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『何でまたそんなものを、こんな時に』 作者:木沢井 / リアル・現代 未分類
全角7770.5文字
容量15541 bytes
原稿用紙約24.6枚
【何でまたそんなものを、こんな時に】


「ひあゆあー」
「は?」
 事の起こりは二月の十四日、奇しくも明暗分かれる忌々しい男女のイベント当日だ。
「これ、あげる」
 教室で友達と駄弁ってたこの俺、蒲原(かんばら)修(おさむ)にいきなり茶封筒を突き出してきたのは、柏葉(かしわば)とかいう、うちの学年……どころか、学校中でもちょっと有名な奴だった。
 昔、都会だかから転校してきた奴で、見た目がいいってのと、いつも一人なもんだから嫌でも目立ってた奴だが、その『いつも一人』が問題だった。何しろ――
「それじゃ」
「あ、おいっ」
 返事も聞かず、柏葉は踵を返して教室から出て行こうと……い、いや待てっ、そうはいくかよ!
 慌てて、柏葉の前に回りこむ。ちょっとばかり他の連中の目が痛いが、ええい構ってられるか!
「な、なあ柏葉……だよ、な? これ――」
「焦ってる?」
 じっと、黒目がちな眼で見つめてくる柏葉。俺の顔が映ってしまうくらい真っ直ぐに見てくるもんだから、出かかった言葉が思わずこんがらがってしまう。
「あ、いや……」
「のーぷろぶれむ。じきに分かるから」
 そういうことじゃない、と言う暇もなく、柏葉は「あでゅー」とか言い残して女子教室に戻っていく。タイミングよく予鈴が鳴ったのと、他の連中の視線に耐えかねた俺は、急いで男子教室に戻った。


 やっかみ半分、好奇心半分の奴らから柏葉の茶封筒を死守した俺は、授業そっちのけで中に入ってたわら半紙に目を通していた。
[昼休みに、校舎裏のイチョウ下にて待つ。*一人で来ること。あと時間厳守 柏ば]
 やけに細くて丁寧な字で書かれた文面は、何でだろうな、昔じいちゃん家で観てた時代劇に出てた果たし状のように見えた。
「シュウちゃん、見せろよ」
「やだね」
 先生の目を盗んで覗き込んできた友達の目から、咄嗟に手紙を隠す。別にいいような気もするが、やっぱり見せたくないと思うのがオトコゴコロってやつなのかもしれない。
「ちぇっ、ケチケチすんなよなぁ」
「逆に訊くけどよ、お前が俺の立場なら見せるのか?」
「まあ、そうだけどよぉ」
 と言って、奴は机に顔を乗せる。
「何だよ」
「柏葉がお前を選ぶなんて、何か意外だよなぁ」
 何だとこの野郎、と思い拳を握ったが、お互い様か、と思い直して怒りを治めた。
「そういや変なんだよな。俺、あいつと喋ったこともないぜ」
「ちぇっ、余裕カマしちゃってさ」
 別に余裕ってわけでもないんだけどなぁ。取り合えず、頬っぺた膨らすのやめろ。野郎がしてたって薄ら寒いだけだぞ。
「どの道、お前にゃ関係ないことだよ」
「あーそうだよ。骨ぐらいしか拾ってやれねーよ」
 言ったなこの野郎、と思い拳の間接を鳴らしたが、この件でこいつらが役に立つとしたらそんなもんだよな、と思い直して笑って流す。柏葉との現場に乗り込まれても迷惑なだけだし。
「ま、行けば分かることさ」
 なんてカッコつけてみたが……ただ、どうしても嫌な予感がしてしまうのは、何でなんだろうな。


 昼休みに入った。俺は弁当にも手をつけず、指定の場所へと急いだ。クソッ、目の毒だぞ急造カップルが。
 柏葉の手紙にあった『校舎裏のイチョウ』ってのは、たぶん学校の裏門の脇に生えてる、やたらとでかくて大量に落ち葉をばら撒いてるやつのことだろう。ただでさえ生徒数が少ないんだから、あんまり手間のかかりそうなものを植えないでほしいよな。
「……うっ!」
 突然冷たい風が首の辺りに吹いたので、反射的に体が竦んだ。
 それにしても、やっぱり二月は寒い。着込んでてよかったと思う。そして柏葉は本当に来るんだろうかとも。
「まさか……」
 俺、騙されてる? もしかしてピエロ?
 やばい。どんどん嫌な考えが噴き上がってくる。本当は今頃、教室で柏葉や他の連中が、ここにいる俺のことをネタにしてるんじゃないだろうか――
「ぐーてんたーく」
 そんなことを考えている最中に、柏葉が校舎の影からやってきた。俺のネガティヴな考えを吹き飛ばすような登場には感動すら覚えるが、右脇に抱えてるものがそれを台無しにしていた。あれは……は、箱? 菓子箱か? 意外とでかいぞ。
「よ、よォ、柏葉」
 普段どおり、と意識はしてみるが、慣れない状況にいるもんだから笑ってしまうぐらい声が震えていた。
 柏葉は、そんな俺を笑うでもなく淡々と歩いてくると、案の定、抱えてた箱を俺に差し出してきた。
「これ」
「これって……」
 柏葉が持ってるのは、北の大地の銘菓――を模して、というかほぼパクって作ったという我が市の銘菓候補『黒い恋人たち』だった。ちなみにだがキャッチコピーは、『存在はグレーなのにこの黒さ』である。もはや何がしたいのか分かんねえよ地元。
 いや、くれるっていうなら――それも可愛い女子だったなら――大歓迎だけどな。
「お近づきの印」
「お近づきのって……まあ、くれるんなら喜んでもらうけどよ、何で俺にくれるのか、訊いていいか?」
 『黒い恋人たち』を差し出した姿勢で止まった柏葉に、俺は朝から気になってたことを思い切って尋ねてみた。
「ほら、言っちゃなんだけどさ、俺達って会って話すの、今朝が初めてだったじゃないか? それでいきなり呼び出しの手紙なんかもらっちゃってさ、それで気になってたんだけど……」
 俺の語気は、柏葉の真っ直ぐで透明な視線に圧されて、尻すぼみになっていく。柏葉はずっと何も言わないんだが、それが逆に堪える。無言のメッセージ、ってやつを意識してしまうからか?
 まさか――再び期待と鼓動が高まるが、いやいや待つんだ俺。こう言うのもなんだがな、俺はこんな場所に呼び出されるほどの面相じゃないぞ。悲しくなるから口に出さないけど。
「……理由、あるんだろ?」
「ある」
 と頷かれて、また心臓がギュっと緊張する。ああやっぱり、という気持ちと、まだその理由に望みがあるという期待だ。
「実は……」
 柏葉が、ゆっくりと喋り出す。畜生、何でまたそんなにタメを作るんだよ。ますます緊張しちまうじゃねえか。
「学校中の男子生徒・男性職員の中から……」
 な、中から? ていうか範囲広くないか?
「適当にくじ引きで選んだら君だった」
「適当かよ!? ンな理由ならいっそ聞きたくなかったよ!」
 遂に身内オンリーのバレンタインに終止符を打てるかもって思ってた俺のささやかな希望を返せよ! っていうかこいつに期待してて悲しくなったよ俺! あまりにも飢え過ぎて自分が可哀そうになってきたわ! そしてこんな奴だったのかお前!?
「ちくしょー、やっぱそんなもんかよぉ……」
 今までの期待も緊張もすっかり失せて座り込んだ俺に、柏葉はわざわざ屈んで目線を合わせながら「ダイジョーブネ」と、何故かエセ外人みたく言った。上目遣いってやつがまた可愛く見えて、ちょっと悔しい。
「何が大丈夫なんだよ」
「用意したの、昨日だから」
「……それ、今のフォローになってると思うか?」
「全然」
 分かってんなら何で言うんだよ。
「泣きながらわたしの手を握って、『ありがとう』って言われてもおかしくないと思ってる」
「そっちかよ!? どっから来るんだお前の自信は!? つーか、『全然』って言葉を打ち消し以外で使うなよ紛らわしいな! 現代社会の毒をまともに受け過ぎだぞ!? そんなんだから年寄り達から『今時の若いのは』とか言われるんだぞ!?」
 しかも適当な理由で選んだって打ち明けといて、その反応を期待するのもどうなんだよ。場合によっちゃ殴られても文句は言えないと俺は思うぞ。
 ……まあ、確かに柏葉は見てくれは……まあ、いい方だろうし、そう思っててもおかしくないだろうがよ。
 なんて口に出せるわけもなく、口をモゴモゴとやってると、
「ねえ」
「……あ?」
 柏葉が、じっと俺の顔を窺うように覗き込んでくる。やばい。免疫がないもんだから、「な、なんだよ」と言い返す声は分かりやすいくらい震えている。
「さっきから思ってたけど、その声の出し方は喉に優しくないんじゃないのかな?」
「誰のせいだと思ってんだよ!? ってゆーかお前通信簿とかで『ヒトの気持ちが分かるようになりましょうネ』って絶対書かれてただろ!? 何でそんなに思いっきり他人事ですけど何か? みたいな顔していられるんだよ!? しかもちょっと頬赤いし!?」
 思いつくままに捲くし立てていると、何故か途中から柏葉の頬が赤くなり始めていた。待て、あまりにも唐突過ぎるぞ柏葉。これがバスケとかなら俺は確実にタイムアウト使うぞ。
「……『有花(ゆうか)』だなんて、いきなり名前で呼ばれても……その、困る」
「知るかよ!? つか初めて下の名前知ったわ! しかも論点はそこじゃねえんだよ!? そして人の話をちゃんと聞け!」
 やばい。どんどんこいつのペースに巻き込まれていってる気がする。早く主導権をこいつから奪わないと――と、思ってた矢先、柏葉が「あと、一ヶ所訂正して欲しい」とか言い出した。
「あ?」
 完全に出鼻をくじかれた形だが、ひとまず待ってしまうのが俺の辛いところだ。
 そんなことなど知ってか知らずか、ぴっ、と人差し指を立て、柏葉は淡々と続ける。
「通信簿には『せめて一人くらい仲のいい子を作りましょうネ』とは書かれた」
「も一つ切ないこと書かれてんじゃねーか!? どんだけ孤高を貫いてんだよお前は!?」
 これでもかと言わんばかりに俺の喉を酷使してくれやがった柏葉は、その上更に追い討ちをかけてきやがった。いい加減、この展開はどうにかしよう。でないと俺は筆談で午後を過ごさなきゃならなくなる。
 そんな俺の現状をようやく察してくれたのか、柏葉は気持ちうな垂れる。理不尽な飼い主に叱られた犬みたいに見えるが、いや待て、被害者は俺のはずだぞ。
「……怒られてばっかり」
「……そう思うんなら、ちょっとぐらい改善しようとは思えよ」
 いい加減、喉も限界だった。今日は帰ったら念入りにうがいでもするかな。まだまだ寒いし、風邪はひきたくないからな。
「今、してる」
「は?」
「男の人の友達か、知り合いを作りたかった」
 また柏葉は、俺の都合なんか関係なしにポツリポツリと話し始めた。
「ずっと、友達が一人しかいなかった」
「へえ」
 悪いと思って口に出さなかったが、意外といえば意外だった。少なくとも俺の記憶では、柏葉が誰かと仲良くしてる姿なんて見たことない。市内の学校に通ってる奴か?
「でも去年、その友達が死んだ」
「え……」
 いきなり話が重くなったが、やっぱりこのまま聞いとくべきなんだろうか――そう俺が迷ってる間にも、柏葉は淡々と語る。今だけはこのマイペースさがありがたかった。
「裏庭に埋めた時、もうフクはいないんだって、改めて思った」
「あー……柏葉、ちょっと待て」
 しんみりした空気の中だが、俺にはどうしても確かめなきゃならないことができた。
「もしかして、そのフクってのは……」
「金魚。リュウキン」
「哺乳類ですらねえのかよ!?」
 冷静なリアクションを心がけるはずだったが、やっぱり柏葉は手強かった。いや、眉を寄せるな柏葉。それやったらまた俺が加害者っぽくなるんだぞ。
 つか、金魚が唯一の友達って。てっきり犬か猫ぐらいかって思ってたが、まさかの魚類かよ。
「はー、はー……い、一応訊いとくが、人間の友達は?」
「いっつゆー」
 またもや棒読み英語と一緒に、俺を指さしてくる柏葉。聞き間違いであってほしいところだが、違うんだろうなぁ。
「なあ、柏葉」
「……なに?」
 また何か言い出しそうになってる柏葉に待ったをかけて、俺はそろそろパンクしかけた頭を整理させてもらうことにした。
「つまり……えー、ここまでの話を総合してみるとだな、柏葉は友達か知り合いが――」
「できたら友達」
 何故そこに食いつくんだよ。
「えー……友達が欲しくて、それでその相手を適当に――」
「くじ引きで選んだ」
 何故くじ引きにこだわるんだよ。
「えー……くじ引きで選んだ結果、相手が俺だったんだな?」
「俺だった」
 何故そこはオウム返しなんだよ。……いや、別にそれはいいか。
「で、友達になってもらうための袖の下として――」
「お近づきの印」
「……『黒い恋人たち』を、俺にくれたと」
「お近付きの印」
 何故そこまで言い回しにこだわるんだよ。別に大事なところじゃないだろ。
「お近付きの――」
「分かった! 分かったから! お近づきな、お近づき!」
 無表情でにじり寄り、訂正を求めてくる柏葉の圧力に負けて、俺は慌てて訂正する。こ、怖すぎるぞ柏葉。昔見た、マネキンに追い駆け回される夢を思い出したじゃねえか。
「理解に感謝。ぐらっちぇ」
「お、おう」
 至近距離に立ったまま頷く柏葉。寒風に混じって甘い匂いが漂ってくるのはこの際として、とにかく、柏葉監修の下、俺の認識というか現状への理解は残念ながら正常ということが証明されてしまったわけだが、ここまで喜べないのは、何でだろうな。
「お、おかげで大筋は理解できたと思う」
「ひぁうぇるかむ」
 お、今ちょっとだけ表情が動いた? もしかして笑った、のか?
「でもな、柏葉」
「なに?」
 柏葉が首を傾げると、また甘い匂いが……くっ、耐えろ俺! 耐えろ蒲原修! 
「えー……友達を作りたいのは分かったが、何で今日に渡そうと思ったんだ?」
「理由は、ある」
 それを訊いてるわけだが、とりあえず柏葉を待つしかないか。……ああ、それにしてもいい匂いするな柏葉。でもこのままなのはちょっとよろしくなさ過ぎるから、ここいらで距離をとりたいな。
「他の女子が、今日にチョコを渡すとか配るという話を聞いた」
「あ、ああ、確かに話してたな」
 俺には全く関係ねえやと思ってたけどな。そして相変わらずいい匂いがするな……北風ちょっとは空気読めよ。
「男子は喜ぶと言ってた」
「で、これを用意しようとしたってのか?」
「だー」
 猪木? ……いや、違うか。またどっかの外国語だろう。
「……なあ、柏葉。一応訊いてみるけど、今日が何の日か知ってんのか?」
「知ってる」
 と言って、今度はちょっと頬が膨らむ柏葉……くっ、いつも表情変わらない奴がこーいうことやると破壊力があるぜ。可愛いってのは罪だよ、ほんと……。
「男がチョコを女からもらって喜ぶ日。おーけい?」
「い、いや、確かにそーいう日でもあるけどな……」
 いくら何でも、そりゃ穿ちすぎだろ。他にも色々ある日なんだぞ。俺も詳しく知らないけど。
「そーいう日としか知らないけど、効果は本物。ゆあおるれでぃまいふれんど」
「あー……」
 真顔で断言する柏葉に、俺はちょっと返す言葉がない。いや、そろそろ限界なんだよ、柏葉の匂い。しかもまだ距離が近い。眼と鼻の先に柏葉だよ。俺がこんな風になってるってのに、何で柏葉は平気なんだ? それとも女子は皆こんなもんなのか?
「これで目標に向けて、一歩前進」
「へーへー、そりゃ結構」
 握り拳を作り、妙な達成感に浸る柏葉。いつの間にか一方的に友達扱いされてるのは、この際おいとこう。どうせ言っても無駄な気がするし。
 ああでも、このまま柏葉が至近距離にいるとケンゼンな一男子高校生としてはちょっとよろしくないので、よそ見するフリしてさりげなく柏葉から距離をとり、ついでに別の話題を切り出す。そこ、ヘタレとか言うなよ。十六年間彼女なしの俺にはマジで効果抜群だよ。マジで男子キラーだよ。
「そういえば、目標の一環だって言ってたけどよ、最終的にはどうするつもりなんだ?」
「とりあえず、友達は百人作る」
「ひゃ、百人て……」
 どこかで聞いたようなフレーズに、俺はまたもや嫌な予感を覚える。普通なら冗談だろと笑い飛ばすところなんだろうが、言ったのは柏葉だ。つまり、嘘みたいな話だが、嘘じゃない。
「略して、THT計画」
 略す必要があるのか? そしてそのネーミングセンスはどうなんだ? そもそも計画名をつける必要があったのか? ……駄目だ。激しくツッコみたいが、結局『柏葉だから』っていうことで片付いて、喉を痛めるだけに終わりそうだ。
「過去の遅れを、取り戻す」
 そう言ってイチョウの幹に手を添え、柏葉は校舎を見上げる。ちょっとだけ凛々しく見える横顔はなんて言うか、挑戦する奴の顔って風に見えてカッコ可愛いいが……。
「なあ、柏葉」
「なに?」
「百人って言ったけど、お前、この学校には職員込みで五十人ちょっとしかいないんだぞ?」
 何せ人口二百人ちょっとの村に作られた分校だからな。
「知ってる」
 あ、一応知ってはいるのか。知らないよりはマシなんだろうけど、それはそれで駄目なんじゃないだろうか。
「学校の外にも、人はいる。もーまんたい」
 いや、いるけどさ。いるけどさ、
「……もしかして、俺も手伝うのか? お前の友達作り」
「うぃ」
 フランス語だか体育会系だか分からない返事とともに柏葉はサムズアップする。
 いや、なんか『ヨロシクだぜ!』って言ってる気がするけど、それって俺がとんでもない苦労を背負い込むことにならないか? 言っとくが、俺の喉はもう瀕死状態だぞ。
 と、ここで予鈴が鳴った。じきに昼休みも終わる。これほどまでに昼休みを長く感じたのは、きっとこれが初めてだ。
 そんな風に俺が途方もない気苦労を覚えていると、柏葉が右手を差し出してきた。何だ? 今度はどんな精神攻撃を仕掛けてくるつもりなんだ?
「わたし、柏葉有花」
 満身創痍の喉に鞭打ち、いつでも柏葉のボケに――できればしたくないけど――対応できるように身構えてると、肩透かしを喰らった。え、何? 単に自己紹介してるだけ?
「……蒲原修」
 何故か妙なガッカリ感を抱えながら、俺は柏葉の手を見た。あまり日に焼けてない、少し朱の入った白い手に、またもや俺の心臓が……我ながらワンパターンな上に免疫がなさ過ぎだとは思うが、慣れないもんはどうやったって慣れない。
 意味もなく深呼吸なんかしてから、柏葉の右手を握り返した。うっ、ひんやりとしてるが、何ていうか……や、柔らかいな。口には出せないが、いつまで握ってても飽きない気はする。
「今後とも、よろしく」
「……おう」
 どうにかこの一言を捻り出したが、どうにも落ち着かない。
「焦ってる?」
「ぅいやっ、焦って、ない、が……」
 柏葉の核心をついた一言に俺は反応しかけて、ちょっと凹む。こんなに声が裏返ってたら、焦ってるもクソもないじゃねえか俺。
「焦った方が、いいと思う」
「は?」
 呆気にとられる俺を無視して、柏葉は校舎を指差す。
 それと同時に聞こえてきたのは、聞き慣れたチャイムの、音……!?
「授業、始まったみたい」
「そりゃ焦るに決まってんだろうがよォ!!」
 やばい。ちょっと喉にあったかくてしょっぱい感じがしたが、今は構ってる場合じゃねえ。右手で柏葉を引っ張り、左脇に『黒い恋人たち』を大事に抱えて、俺は校舎へ全力で駆けた。
 この後、茶封筒の一件に加え、俺が柏葉の手を握って校舎に向かう所を見てた連中の質問攻めに遭うわけだが、いい加減俺の喉も頭も限界なので、ここら辺で失礼させてもらう。
2012/02/14(Tue)10:20:42 公開 / 木沢井
■この作品の著作権は木沢井さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お初にお目にかかる方には、はじめまして。久しぶりにお会いする方々には、お久しぶりです。そうでない方には、TPOに則った挨拶をば。三文物書きの木沢井です。
 当拙作は、厳密にはヴァレンタイン関係ございません。ヴァレンタインに便乗して、こっそりと影でやってることです。心の赴くままに書き散らせたのは満足ですが、やはり自分でも恥ずかしいものですよ。ええ、その、諸々と。
 来年こそは、ちゃんと題材にしたものを作ってみたいものですが、果たして私にできるのか……。
 あとがきまで目を通された方々も、本編だけでも目を通された方々にも、等しくお礼申し上げます。
 ありがとうございました。
この作品に対する感想 - 昇順
あー……うん、今の若い子達っていうのは、こういう感じのノリっていうか
好きみたいだね。深夜アニメもこういう感じのが多くなってきたし
うまくかけてると思うなぁ。柏葉さんみたいのを萌えっていうんでしょう?
新世代の感覚におじさんはタジタジです。
才能あふれる若人よ、突っ走れ。なんてね。
2012/02/14(Tue)13:58:180点あー……うん
え、これ、ほんとに木沢井様が書いたんですか。こういうものもお書きになれるんですね。
まさかの魚類はツボでした(笑)
こういう季節物は気分が高揚していいですね。
私も軽いラブコメを書きたいと思っているんですが、クリスマスにも結局書けなかったからなあ。
次のイベントというと……ひな祭りとか、お釈迦様の生誕日……なんか違うな。
楽しく拝読いたしました。
2012/02/14(Tue)18:02:040点玉里千尋
 ども、お久しぶりです。rathiです。

 ヴァレンタインらしく甘い……甘いのか? まぁ、甘いとしておきますw
 さておき、文章はラノベらしく、簡単にさっくりと読めて良かったです。流行をきちんと押さえてるなーと思いました。自分も金魚の下りが好きですw
 ただ、思いの外最後があっさりと終わってしまったなーというのが本音です。

 ではでは〜
2012/02/16(Thu)19:31:310点rathi
 とても楽しく読ませていただきました。天然ボケとでも言うのでしょうか、それに振り回される男の子、どちらも味のあるキャラだと思いました。こういうの実は好きです。また、お願いします。
2012/02/17(Fri)23:00:140点土塔 美和
主人公のつっこみがくどいのが気になりました……。
そういうキャラ設定でしたらすいません。
2012/02/19(Sun)16:19:530点らじかる
お久しぶりです水芭蕉猫ですにゃん。
ヴァレンタインなんて消えてしまえ……(おい
いや、なんでもありません。皆さまと同じく金魚のくだりが良い味出してますな。まさか哺乳類ですらないとは……。そして何より木沢井様がこれを書いたことに私はびっくりしています。
短いですが、この辺で!!
2012/02/22(Wed)22:41:540点水芭蕉猫
 こんばんは、木沢井様。上野文です。
 くじびき…、くじびきorz
 他の方も書かれてますが、木沢井様が書かれたことに、マジで!?
 と、いい意味で衝撃を受けました。
 これくらい格好をつけない方が、自然な文体になるのかも…。
 らしくはないですが、うまい、とも思いました。面白かったです。
2012/02/22(Wed)23:14:440点上野文
>あー……うん様
御感想、ありがとうございます。
 こういうノリ、好きなんですかねぇ。地方に住んでいる上に深夜は寝ているのでさっぱりですよ。『萌え』に関しましては、私よりも他の皆様方のほうがディープなことを語れるようなので明言は避けますが、上手く書けている、というお言葉は素直に受け取らせていただきます。
 才能ある若い人達には、どこまでも突っ走って頂きたいですねぇ。

>玉里千尋様
御感想、ありがとうございます。
 ふっふっふ……実は木沢井とは二人一組の名前で、私はユーレイ噺やドン・ガラドを担当していた方だったのです! すみません、嘘です。私はいつでもロンサム・木沢井ですとも。
 そんな茶番はさて置きまして、こうした季節・行事に関連性のあるものを書いてみるというのもやはり楽しいですね。ひな祭りをネタにしてみようかと現在頭を捻っている途中ではございますが、どうにも苦戦しています。となると、やはり花祭りか……。
 楽しかった、とのことで安心しています。

>rathi様
御感想および御指摘、ありがとうございました。
 お久しぶりです。ますますの御健勝ぶり、羨ましく存じます。
 まあ、微糖……いえ、無糖といったところでしょうか。本人も今ひとつ理解できていませんが、そのようなものかと。
 流行に関しましては、何ともお答えしかねますねぇ。何しろ流行りモノにはとんと興味がわかないものですから。ですが、こうした形態もいいものだとは思っています。
 終わり方は、私も悩みました。そもそも、適当に書き出していった会話をつなぎ合わせて文章で埋めたのが当拙作の始まりですから、明確な起承転結を意識していなかったことが最大の敗因ですね。だったら、もうちょっと肉付けを……ああでも、そうだと2.14に、しかも短編で出した意味がなくなってしまう。
 カカオ99%のチョコみたいに黒くて苦々しい気分ではありますが、この経験をバネに何とか頑張ります。はい。

>土塔美和様
御感想、ありがとうございます。
 これはまた、嬉しい感想ですねぇ。私も好きですよ、天然の人が登場するものは。漫画でしたら重野なおき氏の作品ですかねぇ。
 『また、お願いします』とは、面映い心地です。何しろ、私はキノコの山に住んでいる三文物書き。ご提供できるのはこうした拙作ばかりとなりますが、そんな代物でもまたお目にかかれましたなら幸いです。

>らじかる様
御感想、ありがとうございます。
 そういうキャラ設定です――などと言い切っていましたら、こちらに投稿させて頂いている意味がありませんからね。素直な感想であるなら、何も謝られることはないかと思います。
 ツッコミがくどい、ですか。今回は確かに言い回し等を濃い目になるよう意識しました。が、そうしたもの一辺倒というのも嫌なものですからね、別のものを作る際には、あっさり気味のツッコミを入れるキャラクターでも考案してみようかと思います。いい刺激になりました。

>水芭蕉猫様
御感想、ありがとうございます。
 お久しぶりにございます。それとあの、元気を出して下さい。この地球上にいる人類の約三十億は男性で、そのうちの何割かがホモセクシャルですから。(何のこっちゃ
 ふっふっふ、実は木沢井というのは……いえ、もういいですよね。二番煎じといいますか、同じネタ(?)を使い回すのは駄目ですよね。関西の隣に住んでいる県民的な意味でも。
 何はともあれ、ギャグも小説も寿司ネタも鮮度、新鮮さが命、ということですよね。
 全く話は変わりますが、エリンギ3に頂いていた御感想への返事がまだだったことに気付きました。折角頂いていたのにすみませんでした。

>上野文様
御感想、ありがとうございます。
 え、猫様に続き、上野様も何か嫌な思い出がおありなんですか? しかもくじ引きで? いえ、私も王様ゲームをした時に三連続で王様になったことはありますが……まあ、そういうものですよ、くじって。
 ふっふっふ……いえ、二度あることは三度ある、といいますので。
 私などが言っていいことではないのだと思いますが、エリンギシリーズに比べれば言葉のチョイスに制限がない分、そして変に『カッコつける』必要がない分、こちらの方が楽ではありますね。ただ、今の私ではこのスタイルで長々とやれない、という問題がありますので、やはり今も昔も私は精進あるのみ、ということですよ。
 上野様の中におけるこの私、木沢井らしさというものに、非常に興味があります。孫子曰く、『己を知り、相手を知れば百戦危うからず』ですからね。
 面白かったという御言葉、何よりも嬉しく思います。

 皆様、改めて御礼申し上げます。
 ……それにしても、金魚のくだりが受けた、か。本当なら、まさかあんな所が受けるとは予想外ですねぇ。やはり読み手は書き手の、書き手は読み手の予想通りにはならない、というのは本当なんでしょうね。いえ、それも一つの楽しみかと思っていますが、金魚、か……。
2012/03/02(Fri)08:18:480点木沢井
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