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『あたしのともだち』 作者:ミミック / ホラー 未分類
全角3109.5文字
容量6219 bytes
原稿用紙約9.95枚
あたしは後悔していない
「死ねよ、今すぐに」

 あたしが発した言葉に、友人トモコは目を丸くした。二重アゴに汗がにじんでいた。

「……え? 何その冗談?」

 どうせ冗談なんでしょ、とでも言いたそうな顔をしてあたしに歩み寄ってくる。

「意味わかんないし」

「うるさい。今すぐ、死んで」
「コイツ、真剣だぜ?」
「みぃ〜んなアンタの事嫌いなんだよォ〜」
「近寄んなよ」
「あんたは今日死ぬのっ」

 あたしは真剣だ。そして、周りにいるみんなも真剣だった。

 トモコ、園崎友子はもともと明るくて社交的なデブのブスだった。

 そう、デブ。ブス。直視できないような、まるで神様が散々いじくりまわして結局失敗しちゃったような失敗作の顔。
 目と目の間隔は離れているし、極度のたれ目。それに毎日泣いているのかと疑ってしまうほど腫れている。突き出たあごと歯でいつも口は半開き。ハの字の眉毛。毛深いくせに短いまつげ。潰れた団子のような鼻。年中無休で汗ばんでいる身体。突き出た腹に、たるんだ二の腕。
 とにかく醜かった。これ以上ひどい人間なんて見たことない。

 だけど、トモコは明るかった。男好きなのか、男子に積極的に話しかけ、冗談を言ったり好きなタイプを聞いたりしていた。授業中もよく挙手をして発言していた。真面目で明るく正義感の溢れる漫画に出てきそうな可愛い女の子を目指していたのだろう。声もあたしの前と男子の前では一オクターブ位高かった。

 けれどデブのブスなのだ。当然男子も嫌がり、可愛い子ぶりっ子するトモコをあたしたち女子も嫌がった。そして新学期が始まって数日もたたずにトモコは嫌われていった。
 だけど、鈍感なトモコは気付いていなかった。いつもと変わらず男子に耳障りな声で昨日のテレビの話をしていた。

 あたしは出来るだけトモコと関わらないようにしていた。けれどいつの間にかまとわりつかれていた。トモコはいつだったか、あたしの事を話しやすい、何でも言いやすいと言ってきた。他の友人に言われたなら嬉しかったのだろうけど、あたしはその時ものすごく不愉快だった。

 普通の友達もどんどん離れて行ってしまった。そう、トモコのせいであたしは友達を失ったのだ。

 もう我慢できない。トモコが憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉。

 トモコを肉に変えてしまおう。そう決めたのは二学期の中間だった。

 なんて簡単なことなんだ。トモコの声が嫌なら黙らせてしまえばいい。物言わない、肉塊に。

 もちろん味方は多い方がいい。決めた日からあたしはトモコに気付かれないようにクラスのみんなにこの話を持ちかけた。最初、あたしの話なんか聞いてくれなかった。だけど、話を聞いてくれる物好きもいた。そしてその子たちが他のみんなにも広めてくれた。もちろん、トモコ以外の。

 女子には最初、気味悪がられた。もちろんあんなトモコですら殺すということなのだから犯罪だ。だけどたった一人をみんなで殺すんだから罪は無いのと等しいよ。あたしが言ったら賛成してくれた。

 だけど男子は乗ってくれた。多分あたしの話を深く考えていなかったのか、どうせ冗談だと思ったのだろうか、なんでもいい。ただただあたしは嬉しかった。トモコの嫌われっぷりが。それも憎悪や殺意の混ざりあった感情がみんなにあることが。

 有言実行。クラスはトモコを肉にする一心で異様な団結力を見せた。トモコを肉にするのは早い方がいい。さっそくあたしは精一杯の笑顔でトモコに放課後残ってもらうことを頼んだ。いい子ぶりっ子のトモコは少々渋ったけれど、あんたが言うんだし、と爽やかだに見えるような見えないような笑みを浮かべてあたしの肩を叩いた。

 クラスは静まり返った。一人一人の顔には、これから犯罪を犯すという罪悪感が浮かんだが、すぐにクラスのゴミと言っていいほどのトモコが肉片に変わる瞬間を目の当たりにできるという純粋な殺意と無邪気さの混ざった歪んだ笑みを浮かべていた。もちろん、あたしも。


「ねぇ、嘘でしょぉ……みんなぁ」

 先頭はあたし。両手を背中に回して、肉切り包丁を隠している。肉にするのも、もちろんあたしだ。トモコの猫なで声が耳にまとわりつく。五月蠅い。

「なんで私なのぉ? ……ねぇ」

「うっせぇ」
 リーダー格の男子が睨んだ。トモコがひそかに片思いしてたことをあたしは知っている。

「もう俺らとっくに限界きてるから。マジムリ」
「そぉそぉ。だから死んでくんなぁい?」
 その男子の横に校則を無視した長さのスカートをはいた女子が並んだ。

「でも、それでなんで私がしななきゃだめなの?」

 トモコの頭の中ではどうやらトモコは美少女かお姫様らしい。目を潤ませて鼻をすすっている。

「うわっ、マジきめぇ。鼻水垂らしてやがるっ」
 お調子者の明るい男子が指を差してケタケタ笑った。よくトモコと冗談を言って盛り上がっていたのだけれど、やっぱりあの人も嫌いだったらしい。

「みんな、ひどい」

 トモコが俯く。あたしたちは狂ったように声を忍ばせてくつくつと笑った。もうすぐ、トモコは肉になる。そうあたしの手でっ!!

「ねぇ」

 トモコがつぶやいた。泣いているのか、制服に何滴か滴が乗っていた。

「ひーちゃんは? ひーちゃんもなの?」

「そんな風に呼ばないで。寒気がする」

 ひーちゃん。ヒジリ。あたしだ。あたしをひーちゃんなんて呼ぶのはコイツ位だ。だから、嫌。

「そ……かぁ」

 トモコは、笑っていた。くっくっくと、抑えきれないように。

「あっははははっあはっはははははははははははははははははははははははははっはははっははははっはははっははははっははっはははははははは」

 爆笑。トモコが狂った。不愉快不愉快不愉快。あたしは距離を詰めて肉切り包丁をトモコの首筋目がけて横に引き裂いた。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっはは……………ひーちゃん、ずっと一緒」
 
 あたしは聞いた。醜い脂肪に包まれたトモコの唇が、あたしを呼んだ。鮮血が、トモコの鮮血があたしの顔に降り注ぐ。でも、これでやっとあたしにも普通の生活が……

「………………え?」
「うそぉ……ガチだった系?」
「やべぇ……」
「俺、知らねぇ」
「やだ、待ってよっ、置いてかないでっ!」

 足音。数十人の。否、クラス全員の。

「……なんで?」
 
 みんな言ってたじゃん。みんなでトモコを殺そうって。団結したじゃん。え? みんな嘘つきだったの? あたしをだましたの? え? なにこれ? あぁ、トモコかううん違うよこれはただのお肉だもんでもあんまりおいしくなさそうだなぁ捨てちゃおっかダメだよ粗末にしたらどうしようまずあばらばらにしよっか

 ズリュ、ズリュ……グチュグチュグチュ……ヌチュ……バツンッバツンッ
 …
 ……
 ………
「あれ? おいしいなぁ」
 ………
 ……
 …
「ただいま」
「おかえりなさいっ、さっきね、あなたのお友達からとってもいいお肉いただいたのよ。今日はステーキねっ」
 母さんがとても嬉しそうな顔でこぎれいな箱を見せてきた。とても上質な肉らしい。新鮮で、断面が美しかった。
「ただ、その子、どこか錆みたいな匂いがしたような……親が工場で働いてるからかしら?」
 …
 ……
 ………
 あたしはいつもトモコと一緒。みんなもトモコと一緒。
「お肉、おいしかったねぇ、ひーちゃん」
 うん、そうだね。
 
2014/04/02(Wed)17:10:25 公開 / ミミック
■この作品の著作権はミミックさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
久しぶりに書き上げました。

少しはレベルアップしているといいと思います
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