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『その少女 一話』 作者:Ryo / 未分類 未分類
全角5489.5文字
容量10979 bytes
原稿用紙約15.95枚
殺人者と少女が出会ったとき、また新たな殺人が起こる。
 雨の音が聞こえる。
今ここに存在する音源すべてを遮り、アスファルトを絶えず打ち付ける雨粒の音だけが耳に届く。このどんよりと濁った雲の裏側にあるであろう太陽の輝きなんて、まるで無いみたいに地上へは届いていない。
 そんな雨の中、佇む男の姿があった。
 彼は、また人を殺した。彼の足元には一人の男が倒れている。だらしなく放り出された手足と、胸から湧き出る赤黒い液体と、苦痛の形相。その男は間違いなくその身に生命を宿してはいないだろうということが一目でわかる。流れ出た赤い血液が雨水に溶け、その色を少し淡くして地面を這い流れていた。
 恨めしく睨んだような目つきでその死体は彼を見つめていたが、しかし彼の視線は違うところへ向けられていた。乱立した雑居ビルの裏路地には似つかない、白いワンピースを着た髪の長い少女がビルの陰からこちらを見つめていたのだった。
 そんな少女の姿から、彼は目を離せずいた。たった今人を殺した彼の頭の中は、まだ小学生くらいのその少女のことでいっぱいになっていた。混乱する彼の意識を簡単に一蹴するような、物怖じすることなく、逃げ出そうともせずにこちらを見つめる少女の醸し出す不思議な雰囲気に、男は意識を捕われている。
 少しの間見つめあい、はっと我に返った彼はすぐにかけるべき言葉を探した。
 一体こいつはここでなにをしているんだ?そんな当たり前の疑問に気がつくと、彼は口を開き少女へ向け言葉を発した。


「泣いてるの?」


 何をしてる?という彼の言葉を遮って、やかましく地面を叩く雨音さえも遮って、そんな言葉が彼の耳に届いた。全ての音を消してその言葉だけが存在した、という言い方が正しいだろうか。少なくとも彼の耳には、その一瞬少女の声、言葉しか耳に入ることは無かった。
 考えるよりも先に、彼は自分の足を彼女へ向けていた。血液の赤が、雨ですっかり流れ去ってしまった足元の死体を跨ぎ越え、ゆっくり歩みを少女の方へ向ける。少女は逃げることも、表情を変えることさえしない。ただ、彼が向かってくるのを待っているようである。
 彼の頭が思考能力を取り戻したとき、彼の頭の中は相変わらずで、この少女を、彼が握っている拳銃で撃ち殺してしまおうかというところまで考えが及ぶのに、そう時間はかからなかった。殺人現場を見られたことも尚更であるが、何より少女の一言にひどく衝撃を受けてしまったのである。
 ほんの数歩歩みを寄せるだけで少女の傍へ到達した。仮にさっきこの少女が全力で逃げていたとしても、簡単に追いつくことができただろうということを、彼はこのとき悟った。
 見下ろし、見上げる両者。彼の頭の中で交錯していた少女に対する疑問やその類に、彼はとうとう拳銃でカタをつけるという決断を下した。人を殺すことは慣れているし、そうすれば簡単に事が済むことも知っている。殺人現場を見られてしまった以上、この決断は彼にとってごく当たり前で、まるで小腹が空いた時にお菓子を摘もうというような、そんな日常的な決断なのである。
 彼は表情も変えぬまま、まだ幼い少女の額に銃口を向け、引き金に指をかけた。いつ弾丸が飛び出してもおかしくない銃口。
「……来い」
 引き金を引くよりも一瞬先に彼の口から言葉が漏れ出た。彼は拳銃を握った方と逆の手で少女の上腕をぐいと掴み、強引に引っ張りその場を後にした。




 男の名前は佐島という。いくつもある名前のうちの一つであり、本名である。久しく櫛を入れていないその髪の毛はボサボサで、口元には長めの無精髭が生えている。顔立ちは整っているのだが、それらがその顔の品を下げている。彼は、閑静な住宅街の中に紛れるように存在する古びたアパートに住んでいた。これもまた幾度も転居を繰り返しており、今現在はこの男の棲家であるが、また移住する日も遠くないだろう。部屋は六畳程度の和室で、家具と呼ばれるものはほとんどなく、布団と小さなテーブルがあるだけの質素な部屋で、部屋と呼ぶよりも寝床と呼ぶ方が正しいような、そんな部屋だ。
 彼の一日は、ポストの中身を確認することから始まる。彼の職業は「殺し屋」。その道では「サジマ」という名前はそこそこ知れており、「迅速で丁寧」と評判が良い。ポストの中に殺人依頼の信書便が届いていれば、ターゲットをリサーチし、殺人計画を思案し、凶器の手入れを始める。しかし、殺人依頼などというものはしょっちゅう届く訳もなく、月に一度届けば上出来であるといった程度で、基本的には食って寝る生活しかしていないのが現状だ。
 この日も男は眠い目を擦りながら、いつものように空のポストを確認し、容易に想像できる一日を過ごすと決めると、再び部屋のドアノブを回した。
 しかし、この日の部屋の様子は少し違った。人の形が残ったままの布団。テーブルの上に乱雑に撒かれた顧客リストと過去の殺人計画案。たばこの煙に燻され黄色がかった壁紙。それら全てがいつもの部屋の景色であるが、そこに唯一つ、絶対に有り得ないものがそっと佇んでいる。部屋に入った彼は、もう一度今この部屋にある現実を実感した。昨日連れ帰った少女が、部屋の隅にそっと座っている。彼はこの少女を殺せなかったのだ。その事実が、今朝目を覚ましてから、彼の頭の中を憂鬱にしていた。
 子供だから殺せなかったというわけではない。離婚した夫婦の婦人の恨みが自らの子供に向かい、その婦人から依頼を受けその当時六歳の子供を殺したこともある。そんな彼でも、何故だかこの少女は殺す事ができなかった。理由はわからない。少女の持つ全てを引き込むような眼差しのせいか、どこからとなく醸し出す不思議な魅力のせいか、昨日彼女が発した言葉のせいなのか、とにかくどんな理由であれ、男は昨日、少女の額に弾丸を撃ち込むことはできなかったのだ。
 昨日は仕事を二件同日にこなす予定になっていたため、部屋に少女を連れ帰ると、逃げられぬよう縄で縛りつけ、そのまま二件目の仕事へ移った。仕事を終え帰宅したのが十一時頃だったろうか。その頃既に少女は眠っていたため、結局この少女が何者なのか、何故あの場にいたのかなどは今だにわからないままだった。
「……お腹すいた」
 彼の憂鬱な心境などお構いなしに、誰に向けて言うでもなく、彼の目の前に座った少女がぼそっと呟いた。考えてみれば、昨日連れ帰ってから丸一日、少女は何も口にしていない。少女のその発言は状況にそぐわなくとも、ある種的確な主張である。
 サジマは小さく舌打ちすると、冷蔵庫から卵とブロックベーコンを取り出し、フライパンを火にかけた。
その間にブロックベーコンに包丁を入れ、二枚切り落とすと、ブロックベーコンを冷蔵庫にしまい、同時に冷蔵庫の上にあるトースターに食パンを入れる。トースターがチンと音を立てる前に、フライパンの上にはベーコンエッグが出来上がっていた。それを皿に移すと、トースターが鳴り、バターを塗って同じ皿に盛り付ける。凄く上手という出来栄えではないが、見事な手際で、ものの五分で食事が出来上がった。皿を少し乱暴に少女の前に置くと、その暖かく食欲をそそる香りを伴った蒸気が少女の顔を包み込む。
 今にもよだれをたらしそうな少女の表情を見たサジマははっと気が付き、少女の後ろ側に周り、縛ってある縄の結び目に手をかける。
「逃げようだなんて変なコト考えんじゃねーぞ」
 少女はこくりと頷くと、ふいに上腕と腹に巻きついていた痛みが緩和したのを少女は感じた。
 少女の髪はすらりとその小さな背中まで伸び、目鼻立ちもすっきりしていて、年齢とは不相応なほど大人びていたことに、サジマはこの時気が付いた。
 サジマが足首に巻かれた縄も解き終えた時、少女は少々下品に食事中であった。
「箸……いるか?」
「……いい」
 そう言うと、少女は手で食事を続けた。サジマは、少女が逃げる仕草を見せないことを確認すると、さっきまで寝ていた布団にどすっとあぐらをかき、テーブルの上の小さなノートを開き、眺めた。
 彼は死神。人の命を簡単に奪い去る。しかし死神は彼だけに与えられた呼称ではない。言うまでもなく依頼人も死神であるのだ。人が人を恨み、憎み、殺したいと願う。そんな殺意を金に換え、殺人代行を務めるのが彼の職業。
殺すことが悪いのか、あるいは殺したいと願うことが悪いのか、どちらにせよ、この二人の死神によって今までにいくつもの命が奪われてきたのであった。そんな過去の死神達と、奪ってきた命の数を忘れることがないように、彼は手に持ったその小さなノートに奪った命の名前、依頼人の名前を書き残していた。
 ところで、サジマがこの道に入ったのも、親が殺された恨みだとか、人を殺すことが好きだとか、そんなドラマのような理由ではない。彼が「菅川組」のチンピラだったころ、その延長で、殺人計画案を考えそれを上層部の役員に提出したことがあった。そのときのそれ以来、サジマの思案する計画案の優秀さが買われ、その頃から他勢力の暗殺を行うようになった。今でも菅川組にサジマの名前は残っており、「菅川組のヤクザ」という看板はしょっているものの、その関係は薄く、今では一般の顧客もいる。菅川組にしても、暗殺者との関係は縁切りが容易な、その程度のつながりが理想であった。
 しばらくノートを眺めたあと、手に持ったノートをバサッとテーブルに放り、ふと少女に目をやると、同じく少女も物欲しそうな目でこちらを見ていた。
「……おかわり」
 今度ははっきりと、目の前の男に向かって言った。
 ふいに、男の視界に、少女の黄身とパン屑にまみれた指先が目に入った。それが畳やら白いワンピースやらに鮮やかな軌跡を残している。
「おい、お前!」
 少し慌てた様子でサジマは腰を上げ、少女の元に近づくと、傍に落ちていた雑巾でそれらを乱暴に擦った。
「おかわ――」
「うるせぇ!」
 服を雑巾で擦られ体が揺すられたまま呟いた少女の声をかき消すように男の怒号が部屋に響いた。その怒鳴り声が部屋に流れる時間をピシャリとと止めると、そのまま数秒、お互いの目を見つめ合った。少し経って、頭に昇った血液がサーとひいた時、サジマは自分の一声で余りに部屋が静かになってしまったことや、少女の強い視線に居心地が悪くなり、少し動揺した様子で目線を逸らし、口を開いた。
「……お前、名前は?」
「……かわの……ひとみ」
 ぎこちなく、すぐに消えてしまいそうな会話が続く。
「昨日は何であそこにいた?」
「……お父さんとはぐれて、ひとりでまいごになってたの」
「……俺は昨日あそこで何をしていた?」
「……人を……ころしてた」
 「殺す」という、少女とはあまりに不釣合いな言葉を聞き、血圧がぐっと上がるのを感じた。
 ふと、少女の周りにばら撒かれたロープがサジマの目に留まった。
 やっぱり殺そうか。
 そんな言葉がサジマの頭の中を反芻した。目の前にあるロープを手に取り、少女のか細い首に巻きつけ、少し力を加えるだけで窒息、あるいは首の骨が折れてしまうだろう。そうしてその後少女を車に乗せ、あとは組に金を渡し、遺体を引き渡せば上手く処理してくれる。
 それがいい。そうしよう。
 そうでもしなければ、アシがついてまたここを出なければならなくなる。仕事もやり辛くなる。そうなれば収入が無くなる。金が無くなる。今からシャバの仕事には就けない。もう彼にはこの道しかないのだ。
 彼は少女に気づかれぬようにそっとロープを拾い自分の背中に隠すと、息を大きく、静かに吸い込んだ。そして最後に一言、男はこう尋ねることに決めた。
「何故、逃げようとしない?」
 すると少女は顔を上げ、サジマの目線より少し上を見ながらこう答えた。
「あなたは……わるい人なの?」
 少女の意外な返答に、サジマは目を丸くした。そしてもう一言だけ続けることにした。
「俺は人殺しなんだぞ?」
「人をころす人は、みんなわるい人なの?」
 サジマはまた言葉に詰まり、こう続けた。
「お前には俺が悪人に見えないか?」
「うん。わるい人はごはんなんて作ってくれないもの」
 サジマは少女から目を逸らし、顔を少し伏せた。


「あなたはやさしい人。私好きよ。あなたのこと」


 視線を逸らしたままの男の姿を、今度ははっきりと見て少女は言った。
 サジマのロープを握る手が緩む。
 自分が誘拐した少女の口から出た言葉とは思えない言葉に、男は絶句した。目の前の少女が発した言葉の意味を理解するのに数秒では足りなかった。人との関わりがほとんど無い彼が、他人に好きなどと言われたのはいつ以来だろう。それが随分久しぶりに思え、その言葉の意味を理解した時、その言葉はまた大層男の心を揺さぶった。
 気が付くと男の目から大粒の涙が流れていた。
 何故泣いているのだろう。悔しいような、悲しいような、嬉しいような混沌とした感情を伴い、どこからとなくこみ上げてくる。雨のように零れ続ける涙に、男は戸惑いながらも、その雫を止めることができなかった。
「……泣いてるの?」
途切れそうなその細い声に、また涙がこみ上げた。そうか、この子は優しく純粋なのだ。少女は、男が随分昔に忘れたものを全て持っていた。そんな忘れたはずの自分自身を殺すことまではできなかった。だから少女は今この部屋にいるのだ。男の涙は止めどなく流れ続け、その嗚咽は惨めに、あるいは快意に部屋中にこだました。
 そんなサジマの姿を、少女は冷たく、優しく見つめていた。
2011/03/12(Sat)18:10:30 公開 / Ryo
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■作者からのメッセージ
こんにちは。
初めての投稿です。
短編として書いてみようと思っています。
様々な不備・不足があると思いますが、ご感想など頂けたらとても嬉しいです。
では、ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
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