんだぞ」
 そう呼びかけて、ようやく少女は鼻をくんくんと鳴らし、例の不思議な碧眼を見開く。黒い小さな六芒星は相変わらずだ。
「起きなさい、早くおいで」
 なんだか所帯臭くなったなぁと我ながらに思う。それでも朝食を与えるのはまともな家庭の当たり前のことだと自分に言い聞かせ、職務を全うする。
 寝癖で金色の髪をクシャクシャにしたフェリユの姿を見ると、初めて彼女と会った日のことを思い出さずにはいられない。
 俺は彼女の前で人を一人、斬った。まるで無抵抗の人間をだ。
 あの日のことを思うと、彼女との時間を大切にしなければ、と心から思う。彼女の心に傷をつけてしまったのかもしれないということを考えると、尚更そう思えてくる。
 フェリユは例によって赤い首輪をしたままで、服は数日前に俺が買い与えたピンクのネグリジェを身につけている。彼女の小さな体に合う寝巻が見つからずに困ったものだ。古着屋で乙女チックなこのネグリジェを見つけた時には、思わず小躍りしたものである。
 少女は起き上がって食卓の方に近寄ってくる、と思いきや。
 突然俺の腰に抱きついてきた。
「おはよう、フェリユ。ご飯だぞ」
「うん!」
 フェリユははっきりと口にした。
 これは、フェリユが自分の名前の次に覚えた言葉だ。他の言葉はまだまだ使えないが、「うん」と「ううん」だけははっきりと口にするようになった。これである程度の意思疎通がはかれる。
 フェリユの知能に欠陥があるのではないかという懸念は、どうやら杞憂だったらしい。初めて会ってからまだ十日と経っていないが、その間に意思表示をできるようになったのだ。発達に遅れはあるのかもしれないが、元々持っている能力は決して劣ってはいないように見えた。おそらく六、七歳という年齢相応とは言えないかもしれないが、これからその遅れを取り戻せる可能性は十分にあると思う。
「さあ、食べよう」
 俺は木製の机に作った料理を並べ、椅子に座った。向かい合わせにフェリユも座る。
 長い金髪を寝癖だらけにした少女は、器用にフォークを使って料理を口に運ぶ。ああ、後で髪を梳かしてやらないとな、と俺はまた所帯じみたことを考えていた。これでも元は傭兵だというのに、なんだか面映ゆい。
 あの日の事件から、仕事は絶えていた。ジクザル金貨が十枚もあれば、二人でひと月は食いつなげるのだが、これからの生活やフェリユを学校に通わせることなどを考え合わせると、あまりにも心許ない財産だった。ダンカスの奴は例のごとく「心配いらねぇ」の一点張りだったが、こちらの事情は承知の様子で、店に顔を出した時などに食材を分けてくれることなどもあった。私怨の為に間接的にとはいえ人を殺した邪悪な人物だが、意外に情に厚い部分もあるらしい。それだからこそ、俺も彼に仕事の手引きを任せようと決めたのだ。
「フェリユ、うまいか?」
「うん!」
 元気のいい答えに思わずニンマリする。一人暮らしが長かったせいか、こんな些細な出来事が嬉しくて仕方ない。
 俺の部屋はダンカスの部屋のことを言えないほどに散々に荒れ果てていた。それを一日で掃除し、二人で暮らせるだけのスペースを作ったのだ。一間の狭い家ではあるが、贅沢は言っていられない。他に越すだけの金も無いのだ。
 食事を終えると、フェリユに水瓶の中の冷たい水で顔を洗わせ、髪を梳ってやる。つやつやとした髪は本当に黄金のような輝きであった。俺の白髪混じりの黒髪とは比較にもならない。これでもかつては烏の濡れ羽色などと言われて自慢の黒髪だったのだが。
 洗面を終えたら、俺は羊毛の濃紺のワンピースを着せたフェリユを連れて家を出る。俺は茶のシャツの上に黒革のベストを着て、腰に愛剣ファルターガを佩いた。
 家は廃都ラルージャの東の端にあった。そこから林の中を通る細い道を通ってしばらく歩いて、俺たちはラルージャの商店街に出た。
 廃都とは言ってもかつての都、栄えているところは栄えている。
 ロウファルガ王国の遷都は帝国暦で七一五年。今からおよそ五十年前の出来事だ。権勢を誇ったラマニ王朝がまだ王室を支えていた頃、このラルージャは大陸の交通の要衝としても機能していた。城塞都市といって外郭を城壁で囲われているのは、まだ大陸に戦乱があった頃の名残らしい。元が小国であるから、諸外国の武力に対抗する為の都市計画をしたとの話だ。しかしその計画も結局ガルア帝国の恐ろしい侵略力の前に潰えた形になった。ロウファルガ王国が山岳地帯に遷都を決めたのは、これ以上戦乱の世に巻き込まれることを恐れてのことである。
 廃都ラルージャはその後、幾多の戦乱の舞台となった。城塞都市の軍略的な意味での価値は高く、ガルア帝国軍と反ガルア帝国軍との対決の中で幾度となく取り合いが続き、街は中心部を残してほぼ破壊された。今では外郭の遺骸を残すのみで城塞都市の面影はもうない。
 滅ぼされた居住区の脇を通り、ラルージャの商店街に入る。商店街といっても、屋台や露店が建ち並ぶ地域である。
 すると、ひどい人混みに出くわした。一般の買い物客に混じり、物乞いや浮浪者の群れ、野盗めいた風貌の男達など、人種の入り混じった怪しい一団である。俺はフェリユの手を強く握り締めた。
「走るぞ」
「うん!」
 軽い駆け足で人混みをすり抜ける。フェリユの健脚は相変わらずで、俺の駆け足に軽やかについてくる。
 俺は思わず微笑んだ。
 今日は、フェリユに読み書きを覚えさせるためのペンとインクと日記帳を買いに来た。
 日記は良い。俺も毎日つけている。最初は孤児院で指図を受けて書き始めたのだが、今では習慣と化してしまって、書かないことにはよく寝付けないほどだ。読み書きを覚えるのにはちょうどいいだろうとの思惑から、フェリユにもつけさせることにした。最初は字にならなくてもいいのだ。絵日記でも良い。そのうちに慣れてくれればそれでいい。
 文具店は商店街の外れにあった。露店の途切れた辺り、きちんとした石造りの建物の中である。さすがに雨風にさらされる場所で文具や本は売れないのだろう。店の看板には『ラマニ王朝御用達』の文字が書かれている。一体いつの話なのだか。この店に来るたびに、不思議でしょうがない。
 ガラスのドアを開けて中に入る。
 珍しいガラスのショーケースの中に入った数々の羽ペンや本を見つめて、俺は思わず顔がほころぶのを感じた。
「何かご入り用かな」
 白髪の細身の老人が声をかけてきた。老人独特の何とも言えないニオイがする。
「ああ、じいさん。この子に日記とペンを買ってやりたくてね」
「ほう、若いの。娘に日記をつけさせたいなどといい心がけじゃな」
 俺の娘じゃない、とはなんとなく言えなかった。確かに俺も二十九歳、このくらいの娘がいてもおかしくない年齢ではある。
 そうか、傍から見れば親子に見えるのか。そう思うとなんとなく恥ずかしい気分になった。
「それでは儂が子供用のペンと日記を選んでやろう」
「ああ。……可愛いのにしてくれ」
 元傭兵、現殺人請負人が一体何を言っているのだろう。しかしこの際、可愛いペンを持たせてやりたい。日記帳も可愛らしいのがいいだろう。
「うむうむ、いい父親を持って幸せじゃな、娘っこ」
「うん!」
 フェリユは元気よく答えた。その返事に老人はホッホッホと梟のような笑い声を漏らした。
「それにしても」
 ショーケースの裏蓋を開けながら、老人は俺の腰を見やった。
「なんだ」
 俺の声に警戒の色が混じる。それを感じ取ったのか、老人は再び笑った。
「いやいや、腰に物騒な物を下げておるなと、そう思っただけじゃよ」
「……悪かったな」
「何も謝ることはない。よくよく見れば鍔の造りも洒落ておるではないか。よほどの名剣と見た」
 俺は老人の視線から左の腰を隠すように斜に構えた。
「あまり見るな。血を見るぞ」
「ホッホッホ。そうじゃな、怖い怖い。……それ、こんなものでどうかな」
 そう言って取り出したのは、鳶の羽ペンと桃色の日記帳であった。
 ジジイにしてはセンスは悪くない。剣の目利きといい、なかなかの人物と見えた。
「いくらだ?」
「五百ブルツじゃ」
「高いっ!」
 俺は思わず叫んだ。五百ブルツと言えばジクザル金貨一枚の半分の価格である。あまりにも高すぎであった。
「まからないのか」
 俺が交渉を始めようとすると、老人はホッホッホとまた例の笑い声を上げた。
「まからんこともないが」
「ないが、なんだ」
「生憎とこの歳にもなると、金などどうでも良くなるのじゃよ。それよりも儂は物語を聞きたいのじゃ。一つでも多くの物語を」
「物語?」
 俺は老人にからかわれているのかと思った。高い値段を吹っかけておいて、下らない話に付き合わせるのが趣味なのではないかと。
「……フェリユ、帰るぞ」
「……ううん」
 その時、久しぶりにフェリユが首を横に振った。どうしたというのか。俺にはわからなかった。
「からかっておるのではない。儂は聞きたいのじゃよ、おぬしとその剣が紡いできた物語を」
「なに」
「もしも話を聞かせてもらえるのならば、このペンと日記とインクは無料で進呈しよう。それでどうじゃ」 
 そこまで言われて、俺は思わず食指が動くのを感じた。
 しかし、どう話していいものか。自分とこの剣ファルターガの物語を。
「どう話せば伝わるのか、よくわからない。いや、伝えるべきことが思い浮かばない」
「なぁに、心配せんでも良い。おぬしが娘に書かせようとしているように、日記を付けるつもりで儂に話を聞かせてくれればよいのじゃ。かつての自分に起こった出来事を、な」
 言われて、そうか、と思う。
 老人の奇妙な申し出ではあったが、俺は自分の過去について誰かに語ったことなど無いことに気がついた。これがいい機会かもしれない。そう考えると、自然に口が開いた。
「この剣を手に入れたのは……」



 俺がこの剣を手に入れたのは、ちょうど二十一歳の頃だった。
 二十歳の頃の俺は鎧に凝っていて、大斧に分厚い鉄甲を着た重装備で戦場を経巡ったものだ。「鎧さえしっかりしてれば、戦場で死ぬことはない」、それがその頃の俺の口癖だった。傭兵ギルドでは馬鹿にされたが、俺は本気でそう思っていたんだ。
 そんな俺に、衝撃を与えた出来事があった。俺と同じギルドの仲間、キャルファンが戦死したんだ。
 奴は俺より六つ年上で、様々な戦術知識や教養を与えてくれた、優しい兄貴のような存在だった。それが、死んだ? あの経験豊かな傭兵が? 俺は耳を疑ったよ。
「戦いに絶対はない」
 それが奴の口癖だった。確かにその通りかもしれない。今思うと、キャルファンの言ってたことが正しかったと頷ける。
 重装甲を勧めてくれたのも奴だった。そのキャルファンが、斬られたっていうんだ。あれほど鎧の力を信じてたのに。俺よりも分厚い鎧を着てたっていうのに。
「相手はどんな奴だ」
 俺はキャルファンの死を伝えてくれた仲間に訊いた。
「なんでも、軽装の剣士だそうだ。一振りで鎧を斬り飛ばしたらしいぜ」
 俺は耳を疑った。
 俺の頭の中では、あの厚い装甲を打ち破る力と言ったら魔術か魔導術しかないと想像が固まっていた。それが瓦解したんだ。
 剣で、鋼の装甲を、斬った?
 信じられなかった。剣といったら打突するもので、硬いものを破壊する能力は無いというのが俺の中の常識だったからだ。まして鋼を斬るなんて、全く考えられなかった。だからこそ俺は斧を自分の武器に選んでいたのだから。
「どんな剣だ、巨大な剣なのか?」
「いや、違うらしい。聞いた話じゃどうやら細身の片刃剣だったってよ」
 ますます話の真偽が疑わしかった。細身の剣で鋼の鎧を斬るなんて、そんなことはありえない。
 細身の剣といえば刺突武器だ。キャルファンの身につけていた、継ぎ目を補強したあの鋼の鎧では、剣を刺し入れる隙間も無い。
 やはり噂は噂で、結局のところ奴は魔術師か何かにやられたのだろう。俺はそう納得した。魔術ならば、運悪く詠唱の隙を与えてしまえば重戦士にとっては致命的になることは常識だった。超高価な魔導装甲でも身につけない限り、その危険性とは戦場では常に隣り合わせなのだ。俺自身、何度装甲を焦がされたことか。火傷の痕は数知れない。
 しかし、魔術師達は戦場では肌身から魔術を放出する為に、比較的軽装で出撃することが多い。キャルファンほどの歴戦の勇士が、一撃で魔術師を葬れないなどということがあり得るのか。俺は首を捻らざるを得なかった。
 同じ頃、ギルドの仲間達の間で一つの噂が取り沙汰されていた。
「戦場に、『無敵の剣士』が現れる」
 また剣か。俺は呆れ返った。
 剣などというものは重い軽い、大きい小さいの差はあれど、所詮は飾り武器に過ぎない。それが俺の認識であった。その証拠に、俺の斧で叩き割った剣の数は数知れないし、俺の重装甲に傷をつけた剣など数える程しかない。槍や弓、斧といった実戦向きの武器とは違い、剣は格好の良い武器でしかないのだ。
 噂では、無敵の剣士に斬れない物はない、とのことだった。どこの軍に属しているのか、そういった具体的な情報は無く、その無敵具合が傭兵たちの酒の肴にされていた。結局のところ、俺達の認識は一致していたのだ。そんな噂は嘘に違いないと。
 ところが次の戦で、俺達は思い知らされることになる。
 『無敵の剣士』が実在していることを。



「……なるほどのぅ」
 老人は相槌を打つ。
「剣とはそんなものなのか。もっと実用的な武器なのかと思っておった」
「そうだ。大体、今の時代騎馬や火薬や魔力を使った兵器が使われているというのに、手に握って扱う武器そのものが時代遅れなんだ。無論俺達はそれを重々承知の上で、槍やら弓やらを使ってたんだがな。それは、一振りの得物を持って戦場に出る男の誇りみたいなものもあったからだ。だが実用の面で、剣を用いる人間は誰もいなかった」
「何故じゃ?」
 俺は鼻で笑う。素人はこれだからいけない。
「騎馬に対抗するのに、どれだけでかい剣が必要になる? あるいは逆に、騎馬の上から地上の敵を攻撃するのには? 弓や槍ならば、その欠点を補える。また当時の俺のように、騎馬ごと叩き伏せる大斧を持っていたら話は別だがな」
 言い終えて、俺はフェリユの様子を見遣る。彼女は俺の昔話を熱心に聞いているように見えた。本当のところはどうだかわからないが。
「ふむ。……しかし、『無敵の剣士』が現れた」
「そう。全く信じられなかったよ。世の中にあんな化物がいるなんてことは」



 信じられなかった。
 目の前でむざむざ仲間がやられていく姿を黙って見つめている自分が。
 信じられなかった。
 あの細い剣が、傭兵達の装甲を次々引き裂いていくことを。

 その日、俺とギルドの仲間三十余名はガルア帝国のゴーレム兵器攻略の為に、ファシアナ連合軍の旗下に参じていた。
 ゴーレムとは、魔力を動力源にして動く兵の総称で、通常大勢の魔術師集団の援護を得て初めて可動する。材質により様々なゴーレムがいるが、その時ガルア軍が運用を開始しようとしていたのは鋼のゴーレムであった。ゴーレムに用いられる材質の中ではかなり重く、硬いことは周知の事実で、運用が開始されればファシアナ軍は痛打を負わされるのは明白だった。
 俺達に与えられた戦術目標は、ゴーレム始動の前に魔術師集団を殲滅すること、およびその護衛部隊の排除だった。我がギルドはその尖兵となる。
 ゴーレムが動き出せば全滅は免れない、危険な任務である。正規兵が尻込みする仕事をウチのギルドが受けたのだ。
 我がギルドに専門の魔術師はいない。簡易魔術を用いる者はいるが、それは補助魔術に過ぎない。せいぜい矢に火を点けたり、鎧や盾に祝福をして魔力を込める程度のものだ。軽い要塞のような規模のあるゴーレムを相手に太刀打ちできる魔力の持ち主はいなかった。
 鋼のゴーレム相手では、俺達の持っている武器など何の役にも立たない。つまり、稼動を始めたゴーレムを相手にしたら俺達はただの烏合の衆と化してしまうのだ。ゴーレムが稼動を開始する前に動力源を断つ、それが俺達に与えられた作戦目標だった。
 無謀な挑戦だったと言わざるを得ない。それはギルドの面々の誰もが知っていた。知っていて敢えてその戦地に赴くのだ。傭兵とはそういう仕事だった。難しい仕事であればあるぼど、配分される金貨の高も多くなる。
 無謀ではあるが、決して無理な仕事ではなかったのだ。数十名の魔術師集団が一致団結して動かすゴーレムである、その集団の息がそうそうピタリと合うはずもない。時間は十分にあった。護衛部隊の排除の方も、手練揃いの我がギルドにとってはそう難しいことではなかった。
 はずだった、とそう言うべきかもしれない。ガルア帝国の陸戦部隊は大型兵器を主力としたもので、古風な武器の直接攻撃に対して小回りが利かず、意外に脆いということを俺達は熟知していた。それがゆえに、甘く見ていたところがあったのは否めない。事実、ガルア帝国軍との戦闘において、俺達のギルド単体としては連戦連勝だった。
 それが、たった一人の男の手によって戦況を覆される結果になると、一体誰が予想しただろう。
 
 目の前で、閃光が走った。剣閃は目にも鮮やかに、軽やかにゆらめいていた。
 これが、『無敵の剣士』。
 緋色の革鎧を着た、鉄の鉢金をつけた黒髪長髪の男。歳は今の俺と同じくらいか。身の丈の半分はある刃渡りの剣を手馴れた風に振り回している。
 片刃の剣を横薙ぎに舞うように扱うあの剣捌き、今の俺以上のものがあった。凄まじいまでの威圧感、暗い眼差し。見ているだけで身体に震えが走ったのはあの時が初めてだったな。
 何がどう凄いのか、説明するのが難しいくらいだ。片手に軽々と太刀を持ち、鋼に身を包んだ傭兵達を次々と薙ぎ払っていく。その身のこなしの素早さといったら、どんな獣よりも早かった。
 戦の先陣を切った連中は、たった一人の敵を相手にただの一撃も与えられないまま崩れ落ちた。後詰に回されていた俺からは丸見えの位置で、仲間は斬られたんだ。
 何がどう凄いんだろうか。刃の切れ味か。それとも身のこなしの軽さか。それだけでは到底説明がつかない、鬼気迫るような迫力が男にはあった。決して大柄な体つきではないんだがな、何故だろう、とにかく奴はただならぬ空気感を持って戦場で踊っていた。舞うように、次々と傭兵達を薙ぎ倒していった。
 他に敵らしき姿はどこにもない。奴はただ一人でこちらの陣営に切り込んできたんだ。
 戦線が後退し、遂に俺の近くまで奴がやってきた。
 その時直感したね。こいつがキャルファンを斬った男だって。何故だかわからない。だが、この大陸中を探しても、こんな芸当をこなせる輩は一人しかいないはずだ。剣で鋼の鎧を斬って相手を倒すなんて奴は、俺はこいつ以外に知らないんだ。
 俺は両手で大斧を振りかぶった。俺も決して体は大きい方じゃない。だが、斧の扱いに関しては達人の域に達していたと我ながら思う。仲間を斬り伏せて近づいて来る敵に合わせて、大上段に斧を振りかぶり、待った。分厚い鎧に大斧で速度は遅いが、必中の一念で身構えたんだ。
 そうして俺の目の前に奴が来た瞬間、だった。
 突然男は踵を返した。
 俺は斧を振り上げたまま固まっちまった。ゼンマイが切れた人形みたいだった。
 何故? そう思った時だ。
 轟音と共に岩山を打ち砕いて、例のゴーレムが現れたのは。小山ほどはある鈍色の巨大な魔導機兵だ。
 そう、奴はその時機を知っていたんだ。それでピタリと仕事をやめちまった。いや、奴に与えられた仕事はおそらくゴーレム起動までの間の敵の邀撃だったんだろうから、仕事を終えたってことになるか。
 俺の目には凄まじい奴の剣閃が今も目に焼き付いてる。



「……それで?」
 老人は続きを促すように声をかけた。
「それからおぬしはどうなったんじゃ。それからその『無敵の剣士』は?」
「それから俺は」
 そこで言葉を止めて、俺は笑った。
「ちびりながら逃げ出したさ、大斧を振り捨ててな。『無敵の戦士』のその後は知らない。俺が知るはずがないだろう?」
「ぬ、まあそうじゃな。して、今の話がおぬしの腰の物とどう繋がる?」
 俺は苦笑する。
「ま、そう焦るなよ。それより、喉が渇いた。酒はないのか?」
 老人は渋面になり、しかし話の続きを聞きたいのは明らかなようで、店の奥に一旦引き下がると葡萄酒の入ったガラス瓶を持ってやって来た。
「これ以上は無いぞ」
「おう、これで十分だ」
 栓を抜いて直接口をつけると、芳醇な香りが鼻を抜けていった。なかなかいい酒を隠してやがる。
 ふとフェリユに目を向けると、酒を飲む俺の顔を見て渋い面をしている。俺が酒を飲むのが気に入らないのか? 俺の体の半分は酒で出来てるってぇのに。
「早く、続きを話せ」
「じいさん、あんまり焦ると寿命が縮むぜ」
「老い先短い儂には時間が無いのじゃ、さあ話せ」
「わあったよ、ったく」



「剣が欲しい?」
 鍛冶屋でそう言うと、半笑いの態度で接客された。鍛冶屋ほど武器の特性を知っている人間はいない。そんな彼らからしたら、剣が欲しいなんて言う俺は鼻垂れ坊主に見えたことだろう。さっき言ったみたいに、剣なんてのはお飾りの武器の代表だ。好き好んで売ってるやつなんざ聞いたこともない。せいぜい王家のお抱え鍛冶くらいのものだろう。
 それでも俺は、剣が欲しかった。あいつが持っているように、鋼をも断ち切る剣が。
「そんなもん、ウチには売ってねぇよ」
 何軒の鍛冶屋に当たっても冷たくあしらわれた。また、逆に剣を店先で見つけても、その切れ味は石ころも斬れないようななまくらばかりだった。
 それでも俺は諦めない。一年かけてランドロギア大陸を巡り巡った。金ならあった。命懸けの傭兵稼業のお陰で、旅費くらいなら困らないだけの金が手元にあった。
 斧はあの出来事以来捨てちまった。斧を使ってちゃ、あいつには絶対に勝てない。そんな実感があった。せめて武器くらいは同じ程度の物を持たないと、勝てるわけがない、そう思った。鎧も同じだ。重い鎧を着てあいつと同じだけの身のこなしが出来るはずがない。
 別に奴は俺にとって仇でもなんでもない。ただ戦場ですれ違っただけの間柄だ。キャルファンのことはあるが、それが奴を超えたい理由にはならなかった。ただ単純に、奴が振るった剣の威力に魅せられた、それだけのことだ。
 それから、俺の剣術の特訓が始まった。
 夜になるとなまくらでもいいから剣の形をしている物を持って、野山を駆け巡った。枝を斬り、舞い散る葉を斬り、岩まで斬ろうとして、何振りの剣をダメにしたことか。こんなことでは鋼なんて斬れっこない、そう何度思ったことか。
 昼は昼で、あいつが持っていたような片刃で細身の剣を探した。武器屋や鍛冶屋、骨董品屋にまで顔を出して情報を集めた。こうなったら自分の手で思い通りの剣を打てるようになるまで、鍛冶屋で修行しようかと本気で思ったくらいだぞ。
 そんな時、ある骨董屋でこの剣を見つけたんだ。大陸西部のワーレストって町だったな。
 最初店主にその剣を見せられた時、あいつの剣だ、そう思った。
 が、よく見れば反り具合、鉄鞘や鍔の拵え、刃紋など全てが違うことに気づいた。しかし刃渡りの長さや、片刃であること等が共通している。
「これはファンダイン作の、古の宝剣です」
 恭しく袱紗に載せた剣を抜いてみせて、店の店主はそう伝えた。
「いくらだ」
 俺は即座に言ったよ。ファンダインがどうだ、古がどうだと言われても構いはしなかった。明らかになまくらとは違う奇妙なまでの美しさに心を惹かれたのだ。
 後で知ったことだが、ファンダインってのは竜狩り用の武具を多数作った名工らしい。彼の作った武具は全て国宝級の扱いを受けており、この剣もそれに近い扱いを受けている一振りだった
「宝剣をお売りすることはできません。これは我が家の家宝ですから。参考までにお見せしただけです」
 慌てて剣を納めた主人はしきりに首を振った。それでも俺は諦めない。
「だから、いくらだ。いくらでも払う。売らないというなら、お前を殺してでも奪うだけだ」
 その頃は今と違い戦乱が続いている。一人二人の死人になど誰も見向きもしない時代だった。実際戦場の跡などには死鳥に啄まれるに任せた死骸がいくらでもあった時代だ。それだけにその脅し文句は店主に響いたらしかった。
 俺は返事に窮する店主に革袋に入った金貨を丸ごと手渡して、無理矢理に剣を鞘ぐるみ奪った。
 手に持った瞬間、声が聞こえたんだ。
 いや、そんな気がしただけかもしれない。
(我が名はファルターガ。あらゆる物を断ち割るものなり。我を身につける者よ、汝が滅びの使者とならんことを認めるか)
 妙に聞いたことのあるような声が、俺の頭の奥でぼう、と響いた。
 返事をするまでもない。
 俺は骨董屋に並べられていた鉄兜に目をやり、鞘を払って片手に持った宝剣で、無造作に一閃した。
 斬れるかどうか、そんな心配は全く必要ない。斬れて当然だ、そう思っていたからだ。手にしただけで底知れない自信が湧いてくる、不思議な剣なんだ。
 手応えは、無かった。
 一瞬遅れて兜を載せていた台座までが真っ二つに割れるまで、俺がそれを斬った感覚は無かった。
(汝、我と契約を交わせり)
 そう声ならぬ声がそう言って、それ以来声は聞いていない。
 長かった。野山を駆け巡り、自分なりに体得した剣術を存分に発揮できるこの剣と出会うまで、丸一年かかったんだ。ようやく念願叶ってそれを手にした時、俺の中で力を試したい願望が自然と芽生えていた。
 やっと、手に入れたのだ。この剣を。
 俺は涙が頬を伝うのを感じた。



「……それ以来、戦場で剣を片手に駆け巡った、という話だ」
 俺はそう締め括ると、葡萄酒の最後の一口を飲み干した。
 老人は呆けたように佇んでいる。
 店に沈黙が流れた。
「なんだよ、何か文句があるか。もっとドラマチックに語った方が良かったのか?」
「いや、まさしく人に物語ありじゃと思ってな」
 そう呟くと、老人は羽ペンと日記帳とインク瓶を手に持って、フェリユに手渡した。フェリユは笑顔で「うん!」と言った。
「どういう意味だ?」
「言った通りじゃよ。誰にも物語はあるものじゃと思ったのじゃ。……素晴らしかった」
「そ、そうか」
 俺は思わずしどろもどろになってしまう。今までのまとまりのない話のどこがそんなに素晴らしかったのか、問うてみたい気がした。
 しかしそれはやめておくことにした。
 ガラス戸の向こうはもう昼下がり。老人に付き合っている時間はもうない。フェリユに昼飯を食わせなければならないのだ。昼食を摂りながら、文字を一つ二つ教えてやりたい。
「それじゃ、遠慮無くもらっていくぞ」
「ああ」
 老人はぺこりと白い頭を下げた。
「じゃあフェリユ、行くぞ」
 ガラス戸を抜けると、冬の合間の暖かな日差しが照りつけてきた。
 今日のこの妙な出会いを、日記につけることを忘れないようにしよう、俺はそう思った。



 第二章『殺しの依頼』



「いよいよ仕事が見つかったぜ、ファレイの旦那」
 赤い壁紙の部屋の中に一際大きな男の声が響き渡る。
 俺が昼過ぎに一人で例の酒場『紅い虹』に顔を出すなり、砂色の髭で小太りのダンカスが開口一番そう言った。
 声がでかい、そう窘めようかとも思ったが、俺の方でも仕事が全く入ってこない事への不安が強くあったから、喜ばしい気持ちの方が先に立った。
 誰に褒められるでもない人斬り稼業ではあるが、それでも飢えて死ぬよりはよっぽどマシというものだ。俺はそう割り切ることを心に決めていた。それに俺には養わなければならない家族がいるのだから。
「イー、行くの?」
 半泣きの表情で俺を引き止めるフェリユの可愛らしさに、俺は後ろ髪を根こそぎ引き抜かれるような心持ちでこの酒場に毎日顔を出していた。今彼女は絵本を読みながら留守番をしている。イス、という俺のファーストネームを彼女は覚えたらしいが、まだサ行の発音に難がある。それでも毎日の生活の中で彼女はすくすくと元気に、そして快活な少女に育ちつつある。幼子の成長を見守る気分というのは何とも言えず良かった。
 そんな俺の生活を支える稼業が、殺人請負人、つまり人斬りである。始めて間もない仕事ではあるが、依頼の方は全くと言っていいほど無かった。そちらの受付は全て窓口であるダンカスに任せていたから、俺にとってはあずかり知らぬことではあったが。
 それが、いよいよ来たというのだ。依頼が。
「どんな依頼だ」
「ガハハ、そう焦りなさんなって。詳しい話は奥の部屋で。……おい、少し外すぞ」
 ダンカスは若いバーテンダーにそう声をかける。男は無言で頷き、暇そうにグラスを磨いている。まだ酒場は忙しい時間帯ではない。テーブルには二人連れの冒険者らしい男達が一組いるだけで、何やら難しい顔をして小さく言葉を交わしていた。
 俺はダンカスの後について、奥の部屋へ通される。例によって荒れ放題荒れ果てた薄汚い部屋である。まあフェリユのことがなければ、俺も似たような環境で暮らしていたので文句はつけられない。
「酒は」
 昼間から酒を飲むとフェリユがいい顔をしないのは火を見るより明らかだったが、仕事が見つかったという情報に軽く興奮した俺は、つい口癖のように酒を求めていた。ダンカスは何の疑問も持たずに俺に麦酒を注いだ木のジョッキを渡してくる。
 一口酒を口に運ぶと、少しだけ落ち着いた気分になった気がした。
「旦那ぁ、やりましたぜ」
 得意げに言うダンカスの顔がなんだか憎たらしくて悪態をつきたくもなったが、それは我慢した。
「オイラの流した情報が、金持ち連中の耳に届いたらしい」
「金持ち連中、とは?」
「旦那、九天老ってのは知ってるかい」
 くてんろう。聞いたことが無かった。その表情を見抜いたのか、ダンカスは大袈裟に溜息をついてみせる。
「はあ。オイラはこんな相手を仕事仲間に引き込んで、ほんとに良かったのかねぇ」
「む、心外だぞ。なんなら試しに今すぐにでも貴様を叩っ斬ってやろうか」
「じょ、冗談ですってば旦那ぁ、頼りにしてますから」
 髭親爺が両手を振る。ダンカスの身振りは大袈裟すぎて不愉快だった。だが今のところはそれも我慢しよう、と心に決めた。こいつを斬ったところで金にはならないのだ。
「九天老ってぇのはこのラルージャの街の裏社会を牛耳ってる九人の親玉のことさ。九人の財産を合わせればガルア帝国の国家予算に匹敵するってほどの大金持ちで、裏社会ではとてつもない権力を誇ってる。ヤクの売人からそのへんのチンピラまで、辿りたどっていけば必ず九人の中の誰かにぶち当たるって言われてるぐらいでさ」
「ほう」
 初耳だった。そしてそれ以上に俺は、ダンカスの説明力に感心していた。こいつにこんな才能があったとは。さすがに接客業で身を立てているだけあって、話馴れているのがわかった。
「それで? その九天老がどうかしたのか」
「どうしたもこうしたもあるもんかい。そのうちの一人、ダオロン老の手下を名乗る野郎が昨日の夜ウチの店を訪ねてきたのさ」
 ダオロン老。これもまた知らない名だ。よほど俺はこの街の裏社会とは縁遠い暮らしをしていたらしい。
「有名なのか、そいつは」
「ああ、九天老の中でも最も武闘派で知られる人物で、今までにも数々の敵を暗殺してきたっていうかなりヤバイ人物だな」
「……ちょっと待て」
 俺はダンカスの言葉を手で制する。
「その武闘派で知られる人物が、こんな場末の酒場の店主に頼みごとをしてきたってのか? そんな人物なら子飼いの輩も少なくないだろう。わざわざ俺を使って人を斬るなんて回りくどいことをする必要があるか?」
 そこでダンカスは人差し指を立てて左右に振りながら「チッチッチ」と呟いた。本当に身振りの不愉快な奴だ。
「ファレイの旦那は知らねぇだろうが、オイラが頼んだ例の殺し、あれが裏の社会じゃ結構有名な語り草になってんだぜ。鬼神か悪魔の所業なんて言われてる。あれを、オイラ達が殺ったって噂を流したのさ」
「おいおい、そんなことをして官に追われるようなことにならないんだろうな」
「心配いらねぇ。大体、酒場の店主が街道で斬り殺されたなんてハナシはザラなんだ。奴が賭場に出入りしていて多くの人間から恨みを買ってたってことだって簡単に調べはつく。表の世界の人間にとっちゃあ怨恨がらみの殺人事件、ただそれだけのことなんだ。わざわざ噂を信じてオイラのところまで調べに来る保安官なんざいねぇよ」
 そうか。俺は心から安心した。
 俺の心の中では、フェリユと引き離されること、彼女が孤児院に叩き込まれることだけが恐怖だった。その危険さえ払えればあとはどんな困難にも耐えてみせる、そんな心持ちだったのである。
「それよりも旦那の技のキレだ。オイラも現場は見ちゃいねぇが、頭から尻まで真っ二つだったって言うじゃねぇか」
 実際にはそこまで斬り下げてはいない。だが硬い頭蓋を断ち割ったのは事実である。どちらでも大差のないことであった。
「どんな武器を使ったらあんな切れ味を出せるんだって、裏の社会じゃ大層噂になった。そこに、オイラの噂が折り重なって『紅い虹』には鬼が棲む、なんて話になったんだ。その結果」
「その、なんとやらの耳に噂が入ったってことか」
「ダオロン老だよ。で、ようやっと今回の依頼の内容なんだが、簡単なんだよ」
 そこでダンカスはひと呼吸おいた。俺はその間に麦酒を口に含んだ。
「ダオロン老を、斬ってほしいそうだ」
 俺は思わず白い泡をダンカスの顔に吹きかけてしまった。
 しかしダンカスはその反応を予測していたのか、大した驚きもせずにエプロンで顔を拭き拭き、妙に自信に満ちた表情をしている。
「話を、続けてもいいかい」
「いや、ちょっと待て。いくらなんでも話が飛躍しすぎだ。……ん? 依頼を持ってきたのがダオロンとやらの手先と言ったな。つまりはそいつの依頼というわけか?」
 それならば合点がいく。何らかの理由でその手先が私憤を抱き、親玉の暗殺を依頼してきた、というのだったら話に一本筋が通る。
 だがダンカスは首を振った。
「違うんだよ旦那。わからねぇかな、ダオロン老は自分を殺してほしいって依頼を手下に持たせたんだ」
「なんなんだ、それは」
 意味がわからない。
 自分を殺すのに金を払う老人? そんなに死にたいなら首でも括ればいい話だ。わざわざ金を払って人に頼むことではない。
「実を言うと、オイラにも詳しいこたぁわからねぇんだ。……おかわり、いるかい?」
 俺は、ああ、と答える。これが飲まずにいられるか。
 自殺に手を貸せ、というのか。それで金をもらえるならば、それはそれでうまい話ではある。
 とりあえず俺には今、金が必要だった。ダンカスからもらった金も底を尽きかけている。そろそろ仕事がなければ、食うに困ることになりそうだった。
「なんだって自分を殺すなんて妙な仕事を依頼したきたのか、それはオイラにもわからねぇ。だけど、ファレイの旦那の噂が巷を賑わしてるってのは本当のことなんだ。『あの切れ味なら、殺された方は殺されたことにも気付かなかったんじゃないか』なぁんて言う奴もいるくらいでな。要はそういうことなんじゃねぇかな」
「つまり、どういうことだ」
「だからよぉ、ダオロンの爺いはなんか病に冒されてるかどうかして、苦しまずに死にたいってことだよ。旦那の腕ならそれが出来るって踏んだんじゃねぇか?」
 なるほど、そう言われればなんとなく納得がいく気がした。確かに俺の腕ならば、苦しまずに一撃であの世に送ってやることが可能だろう。それが戦場での慈悲というものだと、俺は傭兵ギルドで学んだ。
 ところで。
「どういう状況で殺せばいいんだ? そのダオロンとやらはどこで待っている」
 俺が問うと、ダンカスは急に腕組みをしてため息をついた。
「そこよ、問題は」
「問題?」
「ああ、ダオロン老は、自分が暗殺されることを望んでるんだ。つまり、状況はどんなところでも構わない」
 なんだ、それならば簡単じゃないか。俺は思わずそう言おうとした。
 ところが、ダンカスの言う問題は簡単なものではなかった。
「忘れたかい、ダオロン老は今までに散々ぱら敵を闇に屠ってきた武闘派の悪党のてっぺんだ。そんな野郎が、護衛もつけずにウロウロ出歩くと思うかい?」
「……無いな。ありえない」
「そうだろう? 事実、ダオロン老は年中、用心棒を十人以上は従えてる。それも腕利きのワルばかりさ。旦那は、そいつらを敵に回して、大立ち回りを演じなくちゃならねぇ」
「なんでだ。死にたい奴がなんだって護衛なんてつけるんだ」
「旦那に殺されるならば、それはいいんだ。だけど、他の連中に捕まったなら一瞬で殺してもらえる訳はねぇ。途轍もねぇ拷問が待ってるだろうよ。ダオロン老はそれだけ人の恨みを買ってるってわけさ。そして、老には旦那と他の敵を見分ける術がない……どうだい、やってくれるかい」
 ダンカスは決断を迫って来る。
 俺は考えた。
 十人以上の護衛が付いている敵を討つのに、どれだけの労力が必要になるか。
 何も全員を倒す必要はない、敵の中心にいると思われるダオロンだけを討てばいいのだ。しかしそれでも、二、三人の敵を撃ち破る必要がある。敵がどんな陣容で待ち構えているかによって、作戦も変わってくるだろう。
 何にせよ、情報が必要だった。今持っている情報だけでは、あまりにも心許ない。
「情報が必要だ。何か手はないか」
「情報ねぇ……、情報屋の心当たりが無いこともないが、費用は旦那持ちだぜ」
「それでも構わない。ところで、報酬は幾らだ」
 とりあえず確認する。報酬如何によっては受ける価値もない仕事だ。
「ラージアラ金貨で五十枚。これが前金だぜ、旦那。残りの半金は無事に標的を討ち果たした時に支払われるってぇ話だ。報酬に関しては、何も心配いらねぇ」
 ラージアラ金貨。それはジクザル金貨の二倍の価値を持つとされる古い金貨だった。新金のジクザルは地金に二分五厘の混ぜものが入っている。そのため、大きな取引にはより金の純度の濃いラージアラ金貨が用いられることが多かった。
 いよいよもって、この冗談めいた依頼が信憑性を増してきたように感じる。
 俺は軽く酒の回った頭で、ラージアラ金貨三十枚を受け取ると、フェリユに何を買ってやろうか、とそれだけを考えていた。



「奴は用心深さに定評のある男ですぜ」
 ダンカスから紹介を受けた情報屋は、猫の目のようにコロコロと表情を変える小男だった。黒のジャケットが妙にキリッとした印象を持たせている。
「あの男を殺るってんだったら、百人の兵隊が必要だぁ。旦那、そんなアテはあるんですかい?」
「生憎と、無いな。それに、そんなものを雇う気もない。俺が一人で斬る」
 俺と情報屋ナートが言葉を交わすのは、『紅の虹』に似た安酒場『騎士団』である。内装に騎士の用いる全身鎧が陳列されているという不気味な店であった。
 時刻はもうアルテの刻を過ぎて、夕暮れが押し迫る時間帯であった。
 ナートは笑う。卑屈な笑いだ。俺はこいつもなんとなく好きになれない。
「冗談きついや、旦那」
「俺は冗談など言わん。それよりも奴の一日の行動と、護衛役の面々のそれぞれの役割を教えろ。高い金を払うんだ、できるだけ詳しくな」
 事実、俺はナートにラージアラ金貨二枚を握らせていた。決して安い金ではない。養わなければならない家族を持つ俺にしてみれば尚更だった。
 俺が先程からナートのトロくさく面倒な口振りにイライラしているのは、早く家に帰ってフェリユに食事を作ってやらなければならないからであった。いつもならばもうアルテの刻には食事の支度を済ませ、一緒に簡素な料理をぱくついている頃だ。
「そりゃ、調べますわ。調べますけれど、本当に一人で奴らを敵に回すつもりですかい? ……命知らずもいいとこだぜ、おっさん」
 このように先程から言葉遣いがコロコロと変わる。腹が立つが、こいつを叩き斬っても金にはならない。余計な罪状が増えるだけだ。
「いつまでに調べられる」
「明日にはあたりをつけて、明後日までには詳しくお伝えしますぜ旦那。……俺の仕事が無駄にならなきゃいいなぁ、けけけ」
 剣の柄に掛けた手がピクピクと疼いたが、俺は黙って立ち上がる。
「明後日の同じ時刻に、またここでお待ちしてます。……首を洗って待ってな」
 俺はその声に振り返らなかった。



「ふえぇん、イー!」
 泣きじゃくる声が、家に帰りついた俺を迎えた。
「なんだなんだ、どうしたフェリユ」
「ふえぇん!」
 泣くばかりでは何が何やらわからない。どこかに怪我でもしたのか。フェリユの身体を眺めるが、服の下に怪我があるかまでは俺にもわからない。
 泣きながら、少女は俺に抱きついてきた。それを黙って受け止めていると、なんとなくフェリユの感情が俺の中に流れ込んでくるような気がした。
「そうか、寂しかったのか」
 思えば二人で生活を初めて以来、こんなに長い間家を留守にしたことはない。普段は昼過ぎに仕事を求めて『紅の虹』に顔を出して、食材を買い込んですぐに帰宅するから、こんなに待たせたことはこれまで無かった。
 いつも俺が外へ出るのを必死で止めようとして泣く、フェリユ。これにはもしかしたら彼女の過去に、何らかの原因があるのかもしれない。俺はそう思った。どこかに取り残されたとか、親が出て行ったっきり帰ってこなかったとか。
 俺は出来るだけ平然と、「ただいま、フェリユ」とただそれだけを繰り返す。そうしているうちに、彼女の泣き顔が少しずつ平静になってくる。
「今から食事を作るのは時間がかかるから、どこかに食べに行こうか」
 俺がそう言うと、現金なもので、フェリユの顔にパーっと笑みが広がっていく。彼女はどうやら外食好きらしい。俺の料理がそれだけ下手だということか?
 首輪を付けた少女と中年に差し掛かる男が外で二人で食事を摂るという光景は、他人の目からしたら相当異様だと思われるが、それでもフェリユが喜んでくれるのなら構わなかった。
「よし、行こうか」
 俺がそう声をかけると、フェリユは大きな声で「うん!」と言った。



 情報屋ナートと再び『騎士団』で顔を合わせたのは、二日後のことだった。
 嫌いなタイプの男ではあったが、その仕事ぶりには目を剥いた。
 ダオロン老の護衛役総勢二十六人全員の仔細な情報が書かれたメモと、ダオロンの個人情報と一日の生活の流れを記した詳細なメモ。どちらも俺が求めていた以上の情報だった。
「これでよろしかったですかねぇ……いいに決まってんだろ、俺を誰だと思ってんだ」
「文句はない。いい仕事をしてくれた」
 俺は手放しに褒めた。それでもナートはいい顔をしない。
 とりあえず、護衛役の情報が記されたメモに目を通す。
 槍使いジャイアス、斧使いステラグェン、魔術師トーガスタなど、見聞きしたことのある名前がゴロゴロといることにまず驚いた。いずれも一流の傭兵として戦地で活躍した人物ばかりだったからだ。どの人物も、相当な手練であることは言うまでもない。最近名前を聞かないと思ったら、こんなところで働いていたのか。俺は自分のことを棚に上げて、元傭兵の末路の惨めさを嘆かわしく思った。雇われの身を嫌って就いた稼業だというのに、なんということか。
 その面々の情報を見て軽く目眩がした。こんな一流どころを相手にしなければならないのか、と。しかも、俺の苦手な兵種である魔術師が内に三人も含まれている。それもトーガスタなど、一流の魔術師が。
 続いて、ダオロン老の生活の流れを書き込んだメモに目を通す。
 ダオロン老は現在四十九歳。老人とは言いにくい年齢だが、おそらく『老』というのは敬称なのであろう。
 病気らしい病気を持たず、健康そのものらしい。ラルージャ随一の広さを誇る邸宅に住み、毎日の日課は自分好みの花を植えた花壇の周りを走ることらしい。午前中のルヴァの刻に必ずこの走る時間があり、その他の日課は必ずしも一定していない。邸宅の敷地外に仕事で出かけることもあれば、一日中屋敷に篭ることもある。
 ……ダンカスの言っていたのとは違うな。俺は思った。
 病気で死にかけの老人、というのはどうやら間違いらしかった。そもそもダオロンは老人ですらない。むしろ健康的な壮年男性ではないか。情報屋を通して良かったと、俺はつくづく思った。
 それにしても。
「本当に、一人でダオロンを殺る気ですかい? ……そんなの無理に決まってんだろ、ボケが」
 確かに、ナートの言うことにも頷けた。言い方は気に食わないが、彼の言うことには道理がある。
 この剣で、俺はダオロンを斬れるのか。
 自信は無かった。
 一流の傭兵部隊に擁護されていることが問題なのではない。死地をくぐり抜けてきた勘が、その陣容を突破するのが不可能ではないと語っていた。苦手な魔術師三名も、なんとか出来るだけの自信はあった。
 けれど、環境が気に入らない。情報によれば、ダオロンの邸宅には高さ三リュークの塀が巡らされており、飛竜でも使わない限りその壁を乗り越えるのは不可能だ。三リュークといえば俺の身の丈の五倍以上の高さなのだ。そして、正門には当然門衛がいる。門衛には老の護衛役から三名選ばれるということらしかった。
 護衛は二交替で構成されており、常に十名の護衛がダオロンの身の周りに侍っている。
 確実に狙える場面は、ルヴァの刻のジョギングの時間だ。
 しかしそれを狙おうと思えば、まず門衛三名を倒し、その伝令を受けた衛士十名の後ろに隠れているダオロンを討つ、という無理難題になってしまう。死を覚悟しているらしいダオロンだが、死に際してどんな抵抗をしないとも限らない。衛士十名を相手にしている間に逃げ去られてしまっては元も子もないのである。
「難しいな」
 この状況では奇襲を掛けるのも難しい。小型の飛竜を借りて三リュークの塀を乗り越えて攻撃を仕掛けたとしても、それでは槍と弓と魔術の餌食になるのは目に見えていた。何より、飛竜のレンタルは半日で五万ブルツもかかる。無駄な出費は控えたい俺としては選べない選択肢だった。
 ダオロンは難攻不落の城の中にいるようなものだ。その生命を奪うのはそう簡単なことではない。
 だが、隙が無いとは言い切れない。
「ナート、この情報をどうやって手に入れた?」
 そこに隙がある。そう思った。
 問われたナートは面倒そうな顔をして応ずる。こいつの横柄な態度にもどうにか慣れてきた。
「どうやってって、そりゃ企業秘密ですわ。……簡単に教える訳ねぇだろ」
「そこを曲げて教えてほしい。これは重要な問題だ」
 ますます面倒そうな表情になったナートだが、その手に金貨を握らせると俄かに表情が変わった。
「仕方ねぇな、情報元を教えるのは情報屋としちゃタブーなんだが」
「すまないな、今はそんなことにこだわっている場合じゃないんだ」
 そう俺が言うと、ナートは俺の前に更にもう一枚のメモを差し出した。
「こいつに全て書いてある。……俺はもう行くぜ、これ以上関わったら俺まであぶねぇ」
「感謝する」
 立ち去っていくナートを目端で追いながら、俺は最後の一枚のメモに目を通した。
「これは……」
 俺は思わず声を漏らした。
 そこには重要な事実が記されていたのだ。
 嘆息して、ナートの背中を目で追った。
 しかしそこにはもうナートの影すら無かった。


 
 俺は、広大な庭の中に立っていた。傍にはダオロン老がお気に入りだという花畑がある。色とりどりの花が咲いていた。
 待っている。ただその男がやってくるのを。
 鞘は既に払ってあった。いつでも斬れる。覚悟も固まっていた。
 俺は待ちながら、一度目の人斬りでもこんな待ち伏せをしたな、と思い返していた。どうやら俺は待ち伏せと縁があるらしい。
 時鐘が、ルヴァの刻限を告げた。陽の光が天頂に近づきつつある。こんな刻限にジョギングなどと、随分と健康的な男がいたものだ。それも自分のためだけに作った花壇の周りを回るなど、庶民には想像もつかない。
 やがて、その時が来た。
 一人の男が、後ろに十名の下僕を従えて、こちらに走ってくる。男は軽装で、肌身の見える短いズボンやシャツなどがいかにも健康的に見えた。
 その男が、俺の存在に気付いて立ち止まる。
 俺は鉄の全身鎧を身に着けていた。鉄兜をかぶっていては警戒の目を受けるのも無理はない。
 駆け出す。
 一撃で仕留める。
 男の脇から完全武装の男達が現れた。見たことのある鎧の姿もちらほらと見受けられる。
 まずは手斧を持った革鎧の男が俺の前に立ちはだかった。
 振りかぶる片手斧を見ると、刹那に俺は逆胴を払った。どう、と男は倒れる。
 その様子を見ていてなお、勇猛な男達は俺の前に出た。
 遠くから詠唱の声が聞こえる。
 まずい、魔術だ。魔導武装していない俺が魔術を受ければ、平気では済まない。
 二人目の男の脳天を斬り下げたあと、俺は即座に集団をすりぬけて魔術師目掛けて走った。魔術師は陣の後方にいて、軽装なのですぐにわかる。
 その男を見つけた時、俺は迷わず突きを繰り出していた。間一髪、間に合う。詠唱は全て終えられなかった。喉を抉られた魔術師は悶絶している。
 そのすぐ後ろに、ダオロンと思しき半袖の男がいた。恐怖のためか、倒れ込んでいる。
 しかし、背後からの圧力で俺は剣を振るえない。その余裕がない。
 反転した俺は、弓使いの矢を脇腹に受けた。鎧に鋭い矢尻が突き刺さる。痛みが走ったが、構ってはいられない。
 槍使いの間合いから自分の間合いにすっと詰め寄った俺は、槍の穂先を器用に切り落とす。これで槍は無力化出来た。
 残り八人。厳しい戦いだ。三方向から同時に攻め掛かられ、俺は退かざるを得ない。
 斬れる剣といえど、血がまとわりつけば切れ味は鈍っていく。自然、俺は突きを多用するようになった。
 鋼の鎧を突き通すことは容易ではない。当てどころを間違えば、こちらの剣が折れてしまいかねない。
 槍使いの槍を更に二振り無力化して、残り六人にまで敵を減らした時、背後で何かの気配を感じた。
 ダオロンが悲鳴を上げ、怖気づきながらも逃げようとしている、それが背中に感じられた。
 やはり。ナートのメモの通りだ。こいつは死ぬことを望んでいない。
 そこで俺は、正面の敵を背にしてダオロンの元まで駆け寄った。鉄鎧のせいで身体は重いが、それでも脚力ではこんな男に負けはしない。俺はダオロンの背後に回り込み、首に剣を突きつけた。
「動くなっ、動けばこいつの命はない」
 そう叫ぶと、ダオロンの下僕の動きが止まった。どうやら元傭兵には似合わず、主人には忠実らしい。いつからこいつらは犬に成り下がったのか。我々は狼だったはずなのに。
 ダオロンは全身を震わせている。やはりそれは、死を覚悟した人間の態度ではなかった。
「な、何が望みだ」
 依頼通りならば、こいつを一太刀で斬り伏せれば全てが終わりだ。今すぐにでもそれは可能だ。 
 しかし、ここまで見てきて、それでは終わらないことがわかっていた。
「金だ。金を用意しろ」
「金だと? 幾らだ、早く言え」
「ラージアラ金貨五十枚。それと、連中に武器を捨てるように言え」
 俺がそう言い放つと、男達は手に持っていた得物をそれぞれ地面に転がした。ここまで誇りを捨て去っているとは。俺が言えた義理ではないが、かつての同業者がこうまで傭兵の矜持を失っているとは、信じたくなかった。
 いや、と俺は考えを打ち消す。俺の腕の中で震えているこのダオロンという男がそれだけ魅力的だということなのかもしれない。俺には全くどこが魅力的なのかはわからないが。
 ならばなおのこと、この男を死なせて、元仲間を路頭に迷わせることは避けなければならない。
 ダオロンは従者に命じて、すぐさま金貨を用意させた。俺は革袋に入ったそれを受け取ると、来た道を引き返す。
「貴様、この俺にこれだけのことをして、ただで済むとは思うなよ」
 ダオロンの捨て台詞を背中で聞きながら、俺は悠然と邸宅を後にした。



「なんてこった。じゃあオイラが謀られたってぇのかい」
 『紅の虹』の奥の部屋で、俺はダンカスの用意した酒を浴びるように飲んでいた。
「ああ、そのとおりだ。……お陰で死ぬところだったぞ」
「そんな」
「まあ、予定通り金は手に入った。この金はまるっと俺が貰い受けるぞ」
 ダンカスは反論する気にもならないようで、頷くしかなかった。
 それにしても、手の込んだ仕掛けだった。そう俺は振り返る。
 依頼はニセモノだったのだ。初めて聞いた時からきな臭い感じはしていたが、やはりそのとおりだった。
 ナートの情報は、九天老ワイリーから出たものだった。このワイリーという男、表面上は同じ九天老として親しく接していたが、実は背後でダオロン暗殺を目論んでいたらしい。そのために、ダオロン邸にスパイを忍ばせていたという念の入りようだ。ナートの情報は全てそのスパイの知り得た情報だったのだ。
 実際、俺の全く知らなかったことだが、九天老達の間では表面的には平和共存主義がまかり通っているが、背後での鍔迫り合いが著しいらしい。中でもダオロンは暗殺を手段として自分の意思を押し通すことで有名らしかった。その態度を煙たがる人物がいてもおかしくはない。
「じゃあ何かい、あの、オイラのところへやって来た使者ってのは」
「ああ、真っ赤なニセモノだよ。その証拠に、俺が一太刀で敵を斬るのを見てもダオロンは逃げようとした。一瞬の死を覚悟している人間ならば、そんなことをするとは思えない」
「なんだってしかし、そんな七面倒臭いことをしやがったんだ、そのニセモノは」
 俺はジョッキを空けて、ダンカスに手渡す。
「どっちに転んでもいいように、だろう。もし俺がダオロンを仕留めたら万々歳、あるいは俺が捕らえられて依頼について語ったところで、本当の依頼主の名前は出てこない。なんせ、俺は本人から依頼を受けて殺しを行おうとしたわけだからな」
「……なんてこった」
「それは俺の台詞だ。この落とし前をどうつけてくれる?」
 剣の柄に手をかけて、笑う。ダンカスは慌てて両手を振った。酔った時にはこいつの過剰な身振りも小気味いい。
「それにしても、なんだって旦那はそんな罠にわざわざ飛び込むような真似をしたんですかい? 死にに行くようなもんだ」
 俺は思わず笑った。その笑顔にダンカスは身震いしている。
 俺がわざわざその罠に乗った理由は主に二つある。
 一つは、回収不能な依頼の半金を手に入れるためだ。真の依頼主はおそらくワイリーという男だろうが、その男から残りの金を受け取るのは不可能だろう。それならばいっそ、標的を人質に取って、金をむしり取ってやろうと思ったのだ。
 もう一つは、この稼業では大切な外聞を悪化させない為の布石だった。ダオロンの所でなんらかの事件が起こらなければ、俺が怖気づいたことになる。一度受けた依頼をこなさず前金だけを受け取ったとなれば、依頼主であるワイリーが俺の評判を汚しかねない。九天老とはそういう影響力を持っているということが、今回のことでよくわかった。ワイリーが表立って騒ぐことはないだろうが、噂ぐらいにはなる。人斬り稼業自体がまだ噂程度のレベルなのだ。悪評が立つことはどうしても避けなければならなかった。
 無論、今回俺はダオロンを討ち漏らしたことになる。
 しかしこの街でも最も恐れられている男に、単身で歯向かったという事実は確かに残される。いくらダオロンが隠そうとしても、人の口に戸は立てられない。必ず裏社会で噂が広がることだろう。
「うーん。でも、わからねぇなぁ。旦那はどうやって、あの砦みてぇな屋敷に忍び込んだんだい? 正門は閉ざされてたんだろ?」
「正門があるということは裏門があるということだ。裏門にも門衛がいたが、そいつらこそがワイリーの仕込んだスパイだったのさ。ワイリーの命令でダオロンを討ちに来たと伝えたら、鉄鎧を着た姿でも通してくれたよ。まあこんな偶然はそうそう起こることじゃないだろうけどな」
 俺は笑うしかない。今回は本当に運が俺に味方してくれたとしか言いようがない。
 ナートの情報には本当に助けられた。お陰で暗殺者の仕事を失わず、金を得ることも出来た。
 今日はナートに感謝の言葉を伝えたかったのだが、あいにく彼はワイリーの脅威を恐れてしばらく雲隠れしているらしい。奴の憎たらしい顔を見たかったのだが、それは仕方のないことだ。奴にとっては俺は一人の客でしかない。その客のために命を懸ける必要などないのだ。
「……はあぁ。なんだかすげぇ話になっちまったな」
 ダンカスが呟く。確かに、話は俺の想像を遥かに超えていた。現実社会がこれほど複雑だとは、俺も今日の今日まで思わなかった。
 俺は、ダオロンの屋敷で見た元傭兵達の姿を思い出した。
 形は違えど、生き方を変えた仲間達だ。狼達は牙を抜かれて、みすぼらしい犬に成り下がったのだ。
 俺も同じだろうか、と考えて首を振る。俺は誰にも飼われてはいない。このダンカスさえ、本当の俺の威を知りはしない。
 脇腹の傷が疼いた。文字通り、一矢報いられた。鉄鎧を突き破るだけの力を奴らはまだ持っているのだ。それが唯一心の救いのように思えた。
 財布の革袋を取り出して、金貨を齧る。ふと何気なくやったことだった。
「……んっ!?」
「どうしたい、旦那」
「これは、……贋金だ!」
「なぁにぃ!」
 それを証拠に、齧ったあとからボロボロと鉄くずのようなものがこぼれ落ちる。
「やられた……、あの野郎、あの場面でよくもこんな芸当を」
 俺は膝を打った。ダオロンのこすっからい手にまんまと騙されたのだ。あの命懸けの場面でよくもこんな芸当をやってのけたものだ。
 じゃあ、俺のやったことの意味は……。
 考えるのが嫌になった。
 それでもまあ、この世界で腕を売っていくだけの評判の元を得たのだ。収穫はゼロではない。前金だってもらっている。あれは本物だった。
「ガハハ! まあ旦那、心配いらねぇって。オイラがまたいい仕事を探し出してやるからよっ」
 ダンカスの口癖が出た時、俺は軽く泣きそうになるのを感じた。脇腹がやけに痛い。
 こんなことで、これからやっていけるのだろうか。俺は大いに不安を覚えて酒樽によしかかっていた。




 続く。










2014/12/09(Tue)13:45:17 公開 / 夏海
■この作品の著作権は夏海さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 北の大地は大変寒うございますが、皆様の地域は如何でしょう。ストーブを焚くよりも厚着をしてこの冬を乗り越えようという気概の夏海です(相変わらず、何言ってんの

 予定調和を目指した第二章でしたが、いかがでしたでしょうか。もう少しやりようもあるのかな、と思いつつの投稿で心苦しい限りです。 

 それではお読み頂きありがとうございました。ご感想、アドバイスなど頂けると尚一層創作に張り合いが出ます、それでは失礼致します。
この作品に対する感想 - 昇順
 こんばんは、夏海様。上野文です。
「暗殺請け負った時点で傭兵の誇りもなにもないよね(つд⊂)」と、イス=ファレイさんの足元さだまらずっぷりに頭を抱えましたが、本人も自覚してるし、金がなきゃそうもいうてられませんものね。
 フェリユちゃんとの出会い、ダンカスさんとの契約、といい感じの滑り出しだと思いました。
 面白かったです!
 今後は梅安センセや、仕事人的な進み方をするのでしょうか?
 英雄ならざる剣客の物語ということで、続きがとても楽しみです!
2014/12/06(Sat)17:29:580点上野文
>上野文様、お読み頂きありがとうございます。
 そうそう、ファレイ君はだいぶ足元グラつきまくりですが、それでも前作に比べれば主人公の主人公たる所以がわかって頂けるかと(苦笑 金が無いって切ないですねぇ……。
 フェリユちゃんに謎の眼を与えたり、ダンカスさんに変な口癖を作ったり、色々大変ですが、面白いと言って頂けて非常に光栄です。
 今後はタイトルが『狼』だけに、「大五郎」「ちゃーん」な展開になるかもしれませんね(そりゃないわ
 勇者でもなんでもないフツーよりちょっと腕っぷしに自信があるだけの男の活躍(?)にどうぞご期待くださいませませ。
 お読み頂きありがとうございました。それでは。
2014/12/08(Mon)11:16:090点夏海
 作品を読ませていただきました。
 おお、剣客物(?)ですか! 突然ですが、僕、藤沢周平の小説が大好きなんですよ。映画化もされた『蝉しぐれ』が一番好きかな。小説はもちろん、映画も観ました。あの映画を観て、『ピタットハウスの人』というイメージしかなかった水野真紀が大好きになりました。クライマックスで彼女を送り届ける時、叶わぬ想いを胸に秘めて口づけを交わす……。くぅ〜、胸が切なくなりますね!
 彼の作品には秘剣がよく出てきますよね。鬼の爪とか、『蝉しぐれ』なら村雨とかですか。秘剣――人に見られてはいけない剣術の奥義。だから使うのは必殺を誓ったときのみ。燃えます! この作品の主人公はそういう必殺技とかないのかな〜(←ノリで言っているだけなので気にしないでくださいw)。
 お話の感想としては、ダオロン暗殺の依頼が来た辺りで「おお!」ってなりました。病に冒されているかもという情報のあとに、ジョギングしていると聞いて、嫌な予感はしていましたが、やっぱり陰謀でしたか。これ主人公の身は大丈夫なんでしょうか。金銭的な問題はありますが、街から出ないと大変なことになりそう。
 主人公は傭兵にしては甘ちゃんですね。でも、それが主人公の味と言うことで納得して読み進めました。これからフェリユちゃんをちゃんと育てていけるのでしょうか。状況はどんどん拙くなっていますし、フェリユちゃんに危害が及ばないか心配です。そもそも傭兵崩れにまともな育児ができるのか……? 今のところすごく普通に育てていますが、今後どうなるのか、これもちょっと心配。でも夏海様はそんなに外道な展開を書かないという謎のイメージが僕の中にありますので、フェリユちゃんについては大丈夫かな。
 さて、これからどんどん物語の本筋に入っていくことになりますね! 続きが楽しみです! 次回更新、お待ちしています! ピンク色伯爵でした。
2014/12/09(Tue)19:45:300点ピンク色伯爵
>ピンク色伯爵様、お読み頂きありがとうございます。
 藤沢周平かぁ……、いくつかの作品は読んでいますが、『蝉しぐれ』は読んでないなぁ。お話についていけず不甲斐ない限りです。今度読んでみよっと。参考になる意見をありがとうございます。ちなみに秘剣については登場の予定はありません。おっしゃるとおり、そこに男のロマンがあるのは重々承知ですが、剣術が市民権を得ていないこの世界観で秘剣などを登場させたりすると、作品がこじつけの漫画みたいにになってしまうのは否めないので、その上おっしゃるとおり、主人公は純然たる剣客ではなく傭兵崩れですので、自己流の剣術で修羅場をくぐり抜けていく方がそれっぽいかなぁと個人的には思うので、多分秘剣や秘奥義などは出ません。あしからず。
 ダオロン暗殺の一件は、作品の背後に遺恨を残す為の布石の一つとして考えています。そういう伏線が多数あった方が読者様との一体感が生まれるかな、と思いまして。試験的に導入した一章であります。ジョギング、というワードが少し作品と乖離していて、もう少し書きようがなかったかと後悔しているところです。
 上野文様のご感想のお返しに書いてある通り、「大五郎」「ちゃーん」的な要素がこの作品には含まれています。主人公の弱点として、フェリユというキャラクターを持ってきた部分もあるので、そこをこれからどう活かすかは私次第ですね。前作で十分鬼畜なエンディングを演出しているので、伯爵様のイメージを裏切る可能性は大ですが、そこはまあ、それとして(苦笑
 私の中のイメージとしてはこれから更に作品を膨らませて、短編連作に近い形で作品を続けていきたいと思うので、もう少し雑感が続くかな、と思います。今後もお付き合い願えれば幸いです! 以上、夏海でした!
2014/12/10(Wed)10:46:290点夏海
 こんにちは。序章〜第二章まで読ませていただきました。
・序章
 暗殺の場面、手に汗握る展開でよかったです。イスの一人称で丁寧につづられる情景、世界観の描写が魅力的ですね。少女の正体については今後に持ち越しというところでしょうか。
・第一章
 おじいさんにせがまれて昔話を語るという構成が秀逸ですね。うまく主人公の境遇を説明できている……! 謎の剣士、再登場ありそうですね。欲をいうなら、もう少しオチらしきものがほしかったかなと。イスの話と同様、この章も尻切れトンボで終わってしまった感があります。たとえば文具屋のおじいさんが実は……みたいな展開でもよかったのではと思います。
・第二章
 依頼→調査→事件解決→相棒の前で種明かし、この流れどこかで見たことあるなあと思ったら、ホームズですね! いやホームズに限らず一種の「型」なのかもしれませんが……うまくまとまっている分、ちょっと味気なさも感じました。でも内容はすごくおもしろかったです。一匹狼っていうと、ぼくは何となくホームズとかルパンを想像しちゃいます。自分の頭脳と腕っぷしだけで敵と渡りあう姿、かっこいいですよね。
 次はどんな話になるのか、楽しみにしています。
2014/12/11(Thu)07:33:351ゆうら 佑
>ゆうら 佑様、お読み頂きありがとうございます。
 暗殺の場面に手に汗握って頂けて光栄です。いかにして緊張感と切迫感を描くかがテーマでしたので、文章をなるだけ簡略化したり、擬音を使ったりと少しこだわりました。伝わってくれて助かりました。
 第一章については、主人公の過去について描くことに終始している章でした。無理にでもオチをつけるべきだったかと今更ながらに悔いています。一応は一話完結的な作品を目指しているので、この章だけでは作品として成立しないですよね。謎の剣士の再登場は、もちろんそのための伏線ですから……これ以上は作中で語ることに致しましょう。
 第三章についてはコメントした通り、予定調和をテーマに書きました。それが一つの型に近くなるのは否めません。多分一番影響を受けているのは池波正太郎先生ですので、その型にはまってしまった感じはあるかもしれませんが、今後も同じ形式ばかりを使うわけではないので飽きることはないように心がけたいと思います。
 意外にホームズって読んでないんですよね(苦笑)。英訳モノってどうも入り込むのが難しくて……。やはり私の中で狼といえば「大五郎」「ちゃーん」ですねぇ(笑 一匹狼として主人公がどのように活躍していくのか、今後の展開にどうぞご期待下さい、応えられるか自信はありませんが(汗
 ご評価とご感想をありがとうございました。今後もお付き合い願えれば幸いです。
2014/12/11(Thu)10:36:410点夏海
合計1
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除