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『呪いの木』 作者:江保場狂壱 / ショート*2 ホラー
全角3944.5文字
容量7889 bytes
原稿用紙約11.85枚
「ふ〜、きついなぁ。でもあと少しだ」
夏も終わろうとする時期、山奥に一人の青年が歩いていた。一応登山に必要な服装を着ている。
 舗装などされていない道を青年はひたすら歩く。
 一歩ずつ、一歩ずつ進んでいく。額から滝のように汗が流れ出る。それを汗と埃まみれになったスポーツタオルで拭う。時折水筒からスポーツ飲料をちびちびと飲む。朝からずっと歩き続けて、足が棒だ。それでも歩みを止めないのは身体の感覚がマヒしているかもしれない。
 登山で有名な山ではない。交通の便が不便なので民家などひとつもなかった。
 途中で青年は蝉の死骸を見つけた。泣き疲れて死んだ蝉が地面の上に仰向けになって落ちている。
 それを鴉が降りてきて、蝉の死骸をくちばしで咥えるとそのまま飛び去った。
 七年近くも地面の中にいて、やっと日の当たる場所に出れたと思ったら、たった一週間しか生きられない。ただ耳がつんざくような泣き声をあげ、人を不愉快にさせるだけの存在。
 それは鴉や野鳥の腹を満たすために生まれてきたのだと、青年こと、山田太郎はそう思った。おそらく山の中には蝉だけではなく、虫の死骸がごろごろと転がっているだろう。
 そして死骸はやがて落葉に埋もれ、腐っていく。そして森の命に生まれ変わるのだ。
 野鳥に喰われたら、いずれ糞として排泄される。それもまた森の命にかかわっている。
 森の命はそうやってちっぽけな虫の命に支えられている。太郎はそう考えるようになった。
 太郎が山を登ったのはよくある理由だ。
 会社の仕事がつらい。上司や同僚の関係に疲れた。
 人生が面白くない。自分は何のために生まれて来たのかわからない。
 知人に年収七五〇万のIT企業に勤めている男がいるが、そいつでさえ人生が不安だというのだ。人生はまさに一寸先は闇。自分の職場もいつおじゃんになるかわからないらしい。
 要は気分転換に山に登っただけである。つらい現実から逃げ出してきたわけだ。
 太郎は煙草も吸わないし、酒も飲まなかった。テレビは嫌いだし、インターネットは接続できるが、最近は気分が悪くなったのでやっていない。
 唯一の楽しみが休日の登山であった。それだけでも健康的だが、会社の同僚には一切話したことがなかった。勝手に自分の趣味を暴露され、話のネタにされたからだ。別に悪意などはなく、太郎と話をしやすくなったと思っているだけだが、太郎はそう思わないのだ。

「おお、相変わらず不気味なところだなぁ」
 太郎は三時間ほど歩いた。そして頂上にたどり着く。そこには大きな沼があった。
 沼には枯れ木が死人の手足のようにニョッキリと浮かんでおり、草はまるで吹き出物のようにうじゃうじゃと生えていた。神秘的というより、どこか薄気味悪さを感じた。まるで三途の川が実在すればこんな雰囲気ではないか。川ではなく沼なのに太郎は漠然とそんな考えが浮かぶのである。
小島に樹齢千年は超えていそうな大木がある。太郎はそこへ行った。休むためだ。
橋などない。水面に出ている石をぴょんぴょん飛び移って、島に向かう。
 その大木に名前はない。とにかく太郎は木陰に入って休みたかったのである。
 ここへは何度も来ていた。とはいえ年に一度程度だ。
 だが大木の近くに寄って休もうと思ったのは今回が初めてである。
 なんとなくだが薄気味悪いのだ。大地にどっしりと根を張り、王者のように枝を大きく広げ、太陽の日差しを浴びる。そんな大木だが、どこか薄気味悪いものを感じるのだ。
 それは地面の裂け目から地獄の鬼がひょっこり浮き出たような、人を喰らおうと大きな両腕を広げて手招きしている気がするのだ。
 いつもなら大木を見て、別の場所で一休みしていた。小島はおろか、沼にも近づく気はなかったのだ。
 それでも太郎は大木の下に行った。とにかく疲労がひどく、木陰の下で眠りたかったのだ。
 それに誰かが自分を呼んでいる気がするのだ。それは男か女かもわからない。ただやたらと間延びする声で、おいで、おいでと呼んでいるのである。
 太郎とて甘い話は疑う頭はある。だが自分を呼ぶ声、いや子守唄のように眠気を誘う、そんな声なのだ。
そして太郎は泥のように寝た。
 
「うわぁ、こいつはいったいどういうわけだ」
 太郎は夢を見た。立っているのに、動くことはできないのだ。まるで自分の足元に蝋を流され、コチコチに固められたように。そして助けを呼ぼうとしても声が出ない。口には何も詰まっていないのに、首を絞められたかのような感覚である。
 それでいて目の前には自分が味気ない能面のように薄気味悪く笑っているのだ。
 太郎は悪夢を見て起き上がった。だが声が出なかった。汗もかいていない。
 いったいどういうわけだろうか。すると目の前に一人の男が立っている。
 太郎はその姿に見覚えがあった。それは自分である。
 はてな、自分が自分を見ているぞ。これはどういうわけだろう? もしかして大きな鏡が置かれていて、反射された自分の姿を見ているのかもしれないな。それほど太郎の考えは現実感がなかったのだ。
「ひっひっひ。ここに来てくれてありがとうよ。おかげで儂はここから出ることができる」
 それは自分の声だ。子供の頃に自分の声を録音して聴いたような感じである。
「儂はなぁ、この大木の呪いにかけられた哀れな男じゃよ。この木は人生に膿み付かれた人間の魂を取り込む性質があるのじゃ。交代するには別の人間が必要なのじゃが、ここ百年はこの木の妖気を恐れて誰も近寄らぬ。いくら儂が招きよせて人が来ても、この地にしみ込んだ山の陰気に恐れをなし、ここまで来ないのだ。だがお前さんが来てくれてよかったわい。これで儂は自由じゃ。ではさようなら!!」
 自分はそう言って背を向けて去って行った。
 百年? あの男はそう言っていた。自分はこの木に囚われてしまったのか?
 百年。別な人間が来るのはいつになるだろう。
 自分の物がすべて失われたのだ。あの男にすべてを奪われたのである。
 家も、家族も、社会的地位もすべて根こそぎ取られたのだ。
 周りには誰もいない。自分の足で歩くこともできぬ。助けを呼ぶ声すらあげられないのだ。
 悪夢だ。こんな悪夢があるものか。
 助けてくれ。誰か俺を助けてくれ。
 オレをここから出してくれェ、助けてくれ、たすけてくれ、タスケテクレェェェ……。

 そう思っていた時期がありました。
 あれから一年以上過ぎたが、太郎は今の生活を満喫している。
 確かに足を動かすことはできないが、別に動かす必要はないのだ。何しろ太郎は働かなくていいのである。
 栄養は光合成で十分だし、根っこから水を吸い上げるので食費など必要ない。
 人とのかかわりはないが、たまに野鳥やリスなどの野生動物がくるので寂しくはない。むしろわずらわしい人間関係から解放されてすっきりしたくらいである。
 風景も結構代わり映えするのだ。
 春になれば裸の枝に芽吹き、夏になると緑の衣に包まれる。
 秋になって葉はすべて落ち、冬は雪に埋もれ、春の温かさが来るまでまどろむのであった。
 会社勤めとして毎日汗水働いていた時代がばからしくなった。趣味はできないが、どうでもよくなっている。何しろストレス解消のためにやっていたのだ。ストレスがなければ趣味など必要ない。
 太郎はなぜあの男がこの素晴らしい待遇を捨てて、自分の身体を奪ったのだろうか。ふとそう思っていたら、一人の男がやってきた。
 髪の毛は真っ白で、老人のような肌だ。着ている物は浮浪者のようにボロボロである。いったい何者だろうか。
「……返してくれぇ、儂の人生を返してクレェェェ」
 その悲痛な声は聞き覚えがある。これは自分だ。自分がまた戻ってきたのだ。
 だがこの変わりようはなんということだろうか。まるで地獄から這い上がってきた亡者ではないか。とてもこの世界の人間とは思えない。たった一年で幽鬼のような姿へ変貌するとはどういうことだろうか。浦島太郎のように玉手箱を開けたのかと思うくらいだ。
「地獄だ。この世は地獄だァ。たった百年で世界は粉々に砕かれた、法律は天地がひっくり返った。儂の住む場所がない、儂の生きられる場所がどこにもナインダヨ……、エッヘッヘ」
 まるで地の底から絞り出すような声であった。そして虚ろな笑い声をあげた。おそらくはこの男は百年間の出来事を一切知らなかったようである。百年前と現代では天地の差があろう。男は肉体を得て極楽に来たつもりだろうが、実は天界だったようだ。
 天界は六道のひとつで、極楽に似ているがちがう。死ぬときは数十倍の苦しみを味わうそうなのだ。この男がまさにそれだったようである。
「返してくれえ、かえしてくれぇ。儂の人生を返してクレェェェ……」
 かつて自分はふらふらとよろめき、沼の中へ飛び込んだ。いや、力尽きて落ちてしまったのだ。ここに戻ってくるのも一苦労だったのだろう。かつての自分の死骸はぷかぷかと水面を漂うと、数日には沼の底へ沈んでいった。
 死体は永遠に見つからないだろう。やがて死体は腐り、太郎の栄養になるのだ。
 ああ、自分はこのために生まれて来たのか。自分の肥やしになるために生まれてきたのだなと太郎は思った。
「哀れなものだ」
 
 太郎はこの快適な生活を捨てる気はなかった。現代のごみごみとした世界へ戻る奇特さはない。人が来ても自分は権利を譲らないだろう。大木の呪いは、こうして救いの道になったのである。
 夏の終わりになると蝉の死骸がごろごろと転がり始めた。
 野鳥たちについばまられ、その糞が自分の栄養となるのだ。
 この心地よい生活は素晴らしいものであった。

 終わり。
2014/10/09(Thu)13:44:18 公開 / 江保場狂壱
■この作品の著作権は江保場狂壱さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 おひさしぶりです。蝉の死骸は仕事中に鴉が蝉の死骸をついばむのを見て、思いつきました。
この作品に対する感想 - 昇順
 初めまして、夏海と申します。御作拝読させて頂きました。
 ショートショートとしては完成度の高い作品だと思います。それなりの教訓もあり、寓話のような要素も強く感じました。文章力も巧いとまではいきませんが、主旨をうまく伝えられていると思います。さっぱりとした語り口も好感が持てました。
 ただ気になったのは、字下げががたがたになっている点と、誤表記と思われる文章が見られたこと。たとえば「まるで自分の足元が蝋でを流され高めたてたかのように。」などは意味が通じません。私の読解力不足が原因でしょうか?
 総合点として、プラス一ポイントを贈呈いたします。
 今後の作品にも期待しております。それでは。
2014/10/07(Tue)10:43:371夏海
 初めまして夏海さま感想ありがとうございます。

 誤表記は直しました。ご指摘ありがとうございます。
 では。
2014/10/09(Thu)13:45:510点江保場狂壱
おもしろかったです。
儂の人生を返してクレェェェで笑ってしまいました。
2014/10/20(Mon)19:30:550点ゆうら 佑
 ゆうら 佑様
 感想ありがとうございます。
 笑えたのなら何よりです。でも笑わそうと思ったわけではないけれど。
 笑いのツボは人それぞれなんだなと思いました。では。
2014/10/23(Thu)15:46:200点江保場狂壱
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