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『過去より未来―いい年でありますように―』 作者:コーヒーCUP / 恋愛小説 未分類
全角9996.5文字
容量19993 bytes
原稿用紙約29.25枚
△Side Scientist

 待ち合わせの時間のちょうど五分前に着いてしまった。この寒空の下、五分ほど彼女を待たなければいけない。別に嘆くほどの苦ではないが、あまり寒さを得意としない俺にとっては人一倍辛い。
 待ち合わせ場所の喫茶店の前。新年に入って二日目の今日。待ち行く人々には着物姿の女性も珍しくは無い。つい一週間前までは赤い三角帽子と白いひげをたくわえた少しメタボリックなお爺さんが席巻していた街が、その跡形を残していない。
 お正月は寒くなりますと、もう去年になってしまった先月の三十日の天気予報で言っていたのを思い出す。寒くないお正月なんてあるのかと、未だに正月を十六回しか迎えていないのにそう思ってしまった。
 毎年、この時期は寒いので外には出ない。初詣くらいは行くが、学校がないこの期間だけは俺は暖房の効いた家の部屋でまるで猫のごとく丸くなっている。しかし
今年はそうはいかなくなった。
『あけましておめでとうございます。明日、初詣に行きましょう』
 そんなメールが昨日届いた。もちろん最初は断るという返信をしたのだが、同じ人物から同様のメールが次は二件入って、それにまた断るという返信をしたら、今度は四件届いた。最後は意地の張り合いになったが、三十六件のメールが届いた段階で俺が折れた。
 折角そこまで誘ってくれていのだから、もう行くしかないだろう。
 ポケットに入れていた携帯が振るえ出したので、俺を誘い出した彼女からのメールでも届いたかと思ったが予想に反してメールではなく電話で、しかも相手は彼女ではなく神崎だった。
 神崎というのは高校の同級生で、去年の四月にたまたま入学式で話をしてそれをきっかけにずいぶんと親しくなった。高校では彼と共に行動することが多い。
「もしもし、斉藤だ」
「おいおいおいおい、新年の挨拶はあけましておめでとうだろう。何がもしもしだよ。何が斉藤だよ。言われなくても知ってるよ。お前にかけてるんだから」
 今すぐにでも通話をやめて、着信拒否にしてやろうかと思ってしまうほど腹が立つ。
「ああそうだな、あけましておめでとう」
 腹は立つがやつが言ってることには一理あるので新年の挨拶をする。メールでは済ましたのだが、やはりこういうのは口ですべきことなんだろう。
「ああ、こちらこそよろしく。朝から悪いな。ただ那美にお前と話とけって命令されてね」
 那美というのはこの神崎の幼馴染であり、恋人みたいなものだ。本人たちは未だに恋人じゃないと否定しているが、はたから見ればそれ以外何者でもない。だから俺を含めた同級生たちは本人たちの前では決して言わないが、影では、また夫婦喧嘩をやってるなどとからかっている。
 苗字が西条なので俺は常に西条と呼んでいる。
「なんでそんな指令が新年早々出るんだよ」
「那美は今、スイサイド・レディとお話中でな。彼女と初詣行くんだろ? どうも電話が長くなってスイサイド・レディの到着が遅れそうだから、俺との会話で気を紛らわせろってさ」
 ちなみにスイサイド・レディとは神崎が彼女、月宮飛鳥につけたあだ名である。そんな不思議で言いにくいあだ名で呼んでいるのは彼だけだが、彼は気に入ってるようだ。彼女も最初は抵抗を示していたが、もうそう呼ばれたら普通には反応するようになった。
「西条が話してるのか。確かに長くなりそうだな」
「まあ女子同士の会話だ。邪魔するには死を意味するぜ」
 神崎と西条は今、普段はこの近くにそれぞれアパートを借りて一人暮らしをしているのだが冬休みに入ってからは年末年始は地元で過ごすと言って、ここから離れた地元に戻っている。俺たちも誘われて二週間ほど前まではそこで過ごしていた。
「そういえば初詣デート、何か計画は立ててるのか」
「デートなんかじゃない。ただの初詣だ」
 極めて重要なことなのでかなり強く否定しておくが、彼の反応は、はいはい分かったよと完全に聞き流すというものだった。
「どうせお年玉でいくらか余裕はあるだろ。なんか奢ってやれよ。スイサイド・レディがそういう下心を持ってるとは思えないが、だったらだからこそ、奢ってやれ。きっと喜ぶ」
 確かに懐にはいつもの数倍の余裕がある。欲しいゲームソフトを買う予定ではいるが、それを買っても十分あまる。彼女には去年の九月に会って、まだ三ヶ月という短い付き合いだが色々と感謝することがある。そういう礼を込めて、何か旨いものでも食べさせてやるか。
「俺も昨日たっぷり那美に絞り取られた。遠慮とか加減とか知らんのか、あいつは」
「新年早々仲のよろしいことだな」
 電話口で神崎の西条に対する愚痴を聞きながら、彼女に何を奢ってやるべきかを考えていた。

▽Side Historian

「いいツーちゃん。折角の初詣デートなんだから絶対に何か奢ってもらうのよ。これって乙女の特権だから」
 電話口でさっきからしつこいほどに西条さんが同じ言葉を口にしてます。そしてそれに対して私も同じ言葉を返すのです。
「ですからぁ、私はそういうことをしてもらおうとは思ってません」
「もぉ、何でツーちゃんはそんなにいい子なの。たまには甘えればいいじゃない」
 ツーちゃんとは私のことで、西条さんが去年の九月に初対面だった私に即席でつけたあだ名です。高校で一番知り合いの多い西条さんのつけたあだ名だけはあります。前までは普通に苗字で呼んでいた友達やクラスメイトも最近では私のことをツーちゃんと呼ぶようになりました。
「私はただ斉藤さんと初詣に行くだけですよ」
「あのね、ツーちゃん、高校一年生の男女が一緒に初詣に行くのよ。それってデートだから」
 電話で話しているにも関わらず私は思わず首を左右に大きく振ります。歩きながら電話をしてたものですから、近くの人たちが何事かとこちらを見てきます。
「デートじゃありません、初詣です」
 実を言うとこの会話も随分と前からループしています。終わるのでしょうか。
「じゃあ初詣でもいいわ。とにかく何か奢ってもらってね」
 朝、いざ家を出ようかと思っていたときに西条さんから電話がかかってきて、まずは新年の挨拶をして、その後はいつものように雑談をしてました。その時にこれから斉藤さんと初詣に行くと言ったら、西条さんが突然興奮しだして……。
 電話の向こうからの西条さんの声は明らかにいつもより大きく、テンションのほうも非常に高いご様子です。こうなってしまった西条さんを抑えるすべはないと以前神崎さんが仰っていたのを思い出しました。
「……はい、わかりました。じゃあお願いだけでもしてみますね」
 昨日は私が押し通したのに、今日は私が折れました。ですがそれでも西条さんは静かにはしません。
「本当ね。あとで奢ってもらったか、ちゃんと確認するよ。斉藤君だって問い詰めるよ」
 これは多分冗談ではないでしょうね。西条さんはやると言ったらやる人ですし、声が本気です。
「ええ、構いません」
 けど助かりました。斉藤さんと口裏を合わせれば何ともないでしょう。こういってはなんですが、西条さんと神崎さんは今、地元に戻られていますから、正確な確認の仕様がありません。だから脅されてもあまり怖くないのです。
「うん、ならいいわ。それより聞いてよ。私さ、昨日おみくじやったんだけど凶を引いちゃってね……」
 凶! それは驚きです。私は今まで一度も引き当てたことがありません。どんな悪くても小吉が限界です。実を言うと凶なんておみくじは迷信じゃないかと思っていました。
「それはそれは、新年から気分が悪いですね。大丈夫ですか」
「大丈夫じゃないわよ。龍也なんて私のおみくじ見て、日ごろの行いが悪いからだなんて笑ってくるし、零夜も否定してくれなかったし……」
 龍也というのは神崎さんのことで、零夜くんというのは西条さんの弟さんです。西条さんはこれ以上ないというほど彼を深く愛しています。どこか、甘えているようにも見えましたけど。しかし大好きなお二人からそんな仕打ちをされてはひどく落ち込まれたでしょう。
「むかついたから二人とも、無茶苦茶高いカバンを買わせてやったわ」
 流石です。心配するんじゃなかったです。
 そろそろ待ち合わせの場所です。西条さんとお話しするのも楽しいですから、電話をきるのは寂しいのですが、これ以上あの寒がりさんに無茶を強いるわけにもいきません。下手をすると新年早々怒らせてしまうかもしれませんし、風邪を引いてしまうかもしれません。
「あっじゃあツーちゃん、龍也が早く話し終われってうるさいからまたね」
 そういうと電話がきれてしまいました。流石は神崎さんです。西条さんの扱いには慣れています。仲睦まじいことで、非常に羨ましいです。
 待ち合わせ場所に駆け足で行くと、肩を震わしながら手に息を吹きかけている斉藤さんがいました。ああ、これはもう限界の一歩手前ですね。後三分ここで待たせていたら、彼はきっと凍ってしまうでしょう。
「遅れてすいません。ちょっと話し込んじゃいまして」
 私がそう謝りながら頭を下げると、しばらく返答がありませんでした。ああ、やっぱり怒っています。仕方ありませんね。自分からしつこく誘っておいて長い間待たせてしまったのですから。
「死にたがり」
 斉藤さんは私のことをいつもこう呼びます。私が自殺をしようとしたところを止めに入って助けたのが彼でした。そういう出会いの仕方をしたものですから斉藤さんから死にたがり、神埼さんからはスイサイド・レディと、とても不吉な名前を付けられてしまいました。
 呼ばれたので頭を上げると意外にも彼は怒った表情をしていませんでした。
「死にたがり、すいませんじゃないないだろ。新年の挨拶はあけましておめでとうだろう」
 意外な言葉にしばらくの間、ぽかんと口を開けたままになってしまいましたが、彼が怒っていないということを察し安心したら、急に彼の言葉がおかしく感じました。
「そうですね。あけましておめでとうございます」
「ああ、あけましておめでとう」
 やはりこの挨拶がないと、新年は始まりません。

△Side Scientist

 早速喫茶店でお茶でも奢ってやろうかと思っていたが、死にたがりの方が早く行きましょうと急かすのでこの計画は中止となった。まあ、道中でも帰り道でもチャンスはいくらでもあるだろう。
 俺たちが目指したのはこの近くの少し大き目の神社だった。新年二日目ということである程度の人はいるものの、そこまで多くはない。きっと元旦の昨日は恐ろしいほどの人がごったがえしていたのだろう。そういうのが嫌だから元旦はいつも家にいるのだ。
「死にたがり、賽銭はいくらにする?」
 二人並んで賽銭箱の立ったとき、あることが気になったので死にたがりに質問してみた。
「えっ、お賽銭ですか。毎年五円です。ほらご縁がある様にとよく言うじゃないですか」
 彼女はそういうと持っていた財布の中から綺麗な五円玉を出して微笑んだ。
「なるほどな。いや俺もそうなんだけど、これはどうなんだろうって毎年思うんだ」
 そういうと俺は賽銭箱の中を少しのぞいて見た。中身は見えないが、一番多く入ってる硬貨は五円玉ではないだろうか。千か五千か万かは知らないが、きっと紙幣も入ってるとは思う。五百円玉も百円玉も五十円玉も十円玉も、当然一円玉も入ってることだろう。
 けどこの中に一番多くあるのは五円玉に違いない。ご縁と五円。誰が最初に出だしたのだろう。
「俺は神様なんて信じてないんだ」
 神社の中、それも賽銭箱の真ん前で言うような言葉ではないと思うが別に気にはしない。神なんか信じない。故に天罰なんてものも信じてない。
 死にたがりは俺のそういう性格をよく理解してくれているらしく、くすりと笑って指摘した。
「非科学的だから、信じないんでしょう」
 小さく頷いた。俺は高校でも入学早々、廃部だった科学部というのを復活させるほどこういう分野が好きであり、そのためこういう神だのなんだのというのは早い話が、馬鹿馬鹿しいと思ってしまう。
「釣り合わないと思わないか。俺たちは初詣で一年間の無病息災や幸せを願う。それの代償として払うのが五円だけだ。安すぎる」
「五円を馬鹿にするものは五円に泣きますよ。祖母がよく言ってます」
「そりゃ一円だろ」
「一円がそうなら五円はその五倍そうなんです」
 何故だか死にたがりの説明に妙に納得してしまった。いやいや、俺が言いたかったことはそういうことではない。
「一年分の家族の健康が、日常の安寧が、たった五円で買えるか」
「買うって、私たちはお願いしてるんですよ。どうか幸せにって」
「俺がもし神様とやらなら、五円だけじゃ何もしないぞ」
「あなたが神様じゃなくてよかったです。……けど言われてみればそうかもしれませんね。年収五円じゃ、この不景気辛いでしょう」
 しかしそう言いながら死にたがりは五円を賽銭箱に入れて、お祈りしだした。両手を合わせて、首を少し下げて目を瞑ってる姿は……まあ、あれだ。うん。
 続けて俺も賽銭を入れる。もちろん五円。散々文句を言いながらも毎年五円だ。これ以上はもったいないと思ってしまう。ならお祈りなんかしなきゃいいのにとも思うが、何となくしている。これで本当に幸せになれるとは思っていない。
 お祈りが終わると二人でおみくじを引いた。
「そういえば西条さんは昨日、凶を引いてしまったらしいですよ」
 おみくじを引きながら死にたがりが今年最初の少し笑える情報をくれた。当の本人からすれば決して愉快じゃないだろうが、笑ってしまう。きっと神崎も笑ったに違いない。
「もぉ、笑ってあげないでください。西条さんが可愛そうじゃないですか」
 流石は仲良しガールズ。ちゃんと庇ってやるのか。
「悪い悪い。しかし凶なんて本当に入ってるんだな。あんなの迷信だと思ってたよ」
 俺がそう笑いながら素直な告白すると、何故か分からないが死にたがりが、えっと驚きの声を漏らした。
「うん? どうかしたか」
「い、いえ何でもありません」
 不思議そうに首を傾げる俺の横で彼女はおみくじを開いた。そしてその瞬間、あっ、やりましたと会心の笑みを浮かべながらおみくじを見せてきた。そこには大きく『大吉』と書かれている。流石の仲良しガールズでも、同じものは引かないか。それどころか正反対のものを引き当てた。
「いいものを引いたな。良かったじゃないか」
「はい。願事、いずれ叶う。学業、安泰。探物、すぐ見つかる。いいことばかり書いてあります。えぇと恋愛は……」
 そこで急にはしゃいでいた彼女の声が途切れた。何故か急に顔を赤くしている。
「どうかしたか」
 そう訊くと何故か知らないがものすごい勢いで首を左右に振り、さっきのおみくじを自分の背中に回して隠した。
「な、なんでもありません。それより斉藤さんはどうでしたか」
 そういえばまだ自分のおみくじを開いていなかった。さてどうだろうかと思いながら、四つ折にされていたおみくじを開く。
「おお、これは奇遇だな」
 俺のおみくじも死にたがりと同様に大吉だった。それを見た死にたがりが、お揃いですねと笑うので何だか照れくさかったがそうだなと同意する。
「ところで斉藤さん、あれだけ文句を言っていたのに、今日は一体何をお祈りしたんですか」
 彼女が唐突に聞いてきたが、俺はすぐに答えられた。
「去年よりもいい年でありますようにって」
 実を言うと毎年同じことを祈っている。もう小学生のころからだと思う。昨日より今日という言葉をよく耳にする。柄でもないと思うが、俺はその言葉がとても好きなのだ。過去より未来がいい方がいいに決まっている。それを年単位で祈っているのだ。
「そうですか。なんか意外とまともですね」
「意外で悪かったな。そういうあんたはどうなんだ」
 俺が訊き返しても、何故か彼女は答えない。立てた人差し指を自らの唇の前に持ってくると、悪戯っぽく微笑む。
「ひ、み、つ、です」

▽Side Historian

 神社を出たところで、斉藤さんがおいしい善哉が食べれる店を知ってるので、一緒に行こうと誘って下さいました。彼は非常に寒がりですから、用が終わればすぐに帰ると言い出すと思っていましたので驚きました。
 彼が知っていたお店は『栗餡』というお菓子屋さんで、大きなお店で店の奥にテーブルがあり、そこでお菓子とお茶が味わえるようになっていました。
 善哉と温かい緑茶を注文して、二人で食べていたとき、私は先ほどの話を思い出しました。
「さっきの五円のお話ですけどね」
 私がそう切り出すと善哉を飲んでいた斉藤さんが器から顔を上げました。
「じゃあそもそも幸せとはいくら払えば、ちゃんとした代償ということになるんでしょうか」
「面倒な議題だな。言い出したのは俺だけど……。いくらと言われると難しいな」
 私は緑茶を一口だけ飲みます。おいしくて温まります。
「そうですよね。結局、幸せなんていくら払っても同じです。五円だろうと五億円だろうと、きっと変わりません」
「ふぅん。じゃあどうして俺たちは毎年毎年ご縁を祈り、五円を投げるんだろうな」
 彼の言葉、もちろん意味は問題なく通じますが聞いていて少し面白いです。文字にしたら全く違うのですが、口頭では「ごえん」としか聞こえませんから。
「もしかしたら私たちは、ご縁なんて祈ってないのかもしれませんよ」
 私がそう言うと彼はにんまりと笑い、それは面白い仮説だと言ってくれました。
「じゃあ、俺たちは毎年何をしてるんだ」
「決まってます……誰かと初詣です。こうやって年の初めに誰かと過ごしてるんですよ。ただそれだけです。けど思うんです。それこそが私たちの願ってる、幸せってものでしょう」
 私の意見は非常に馬鹿馬鹿しく、辻褄もなにもありません。ただの思い付きです。ただそんな説を、斉藤さんはどうやらお気に召したようでくすくすと笑います。
「つまり俺たちはあれか。誰かと年の初めに出かける口実が欲しいだけ。神様はただの口実で、こうやって初詣でができてる時点でもう幸せ。こういう出かける機会をくれたお礼に五円を捧げる」
「はい、そんな感じです。とは言いましても、ただの思いつきですけど」
「思いつきにしちゃ面白いじゃないか。俺たちはもう祈る必要がないくらい幸せなんだぞ。すごい考え方だ」
 褒められているのか馬鹿にされているのか判断しにくい評価の仕方ですね。まあ笑ってくれていますから、気に入ったことには間違いはないんでしょうけど。
 私たちは、毎年こうやって誰かと年の初めを過ごして、その年の健康や安寧を祈ります。ですが本当は祈ってなどいなくて、ただその隣にいる人と一緒にいたいだけ。その人と一緒にスタートしたいだけ。
 もちろん、本気で祈ってる人はいるでしょう。しかし多くの人は、案外そうなのかもしれません。もちろん私のただの思いつきで、論理的でも科学的でもありません。ただ思うのです。私はそれでも構いませんと。
 こうやって目の前で笑ってくれる人がいます。いい年明けです。おみくじなど関係なく、大吉です。
「そういえば斉藤さん、去年よりいい年でありますように毎年祈ってると言ってましたが、去年は一昨年よりいい年だったんですか」
「ああ、間違いなくいい年だったぞ」
「即答ですね。それはどうしてですか」
 私の重ね重ねの質問に斉藤さんは少し困惑したようです。私の方を何故かチラチラと見てきます。
「いやほら、高校に入学して色んな奴と会えたからな。神崎とか西条とか、あとぉ……」
 何故か最後まで言わずに私の方をまた見ます。その行動の意味はよく分かりませんが、神崎さんや西条さんに会えたことがいい年になった要因というのは良く分かります。私が出会ったのは九月と少し遅いですがそれでも去年がいい年であった大きな要因です。
「あと香織ちゃんと仲直りできたのが大きい。あの問題を解決できたのは本当に良かった」
 香織ちゃんというのは私たちより一つ下の、今現在人生初の受験に奮闘する燃える中学三年生の女の子で斉藤さんのお知り合いです。実は二人は去年の十月までずっとあることで揉めていて、その問題が去年解決しました。お互いに辛い問題だっただけに解決は本当にうれしかったんでしょう。私も二人が仲直りする場面に立ち会いましたが、思わず涙が出るところでした。
「香織ちゃんは年末年始も勉強で忙しいって大晦日にメールで嘆いてました。……あっ、お守りです! そういえば香織ちゃんにお守りを買ってあげようと思っていたのに、忘れていました。斉藤さん、戻りましょう」
 とんでもないことを忘れていました。ああ、大変です。こんなこと香織ちゃんが知ったらきっとまた叱られてしまいます。相変わらずどこか抜けているなどと言われるに違いありません。
 席を立ってレジに向かおうとしたら斉藤さんが突然私の肩を掴みました。驚いて振り向くと、斉藤さんが首を横に振りました。
「ここは俺が払うよ」
「えっ、でも悪いですよ……」
「気にするな。余裕はあるんだよ。ほら、先に外出といてくれ」
 私はそのまま外に出ました。西条さんが何か奢ってもらいなさいと言っていましたが、まさか本当にそうなってしまうとは……非常に申し訳ないです。もちろん、悪い気はしません。しかしお互い学生、生活は楽ではないはずなんです。
 嬉しいですけど、本当に申し訳ない。きっと斉藤さんはまた気にするなと言って下さるでしょうけど、そうはいきません。
 しばらくすると斉藤さんが少し笑顔で出てきました。その手には黄色いカードがあります。
「ここはポイントカードが使えるんだ。あんたの分のポイントももらったぞ」
「それは構いませんけど……」
「なんだ、気にしてるのか。なら一つだけ願いを聞いてくれ」
 そういうと彼は唇の端を吊り上げます。
「あんた、神社で何を願ったんだ。それを教えてくれよ」
 えっと声が漏れてしまいます。何かもっととんでもないことを要求されると思っていましたから、拍子抜けです。ああ、けど、この願いは……。
「いやですよ。プライバシーです」
 実を言うと非常に照れくさいのです。特に珍しい願い事ではありません。私があそこで祈ったことは――。
『どうか、今年もいい年でありますようにお願いします。私の周りの、家族や友達が幸せで健康でありますように。そしてできれば今私の隣にいる人が、少しでも神様を信じられるような、そんな年でありますように』
 もちろん、私の隣にいる人とはこの斉藤さんで、それを言うのが照れくさいのです。
「ケチだな。減るもんじゃないだろう。まあ、いい。じゃあ神社に戻ろうぜ」
 斉藤さんが神社のほうに向かって歩き出すので、私もその後を追います。
 ふと空を見上げると、冬の澄んだ青空が白い雲を含みながらどこまでも広がっています。今年もこんな空が、あと三六〇日以上続くのかと思うと、気が遠くなります。いい年にはしたいです。けど、決していいことばかりではないでしょう。
 この空の向こう側には笑い転げてしまうような楽しい日や、忘れられないような素敵な日があるんでしょう。それと同時に泣かずにはいられないような辛い日や、忘れたくなるようなひどい日もあるに違いありません。
 それを思うと気が重いです。不安です。私は今年をいい年にできるでしょうか。
 けれどここで怖気づいていても仕方ありません。いい年にするんです。辛いことも耐えていくんです。一人じゃありませんよ、私は。友達という人と人の繋がり、ご縁というものありますからね。
 それに……。横をちらりと、気づかれないように見ます。斉藤さんができるだけ私に歩調を合わせて進んでくれています。咄嗟にさっきのおみくじの一文を思い出してしまいました。

『恋愛……すぐ隣にいる』

「どうかしたか」
 斉藤さんが立ち止まり訊いて来ますが、私はなんでもありませんと首を振ります。
「おや、まだあの挨拶がすんでませんでしたね」
 私はある大切な言葉を言うのを忘れていました。それは斉藤さんも同様で、私の一言でそれが何なのかすぐに気づいてくれました。少し恥ずかしいですが、お互いに向き合って、あの言葉を交わします。
「今年もよろしく」
「今年もよろしくおねがいします」
 道中で二人立ち止まって、小さく頭を下げあってる高校生の男女とはどのように見えるのでしょうか。少し変わってるでしょう。けどそれでもいいです。この言葉が、大切なんです。
 私は止まっている斉藤さんの腕を引っ張ります。
「ほら、行きましょう」
 一緒に行きましょう。残り三六〇日以上。
2010/01/01(Fri)00:48:18 公開 / コーヒーCUP
■この作品の著作権はコーヒーCUPさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 新年明けましておめでとうございます。どうぞ今年もよろしくお願いします。
 というわけけ、なぜか元旦に一月二日の話を投稿しました。季節ものはたしか随分と前にクリスマスをネタにしたものを書いた記憶があるんです。多分それ以来。実を言うと去年のお正月に投稿しようとしていたのですが、間に合わず今年に繰り越された作品です。
 登場人物たちは以前自分がここで連載していた恋愛小説のキャラクターたちです。その作品を読んでなくても楽しめるようにしたつもりですが、どうだったでしょうか。
 甘い恋愛小説にしました。新年早々重苦しいのはやだなとおもったので。けどなれないことはするもんじゃありませんね。
 
 何はともあれ、今年も登竜門にとっていい年でありますように。
この作品に対する感想 - 昇順
あけましておめでとうございます、白たんぽぽです。今年も宜しくお願いいたします。
元旦更新の、正月の物語という時期がぴったしの話ですね。やっぱり、物語を書くときは、その時期にあった話を書いてみたいものですが、僕だと筆が遅いので、なかなかそういったことができないでいます。僕の話も、本来なら夏にかけて投稿するのがベストなのでしょうが、完成が夏になるのならば、まだ時期にあった話に出来るのかな、とか自分で納得しようとか考えてます(夏には終わるとか書いてますが、それさえ微妙な自分の力量に絶望します)。
凶がおみくじで出た、という所のくだりが好きです。僕もつい最近までは、凶なんて都市伝説だと思っていたのですが、この間厳島神社で凶を引いてしまったときは、あぁ、伝説は真実だったんだ、と実感し、すぐさま木に結びつけ厄除けを行いました(笑)。
お賽銭のやりとりも面白かったです。科学者として、神様をがんとして信じない様は潔いとは思うのですが、個人的には、科学者だからこそ、そういったものに畏敬の念を抱くべきではないのかな、なんて思っていたりします。有名な糸川博士という方の本の中に、中国のおみくじでは大吉が出るまで引き続けるおみくじがある、というエピソードがあります。これは、大吉が出るまで引くという努力を行うことにより、自分は運が良いと思わせることができるというものなのですが、このように自己暗示をかけることで、自分を良い方向に導いていくことが出来るから、結果運が良い一年を送れるようになる、というものでした。こんな感じに、巡り巡ったら科学的(?)だということがあるので、そんな簡単に御利益を放りだしたら、もったいないよ、信じる者は救われるんだよ、と言ってみたいな、とか思ったりしました(僕も科学者となる立場の者なのですが、かなり迷信は信じていたりします。いけないことかもしれませんが・・・)。
あ、でも、賽銭をいれることよりも、恋人とともに初詣に行くことこそ、本来の目的なんだ、というのも素敵な考えではありますが、それだと独り身の自分はつらいなー、なんて思ってしまうばかりなので、個人的理由から認められません(笑)。
おみくじの落ちも素敵ですし、終わり方も素敵ですね。暗に来年も一緒に行きましょう、と言っているような感じがして好きです。それに、先ほどの賽銭話にもつながってますし、来年、再来年も、とつながっていきますからね。ここまで読むと、神を信じない男と、神を信じる女のカップルというキャラクターの設定が生きているなあ、としみじみ思いました。やっぱりキャラ設定に、メリハリというものが大切なのですね、勉強になります。
それでは、新参者の自分ではありますが、僕からも今年が登竜門にとって良い年となることを願わせていただきますね。そして、登竜門で物語を書いたり、読んだりする皆さんにとっても、良い年となることを願っています。
2010/01/01(Fri)01:53:430点白たんぽぽ
こんにちは! 羽堕です♪
 明けましておめでとうございます! これで神崎に注意されないかな。でもあのメールの誘い方は怖いなって思いながらも、ちょっと笑えて自分じゃなくて良かったと思いました。男に奢らせる事に燃えているような西条って面白いなって、怒りが物で解決するのは有り難い様な財布に厳しい感じですね。それと月宮の平坦そうな声音が聞こえてきそうでした。
 後半は全体的に甘酸っぱい感じで、月宮もなかなか可愛かったなと思います。今年は去年よりも、良い年になったらいいなと私も思います。今年もよろしくお願いします。
であ連載の続き&次回作を楽しみにしています♪
2010/01/03(Sun)14:54:480点羽堕
 こんにちは。神話オタで神社大好きっ子なくせに初詣というイベントには行かず、年の半ばに勝手にどこかてきとうな神社でひっそり初詣をするプリウスです。
 20代の半ばをとうに過ぎた奴がこんなこと言うのは非常にあれなのですが、未だに誰かが誰かを好きになるメカニズムが分かりません。漫画とか小説で恋愛シーンを見て、そんな簡単に人を好きになれるものなのかとよく驚きます。そういう話を女の子にするとよく「考えすぎだ」と怒られてしまいます。ほんと、ごもっともです。
 この小説では自殺志願者が立ち直った後のことが描かれていて、きっとそういうなれそめが恋のきっかけだったのかなと思います。自分を繋ぎとめてくれるということはきっと、誰かを好きになる十分条件なんだろうな。ちょっと病的だけれど態度が誠実なところは、ライトノベルの『電波的な彼女』を思い出しました。
 それでは今年もよろしくお願いします。
2010/01/04(Mon)02:04:050点プリウス
作品を読ませていただきました。正月らしいお話でオチも綺麗だったな。大きな事件があるワケじゃないのに文章の流れで一気に読めて良かったです。登場人物たちの心の中で起こる小さな事件が丁寧に書かれていて良かったと思います。これスピンオフ作品ですよね。どうも一度出来上がったキャラに寄りかかっている印象を受けました。コーヒーCUPさんは前作を読んで無くても判るようにと書いていましたが、もう少し個々人の性格や情報を書いてあった方が親切じゃないかなぁ。では、次回作品を期待しています。
2010/01/04(Mon)07:50:190点甘木
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