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『おめでとう。大好き。』 作者:水芭蕉猫 / 恋愛小説 リアル・現代
全角4684.5文字
容量9369 bytes
原稿用紙約14.15枚
とある女の子の叶わなかった恋のお話。掌編。

 私がまだあの町に住んでいたとき、私は片思いをしていた。


 彼女とは幼馴染だった。
 家が近所、というわけではなかったけれども、幼稚園で知り合って、小学校から高校までクラスがほとんど一緒。という関係で、私はずっと彼女とは友達だった。
 女のくせに短い髪で百七十弱も身長があって、それでよくからかわれてた私と違って、彼女は百四十センチと少しくらいしかない小柄な体格で、目が大きくてまつげが長くて髪の毛がさらさらで、お人形さんのような、という形容がとても似合うような可愛い女の子だったのをよく覚えている。ひらひらのついた可愛らしい洋服も、私にはまるで似合わなかったけれど、彼女には良く似合っていた。
 母親は、私に可愛い服は着せ甲斐が無くてつまらないとよく愚痴をこぼしていたけれど、私は自分がそんな服を着るよりも、彼女がそういう服を着ているのを見るほうが好きだった。
 私が彼女を意識し始めたのは、何時だったかはよく覚えていない。
 ただ、小学生のとき、私はクラスの掃除当番で彼女に先に帰っててもらったとき、私がようやく掃除が終わって帰る途中、彼女のランドセルをクラスのガキ大将と腰巾着がとりあげて、泣いている彼女の周りでくるくると仲間内で投げてまわしてはやし立てているのを見たとき、私は頭の中で血が沸騰する音を聞いた。
 気がついたら普段私のことを事あるごとに「デカ女、男女」と馬鹿にしていた男の胸倉を掴んで握り拳でブン殴っていた。殴って殴って、たまに殴られて、それでまたこっちも殴って、噛み付きも蹴りもやったと思う。それで最後に相手が鼻血を吹いて全員がその場で土下座するまで殴って、そこでようやく我に返った。それから落ちていたランドセルを拾って、まだ泣いてる彼女の前にランドセルを返してから、母親から毎日無理矢理持たされているハンカチを手のひらに握りこませた。そのまま「一緒に帰ろう」と言ったときに、見せてくれた安心したみたいなほっとした彼女の表情を、私は一生忘れないと思う。
 その日私は彼女を家まで送った後、青痣だらけの顔で帰ってきた私は母親から一部始終を吐かされて、どっちがガキ大将か解らんと大いに笑われ馬鹿にされて、それから学校で私の身長のことをからかう人間はほとんど居なくなった。ついでに彼女のことをいじめようとする人間も居なくなった。


 それから自分の気持ちを自覚し始めたのは中学も終わりの時期だったろうか。
 高校受験だなんだと忙しい三年生の中間テストで、薄情なことに親は懸賞に当たったとか何とかで夫婦二人で旅行に行ってしまった日があった。その日、私は勉強を口実に彼女を家に呼んで、一緒に勉強していた。
 実際、国語と社会はどうにかこうにかなのだが、それ以外と特に英語と数学が致命的な私は、勉強全般が得意な彼女に毎回教えてもらった何とか乗り切っている状態だった。
「こんなんわかんねーよ」
 数字の羅列のあまりの意味の解らなさに辟易した私はついにペンを投げ出して床に寝転がると、四角い卓上机に向かい合って勉強していた彼女は私のノートを覗き込んでから「どこがわからないの?」と聞いてきた。私はのろのろ起き上がり、これとこれと指差すと、「これはね、」と彼女はわざわざ私の隣まで来て丁寧に教えてくれたのだけど、時々さらりと触れる肌に酷くドキリとしてまるで頭に入らない。
「聞いてるの?」
 そう咎められて、思わず「聞いてるよ」と言うと、「じゃあテストで絶対赤点禁止ね」と笑顔で言われてしまうと、ぐぅと唸るしか出来なくて、それで笑われて、また最初から丁寧に教えてくれる。今度は一生懸命聞いてようやく理解した。
 しばらくそうやって勉強していると、いつの間にか夕方も過ぎているのに気づいた。
「夕飯食べてかない? どうせ誰も居ないし」
 そう言うと、彼女は笑顔で「それじゃあ食べていこうかな」と言ってくれたのが酷く嬉しかった。家庭的でお菓子作りが得意な彼女と違って料理と言えば見栄えの悪いサラダと表面の焦げた卵焼きくらいしか作れない私は、手伝うと言ってくれた彼女を制し、母親の作り置きしてくれたカレーを取りに二階にある部屋から一階のキッチンへと向かった。鍋に入った大きな具が特徴の母親のカレーを温めて、それと炊いてあった米とを二つの平皿に盛って、水とスプーンと、私が買っておいたオレンジゼリーをお盆に乗せて持っていく。
 そう長い時間はかからなかったと思うけれど、彼女は卓上机に右向きに突っ伏してすやすやと眠っていた。私はお盆を机において、彼女を揺り起こそうとして少しだけ躊躇する。じっと彼女を見つめると、また変な気持ちになってくる。閉じられた瞳と、細い眉毛。白い肌と、少し薄い唇。

 触れるだけ、起こさないように彼女の頬に口付けた。

 彼女は気づかなかったと思う。
 私はおかしくなってしまったんだろうか。
 彼女を起こして一緒に食事して、彼女が帰ってしまってから、私は勉強もせずにベッドの上で悶々と考えていた。彼女の唇と、自分がしたことを考えて顔が熱くなって枕に顔を埋めてばたばたと足を鳴らした。
 胸がドキドキして苦しい。
 彼女の笑顔を見ると顔がにやけて仕方が無い。恥ずかしい、嬉しい、恥ずかしい。
 それから、友達なのに、女同士なのにと思うと、ぎゅうと胸が締め付けられた気がした。


 私と彼女は全く同じ公立高校に合格した。
 合格発表の日、同じ高校に合格できたことを知ったとき、彼女は私に抱きついてきた。私は同じ高校に入れたこともそうだけど、抱きつかれたことにも嬉しくて嬉しくて天にも昇るような気持ちだった。
 両親は、お馬鹿なお前がよく合格できた! と一言余計な言葉も含めて喜んでくれた。
 クラスは高校でもまた同じ。でも教室へ行けば何時でも会えるのに、我慢できなくて私は毎日通学途中に彼女と出会える道と時間を選んで自転車で高校へ通った。会えなかった日は、残念で残念で泣きたくなった。彼女が風邪を引いて休んだら、居ても立っても居られなくて、学校のプリントを持っていくのを口実に彼女のお見舞いに行った。
 彼女と話をするのが私の人生になっていた。
 彼女と一緒に居るのが私の喜びになった。
 彼女の笑顔が私の幸福になっていた。
 だから、高校三年の夏、彼女に好きな人の相談をされたとき、私は胸が潰れそうなくらい苦しかった。
 相手は、クラスの男子だった。
 三日前の昼休み、ちょうど私が日直で次の時間の化学の準備をしにいってるとき、告白されたらしい。そして彼女も彼のことは別に嫌じゃないらしい。どう思う? と聞かれた。私はそいつの顔を思い浮かべた。あんまり自己主張が激しいタイプじゃないけど、顔もスタイルも、性格も結構良いし、何より優しい。私もクラスに居れば結構話す奴で、だからなおさらに苦しくて、「良いんじゃないかな」という一言を搾り出すのに少し時間がかかった。
「あいつは私も結構話したりするけど、良い奴だと思うよ。そうだよ、付き合っちゃいなよ!」
 きっと笑えてたと思う――。


 それから二人は付き合ったらしい。
 私は良くわからない。
 彼女から彼の話を聞くたび、私の心は掻き毟りたくなるような思いになった。
 そのまま前と同じ付き合いをするなんて出来なかった。
 話を聞くたび、彼と彼女、二人の仲良い姿を見るたび、私の胸は潰されそうになる。
 相手の男を殺しそうなくらい憎いと思ってしまう。
 凶暴になる。
 取られてしまう前にどうして告白出来なかったんだろうと思ってしまう。
 でも私は、怖くて出来ない。
 告白して、気持ち悪いと思われたらどうしよう。
 もし、嫌そうにされたらどうしようと。
 そんな風になったら、私は生きていけない気がした。
 それなら、友達として一緒にいたいと思った。
 でもこうやって嫉妬している。
 そんな自分自身が情けなくて、かっこ悪くて、悲しくて、私は彼女と次第に距離を置くようになっていった。

 高校の最期。卒業式の日、私は彼女の男を誰も居ない廊下に呼び出した。
 まだ別れたという話は聞かないから、まだ付き合ってるのかと聞いたらやっぱり上手くいっているらしい。
 良かったと思うと同時に胸がツキリと痛んだ。それから私は言った。
「彼女のこと、泣かせたらあんた殺すからね」
 吐き捨てた後、すぐに踵を返した。
 彼女も彼も、地元の大学に進学した。私はこの地から離れたくて、わざと遠くの大学を選んだ。歩く途中、彼女から逃げるようにこの地を離れる私が言う言葉じゃなかったということを思い出して、思わず苦笑した。


 それから何年もたった。
 彼女との連絡は、しなかった。私がここの住所を教えなかったからだ。
 大学を卒業してそのままその土地の会社に就職して、年齢も重ねて、それでも好きな人は出来なかった。苦労して自分の中にあった男っぽさを殺して言葉遣いを整えて、化粧も覚えて、それなりに女らしい服装を着るようになった。昔は目にするのも嫌だったファッション誌も読むようになり、興味の無かったピアスもネックレスも買うようになった。
 会社の仲間と適当に飲みに行ったり、最初は大変だった仕事も、要所要所で適当な手の抜き方も覚えてようやく彼女のことが完全に吹っ切れて、さて次の恋でも探そう。今度はちゃんと男を好きになろう。そう思った矢先だ。
 アパートの玄関先にある郵便受けに、一通の葉書が届いた。
 宛名を見て、私は一瞬凍りつき、急いで部屋に戻った。椅子に座るのももどかしくて、玄関先でたったままそれを読んだ。
 彼女からの葉書だった。
 葉書には、写真と、懐かしい彼女の文字でこう書いてあった。


   結婚しました。


 心臓が止まりそうになった。
 葉書の写真は、最後に分かれたときよりも大人びた顔立ちの彼女と、いつか私が「彼女を泣かしたら殺す」と言ったはずの、高校生じゃない男の姿。
 彼女は素晴らしい真っ白なドレスを着て、花のブーケを抱いて幸せそうに、写真の中で笑っていた。
 私はここの住所を教えなかったはずなのに、どうして解ったんだろうと葉書の文字を更に読んでみると、どうやら私の母親に聞いたらしい。
 ずっと友達だった私には、どうしても伝えたかったらしい。
 私は母を少し恨んだ。
 知りたくなかった。
 知りもしたくなかった。
 ぽろぽろと水滴が葉書に落ちて、文字が少しだけ歪んだ。
 胸が苦しくて、苦しくて、葉書を握り締めてその場に蹲った。知らないうちに、嗚咽が後から後から後から漏れてきて、そのうち大声で泣いていた。
 どうして好きになったんだろう。
 どうして私は男じゃなかったんだろう。
 どうして、好きって言える環境じゃなかったんだろう。
 昔、何度も繰り返したはずの疑問が頭の中を回った。

 どうして、好きって言う度胸が無かったんだろう……!!

 失恋したときもこんなに泣かなかった。どうして今こんなに泣くんだろう。それくらい私は泣いた。泣いて、泣いて、一生分も泣き喚いて、少し落ち着いた。
 胸の中で、ぐしゃぐしゃになった葉書をもう一度見ると、彼女の連絡先とメールアドレスと電話番号が書いてあった。
 私は、化粧で服が汚れるのも構わず、昔みたいに袖でひりひりする目元ぐいぐい拭ってからゆっくり立ち上がった。


 おめでとうって言わなくちゃ。
 私が、おめでとうって言わなきゃいけないんだ。
 私は、一番の親友だから。
 それでも良い。やっぱり大好きなんだ。



 了
2008/01/14(Mon)14:41:25 公開 / 水芭蕉猫
■この作品の著作権は水芭蕉猫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりです。初めての方、初めまして。水芭蕉猫と申します。
普段は男ばっかりでてる話しか書いてませんが、今回なにを血迷ったか百合です。
いつもどおり男同士でも良かったのですが、やっぱり女の子の方が華があって良いですね。
これも一つの愛だよね。というお話。叶わなくても良いの。
ほんの少しの愛が伝われば良いなと思います。間違い等がありましたらどうぞご指摘ください。
お手柔らかにお願いします。

誤字脱字修正しました。
更に誤字修正。
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