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『転校生 (6)更新』 作者:鋏屋 / 恋愛小説 ミステリ
全角57234文字
容量114468 bytes
原稿用紙約168.75枚
うちのクラスにやって来た転校生は、少し変わっていた。何に対しても興味が無く、絶えずつまらなそうに空を眺めている。全てにやる気がなく、色の無い瞳で周囲を眺め、何を考えているかわからない。私が一番嫌いなタイプだ。でも……
プロローグ〜亡き祖父への追憶

 ガキだった頃、じっちゃんがコイツの話をしたとき、俺は正直信じちゃいなかった。
 ただ、もしそれが本当だとしたら、何故そんな凄い物をじっちゃんが「呪いだ」と言ったのか不思議でならなかった。
 でも…… 今なら判る
 なあじっちゃん…… じっちゃんはコイツを使ったんだろ? じゃなきゃ「呪い」なんて言葉出てこないよな?
 じっちゃん……
 じっちゃんはコイツで何かを変えられたのか?
 なあ、俺は本当に変えられるのかな?
 じっちゃんの言った通りだ。
 確かにコイツは「呪い」だよ
 でも…… コイツは呪いであると同時に「希望」でもあるんだ
 だから俺は諦めない
 彼女が俺に見せてくれていた、あのお日様のような笑顔を消させない
 俺がコイツに掛けた最初の願い

 必ず彼女を救う

 それだけが
 もうほとんど空っぽな俺に残された、たった一つの道しるべなんだ




〜転校生〜

風見鶏のジレンマ
(1)

「ねえ由比、帰りにミスド寄ってかない?」
 HRが始まる前に、後ろからそう声が掛かった。私の後ろに座る佐伯由香の声は普通より若干トーンが高めでよく通るから少し恥ずかしい。
「ごめんユッカ、私今日図書委員の日なんだ」
 私は振り向きながら両手を合わせつつ由香に言った。すると由香は残念そうに、手入れのいきとどいた形の良い眉を歪ませた。
「えー、相談したいことがあったんだけどなぁ……」
 本当に残念そうに言うので少し心が痛む。けどやっぱり自分で望んでなった委員なのでサボるわけにはいかない。私は申し訳なさをアピールしつつ「近いうちに必ず相談に乗るから」と由香に言った。
「つれないなぁ…… まるで誰かさんみたい」
 由香はそう言いながら私の斜め後ろに視線を移した。まあ、その由香のその言葉で彼女の言う「誰かさん」が誰なのかはすぐにわかったのだが、一応私も振り向きながら由香の視線を追った。
 一番の窓際の列の最後尾の席に、由香の言う「誰かさん」は座っていた。
 秋の午後の日差しが差し込む窓の外を、頬杖を突いて気だるそうに眺めるその佇まいは、まるで世界に自分だけしか居ないような、そんな印象を私に与えた。
 彼は先月の中頃、この学校に編入してきた転校生で、名を時峰宗一郎という。
「ルックスは中の上。スポーツ万能で成績優秀。おまけに喧嘩も強いらしいよ? 2組の秋山達が転校初日に『シメル』って部室棟の裏に呼び出したんだけど、逆に返り討ちにされたんだって。しかも4人掛かりで」
 由香はまるでさも自分で見ていたかのように私に聞かせた。2組の秋山とは、ウチの学校の『不良代表』みたいな男子生徒で、暴走族に入っているなんて噂のある生徒だ。私もその『喧嘩』の噂は聞いたけど、細かい人数までは知らず「そんなに?」と由香に聞いた。
「なんて言うの、空手? 少林寺だっけかな? なんかそういった格闘術を身につけているって話し」
 そう言えば一昨日男子が話していたのを聞いたことがある。体育の授業で着替えの時、彼の体は無駄な肉が付いてなくてまるでボクサーみたいだったそうだ。制服を着ているとちょっとわかりにくいけど、そう言った話を聞いた後で、改めて彼を見ると確かに引き締まった感じがする。
「運動部からもかなり誘われているらしいけど全部断っていて毎日定時下校。バイトでもしてるのかなぁ?」
 そう呟く由香に私は「さぁ……」と曖昧に答えた。
「唯一の欠点は自分から他人とコミニュケーションを取る気が皆無なこと。いつも一人でああやってつまらなそうにしながら遠くを眺めてる。授業中でもああいった感じで授業なんか全然聞いていない感じなのに、指されるとあっという間に問題解いちゃうし、この前の中間試験も学年トップ。な〜んかさ、あたしとは頭の構造が完全に違うんだねきっとさ」
 由香の言う通り、時峰は転校初日からあんな感じだった。自己紹介も名乗って終わりだったし、今座ってる席も担任が席を指示すると同時に席に着き頬杖をついて外を見やっていた。その仕草には、これから始まる新しい学校での新生活に対する不安や期待なんて物はいっさい感じず、無気力で何に対してもつまらなそうに、そしてどことなく寂しそうに私の目には映った。
「ま、もっともその辺りの雰囲気がクールって感じでウケてるみたい。今じゃ3年どころか2年や1年生の女子からも熱い視線を受けてるって話し。転校してきてから、かなりの女子から告白されてるらしいよ?」
 そんな由香の言葉に私は「へ〜」とか「ふ〜ん」とか適当に相づちを打っていた。
「じゃあ大方彼女と会うから早く帰るんじゃないの? ていうか興味ないし」
 私は素っ気なくそう言った。
「それが全員玉砕。あのラクロス部の綾ちゃんも告ったけど断られたんだって」
 私はちょっと驚いた。ラクロス部の綾ちゃんとは3年生のラクロス部のエースで名を藤堂綾というのだが、ウチの学校で一番の美人と噂される美少女だったからだ。男子の人気は勿論のこと、女子である私が見ても凄く可愛いと思う。
 確か卒業したサッカー部の先輩とつきあっていたと思ったんだけど、今の由香の話から察するにどうやら別れてしまったようだ。
 フリーなら彼女にしたいと思う3年男子は8割以上だと思うのだが、そんな女の子の告白を断るとはちょっと意外だった。
「でもまあ、想い人がいるんならそれも頷けるよね〜」
 と由香は私に思わせぶりな笑みを放って再び時峰に視線を移した。私も思わず吊られてその視線を追い時峰を見ると、時峰は私を見ていたらしく目が合ってしまった。私はすぐさま振り向き由香を見た。
「ちょ、ヤダやめてよ……」
 思わず由香にそう文句を呟き肩を千々込ませる。すると由香がクスクス笑っていた。
「なんで〜? 時峰君、由比に絶対気があると思うんだけどなぁ…… だって気が付くといつも由比を見てるじゃん」
 そうなのだ。由香の言う通り、ふとしたときに誰かの視線を感じ周囲を見ると、時峰が私を見ていて、私と視線が合うというのが良くあった。由香は「羨ましい」とか言うが、私は正直気味が悪かった。
 あまりに頻繁にそう言うことがあり、いい加減嫌になったんで先日私は「何か用? 言いたいことがあるなら言いなよ」と少々キツイ口調で時峰に言った事がある。
 すると時峰は「別に……」と答えてまた外を眺めていた。私はその態度に「カチン」ときてさらに文句を言ったんだけど、時峰は全く意に介さず寝耳に水だった。
 その一件以来私と時峰は「犬猿の仲」という噂が瞬く間に広がり今に至っている。由香はそれをおもしろがってことある事に私をからかっているのだ。
「冗談じゃない。クールだかなんだか知らないけど、どこが格好いいのか私には全然理解できない。あんな無気力ではっきりしないし何考えてるか判らない男、私が一番嫌いなタイプだもん!」
 私はあの時の嫌な気分を思い出してしまい、ちょっと声が大きくなってしまった。すると話を振った由香の方が慌てて私をなだめる。
「どうどう、判った、判ったから、声大きいって、聞こえるよ」
 そんな由香の私は「別に聞こえたって良い、てゆーかむしろ聞こえてほしい」と付け加えた。
「まったく…… ホント由比ってああ言うタイプには容赦ないよね」
 由香はそう言ってため息をついた。そんな由香を見て我に返り、落ち着くため軽い深呼吸をする。でも由香になんと言われようが、気に入らない物は気に入らないのだ。
「でも由比、ウチ達もう高3だよ? 由比は彼氏とか欲しくないの? クリスマスが近くなると周りはいつの間にかカップル多いしさぁ……」
 由香はそう言って教室を見回した。確かに由香の言う通り、ウチのクラス内でもここにきて急誕したカップルが多い。由香は先月1年ほどつき合った彼氏と別れたばかりで、その辺りのことにちょっと焦っているようだった。
 そりゃあ確かに私も何となく取り残された感じもするし、正直恋愛とかにも興味はある。私は女子にも男子にも同じように接するので普通に話せる男子も多い。でもやっぱりつき合うとなるとちょっと引いてしまう。
 由香は「試しにつき合ったら結構好きになるもんだよ。ゲームも体験版とか有るじゃん。あんなノリでさ」なんて言ってたけど、私はそれはどうかと思う。つき合うとなったらちゃんと自分が「好きだ」と自覚し、相手も私を一番に想ってくれていると判ってからがいい。私がそう言うと由香は「考えが古い」とか「堅すぎ」だの言うけどそこは私的に妥協したくなかった。
 ちなみに今までそんな人に出会ったことはなく、自分も「格好いいなぁ」と思う人は居ても「好きだ」と思える人はこれまでの人生では居なかった。
「別にそんなの気にしないよ。それに受験もあるし、こんな時期につき合ったってしょっちゅう遊ぶ訳にもいかないじゃない。会うの我慢してお互い気まずくなるなら初めからつき合わない方が良いと思うし」
 気にしないというのは若干嘘だけど、受験勉強の事は本気でそう思う。それに恋愛は受験が終わってからでもいいや、と考え端から諦めている感もあった。
「はぁ〜、人生最初で最後の高3なのに…… 若人よもっと青春を謳歌しようと思わんのかね?」
「人生で最初で最後の大学受験にしたいのよ、私は」
 若干芝居がかった由香の言葉に私は笑ってそう答えた。そんな私に由香は「由比可愛いのにもったいなぁ〜」と呟いたところで担任が教室に入ってきたので私たちはおしゃべりを中断して前を向いて姿勢を正した。
 
 HRが終わり、私は由香にもう一度「ごめんね」と声を掛け、荷物を提げたまま教室を出て図書室に向かった。図書室に向かう途中、古典の日下部先生とすれ違い声を掛けられる。日下部先生は優しくて面倒見も良く、生徒達からも「まんじゅうヒロシ」と呼ばれ人気のある教師だった。ちなみに「ヒロシ」は日下部先生の下の名前で「弘」と書く。
「北森、これから図書室か?」
「あ、はい。でも先生、私は北乃森ですよ」
 日下部先生はこう言ったように良く私の名字を間違える。その度に私が「北乃森ですよ」と訂正するのだが、すぐにまた「北森」と呼んでしまう。
 何でも先生が高校生のころの担任がとても変わった先生で、その人が「北森先生」という名前だったそうで、あまりにその先生が印象的だったせいで私を「北森」と呼んでしまうらしい。しょっちゅうそう呼ぶもんだから、私ももう「北森」でも良いかな、とか思ってしまうのだが、私が指摘するとおまんじゅうみたいな顔が梅干しか干し柿みたいな皺を浮かせて困った表情をするので、私はそれが可笑しくてその都度指摘するようにしてる。不遜だけど私の密かな楽しみでもあった。
「あたっ、スマン北乃森、またやってしまった。いや〜、私が高校の頃の名物先生が「北森」って名字でな……」
 と、やっぱりいつものように皺を浮かせ同じ話をしゃべり出す。コレもいつものことだった。
「アハハ、いいですよ先生、私気にしてませんから」
 私は笑いながらそう答えると、先生は話を中断して若干後退した頭を撫でていた。
「この前借りたお前の勧めてくれた本、アレ面白かったよ。なんて言ったっけかなぁ、ほら……」
「ああ、木下水源の『刻の狭間で』ですね」
 私がそう言うと日下先生は「ああ、そうそう、水源ちゃんの『刻の狭間で』だ」と嬉しそうに言った。
「お勧めした甲斐がありました。私も大好きな作小説なので面白かったって聞くと嬉しいですよ」
 私も嬉しくなってそう相づちを打った。日下部先生にお勧めした『刻の狭間で』は私の好きな小説トップ3に入る作品だった。
 内容はと言うと、1組のカップルが色々な時代で何度も出会いと別れを繰り返すと言った物だ。別にタイムスリップをするわけではなく、その時代その時代にその2人の生まれ変わりが現れ、前の時代で愛し合った2人の記憶を継続しながら最終的に現代で結ばれるというお話だ。SFやファンタジーにありがちな話なのだが、色々な時代で起こる微妙なすれ違いにやきもきしてしまい、ついつい先が気になって読んでしまうと言った感じ。
 特にラストで2人が出会ったとき、お互い記憶を引き継いでいるのに「初めまして」と挨拶を交わして抱き合い、周囲に居た人々が困惑するシーンが印象的だった。私もあんなお互いを想い合える恋がしてみたいと思ったのだ。
「ああ、本当に面白かった。それでもう一度読もうと思って図書室に探しに行ったんだが、無かったんだよ。また返却されたら直ぐに教えてくれな」
 そんな日下部先生の言葉に、私は少し疑問を持った。
 貸し出し…… されていたっけ?
 私は本が好きだし、それで図書委員になったわけだが、さりとて貸し出しされている本全てを覚えているわけではない。でも『刻の狭間で』は私が大好きな本の一つなので、貸出票は毎回チェックしているつもりだった。
 それに確かに面白い本で私も大好きなのだけれど、著者である木下水源は元々ハードボイルド小説作家で、そちらの方では割と有名だが、ああ言ったファンタジックな恋愛小説を書くのは希であり、そちらのジャンルでの知名度はすこぶる低い。なので図書室にあるのも日下部先生が読んだ物1冊のみしかなく、しかもそれほど人気本ではなかったので、貸し出しされればすぐにわかると思ったからだった。
 しかし私の記憶違いというのも十分に考えられるので、日下部先生には「わかりました」と答え、それから先生と別れて図書室に向かった。
 
 図書室のカウンターには2年の図書委員である渡辺久美子が座っていた。彼女も本が大好きで図書委員になった口でカウンターの内側でいつも本ばかり読んでいるのだが、今日はパソコンでなにやら一生懸命打ち込みをやっていた。
「お疲れ〜 久美ちゃん、何してるの?」
 私がそう声をかけると彼女は「あ、せんぱ〜い、おつかれさまですぅ」とゆる〜い声で答えた。私はそう言う彼女の脇からパソコンの画面をのぞき込んだ。どうやら書蔵リストに打ち込みをやっているようだった。
「さっき教頭先生からたくさん本を預かったんです。何でも大口の寄贈があったみたいで……」
 彼女がそう言って脇にあるふたの開いた段ボール箱を促した。のぞき込むと中にはぎっしりと本が詰まっていた。隣にもう一つ同じ大きさの箱もあり、そちらはまだ未開封だったが、恐らく同じように本が詰まっているのだろうと推測できた。
「わ、凄い!」
 私は思わず声が出てしまった。
「しかも全部新品なんですよぉ〜 すごいですよね〜」
 彼女の言葉に私は目を丸くして箱から1冊取り出してみた。確かに彼女の言う通り箱の中の本は薄いビニールで全てパッケージングされており、当たり前だが表紙もピカピカで傷一つついていなかった。
「あ、宮本騎虎の『冷笑』だ。こっちは結城醍醐の『君たちと』だし…… わわ、キリン・鈴の今月の新刊『黄昏リピート』! これ読みたかったんだよ〜!」
 他にも私の大好きな本ばかりでびっくりなラインナップだった。
「せ、せんぱ〜い、これは図書室の貸し出し本ですよ。自分のじゃないんですよぉ〜」
「とか言いつつ、久美ちゃんだって膝の上に2冊乗ってるじゃん」
「こ、これはですね、飛びページが無いかとかぁ、落書きがないかとかぁ…… そ、そういった事を確認するためにですね……」
 私のつっこみに久美ちゃんはしどろもどろで苦しい言い訳を並べ始める。そもそも新品の本に落書きがあるとは思えないんだけど……
「まあまあ久美ちゃん、とりあえずそう言った物を確認するって事にしとこうよ。それに図書委員なんだもん、そのくらいの役得がないとさ」
 私がそう言うと久美ちゃんは「そ、そうですよねぇ〜」と快く同意した。そのあとも「そうそう、これはみんなが快適にこの本達を読めるための必要作業なんですよぉ」とまるで自分に言い聞かせるように呟いていた。私が言うのも何だけど、この娘も相当本の虫だと思う。
「でも先輩、いいんですか? 塾とか現予備とか行かないで。委員の仕事なら私だけでも大丈夫ですよぉ?」
 久美ちゃんはさっきの段ボールからまた一冊取り出してタイトルを確認しながら私にそう聞いた。
「うん、大丈夫。てか私、塾とか予備校とか元々行ってないし。ウチほら、弟が2人居るからさ。私が塾だの予備校だのに行ける余裕はウチには無いんだぁ。だから独学」
 私はそう言って鞄からノートと参考書を取り出し久美ちゃんに見せた。
「家だと弟達が五月蠅いし、お母さんも私に色々気を使ったりするからさ。それにたくさんの本に囲まれたここだと凄い落ち着くの。だからごめんね、ちょっとここで勉強させてね」
「それはもう全然気にしないでくださいよぉ。さっきも言ったけど、委員の仕事は私一人で全然余裕ですもん。でも独学で成績良いから凄いなぁ、先輩って。先輩から見たら私は恵まれてるのにダメだなぁ……」
 久美ちゃんはそう言ってため息をついた。
「大学受かったらお金は何とかしてくれるって親が言ってくれたからもう必死よ。だって行きたいもん、大学」
「くぅ〜、泣かせるなぁ…… せんぱいっ、頑張ってくださいねぇ〜」
 徳美ちゃんは涙を拭くような仕草をしてそう言ってくれた。その仕草が可笑しくて私は思わず「ぷっ」っと吹いてしまった。私はそのままカウンターの久美ちゃんの隣に座り、鞄から参考書やノートを取りだして並べながら、ふと先ほどの日下部先生の件を思い出した。
「あ、そうだ、ねえ久美ちゃん、木下水源の『刻の狭間で』って貸し出されてたっけ?」
「え? 『刻の狭間で』ですかぁ? どうでしょう? ちょっと記憶にないです。あ、ちょっと待ってください。今保存かけたら検索するので……」
「あ、いいよいいよ久美ちゃんっ、棚見てくるから」
 わざわざ入力を中断して検索をしてくれようとする久美ちゃんに慌ててそう言い私はカウンターを抜けて書棚の方に歩いて行った。
 ウチの学校の図書館はそこそこ広くて、窓を正面に中央に長机が4島、ここからだと棚の陰になって見えないが、奥の左右に2島配置されており、割と広く使える読書スペースになってる。
 それに書蔵量も多く書種も豊富だが、私や久美ちゃん以外の委員も皆本が好きなので結構分類分けがしっかりされているのが自慢だ。
 見ると中央テーブルでは数人の生徒が座って読書にふけっている。私はその脇を通り抜け、小説コーナーに向かった。長机から数えて2つ目の棚が近代小説を集めた棚で、あいうえお順のジャンル、作家別に分類してある。木下水源は下から3番目の段で私のお腹ぐらいの高さのだったはずだ。
 『か』行に並ぶ背表紙に書かれた作家名を目で追い、木下水源の名前のところまでくると、私はタイトルに目を走らせた。2,3度往復してタイトルを探したが、やはり日下部先生と言うとおり『刻の狭間で』は見あたらなかった。
「ホントだ…… 何時貸し出されたんだろう?」
 私はもう一度棚の背表紙に目を走らせ、その場を離れた。
 もしかしたら不慣れな1年の委員が別のコーナーに差し込んでしまったのかもしれないと考え、私は他の棚もざっと見て回ることにし、隣の棚に移動した。
 とそのとき、ふと妙な感覚が襲ってきた。

 ―――――――あ…… れ……?

 棚を曲がり……
 ふと視線を移すと……
 ――――がそこに立っていて……
 私に気づいて、手にした本を軽く持ち上げながら……
 彼が私に笑いかける……
 その笑顔を見るたびに……
 私はそれをとても愛おしく想い……

『ほら、こんなところにあったよ、由比?』

 それは、既視感と呼ぶにはあまりにも強烈で現実的だった。そんな奇妙な感覚に私は頭を揺さぶられクラッとした。
 何だったんだろう今のは……
 そして次に何かとても大切なことを忘れているような、そんな不安がおでこを撫でる。私は軽く頭をふって正面を見た。そして視界に飛び込んできた人物に思わず息を呑んだ。
 なんで…… 彼がここにいるの?
 時峰 宗一郎
 彼は一冊の本を手に取り、その場でページを捲っていた。その姿はまるでもうずっとそこにいるのが当たり前のような佇まいで、私の中の何かがそう認識していた。
「何で…… あなたがここにいるのよ……」
 私がゆっくりとそう呟くと、時峰は手にした本から目を離し、ゆっくりとした動作で顔を上げ、その感情の絶えたような瞳で私を見た。
 

(2)
「なんで…… あなたがここにいるのよ……」
 私のその言葉に反応し、彼はゆっくりこちらを振り向いた。
「なんでって…… 図書室に来る理由なんて、そういくつもあるとは思えないけどな」
 時峰はやはりやる気の無さそうな声でそう言った。確かに彼の言う通りだ。しかしその言い方が燗に触るのも私にとっては確かだった。
「あなたが本を読むなんて意外だったわ。てっきり世の中のことぜーんぶ興味ないのかと思ってた」
 私は若干の皮肉を込めてそう言った。すると時峰は再び手にした本に目を落とし「そうか……」と呟いた。
………会話修了。壊滅的に会話が続かない。もしかしたら私の皮肉も皮肉と感じていないのかも知れなかった。私はバカらしくなったのでそれ以上時峰に話し掛けるのは止め、また『刻の狭間で』を探し始めた。
 棚の上段から背表紙を流し、目的の本を探すが1列を足下の再下段まで降りても見つからず、隣の段に移る。そしてその段も半分まで来たところで、私はふと時峰をチラリと見た。
 時峰は本から目を放さず、立ったまま本を読んでいる。相変わらずのぼんやりとした眼差しだが、その瞳は上下にせわしなく動いている。もしかしたら、時峰も実は本の虫なのかもしれない。彼の意外な一面を垣間見た様な気がした。私はそんな時峰から視線を外し、改めて本探しを再開した。
 2列目の棚の最後の方を探している頃、「なあ……」と小さく呟くような声が聞こえた。私はそれが時峰だとわかっていたのだが、また不快な気分を味わうことになると思い黙殺した。しかしまた声がかかる。
「なあ、北乃森」
 今度ははっきり私を呼んだ。私は軽い舌打ちをしながら時峰を見た。時峰は本から目を離さず立っている。人に声を掛けてのこの態度に腹が立った。
「何よ」
 私はちょっと怒ったようにそう言った。いや、『様に』ではなく完全に苛立っていた。
「北乃森の探しているの…… コレじゃないか?」
 時峰はそう言って本を閉じ、表紙を私に見せた。本のタイトルに『刻の狭間で』とあった。
「なんで…… あなたがそれを…… と言うかどこにあったの?」
「ここの棚にあった。これは確か裏の棚にあるはずの本だったな」
 私はその言葉にちょっと驚いた。時峰はまだ転校してきて1月ほどだ。なのに図書室のジャンル分けされた位置を覚えているのが意外だったからだ。私は当番じゃない日でも図書室に居ることが多いが、時峰を図書室で見かけたのは今日が初めてだ。私が居ない時に来ていたという可能性もあるが、本が置いてある場所を覚えるほど通っているのなら、私が見かけないっていうのはおかしい気がして時峰を見つめていた。
「俺が本を読むのがそんなに変かな……」
 そんな私の視線をどう取ったのか、時峰はため息をついて手にした『刻の狭間で』のタイトルに目を落としながら、そう呟いた。
「変とかじゃないけど…… ちょっと意外だっただけよ」
 私はちょっと考えながらそう返した。そして時峰の手にする『刻の狭間で』を眺める。
 私の大好きな本が、私がクラスで一番嫌いな人の手にあるのが少々複雑な気分だ。時峰もこの本が好きなのだろうか?
「その本、読んだの?」
 私がそう聞くと時峰は「ああ」と頷いた。
「もう何回か読んでいる」
 私は時峰のその言葉にちょっと嬉しくなった。自分が好きな本が、何度も読まれるほど面白いと思われるのは、作者じゃないけどちょっと嬉しい。それが喩え私が嫌いな人だったとしてもだ。
 いや、むしろ時峰みたいに何にも興味を持てなさそうな人でさえ、虜にしてしまうその本の吸引力みたいな物に、場違いにも誇らしさを覚えてしまう。私は気を良くして時峰に言った。
「その本時峰も好きなんだ。良いよね、そのお話し」
「昔、知り合いから勧められたんだ。読んでみてくれって…… 一度全部読んで、それ以来見かけたら手に取っている」
 時峰はそう言いながら私に近づいてきて、本を差し出した。私はそれを手に取りながら続ける。
「何度も別れて、何度も巡り会って、ついつい読んじゃうんだよね。私も大好きな本の一つなんだ」
 私はさっきまでの嫌な気持ちはどこ吹く風とばかりに時峰に話しかけた。ちょっとぶっきらぼうで、いつもやる気なさそうだけど、根はいい人かもしれない。私は少しだけ時峰という人間の自分の中での評価を上方修正した。
 ―――が、その矢先に
「俺は…… 悪いがあまり好きにはなれないな」
 会話と、その場の空気と、少しだけ回復した私の機嫌とが一気に氷点下で凍り付いた。
「木下の話にしてはリアリティに欠ける。表現も稚拙だし彼本来の文章が微塵も感じられない。彼は本来、こういう話を書く人ではないからな」
 時峰は淡々とした口調で本の感想を述べた。言ってることは間違ってはいないのかもしれないけど、そのいっぱしの評論家を気取ったしゃべり方が「俺は何でも知ってるんだぜ」って言っている様な気がして無性に腹が立った。
「ああそう、そうね、感想なんて人それぞれだもんね。はいはいわかりました。でも私は好きなのっ!」
 私はかっとなって時峰にそう言った。
「そもそも、じゃあ何で嫌いな本を何度も読むのよ。『ここがダメだ』『この表現がダメだ』とかって一人でダメ出しでもしてるの? あ〜嫌味な性格」
 好きな本を悪く言われたぐらいで大人げないと自分でもわかっている。でもやっぱり言わずには居られなかった。たぶん時峰じゃなかったらこんなにも暴言を吐いたりはしないのかもしれない。私はやっぱりこの人が嫌いなんだと、そう確信した。
「ただ……」
 私の暴言を浴びながらも、いつもの無表情で黙って聞いていた時峰が、不意にそう呟いた。
「最後の章での主人公の台詞…… あれだけは響いたかな」
 そんな時峰の言葉に、私ははっとして考える。あのラストシーンでの「初めまして」と言って抱き合うシーンが浮かぶ。うん、なるほど。この人でもあのシーンだけは胸を打たれたんだ。
「ふ〜ん、あなたでもあの抱き合うシーンは良かったと思うわけね」
 しかし時峰は軽く首を振った。
「いや…… 違う、それじゃない。主人公の男が、彼女に再会して言った台詞だ」
 時峰はうっすらと目を閉じ、ゆっくりと呟くように言った。
「『君が覚えてくれたから、僕は君を見失うことなくここまで来れた。だからまた出会えたんだ。僕はそう思う』」
 そして時峰は閉じたときと同じようにゆっくりと目を開いて続けた。
「『なあ、愛する人が、自分のことを何一つ覚えていなかったとしたら、それは自分にとって居ないのと同じだ。そうは思わないか?』……」
 時峰の言ったその台詞は、確かにお話の最後の章で2人が再会を果たした直後に、主人公の男が相手の女性に言った台詞だ。まあ確かに深い台詞だし、良い台詞だとは思うけれど、私は彼がいうように取り立てて『響く』とは感じなかった。
「なるほどね。あなたにはその部分が気に入ったって事ね。でも私は違う。感じかたは人それぞれ違うってことでしょうよ」
 私は先ほどのお返しとばかりに皮肉っぽくそう言った。だが時峰はさして気にしたふうもなく続けた。
「木下水源の妻は、若くしてアルツハイマーを発症した。木下はその妻に何度も自分が誰で、妻が誰であるかを語ったんだそうだ。何度も何度もな…… あの話は普段の木下の作品ジャンルじゃない。だが、あの話のあの台詞は、木下が記憶が消えゆく妻に当てたメッセージなんだと思う」
 それは初めて聞く事実だった。時峰はさらに続ける。
「他の人が聞けば、深い台詞だとは思っても、どそれほど意味がある台詞とは思えないかもしれない。だが、似たような経験した者にとっては意味を持つ台詞だ。あの話の中で、あの台詞があるからこそ、他の場面が別の意味を持ってくる。俺には、あの台詞だけで、あの本を読んだ価値があると思った」
 私は手にした本のタイトルに目を落とし、それからもう一度時峰を見た。
「大切な人の記憶に、自分の記憶が何一つ残っていないのなら、自分にとってはその人が死ぬと同義だ。いや、なまじ同じ姿で居る分辛いだろう……」
 時峰の言葉が、何故か私の心に突き刺さり、心が痛かった。
 でも……
 その一方で、別の私が声を上げていた。
「そ、それでも私は…… 喩えその人の記憶に自分が消えてしまったとしても、その人が死んでしまうよりは遙かに良い。私はそう思う!」
 私は語尾に力を込めてそう言った。
「私なら、どんなになっても愛する人には生きてて欲しいと願うわ」
 私の言葉に時峰は再び目を閉じ、そしてまた目を開けてその瞳の奥に私を映した。
「ああ…… そうだな」
 その瞳はとても悲しく、そしてとてもさみしそうな色をしていた。世界にたった一人だけ取り残されて、それでも何かを見つけようと必死になっているような、そんな目をしていて、私は見ていられなくなって思わず目を背けた。
 何故だろう、時峰の目を見ていると声を上げて泣き出したくなってしまったのだ。
 時峰はそんな私の横をすり抜け、書棚を後にする。私は心の痛みを感じながら彼の後ろ姿を目で追った。すると時峰は不意に立ち止まり、私に背を向けながら「俺も、そう考えたのさ……」と言い残し去っていった。
 遠ざかる背中を眺めながら、私は先ほどの時峰の言葉を思い出していた。
『似たような経験をした者にとっては意味を持つ台詞だ……』
 もしかしたら、時峰は過去にそう言った経験をして、それであのように何にも興味を示さなくなってしまったのかもしれない。
 自分の大切な人から、自分に関する思い出が消えてしまう。自分は覚えているのに、相手は全く覚えていない。それを自分に置き換えて考えてみる。
『なんて寂しいことだろう……』
 記憶を失ってしまった当事者はもちろんだが、相手は更に辛い。時峰も言っていたが、なまじ変わらない姿でいるだけにどうしても思い出してしまう。記憶のあった時期の事を……
 先ほど時峰に言った、『その人にはどんなになっても生きていて欲しい』とうことに嘘はない。しかし相手のそんな姿を見て、果たして自分は正気で居られるのだろうか? 
 自分がいくら相手のことを愛し、覚えていたとしても、相手は自分のことを何一つ覚えていない状況で、それでも相手を想い続け、その人の生存を願いそばに寄りそう。よほど相手のことを深く想っていないと出来ることではないと思った。正直自分では自信がない。そこまで誰かを深く想ったことなど無かったからだ。
 それでも尚…… と思う人が、時峰には居たのかもしれない。時峰のあの見ていると泣きたくなる様な悲しい瞳はそう言った事を映してきた結果なんじゃないかと私は思った。
 そんなことを考えながら、私は手にした『刻の狭間で』をパラパラとめくった。すると中から何かがすぅっと滑り出し、ヒラヒラと舞いながら床に落ちた。私は足下に舞い落ちたモノを拾い上げた。それは小さなメモ用紙だった。私はそのメモに目を落とした。

 し  50
 し  40
 が  10
 な  20
 わ  20
 ふ  30
 み  30
 さ  10
 う  10
 や  15
 き  15
 む  5×0

「何だろう、これ……」
 私はそう呟いてもう一度そのメモの内容を読み返した。しかし内容がさっぱりわからない。走り書きのように乱雑に書いてある。
「ししがなわふみさうやきむ…… なんだろう?」
 平仮名は確かにそう読める。それぞれの平仮名の横に1,2文字スペースが空いて数字が書いてある。それがまるで暗号のようにも見えてくるのだ。
 アイツのかな?
 ふと脳裏に時峰の顔が浮かんだ。その瞬間、後ろから「北乃森」と声がかかり、私は何故か驚いて本を落としそうになりながら振り向いた。
「どうしたんだ? そんなところで」
 そこに立っていたのは同じクラスの六馬徹だった。六馬は怪訝な表情で私にそう聞いてきた。私は「あ、い、いえ別に、なんでも……」と返した。なんでこんなに動揺しているのか自分でもわからない。私は答えながら頭に浮かぶ時峰の顔を必死にかき消していた。
「さっき入り口で時峰とすれ違ったけど…… またアイツとなんかあったのか?」
 六馬は眉間に皺を寄せて私にそう聞いた。
「別にそんなんじゃないよ」
 私がそう答えると六馬は「ならいいけど……」と呟き、次に私の左手にあるメモ用紙を見て「何それ?」と聞いてきた。
「ん、この本に挟まっていたの。時峰のかなって思って。さっきまでここでこの本を読んでいたから…… アイツ、もう行っちゃったよね?」
「ああ、結構早足だったからな。もう校門出たかも知れないな」
 私は六馬の言葉に軽いため息をついて応えた。
「まあいいわ、明日聞いてみるから。そんな大事なものでもなさそうだし」
 その私の言葉に六馬は「見せてみて」と言いながら私の手からそのメモを取って見た。私は人のメモを勝手に見せるのもどうかと思い「あ、ちょっと六馬」と抗議したが六馬は「いいからいいから」と手で私を制した。
「ししがなわふみ…… なんの暗号だよこれ?」
 六馬はそう呟きながら首をかしげていた。
「わからないけど…… やっぱりそう読めるよね」
 私の言葉に六馬も「ああ」と頷いた。
「ししがなわふみ…… 『獅子が縄踏み』ってことか? でもそのあとの『さうやきむ』ってなんだ?」
 そう言いつつ首をかしげる六馬に「さあ……?」と応えた。私にも何のことかさっぱりわからない。
「やっぱマジで何かの暗号なんじゃね? ちょっと写メっとこう」
 六馬はそう言って携帯電話を取り出し、写真を撮り始めた。
「ちょっと、止めなよ。そう言うのやっぱり良くないよ」
 私がそう言うと六馬は意外そうな顔で私を見た。
「いやにアイツの肩持つじゃん? 北乃森、アイツ嫌いなんじゃなかったっけ?」
 そんな六馬の言葉に私は少し動揺していた。確かに私は時峰とは相性悪いと自分でも思う。ただ、今さっき話した時峰の、あの泣きたくなる様な色をした瞳を思い出すと、何故か妙に心が揺れるのだ。あの瞳を思い出すと、前ほど嫌悪感が沸いてこなくなっていた。
「べ、別に肩持つとか、そう言うんじゃないよ。ただ、そういう人のプレイベートを盗み見するような事って私は好きじゃないな、って思っただけ」
 それは六馬に言うと同時に、自分の気持ちに対する言い訳の様に自分に言い聞かせていた。私はそう言って六馬の手からメモを取った。六馬はそんな私を怪訝な表情で覗き込み「ホントにそれだけ?」と聞いてきた。
「それだけって…… 他に何があるの?」
 私が逆にそう聞くと六馬は「いや、別に」と言って携帯を仕舞った。そしてもうこの話はおしまいとばかりに話題を変えてきた。
「ところで北乃森、この後の予定は?」
「予定って…… 今日は図書委員の受付当番だし、下校時間まで図書室にいるけど」
「そうなの? 受付にいた2年の娘は『北乃森借りてもいい?』って言ったら『私一人でも大丈夫』って言ってけど?」
 私は六馬の言葉に心の中で軽い舌打ちをついた。私と六馬を久美ちゃんは少々誤解したようだ。後でちゃんと言い聞かせておかないと……
「うん、でもここで勉強したいしさ。家だと弟たちが五月蠅いし。ここ静かだし、それに私、本に囲まれて勉強していると集中できるのよ」
 私がそう言うと六馬はにっこり笑った。
「じゃあ俺もつき合って良いか? 今日塾ないしさ」
 そう言って肩から担いでいた鞄を軽く持ち上げた。
「別に図書室をどう使おうが六馬の自由だし…… あ、でも私カウンターでやってるから……」
「ああ、俺はそうだな…… そこら辺の机でやるよ。けどわからないトコ聞きに行っても良いか?」
「それは別にかまわないけど……」
 私の言葉に六馬は「サンキュー」と言って中央テーブルの方に歩いていった。私は軽いため息をつきながら『刻の狭間で』とさっきのメモを持ちながらカウンターに戻った。
 その後は私もカウンターで勉強していたのだが、何回か六馬が聞きに来たので、久美ちゃんの仕事の邪魔になるかと思い結局テーブルの六馬の隣に移って勉強することにした。
 時折六馬がわからないところを私に聞き、私が教えるというスタンスだが、私も所々忘れていたりするところもあって復習にもなるので良いのだけれど、この構図は少々落ち着かない。端から見ればまるで付き合っているカップルの様に見えるからだ。
 私は内心居心地の悪さを味わっていたのだが、六馬はたいして気にもしてない様子だった。別に私は六馬が嫌いというわけではない。六馬はテニス部でエースだったこともありそこそこ女子からも人気のある男子だ。同じ部活の後輩への面倒見もよく、引退した今でも後輩から頼られるという話をよく聞く。しかしそんな六馬だが、特定の女子と付き合っているという話は聞いたことがなかった。
 不意に以前由香が言っていた『試しに付き合ってみたら?』という言葉が脳裏をよぎる。仮に六馬と付き合う自分を想像してみるが、やっぱり私には無理だなと思った。今こうしていても居心地の悪さしか感じない。
 そのとき、何故か時峰の顔が浮かんできた。彼には私の勝手な思い込みだけど、過去に深く想っていた人がいる。もちろん家族なのかも知れないが、私は何となくそれが彼女だったんじゃないかと思う。
 あの何にたいしても興味を持たず、いつもつまらなそうにやる気のない目を空に向けている時峰に、そんな人がいた。あんなに悲しい目をするほどに、誰かを想える彼に少しばかり憧れてしまう。
 私にはそんな人がこの先現れるのかな……
 私はいつのまにか時峰の事ばかり考えている自分に気が付いてちょっと驚いた。あれほど嫌っていたはずなのに……
 私は頭の中の時峰を追い出そうと、別の事に意識を向けるため、何気なく隣に座る六馬を眺めた。そのとき、急に頭の中にある風景が浮かんだ。

 窓から差し込む秋の午後の日差し
 今と同じようにこの場に座り、私はノートにペンを走らす
 不意に隣に視線を感じ目を向ける
『何?』
 私の言葉に隣に座るその人は
『ううん、何でもないよ』
 と、優しい笑顔で応える
 私はその笑顔を見るたびに、とても幸せな気分になる
 私も自然に口元が綻ぶのを自覚しながら、この時間が永遠に続く事を願う
 私は彼に……

 急に目の前が真っ白になり、次に六馬の横顔が視界にとびこんできた。その瞬間『違う』と私の中の誰かが呟いた。
「あ…… あれ?」
 頭の中に浮かんだ風景に今見ている風景が重なり、軽い目眩がして思わずそう呟いた。
 これが白昼夢というものだろうか? しかし夢というにはあまりにも現実的ではっきりしすぎていた気がする。そしてそういえばさっきも似たような感覚を味わったと思い出す。
「どうした? 北乃森」
 六馬の声に私はハッと我に返った。六馬はそんな私を覗き込み怪訝そうな目で私を見つめていた。
「ううん、何でもない。ちょっと疲れちゃったみたい」
 私がそう言うと六馬は心配そうに「ホントに大丈夫?」と聞いてきた。私は「ちょっと外の空気吸ってくる」と席を立った。「俺もつき合うよ」と言いながら席を立ちかける六馬を「すぐ戻るから」と制して、私は出入り口に向かった。正直混乱した頭の中を一人ですっきりさせたかったからだ。
 廊下を歩きながら、私は先ほどの白昼夢を思い出していた。
 たまに既視感を覚えることは良くある。まあ良くあるとはいえ、誰にでもそんなことはあるだろうと思う。頻度としては私もそんなレベルだ。
 しかしさっきのは今まで時折感じた既視感とは全く違う気がする。現実感が比べ物にならない。まるで以前自分が体験した記憶を思い出しているような、極めてリアルな感覚だった。
 だが当然自分には全く記憶にない。そもそも、あの白昼夢で私の隣に座っていた人が誰だったのか、全く思い出せない。自分はその人とても親しげに話していた。しかも自分はその人のことをとても好きで、相手も私のことをとても大事に想っているとわかる。
 なのに、今はその顔も、声も、名前も思い出せないでいる。
 私はそのことを何度も考えながら校舎の外に出た。秋も半ば近くで、頬に当たる風に若干の冬の気配を感じる。私はそんな冬の臭いを纏った空気を肺いっぱいに吸い込んだ。先ほどから何かとても大切なことを忘れている気がして気分が悪かった。
「ホント、疲れてるのかな…… 私」
 運動部のかけ声が響き渡る空に、一人そう声に出してみたが、胸の中のもやもやした感じは少しも晴れてはくれなかった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 部屋に帰る途中、ふと目をやるとくたびれたベンチが目に入った。それが角のコンビニを曲がった先にある公園のベンチだと気づき、宗一郎は無意識にこの場所を訪れていた自分に苦笑する。それはとても乾いた笑いだった。
 宗一郎はゆっくりとした動作でそのベンチに腰を下ろし、深く息を吸い込んで辺りを見回す。
 原色を使ったカラフルな滑り台。
 風に揺れる若干さびの浮いたチェーンのブランコ。
 所々落ち葉がつもった砂場。
 外されたままのシーソーの土台……
 あのころと何一つ変わらない風景に宗一郎は寂しさをかみ殺した。
 当たり前だ……
 そう心の中で呟く。自分が初めてみたこの風景が今と違うわけがない。世界に取り残されたのは自分なのだから……
 どれだけ歩いてきたのだろうか。どれだけ歩けば終わるのだろうか。
 そう自問しても答えなど出るわけがないとわかっている。果てのない荒野を、しびれた手足と、壊れかけた心を引きずりながら、ただただ歩く自分をイメージする。
 果てが見つかるのが先か、それとも立ち止まるのが先か……
 ただ、自分にとって立ち止まることは、諦めることと同義だった。立ち止まることは許されない。どれだけ疲れようが、どれだけ辛かろうが、立ち止まったらそこで終わりだ。
 もう終わろう……
 正直、そう考えたことは数知れない。だがその度に思い出す笑顔があった。そしてそれを思い出すたびに『それでも……』と自分に言い聞かせてここまで来たのだ。
 たくさんの知った顔がいる、自分の知らない世界で……
 ここまで、失ってきた物の多さに吐き気が、そして今ではもうほとんど何も残っていない惨めな自分に乾いた笑いしか出てこない。
 宗一郎は胸をまさぐり、首から提げた物を取り出して色のない瞳でそれを眺めた。チェーンには小さな赤い石がぶら下がっていた。
 それは初めて見たときよりもだいぶ色が薄くなっていた。初めはもっと血のように真っ赤だったハズだ。しかし最近は回を重ねる事に徐々に色を失い、薄くなっている。今ではもう透けて向こう側見えるぐらいの赤だった。
 限界が近づいている。コイツにも、俺にも……
 手から下がった小さな赤い石を、宗一郎は手のひらに静かに乗せた。よく見ると中央には黒い点と筋が見える。その点と筋が見ようによっては猫の瞳の様に見える。それはこの石の名前にも由来していた。
 太古の昔、極めて残忍な行為によって作成されたと聞いた。その結果得た神の力。
 無数の怨念と数多の呪い、そして星の数ほどの人間の願いを呑み込んできた魔石。
 宗一郎は思う。5,000年前、この石を作るよう命じた王様にありったけの呪詛の言葉と、同じだけの感謝の言葉を贈りたい…… と。
 宗一郎は静かに手のひらの石を握り力を込めた。
 こんなものがなければ……っ!!
 と心のなかで吐き捨て。
 これがなかったら……
 と思い直し石を握りしめた拳を胸に抱え込む。
 望んだ事の対価にすべてを差し出し、その結果世界に取り残された自分に残った、たった一つの希望……
 今の宗一郎はそれだけにすがりながら生きていた。
 ふと見上げた家の屋根に風見鶏が付いていた。宗一郎はそれを眺めながら、その姿に自分を写していた。
 風の向かう先を決して見ることなく、ただひたすら向かい風の中で風の吹く方向をにらみ続ける。風の行方を見たいと願いながら、それが叶わぬことだとわかっているのに、それでもいつか見れると夢に見つつ向かい風に抗い続ける。宗一郎はその姿に自分を重ねてため息をついた。そして手にした石のチェーンを首に戻し、石を大事そうに胸元にし舞い込んだ。
 これから部屋に戻り、着替えたら日課のロードワーク。そして何の成果もないままカレンダーに印しを書き込みシャワーを浴びる。3台あるTVは音を絞って付けっぱなしのまま眠る。自分にとってはわかりきった毎日のニュースの中で、何か少しでも変化があればと、そう考えて付けてはいるが、毎回変わらぬニュースばかりを聞き流す。今ではもうアナウンサーの言葉ですら暗唱できるほどだ。10年以上も続けている宗一郎にとってはそれは当然のことだった。
 宗一郎は座るときと同じ動作でゆっくりと立ち上がり、自分が座っていたベンチを眺め、次に正面の家の屋根に佇む風見鶏にもう一度視線を投げた。
「やっぱり、座るんじゃなかったな……」
 この場所でもう何度目かの同じ言葉を吐き、宗一郎は越してきたばかりの『見慣れた町並み』を眺めながら公園を後にした。
  
(3) 

 夢を見ていた。
 最近よく同じ夢を見る。今見ている夢もその夢だった。
 私はその夢の中でいつもどこかで倒れている。自分のクラスの教室だったり、誰もいない見慣れた図書室だったり、駅近くの路地裏だったり、どこか知らない部屋だったり……
 場所は色々変わるが、私が倒れているところから始まるのは変わらない。
 倒れている私の体は、たいていもうほとんど虫の息だった。体を動かそうとするとお腹に激痛が走り、そこをさわるとぬるりとしたなま暖かい感触が手のひらに伝わる。その手のひらを見ると、まるで手袋でもしているかのように真っ赤に染まってた。それが私の血だと認識した途端、喩えようもない恐怖が襲ってきて、私は叫ぶのだが、口から出るのはしめった咳ばかりだった。
 悔しさと苦しさ、そして恐怖と絶望感に染まっていく意識が急速に薄れるなか、不意に私の上半身がふっと持ち上がる。閉じかけたまぶたの向こうに誰かが私を覗き込んでいる。
 すると、私の頬に何かが当たる感触がして、私は霞のかかる視界を必死に凝らしてその人を見ると、その人は静かに涙を流していた。それで、頬に落ちたのが涙だとわかった。
 私はその人に何か言おうと声を出そうとするが、その声は喉の奥でつぶれてしまい言葉にはならなかった。しまいには口の中にたまったものが溢れて襟元を汚してしまう。するとその人は優しく私の口元を拭ってくれた。
『来てくれて、ありがとう……』
 声にならない代わりに、私はその人の頬を伝う涙を震える手で拭う。でも、手についた血で逆に汚してしまう。私は何故かそれが堪らなく悲しくて涙が出た。
 その人はそんな私の手を包み込むように上から自分の手を被せ、悔しそうに「ごめんな……」と呟いた。
 急に寒さが私を包み、体が震えだす。凍えそうなほど寒い。でも、その人が包んでくれる手だけは暖かかった。
 もうすぐ自分に終わりが訪れる。
 死にたくない…… 痛切にそう思う。
 まだやりたいことがいっぱいある。大学にも行きたい。
 でも何よりも、この人と離れたくなかった。
 私が初めて本気で好きになった愛しい人…… 世界で一番大切な人……
 この人と同じ景色を見て、同じ事で笑って、泣いて、同じ時間を歩いていきたかった。
 悔しいよ…… 悲しいよ―――ちゃん!!
「し、に…… たく…… な…… い、よ……」
 私は最後の力でそう声に出した。するとその人は私を力一杯抱き締めた。
「すまない…… 必ず、助けるから…… 必ず救ってみせる…… から……っ!」
 その人は私の耳元で呟く。その瞬間、私の意識は真っ暗な穴に落ちていった……

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「はいこれ、忘れ物」
 私が例のメモを差し出すと、時峰は色のない瞳でそれを眺め、そのメモを受け取り目を走らせた。そして私の顔をみた。
「あの本に挟んであったみたい」
 私がそう言うと時峰は再びメモを再読した。
「あの本…… 『刻の狭間で』にか?」
 時峰は首をかしげながらそう聞いてきた。私は「そうよ」と頷いた。
「あの後あの本からこれが落ちてきたの」
 私の言葉に時峰は「ほう……」と呟きまたメモに目を落とした。いつもは何にたいしても興味の無さそうな仕草の時峰だが、そのメモを眺める時峰は少し違って見えた。結構大事なものだったのかもしれない。
「じゃ、確かに渡したから」
 私はそう言ってその場を離れようとしたら「ちょっと待ってくれ」と時峰は私を呼び止めた。私は振り向き時峰を見ると、彼は少し困った顔をしていた。
「俺のではない」
 時峰はそう言ってメモを机に置き、つつーっと指で私の方に滑らせた。
「時峰のじゃないの?」
 私がそう聞くと時峰は「ああ」と頷いた。私は『なら何で始めにそう言わないのよ!』と喉の奥で文句を噛み殺した。昨日の時峰に感じた同情めいた気持ちは何処かへぶっ飛び「ああそう!」と素っ気なく言って机の上のメモを取り、さっさと離れようと振り向いた瞬間、また時峰に呼び止められた。私は少しうんざりしながら「今度は何?」と言いながら振り向いた。
「佐伯にな、『渋井には気をつけろ』と伝えておいてくれ」
「はあ? なにそれ?」
 渋井? 誰それ? 当然うちのクラスに渋井なんて生徒は居ない。ちょっと考えても他のクラスにも記憶にない。少なくとも同学年には居なかったと思う。
「渋井って誰よ?」
 私がそう聞くと時峰の表情が僅に動いた。いつもあまりそういった感情の変化が、表情から読み取りにくい時峰の瞳に、そのとき僅に動揺の色が沸いた。
 しかしそれも瞬きする間の一瞬の事で、時峰は少し考え「そうか、まだ……」と呟いた。
「君にもそのうちわかる。今説明するのは少し難しい。佐伯はたぶん心当たりがあるはずだから」
「なにそれ。全然わからない。そもそも由香に自分で言えばいいでしょ!」
 私は語尾を強めて時峰に言った。すると時峰は少しめを細めて私から視線を外し、なにかしら口の中で呟いていたが、小声すぎて何を呟いているのかは聞き取れなかった。そして再び私を見て言った。
「俺から言うよりも君からの言葉の方が、佐伯も聞き入れるかと考えたんだがな……」
「聞き入れる? 意味がわからない。そもそも私の言葉って言ったって、なんのことだかわからないんだもの、時峰に聞いたって言うしかないじゃない。ユッカに言うにしたって私はそう言うわよ」
 すると時峰は微かに眉を寄せ「また少しズレがあるな……」とこぼした。
 ズレ? なんの事? ああ、イライラする。他の人ならたぶんここまでイラつかない気がする。なのに何故か時峰とだけは無性にイラついてしまうのだ。彼の態度もそうだが、それだけではない。彼と言葉を交わしていると、胸がモヤモヤして思考に薄い霧がかかったように考えがうまく纏まらなくなるのだ。
「ならいい…… こっちでなんとかする」
 時峰は素っ気なく私にそう言い、もう話は終わったとばかりに頬杖をつき、また窓の外に目を向けた。その一方的な態度に私はカチンときて時峰を睨んだ。
「あなたねっ! 何でいつもそうなの? 自分だけ全部知ってるような態度でさっ! 他人と関わらないことが格好いいとか思ってるの? あなたみたいな人見てると私は……っ!」
 と文句を言いかけたが、時峰はそれを制して「先生が来た」と呟いた。するとその直後に教室の前のドアが開いて担任の江守先生が入ってきた。
「おはよう、朝のホームルーム始めるから席についてー」
 そんな先生の声を聞きながら、私はもう一度時峰を睨んだが、時峰は再び外に視線を投げあくびをしていた。
 ああ腹立つっ!!
 私は怒りをグッと飲み込みながら大股で自分の席に戻った。席に着いた瞬間、前に座る由香が前を向いたまま、肩越しに小さく手を振りつつ小声で「どした?」と聞いてきた。私も「後で話すよ」と小声で返して姿勢を正した。由香は肩越しに指で輪を作り「りょーかい」と答えた。
 どうにも収まりきらない私は怒りをお腹に溜めたまま、嫌な気分でHR を受けたのだった。

 そして、その日のお昼休み。
「ああ…… 何でああなんだろう……」
 私は由香と教室でお弁当を食べながらそんなことをこぼした。
「何がああなの?」
 由香は唐揚げを口に運びながら首を傾げる。
「朝の件、時峰よ」
 私がそう言うと由香は「ああ……」と頷いた。少し唐揚げが大きかったのか、右のほっぺが膨らんでいるのが可愛い。
「こっちは大事なものかもしれないと思ったから気にしてたのに…… 自分のじゃないならさっさと言えばいいのに。それにあの態度、あったまきちゃう!」
 思い出すとまたイラついてしまう。私は再び沸き上がった怒りを押さえるため、箸を置いてお茶を口に含んだ。
「由比、気にしすぎなんじゃない? 『時峰君はああいう人なんだ』って思って接すれば良いじゃん。初めからそう思っていたら腹も立たないんじゃない?」
 由香は唐揚げを飲み込み、今度は卵焼きを口に運びながらそう言った。
「う〜ん、まあそうなんだけど……」
 お茶の渋みで少し落ち着いた私はそうつぶやいたのだが、やはり釈然としない感情は消えない。私が嫌だというのもあるが、時峰のあのつまらなそうな態度をどうにかしたいという気持ちもあるのだ。でもこれは、お節介だということもよくわかっている。
 放っておけば良いのだけれど、それができない自分の性格にも苛立ちを感じていて、それもモヤモヤの原因の一つに違いないのだろう。
 それに……
 昨日図書室で見た時峰の、あの寂しすぎる目が頭から離れなかった。見ているこっちまで泣き出したくなる。あれはまるで、置き去りにされた迷子の幼子のようだ。
 そう…… あの目……
 私はあの時峰と同じような、とても悲しくて寂しい色をした目を最近どこかで見たことがあった。でもどこで見たのか思い出せない。考えれば考えるほど、記憶が霧がかかったように真っ白に染まっていく様だった。
 とその時、鼓膜の奥で誰かが呟いた。

『ごめんな……』

 脳裏に自分を覗き込む顔が浮かぶ。涙を必死に堪えるが、それが叶わず、一筋、二筋と流れ出てしまうのだろう。その涙の奥に、悲しさと寂しさ、そして例えようもない悔しさを映した瞳……
 そうだ、あの夢の中で私を抱き起こしてくれるあの人の目と同じ色をしている。
 しかしここで奇妙な事に気付く。その人の顔の輪郭がはっきりしないのだ。涙を流していることも、その瞳の色もわかるのにその顔が思い出せない。夢の中で私はその人をよく知っている。何しろ私はその人をとても好きなのだから。でも目覚めるとその人が誰なのかわからない。考えれば考えるほど記憶が薄れていくようだった。そもそも、あれは本当に夢なのだろうか?
 私がお茶を持ったまま考え込んでるのを不思議に思ったのか、由香が私の顔の前で手を振った。
「おーい、由比ーっ、由比ちゃーん」
 私ははっと我に帰り由香を見た。
「どしたー? お茶片手に固まって」
 箸の先を唇に当てながら由香が不思議そうな瞳で私を覗き込んでいた。
「あ、いや、何でもない。ちょっと考え事しちゃった」
「急にフリーズしちゃうんだもん。具合でも悪いのかと思ったよ。それに…… 少し怖かったよ?」
「ごめん、全然そんなんじゃないから」
 私がそう言うと由香は「うん」と安心したように頷いてお弁当に箸を付けた。
「あ、そうだ。ユッカさ、渋井って人に心当たりある?」
 そう言えば今朝時峰が言っていたことを思いだし、由香に聞いてみた。すると由香は「えっ!?」と声を出し箸を止めて私を見た。その瞳には明かな動揺と驚きの色が伺える。
「な、何で由比、智君のこと知ってるの?」
 と、智君……? 
 私にはさっぱりわからないが、どうやら時峰の言うとおり由香には心当たりがあるらしかった。
「いや、私じゃなくて時峰が今朝ね……」
「時峰君、智君知ってるんだ…… へ〜、そうなんだ〜」
 由香はそう言ってニコニコしながらご飯を口に入れた。私はそんな由香を見て何となくその渋井、もとい智君と由香の関係に察しが付いた。そして時峰が言った言葉を思い出す。

『渋井には気を付けろ』

 何に気を付けろなのだろう? そして『こっちで何とかする』という言葉の意味もわからない。でもわずかな不安が私の心を撫でた。
「知ってるって言うか…… あのね、時峰が渋井には気を……」
「あ、そうだ!」
 私が言いかけた途端、由香は机の端を軽くポンと叩いてそう言った。
「昨日相談したいことがあるって言ったじゃん? あれさ、今日はどう? 由比今日図書委員じゃないでしょ?」
「え? まあ、今日は委員じゃないけど……」
 由香の問いに私は語尾を濁らせてそう答えた。確かに由香の言うとおり今日は図書委員の当番じゃない。しかし本当は新しい参考書を買いに行こうと思っていたからだ。
「由比最近当番じゃなくても図書室で勉強ばっかじゃん? そりゃあこの時期勉強で忙しいのは仕方ないけど、やっぱ寂しいよ、親友としてはさ」
 由香はそう言って箸の先を噛みながら上目遣いで私を見た。女子である私から見ても、そういう仕草の由香は可愛いと本気で思う。男の子ならきっとこういう女の子には直ぐに「うん」って頷いちゃうんだろうなぁ……
「ね、ねっ? たまには由比も息抜きしないとさ?」
 尚も顔を近づけてくる由香に私は「オッケー、わかったわ」と頷いた。
「ホント? ヤター! じゃあいつものアケ前のミスドね」
 アケ前のミスドとは、駅前の商店街アーケードの前にあるドーナツ屋さんのことだ。私と由香は一緒に帰るときは時々帰りに寄る事があった。由香はニッコリ笑ってそう言うと最後に残していたウインナーをパク付き「ごちそうサマー」とお弁当箱の蓋を閉じた。私の方は色々あってまだ三分の一ほど残っている。由香はご飯を食べるのがいつも早い。
「で、時峰君がなんて?」
「あ、ああ…… それが良くわからないの。なんかね? その渋井って人が……」
 と私が由香に話し始めた瞬間、教室の前の引き戸が開く音がして、その次に「佐伯ーっ!」と男子が由香を呼ぶ声がかかった。二人して振り向くと戸口に同じクラスの斉藤が居た。
「佐伯、次の生物、準備の手伝い頼まれたんじゃね? さっきそこでコバ先が『会ったら言っといてくれ』ってよ」
 それを聞いた由香は「いけないっ、そうだ!」と言って空のお弁当箱を乱暴にポーチに仕舞うと席を立った。
「ゴメン由比、ウチすっかり忘れてた。時峰君の話は後でミスドで聞くから〜」
 と言いながらお弁当を鞄に仕舞い「サンキュー斉藤君」と斉藤に声を掛けつつ早足で教室を出ていった。結局言いそびれた私は、残ったお弁当と共に、一人ぽつねんと席に座っていた。
「ま、いっか……」
 私は一人でそう呟き、時峰の言葉に感じたわずかばかりの不安を、残ったお弁当と一緒に飲み込んでいったのだった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 宗一郎は屋上で鳩小屋に腰掛け、空を眺めながら先ほど校買で買ったフランクロールを食べていた。雨の降っていない日のお昼は大抵この場所で校買の総菜パンかおにぎりで済ましている。基本的に昼休み屋上は立ち入り禁止なのだが、時峰は毎日この誰も居ない屋上でお昼を取る。この鳩小屋は宗一郎のお昼の指定席だった。
 今日は少し肌寒いが、なかなかの晴天で小さな雲が2,3浮いているだけの見晴らしの良い昼の空だった。風にゆっくり流される雲をぼんやりと眺めながら、今朝の件を思い出していた。

『あなたねっ! 何でいつもそうなの? 自分だけ全部知ってるような態度でさっ! 他人と関わらないことが格好いいとか思ってるの? あなたみたいな人見てると私は……っ!』

 もう一口囓ろうと、フランクロールを口に運んだ手が止まり、北乃森由比の真剣に怒った顔が脳裏によぎる。
 自分だけ全部知ってるような態度…… か。
 宗一郎は手にした囓り掛けのフランクロールを紙袋に仕舞い、そっと脇に置いた。そして誰ともなしに呟く。
「知ってるんだよ。ぜーんぶ……」
 さっきまで一つだった雲が、今は風に流され二つになっている。形を変えて二つに分かれた雲の小さい方は、チリチリと雲の破片を削りながら小さくなっていく。やがてその雲は青い空と同じになっていった。
 風に吹かれ、千切られ、削られ…… いつの間にか消えて無くなる。抗い続け、もがき続け、最後は世界に溶けるのだ。いずれ、自分もそうなる。
 宗一郎は今度は心の中でそう呟きつつ、再び北乃森由比の怒った顔を思い出した。そして少しばかり唇を緩ませる。
 またずいぶんと変わったもんだ。そのせいで色々と前回にはない『ズレ』が発生しているのだろうと推測する。
「あんたがアメリカに行くわけだよ、祐介」
 宗一郎の口から、かつての友の名前が零れた。だが、もう宗一郎が知る彼はこの世界の何処にも居ない。その『ズレ』は宗一郎の親友を永遠に奪ってしまったのだ。
 だが……
 宗一郎は口元に微かな笑みを浮かべた。
 確かに宗一郎の知る祐介はもう何処にも居なくなってしまった。しかし彼の運命は変えられたのだ。それは半ば諦めかけていた宗一郎に、再び希望の火を灯す結果となった。
 微かにくすぶる炭のような、小さくて頼りない火種。でも確かに今現在祐介は日本に居ないのだ。彼の残酷な運命は回避されたはずだ。
 確かに祐介が居なくなったのは宗一郎には大きなマイナスだった。寂しいのもあるが、祐介はいつの時も宗一郎の味方で、宗一郎の言うことを信じ、考え、助言し、そして助けてくれた。祐介が居なかったら、自分はここまで歩けはしなかったと思っている。正直自分にとって、実働面に於いても、メンタル面に於いても大きな損失だ。
 でも、祐介の運命は変えることが出来たのだ。 
 親友が永遠に居なくなったことよりも、今はその事実を素直に喜びたい。ソレはここ数回の中での数少ない成果だった。
 運命は変えられる! 今はその事実さえあればいい。
 宗一郎は新たに灯った自分の中の熱を冷ますように、脇にあった飲みかけのウーロン茶を飲み干した。
「となると…… 6人か」
 空のペットボトルを片手に、宗一郎は目を細め、遠くにうっすらと浮かぶ稜線を眺めつつ呟く。
「前は祐介が居てくれた。でも今回は俺一人…… 6人を相手にするわけか」
 確か一人はナイフを持っている。前は祐介の運命を決定してしまう物だった。だが、臆するわけにはいかない。喩え一人でもやりきらねばならない。
 失う物はもうほとんど残ってない。だが、目的を達成するまでは死ぬわけにはいかない。
 宗一郎は心の中で呪文のようにそう唱えながら、手にした空のペットボトルを握りつぶす。積み重ねてきた修行で、技と感覚を研ぎ澄ます。頭の中にあるイメージにはまだ届いていないが、そこは集中力でカバー出来る自信がある。
「備えあれば、か」
 ふと時峰は何かを思いだし、潰したペットボトルと先ほど脇に置いたパンが入った紙袋をビニール袋に入れて立ち上がった。階段に向かう時峰の頭上には、先ほど見た雲のもう一つの破片も消えかかっていたが、時峰はもう空を見ることはなかった。
 屋上のドアノブに手を掛けた瞬間、お昼休みの終わりを告げるチャイムが響き渡った。時峰は目を閉じ、チャイムが終わるまでじっと聞いていた。
 時峰の耳には、その音が世界を回す大きな歯車が、変化に抗い軋む音に聞こえていたのだった。
   
(4)

 帰りのHR が終わり、私と由香は昼休みの約束通りアーケード前のドーナツ屋さんに行った。
 ドーナツ屋さんの店内は放課後という時間帯もあって、私たちみたいな高校生のお客が目立っていた。数人は私たちと同じ制服の娘も居るが、顔立ちから見て下級生っぽかった。私と由香はそんな店内を眺めながら注文カウンターに向かった。
 私はカフェオレとバタードーナツという、チョコやお砂糖などが一切かかってないオーソドックスなドーナツを頼んだ。卵とミルク、そしてバターの素朴でやさしい味わいのドーナツで、カフェオレとよく合い私のお気に入りの組み合わせだ。一方由香はミルクティーに、きな粉と黒ゴマがまぶしてある新商品を選んでいた。大抵お気に入りしか頼まない私と違い、新しく出たらまずそちらを 試すのが由香だった。
 この店は2階にも席があるのだが、私達は1階の通りに面した窓際の4人がけの席が空いているのを見付け、お互いに向き合う形で席に着いた。
 先に由香がその新商品のドーナツをちぎって口に入れ「あ、これおいしーっ!」とびっくりしたように声を上げた。私はそんな由香を眺めつつ、自分のドーナツを摘まんだのだが、由香が自分の頼んだドーナツをちぎり「由比も食べてみなよ」とドーナツの欠片を私の顔の前にもってきたので、時分のを皿に置いた。
「はい、由比ちゃん、あ〜ん……」
 由香の言葉に私は「やめてよ、も〜」とふざけながら、由香の摘まむドーナツをそのまま口に入れた。由香とはいつもこんな感じだった。
 由香の選んだドーナツは、確かにおいしかった。甘いきな粉と胡麻の香ばしさが口いっぱいに広がり、さらにドーナツ生地のモチモチ感が絶妙で心地良い食感を与えてくる。うん、これはお気に入りに加えても良いかもしれない。
「あ、本当に美味しいかも」
「でしょ〜? これはなかなかのヒットって感じだよ」
 そう言ってちょっと得意気に笑う由香が子供っぽくて、私も笑いながら「うん」と頷いた。
「そうだ、由比、昼休みに言ってた時峰君がどうのって話し、結局なんだったの?」
 由香はミルクティーの入ったマグカップの向こうから私を覗くような仕草でそう聞いた。湯気の向こうに長く伸ばした睫毛と、くるっとした愛くるしい子猫のような瞳が私を映していた。
「ああ、昼間のね……」
 私はドーナツで若干パサついた口の中を、やさしい甘さのカフェオレで潤しながら答える。
「時峰がね、ユッカに伝えて欲しいって言ったのよ。その…… 渋井さん? 信用出来る人なのか〜? ってさ」
 私は時峰の言葉を若干修正してそう言った。昼の由香の態度から察して、時峰の言葉をそのまま伝えるのには少し抵抗を感じたからだ。
「時峰君が? へぇ〜 なんでそんなこと聞くんだろう?」
 由香の言葉に私は「さあ……」と曖昧に答えた。あの時の時峰の「気を付けろ」という言葉が鼓膜に残っていたが、私はあえてそれを黙殺した。不快になった由香の顔を見たくなかったからだ。
「あ、もしかして、時峰君私に気があったりして?」
「えっ!?」
 由香の言葉に、まるで脊髄反射のようにそう聞き返していた。それに呼応するように鼓動が少し早くなった。
 時峰が由香に気がある……
 そう考えた途端、何故だろう? 私は明らかに動揺していた。
 時峰が由香をどう思おうが私には一切関係ない。関係ないはずだった。なのにその事を考えると急に締め付けられるような苦しさを味わう。自分の事ながら、全く理解不能な事だった。 
「ね、ねえユッカ、渋井さんって誰なの?」
 私はそんな動揺を由香に悟られまいと話題をすり替える。自分自身、理解が出来ない苦しみなので逃げるしかできなかったのだ。
 私がそう聞くと、由香は少し照れたようにはにかみながらミルクティーをすすった。
「智君は…… この前ね、買い物行ったときに駅ビルのテラスでお茶してたら声を掛けられたの……」
 由香はミルクティーをスプーンでクルクルとかき回しながらそう答えた。そんな由香を見ていると、先ほどまでの不可解な動揺が不思議となりを潜めていくのがわかった。
「つまり、ナンパされたのね」
 私がそう結論付けると由香はこくりと頷いた。
「でね、その後2回会ってさ、なんか良いなぁって思うようになって……」
「付き合っちゃおうかな…… って思ってる訳ね」
 すると由香はまたコクコクと2回頷く。まるで子犬みたいだ。由香は「良くわかるね?」と目をしばたいて言った。由香とは高1から同じクラスで、2,3年と同じクラス。来年の4月で丸3年のつき合いなのでわからない訳がない。しかも由香の場合はわかりやすすぎるくらいわかりやすい。たしか前の彼氏の時もこんな感じだった気がする。
「その智君って何してる人? 同じ高校生?」
「ううん、19歳って言ってたかな? なんかね、映像関係の専門学校に通ってるんだって」
 由香は目をキラキラさせてそう答えた。よく言う『恋する乙女の瞳』って感じだった。
 19歳って事は私たちの2コ上になるのかな? 年上の男の人か…… 祐介兄ちゃんと同じ歳ぐらいだな。
 私がそんなことを考えていると、由香が身を乗り出して私を見つめてきた。え? なんだ?
「由比、どう思う?」
 思わず心の中で『知らんがな……』とツッコミを入れた。どう思うも何も、私はその人を見たこともないのだから判断しようがないし、そもそも私にそう聞くこと自体意味がわからない。
 由香は決して頭が悪い子ではない。しかし、こと自分の恋愛になると良くわからない行動に出る時が多分にあった。『恋は盲目』とは由香みたいな子にピッタリな言葉だと思う。
「どう思うって聞かれても答えようがないよ。会ったこともないんだし」
 私がそう言うと由香は「そりゃそうだよね。あはは」と笑って指で千切ったドーナツを口に放り込んだ。
「相談ってその事?」
「あ、うん、それもそうなんだけど……」
 と言いながら、由香は右の耳たぶをプニプニと指で押している。照れたり誤魔化したりするときの由香の癖だった。
「実はね、今日これからその智君と会う約束してるの」
「え? これから? マジで?」
 その由香の言葉に飲もうと思って口を近づけていたカフェオレを思わずこぼしそうになった。
「ユッカ、こんなところで私とお茶してて大丈夫なの?」
 私がそう聞くと由香は「うん、大丈夫。だって……」と語尾を濁して答えた。
「待ち合わせここのお店なんだもん」
「はぁ!? じゃあなに? これからその渋井さんって人がここに来るの!?」
 私は驚いて由香にそう聞くと、由香はコクコクと頷いた。
「ちょ、ちょっとユッカ、私帰るよ。だって私超お邪魔虫じゃん!」
 と言いながら私は脇の席に置いた鞄とトレイを手に持った。すると由香が私の手をがしっと掴んだ。
「由比待って、由比も居て欲しいの。ていうか私、今日智君に私の親友に会わせるって言っちゃったんだもん」
「ええーっ!?」
 思わず大きな声を上げてしまった。すると周囲の学生達が怪訝な表情で一斉にこちらを見る。そんな中、私と由香は恥ずかしくて小さくなりながらも私は由香に詰め寄った。
「ちょっとユッカ、なんでそんなことを約束するのよ!」
 すると由香は顔の前で両手を合わせ「ごめんっ!」と頭を下げていた。
「智君との話の中で由比の話題になったの。私の親友なんだって言ったら会ってみたいって話になって……」
 由香はそう言って視線を落としながら、もう一度「ごめん」と呟いた。
「それでね、今日智君の友達とちょっとしたパーティーがあるの。それでね、私も誘われてて…… 実は由比も一緒に連れて来てって言われてるの」
「ええーっ!? なにそれっ!?」
 私は由香のおでこに噛みつきそうな勢いで身を乗り出した。由香の髪の毛から柑橘系のシャンプーの臭いが鼻をついた。
「ユッカ、そんなの私無理だよ。第一急すぎるよ。それに新しい参考書も買いに行きたいし……」
 私がそう言うと由香は顔を上げてすがるような目をした。
「由比いっつも勉強ばっかじゃん。少しぐらい息抜きしても良いじゃん。智君もそういう由比だからって誘ってくれたんだよ」
「でも、いくらなんでも今日の今日じゃ……」
 すると由香は再び私の顔の前で両手をあわせた。
「お願い由比、あたしさっき電話で智君に言っちゃったの。由比も連れて行くって。だから今日だけ付き合って! お願いこのとーりっ!」
 由香はそう言って私を拝みながらテーブルの上で頭を下げた。なんかもう必死な感じだったので、私の言葉は消え入りそうな程小さくなってしまった。
「でも…… だって…… そんな急に……」
 そんな私の手を由香ははしっと握りしめた。
「私も智君以外は初めて会うしさ、正直ちょっと心細いのもあるの。でも私、智君の存在が自分の中でドンドン大きくなってて、一緒に居たいって思って…… 今度こそ、本気で好きなのか確かめたいの」
 そう言う由貴の目がちょっと潤んでて、私は由香のことを可愛いと思った。そんなに誰かを好きになりたいって思える由香が羨ましかったのかもしれない。私にはそんな人いないから。だから私は頷いてしまったんだろう。
「わかった…… 良いよ、ユッカ。私も一緒に行くよ。私もユッカの恋に一役買えるなら付き合うよ。親友だもん」
 私がそう答えると由香は花が咲いたような笑顔になった。「本当? 由比来てくれるの?」と言って瞬きを繰り返す度に長い睫毛が前髪の向こうで撥ねている。本当に由香は女の子らしくて可愛い女の子だった。
「でも、今回だけだよ?」
 私がそう言うと由香は「うん。本当にありがとう由比!」と言って嬉しそうに握った手を何度も上下に振って笑った。そんな由香の笑顔を見ていたら、私も何故か嬉しくなって自然に笑みがこぼれた。今朝の時峰の言葉を完全に忘れていたのだ。
 するとその時、どこからかポップなメロディーが流れてきた。この着メロは由香の携帯の音だと気が付いた。由香は制服のポケットからクマのキーホルダーの付いた赤い携帯を取り出し「あ、智君だ」と呟きながら折り畳まれた携帯を開いて耳に当てた。
「あ、智君。今どこ? ―――うん、―――――うん…… えっ!?」
 由香が電話で話しているのを聞きながら、私はカフェオレをすすっていたのだが、不意に由香がビックリした声を出したので由香を見た。由香も私の目を見た後、そのまま視線を窓へと向け、私もそれに釣られるように目を窓の外に向けた。
 コンコン
 窓硝子を叩く音と同時に、窓の外の2人の青年が私たちに手を振った。すると由香が「智君!」と声を上げ手を振り替えした。窓の外の男性はニッコリ微笑み、指で店の入り口を指しながら頷くと立ち去った。すると彼の後ろにもう一人男の人が続いていった。
「今のがその智君?」
 空になったカフェオレをテーブルに置きながら私がそう聞くと、由香は「うん、窓を叩いた方ね」と嬉しそうに教えてくれた。
 少しして先ほど窓の外にいた青年が私たちの座るテーブルにやってきた。
「よう由香。待たせちゃったか?」
 彼は爽やかな笑顔でそう由香に聞いた。由香は「ううん、そんなに待ってないよ。私たちも今さっき来たところだし」と答えながら席をずれて席を空けた。
「そっか、それで…… こちらが由香の友達の由比ちゃん?」
 彼はそう聞きながら私を見た。由香が「そう、私の親友の北乃森由比」と何故か自慢げに言うと、彼は若干長めの前髪を軽く指で弾きながら「初めまして、俺が渋井ね」と答えた。私は彼に軽く頭を下げた。うん、第一印象は悪くないと思った。顔立ちも整ってて由香の好みのタイプだ。
「そんで、ソレが俺の専門学校で一緒の滝沢っていうんだ」
 渋井は由香の隣の席に座りながら横に立つもう一人の彼をそう紹介した。
「おい智、『ソレ』はねーだろ! ったく…… ま、よろしく」
 彼はそう言って軽く手を上げた。体はひょろっとした感じだが背が高かった。たぶん私より頭一個分は高いと思う。こちらも渋井と同じく気さくな好青年といった感じだった。
「北乃森です」
 私はそう言って改めて2人に軽く会釈をした。すると滝沢が「オレもとなり良い?」と私のとなりの席を見ながら聞いてきた。私は「ああ、どうぞ」と言いながら鞄をどかして席をずれた。
「にしても…… 由比ちゃん可愛いね。学校でモテるでしょ〜 彼氏とかいるの?」
 席に着くなり滝沢は私を見ながらそう言った。男の人からこう至近距離で見られながら「可愛い」なんて言われたのはお父さんか親戚の叔父さんぐらいだ。ましてや初対面でいきなりなんて全く経験無い私は照れながら「そんなこと無いですよ」と答えた。
「私、言いたいことをはっきり言う性格なので、あまりモテたりはしません。勿論彼氏もいませんよ」
 と私が言うと由香が口を挟んだ。
「由比は真面目だからなぁ〜 由比ってホント可愛いのにもったいないよなぁ…… あ、でもね智君、由比って男女ともに好かれてるんだよ」
「へ〜 そうなんだ。じゃあアレか? 学級委員タイプ?」
 由香の言葉に渋井がそう相づちをうった。由香は「あ〜 そうそう、そんな感じかな」と適当なことを言う。
「全然そんなこと無いんですよ。ちょっとユッカ、あんまり余計なこと言わないでよ」
 由香も愛しの智君に会って少しテンションが上がっている気がする。あまり余計な事を言わないように少し釘を刺しておかないとね。
 そんなたわいもない話をしていると、私の隣の滝沢が携帯を取り出して時間を確認し渋井に聞いた。
「なあ智、そろそろ行かね?」
 すると由香と笑いながら雑談していた渋井も「お、そうだった」と呟いた。
「そろそろパーティーに行こうよ。由香達が来るからって店予約してるんだぜ」
 渋井はそう言って由香の肩に手を回した。由香は「え? マジで?」と嬉しそうに渋井の肩に頭を載せていた。すると隣の滝沢が私の肩をポンと叩いてきた。
「よし、由比ちゃんも行くべ。さあ」
 と言って席を立った。私も「あ、はい」と返事をしながら鞄を手にとって立ち上がった。滝沢は「これは俺が持って行ってやるよ」と私のトレイを持ち席を離れた。私は「良いです、自分で持ちますから」と言ったのだが、滝沢は「いいっていいって」と笑っていた。
「あの、パーティーって一体どんなことするんですか?」
 トレイを返却口に運ぶ滝沢の後ろから私はそう聞いてみた。
「智は店予約なんつってけど、そんな大した店じゃないよ。学生バーみたいな小さな店なんだ。でもみんなで騒げば楽しいじゃん?」
 滝沢はそう言ってまた笑った。
「由比ちゃんって毎日勉強ばっかやってんだろ? 智が言ってたよ。だから今日は息抜きで楽しんじゃいなよ」
 私は滝沢の言葉に少し最近の自分を振り返ってみた。確かにこのところ息抜きなどしてない。由香とこの店に来たのだって久しぶりだった。由香も寂しいって言っていたし、言い気分転換になるかもしれない。私はそう考えることにした。
「あ、でもあんまり遅くなるのは困ります。親も心配するし」
「帰りたい時間に帰れば良いよ。そんな堅苦しい集まりじゃないから。気の合う仲間内の集まりだからさ。その辺りは心配しなくても大丈夫」
 そんな滝沢の言葉に私は少し安心した。由香だってそんな遅くなったらマズイはずだし、私が頃合いを見計らって一緒に帰ればいい。
「じゃあ行こっか」
 そんな渋谷の言葉を合図に私たちはドーナツ屋を後にして、そのパーティーをやるお店に向かった。
 私達はドーナツ屋の前にある商店街のアーケードを抜け、一つ目の交差点を右に折れた。その辺りは居酒屋やスナック、ショットバーなどが並ぶ飲屋街のような場所だ。私と由香は当然あまり馴染みのない通りだった。
「あの…… 私たちお酒は飲めないんですけど」
 私は少し心配になって前を行く男2人にそう言った。すると滝沢が笑いながら答えた。
「大丈夫だよ。心配しなくとも君らにお酒なんて飲ませないからさ。ジュースも用意してるし。でもお酒飲みたかったら止めないけど」
 そんな滝沢の言葉に渋谷も笑って続ける。
「ああ、ま、社会勉強の一環って事で飲むのもアリなんじゃん?」
「いえ、遠慮しておきます」
 私が間髪入れずにそう答えると2人して「まじめだなぁ」と笑った。隣を歩いていた由香もクスッと笑い、「私、少し興味があるかなぁ」という由香に「だからダメだって」と私が言うとまたさらに笑っていた。全く、何がそんなにおかしいの? だって『お酒は二十歳になってから』でしょ?
 そうこうしているうちに、渋井の「ここだよ」という声で私たちは目的のお店に着いたことが分かった。
「この建物の地下なんだ」
 見ると地下に降りる階段の入り口にカフェ『アスピリン』とあるが、どうやらそれが店名であるようだった。
「へ〜 地下にあるんだ。なんかさ、映画に出てきそうなお店じゃない? 由比」
 そんな由香の言葉に私は「え、ええ……」と曖昧に答えた。この時、私は奇妙な感覚にとらわれ、由香の声がちゃんと拾えてなかったのだ。

 私…… この場所を知っている……

 こんなところ、私は来たことがないはずなのだが、この店の入口を見た瞬間、記憶にある映像と一致していることに気がついたのだ。
 いったいいつ見たのか全く思い出せない。でもこの店の佇まいは確かに記憶には存在している。おかしな表現だけど、私の頭の中に『身に覚えのない記憶』があるのだ。
「んんっ? 由比どしたの?」
 店の入り口で立ち止まる私に由香がそう声を掛けてきた。私はその言葉に妙な記憶に必死に蓋をして「えっ? あ、ううん、何でもないよ」と答えるのが精一杯だった。
 何故だろう…… 最近こういった既視感めいた物を感じることが多い。昨日も白昼夢のような感覚に襲われたばかりだ。
 状況や場所、場面などはそれぞれ違う。しかし共通してそのことを思い出そうとすればするほど、頭の中に霧がかかる様にぼやけてしまうのだ。そしてまた昨日と同様に何か大事なことを忘れているような不安が私を支配する。その不安は私の足を極端に重くしていた。
 覚えがないのに記憶にある店…… 
 そのとき、今朝の時峰の言葉が甦ってきた。全てを知っているかのような彼の言葉が
、何故か私のこの不可解な記憶の混乱と何か関係があるような気がしてきた。そんなことを考えていたら、不意に由香が手を握ってきた。
「行こうよ、由比」
 私の不安とは対照的に、由香は幸せそうな笑顔で私にそう言った。私が「うん……」と答えると由香は私の手を引きながら階段を降りていった。
 階段を下りると、突き当たりにウェルカムと書かれた木製のドアがあった。所々塗装が剥がれているが、それが返って店の雰囲気を演出しているように見える。渋井がドアを開け中に入り、由香などは「なんかカッコイイよね」と終始笑顔でそのドアを潜りそして私、それから滝沢と続いた。
 店内は地かなので当然窓は無かったが、天井から下がる大きな証明と各所に配された間接照明でそれほど暗くはなかった。右手にバーカウンターがあり、左手にテーブル席が並んでいて、その奥に少し広めのスペースがあってなにやら撮影機材みたいな物が並んでいた。
「よう、智、いらっしゃい」
 そうカウンターの向こうでグラスを拭いていた男が声を掛けてきた。年の頃は30台後半と言ったところか。長めの髪を後ろ手に結い、少々大きめのピアスがカウンター横のスタンド照明の明かりに反射して光っていた。恐らくこの人が店主のようだ。
 私と由香は店内を見回していた。由香は「雰囲気あるじゃ〜ん」と漏らして上機嫌だった。
「ねえ由比、ちょっと良い感じのお店じゃない」
 と言う由香に「そうだね……」と相づちを打ちながらも、私は由香とは別の感情を抱きながら店内を見ていた。
 やはり…… 私はこの店を知っている。
 カウンターの位置、テーブルの配置や照明。型の古いラジカセに小さな赤いブラウン管のテレビ。そしてカウンター向こうにいる店主……
 来たことも無い店であるはずなのに、それら全てが記憶にあるというその気味の悪さに、私は得もいわれぬ不安を感じていた。
 とその時、先程店に入った時に見えた機械が置いてある奥のスペースから3人の男が姿を表した。
「うひよー! マジで結構イケてる女子高生じゃんよ!」
 手前の坊主頭の男が奇声を上げて手を叩いた。その声に私と由香は驚いてビクッとなった。するとその男の後2人がそんな私達を見てケラケラと笑っている。3人ともジャージやスェットといったラフな格好で、渋井や滝沢とは違い、私はあまり良い印象は感じなかった。いや、むしろ関わりあいになるのは避けたい類いの人達にみえた。
「なぁ智、俺こっちの真面目っぽい娘な? マジでそそる」
 坊主頭の後にいた赤い髪の男が私の前に来て顔を覗き込んできた。私は(何なの?)と思いながら体を退く。由香も私の手をぎゅっと握って体を強ばらせている。私はチラリと後にいた滝沢を見た。すると滝沢は私とその赤髪の間に割って入った。
「まあ待てよ、荒牧。この娘は俺が最初だぜ?」
 滝沢はそう言って私の肩を抱き寄せた。
 はあ!? なにこれ? 最初ってどういう事?
「ちょ、ちょっと……っ!」
 私は滝沢の手を振りほどこうと由香の手を離した瞬間、由香の体がすっと横に引かれた。見ると渋井が同じように由香の肩を抱いていた。
「と、智君……?」
 由香の不安そうな声が聞こえた。私が「ユッカ!?」と呼んだ瞬間、隣の滝沢がいきなり胸を触ってきた。私は「いやっ、ちょっとやだ……っ!?」と滝沢に抗議しつつ手を払いのけた。すると今度は赤髪の男が私の後に回り背中から両腕を掴んだ。そしてそのまま近くのソファーに倒れるように座り込んだ。私はちょうどその男の膝に抱っこされる形になった。
「何を……っ、この……っ!?」
 私が足をばたつかせて立ち上がろうとすると背中の男がからかうような声を上げた。
「うほっ! 大人しそうな顔して生きがいいじゃんこの娘」
 すると正面にいた滝沢が私の顎を掴んでニヤリと笑った。
「良いじゃん。抵抗した方がおもしれーよ。それのがリアルな絵が撮れるだろ」
 滝沢のその言葉に私はチラリと横を見ると、先程坊主頭の男と一緒に奥から表れた男がハンディタイプのビテオカメラを構えていた。私は首を振って滝沢の手を振るい退けて睨んだ。
「こんなことして、どうなるかわかってるのっ!?」
 私の言葉に滝沢と後の男はケラケラと笑った。
「どうなるっていうんだよ? お前らこそビテオをネットで流されたいわけ?」
 滝沢はそう言いながら私の胸を掴むと乱暴に揉んできた。私は恥ずかしさと悔しさで鼻の奥がツーンとした。
「あ、う……っ、ぜ、絶対、警察に……っ!」
 制服の中に滝沢の手が潜り込んで来て、私が気持ち悪さを感じなからもそう言いかけた瞬間、由香の悲鳴が響き渡った。
「いやぁぁぁぁぁ――――――っ!!」
 見ると由香もソファーに押し倒され、坊主頭の男に手を拘束されていた。しかもブラウスの前ははだけ、ブラはたくし上げられていた。小振りだけど形の良い由香の胸が露わになるのを見て、私は叫んでいた。
「由香、由香ぁーっ!!」
 私がそう叫ぶと、目の前の滝沢が薄ら笑いを浮かべていた。
「ビテオがネットに流されたら…… 由香ちゃんはどう思うかなぁ? 結構ショックなんじゃない?」
「そうそう、自殺しちゃうんじゃね?」
 滝沢の言葉に背中の赤髪の男もそう言って笑っていた。
 私は悔しさを奥歯で噛み殺した。由香は滝沢の言う通り、恋愛経験こそ私より多いが内面的に脆い所がある。前の彼と別れたときも2、3週間ほど落ち込んでいた。自分の何がいけなかったのかをずっと考えていたような子だ。そんな由香だけに犯されて、あげくのはてにそんなものまで流出したらどうなるか恐くて想像がつかなかった。私は抵抗するのを止めた。

 何でこんな人に…… 
 恥ずかしい
 気持ち悪い
 嫌だ……

 色々な感情が溢れてくる。でも何より悔しい気持ちが私の心を支配した。
 さっきまであんなにはしゃいでいた由香が、今は男2人に乱暴されて泣いている。しかもそのうち1人は好きになりかけていた人だ。きっと由香は信じていたと思う。由香の気持ちを考えると悔しくて仕方がなかった。そしてそんな由香を騙していた渋井が許せなかった。
「あんた達、クズねっ! 最低最悪のクズだわっ!!」
 すると滝沢は胸から手を離し、今度はスカートの中に両手を入れてきた。私は息を飲みながらも滝沢を睨んだ。
「生意気な女は嫌いじゃない。が、ガキにクズ呼ばわりされるのはちょっとムカつくな。だから下はお前から剥いてやるよ」
 そう言いながら、滝沢は私のスパッツとショーツのゴムに指をかけた。私はその瞬間目に涙が滲むのを感じたが、それが溢れるのをグッと我慢して滝沢を睨み続けた。
 絶対泣かない。泣いてやるもんかっ!!
 私は呪文のように何度も心のなかで自分に言い聞かせた。そして滝沢の指に力が加わった瞬間目を閉じた。
 その時だった。
 ガツンっと言う鈍い音と共に、滝沢の手がスカートの中から引き抜かれた。そして背中の男が「テメェっ!!」と短く叫んだ。私は恐る恐る、そしてゆっくりと目を開いた。
 するとそこに滝沢の姿はなく、代わりに立っていた人物がいた。そしてふと見ると隣のテーブルに崩れるのようにうつ伏せに倒れた滝沢の姿があった。私は驚いてその人物を凝視した。
 紺色のジャージにパーカーを羽織り、フードを被っていて顔がよく見えなかった。背中の男は「んだぁ、テメェは? コラ!」と吐き捨てるように言いながら私を膝の上から乱暴に放り出して立ち上がり、そのフードの人物に向かい合った。私はよろけながらも乱れた胸元とスカートの裾を直しながら床にしゃがみこんでフードの人物を見上げた。
 赤髪の男はそのフードの人物の胸ぐらをつかもうと手を伸ばしたが、フードの男は素早くその伸ばした手首を左手でつかみ、右手の掌で顎を突き上げた。赤髪の男は「あがぁっ!」と奇妙な呻き声をあげのけ反った。フードの男はそのまま体をすっと沈み込ませたかと思うと、今度は独楽のように鋭く回転してのけ反った赤髪のお腹に肘打ちを叩き込んだ。その動きにはまるで無駄がなく、流れるような自然な動作だった。
 赤髪は悶絶しフードの男にもたれ掛かる様にしてその場に倒れた。その時、赤髪の手がフードに引っ掛かり、その男の顔が露になった。
 その顔を見た私は信じられない思いで息を飲んだ。
「すまない…… 場所を特定するのに少し手間取った」
 私をチラリと見てから直ぐに渋井達に向き直り、背中を向けたまま時峰宗一郎はそう言った。こんな状況でさえ、相変わらずの淡々とした口調だったが、それがかえって私を安心させた。
「時峰…… なんで……」
 私はなにか言おうと言葉を探したが、うまく繋げることができなかった。

 嫌いなはずなのに……
 今朝あなたにあんなこと言った私なのに……
 なんであなたは……

 そんな思いで時峰の背中を見ていたら、先程絶対泣かないと我慢していた涙が簡単に溢れて来て止まらなくなった。でも私は少しも悔しくなく、そしてとてもうれしい時にも涙は出るんだってことを思い出した。

(5)

 総一郎はふっと下唇を器用に歪めて息を吐き、前髪を揺らした。気持ちが高ぶり、集中力を高めていくと無意識に行う彼の癖だった。
 先ずは3人……
 総一郎はそう心のなかで数える。カウンターにいた店主は、店に入った瞬間に顎を砕き、締め落としていた。
 何度か繰り返した場面。自分の記憶にある相手の動きを追い、先手を取って動く。乗り込むタイミングに若干のタイムラグがあったものの、ここまでの相手の動きは前と寸分変わらない。
 だが……
 宗一郎はチラリと北乃森由比を見やった。彼女は涙こそ流しているが、その瞳には強い意思の色が伺える。時峰の記憶にある彼女とはまるで別人だった。ここまで性格が変わると、起こる事象にどれだけの『ズレ』を誘発するのか予測出来ないだけに油断は禁物だった。
 それにしても強くなった……
 そんな言葉を心のなかで呟く。
 いや、以前もあまり表に現れないだけで、芯は強い娘だったと思い直す。
 その時「時峰、うしろっ!」と由比が叫んだ。
 ああ、わかってる。 
 宗一郎は心の中でそう答え、振り向かずそばにあるテーブルの角の端を踵で力一杯踏みつけた。テーブルはまるで生き物の様に跳ね上がり、先程ビデオを撮っていた男はテーブルに弾かれ、宗一郎に振りかぶったマイクスタンドごと後に弾けとんだ。
 自分の記憶の中にある、もう何度も体験した状況をなぞるように体を動かす。冷静に、そして機械的に攻撃をかわし相手を打つ。この状況は場所は違うが3通りほどパターンがあった。それら全てを宗一郎は記憶していた。
 どれほど繰り返したろう……
 宗一郎はそんなことを考えながら振り返り、倒れかかる男にそのままダイブして男の腹に肘を叩き込んだ。「がはぁっ!!」とぐもった呻き声をこぼしながら気を失う男を見ることすらせず、宗一郎はお手本のような美しいハンドスプリングで床に立った。
 どれほど、繰り返そうが……
 そしてその色のない瞳のまま、佐伯由香に跨った状態で固まっている渋井を見やった。
「うう……っ、とぎみねぐぅん…… だずっ、だずけ……っ!」
 渋井の下に敷かれ、両腕をバンザイの格好で拘束された佐伯は、涙と鼻水で顔を汚しながらぐもった声で宗一郎に助けを求めた。
「ああ、そのつもりだ」
 宗一郎はいつもの感情が絶えた声でそう呟いた。
 露わになった佐伯の上半身は、抵抗したときについたのか所々赤くなっていた。それが持ち前の肌の白さと相まって一層痛々しく見えていた。
 何度見ても嫌な光景だった。宗一郎にとっては襲われている佐伯を見るのはこれが初めてではなかった。そんな佐伯の姿を見るたびに、宗一郎は胸がキリキリと痛んだ。
 女の子にとって1度でさえショッキングな行為だ。なのに佐伯は宗一郎のせいで何度も同じ状況を繰り返している。自分が繰り返す数だけ、佐伯は襲われてしまうのだ。
 
 すまない……
 
 その度に宗一郎はそう心の中で佐伯に詫びた。当然佐伯には過去に何度も襲われた記憶など存在しない。宗一郎が繰り返すたびに彼女の記憶は改変されてしまうからだ。宗一郎の頭の中にだけ蓄積されていく記憶。宗一郎が再び『飛べ』ばこの状況は白紙に戻り、彼以外の全ての人の記憶は改変されてしまう。いや、記憶だけじゃなく全ての事象そのものが改変される。
 だが、それで良いわけではない……
 記憶を持ち続けなければならない宗一郎にとっては、それは決して『無かったこと』にはならない。佐伯は宗一郎の目的の為に何度も恥ずかしい思いをして、怖い思いをして、心に傷を負っていく。その事が宗一郎の壊れかけた心をさらに痛めつけていた。
 以前は回避しようと何度か試みたことがある。佐伯に別の予定を入れるよう誘導したり、事前に直接佐伯本人に打ち明けた事もあった。だが、その全ての努力が無駄に終わった。場所は変わるが、この日この時『佐伯由香が渋井達に襲われる事』は変えられなかったのだ。
 今朝北乃森由比に言ったことは、宗一郎に残されたわずかな可能性だった。前回までとはあることが決定的に違うせいで祐介の運命が大きく変化した。なら佐伯由香も変えられるのでは? と思ったのだ。しかし出来なかった。
 時宗一郎は考える。あの時もっと真剣に北乃森由比を説得させられたなら……
 いや、恐らくダメだろう。食い下がっても事態は悪化するだけだ。
 そう宗一郎は結論付けた。彼はこれまでの経験からそう判断したのである。これまで強引な方法で何かを変えようとしても、必ず坂道を転がり落ちるようにより酷い状況に追い込まれてきた。だから宗一郎はこれ以上佐伯の件への干渉を避けたのだ。目的達成の為に……
 それに初めからこれだけ変わっているのはここ数回の中では初めてのことだ。そのおかげで祐介の未来も変わっている。何が理由でここまで違うのかわからない現時点では、再び『飛んだ』とき、またこの状況でのスタートが出来る保証は何処にもない。
 だから宗一郎は成り行きに任せた。この回を大事にしたかったのである。

 すまない……

 宗一郎は再び心の中で静かに呟く。渋井が何を企んでいたのか、それで佐伯がどんな思いをするのか、その後彼女がどうなるのか……
 それら全ての結末を知っていながら、宗一郎はあえて何もしなかった。自分の目的の為に、この回の未来を見据える為に、佐伯の気持ちを犠牲にしたのだ。

 俺を、恨んでくれていい
 軽蔑してくれ
 俺は人でなしだ

 そんな言葉が宗一郎の頭の中にまるで呪文のように繰り返される。そんな中、宗一郎は色のない瞳で渋井を見つめ、静かに拳を握りしめる。そして宗一郎は微かな声で呟いた。
「すまない…… 佐伯」
 それは今まで救えなかった、そして自ら犠牲にしてきた沢山の佐伯由香に向けた、心からの謝罪の言葉だった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 私はまるで魔法を見ているようだった。表れた時峰は、あっという間に3人の男をやっつけてしまった。噂には聞いていたけれど、ここまでだとは正直思っていなかった。
「―――凄い」
 3人目の先程ビテオを回していた男の腹を肘で叩き、すぐさまバネ仕掛けの人形みたいに立ち上がった時峰を見ながら、思わすそんな呟きが漏れてしまった。
 私は格闘技とかそういったものはあまり詳しくない。でも、そんな素人の私から見ても時峰と彼らとでは明らかにレベルが違うとわかった。
「時峰……」
 私がそう呟いたとき、時峰はチラリと私に視線を投げた。あのいつもの色のない瞳で。
「んだぁ、てめぇはよぉうっ! ああっ、コラぁっ!」
 坊主頭の男が由香の両手から手を放し、威嚇するような視線で時峰を睨みながら立ち上がった。そしてテーブルの上にあるビンを逆手に持つとそのままテーブルに打ち付けた。ビンは派手な音と破片をまき散らしながら割れ散った。
「ガキがイキがりやがって、顔をスダレにしてやんよっ!」
 私はその姿に息を飲んだ。いくら何でも危なすぎる。見ると由香も青い顔をして固まっていた。
「ときみ……っ!」
「やめておけよ……」
 私の言葉は時峰の無感情な声でかき消された。そして時峰はゆっくりと自分の首に撒いてあったスポーツタオルを外し、右手にクルリと一週巻き付けた。
「今更ビビッたっておせぇよコラ。なめた真似しちまったなぁ、オイ?」
 坊主頭はそう言いながら左手にもう一本ビンを掴み、そのビンも同じよう逆手に持って叩き割った。完全にキレている感じだ。だが時峰はさほど動じたふうもなく、ゆっくりとした動作で近くに転がっていたペットボトルを拾いあげると、キャップを片手で器用に外し、中のお茶を右手にぶら下げたタオルの先の方にかけていた。
「得物を持った相手には手加減できない。だからやめとけよ」
 先が塗れてポタポタと雫が落ちるタオルを片手で軽く絞り、時峰は右足を前に出して軽く腰を落としたままそう言った。
「ああっ? てめぇ、頭おかし……っ!」
 坊主頭が呆れたように一歩踏み出した瞬間、スパンッ! と風船が破裂したような音が響き渡り、坊主頭が「あがっ!!」と声を上げてのけぞった。続いて坊主頭の左手に握られていた割れビンが左側のカウンターに当たってはじけ飛ぶ派手な音が続いた。私は何が起こったのかさっぱりわからなかった。
「この……っ、て、てめ……っ!」
 呻きながら立ち上がり、今度は右手に握った割れビンを突き出そうと腕を上げた瞬間、再びあの風船が割れるような音が鳴り響き、同じように坊主頭が呻きながらのけぞった。
「だから、やめとけって言ったろ?」
 そんな時峰の声にまたさっきの破裂音が被った。しかも今度は立て続けに複数回聞こえた。私は少し体をズラして時峰の背中越しから覗き込んだ。両手を押さえながらぐもった呻き声を漏らしつつ坊主頭が顔を上げた瞬間、また音がして坊主頭の顔が弾けたように跳ね上がった。時峰は先の湿らせたタオルを驚異的な速さで打ち出し、すぐさま手首のスナップを利かせて引きよせ、タオルの先端で坊主頭を叩いていたのだった。
 時峰は相手の足や股間とリズムカルに叩き、坊主男がたまらず蹲ろうすると顔を打つ。のけぞり顔を上げるとさらに数回顔を集中的に叩くと言った感じで倒れることすら許さなかった。そうこうしているうちに坊主頭の顔は見る見る赤く腫れ上がり、最後には瞼が腫れてほとんど目が開かない状態になった。顔を腫らせ、ふらふらと前に出る坊主頭に時峰はすっとしゃがみ込み、床を這うようにクルリと回転して足を払った後、トドメばかりにひっくり返った坊主頭のお腹に踵を叩き込んだ。そして悶絶する坊主頭に背を向け立ち上がると、呆然としている渋井に向き直った。
「後はお前だけだ、渋井」
 時峰は右手のタオルをハラリと床に落とし、ゆっくりとした動作で渋井に一歩歩み寄った。
「な、なんなんだよっ! お前はっ!?」
 渋井はそう言いながら跨がっていた由香から降りて時峰に向き合った。由香は自由になった両手で捲り上げられた下着とブラウスを下ろし、両肩を抱くようにしてソファーの上で体を固くして震えていた。
「こ、こんなことしてただですむとか思ってんのか? 俺らの仲間がこれだけだと思うなよ」
 渋井はそう言って時峰を睨む。私はその言葉にゾッとして店の入り口を見た。すると時峰はいつものつまらなそうな気のない声で渋井に言った。
「知っているよ。あんたらの事は全部」
 時峰の言葉に渋井は怪訝な表情を浮かべていた。
「だからここを特定するついでに手を打ってきたんだ。今ごろあんたの友達は1人残らず警察に押さえられてるはずだ。胸くそ悪くなるDVD ごとな」
「な……っ!?」
 渋井は今度こそ絶句した。私はその会話を聞きながら、渋井達がこれまで何をやってきたのか見当が付いた。
 きっと渋井達はこれまでに何人も女の子を連れ込んでは私たちのように乱暴し、その様子をビデオに撮っていたんだ。そしてさっき私に言ったように、その映像で女の子達に口止めさせていたに違いない。
 なんて卑劣で、卑怯で、最低な人達っ!
 人を…… いや、女の子の気持ちをなんだと思っているのよっ!!
 私は沸き上がる怒りで息が苦しくなるほどだった。
 すると時峰はまた一歩渋井にちかづいた。渋井はそれに合わせるように後ずさった。
「北乃森、佐伯を……」
 時峰は渋井が由香のいるソファーから充分離れたのを確認しそう言った。時峰はどうやら由香から渋井を安全に遠ざける為に、わざとゆっくり動いてプレッシャーを与えていたようだった。
 私は「うん」と頷いてソファーの由香に駆け寄った。
「ユッカ、大丈夫? 怪我はない?」
「うう……っ、由比、ごめんね、ごめんなさい……ううっ、こんなはずじゃなかったのに…… 親友なのにぃ…… 由比ぃ、ほんとにわたし……っ」
 由香は私の腕を痛いほと強く掴んで、私の肩におでこを擦りつけるようにして泣いていた。こんなに引きつった様に泣く由香を、私はこれまで見たことがなかった。そして、自分がこんなにされてまで私にそう言って謝る由香に、私は少しばかり感激していた。由香はやっぱり私の親友なんだ。
「大丈夫、私は大丈夫だから。時峰が助けてくれたから。ね? 由香は何にも悪くないから、ね?」
 私はまるで泣きじゃくる幼子をあやすように、優しく由香の髪を撫でてそう言った。由香は何度も「ごめんね」って言いながら泣き続けていた。私はそんな由香を抱きしめながら、再び時峰に視線を移した。
 すると時峰は渋井の目の前に立っていた。が、その瞬間、時峰の体が素早く後ろへ飛び退いた。渋井が何かしたようだったが、ここからでは時峰の体で何があったのかよく見えなかった。
「へっ、やっぱガキだな。光モン見せるとビビってるとかってマジうける!」
 そんな渋井の言葉に、引きつった笑い声が続いた。私は由香を抱いたまま体をズラして時峰の背中越しに渋井を見て息を飲んだ。渋井の手には見るからに凶悪そうな大きめのナイフが握られていたのだ。
「ナックルガードが付いてるし、ストラップも巻いてる。山瀬の時みたく簡単には手放さねぇ。オラっ! さっきの勢いはどこ行ったんだよ?」
 渋井はそう言って握ったナイフを威嚇するように時峰に向けて振るっていた。私はその姿に心臓が止まりそうになっていた。山瀬とは恐らくさっきビンを割って持っていた坊主頭の男のことだろう。さっきのビンも怖かったけど、ナイフはもっと怖い。刺されどころが悪かったら死んでしまうかもしれない。
「時峰…… ダメ、ダメだよ…… ねえ、もう逃げようよ……」
 自分の声が震えているのがわかる。今さっきまで泣いていた由香も、今は私にしがみつきながら震えて時峰と渋井を見ていた。
 ヤバイ、絶対にヤバイ! 死ななくたって、絶対大怪我する。そんな、時峰がそんな風になる所なんて絶対に見たくないっ!!
 私はそう思って叫ぼうとした瞬間……
「そう…… それだった」
 不意に、そして唐突に暗い声が響いた。私はそれが時峰の声だと気が付くのに少し時間がかかった。
「あの時、お前が…… そんな物を持ってなければ…… 祐介はああはならなかったんだよな」
 それは、気味が悪い程冷え切った暗い声…… なんというか、無理矢理絞り出すような声だ。
「はあ? てめぇ、何言って……」
 そう言いかける渋井の言葉に、再び時峰の暗く沈んだ声が重なった。
「ああ、そうだろうな。当然だ、今のお前には俺が何を言ってるのかわかるはずがない。だけど…… 俺は忘れない。いや、忘れられないんだよ……」
 私はこの時、時峰が怖いと思った。さっきまで渋井の握っていたナイフを見て震えていたのだけれど今は違う。私はこの時、時峰が怖くてたまらなかったのだ。
「ダメだ…… ダメだよ祐介。俺やっぱ無理だ。コイツを許せそうにないわ……」
 祐介…… 確かに時峰はそう言った。何故だろう? 違うとは思うのだけれど、私が知っている『祐介お兄ちゃん』と時峰の言う『祐介』がダブる。
 渋井、ナイフ、祐介、そして時峰……
 何だろうこれ? 私の頭の中で何かがぐるぐると回っている。酷く気持ちが悪い。頭がクラクラするのだ。
 私はそんな妙な目眩を振り払うように頭を振って時峰を見つめた。すると時峰はジャージのズボンの尻に手を回し、ズボンに挟んであった棒みたいな物を取り出した。時峰はそれを両手で掴み、なにやら操作をしてそれを2本にした。そのまま手元で何かを操作すると、棒のような形状だったそれに突起物が飛び出した。
「そんな物を持っていた事を心底後悔させてやるよ、渋井……っ!」
 時峰がそう言った瞬間、今まで短かった棒状のそれが、派手な金属音と共にするっと伸びた。その形は丁度時代劇とかに出てくる十手のような形だった。時峰はそれをクルリと器用に回した後、逆手に握って若干腰を落としながら構えを取った。
「なんだそりゃ? お前そんなオモチャでやろうって言うわけ? 頭おかしいんじゃね?」
 渋井はそう言ってケラケラ笑っていた。だが時峰は微動だにせず、渋井に向かって構えたまま答える。
「俺の『撃術』は、本来は無手じゃなくその場にある物全てを武器として使う。大昔はその身に寸鉄を帯びずに敵陣に入り、その場にある物を武器にして将の首を取ると言った物だったそうだ。仮にオモチャだろうが、俺の技は武器に変える……っ!」
 時峰は淡々とした口調でそう静かに渋井に告げた。だが私は時峰その声に、冷たい刃物を押しつけられたような戦慄を憶えた。
 渋井がナイフを出した瞬間から、時峰の雰囲気がガラリと変わった。
 確かにナイフで緊張するのはわかる。だけど時峰の変質はそんな『緊張』とかそう言った物では無い気がする。何かもっと…… そう、殺気みたいな物の様に私は感じていた。
 そして渋井もこの時、時峰の殺気のような物を感じ取っていたようで、ナイフを持っているにもかかわらず息を飲んで動けないようだった。
「ほら、来いよ渋井。あの時みたいにさ……」
 両手に十手を逆手に持ち、左手は肩の高さで付きだし、右手は腰の辺りに引いた形で構えたまま、時峰は渋井を挑発していた。そんな挑発を受けた渋井は、奇妙な声を上げながら時峰に斬りかかった。
 渋井のナイフが天井の照明に反射して鈍い光を放ち時峰に襲いかかるが、時峰はそれを難なく交わしていた。渋井はさらに踏み込み数回斬りつけるが、時峰はその全てを感情の絶えた瞳で見据えながら交わしていく。時折甲高い金属音が響くのは、ナイフの刃先を時峰が十手で防いでいるからだろう。
 数回の後、一際高い音が響き渋井のナイフを時峰が十手の鈎で防いで動きを止めた。そしてそのまま受けた方の十手をクルリとひねり、空いた手の方に握っていた十手を回して渋井の腕を打った。その瞬間ゴキンっと鈍い音がし、その直後に渋井の絶叫が覆い被さった。
 渋井が右手首を押さえて蹲ろうとした瞬間、時峰は体を沈ませて今度は渋井の膝の辺りに十手を叩き付けた。渋井は再び絶叫を放ち、一瞬何かに弾かれたように飛び跳ねて床にひっくり返った。
「あがぁぁぁっ! いてぇぇぇぇっ! いってぇぇぇぇぇぇっ!!」
 渋井は床に倒れたまま、ナイフを持つ手首を押さえつつ、片方の足をバタつかせてもがき回っている。見るとナイフを握る手首があり得ない方向に曲がっていて、私は思わず目を背けた。
「刺してみろよ渋井、祐介を刺したみたいにさぁ……」
 悲鳴のような渋井の声が響き渡る中、そんな時峰の冷めた声が妙にクリアに聞こえた。
「だ、誰だよ祐介ってよぉっ! 知らねぇよぉ…… うぐぅぅ……っ! そんな、ヤツ!!」
 時峰は足下で藻掻きながらそう言う渋井をつまらなそうに眺めていた。
「だろうな…… 言ったろ? 知らなくて当然だって」
 時峰はそう呟き、不意に右足を持ち上げ先ほど変な方向に曲がっていた手首めがけて静かに降ろした。
 再び渋井は断末魔のような叫び声を上げ、時峰のスニーカーに額を擦りつけた。
 いくら…… なんでも……っ!
 私はその光景を見ながら心の中でそう叫んだ。あまりにも凄惨過ぎて声が出なかったのだ。
 何が時峰をそうまでさせるのかわからない。渋井が彼に何をしたのか…… でも何をしたにしても、いくら何でもこれは酷いと思った。
「っが、ぁぁぁぁぁぁぁあああ…………っ!」
 渋井の悲鳴がだんだん大きくなっていく。時峰はどうやら踏みつける足に徐々に力を加えているようだった。
「あぁぁぁ、悪がったぁ…… 俺が、わるがっだぁ、から……っ!」
 渋井は息も絶え絶えと言った様子でそう時峰に懇願した。だが、時峰はそんな渋井を眺めながら静かに渋井に問いかけた。
「あんたが今まで乱暴してきた娘達がさ、やめてくれって言わなかったか? 許してくれって懇願しなかったか? あんたはそれを聞いてあげたのか?」
「あ、あぁぁぁ……っ! ゆるじで、くれ……、か、がんべん、じて、く……れ」
 渋井の耳には時峰の問いは聞こえて無いようで、渋井は時峰のスニーカーにおでこをグリグリと擦り続けながら、うわ言のようにそう言った。
「悪いな、俺にはあんたが何を言ってるかよく聞こえない。はっきり喋ってくれ」
 時峰がそう言い終わると、渋井の悲鳴はさらに大きくなった。時峰は踏みつけている足にさらに力を込めたようだった。
 止めて…… もう止めてよ時峰……っ!
 私はそれを見ながら、心のなかでそう叫んでいた。本当は声を出さなければならないと思っているのに声が出ず、私は縋るように時峰の顔をみた。だが時峰の顔からは何の感情も伺えず、その目だけが冷たく、そして鋭く渋井を眺めている。
 ダメだ。どんな理由があるにせよ、これ以上はいくら何でもやりすぎだっ!
 私はそう思い無理矢理声を絞り出した。
「時峰ぇ―――――っ!!」
 その瞬間、時峰の体がブルッと震え、そしてゆっくりと顔を私に向け私を見た。
 その時の時峰の顔をなんと表現したらよいのだろう……
 哀しみと寂しさ
 絶望と孤独……
 それら負の感情を全部詰め込んだ様な、暗くて、冷たくて、哀しい表情。何を経験したら、人はこんな表情になるのだろう。それはおよそ16歳の少年がする顔では無かった。
「ね? もう止めよ? もう充分だよ…… 時峰」
 時峰はそう言う私の目をしばらく見つめた後、「ああ……」と短く呟いて踏みつけていた渋井の手首から足を降ろした。渋井はどうやら痛みに耐えかね失神したようで、ピクリとも動かなかった。
 私はしがみついている由香から手を放し、立ち上がろうと床に手を付いた瞬間、指に何かが当たった。私は何だろうと思い目を向けると、そこには硬貨ほどの大きさの赤い石が転がっていた。
 何だろう、これ?
 摘み上げるとそれは天井の照明に反射して鈍い光を放った。
 透明な赤いその石は中心が黒く、その周囲に細かな筋が幾重にも重なっていて、それが角度によっては猫の瞳のように見えた。頭の部分にチェーンリングが付いているところを見ると、どうやらペンダントトップのようだ。
 それにしても綺麗な石だった。見ていると吸い込まれそうになる。
 そんなことを考えていたら、私の腕にしがみついていた由香が「も、もう終わり?」と聞いてきた。私ははっと我に返り、由香の肩をさすりながら「うん、もう大丈夫だよ」と声を掛け、手の中の赤い石をポケットに入れた。とその時、突然時峰が叫んだ。
「無いっ!!」
 私と由香はその声に驚いて時峰を見ると、時峰は胸を押さえたまま床に膝を付いていた。
「ない、ない、ないっ! どこだ、どこかに落としたっ!?」
 時峰はかなり慌てて床を這いながらそう叫んでいた。私が「どうしたの?」と声を掛けると時峰は「無いんだよっ!!」と怒鳴った。
「さっきまで確かにあったのにっ! どこだ、どこで落としたんだっ!? ちくしょう、どこだよっ!? くそっ、くそっ!!」
 時峰は床に頬を擦りつけるようにして何かを探していた。その姿は先ほど無表情で渋井の手を踏みつけていた冷血とも思える時峰とは別人のようだった。
「時峰、何か無くしたの?」
 私は由香を立たせたあと、そう聞きながら時峰に近づいた。
「瞳、瞳だっ! 『トトの瞳』っ!! さっきまでここにあったのに、無くなってるっ!」
 時峰はそう言って四つんばいのまま胸を押さえていた。
「さ、探さないとっ! 絶対見付けないとっ! アレがないと俺は……っ!!」
 時峰の声は語尾が震えていた。教室でいつもつまらなそうに頬杖をついて外を眺め、常に退屈そうで、何に対してもほとんど感情の動きが感じられなった時峰が、ここまで慌てている姿は初めて見る。
 トトの瞳……?
 それは時峰にとってそれほど大切な物なのだろうか……
 と、そのとき、私は先程拾ったあの赤い石のことを思い出した。もしかして……
「時峰、それってもしかしてコレのこと?」
 私は上着のポケットから先程拾った赤い石を取り出して時峰に聞いてみた。すると時峰は驚いたような顔でそれを凝視しながら私の前にやって来た。
 そして時峰は両手を差し出した。私がその手のひらに石を乗せると、時峰はその石を両手で大事そうに包み込み、そのままその両手を抱え込むようにして膝を付いた。
「あった…… あってよかった。ああ、よかった…… ほんとに…… ううっ」
 床に膝をつき、両手を抱え込むように背を丸める時峰が、何故か私には迷子になって泣いている子供のように見えた。余程大事な物だったようだ。
「それ、大事なものだったんだ?」
 私は時峰にそう聞いてみた。ほんと、なんの気なしに聞いたつもりだった。だが―――
「当たり前だろっ!! 由比、これはお前を……っ!」
 いきなり怒鳴る時峰に、私だけでなく由香まで驚いてビクッと体を強張らせた。
 それに今、時峰は私を名前で……?
「わ、私が…… なに?」
 私はおそるおそる時峰にそう聞いた。すると時峰はハッとして私を見つめていた。その顔はまるで今にも泣き出しそうな表情で、震える瞳の奥に私を映していた.
 時間にして数秒、時峰は震える瞳で私を見つめた後、グッと奥歯を噛みしめて俯き私から逃げるように視線を外した。
「――――なんでも…… ない」
 それは咽を噛み潰すような声だった。
「じっちゃんの、形見なんだ。拾ってくれてありがとう。怒鳴って悪かったな……」
 時峰はそう私に言いながら、その赤い石を大事そうにポケットに仕舞いゆっくりと立ち上がった。
「そっか…… 形見なら、大事だよね。私こそゴメン」
 私はそう言ったが、どこか釈然としなかった。さっき時峰は確かに私の名を口にした。そしてその後の言葉を、まるで無理矢理押し込むように飲み込んだ。
 時峰は私に何を言いかけたのだろう……
 それにあの慌てぶりも異常だ。いくらおじいさんの形見だからといって、普段あれほど感情を表に出さない彼が、あそこまで狼狽えるとはどうしても思えないのだ。
 私はそんなことを考えながら時峰の横顔を見つめていた。時峰はまたいつものやる気のない表情で佐伯に「大丈夫か?」と声を掛けていた。しかし、いくら見続けていても、先ほどの今にも泣きだしそうな表情で私を見つめていた人と同一人物とは思えなかった。
 何故あんな瞳で私を見るのか。
 何故あんなに悲しい顔をするのか。
 今の私には何一つ知る術はなかった。


(6)

 まだ小学生の頃、俺はじっちゃんの家に行くのが好きだった。じっちゃんは下北沢で古美術店をやっていた。
 その頃俺はあまり友達がいなかったので、学校が終わったら真っ直ぐじっちゃんのお店に行くのが日課だった。今にして思えば飽きずに通っていたものだ。
 じっちゃんの店は小さな個人商店で決して繁盛していたとは言い難い。いや、むしろ経営状態はとんとんかそれ以下だったと思う。そんな経営状態だったので従業員など雇える訳もなく、掃除や片付けなどは自分達でやらなければならなかった。俺は行くと大抵片付けやら掃除を手伝わされた。
 片付けや掃除は確かに煩わしいく面倒だったが、俺はじっちゃんが世界中から集めた品々を見るのが好きだった。だからそれを見ながら片付けることにそれほど苦痛を感じていなかったと思う。
 片付けをしている最中に珍しいものを見つける度に、俺はじっちゃんに質問し、じっちゃんは俺にその品物について丁寧に教えてくれた。
 それがどんな道具で、どんな使われ方をしていて、どんな時代のもので、その頃世界でどんなことが起こっていたのかなど……
 中にはその品物にまつわる逸話や伝承、不思議なエピソードなどを話して聞かせてくれた。小学生には難しい言葉も多々あり、当時の俺はじっちゃんの話を半分も理解していなかったのだと思う。
 だが、全部わからないまでも、じっちゃん話してくれるお話は神秘的で興味深く、また魅力的なお話ばかりで当時の俺は夢中になってじっちゃんの口から紡ぎ出される話に耳を傾けていた。
『時間は物を磨くもっとも自然で、重要な研磨剤だ。時の研磨で輝きを増す名品は数知れない』
 それはお話の最後で決まって言うじっちゃんの口癖だった。
『さまざまな時代を歩き、数多の人の手を渡る物には本来の価値とは別の価値が宿る。専門家がしたり顔で下す評価などどうでもいい。手にした人が、その品物が経てきた時間に想いをはせ、感じることができるなら、それはその人にとって名品といえよう』
 そう言ってじっちゃんは頷いていた。その言葉も当時の俺にとっては難しく意味など分からなかったのだが、なんでじっちゃんがこんな儲かりそうもない商売をしているのか何となくわかったような気がした。俺が真剣な顔で頷くと、それをどう取ったのかじっちゃんは『なあ、総一郎……』と俺に言った。
『人間も同じだ、そう思わんか? 生まれてから死ぬまで、さまざまな出来事やたくさんの出会いと別れを経験し磨かれ、その価値に別の価値を付加していく。その身にさまざまな因果を絡めながら歩くことによってはじめて人生となる。どう生きたかなど死んでからでないとわからんし、その評価を知るころには自分はもうこの世にはおらん。ゆえに気にしても詮無きことだ。だからどう生きるかを決めることこそ、人が持つべき考えであり、指針でもあるのだ』
 俺が理解できない事はきっとじっちゃんもわかっていたはずだ。だからそれはたぶん自分自身に言い聞かせていたのではないか、と今になって思う。
『大人になるって事は、自分で生き方を決めるってことじゃないかと儂は思う……』
 じっちゃんはそう言って俺の頭をやさしく撫でた。そんな話をしているとき、じっちゃんは決まって胸元から小さな赤い石を取り出し片手でその石を玩びながら話していた。
 古美術を扱う商売をしていたので当然かもしれないが、じっちゃんは物を大事にする人だった。
 だが中でもこの赤い石だけはどんな時でも肌身離さず、常に首からさげていた。
 俺はある時、その赤い石のことを聞いてみた。するとじっちゃんの顔がほんの少し曇ったような気がした。
『これか……』
 じっちゃんは首から下げたその石に視線を落としつつ、深いため息と共にそんな呟きを漏らした。
 季節は梅雨が終わり、夏がその本領を発揮する少し手前の頃だ。片付けを手伝う掌にうっすらと汗がにじむような陽気だったように思う。
 だが、ほんのりとカビの匂いが鼻をつくこの店内で、その瞬間だけ季節が変わったような印象を覚えたのを記憶している。まるで凍てついた鉄の扉に触れたような、そんな錯覚を覚えたのだ。
『なあ総一郎、お前はこの石、何色に見える?』
 それはとても奇妙な質問だった。俺は最初、じっちゃんが何を聞いているのかわからなかったのだ。
 しばらく考え、俺が赤だと答えるとじっちゃんは頷いて『儂にもそう見える』と答えた。俺にはまったくもって意味が分からない。じっちゃんがどんな答えを期待していたのか……
 しかし、次のじっちゃんの言葉で俺はさらにわからなくなっていた。
『赤く見える…… そうだな、確かに赤い。しかし、これがエメラルドだと言ったら、お前は信じるか?』
 エメラルド?
 俺はその言葉に必死で記憶を洗う。確か母さんが持っていた数少ない宝石の中にエメラルドの小さな石がついた指輪があったことを思い出した。しかし記憶の中のエメラルドは確か緑だったはずだ。俺がそう答えるとじっちゃんはまた頷いた。
『そう、普通のエメラルドは緑色をしている。だが赤いエメラルドも存在しないわけではない。昔はごく希に採掘されることがあった。しかし採掘量が極端に少なくてな、世界で唯一の南米にある採掘場も今では採掘されなくなった。赤いエメラルドは幻の宝石とまで言われている』
 じっちやんはそう言ってその石を指で摘まみ上げ、蛍光灯に透かせて眺めていた。
『だがな、これは間違いなく元は緑のエメラルドだったのだそうだ』
 そんなじっちゃんの言葉を不思議に感じならその石を凝視した。やはりその石はどう見ても赤く見える。少し濁ったように見えるのは、石の中央に黒い筋があるからだろうか。
『儂の大学時代の友人に鉱物を研究している者がいてな、奴が言うには化学組成を確認するとコイツの成分は間違いなく緑のエメラルドなんだそうだ』
 じっちゃんはそう言ってしみじみとその赤い石を眺めていた。
『いくら時の研磨を重ねようと、一度加工されたエメラルドは自然に赤くはならん。この赤い色は、人の手によって生成されたものなのだ』
 そしてじっちゃんは届かない棚に物を載せるために使っていた丸椅子に『よっこらせ』と呟きながら座り、改めて俺と向き合った。俺はまたじいちゃんのお話が聞けると期待し、ワクワクしながら自分も踏み台代わりに使っていたビールケースに腰を降ろした。
 じっちゃんは俺が座ったのを確認すると静かに語り始めた。
『このトトの瞳が作られたのは今から5千年も昔のことだ。宗一郎はトトのことは知っているか?』
 じっちゃんは俺にそう聞いた。俺はすぐに首を横に振った。するとじいちゃんは頷き、再び語り始めた。
『トトとは、古代エジプトの神話に出てくる神様の名前だ。トト神はトートーというトキ鳥の姿で表されることが多くてな、人の体に長いくちばしを備えた鳥の顔をした姿で描かれているのが有名だ』
 じっちゃんはそう言って唇をつぼめ、右手でくちばしを表すような仕草をした。そういえば前にテレビ番組で見たことがあるような気がする。
『トト神はなかなかに万能な神様でな、色々なものを司っている。文字、魔法、医術、秩序、真実、そして時間…… まだほかにもあるが主な役割はこんなものだ。中でもトト神の目は、過去、現在、未来すべての時間を見ることができたのだそうだ。
 そして5千年前、時のエジプトの王はこのトト神の時を操る力を欲し、国中から魔術師や錬金術師を集めその方法を調べさせた。そしてついに、時を操る力を手に入れるための方法を突き止めた』
 じっちゃんはそこで言葉を切り、俺の瞳を覗き込んだ。
『だがその方法とは、残忍で非道な人ならざる者の所行だったのだ……』
 天井近くに配された排煙窓から差し込む夕日がじっちゃんの横顔を赤く照らしていた。そのせいか少し暗めの店内でそのじっちゃんの顔だけが妙にはっきりと瞳に焼き付いてくるようだった。
 俺は静かに生唾を飲み込み、話の続きを待った。
『500人の生まれたばかりの赤ん坊の心臓から搾り取られた生き血を瓶に溜め、その中に純度の高いエメラルドを浸す。すると緑だったエメラルドがこのように赤く染まるんだそうだ……』
 そう語るじっちゃんの手にある赤い石は、見ると確かに血のような赤だった。俺は思わず背中に冷たいものを感じた。
『たくさんの赤子の命…… いや、未来を吸った赤いエメラルドには神の力の一部が宿った。それは持ち主の時間遡行を可能とする力だ。この石は持ち主が心の奥底からその力を望んだとき、その魔力を解放する。それがこのトトの瞳だ』
 天井の古くなった蛍光灯の小さな羽虫が飛ぶような音が、このときはやけに耳障りに聞こえていた。俺は時間遡行の意味が分からずじっちゃんに聞いた。するとじっちゃんは『ふむ……』とつぶやき、胸元から皺くちゃの煙草を取り出すと一本抜出し、それを丁寧に伸ばして口にくわえた。俺はそれを見て左の壁にある換気扇のスイッチを入れると、どこかでチチチ…… という虫のなき声のような換気扇の回る音がした。そんな俺にじっちゃんは『すまんな』と口元をほころばせて声をかけた。
『時間をさかのぼるという意味だ。そうだな…… 宗一郎には今までで『やり直せたらいいのに』と思うことはないかな? この石はな、真の力が発揮されると、持ち主の望む過去に時間を巻き戻してくれるのだよ』
 じっちゃんのその言葉に、俺は思わず笑ってしまった。だってそうだろう? つまりその赤い石はタイムマシンってことだ。いくら小学生でもそれを真に受けることはない。俺がそう言うとじっちゃんも笑っていた。
『ふふっ、そういう伝説がこの石にはあるということだよ。それが本当かどうかなど『確かめようがない』のだからな』
 その時、俺はそう言って笑うじっちゃんの言葉の中に微かな違和感を感じた。だが、その時はそれがなんなのかはわからず、俺もつられて笑っていたのだ。
 しかし俺はふと考えた。
 本当に過去に行けるのなら、それは凄いことだ。苦手な漢字テストだって出る問題がわかるし、友達に予言だってできる。宝くじだって絶対当てられるし、クラスでいじめられることももうない。俺はそんなことを考えながらにやけていたら、じっちゃんは俺を見つめながら再び語り始めた。
『その王様が何故それほどまでにその力を欲したのかはわからん。この石についてのことはどの文献にも載ってはおらん。当時この世のすべてを手に入れていたに等しい力を持っていた彼が、過去に何を望んだのかを推測するのは不可能だ。だがなぁ…… 過去に行って未来を変えても、必ずしも幸せになるとは限らない。むしろ、不幸になることの方が多いかもしれんなぁ……』
 じっちゃんのその言葉に、当時の俺は反論した。これから起こることを全部知っているのに、なんで不幸になるのか全く分からなかったからだ。するとじっちゃんは目元に皺を作りながら俺の頭を優しくなでつつ、諭すように言った。
『人は時の支配から逃れることはできない。この世界が時間に支配されるのだから、その中にいる我々も当然その支配にとらわれる。人はその身にさまざまな因果を絡めて歩いていく存在だ。『業』といいかえてもいいな。人が生きていく上で知らず知らずに背負ってしまうものだ。それがいわば人生だよ。
 だがな、その理から外れることは世界から外れることを意味する。世界の理の外に身を置く者がその世界にとどまるということは、それだけで不幸なことではないかと儂は思うのだよ……』
 そういってじっちゃんはため息と共に口から煙を吐いた。吐き出された紫煙が、鬢の白髪を渡る様を見ながら、俺はじっちゃんが急に老けたような気がした。65歳を超えていたがまだまだ元気で、おばあちゃんが死んでしまった後もこの店を一人でやってきたじっちゃんを、俺はこの時初めて『老人』と感じた。
『なあ総一郎、それは『呪い』と変わらない。この石には数多の未来を代償に『呪い』を手に入れたのかもしれない』
 そう語るじっちゃんは、どこか疲れたような仕草でその赤い石を眺めていた。けどその瞳は、手元の赤い石ではなく、どこかずっと遠くを見ているような気がしてならなかった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 乱暴されかけたあと、時峰は私と由香を家まで送ってくれた。
 店を出たら辺りも暗くなっいたし、あんなこともあったので時峰が送ってくれるのは正直心強かった。
 あの後、時峰は気を失っている渋井の懐から携帯電話を取りだし警察に連絡していた。どうやら私たちを助けに来てくれる前にも渋井達の別のメンバーのところにも行って、そのメンバー達も同じようにやっつけてきたようで、その辺りの事情も簡素に伝えていたようだった。
 その間に私は由香と奥の部屋に行き、時峰から見えないよう気を付けながら、改めて制服の乱れを直した。
 由香はブラウスのボタンが切れて飛んでしまっていたので、仕方なくブラウスを脱いで時峰が貸してくれたパーカーを羽織り、その上から制服のブレザーを着込んでいた。
「出れるか? 警察が来る前にここを離れたい。調書やらなんやら色々面倒だからな」
 そんな時峰の言葉を合図に私達は店を後にした。それからは先に由香を送り、時峰は私と電車に乗り隣駅で一緒に降りた。
「改札のところでいいよ。ウチ、駅から近いし」
 私がそう言うと時峰は少し困ったようにうつむき、頬を掻きつつ呟いた。
「俺の家もこの駅なんだ……」
 時峰はそういってICカードを取り出すと改札機に当てて改札を出た。そしてどことなく気まずそうに私の隣を行き過ぎながら西口へと歩いていく。私はそんな時峰を眺めながら、先ほどの取り乱した時峰を思い出していた。あんなに感情を露わにした時峰は今のこの姿からは想像できない。私の知る時峰はもっとこう殺伐というか、冷めた感じだ。
 でもあの時の動揺ぶりは異常と思える程で、変な表現かもしれないけれど。私は初めてこの時峰宗一郎という人が『人間』に見えたのだった。
 私と時峰は明るい大通りを抜けコンビニ横の路地を曲がった。左手に公園を見ながら、まっすぐ行けば300m程で私の家だ。どうやら時峰の家も同じ方向の様だった。
 私はちょうど公園にさしかかったところで前を歩く背中に声をかけた。
「今日はその…… ありがとう」
 私の呟きに前を行く時峰は「ああ……」と気のない返事をした。それは時峰のいつもの反応だった。いつもならそんな彼の反応に苛立ちを覚えるのだが、このときは何故かそんな感情は沸いてこず、そんないつもの時峰に少し安堵した。そして私はそんな時峰にさらに言葉を続けた。
「それとゴメン。今朝せっかくあなたが忠告してくれたのに……」
 すると時峰は足を止め、左手にある公園に視線を投げたあと、ゆっくりと振り返り私を見た。
「あれは俺もどこかでわかっていた。北乃森は聞き入れないって…… だから、気にするな」
 時峰のその言葉に私は「うん…… わかった」と返した。
「時峰、あのさ……?」
 私は再び時峰に質問した。時峰はいつもの感情の絶えた瞳で私を見つつ「なんだ?」と聞いた。
「さっきさ…… 私に何か言いかけたよね? あの赤い石を渡した時」
 そのとき時峰の瞳が微かに歪んだ。その変化はほんの一瞬だったが、私は確かにそれを見た。
「そう…… だったかな」
 時峰はそう言って私から逃げるように視線を逸らした。
 夜の帳が静かに降りる中、公園の街灯に照らされた時峰の横顔はとても同じ年の同級生には見なかった。何かに疲れた様な、そんな褪せた色をしていた。
「すまんが覚えていない」
 時峰はそういうとクルリと振り向き再びゆっくりと歩き出した。
「―――――そっか……」
 時峰が話をはぐらかしているのはわかった。本当はもっとつっこんで問いつめたかったのだけれど、何故かそのときはためらわれた。私はそうした思いを飲み込んだまま時峰の横に並んで歩いた。
 すると不意に時峰が足を止めた。私は不思議に思い時峰を見た。
「俺の家、ここなんだ」
 見るとそこは最近できた高層マンションだった。私はびっくりして目を丸くしながらそのマンションを見上げた。お母さんの話では『億ション』なんて言われるほどの高級マンションだったからだ。そして私の家から100mも離れていない。
 時峰ってお金持ちだったんだ……
 私は思わず自分の家と比べてしまった。ウチは一応一軒家だけれど猫の額の様な土地にこじんまりと立つ築30年近い木造住宅だ。私は女で受験もあるからってことで自分の部屋があるけれど、小学生の2人の弟は2人で1つの部屋を使っている。とてもじゃないけどこんな億超えのマンションと比べようもない家だった。
 見上げて固まっている私をどう見たのか、時峰は少し困った顔をしながら言った。
「親の残した金や保険金が結構あったから……」
 そんな時峰の言葉に、私ははっとして時峰を見た。
 そうだ、時峰は確か両親を事故で亡くした後ウチの学校に転校してきたのだった。
「しばらくはじっちゃんのトコに居たんだが、そのじっちゃんも死んじゃって、その後親戚の家に行ったんだ。でも俺の家はあまり親戚付き合いをまめにする家じゃなかったからどうも馴染めなくてな……」
 時峰はいつものけだるい声でそう語っていた。
 突然両親を亡くし、祖父も亡くした時峰にはほかに行く当てもなかったんだろう。けど馴染みのない親戚は他人と変わらない。血の繋がりだけではどうにも上手くやっていけないって言う時峰の意見には私も頷ける気がした。
「だからその金で思い切ってここを買ったんだ。ここなら高校近いし通ってる間だけ使って、その後売っても損はしないかなって思ってな」
 時峰は意外にも先のことを考える性格かもしれない。まあウチには思い切っても手が出ないけどね……
 そんなことを思っていたら、ふとあることに気がついた。
「……ってことは、時峰はここに1人で住んでいるわけ?」
 すると時峰はマンションを見上げながら「ああ」と頷いた。
「こんなマンションに1人暮らしかぁ…… なんか凄いなぁ。ウチなんか弟たちが五月蠅くて部屋じゃ勉強もできないときがあるよ」
 私はそんなことを呟いた。でも羨ましいとは言わなかった。時峰の境遇を考えるとそれは言えない。いくら弟たちが五月蠅くとも、部屋が狭かろうとも、私には家族が居る。それだけで私は時峰より数倍ましだと思った。
 それにしても…… と私は思う。
 今日は時峰とよく話す。相変わらずのけだるい声だけど、私は時峰がこんな風に自分のことを語るとは思わなかった。それにいつものイライラも沸いてこない。
 助けてもらったということもあるかもしれないけれど、自分がそんなに単純な人間だったかなと首を傾げてしまう心境だ。何となくだけど、私の中で時峰宗一郎という存在が変わった感じがする。そしてそんな自分の心境の変化を結構嬉しく思ってる自分を自覚しつつ時峰を見た。
「……何かおかしいか?」
 そんな私の視線を感じ取り、時峰は眉を寄せながら私にそう聞いた。私はそれに動揺し、慌てて「べ、別になんでもないよ」と答えて視線を逸らした。そして道路の向こうに見える赤い屋根の家を指し、時峰に言った。
「あ、あの赤い屋根の家が私の家なんだ。時峰がこんなに近くに住んでいるなんて思わなかった」
 私は自分の動揺を誤魔化すように話題を変えた。何で時峰にそんなことを教える必要があったのかを必死で考えながら、『送ってもらったんだし……』と頭の中で言い訳めいた理由を繰り返していた。
「確かに近いな……」
 時峰はあまり興味のない様子でそう答えた。まあいつものことだけど、このときは何故か少し残念な気持ちになった。何故だろう……?
「じゃ、じゃあ私はここで。今日は本当にありがとう」
 私は若干度盛りながら時峰にそう切り出した。時峰は「ああ、じゃあな」と素っ気ない声で答えた。
 私はそのまま自分の家に少し早足で向かった。何か胸の中で変なモヤモヤが沸いていたからだ。
 門に手をかけた時、私は振り返りもう一度時峰を見た。すると時峰は先ほどの場所に立ち、私を見送っていた。そして振り向いた私に気づくと片手を上げた。私もそれにつられるように右手で軽く手を振っていた。時峰はそれを確認した後、クルリと振り向きマンションのエントランスに消えていった。
 どうやら時峰は家に入る最後まで私を見送ってくれていたようだった。
 そんなさりげない気を回せる人だったんだ、時峰って……
 私は少しだけ口元が綻びるのを自覚した。また時峰の意外な一面を見た私は今、少し嬉しいと思っている。私はそんな妙な感情を抱えながら門の横にあるポストを開き、中の郵便物を取り出した。心なしか鼻歌でも歌いたい気分だった。
 そんな気分のまま私は郵便物を確認しつつ玄関ドアまで歩いていたら、その郵便物の中に私宛の白い封筒を見つけて立ち止まった。私は封筒の裏の差出人を確認したのだが、そこには何も書かれてはいなかった。
 私は立ったまま小指で封を切ると、中からワープロで印刷されたと思われる文字の書かれた白い紙が出てきた。私は何気なくそこに書かれた文字に目を走らせ絶句した。
 
『君が 何も気がつかないのなら 良し
 気がついたとしても なにもしなければ また良し
 だがもし
 君がそれに気づき それを詮索しようとするならば
 君の未来は無い
 願わくは 何も気がつかぬことを望む
 君に未来があらんことを……』

「なに、これ……?」
 思わずそんな呟きが漏れてしまった。少し震えたのは日が落ちたからだけではないだろう。他には何も書かれていない。私は再度その文章を読み、その気味の悪さに鳥肌が立った。

『君の未来は無い』

 その言葉から強烈な悪意を感じ、私は背筋を凍らせた。文面から考えて、コレは警告、もしくは脅迫文みたいだ。しかし私には何のことだかさっぱりわからなかった。切手や消印が無いことから判断して、間違いなく我が家のポストに直接投函されたものだとわかるが、それがかえって気味悪さを増している。それは少なくともこのメッセージの送り主が、私がここに住んでいることを知っているということを意味しているからだ。
 私は早鐘のように鳴る胸の動悸に追い立てられるようにドアの鍵を開け玄関の中へ飛び込むと急いで鍵をかけた。すると「ただいま」という声もなしに入ってきた私を不思議に思った母親が玄関までやってきた。
「帰ったら声ぐらい掛けなさいよ、由比…… ってどうしたの? 変な顔して?」
 鍵を掛けた状態で固まっている私に、母親が不思議そうにそう聞いてきた。
「あ、うん…… ゴメン。ちょっと…… 考え事してて……」
 夕飯の支度をしていたのか、さえ箸を持ったまま首を傾げる母親に、私はそう答えるのが精一杯だった。
2012/05/08(Tue)15:06:11 公開 / 鋏屋
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■この作品の著作権は鋏屋さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めての人は初めまして。お馴染みの方は毎度どうもw 鋏屋でございます。
転校生(6)をUPします。
このたびは少々インターバルを空けてしまいました。リアルでちょっと忙しかったのと、自分のホームページ開設も重なって最終調整に手間取りました。
前にも書いたと思いますが、このお話は9割方スマートフォンで書いておりまして、最終調整をPCで行っております。なので書き上がってから若干のタイムラグがあるのですが、今回はそれプラスHPがあったので書き上がってから投稿までに2週間以上かかってしまったのです(汗っ)
さて物語は1章の終盤にさしかかっております。第1章は現在、第2章は過去、そして第3章は再び現代に戻ってエンディングの予定です。1章が由比主観の1人称がメイン。で、2章が宗一郎主観の1人称がメイン。でもって3章が再び由比主観の3人称と考えておりますがどうなることやら……(オイ!)
今回の最後にようやくミステリーっぽい、ある物が登場します。これでこの物語が純粋な恋愛物ではなくミステリー風味だということがわかる……かとw
でも今期私の課題である情景描写を意識して書いておりますが、その辺りが上手く書けているかが心配でなりません。くどくなってないかなぁ……
こんなお話ですが、おつき合いくださる方には最大限の感謝を送りたいと思います。では誰か一人でも面白いと思っていただけることを夢見て。
鋏屋でした。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは、そしてお帰りなさい!
最近とんとこちらで姿を見かけないのでどうしたのかと思っていました。
早速読ませていただきました。何とも先が気になる感じで^^
毛並みが違っていてもきっちりと王道を進んでいるあたりがいかにも鋏屋さんらしくて、安心して読めました。
一箇所だけ誤字っぽいものを。
先生との会話シーンで、時の狭間について語るシーン。北乃森のセリフで「大好きな作小説……」とありましたが、これはたぶん大好きな小説の間違えですよね?
それでは続きを期待して待ってます♪
2012/02/20(Mon)02:01:490点浅田明守
おうなんだハサミムシコラ、自分と作品更新するペース合わすっていうのか、上等じゃい、波に乗った神夜の更新ペースを知らん訳じゃあるまい、覚悟しとけよこの野郎。
それはさて置き、読ませて頂きました。しかし、感想の前に裏話みたいなのをひとつ。今回自分が更新したのは短編だったけど、もちろん長編も書いていた。その長編、「女キャラが主人公」だった。何が言いたいかと言うと、ストーリーはともかくとして、構想的に凄い似ていた。惜しいことをした、これならきっちり長編書き上げてそっち上げてハサミムシをウンコの付いた棒で追い回すくらい出来たのに勿体無い。
それはそうと、やっぱり王道だよね。最初のプロローグでゾクゾクきた。廃れる前の、セロヴァイト以前の自分を思い出した。直球勝負、実によろしいことで。内容も王道であろう、ただし王道だからこそ難しい展開になりそうだこれ。時間軸弄くるの大変そう。思いつきで書き続ける神夜としては、時間系の作品は破綻するから手を出したくない。さすがハサミムシやで、「ゴミクズにはできないことをおれはやるぜ!!見とけよクソ野郎ッ!!」と、そう言いたい訳なのであろう。か、もしくは「ほれほれ、王道だよ、王道なんだよー」と大きな餌をチラつかしているだけで、実はその裏を掻いているのかもしれない。そのどちらになるのか、楽しみにお待ちしております。
ところで、随分と描写関連が上手くなっているなぁ、と何となく思いました。まだ所々躓くような箇所はあれど、その内に何かすっと綺麗にまとまりそうな印象。そうなったら凄く読み易くなるであろう、などと思いながら、続きを楽しみにお待ちしております。
2012/02/20(Mon)20:24:530点神夜
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作を読みました。
 すらすらと流れるように読めました。
 現状は伏線を張る段階ですね♪
 一見、「無限ループへようこそ♭(放っとくと磨耗して石のような人間になります)」に見えますが、さてはて?
 無論、神夜様が触れられているように、フェイクという可能性もありますが、どちらであっても非常に魅力的で、かつ、料理の難しい題材だと思います。
 頑張ってください。
 面白かったです。続きを楽しみにしています。
2012/02/20(Mon)21:41:470点上野文
なによりもキャラが好きです。
こういうタイプの女の子と男の子の組みあわせは大好物ですよ。
まだ物語が序盤なのでストーリーは定番ですが、ここからどう変化してくるか楽しみですね。ぜひともキャラをいかした物語を読ませてください。
妙な話、バトルしなくても成立しそうな恋愛物ですよね、コレ。
2012/02/22(Wed)00:41:371akisan
 ども、お久しぶりです。そして復活おめでとうございます。

 綿密な描写が素直にすげぇと思いました。青春臭さと、全体的なしっとり感を上手く作り出せていると思います。……が、この辺は好みなので戯れ言と流してもらって結構なのですが、逆に描写が多すぎる気も。しっかりとした地盤固めは嬉しいのですが、40ページ近くで大きな動きがないのも少し寂しいかなぁと。
 え? それだけ言っておきながら何故点数を入れたかって? 謎の暗号の入れるタイミングが凄い良かったからですw あれでグイッと引っ張られました。
 ループ?と謎の暗号、いかにも面白そうな二大要素なだけに、ワクワクしてきます。

 ではでは〜
2012/02/22(Wed)16:25:461rathi
〉浅田氏
おひさしぶりでございます。生きてましたよ〜
いやまあ、他では色々と顔出しているんで生きてることは知ってる罠w
ここんとこ忙しくてブログすら更新できぬ有り様で、更新ももっぱらスマホで移動中のみですわ。このお話も某大型投稿サイトの『執筆中作品』つー鯖をデスク代わりに使ってスマホで書いてます。でもってそっちには投稿せずにこっちで投稿という…… サイト管理者からみれば「てめえふざくんなよ!!」てな具合です。(良いのか?)でもこれやると移動中の電車内でもメールみたいにちまちま書き溜められるからなかなか良いですw
いつものお茶らけた書き方ではなく、いつもの私の書き方に比べ少し固いかな? って思ってて、内心「大丈夫か?」って心配だったのですが、浅田氏のコメ読んでほっとしました。ありがとうございます。ま、一番の敵は私の飽きっぽさですが、今のところ楽しく書けているのでなんとかなる……かな?
現在4話まで書きためてあり、200枚ぐらいはストックがあるんですが、何度も読み直しているのでちょっと時間がきりますが、飽きずに付き合っていただけると嬉しく思います。

〉神夜兄ィ
いやいや、あの忙しそうな兄ィが書くんだから、私も書いてやろうと思ったまでですよw 兄ィの作品は私にとって「よっしゃ、俺も書くぞ」と思わせる作品です。なんつーかな、読んでて書き手である兄ィの楽しさが伝わってくる感じがします。
まあこのお話はどスランプ状態からの脱出の為のリハビリみたいなので、あまり上手く書けてないかもしれません。でも、描写表現とかにもそれほど気を使ってる訳でもないんですが、何度も見直して修正し、いつもより丁寧に書いてるからかな? いえね、前に千尋殿に「時間がかかってもいいから自分の作品を大事に書こう」みたいなありがたいお言葉をいただいて、今回はその辺りを念頭に置いて書いてます。波に乗った兄ィの更新スピードは社会人ではあり得ない速さなのでやりあうのは結構辛いですが、頑張ってみますのでどうぞお手柔らかにwww

〉文殿
ご無沙汰してます。感想どうもですw やっぱり難しい? 難しいですか? なんか皆さんにそういわれると心配になってきました(涙目)でもまあ、自分なりに書きたい物語を書きたいように書いてみます。それが私の最初の気持ですからw
またお付き合いくださると嬉しく思います。

〉akisan殿
おひさしぶりでございます。感想&ポイントまでいただけるなんてほんと嬉しく思います。akisan 殿が期待するようなキャラコントロールができるかわかりませんが、頑張ってみようと思います。生暖かく見守ってくださいねw

〉rathi 殿
はい、鋏屋三等兵ただいま帰還いたしました!(敬礼)
いやどうもご無沙汰しておりました。感想どころかポイントまでいただけるとは!! ありがたや、ありがたや、ナンマンダ……
確かに40枚越えなのに話が進展してませんね。いや〜、なんか長くなってしまうんですよね。皆さん文章ってどうやって短くしてるんですか? ブラッシュアップが今後の課題かなぁ。
でも気に入っていただけてよかったです。あの暗号(?)は後々、忘れた頃に出てくるかもなので今はスルーしててくださいねw

ああもう皆さん、ほんと嬉しいです。皆さんの感コメとガンダムがあれば、生きていけそうな気がしますw(オイ)
まだまだ完全に立ち直ったという状態とは言い難いですが、最近の門見てると、新しい方やお馴染みの方、たくさんの方が投稿されてて、それ見てると元気が出てきますw 
感想いただいた方々、本当に感謝します。ありがとうございました。
鋏屋でした。
2012/02/23(Thu)07:54:310点鋏屋
なんか勘違いしているかもしれないが、自分の「トルヴァータ」はもともと最後まで書いてあったヤツだぞ。自分のストックはもう何も無い。安心したまえ。――そう言って数日後には元気に新しい作品を投稿する神夜の姿が!!
そんなことはまぁどうでもいいとして、続きを拝見。
輝けッ!!ハサミムシの厨二病ッ!!うおおおおお!!。感想はこれでいいかな。これ以外に特に表す言葉が思い浮かばない。とりあえずやりたいように、思うがまま書けばいいと思います。それで破綻したら破綻したで、ただ読んでくれている皆から村八分にされるだけだ、気にするな。それはそうと、ひとつだけ気になることはある。時間軸を繰り返している(という仮定の設定が正しいのであれば)ということは、たぶん精神的に半端じゃないのであろう。自分としては、それに対する心情描写をハサミムシがどこまで書くのか、そしてどのような場面で、どのように書くのか。それを楽しみにしながら、続きをお待ちしております。(シンクロはそれが案外綺麗に出来てたから好きだったんだ。てめえあれマジでどうなってんだ畜生)
2012/02/27(Mon)15:52:260点神夜
こんばんは。作品読ませていただきました。
この登竜門でも学園物というか、学生が主人公になっている作品はたくさんあって、ここ最近でもいくつか読んだわけですが、さすがに鋏屋さんが書かれたものだけに、会話が自然だし、とても読みやすいですね。人物の造形もしっかりしています。レベルの違いを感じずにはいられませんでした。
みなさんも書いておられるように、時間ループものというのは近年流行っているとはいえ、ちゃんと書ききるのは実はなかなか難しいと思うのですが、果たしてこのお話はどう展開するのでしょうか。また読ませていただきたいと思います。
2012/02/27(Mon)20:18:010点天野橋立
おお、飽きさせない展開でぐいぐいと引っ張られました。
いやあ、こういう鬱な主人公、好みです。 さめていそうで実は心に固く秘めたものがあるって、やっぱり萌えますわ。
しかしこれは相当な長編になりそうな予感。是非是非、最後まで息切れせずがんばってください。私の代わりに……って関係ないって。
2012/03/02(Fri)19:23:131玉里千尋
 お久しぶりです。今回の作品も読ませていただきました。
 ループものですね。最近ループものの傑作を楽しみ、このシチュエーションが大好物になっていたりしていまして、この作品の動向がとても気になっていたりします。ループものはこう心に迫るものがありますね。
 これは今後明かされることなのかもしれませんが、このループの仕方についてどういうルールがあるのか気になりました。ただ単に時間が巻きもどるだけなのか、それとも別次元に転移でもしているのか、また、運命が変わったのはどういう行動によって変わったのかなどなど。でも、次回でかなり物語が動きそうなので、この辺の疑問は解決しそうですね。次回が楽しみです。
 執筆頑張ってくださいね。ではでは。
2012/03/02(Fri)20:28:580点白たんぽぽ
〉神夜兄ぃ
感想どうもですw ふふふ、私は騙されないぞ! もうすでに新作を良いところまで書いてると見た。このお話は色々と今までの私の書き方には無い物を書いているつもりです。何処までやれるかわかりませんが、最後まで書き上げたいかなと。
私は兄ぃにはかなり影響されているので、何とか尻尾ぐらいは食らいつきたいと思っているわけですよw 私は厨二病末期です。王道大好きです。書きたい物を書けばいいという兄ぃのコメになんか救われますねwww
そう、仰るとおり心情描写がキモ。やりすぎると読み手まで鬱になるし、私の目指す厨二王道じゃないんです。かといって中途半端だと感情移入が出来ない。う〜ん、その辺のさじ加減は私の好みになってしまいますが…… 頑張ります。私とチャンネルが合っている人が多いことを祈りましょう。
一人よがりの作品になっちゃったらゴメンナサイ。でも、兄ぃのお話しを読むと『自分が書きたい、読みたい物を楽しく書こう』って気になっちゃいましたw
また読んで頂けると嬉しく思います。

〉天野殿
感想どうもです! あわわわっ! レベルの違いとか書かないでくださいよw 私なんて天野殿に比べたら全然ペケですからっ!!
でも、私の中での『この人何でプロじゃないんだろう?』の3人のウチの一人にそう言われるとちょっとまんざらでもありませんね、えへへ。
「ほ、褒めても何もでねぇーぞコノヤロー♪」←(チョッ○ー風)
うわ、天野殿でさえ難しいと思うの? マジ? やっべー、やっちまった? 俺やっちまった!?
ま、まあ、こ、今後にき、き、機体…… じゃなかった期待ってことで……w
またお付き合い下されば嬉しいです。

〉ちぃ姉さん
お久しぶりでございます。感想&ポイントまでw 感謝でございますよ。
お宿も閉鎖とのことで、なにやら忙しいご様子ですね。あちらではまだコメ入れておらず失礼しております。申し訳ありません。
ええ、ええ、もう期待して頂いてありがたいやら申し訳ないやらで……
まあ、ホント鬱な男ですが、付き合ってあげてください。一応主人公はヒロインの方ですしw
でも、時峰は私の理想の男なので、ちい姉さんにそう言って頂けると嬉しいです。男はやっぱ、何も言わず、影で大切な人を守るつーのがロマンですw たとえ誰からも賞賛されなくとも、その人にすら認められなくとも、ソレがその人の為であるなら寡黙に実行するってのが、私が想うヒーローですwww
時峰の、いや、私の感じるロマンを感じてくれたら嬉しいなぁ……

〉白たん殿
お久しぶりでございます。感想どうもですw
ええもうコテコテのループ物ですw でもここの作品ではループを扱う物があまり無いですよね。それは「とても難しいから」という事だと最近気が付いた愚か者です(オイ!)
まあループ物ですが、若干ミステリー要素を含んだ物になる予定です。この辺りが偉く難しく難儀していますが、頑張ります。
次回ではお話しは動くのですが、白たんぽぽ殿の疑問に答えられるかどうかは微妙です。もう少し引っ張ります(マテコラ)
時峰が全てをゲロするのはもう少し後になる予定です。一応恋愛物ですので、王道恋愛物特有のアレもしっかり入れる予定ですw 時峰の孤独、寡黙ぶりと、由比の心情変化をどう表現していくかがキモですかねw 読み手にヤキモキ感を与えられればと考えていたり……
まあ、私の作品ですからどうなるかわかりませんが、またお付き合い下さると嬉しく思いますw


いやいや、皆様ありがとうございますw またお付き合い下されば嬉しく思います。
鋏屋でした。
2012/03/02(Fri)20:50:120点鋏屋
 こんにちは、鋏屋様。上野文です。
 御作を読みました。
 『タイムマシン』の昔からですが、人一人の行動力で運命を変えるのは、やはり困難ですよね…。映画『バタフライ・エフェクト』並みにポンポン変わる(但し状況は悪化”しか”しない)のも、それはそれで絶望的ですが><
 ”祐介”がいない。過去と現在で何が変わったのか、続きを楽しみにしながらお待ちしています。
2012/03/03(Sat)12:46:020点上野文
こんばんは、相も変わらず三文物書きの木沢井です。
 『セラフ』とは随分毛色の違うようですが、それでも苦にならずに読み進められるのは流石の一言です。主人公と時峰の言葉や感情の噛み合わない様子など、本当に(いい意味で)モヤモヤできます。引出しが多いというのは、本当に羨ましい限りですよ。
 また悲劇が繰り返されるのか。それとも今回は違うのか。それなら何が違うのか。そうしたことを考えながら、隅っこの方で次回をお待ちしたいと思います。
 以上、こちらに『あ、この人レベル違うわ』と思った方が十人以上いる木沢井でした。ええ、勿論ですが、鋏屋様も含まれていますとも。
2012/03/03(Sat)20:09:100点木沢井
 どもです。引き続き読ませて頂きました。
 なるほど、宗一郎はそういう立場の存在なのですね。仲間が居なくても成し遂げようとするのが格好良いなぁ。
 女子高生の会話ですが、自然だと思います。ただ、リアルかどうかと言われると、失礼ながらそうでもないかなと。でも、正直これぐらいが丁度良いと思いますし、正解だと思います。ガチでリアルにするとトンデモナイ事に……。
 ちなみに、こんな感じになりますw

>「な、何で由比、智君のこと知ってるの?」→「え、智君のこと知ってる系?」

 こういうリアルな女子高生を、小説で見たくはないなぁと心の底から思ったり。


 ではでは〜
2012/03/04(Sun)22:38:150点rathi
〉文殿
感想どうもですw まさに文殿の仰ってることこそ、このお話のテーマの一つです。一人の人間の運命というか因果を書き換える事がどれほど大変か、みたいなことを書いてみようかなと思っています。私は生まれて直ぐ死ぬまでの運命が決定づけられるのではなく、その人間の歩んできた人生によって因果が複雑に絡み合いその人の運命が紡がれるみたいな感じ方を支持したいなw 人の業と言っても良いかもしれないですね。

〉木沢井殿
感想ありがとうございますw ええもうセラゲンとは毛並みの違う書き方をしております。というか、私は昔はこんな感じで書いていた気がしますが、当時は全然ダメでした。でも門で色々な方のアドバイスを受けたりして、何とかポイントを頂戴できるぐらいにはなったのかなぁって思います。それでもまだまだですけどねwww
お話しの方は端々で「今回は違う」みたいな事を時峰が言っていますのでおわかりだと思いますが、今までとは違います。はてさて、それがどういった結果に繋がるかは読んで頂いてのお楽しみとさせて頂きます。なので、またお付き合い下さいねw

〉rathi殿
感想どうもです。宗一郎はたった一人で運命に抗う孤独な主人公です。以前はとても内気でヘタレだったんですが、色々あってこうなったと言う設定です。何度も失敗して諦めかけても「それでも」と抗う、そんな主人公を書いてみたかったんですよ。ああ、厨二だなぁ……
最近の女子高生とはそもそも言葉が通じなさそうですね。娘も言ってるんですけど、あの自分のことを「ウチ」って言うのもなんか妙な気がするんですよ。
2012/03/13(Tue)10:22:140点鋏屋
こんばんは。四月一日に向けて俄かにやる気を見せている木沢井です。
 時峰の登場があまりにも王道的(お約束的?)だったので、『よっ、待ってました!』と思わず画面に向けて言いたくなりました。これぐらい王道的だと、いっそ清々しいくらいですね。この辺りは、(いい意味で)鋏屋様らしいな、などと僭越ながら思います。
 今回登場したチンピラが、例の六人なのでしょうかしらん。彼らの頭数を指折り数えている途中ですが、こんな三文物書きの想像の斜め上をいくような展開、お待ちしています。
以上、中々直球勝負ができない木沢井でした。今年こそは脱・腰抜けを果たしたいものです。
2012/03/13(Tue)17:44:040点木沢井
 こんばんは、鋏屋様、上野文です。
 御作を読みました。
 件のシーン、なんか迷いが筆に出てるなあ、と思ったらそういうことでしたか……
 規約に触れたら元も子もないですが、いっそ振り切った方が返ってエロく見えないかもしれません。
 これまでも、ですが、宗一郎が不干渉だった場合の展開をさりげなく示唆するのが上手いなあ、と思う反面、読み手としては少し消化不良だとも感じました。
 不謹慎な話ではあるのですが、時間干渉系とか強くてニューゲーム系の話は、「ラボ崩壊」とか「想い人」の死を目撃したからこそ、「変えてやる!」「こんな結末は認めない」という意思が、読み手の側にも芽生えるわけで……
 現状だと、本来のルートだと欝展開だったんだろうなあと予測できても、「こんなこともあろうかと、先回りしておいたぜ!」 さっすが真田さん! でも波動砲跳ね返す装甲とかずるっこですよね、に見えてしまって。(踏み越えてきた絶望を知らなければ、『世界の支配構造を破壊し、混沌の未来を作り上げる鳳凰院凶真』は、最終章ではなく序章程度の重みしか持ちません) 
 それにしても、由比ちゃん、歩くと棒に当たるのね><
 辛いことも書きましたが、宗一郎くんの乱入シーンは予想していてもカッコよく、今回も面白かったです。
2012/03/16(Fri)23:08:360点上野文
〉木沢井殿
またの感想どうもですw わっはっは、そうなんです。王道こそ正道、わかっていても萌える展開が好きなんです! とことん王道にしてやる!
言い方変えるとベタという!(マテコラ)
と、言いますか、厨二王道しか書けないというね……
orz
ほんと、厨二でベタなお話ですが、また読んでくださると嬉しいです。

〉文殿
毎度の感想どうもです。
いやあ、もっとふりきってもよかったですか? そっかー、もう少し行けたかぁ……ふむ。
消化不良……そうなんですよね。仰る通り感情移入しきれないかも知れません。でも過去の事はもっと後、2章になる予定です。なのでもう少しお付き合い願えればと……

お二方とも、ありがとうございました。またお付き合いくださいね〜
鋏屋でした。
2012/03/24(Sat)20:08:420点鋏屋
 こんばんは、鋏屋様。上野文です。
 御作の続きを読みました。
 あ、すっごい良くなった!
 宗一郎君、今回大活躍で「キャラが動くと違うなあ」と思ったのですが、それ以上に、「お客さんじゃなくなった」気がします。
 無論、由比ちゃん視点、というのもあるのでしょうが、怒りもなく悲しみもなく諦めた人間には感情移入できません。
 佐伯を暴行したこと、祐介を刺したこと、絶対にゆるさん、という炎が燃え盛って今章の彼は実に魅力的でした。トトの瞳を無くして動転するところも含めて、とてもいい描写だと思いました。面白かったです。
2012/03/26(Mon)23:15:031上野文
 どもです。読むのが遅れて申し訳ないです。これスマホで書いてるんですね……。驚きです。
 さておき、4、5とまとめて読んだお陰か、事件あり、アクションあり、ストーリーの変化ありと、盛り沢山で楽しめました。
 宗一郎が強いぜ。濡れタオルアタックは、何となくバキの鞭打を思い出しましたw
 更にさておき、何度もループしたお陰で宗一郎が強くなったのは分かるのですが、コイツ成長したなぁ、と感じさせるには何か物足りないなーとも感じました。ループしてきた『後』の話なので、それは当たり前なのかも知れませんが。あとでその辺をみっちりと書く予定なら、場違いな発言申し訳ないです。
 更新が早いのは素直に嬉しいですし、同時に羨ましいです。

 ではでは〜
2012/03/29(Thu)21:04:010点rathi
 こんばんは、続きも読ませていただきました。
 ふむふむ、運命は決まっていてそれに抗うことは容易ではない、ということを軽く説明するような回でしたね。そして、今まではことごとく祐介を失う結果に陥ったが、今回は最初のアドバンテージのお陰でそうならなかった……、これって大きな変化のようなので、ぜひその変化が生じた理由についての説明がほしいな、と思いました。
 何度もリトライしなければならないほど、この運命の強制力は強いみたいなのですが、その強さがどれくらいなのかもぜひこれから見てみたい、と思いました。
 ではでは。
2012/04/01(Sun)00:27:440点白たんぽぽ
こんにちは、電車内でルーズリーフにボールペンで書き殴っている木沢井です。携帯電話のテキスト機能を使っていたこともありましたが、どうにも私にはこちらの方が性に合っているようです。
 などという話はさて置きまして、拝読しました。
 撃術の説明と濡らしたタオルの記述で、『落第忍者乱太郎(アニメではない方)』の、濡れたおしめで戦う場面を思い出しました。あちらの方は子供向けギャグ漫画としての要素もあるので表現は控えめでしたが、実際はこんなものなのかもしれませんねぇ。もしかして、時峰の身に着けた武術って忍者と関係あるのか? などという拙い想像力を働かせつつ、立ち回りの場面は楽しめました。下衆が打ちのめされるのは、いつ見ても爽快ですよ。
 そして、あの石の名前が明らかになったんですねぇ。あれから早速エジプトのトト神について調べてみましたら、この神様、世界を創造したり時間を管理している、とのことではありませんか! でも御作の文面から愚考を凝らしますと、どちらかというと直接的に関係がありそうなのはトリスメギストスのようですね。
 物語は、一度腰を落ち着けてしまうのか? それともここから怒涛の展開が待っているのか? などなど思いつつ、次回を楽しみにしています。
以上、でもやっぱり最後の仕上げはPCで行う木沢井でした。
2012/04/08(Sun)17:02:321木沢井
〉文殿
感想&ポイントまで! 感謝感激でございますw
良くなりました? よかった〜
仰るとおり今回は宗一郎には思いっきり動いてもらいました。たまには主人公らしいことをしてもらわないと困ってしまいますからね(マテコラ!)
トトの瞳を無くした際の動揺をどのように表現しようか悩みました。私的に書いてて「ちょっと白々しいかな?」って思ったんですが、そう言っていただけて安心いたしましたw 
〉rathi殿
感想どうもですw 
ええ、ほぼスマホで書いておりますw 9割スマホで最終調整をPCで行ってますwww
いえいえ、驚かれることではなく、ただ単に忙しくて通勤電車の中しか書けないからなんですよw ただ最近は新社会人や学生が多くなったのでそれすら厳しい混雑なんですけどねwww
ご推察の通り、宗一郎はループを重ねたことで強くなったのですが、確かに仰るとおり「どうやって強くなったのか」と言う点については現時点では謎なわけで、宗一郎の現在の性格もあり、あまり感情移入しにくいキャラになってしまっております。その辺りは次章で語るつもりなのですが、当初はどちらを先に持ってくるかで悩みました。一応このお話はミステリーの要素を含んでいるので(現状は皆無ですけどw)その辺りのお話を後に持ってくる形態をチョイスした次第です。いや、失敗だったかな……(汗っ)
ま、まあ、期待はずれにならないようがんばりますw

〉白たんぽぽ殿
またの感想どうもですw
そうですね、運命(私はあまり好きではない言葉なんですがねw)といいますか、人間一人が歩んできた十数年間ってそんなに軽いもんじゃないのかなって思います。その過程にあるあらゆる事象は因果と言いますか、生きていく上で背負っていく『業』やら、そう言った物が複雑に絡み合って初めて人生となるわけで、そのエネルギーは膨大な量になるのではないか? と言うのが今回のテーマの一つです。その膨大なエネルギーの方向を変えるというのは並大抵のパワーではないんじゃないのかな〜って思うわけですよw
はい、その辺りのことをこれから先のお話で、私なりの解釈で語っていこうかなって思っております。

〉木沢井殿
毎度毎度の感想、ありがとうございますw
電車内でルーズリーフにペンで!? すごいなぁ、よく書けるなぁ……
濡れタオルを武器にして戦うのは、私の世代では杉良太郎さんが演じておられた「遠山の金さん」になりますかねwww
宗一郎の使う『撃術』は朝鮮半島に伝わる武術でして、身に寸鉄を帯びず、その場にあるあらゆる物を武器として使用する武術だそうです。現在北と南では若干技が異なるようですが、元は同じ物だそうです。以前確か韓国陸軍の近接戦闘術に使っているという話を聞いたことがあります。
トトについては仰るとおりでございます。この神様、調べたらなかなかオールマイティな神様のようで、いろいろな役割を担ってらっしゃっるようですねw 次回このトト神についてのお話が出てきます。でも私なりの解釈なのでツッコミどころ満載かもしれませんね(オイ!)

みなさまホント感謝です。それとレスが遅くなって申し訳ありません。
また読んでいただければ嬉しく思います。
鋏屋でした。
2012/05/07(Mon)20:04:290点鋏屋
 こんばんは、続き読ませていただきました。
 因果や業という言葉を聞くと、因果応報や自業自得という言葉を最初に思い浮かべます。なんというか、この因果や業というものは良くも悪くもその人によって左右され得るもののように感じていたりします。そして、理不尽な不幸といったどうしようもないものを運命、というように感じていたりもします。なので、今回の不幸も運命というふうに捉えたのですが……、それは安易な者の捉え方というものなのかもしれません。
 脱線してしまいました。『時の研磨で輝きを増す名品は数知れない』のあたりが好きです。『その人にとって名品といえよう』が特に心に響きました。背景を知っているかどうか、それに思い入れを持っているかどうかで、それを大切に思えるかが変わると思います。それは物だけじゃなくて人もそうですよね。遠くから見るだけでもすごい人は確かにいますけど、その人のことを本当にすごいと思うには、やっぱりその人のことを知ることが不可欠だと思うのですよね。この作品の訴えている事柄とはちょっとズレているような気がしますが、そんなことを思いました。
 少しずつ背景が見えてき、さらに不穏な終わり方でしたので、次が楽しみです。期待している+応援しています。執筆がんばってくださいね。ではでは。
2012/05/15(Tue)22:46:561白たんぽぽ
 こんにちは鋏屋様、レサシアンです。
 御作拝読させていただきました。
 ループ系恋愛小説、私も一度挑戦し構想段階で挫折した事があるだけに興味深く楽しめました。ってかスマホで執筆ってスゲェ……!
 運命に抗い、翻弄され苦悩し、想い人を救うために擦り切れていく宗一郎は痛々しいながらも一途で、既視感に戸惑いながら徐々に宗一郎に惹かれていく由比とはハッピーエンドを迎えて欲しくてたまりません。
 けれども、単純に逆行するだけではない世界に今後の二人が果たして『刻の狭間』のように結ばれるのか、それともその著者のような結末を迎えるのか。
 新たに波乱の予感も加わって、期待は高まるばかりです。
 しかしこのトトの瞳、どこぞの賢者の石みたいですね。最後に力を失ったら、単純に逆行出来なくなるのか、それとも由比の覚えた既視感から想像するに不完全な逆行にでもなるのか。そんな見方でも話の先を想像して楽しめました。
 けれど、かれこれ十年以上ループを続けている宗一郎の肉体年齢はまだしも精神ももう少し老成しているのでは? などと思ってみたり……。そうでなくとももう少し危機対処能力が上がって圧倒的に、それこそ舞うように渋井たちを片付けて欲しかったなぁ、と。あくまで個人的な願望であり妄想ですがw
 この作品を読んでいたらバタフライ・エフェクトが見たくなってきました。続きも期待いております!
2012/05/24(Thu)13:24:360点レサシアン
 ども、遅ればせながら読ませていただきました。

 じいちゃんが渋いぜ。古美術店らしい言い回しがまた格好良い。宗一郎が何となく現代っ子らしく感じないのは、じいちゃんっ子だったからなのかなーと思ったり。
 最後の手紙は厨二心をくすぐってくれる文章でしたw くそぉ、いいなぁこういう感じ。

 最後に誤字報告です。

>店を出たら辺りも暗くなっいたし、

 次回も期待しております。


 ではでは〜
2012/05/26(Sat)20:40:101rathi
こんばんは、鋏屋様のHPを覗いてきた木沢井です。鋏屋様も多彩な方ですねぇ。
 『トトの瞳』に関するくだりは好きでした。ここで興味深いのが、時間『遡行』に限られている点でしょうか。いえ、物語の都合上そうなっている、と言われましたならそこまでですが、未来へではなく過去にしかっていうのが、「未来は全くの不定だから」とか「『瞳』を作らせた王様が過去に強い執着を見せたから」など、若干本編そっちのけで考えたりもしましたので。でも結局、『過去』に戻れば『現在』も『未来』になるんだと、先ほど御作を読み返して思い直しました。浅はかさに顔から火が出そうです……
 今回の最後の場面の手紙で、そういえば、他にも分かっていないことは残っているんだ、と認識を改めました。時間遡行をする理由もまだ他にあったような気もしますし、気長にお待ちしています。
以上、明日に備えてクリップボードと用紙の準備をしなくてはならない木沢井でした。蛇足ですが、エリンギシリーズ本編末尾のオマケに某人喰いの短編がございますので、興味がございましたらどうぞ。
2012/06/09(Sat)00:59:220点木沢井
よう、久しぶりだなハサミムシ。溜まっていた続きを読ませてもらった。
――ところでさ。なんか最近、作品のあとがきすら神夜に似てきてねえ?あれ、これ神夜の自意識過剰?そしてさらにところでさ。……マジか。スマフォで小説とか書けるのかハサミムシ……すげえな。神夜としては考えられない神業だぞそれ。
そして物語はころころと進んでいるようで。楽しませてもらっております。ただこれから視点が入れ替わり等を予定しているのであれば、諸々に気をつけないと読んでいる方が混乱して置いてけぼりになってしまうかもしれない。そこだけを注意して、「輝け!!ハサミムシの厨二病ッ!!うおおおおおおお」ってやればいいと思います。
2012/06/12(Tue)10:33:190点神夜
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