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『騒がしい町』 作者:カルデラ・S・一徹 / ショート*2 お笑い
全角3101.5文字
容量6203 bytes
原稿用紙約8.35枚
 あるところに男がいた。
 男はイヤホンを装着していた。イヤホンからは黒いゴム質感の線が延び、それは蛇のようにカバンの中に納まっていた。きっとウォークマンにでも繋がっているのだろう。カバンからは今朝の経済新聞朝刊が顔を覗かせている。男の服装はパリパリに糊付けされたスーツで、腕には金の光沢を見せる腕時計が巻かれてあった。
 男は町を歩いていた。
 騒がしい町であった。
 まず火事だ。男は火事の現場のすぐ近くを通りかかった。五メートル行くか行かないかのところで、めらめらと炎が揺らめいている。炎の中からは、救出を求める悲鳴が聞こえていたが、しかし男には聞こえない。聞こえなかったのだ。
 次に浮浪者だ。家を火事で焼かれたという浮浪者が、男に助けてほしい旨を伝えた。さらには自分には借金があって、それを支払わないと殺されてしまうのだとか。男は浮浪者の姿格好を見た。ヨレヨレのシャツ、破れたズボン、はだし、欠けた前歯。何一つ要素はないと思った。さらにいえば男には聞こえていなかった。聞こえていなかったのだ。
 続いて少女。父親が借金を返せず殺されてしまって、悪い大人に連れて行かれそうになったところを辛くも逃げ出してきたのだという。少女は男に懇願した。。どうか助けてください、どうか。男は少女を見て、きっと家出少女だと思った。少女の叫びは、男には届いていなかった。男は付き合ってられないとばかりにその場を後にした。そこに悪い大人たちがやってきて、少女を殴打し、押し倒し、口に土を食ませ、服を切り裂いて、熟れてすらいないその身をむさぼり始めた。少女は叫んだ。助けて、助けてくださいと。しかし男は立ち去った後。三メートルも前方に進んでいたため、助けるのは不可能だった。さらにいえば男には聞こえていなかった。聞こえていなかったのだ。
 とそこに突如飛行機が落下した。巨大なジャンボジェットが、建物をなぎ払う。滑走距離一キロ弱。その間にあった民家や商店やビルや大人や子供や赤子はことごとくがひき潰され、あるいは瓦礫の下敷きとなった。ジェット停止。ジェット燃料が漏れ出す。爆発。先ほどの火事など比べ物にならない巨大な炎が空を焦がす。生き残った当事者は、まだ瓦礫の下にいる人たちを助けようと救助活動を開始した。とても骨の折れる作業で、いつになれば瓦礫を撤去できるのか分からない。それを見ていた周囲の人たちは、これはかわいそうと涙を流し、協力することにした。街頭に募金箱をもって立つ人々。川の向こう側では火の海だ。男は、自分は優しいと自負していた。だから目の前に募金箱がきたとき、何一つためらわず一万円束でパンパンの財布を開いて一万円札を投入したのだ。男はどこかすがすがしい表情だった。
 男はとある高級喫茶店に入った。そこには一杯が二千円もするコーヒーや、一つ三千円もする菓子がおいてあった。男は一杯五千円するコーヒーと、一つ五千円する菓子を頼んだ。そこに先ほど募金活動をしていた人々が入ってきた。浮かれ気分である。たった一時間立っていただけで三万稼いだ、とか、稼いだというな、それは川の向こうの人たちへの恵みの金だ、ちゃんと持っていってやらないといけない、とかいってニヤニヤと笑いあう人たちだ。彼らは会議と称して色々注文した。たらふく食べて、やっぱこういう店は違うなぁと気分上々であっただろう。
 そこに強盗が入ってきた。強盗は店と客に金を払えといった。一人百万。店主は自分の金を払ってその場を後にした。男も金を払ってその場を後にした。他は知らない。悲鳴や鈍い音が、店から漏れていたが、男には聞こえていなかった。聞こえていなかったのだ。
 男は店主と並んで歩いていた。いや、男に店主が付きまとっていたというほうが正しい。店があんなにされてしまっては、商売はやっていけない、そもそも信用が無くなって客は誰も来ないだろう、どうだろうかこんな哀れな私にナニか恵んでくれないだろうか。
 と背後から青年が忍び寄ってきた。青年は、店主を指差し、お前の悪行は見ていた! よくも無垢の民を見殺しにしたな、よくも目の前で殺されそうな人を見殺しにしたな! と青年はそう叫んだ。青年はあの一部始終を見ていたのだ。店主は反論した。ならばなぜ君が助けなかったのかと。すると青年は激昂して、店主を殺してしまった。貴様が持って逃げたこの金は、対岸で火事にあっている人たちの救助金にする! と青年はそう叫んで、小走りでその場から立ち去った。
 しばらく歩いていると、青年がいた。青年は先ほど店主から奪った金で、老いた親を介護していた。青年は男の姿を見つけると、謝罪した。しようがなかった、これは、しようがなかった。しかし男には聞こえない。
 青年も、男には何も聞こえないことを知っていた。男が何も答えないことも知っていた。だが、男が何も答えないことで青年はだんだんと声を荒げ始めた。むしろ親が困っているのに他人を助けるほうが間違っている! おれのやったことは間違っていない! むしろ人間としては正しいことをしたのだ! そうだおれは間違っていない! おれは正しい!
 青年は親の介護を続けた。続けて、親があるとき、3542111とつぶやいた。すると青年は親を置き去りにして、銀行に駆け込んだ。そこには親がコツコツと今までためていた金が何千万も貯められていた。青年はその金をすべて下ろし、親に詰め寄った。どうしてこんなに隠しておきながらおれに知らせなかった! おれが人を殺したのは、お前らのためなのに! ふざけるな、息子の手を人殺しの血で汚しておいてよくいう! お前に生きる価値はない! と青年は叫んで親を殺してしまった。そしてそれを見ていた男にこう叫んだ。
 しようがなかった、しようがなかったんだ! おれはまだ前途有望だ! 高校を中退しただけで、まだ若さがある! だというのにこんな田舎でくすぶっていていいのか、わけの分からないたわごとを抜かす親のために一生を費やしていいのか! いいや、そんなのは良くない! おれが上京しないことで社会が得る損失は甚大だ! だからそう、だから、おれは上京しなくてはならない!
 青年はそういって駅の方向に向かおうとしたが、ピタと足を止めて戻ってきて、しかしおれには金がある! この金があれば、生きていける! おれが働かないのは社会が悪いせい、社会が弱い民から金を巻き上げるせい! おれはそれに反抗する! おれは己の世界を己一人で構築し、それを強固にしていくことを誓う! と男に言って家に入っていった。二階の電気が灯る。これはテレビの音だろうか、魔女っ子だとか、Pフィールドシステムだとか、よく分からない用語がときたま流れてくる。
 男は携帯を取り出した。1、1、0と番号を押し、
「人殺しです」

 男は騒がしい町を歩いていた。すると前から男のような男が歩いてきた。男のような男は、男と同じようにイヤホンをしていた。
 男のような男は、男とすれ違うとき、
「繋がってませんよ」
 男のカバンを指差した。
 カバンからは、ゴム質感の黒い線が飛び出している。その先には何も繋がっていない。いつウォークマンから外れたのだろうか。あのとき? それとも別のとき? それとも初めから?
 というより――――ウォークマンなんて、男のカバンに入ってるのだろうか?
 男はあわてて線をカバンの中に戻した。
 男は、男のような男に感謝して、そのときに一言。
「貴方こそ」
「……おや、そのようですね。ハハハ、人のふりみて我がふり直せ、とはこのことですね。ハハハ」
2007/10/05(Fri)10:31:47 公開 / カルデラ・S・一徹
■この作品の著作権はカルデラ・S・一徹さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 久しぶりの投稿です。
 頭に浮かんだことを、つれづれなるままに小説にしてみました。

 まったく関係ないんですが、ウォークマンって、なんでウォークマンっていう名前なんでしょうかね。アレ、車で移動中とかはもちろん、歩いてるときとかに着けてても危なくないですかね?
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