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『もう二度と会えない織姫様に』 作者:湖悠 / ショート*2 未分類
全角2648文字
容量5296 bytes
原稿用紙約8.9枚
長い年月閉じ込められていた男の最期の物語。



 
 俺――九頭海 渡(くずかい わたる)は、牢から見える小さな窓から見える空を見上げた。
 空は澄み渡った茜色をしている。黄昏に染まりゆく空を見ながら、俺は世界を憎んだ。
 
 7月7日。

 今日、俺は死刑を執行される。

 

 
 :もう二度と会えない織姫様に:




 何かが壊れるのは簡単だ。例えどんなに時間を掛けて作り上げたとしても、どんなに心をこめていたとしても、どんな痛みを負って作ったとしても……作るよりも容易く物は壊れる。3年前のある日、俺は簡単に全てを壊してしまった。
 ひんやりとした、鉛色の薄暗い廊下を歩いていると、周りから冷たい声が聞こえた。
「遂に九頭海が死ぬのかぁ」
「長かったよなぁ。でも4人も殺してたらそりゃ死刑にもなるわな」
 掴みかかりたかった。お前なら、お前ならどうしていたんだ、と吠えてやりたかった。だが、俺の身はそれを許してくれない。ボロボロに傷ついた体と心が、罪の象徴である錆びた手錠が、俺を引っ張って行く"死神"達が、自由という名の解放を許してくれない。
 全てを諦めた。抗うことも、そして許されることも……。俺は死ぬ。もうすぐ、小さな縄の輪に首を入れられて……殺される。死ぬのか、俺は。死ぬ……そうか、死ぬんだな、俺は。
 
 目の前に近づいた"死"を感じた時、あの光景が浮かび上がった。
 そこは、紅に染まっていた。確か、夜だっただろう。月は満月で……ああ、鮮明に覚えている。殺した直後、母が鬼のような形相をしていたことも。殺した直後、父が深海魚のように目を見開いていたことも。全て……覚えている。祖母も、祖父も……全て俺の敵だったんだ。だから殺すしかなかった、のかもしれない。
 些細な事が始まりだった。俺が、結婚まで考えた女性、佐棟 良美(さとう よしみ)。彼女は、部落民だった。ただ、それだけだった。だが俺にとってはそんな事関係ない。その他の人にとっても、そんなことは些細な事であると、俺は考えていた。
 俺は彼女を愛していた。
 彼女も俺を愛していた。
 同居して数年が経ち、俺は良美にプロポーズをしたんだ。彼女は泣きながら頷いてくれた。
 幸せだった。
 すべてが、輝いて見えた。
 彼女の両親は既に病気で他界していたため、俺は彼女と共に自分の実家へ行くことにした。――思えばそれが間違いだった。全てが壊れる始まりだった。

 しばらく歩いた時、死神が俺に「何か持ってきてもらいたいものはあるか」と聞いた。
 そんな事を死刑囚に言うなんて聞いたことはなかったので、少し戸惑った。
 死ぬ前に拝んでおきたい物、ということか。俺が見たい物、それは……ああ、あれしか、ないのだろうな。
 かすれた声で俺は死神に頼んだ。最期の頼みだった。
 死神はその内容を聞き、少し驚いた様子で俺を見つめた。その目がだんだんと哀へと染まっていくのを感じ、俺自身、自分に同情した。
 同情――か。この世の中で俺に同情する人間はどれくらいいるのだろうか。愛する者を、ただ"部落民"という理由で否定され、結ばれる事を許されなかった俺に同情する人間は、この世でどれだけ居るのだろうか。愛する者を侮辱され、結婚を認められず、ただただ嘲笑されたが故に肉親を恨み、一家全員を怒りの許すままに刺殺した俺に同情する人間はどれほど居るのだろうか。
 それはほんの一握りなのだろうか。
 それとも、埋もれた場所に、多く存在しているのだろうか。
「約束の物だ」
 数分後、死神が持ってきた物。土にまみれた手で持ってきた、俺の頼んだ物――四つ葉のクローバー。良美とよく集めた、幸せの象徴……。
 それは、ほんの一握りに見えて、実は多く存在しているイレギュラーな存在。少数に思えて、実は多数ある存在。……この世もそうなんじゃないだろうか。周りに隠され、同じ境遇の者に出会えず、自分はただ一人だ、ただ一人の存在なんだ、と勘違いして死んでいく人間は、多く居るんじゃないだろうか。
 人種なんて関係ない、とそう思っているのに、周りの意見に押し流されて自分の意見を言えない人間は多いのではないだろうか。
 世の中の矛盾を見つけて憤りを覚えているのに、特異な存在として見られたくなくて、自分の感情を押し殺している人間は多く居るのではないだろうか。
 もし、俺の死が正しいものなのならば。
 もし、俺の罰が正しいものなのならば。
 良美が差別されたことは、果たして正しいものなのだろうか?
 昔に、そう本当に昔にあった差別なのだ。それを、祖父と祖母が拒絶し、愚かな父と母が便乗した。身分差別をわざわざ蒸し返し、彼女を否定した俺の家族は、果たして罪人ではないのだろうか?
 死刑の執行を増やした人間は、果たして人殺しではないのだろうか? 死刑執行は、許される殺人なのだろうか? もし許される殺人なのであれば、俺の起こした殺人は……いったい何だったのだろうか?
 
 クローバーを握りしめ、自分の罪を噛みしめ、世の中の矛盾に憤りを覚えながらも、ついに俺は縄の前までたどり着いてしまった。
 死んでしまう。俺の人生が、もう……終わりを告げる。
 皮肉な事に、今日は七夕の日だ。彦星と織姫が唯一会える日。長い長い時間の中で、ようやく会える日。俺は彦星ではなかったのか。彼女が織姫だったとしても……俺は会いに行けなかった。深い河を、渡る事はできなかった……。
「何か言い残すことは?」
 死神の言葉に、俺は俯いた。
 言いたい事。
 生きている今、死ぬ直前である今、言葉にして残しておきたい想い。
 そんなもの、たった一つだ。

「良美を愛しています。永遠に……愛しています。例え幾つも間違っていたとしても、それでも、良美に対する愛だけは……正しかった」
 
 心に現れては消えて行く後悔に涙を流しながら、

 その後悔の中に浮かぶ最愛の人を想いながら、





 静かに、縄に体を預けた。




 

 
 -手紙-


 渡の死刑が執行された後、収容所にある一通の手紙が届いた。それは、佐棟 良美から、九頭海 渡への手紙だった。日付は、彼が死亡した後であったので、恐らく彼の死亡を知り、書いたのであろうと推測できた。
 手紙は、まるで雨にうたれたかのようにふやけてくしゃくしゃになり、文字は酷く滲んでいてよくわからなかった。

 
 収容所の人間が手紙を裏返した時、ひらりひらりと、ゆっくり緑色のものが落ちていった。
 
 
 ――四つ葉のクローバーだった。
2009/12/06(Sun)11:45:20 公開 / 湖悠
■この作品の著作権は湖悠さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 かなり前に書き上げた物です。それを所々修正し、もう季節は過ぎ去ってしまいましたが、夏を待っていたらもう投稿する機会はないだろう、と思い、投稿しちゃいました。
 ご感想・ご批評をいただけたら幸いです。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは! 羽堕です♪
 時代背景が分からないので、何とも言えないのですが、殺す前に二人で逃げるという選択肢はなかったのだろうか? 彼女に対して、どのような仕打ちがあったかも分からないけど、少なくとも彼女は生きているのだから。家族に紹介したいと思ったと言う事は、それ以前に主人公と家族との間に何か確執が、あった訳でもなさそうだし。
 愛し合っているのに結ばれなかった二人の悲恋は、とても苦しく感じる部分ではあるのですが、家族を殺した動機がイマイチ見えなくて、少しモヤモヤとしました。
 四葉のクローバーを、とても上手く使われていて「はぁ」と溜息のでるような切なさもあったように思います。
であ連載の続き&次回作を楽しみにしています♪
2009/12/06(Sun)14:08:460点羽堕
はじめまして、天野橋立と申します。作品読ませていただきました。
主人公が恋人に逢えなくなってしまったのは、むしろ家族を殺してしまうと言う主人公の短絡的な行動が原因なので、言わば自滅のような感じです。そこを主人公があまり後悔していないように思えて、悲恋と呼ぶにはちょっと自分勝手な印象が否定できませんでした。その辺りをもう少し主人公に葛藤してもらえると、納得がいきやすいように思います。クローバーの使い方がきれいなだけに、惜しいように感じました。
2009/12/06(Sun)20:55:080点天野橋立
拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
私、思うのですが、殺すというのは至極難しいようでいて簡単過ぎる選択肢なのではないかなと思います。主人公と家族の間に何らかの確執があったのかは解りませんが、彼女を連れて二人で誰も居ないどこかと遠くへ逃げ出しても良かったんじゃないかと思います。折角彼女さんの方は天涯孤独だったようですし、主人公が何もかも投げ出して、どこか遠くまで逃げれば物語はもっと幸せな結末を迎えたのかもしれないなぁと思いました。最後の四葉のクローバーはなんだかとても温かみがあって好きです。
2009/12/06(Sun)21:19:190点水芭蕉猫
 羽堕さん>>
 主人公のヘタレさと身勝手さ。指摘されると「あわわわわ」と顔面蒼白になりそうです。オチに比重を置きすぎてしまったのかな、と反省です。

 天野橋立さん>>
 初めまして^^
 悲恋を押しだすつもりが、ただただ主人公が身勝手だというのを披露するだけの小説になってしまいました(汗) 葛藤、背景をこれからの作品で練習していきたいです。

 水芭蕉猫さん>>
 そもそも家族を殺す、という逮捕理由がいけなかったのかもしれません。家族を殺す、というのは自分の半身を殺すということと同じでありますし、それなら猫さんの言う通り、逃げてしまうという選択肢の方が普通の人なら選ぶでしょう。
 

 クローバーへ、良い形で持っていけるよう、もう一度書き直して、またいつか違う形で投稿できたらなぁ、と思います。
 皆さま、こんな作品に批評、感想を下さり本当にありがとうございました。
2009/12/06(Sun)21:39:26-1湖悠
こういう話で僕が思い起こすのは、加賀乙彦さんの『ある死刑囚との対話』です。
これは『宣告』という同作者の素地となったものですが、その中での死に際しての手紙の内容は本当に胸打たれるものがあります。
Web上でちょっと探してみたのですが見つからなかったので、手元にある中島義道さんの『哲学の教科書』から少しだけ引用してご紹介します。

夜明け。
まだ外はまっくらですが、おかあさんにもっとたくさん書いてあげたくて、起きました。よく寝たような、うつらうつらのなかに過ぎてしまったような、へんな気分です。おかあさんは? たぶん、ぼくのためにたくさん祈ってくださったことでしょう。ありがとう。もうすぐ、きょうの午前中にはいなくなってしまう。そう思って、今ごろまた泣いているの? ほんとうにごめんなさい。おかあさんの写真は笑っているのに。
きょうも、さして寒くない。髪とツメのこと、よく頼んでみます。きっとだいじょうぶですよ。
まだ眠い。オヤオヤでしょう。でもこんなときにだって、人は眠くなるし、静かでいられるという発見は、なかなかもってたいしたことでしょう。
…………
さあ、おかあさん、七時です。あと一時間で出立する由なので、そろそろペンをおかねばなりません。
ぼくの大好きなおかあさん、優しいおかあさん、いいおかあさん、愛に満ちた、ほんとにほんとにすばらしいおかあさん、世界一のおかあさん、
さようなら!
でもまたすぐ会いましょうね。だからあまり泣かぬように。
さようなら、百万べんも、さようなら!
(髪の毛とツメを同封します。コレだけでよかった?)
今こそ、ぼくはおかあさんのすぐそば、いや、ふところの中ですよ、おかあさん!!

死刑囚は執行の前夜に家族と過ごす時間を与えられるそうです。
恋人と会えるかどうかは分かりませんが、なんらかの心配りが与えられるのではないかと思います。
はっきり言ってフィクションはノンフィクションに太刀打ちできません。
本物のドラマに対して、あまりにも貧弱な物語しか生み出せないからです。
それでも人が物語を紡ぐのは、そこに何かを込めているからだと思います。
湖悠さんもきっと何か伝えたいものを持っていて、それを表現する方法を模索しているのではないかと。
僕はそんな風に思うので、この作品は決してマイナスに評価されるべきではないと考えます。
2009/12/07(Mon)01:37:261プリウス
プリウスさん>>
 遅れてすいません(汗)
 ポイント修正、たくさんのタメになるお話ありがとございますっ! もう、泣きそうです;;
 
 
 引用なされた文、すごい言葉ですね。胸にくるものがありました。何かやるせなく、殺される事で何かが変わるのか? と思わされました。そういうものが書きたかったです。
 あ、死刑囚って執行の前夜に会えるんですか。調べ足りませんでした><
 伝えたいメッセージを、もっとうまく、そして面白く(興味をもってもらうと言う意味です)表現し、皆さまに送り出せるようになりたいです。
 ありがとうございました。
2009/12/10(Thu)20:57:200点湖悠
初めまして。闇音雪空(くらんゆきあ)と申します。
拝読しました。
題名にひかれて本文を見たのですが、死刑囚とクローバーの使い方が切なげで良かったと思います。死ぬ直前の、渡の気持ちである文に、ひかれました。世の中の矛盾、正しさ、というテーマが私は好きなので。もう少し殺人を犯したときの状況や、死ぬ直前の葛藤を詰め込んで欲しかったなあと思いました。次回作を楽しみにしています♪
2009/12/13(Sun)17:51:530点闇音雪空
作品を読ませていただきました。物語としては切なさが出ていて良かったと思いますが、この作品が現代の日本を舞台にしているのなら描写や用語が違います。死刑囚は収容所(刑務所のことかな?)には収監されません。未決囚扱いなので拘置所に収監されます。また死刑は午前9時に行われ非常に事務的です。告悔師が最期の言葉は聞きますが要求を聞くことはありません。死刑システムに違和感を覚えました。物語としては佐棟良美との過去を一部(幸せな思い出)をもう少し書いて欲しかったです。では、次回作品を期待しています。
2009/12/20(Sun)13:10:580点甘木
今更ですが感想を。
部落出身の人間を親が反対する……私は実際父と激しく口論した事があります。中学生の頃に初めて部落という存在を知り、若さ故に私は、親に反対されても好きな人と一緒になると言ったところ、私の父に真面目に反対され、私も真面目に反抗しました。いもしない恋人をめぐり、大喧嘩になったのです。
部落という壁の厚みを殺人という悲しい末路しか道が無かったと思わせるには、余りにも短い小説です。リアルな話で諦めた方々の話はいくつもあります。何度も何度も話しあい、その中で自分の最愛の人を侮辱、罵倒され、例えば彼女が泣きながら『生まれて来なければ良かった』と自殺しようものなら、親でも殺害を考えてしまうかもしれません。
ただ、この物語は悲恋と最後の余韻を読者に与えたいと望むもののようなので、それであれば、部落云々の悲恋は余り……と思います。最後の余韻、素敵だと思うので、勿体ないなと思いいました。
昔の記憶を刺激されるお話でした。
では。
2009/12/23(Wed)05:00:220点ミノタウロス
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