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『白服少女』 作者:中村ケイタロウ / 未分類 未分類
全角2248文字
容量4496 bytes
原稿用紙約6.25枚
白い服の少女の話です
 初めて経験するような強風だった。二階の僕らの部屋でも、竹藪や電線の風鳴りが聞こえた。夕方に吹き始めて、夜中になっても弱まる気配はない。
 寝る前に二段ベッドの下段で漫画を読んでいると、恭子が細い腕で大きな箱を抱えて来た。今朝来たばかりの新しい制服の箱だった。汚れるとか折り目がつくとか言って母親がうるさいから、深夜を待っていたのだろう。
「見てよ。この色。あんたもあたしも四月から毎日これ着るのよ。恥だ」
 僕は漫画を置き、恭子の指差す先を見た。ブレザーが二着、男物と女物。どちらも出涸らしのお茶っ葉みたいな緑色だ。たしかにいやな色だ。
「その上、バスで四十分だよ。この町の県立高校だったら歩いて五分なのに」と恭子は唇をゆがめて言った。「あたしに死ねっていうのか」
 この町の県立高校は僕らの家の裏にある。うちの庭から、先祖の墓のある竹やぶを抜けて、一メートルくらいの崖を登るともう校庭だ。高校は小さな頃から僕らの遊び場だった。生徒には親戚や近所の子も多く、何人かの先生とも顔見知りになった。両親も卒業生だし、僕らは当たり前みたいに、自分たちも行くことになると思っていた。特に恭子は制服を楽しみにしていた。古い学校だから、校舎も制服もレトロで、わりと格好いい。男は普通の詰襟だけど、女は白いワンピースに革ベルト、ブルーのスカーフで、ちょっとお嬢様っぽい。難関校じゃないし生徒も減ってるから、僕らの成績で入れるはずだったのに。
「きょうだい二人揃って隣町の高校なんてね」恭子は溜息をついて首を振り、箱を抱えて出ていった。僕は毛布をかぶり、ベッドのカーテンを閉めた。



 明け方に目が覚めた。まだかなり早いらしく、窓は暗かった。風音は続いていた。のどが乾いていたのでベッドを出た。何かが変な気がして見てみると、ベッドの上の段のカーテンが開いたままだった。布団も空だ。恭子がいない。
 台所に降り、水を飲む。下にも恭子の気配は無い。トイレや風呂場にいるようでもない。縁側からは、ガラス戸ごしに暗い庭が見えた。竹薮が強風に大きく揺さぶられている。まるで、藍色の空を隠すほど巨大な影が踊っているように。その姿は、かつて恭子を連れ去ろうとしていたものを思わせた。今でも恭子の姿が急に消えると、僕は三年前の恭子の入院を思いだして不安になる。
 踊る影を見ていて、ふと気付いた。おかしい。雨戸が開いてる。
 恭子は外だ。あいつ何してるんだ。僕はパジャマのままでサンダルを履いて庭へ出た。竹薮へ向かう。方向は多分正しい。強風が髪を乱す。女の悲鳴のように、男のうめきのように竹が鳴る。竹薮の中は墓地だ。祖父の墓、名前も読めない先祖の墓、倒れたもの、割れたもの。ほとんど自然の石に帰ったもの。
 サンダル履きで苦労したが、木の根を足がかりに崖を上ると、校庭に細く白い人影が見えた。恭子だ。真っ白な服。白いスカートが風になびいている。
 僕は体育倉庫の陰に隠れて見守った。恭子は校舎に近づき、行ったり来たり、向こう側に消えたりしながら、あちこちのドアや窓を開けようと試みていたが、どれも鍵がかかっているようだった。空は少しずつ明るくなる。
 やがてあきらめた恭子は、校庭をこっちへ歩いてきた。僕は急いで崖を降りた。家に戻ってガラス戸を閉じようとしたとき、悲鳴が聞こえた。
 これは風じゃない。恭子の声だ。すぐに飛び出し、竹薮へ行くと、崖の下に白い影が転がっていた。「姉ちゃん」と僕は思わず叫んだ。「大丈夫か」
 恭子は、助け起こそうとした僕の手を振り払い、片足をかばいながら立ち上がった。着ていた白い服は、驚いたことに県立高校の制服だった。
「あっち行け。姉ちゃんって言うな。家でもよ」恭子は僕をにらんだ。「高校で姉ちゃんって呼んだらマジで殺すよ。あたしたち双子で通すんだから」
 姉は――恭子は三年前、中学一年の春から長期入院したので、進級せずに中一をやりなおすことになり、弟の僕と同じ学年になった。その上、町の県立高校の廃校も決まり、僕らの一つ上の学年を最後に募集をやめることになった。恭子はどうしても納得できず、病み上がりのやせた体でぶつかるような勢いで親や先生に食ってかかったが、結局大人の言うことは聞くしかない。
 中学の三年間、恭子はその悔しさを持ちつづけていたのだろう。クラスで同級生たちにお姉さん扱いされるのを、恭子はひどくいやがっていた。今朝の怪しい行動もその悔しさのせいなのだろうが。
 しかし、それにしても、と、部屋に戻って、白い制服の恭子が座って膝にバンソウコウを貼るのを見ながら僕は考える。大体この制服はどこから出てきたんだ。マニア向けの通販か何かでお年玉をはたいたんじゃないだろうな。ひょっとして、四月からこれを着て高校に通うつもりなんだろうか。
 姉ちゃん、忘れろよ。無くなったものは戻らない。一年無駄にしても、制服着れなくてもいいじゃん、それくらい。こっちは姉ちゃんそのものを無くす心配までしてたんだぜ。
「無くしたものは戻ってこない」まるで僕の考えのエコーみたいに恭子は言って、僕に顔を向けた。青白い頬と白い制服の肩に、ゴムを解いた黒い髪が垂れていて、夜みたいに黒く大きな瞳は、いつも以上に丸く広がって見えた。ひょっとしたら、姉ちゃんはもうとっくに死んでいるのかもしれない。姉ちゃんを忘れられない僕が、幻を見ているだけなのかもしれない。一瞬そんな気がしたけど、もちろんそれは風のせいだった。



(おわり)
2009/11/03(Tue)08:31:56 公開 / 中村ケイタロウ
http://home.att.ne.jp/blue/nakamu1973/index.html
■この作品の著作権は中村ケイタロウさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
もう一作、と思ったんだけど。無理するもんじゃないですね。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは! 羽堕です♪
 弟が想う姉の気持ちが伝わってきました。そして姉が一年間を無駄にしてしまったという感情、治療の為に進級できないだけだったら、こんな風に思わなかったのかも。たった一年の違いで、自分にもチャンスがあったのにと思えばこその喪失感もあったのかも知れないなって。そして、もう一つ治療で何かを失くしていて、県立の高校に行けば、それが取り戻せる気が姉はしたんじゃないかなと感じました。
であ次回作を楽しみにしています♪
2009/11/03(Tue)10:41:190点羽堕
拝読しました。姉ちゃん。悔しかったんだろうなぁ。私はあんまり制服の類に頓着しないけれど、緑の制服ってのは一度着てみたかったです。紺色のセーラーってどんだけ普通なんだよ。それならいっそ公的機関のハッチャケた服を着てみたかった。まぁ、今更な話なんですけれどね。
治療のためにとはいえ、一年下の学校に行くのはとても苦痛ですよね。それならいっそ死んだほうがマシじゃ!! と学生時代なら思うかもしれません(いや、もちろん生きてて何よりなんですけれど)お姉さんの県立高校へ行きたいという気持ちが伝わってきて、弟の姉を思う温かい気持ちもわかるのですけれど、なんだかとてももの寂しくなりました。
2009/11/03(Tue)21:40:160点水芭蕉猫
作品を読ませていただきました。緑色の制服は嫌だろうな。思わず姉弟に同情しました。前半部でちゃんと県立高校への憧れを書いているのですが、後半の姉の行動は唐突感がありました。それ故、夢を見ているような、現実感が無さ過ぎる印象でした。姉を想う弟の気持ちは私にはよく分からない感情だったな(一人っ子なので兄弟の感情、特に異性兄弟の感情はよく解らないのです。私の知り合いで異性兄弟がいるヤツは兄弟仲が悪いヤツが多かったし)。でも弟の一生懸命さは伝わってきました。では、次回作品を期待しています。
2009/11/03(Tue)23:48:480点甘木
 なんか、粗いままで投稿してしまった気がします。でもいまさら削除するわけにもいかないなあ。まあ、いいか。年に一度の(違う)お祭だし。

>羽堕さま
 ご感想ありがとうございます。
「もう一つ治療で何かを失くしていて」という解釈は、面白いですねえ。
 たしかにそうかもしれない。そんな感じがします。中学生、微妙な時期ですもんね。
 羽墜さんって、そういう細やかな部分に気づかれるところをお持ちなんですね。えーと、正直言って、最初、利用者リストのプロフィールを見るまで、女性かと思ってました。(ごめんなさい)
 お姉ちゃん、何を失くしたんでしょうね。身体的なこと? 誰かとの関係? んー。

>水芭蕉猫さま
 ご感想ありがとうございます。
 そ、そうですか、こ、紺色の、セセセセーラー服をお召しだったんですか。な、なんか意識しちゃって、ふ、ふつうにしゃべれません。(って、何でやねん)
 もの寂しくなって正解だと思います。僕も書いててものさびしくなりました。ひゅー。(風の音)

>甘木さま
 緑色の制服は実在します。ヨモギ色っていうか。あれは気の毒だー。
 夢を見ている感じ! そうなんです、夢を見ている感じが好きなんです……!「半透明」の方も、その路線だったんですよね。でもたしかに展開としては唐突すぎました。前段階を踏むために、もうちょっと長さが必要だったのかなあ。無理に六枚にしなくてよかったんですよねえ。よく考えてみます。ご意見ありがとうございます。
 僕には異性のきょうだいはいないんだけど、僕の小説には、なぜかよく異性のきょうだいが出てきます。自分でもどうしてか分かりません。自分に最も近い異性、言わば性のちがう分身、というところに面白みを感じているのかもしれません。
 この小説を読んだ知人は、「近親相姦の話?」と言ってましたが、ちゃうちゃう。そんなこと書いてへんて。
2009/11/04(Wed)00:28:280点中村ケイタロウ
どうも、鋏屋です。御作読ませていただきました。
私の親戚に恭子って同じ字を書く同年代の子がおりまして、ちょっとその子と重なりましたw 
私も知人にも緑色のセーラー服の学校に行っていた子がいて「カマキリ」って言われてた気がする。ひどいけど「まさに……」と思ったものです。
『双子で通す』って恭子の言葉が印象的でした。ちょっとずれてるけど『その手があるか……』って妙に感心してしまいましたw もう少し長くても良かったのかな? って思いますが、なかなかに面白かったです。
鋏屋でした。
2009/11/04(Wed)11:47:220点鋏屋
こんにちは。
中村様のお話は、どこか昭和のにおいがします。
弟が『姉ちゃん』と叫ぶシーン、泣けてしまいました。
少女シリーズとしてではなく、短編として良い話でした。それゆえに、もう少し、足りない、と思いました。
では。
2009/11/04(Wed)19:18:421ミノタウロス
>鋏屋さま
 こんばんは。
 ご感想ありがとうございます。
 そうですよね、緑色って「バッタ」とか「カマキリ」とか、そういう方面で呼ばれちゃうと思います。ひどいですよね。ひどいけど、おかしいです。
 新しい学校に行くのを機に、双子ということにしちゃえばいいわけです。男女だったらどうせ一卵性のわけがないんだし、なかなかばれないんんじゃないかと思います。ねえ? いい方法でしょう。

>ミノタウロスさま
 こんにちは。
 ご感想とご評価、ありがとうございます。
 ミノタウロスさんに気にいっていただけて、とてもうれしいです。
 昭和のにおい、というのは、意識してるわけじゃないんですが、たしかにそうなのかもしれません。いちおう、人生の半分以上は平成の空気を吸ってるんですけどね。
 たしかに、少女シリーズのラインからは離れてるかな。無理に6枚にしなくても良かったですね。
2009/11/04(Wed)21:56:210点中村ケイタロウ
 姉から「お兄ちゃん」って呼ばれるのか。中村さんもわかってますね。
2009/11/05(Thu)04:56:300点模造の冠を被ったお犬さま
>模造の冠を被ったお犬さまさま
 いや、ちがいますって。「双子」ってことにするんだから、名前で呼び合うんじゃないかな。
 しかし、お姉ちゃんに「お兄ちゃん」って呼ばせるのも、悪くないなあ。
2009/11/05(Thu)06:15:140点中村ケイタロウ
 えー。双子だって姉弟か兄妹か決めるんだから、姉と呼んじゃいけないってことは妹ってことになって、弟はお兄ちゃんになるんでしょ。絶対「お兄ちゃん」だよ。
2009/11/05(Thu)08:03:490点模造の冠を被ったお犬さま
>模造の冠を被ったお犬さま
 そうだなあ。たしかにそれは道理だ。それに、「恭子」「お兄ちゃん」と呼び合ってれば、周りの子もまさか逆だとは思わないだろうし。じゃあ、「お兄ちゃん」ということで。うん。あなたが正しい。
 いつか書き直すことがあったら、そのエピソード使っていい?  
 
2009/11/05(Thu)17:40:480点中村ケイタロウ
 えーよ。でもなんで兄・姉は弟・妹に「弟ちゃん」とか「妹ちゃん」とかって呼ばないんだろうね。呼びにくいからだろうけれど、「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」に対応する呼びかけがあってもいいと思うんだよね。
2009/11/06(Fri)06:36:290点模造の冠を被ったお犬さま
どもです。読ませて頂きました。
う〜む、軽い内容かと思っていたら、想像以上に重かったですな。ちょいとびっくりです。
さておき、確かに出涸らし茶っ葉なカラーリングは嫌ですなw マニア受けしそうなチョイスではありますが。
全体的に切なくて、弟が姉を心配する気持ちとか、姉の心情とかはよく分かるのですが、何か1サジ足りないなぁと感じたのが本音です。
味わう時間が少なかった所為なのかも知れませぬ。

ではでは〜
2009/11/06(Fri)16:28:230点rathi
>模造の冠を被ったお犬さまさま
 日本語には、目下を名前で呼び、目上を役職や立場で呼ぶ習慣があるからね。

「失礼します、部長」「なんだね吉田くん」
「博士、実験成功です」「そうか、ついにやったなカトリーヌくん!」
「さむいよ、ママー」「何よ千春。うるさい子ね。ぶたれたいの?ベランダに戻って寝てなさい!」
「お言葉ではございますが、陛下…」「もうよい、西園寺。聴きとうない。下がっておれ」

 ね?
 よう知らんけど、アメリカでは目上でも名前で呼ぶっていうよね。
 逆にインドネシアやベトナムでは、年下を(他人をも含めて)「弟」「妹」と呼ぶんだって。僕の会ったインドネシア人夫婦は、たがいに「お兄ちゃん」「妹ちゃん」と(インドネシア語でだけど)呼び合ってた。たしか奈良時代の日本語もそうやね。あれ、なんでかなあ。

>rathiさま
 こんにちは。
 重い、とは思っていなかったのですが、そう言われてみるとそうですね。
 何か1さじ足りない、というのは、なるほどです。もう1さじ足すにはカップが小さすぎるのかなあ、やっぱり。いずれ、15枚くらいに仕立て直してみます。ありがとうございました。

2009/11/07(Sat)01:07:480点中村ケイタロウ
あ、ほんとうだ。いつもの中村様の作品より、粗い気がします。どこが、というのではなく、モチーフをストーリーに構成するときの階段を何段か飛ばして駆け上がってる、みたいな。
でもやっぱり、まだ祭が続いているうちに踊りの輪に参加したい、そんな若さが羨ましい。
狸なんか、まだ仕上がりません。きっと、ふつうの広場に戻ってから、のこのこハッピ着て這いこむんだろうなあ。
2009/11/10(Tue)04:58:570点バニラダヌキ
>バニラダヌキさま
 こんにちは。んー。おっしゃるとおりだと思います。いずれ、もう一度書き直そうと思います。
 ご感想有難うございました。
 法被ィトゥゲザー!
2009/11/10(Tue)21:28:180点中村ケイタロウ
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