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『屋上にて、友達ごっことギャンブルを』 作者:六六 / リアル・現代 未分類
全角7129文字
容量14258 bytes
原稿用紙約22.5枚
おばちゃん、ありがとう。


 ここにもいない。
 真木は焦っていた。曇りがちな空から弱々しく差し込む光に照らされて、薄暗くなりつつある廊下を、ひた走る。ぺたぺたとスリッパが鳴る音と荒い息遣い、それから手に提げたビニール袋がかさかさ鳴る音が、狭い廊下の壁に反響していた。ここも、ここも。ここにもいない。廊下の両側を規則的に並ぶ教室の扉を片っ端から開け放ち、中をちらりと確認しては次へ次へと移ってゆく。最後の教室の扉はすでに開いていて、そこにはやはり誰もいなかった。
 ――だったら、あそこか? しばらくはぜいぜいと肩で息をしながら呆然と空っぽの教室を見つめていた真木だが、ふと何かに気付いたように身を翻し、再び猛然と走り出した。誰ともすれ違うこともなく長い廊下を走り抜け、階段を二つ飛ばしで駆け上がると、そこには立ち入り禁止と書かれた張り紙のある扉があった。何の躊躇もなくその扉を開け放つと、湿った空気がごうと真木に向かって突進してくるのがわかった。雲に遮られているはずの日差しも、薄暗い屋内から出たせいか随分と眩しく感じる。
 思わず細めたその瞼の隙間から、一人の男子生徒が見えた。
 明るい茶髪がふわりふわりと風に遊ばれている。錆び付いたフェンスに背を持たれ、目は虚ろに地面の少し上あたりを見つめてうろうろしていた。顔に怪我を負っているようで、その肌色の面積の半分ほどが、ガーゼやら絆創膏やらの不自然な色彩に彩られていた。
 そのとき、丁度今日最後のチャイムが鳴り響いた。大きく、重く、腹に響くその音が数回繰り返されて、鳴り止んでしまってからもしばらく尾を引いていた。よかった、間に合った。真木はほっと息をつく。
「やあ」
 荒い息遣いのまま真木が彼に問いかけると、彼はようやく真木の存在に気付いたようで、つと視線を上に持ち上げた。それには少しばかり、警戒と威嚇の色が浮かんでいたように見えた。
「……おい、お前……」
「こんなとこにいたの、探したよ。ほら、パン買って来た」
 は? と彼が素っ頓狂な声をあげると同時に、真木は持っていたビニール袋を目の前に掲げた。かさ、とまた音がして、風が袋を揺らす。底が少しばかり膨らんでいた。
 真木は呆然としたままの彼のもとへと歩み寄り、その隣に腰を下ろした。隣と言っても、二人の間には一.五メートル程の距離があったが。
 袋に手を突っ込んで、中のものをあさる。引っこ抜かれた手には、丁寧にビニールに包まれた一つのパンが握られていた。
「はい」
「お、おう。サンキュ」
 笑顔でパンを手渡された彼は、恐々それを受け取った。しかしその顔には、まだ解せない、緩まないままの警戒の色がくっきりと浮かんでいた。
 何を、しているんだ。コイツ。
「それね、購買部の新商品の肉じゃがパン。僕、おばちゃんと仲いいから、発売前の試作品もらってきたんだ。感想聞かせてよ」
「……買って来たんじゃないのか」
「ちゃんとお金は払ったよ。僕、人からタダで何かもらうのは嫌いなんだ。まあまだ発売前だから価格も未定だってことで、格安で売ってもらったんだけどね」
 えへへ、と屈託のない笑みを零す真木を、彼はそう遠くもなく、だからといって近くもないこの微妙な距離から、肩越しにじっと見ていた。少しの間見つめて、途端、彼の顔から双眸から、警戒の色がぷつりと消えた。
 受け取ったパンの包みを開けて、豪快にかぶりつく。にちにちと音をたてながら噛み締めて、一気に飲み下した。
「まずい」
「あ、やっぱり」
 眉間にシワを寄せてきっぱり言った彼に、真木は苦笑いした。彼はすぐにもう一口。
「肉じゃがとパンはあわねえよ、やっぱり。イースト菌で膨らませた小麦粉に、日本食がマッチするハズないだろう」
「肉じゃがにはやっぱり白いご飯だよね。具を食べてしまった後に少し残った汁をご飯にかけると、これがまた美味しくてさ」
「あー、うまいよなアレ。ウチはアレだ、わざわざ具だけ皿に盛りやがる洒落っ気纏った親だからさ、食べた後自分で鍋まで汁取りに行ってる」
「おお、ナイスな情熱だね」
「はっ、伊達に日本食愛してねえよ」
 再びにちにち噛んで、すぐ飲み込んで、また一口。その様子を見ながら、実はそれ美味しいんじゃと言いかけた真木は、手刀で殴られた。真木が頭を押さえて黙ったのを横目でちらりと確認した後、彼は最後の一口を口に放り込む。すると真木はまた袋をがさがさとあさって、今度は缶ジュースを彼に突き出した。雫が缶の表面を覆っている。突き出されてからややあって彼がそれを受け取ると、きんとする冷たさが腕を駆け上がってきた。
「口直しに」
 にこ、と笑った真木の顔を見てから、缶に視線を落とす。真っ黒に塗られた缶にはでかでかと、『こだわり珈琲 ブラック(無糖)』の字が躍っていた。
「……嫌がらせか」
 真木はまた笑っただけだった。

 
 





 翌日は日差しが強かった。
「うわ、またここにいたの」
「うわ、お前また来たの」
 その日真木がそこに行くと、再び彼の姿があった。昨日と同じように、フェンスに背をもたれている。真木もまた、昨日と同じようにビニール袋を提げていた。二人が言ったと同時に、また昨日と同じようにチャイムが鳴り響いた。ただ昨日と少し違ったのは、彼の顔に張られていたガーゼや絆創膏が、少し減っていたことだけだ。
 真木が昨日と同じように隣に腰を下ろすと、彼は一つ、短く息をついた。それはため息とは違う、安堵のような。真木は空のちょっと下辺りをぼうっとみつめたまま、彼の隣に座っていた。おもむろに口を開く。
「昨日の肉じゃがパンの感想」
「ん」
「おばちゃんに伝えた。そしたらおばちゃんはりきっちゃってさ」
「は?」
「今日も試作品作って、持ってけって渡してくれた。今日はタダで押し付けられたよ。さ、食べて感想ちょーだい」
 そう言って、真木はパンの入った包みを突き出した。彼は唖然として、ビニールに包まれたパンを見つめる。 見た目はどうも、昨日とはなんら変わりはないように見えた。彼はまた短く息をつく。今度は、正真正銘落胆と諦めを含んだ、重い重いため息だった。
 突き出された手からパンをひったくり、勢いよく包装を破る。それをそこら辺に放り投げると、真木がぼそり、環境破壊、と呟いた。それを一切無視して、彼はパンに食らいついた。
 吐き出した。
「――おい、何だコレ。何だこの兵器」
「おばちゃん特製、刺身パン」
「また凶悪な組み合わせをチョイスしたな。うわ、やっべ、これホントヤバイ。なんか口ン中ねちょねちょする。生臭い」
「ちなみに、僕がコレを受け取ったのは昼休みの始め」
「確信犯だろ、それ。おばちゃんオレを食中毒とかで殺そうとしてるだろ」
「ちなみに刺身の種類は鰤。ワサビ付き」
「うーん、もうそこら辺は正直今どうでもいい。今はここから一番近い病院ってどこなのかが気になる。切実に」
「感想は?」
「聞くか? そこ」
 口と腹を押さえる彼に、真木は笑って言った。
 隣同士に座る二人の距離が、ほんの少し縮まっているような気がした。











 今日はまた曇っていた。
「どうしたの、その傷」
「病院行ったから」
「病院でケガさせられるわけないでしょ、治すとこなんだから」
「傷っていうけどさ、お前これ包帯とかガーゼばっかだぜ。大げさすぎるんだよ。たいしたケガでもねえし」
 そう言う彼は、左目に眼帯、頬に大きなガーゼ、額に包帯と、満身創痍だった。よく見ると、腕にも袖の隙間からちらりと真っ白な包帯がのぞいている。真木はそれらをまじまじと見て渋い顔をすると、持ってきたビニール袋を中身を出さずにそのまま脇に置いた。
 今日は真木が早めに着いたので、丁度真木が彼の隣に腰を下ろしたあとにチャイムが鳴った。重苦しい天候のせいかその音もどこかくぐもっていて、いつもより数段重く、耳障りにも聞こえた。
「名誉の負傷ってやつ?」
「なんか違う気がするけど、カッコイイからそれでいいや。おう、それ」
 にいと笑ってピースをしたその手にさえ、包帯は容赦なく絡み付いていた。ため息をついて、真木は脇に置いていたビニール袋を手に取り、中からパンを取り出す。それを自分で開封して包装を投げ捨てると、剥き出しになったパンを彼に差し出した。それを見ていた彼はぼそり、環境破壊、と呟いた。
「喧嘩っぱやいね」
「しかけてくるのはあっちだ。生まれながらにしてこの茶髪と天パを授かってしまったオレの性だな。センパイ方の視線が痛い痛い」 
 気さくに笑いながらパンを受け取って、食べる。今日は吐き出さずに黙々と食べていた。噛む度、顎が上下するのと一緒に頬のガーゼも上下する。そこにはうっすらと血がにじんでいた。
「うん、イマイチ」
「食べれるのは食べれるんだ」
「食物としてはアリ。オクラをパンに入れるって発想とチャレンジ精神は認める。でもコレに金出せって言われたら、オレは絶対買わないな」
 腕を組んで自慢げにそんなことを言う彼に、偉そうだねなんて言って真木はつくり笑いをした。
 二人フェンスに背をもたれて、しばらく灰色の空を仰いだ。いつの間にか、二人の距離は三十センチほどまでに縮まっていた。そういえば今はもう夕方だ。真木は帰らなくちゃと思うのと同時に、今ここで彼を置いていっていいのかとも思った。今日、彼はやたらと良く笑う。それは例えば岩が砕ける前の小さな亀裂のような、花が枯れる前の僅かな変色のような、そういったものと同じにおいがしていた。壊れる前の、目印。
「ねえ、今日一緒に帰らない?」
 気付けば、真木は立ち上がってそう言っていた。彼の驚いた顔を見下ろす。
 ね、帰ろう。もう一度言うと、彼は立ち上がってゆっくりと歩き出した。真木が慌てて追いかけると、荷物とって来るとだけ言って、階段を下りていった。真木はなんとも言えない感情がこみ上げてきて、それを散らそうと、自分も荷物を取りに教室へと走った。口元をぐにゃぐにゃに歪めて、走っていた。








「そういえば、何でいつもあの時間にあそこにいるの?」
 真木がふと問うと、前を歩いていた彼が首をぐりんと回して振り返る。そのあと眼球を上の辺りで転がして、彼は少し考えていたようだった。しばらく焦点が定まらないようにごろごろごろごろ眼球は転がって、さらにはうーんという呻き声のようなものまで発しだして、器用だなと真木は思った。同時に、変な癖だなとも思った。
「賭け、やってんだよ」
 急に首を元に戻して、彼は言った。賭け? 繰り返した真木に、そう、賭け。とまた繰り返す。ポケットに手を突っ込んで、身体ごと振り返った。へへ、とおちゃらけて笑うと、後ろ歩きで進み始める。ああ、彼はやっぱり器用だと思った。
「ちょーっとした賭けだ。くだらないものだけど、オレは一応毎日やってる。結構楽しいんだこれが。スリリングでさ」
 そう言う彼はとても楽しそうだった。どういった内容の賭けなのかは、何故だか怖くて、聞けなかった。


 彼をマンションの下まで送り届けると、真木は自宅へと歩を進めた。その足取りは軽く、口元はやはりぐにゃぐにゃに歪んでいて、どうしようもならないこの感情が惜しげもなく露呈しているようだった。
 感極まって、真木は一つジャンプした。一瞬宙に浮いて再び地に足が着いた時、後ろで短な、甲高い音がした。驚いて振り返ると、さっきまでそばにあったマンションの二階の端にある窓ガラスが割れていた。直後に悲鳴や叫び声、それから怒声。たくさんの声が真木の耳に押し寄せてきた。
 あまりに突然の出来事で立ちすくんでいた真木だったが、やがて我に返り、くるりと反転して自宅に向かって走り出した。怖かった。何が何だかわからなかったけれど、とにかく怖かった。
 嫌な予感も、した。











 翌日は小雨が降っていた。その日に限って、真木は放課後先生に呼び出された。クラス担任の生真面目で有名なカタブツ。イスにどっかりと偉そうにふんぞり返って、真木を忌々しげに見ながらお説教らしきものを開始した。最近勉強が疎かになってやしないか、クラストップだったお前が、どうしてこんな順位に云々。それを適当な相槌で受け流しながら、真木は壁にかかっている時計を横目で見た。今日は、少し遅れてしまうな。
 

 いつものようにビニール袋を提げて走り出す。もうすでに、チャイムは終わりの尾が消えかけていた。
 階段を駆け上がって突き当たりの扉を開けると、小雨が降っているのにも関わらず、今日も彼がいた。ただ、彼は今日、立ち上がっていた。フェンスの向こう側に。
「何してるの。危ないよ」
 真木が言うと、彼はのろのろと振り向いた。その濡れた顔にはガーゼも絆創膏も包帯もなかったが、代わりにその下にあった痛々しい傷が姿を見せている。殴られたような痣、引っ掻かれた傷。それから、顔の四分の一ほどを覆う、大きな火傷。右足はギプスで固められ、左腕は三角巾でつるされていた。松葉杖がフェンスに立てかけられている。髪の毛から一滴、雨水が滴って、落ちた。
 うわ、と真木は言って、困ったように頭を掻く。
「見てるだけでも痛いね、それ。センパイだけじゃないでしょ」
「おう、親父にもちょいとやられてな。熱湯かけられて、ガラスに突き飛ばされて、ベランダから落とされた」
「よく生きてたね」
「ああ。死に損なったよ」
 力なく彼は笑った。応じるように真木も笑って、ビニール袋を掲げる。
「今日も試作品、持ってきたよ」
 すると彼は黙ってしまった。何か言いたげに口を半びらいて、じっと真木を見ていた。真木もじっと彼を見つめ返した。
 随分と長い間、二人は見詰め合っていた。その間に顔も身体も雨水をたくさんかぶって、服や髪の毛がずしりと重さを増していた。真木が提げているビニール袋は、中にすっかり水が溜まってしまっていた。
「賭けをしていたんだ」
 なんのきっかけもなしに、彼は突然口を開いた。口元は笑っている。首だけ回して、彼は真木を見ていた。フェンスに右腕を絡ませてそれにもたれる。真木はゆっくりと歩み寄った。
 丁度あと一.五メートルくらいまで迫ったとき、彼が少しだけ前に傾いた。錆び付いたフェンスがきしと音をたてているのが聴こえる。そこで真木は歩みを止めた。それでいいと言うように、彼が小さく微笑んだ。
「最後のチャイムが鳴り終わるまでに誰も来なかったら、オレはここで一人、死のうって。賭けをしていたんだ」
 ごめんな、と続けて、彼は腕をフェンスから解いた。
 真木は、その微妙な位置から腕を伸ばす。届きそうで、届かない。微妙な距離だった。
「死ぬの?」
「お前のせいじゃない。オレがバカだから、こんなくだらない賭けをやって楽しんでいたんだ。気にすんなよ。オレは賭けに負けたんだ。オレとの賭けに」
 力ずくで止める事は、どうやらできそうにない。真木は悟って静かに腕を下ろした。
 ここで力ずくで止めるのが普通の人なのだろうけど、真木はなぜかそうしようとしなかった。そうしてはいけないような気がしていた。代わりに、口が開く。
「僕も賭けをしていたんだよ、あの時」
 彼の目が少しだけ見開かれた。
 何を考えるでもなく、出てくる言葉を素直に声に出して唱えた。感情がこもっているわけでもなく、目の前にある文字をそのまま読んでいるかのような不自然なもの。彼は黙ってそれを聞いていた。
「最後のチャイムが鳴り終わるまでに人を一人見つけようって。見つけた人とちょっと遊ぼうって。見つからなければ、一生一人で寂しく勉強してようって。遊びたかったんだ。誰かといっしょに。ごっこ遊びしたかったんだ」
 自分で言って、意味がわからないなと思った。続ける。
「まだ、遊ぼうよ。勉強はもう疲れた。親からのプレッシャーも、教師からの威圧も、周りの遠巻きからの痛い視線も、もう嫌だ。できれば、僕はこの遊びをずっとしていたいんだ。君と、遊んでいたいんだ。遊んでくれる人なんて、いままでいなかったから。……でも賭けは絶対だ。僕は知ってるよ。揺らいだら意味がないもの」
 おもむろにビニール袋に手を差し入れて、パンを取り出す。幸い、パンは丁寧に包装されていたおかげで、大して濡れてはいないようだった。短い間見つめて、真木は念じるようにそれを額に当てた。細くて長い、針金のような吐息が、小さな音をたてながら口の隙間から流れ出す。たのむよ、おばちゃん。
「じゃあ賭けをしよう。このパンがアリだったら、君は死なないで。ナシだったら、どうぞ思いのままに。どう?」
 いつかのようにやや投げやりに突き出されたパンを、彼は受け取らずにじっとりとした視線を向けるだけだった。怯えているような、すがるような、子犬とか子猫とかその辺りに近いものが感じられた。小さな、弱い。
 震える手で、彼はパンを手に取った。濡れたビニールを開けるのに少し手間取って、四苦八苦してからようやくパンを取り出す。口の前まで持ってきて、そこで一度動きを止めた。ちらと真木を見て、目を閉じる。
 食べた。恐る恐るスローペースで噛み締めて、味わうのも怖いとばかりに顎が少し引いていた。飲み込む。
 

 そっと開かれた目を見据えて、真木は訊いた。
「どう?」
 彼の口元から、僅かに白い歯がのぞいた。











 



「そういやさ」
「うん」
「オレあの時からずっと言いそびれてたことがあるんだ」
「へえ、なになに?」



「お前、誰だよ?」








 購買部新商品のパンをかじりながら、真木は笑った。






おわり

2009/05/31(Sun)12:47:35 公開 / 六六
■この作品の著作権は六六さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは。六六です。
学生と屋上とパンが好きです。ちょっと、妙な友情なんてものも好きです。それらを詰め込んでみました。
知らない人とお互い名前も知らないままおもいっきり楽しく親友みたいに会話しちゃった経験ってありませんか。ありますよね。(どうだか
たとえばゴミ箱とかに紙くずを投げ込もうとしていて、コレ入らなかったら今日めっちゃ不幸になるとか変なジンクス自分で作って、自分追い詰めたことありませんか。ありますよね。(もうよくわかんない
そういうのを表現しようと頑張ってみました。うーん、こんな拙い文章で果たして皆様に伝わるでしょうか。
できましたら厳しく評価していただけると嬉しいです。

*前回のお話の手直しが出来ずじまいで申し訳御座いませんでした…;
アドバイスを下さった水芭蕉猫様、手直しするとか抜かして結局出来なくてすみません。参考にさせていただきました。
 

ここまで読んで頂き、有難う御座いました。
少しでも楽しんでいただければ。
この作品に対する感想 - 昇順
拝読しましたー。何かちょっと無理矢理感があるとか、そうていよく購買部の新商品なんて手に入らないよとか色々なことをすっとばして、萌えました。
なんだかこう、お互い知らないのにパン食わせたり感想言ったり、刺身パンだなんてすんばらしい兵器を作り出すオバちゃんすげぇだったりして、こう、久しぶりに高校時代思い出しました。あーあーあー。ヤバい。いろんなことすっとばして萌え死にそうでした。ごちそうさまでした。
2009/06/01(Mon)20:52:300点水芭蕉猫
水芭蕉猫様>>
いつも読んで頂き感謝です。読んでくれている方が一人でもいるというのは、書いている側としても凄く心強いというかなんというか。とにかくいつも励まされています。有難う御座います。
無理やり感すげえですよね、なんかいろいろご都合設定ですよねすみません;
いろいろ考えて書いたのですが、結局不自然な感じが拭えないままに…(汗)軽く希望や妄想入ってまして(苦笑
でもそこらへん大目に見ていただけるほど大いに萌えて頂けたようで嬉しいです。この設定実は私の萌えポイントでもありまして。(笑)共感者がいたというだけでも大きな収穫でした*^^*
読んで頂き、有難う御座いました。
2009/06/05(Fri)18:42:230点六六
 こんにちは。ぼくもパン好きです。こういう話も好きです。実はふたりとも賭けをしていたなんて。最後にちょっと感動させられました。
 でも視点がぶれているような気がしました。冒頭では真木視点ですが、そのあとの屋上の場面では「彼」視点っぽくなって、あとは神視点、いや真木視点なのかなー……と、ちょっと混乱しました。統一したほうがいいと思います。
2009/06/14(Sun)21:16:380点ゆうら 佑
ゆうら 祐様>>
読んで頂き有難う御座います。パン好きですか。私も好きです。でも朝ごはんはやっぱりご飯です。もっぱらご飯です。ごめんなさい。(何が
こういう話も好きとのことで、物凄くうれしいです^^ 感動もして頂けたようで至れり尽くせりです。有難う御座います!
視点のぶれは正直私もなんとなく感じてました。二人のどちらかの視点でなくても、第三者視点というのもいいかな、なんて考えながら書いていたのでごちゃごちゃになってしまったようです;
今後は先にどこから視点なのかを決めて、しっかりお話を構成していきたいと思います。
貴重なご意見とご感想、本当に有難う御座いました。
これからの糧にしていきたいと思います^^
2009/06/18(Thu)17:58:330点六六
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